(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200415
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】アパタイト結晶
(51)【国際特許分類】
C30B 29/14 20060101AFI20170911BHJP
C30B 29/66 20060101ALI20170911BHJP
C01B 25/455 20060101ALI20170911BHJP
C01B 25/32 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
C30B29/14
C30B29/66
C01B25/455
C01B25/32 B
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-510037(P2014-510037)
(86)(22)【出願日】2013年3月21日
(86)【国際出願番号】JP2013001928
(87)【国際公開番号】WO2013153749
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2016年1月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-88133(P2012-88133)
(32)【優先日】2012年4月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】榎本 公典
(72)【発明者】
【氏名】大長 久芳
(72)【発明者】
【氏名】四ノ宮 裕
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−11971(JP,A)
【文献】
Ming-Guo MA et al.,Solvothermal preparation of hydroxyapatite microtubes in water/N,N-dimethylformamide mixed solvents,Materials Letters,2008年,Vol. 62,p. 1642-1645
【文献】
Junfeng HUI et al.,Monodisperse F-substituted hydroxyapatite single-crystal nanotubes with amphiphilic surface properties,Inorganic Chemistry,2009年,Vol. 48, No. 13,p. 5614-5616
【文献】
Yan ZHOU et al.,Single-crystal microtubes of a novel apatite-type compound, (Na2.5Bi2.5)(PO4)3(F,OH), with well-faceted hexagonal cross sections,CrystEngComm,2009年,Vol. 11,p. 1863-1867
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/00−29/68
C01B 25/32
C01B 25/455
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がM25(PO4)3Cl(M2は2価のアルカリ土類金属及びEuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)で表される単結晶であって、
前記単結晶がチューブ状であるアパタイト結晶。
【請求項2】
外形が六角柱であり、六角柱の上面または下面に形成されている穴の開口部の形状が六角形であることを特徴とする請求項1に記載のアパタイト結晶。
【請求項3】
前記穴の内径が10nm〜60μmであることを特徴とする請求項2に記載のアパタイト結晶。
【請求項4】
直径が20nm〜100μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアパタイト結晶。
【請求項5】
長手方向の長さが50nm〜4mmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアパタイト結晶。
【請求項6】
可視光に対して透過率が65%以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアパタイト結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性材料として広範囲な分野に適用可能な結晶性のアパタイトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光体や生体機能材料としてアパタイト系の材料の開発が進められている。このようなアパタイト系の結晶として、中実の六角柱状のアパタイト単結晶が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Katsuya Teshima et al.、「Direct growth of highly crystalline, idiomorphic fluorapatite crystals on a polymer substrate」、Crystal Growth & Design、2009、Vol.9、No.9、p.3832-3834
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アパタイト系の材料は、様々な用途に適用可能であり、その用途に適した形状や成分については更に改善の余地がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、新たなアパタイト結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のアパタイト結晶は、一般式がM
25(PO
4)
3X(M
2は2価のアルカリ土類金属及びEuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Xはハロゲン元素及びOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素または分子を示す。)で表される単結晶であって、単結晶がチューブ状である。
【0007】
この態様によると、内部に他の物質を収容できるため、新たな用途への適用が可能となる。
【0008】
外形が六角柱であり、六角柱の上面または下面に形成されている穴の開口部の形状が六角形であってもよい。これにより、チューブの厚みが一様なアパタイト結晶が得られる。
【0009】
穴の内径が10nm〜60μmであってもよい。
【0010】
直径が20nm〜100μmであってもよい。
【0011】
長手方向の長さが50nm〜4mmであってもよい。
【0012】
可視光に対して透過率が65%以上であってもよい。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新たなアパタイト結晶をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例の方法で作成された結晶のX線回折パターンの一例である。
【
図2】SEMで観察した塩素アパタイトチューブ単結晶の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0017】
本実施の形態に係るアパタイト結晶は、その形態がチューブ状の単結晶である。このアパタイト結晶は、一般式がM
25(PO
4)
3X(M
2は2価のアルカリ土類金属及びEuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Xはハロゲン元素及びOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素または分子を示す。)で表される。アルカリ土類金属は、例えば、Ca、Sr、Ba、Ra、Mg、Beである。また、ハロゲン元素は、例えば、F、Cl、Br、Iである。
【0018】
以下に、アパタイトのチューブ状の単結晶の製造方法について各実施例を参照して説明する。以下に本実施の形態を実施例によって更に具体的に説明する。実施例〜実施例7は、塩素アパタイト単結晶の合成方法である。実施例8〜実施例10は、水酸アパタイト単結晶の合成方法である。合成方法としては、例えば、フラックス法、共沈法、ゾル−ゲル法が挙げられる。
【0019】
[塩素アパタイト単結晶]
(実施例1:フラックス法)
はじめに、CaHPO
4、CaCO
3、CaCl
2を、Ca:P:Clのモル比が5:3:1となるように計量し、均一混合する。その後、塩素アパタイト濃度が0.15mol%となるようにNaClを追加し、混合物を白金るつぼ中で800〜1100℃まで昇温速度100〜500℃/hで昇温させ、合成温度800〜1100℃で48時間合成した後、降温速度5〜300℃/hで800〜1100℃から500℃まで降温させ、その後は自然冷却で常温まで冷却する。焼成後、温純水(約80℃)で丹念に洗浄し、塩素アパタイト単結晶を取り出す。
【0020】
(実施例2:フラックス法)
はじめに、CaHPO
4、CaCO
3、CaCl
2を、Ca:P:Clのモル比が5:3:1となるように計量し、均一混合する。その後、多量のCaCl
2を追加し、混合物を白金るつぼ中で800〜1100℃まで昇温速度100〜500℃/hで昇温させ、合成温度800〜1100℃で48時間合成した後、降温速度5〜300℃/hで800〜1100℃から500℃まで降温させ、その後は自然冷却で常温まで冷却する。焼成後、温純水(約80℃)で丹念に洗浄し、塩素アパタイト単結晶を取り出す。
【0021】
(実施例3:フラックス法)
はじめに、CaHPO
4、CaCO
3、SrCO
3,CaCl
2,SrCl
2を、Ca+Sr:P:Clのモル比が5:3:1となるように計量し、均一混合する。その後、塩素アパタイト濃度が0.15mol%となるようにSrCl
2を追加し、混合物を白金るつぼ中で800〜1100℃まで昇温速度100〜500℃/hで昇温させ、合成温度800〜1100℃で48時間合成した後、降温速度5〜300℃/hで800〜1100℃から500℃まで降温させ、その後は自然冷却で常温まで冷却する。焼成後、温純水(約80℃)で丹念に洗浄し、塩素アパタイト単結晶を取り出す。
【0022】
(実施例4:フラックス法)
はじめに、CaHPO
4、CaCO
3、MgCO
3、CaCl
2、MgCl
2を、Ca+Mg:P:Clのモル比が5:3:1となるように計量し、均一混合する。その後、塩素アパタイト濃度が0.15mol%となるようMgCl
2を追加し、混合物を白金るつぼ中で800〜1100℃まで昇温速度100〜500℃/hで昇温させ、合成温度800〜1100℃で48時間合成した後、降温速度5〜300℃/hで800〜1100℃から500℃まで降温させ、その後は自然冷却で常温まで冷却する。焼成後、温純水(約80℃)で丹念に洗浄し、塩素アパタイト単結晶を取り出す。
【0023】
(実施例5:共沈法)
はじめに、純水に硝酸カルシウム、塩化カルシウムを溶解させ、その溶液中にリン酸を滴下し、pHを5〜9に調整することにより沈殿(種結晶)を生じさせる。この共沈法により調整した種結晶を、チョクラルスキー法により種結晶成長させる。CaCl
2−Ca
2ClPO
4系相図において、Ca
2ClPO
4濃度が15mol%のものを1200℃まで加熱し、高温溶液となった中に種結晶を浸し、1200℃から1050℃まで徐冷しながら結晶を引き上げることにより、塩素アパタイト単結晶を得た。
【0024】
(実施例6:ゾル−ゲル法)
はじめに、蒸留水に硝酸カルシウムを溶解させ、更にリン酸エトキシドを添加して(カルシウムとリンの合計モル濃度;0.05モル/リットル)撹拌した後、濃塩酸(カルシウム1モルに対して塩素は1モル)を加えた。この溶液を60℃で2時間乾燥して蒸留水を除去し、種結晶を得た。このゾル−ゲル法により調整した種結晶を、チョクラルスキー法により種結晶成長させる。CaCl
2−Ca
2ClPO
4系相図において、Ca
2ClPO
4濃度が15mol%のものを1200℃まで加熱し、高温溶液となった中に種結晶を浸し、1200℃から1050℃まで徐冷しながら結晶を引き上げることにより、塩素アパタイト単結晶を得た。
【0025】
(実施例7:ゾル−ゲル法)
はじめに、蒸留水にカルシウムエトキシドを溶解させ、更にリン酸を添加して(カルシウムとリンの合計モル濃度;0.05モル/リットル)撹拌した後、濃塩酸を加えた。この溶液を60℃で2時間乾燥して蒸留水を除去し、種結晶を得た。このゾル−ゲル法により調整した種結晶を、チョクラルスキー法により種結晶成長させる。CaCl
2−Ca
2ClPO
4系相図において、Ca
2ClPO
4濃度が15mol%のものを1200℃まで加熱し、高温溶液となった中に種結晶を浸し、1200℃から1050℃まで徐冷しながら結晶を引き上げることにより、塩素アパタイト単結晶を得た。
【0026】
[水酸アパタイト単結晶]
(実施例8:共沈法)
0.3mol/Lの水酸化カルシウム懸濁液に、0.5mol/Lのリン酸水溶液を滴下し、単結晶が生成するよう留意してpHを5〜9に調整することにより、単結晶沈殿物(種結晶)を得た。この共沈法により調整した種結晶を、チョクラルスキー法により種結晶成長させる。水酸化カルシウムを1650℃まで加熱し、高温溶液となった中に種結晶を浸し、1650℃から1000℃まで徐冷しながら結晶を引き上げることにより、針状の水酸アパタイト単結晶を得た。
【0027】
(実施例9:水熱合成法)
はじめに、水1リットルに乳酸63.37gを溶解し、次に水酸化カルシウム22.11gを加え、更にリン酸6.92gを混合溶解させる。こうして調製したスラリーをオートクレーブに充填し、165℃で5時間、水熱処理を施す。そして、処理後のスラリーを濾過乾燥し、水酸アパタイト単結晶を得た。
【0028】
(実施例10:ゾル−ゲル法)
カルシウムジエトキシド1.0×10
−2モル分を6.5mlのエチレングリコールに溶解させる。次に、亜リン酸トリエチルを、水酸アパタイトの組成比がCa/P=5/3となるように、6.0×10
−3モル採取し、所定量のエタノールに溶かして使用する。その後、カルシウムジエトキシドのエチレングリコール溶液と亜リン酸トリエチルとの混合溶液を2時間撹拌し、沈殿物を生じさせる。それを200℃で2時間加熱し、種結晶を得た。このゾル−ゲル法により調整した種結晶を、チョクラルスキー法により種結晶成長させる。水酸化カルシウムを1650℃まで加熱し、高温溶液となった中に種結晶を浸し、1650℃から1000℃まで徐冷しながら結晶を引き上げることにより、針状の水酸アパタイト単結晶を得た。
【0029】
[塩素アパタイトから水酸アパタイトへの変換]
(実施例11)
塩素アパタイト単結晶(20mg)を6.25(mol/L)の水酸化カリウム(KOH)水溶液(40μl)とともに、白金カプセル(2.6mmφ、長さ3.3mm)中に入れ溶封する。水熱処理は、テストチューブ型オートクレーブで圧力媒体として水を用い、100MPaの条件下で行う。昇温速度は毎分20℃とし、処理温度は400℃で行い、処理時間は48時間一定とする。これにより水酸アパタイト単結晶を得た。
【0030】
(実施例12)
塩素アパタイト単結晶(20mg)を1300℃に加熱し、炉内に水蒸気を通じて2週間かけて反応させて、水酸アパタイト単結晶に変換する。
【0031】
[組成]
次に、実施例の方法で作成した塩素アパタイト結晶の組成について検討した。
図1は、実施例の方法で作成された結晶のX線回折パターンの一例である。
図1に示すように、結晶は、塩素アパタイト結晶Ca
5(PO
4)
3Clの単一層であった。
【0032】
[成分]
次に、塩素アパタイトチューブ単結晶の元素分析を行った。その結果、この結晶は、Ca=39.10mass%、P=18.00mass%、Cl=5.30mass%であった。
【0033】
[形状]
次に、塩素アパタイトチューブ単結晶の形状を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。
図2は、SEMで観察した塩素アパタイトチューブ単結晶の一例を示す写真である。
図2に示すように、本実施の形態に係るアパタイト単結晶は、チューブ状であり、外形が六角柱である。また、六角柱の上面または下面に形成されている穴の開口部の形状が六角形である。そのため、チューブの外壁の厚みがほぼ一様になっている。
【0034】
このようなチューブ状単結晶は、SEM観察により、様々な大きさや形態が存在していることがわかった。例えば、チューブ状単結晶の開口部の穴の内径は、10nm〜60μm程度である。また、チューブ状単結晶の直径は、20nm〜100μm程度である。また、チューブ状単結晶は、長手方向の長さが50nm〜4mm程度である。また、チューブ状単結晶は、可視光に対して透過率が65%以上である。
【0035】
[用途]
次に、アパタイトのチューブ状単結晶の用途について説明する。
【0036】
(内部空間の利用)
チューブ状のアパタイト単結晶は、内部に他の物質を収容できるため、新たな用途への適用が可能となる。例えば、
(1)Mg−Ni合金をアパタイト単結晶の内部に充填することにより、水素吸蔵材料として燃料電池に利用することが可能となる。
(2)ガス分子吸着材をアパタイト単結晶の内部に閉じ込めることにより、ナノ細孔材料として利用することが可能となる。
(3)アミノ酸をアパタイト単結晶の内部に充填することにより、細胞からDNAを分離精製するバイオカラムとして利用することが可能となる。
(4)触媒や酵素をアパタイト単結晶の内部に充填することにより、ガス、溶剤の分解カラム、バイオリアクタの反応場として利用することが可能となる。
(5)カーボンナノチューブや有機材料をアパタイト単結晶の内部に挿入し、挿入物の配列を揃えるカラムとして利用することが可能となる。
【0037】
(形状による機能)
チューブ状のアパタイト単結晶は、その形状や大きさによって、以下の用途への適用が可能となる。
(6)チューブ状のアパタイト単結晶の内部に薬を充填することにより、ドラッグデリバリーシステムとしての利用が可能となる。
(7)チューブ状のアパタイト単結晶が高アスペクト比であるため、複合材での強化材(補強材)としての利用が可能となる。
(8)チューブ状のアパタイト単結晶の形状を利用した雰囲気培養場としての利用が可能となる。
(9)テラヘルツ発光デバイスとしての利用が可能となる。
(10)チューブ内部での体積膨張・収縮を利用した用途への適用が可能となる。
【0038】
(材質による機能)
蛍光体、電子放出材料、光触媒アパタイト、人工骨の補強材などへの利用が可能となる。また、透明である光学特性を利用した応用も可能である。
【0039】
以上、本発明を実施の形態や各実施例をもとに説明した。この実施の形態や各実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のアパタイト単結晶は、蛍光体を始め様々な機能性材料として利用することが可能である。