特許第6200420号(P6200420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6200420-マイクロ流体デバイスにおける流れ制御 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200420
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイスにおける流れ制御
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20170911BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20170911BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20170911BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   G01N1/00 101M
   G01N35/08 A
   G01N37/00 101
   B81B1/00
【請求項の数】20
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-524400(P2014-524400)
(86)(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公表番号】特表2014-522989(P2014-522989A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】EP2012065695
(87)【国際公開番号】WO2013024030
(87)【国際公開日】20130221
【審査請求日】2015年6月30日
(31)【優先権主張番号】1113990.4
(32)【優先日】2011年8月12日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】503183868
【氏名又は名称】モレキュラー・ビジョン・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】ラトル,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ワルシェ,クレアー
【審査官】 長谷 潮
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−105556(JP,A)
【文献】 米国特許第04549952(US,A)
【文献】 特開2009−031102(JP,A)
【文献】 特表平06−509424(JP,A)
【文献】 国際公開第01/086249(WO,A2)
【文献】 特開2007−047170(JP,A)
【文献】 特開2006−258813(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/122158(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/087813(WO,A2)
【文献】 特表2008−544282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00−37/00
G01N 1/00
B81B 1/00
B01J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛細管現象によって受動型マイクロ流体デバイス内のマイクロ流体チャネルを通して流体サンプルを流れさせる方法であって、前記方法は、
入口リザーバ、出口リザーバならびに入口および出口を有して前記入口リザーバおよび前記出口リザーバの間に伸びるマイクロ流体チャネルを含む受動型マイクロ流体デバイスであって、前記マイクロ流体チャネルの少なくとも1つの部分には前記マイクロ流体チャネルを通る流体の毛細管流量を減少もしくは増加させるために前記入口リザーバおよび前記出口リザーバの間に配列された構造的特徴を備える受動型マイクロ流体デバイスを準備する工程、
前記流体サンプルが毛細管現象によって入口を経由して前記マイクロ流体チャネルを通って出口まで流れるようにするため液体サンプルを前記入口リザーバに導入する工程、及び、
第1および第2流れ制御剤を、前記入口リザーバ内の前記流体サンプルへ、または前記流体サンプルを前記入口リザーバ内へ導入する前に前記流体サンプルへ加える工程を含み、
前記第1流れ制御剤は前記流体の表面張力を低下させる界面活性剤であり、
前記第2流れ制御剤は、界面活性粘度増強剤であり、
液体中の各前記第1流れ制御剤及び前記第2流れ制御剤の所定の濃度(w/v%)に対して、前記第2流れ制御剤が前記第1流れ制御剤より流体粘度を増加させるにつき大きな作用を有し、
前記構造的特徴は、遅延ループ、前記マイクロ流体チャネルのいずれかの断面寸法における増加もしくは減少、または前記マイクロ流体チャネル壁を形成する材料における変動からなる群から独立して選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記方法は、前記第1および第2流れ制御剤の内の少なくとも1つと前記流体サンプルとを、前記流体サンプルを前記入口リザーバ内へ導入する前に混合する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、前記流体サンプルを前記入口リザーバ内へ導入する工程であって、前記第1および第2流れ制御剤の内の少なくとも1つが前記入口リザーバ内へ予備配置する工程、および前記第1および第2流れ制御剤の内の少なくとも1つと前記流体サンプルとを、前記流体サンプルを前記入口リザーバ内へ導入する前に混合する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1および第2流れ制御剤の内の少なくとも1つは、分析物を含む流体を前記入口リザーバ内へ導入する前に前記入口リザーバ内に配置されたマトリックス(例えば、フィルタ)上で含浸させられる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1流れ制御剤は、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(例えば、TWEENTM界面活性剤)、ノニルフェノールエトキシレートもしくは第2級アルコールエトキシレート(例えば、TERGITOLTM界面活性剤)およびオクチルフェノールエトキシレート(例えば、TRITONTM界面活性剤)からなる群から選択される界面活性剤であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1流れ制御剤は、前記サンプル流体の容積に基づいて、0.01ないし2%(w/v)の濃度を生じさせるために前記流体サンプルに加えられることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記界面活性粘度増強剤は、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル(例えば、BRIJTM界面活性剤)であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2流れ制御剤は、前記流体サンプルの容積に基づいて、0.01ないし5%(w/v)の濃度となるように前記流体サンプルに加えることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記流れ制御剤として使用されるあらゆる前記界面活性剤は、10以上のHLB値を有する界面活性剤であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、前記第1流れ制御剤として使用される前記界面活性剤および前記第2流れ制御剤として使用される界面活性粘度増強剤であって、前記流体の表面張力を低下させるともに粘度を増強させる界面活性剤を、規定容積の特定液体中の前記各界面活性剤の所定の濃度(w/v%)に対して前記第1流れ制御剤が前記流体の表面張力を低下させることに前記第2流れ制御剤より大きな作用を有するように選択する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1流体制御剤は、前記流体サンプルの容積に基づいて、0.01ないし1%(w/v)の濃度を生じさせるために加えられ、前記第2流れ制御剤は0.1ないし5%(w/v)の濃度を生じさせるために加えられることを特徴とする請求項1ないし6および請求項8ないし10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1流れ制御剤は、Triton X−100であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2流れ制御剤は、BRIJ 98であることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1制御剤および前記第2制御剤は、(重量比で)1:10ないし10:1の比率で加えられることを特徴とする請求項1ないし13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1制御剤および前記第2制御剤は、(重量比で)1:5ないし5:1の比率で加えられることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記分析物の存在を検出するためのプロービングは、前記マイクロ流体チャネルに沿った1つ以上の地点で実施されることを特徴とする請求項1ないし15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
a)入口リザーバ、出口リザーバならびに入口および出口を有して前記入口リザーバおよび前記出口リザーバの間に伸びるマイクロ流体チャネルを含む受動型マイクロ流体デバイスであって、前記マイクロ流体チャネルの少なくとも1つの部分には前記マイクロ流体チャネルを通る流体の毛細管流量を減少もしくは増加させるために前記入口リザーバおよび前記出口リザーバの間に配列された構造的特徴を備える受動型マイクロ流体デバイスと、
b)第1および第2流れ制御剤であって、前記第1流れ制御剤が流体の表面張力を低下させる界面活性剤であり、前記第2流れ制御剤が界面活性粘度増強剤であり、
液体中の各前記第1流れ制御剤及び前記第2流れ制御剤の所定の濃度(w/v%)に対して、前記第2流れ制御剤が前記第1流れ制御剤より流体粘度を増加させるにつき大きな作用を有する、第1および第2流れ制御剤と、
を含み、
前記構造的特徴は、遅延ループ、前記マイクロ流体チャネルのいずれかの断面寸法における増加もしくは減少、または前記マイクロ流体チャネル壁を形成する材料における変動からなる群から独立して選択される、キット。
【請求項18】
入口リザーバ、出口リザーバならびに入口および出口を有して前記入口リザーバおよび前記出口リザーバの間に伸びる少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを含む受動型マイクロ流体デバイスであって、前記マイクロ流体チャネルの少なくとも1つの部分には前記マイクロ流体チャネルを通る流体の毛細管流量を減少もしくは増加させるために前記入口リザーバおよび前記出口リザーバの間に配列された構造的特徴を備え、前記第1流れ制御剤および前記第2流れ制御剤が含浸させられて前記入口リザーバ内に配置されたマトリックスをさらに含み、前記第1流れ制御剤は液体の表面張力を低下させることのできる界面活性剤であり、前記第2流れ制御剤は界面活性粘度増強剤であり、
液体中の各前記第1流れ制御剤及び前記第2流れ制御剤の所定の濃度(w/v%)に対して、前記第2流れ制御剤が前記第1流れ制御剤より流体粘度を増加させるにつき大きな作用を有し、
前記構造的特徴は、遅延ループ、前記マイクロ流体チャネルのいずれかの断面寸法における増加もしくは減少、または前記マイクロ流体チャネル壁を形成する材料における変動からなる群から独立して選択される、ことを特徴とする受動型マイクロ流体デバイス。
【請求項19】
前記マトリックスは、入口に隣接して配置されることを特徴とする請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記マトリックスは、フィルタを含むことを特徴とする請求項18または19に記載のデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受動毛細管(passive capillarity)充填マイクロ流体デバイスにおいて流体の流れを誘導する方法であって、第1流れ制御剤は液体サンプルの表面張力を低下させる界面活性剤であり、第2流れ制御剤は粘度増強剤である二重流れ制御剤系(dual flow control reagent system)の使用を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイスにおける流体の流れの精密な制御は、マイクロ流体デバイスにおけるアッセイ、例えば診断的イムノアッセイを実施する能力にとっての鍵である。流体の流れは、作動型もしくは受動型マイクロフルイディクス(microfluidics)を用いて達成できる。作動型マイクロフルイディクスは、外部電源もしくはポンプを使用して流体の流れを制御する。受動型マイクロフルイディクスでは、流体の流れは、毛細管現象に起因して発生する液体の流れを含む、何らかの外部から印加された力ではなくむしろマイクロ流体デバイス自体の設計によってコード化される。受動型マイクロ流体デバイスは、低い電力消費量、可搬性および低い死容積のために魅力的である。
【0003】
そこでマイクロ流体デバイス内で実施されるアッセイの性能の最適化は、様々なアッセイ工程が実施されるマイクロ流体チャネルの様々な部分における流体滞留のタイミングの制御に左右される。多くの場合、これは構造的な遅延要素、例えば充填するために制御された時間をかける遅延ループの組み込みによって制御される。さらに、流体の組成自体が流れ特性に影響を及ぼす。例えば、界面活性剤の使用は、受動毛細管現象下にあるマイクロ流体チャネル内での流体の流れを可能にする表面湿潤特性を提供する。
【発明の概要】
【0004】
一般に、界面活性剤の濃度が高いほど、マイクロ流体チャネル内での流速はより速くなり、結果として滞留時間はより短くなる。しかし、高い表面積対容積比を有する極めて狭いチャネルについては課題が観察される。流体の最前部がそのようなチャネルに沿って移動するにつれて、その界面活性剤含量は、チャネル/流体界面が継続的に界面活性剤でコーティングされるにつれて枯渇させられるようになる。界面活性剤含量のこの枯渇は、チャネルに沿った流体の流れの段階的緩徐化を生じさせる。これを補正するために界面活性剤の濃度を増加させると、チップ毎の寸法もしくは表面不規則性の変動がほんのわずかな場合でさえ、精密な制御を提供するためには過度に高速であり、不均一な充填パターン、チャネル壁の不完全な湿潤および気泡形成にとって脆弱である異常な流体流量が生じる可能性がある。さらに、マイクロ流体チャネル内の流体の流量は、界面活性剤の濃度における小さな変化に対して極めて感受性が高い。流量における差異は、マイクロ流体デバイス内で実施される試験の不良な精度を生じさせる。商業的環境では、低コストの(例えば、熱可塑性ポリマーから射出成形された)マイクロ流体素子が必要とされ、許容できる検査精度を達成するためには流体の流れの一貫性を改良する手段が不可欠である。
【0005】
現在では、これらの課題は、マイクロ流体チャネル壁の均一な湿潤および予測可能な流体の流量を提供する二重流れ制御剤混合物を使用することによって克服できることが確定されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によると、受動型マイクロ流体デバイス内のマイクロ流体チャネルを通して流体サンプルを毛細管現象によって流れさせる方法であって、
入口リザーバ、出口リザーバならびに入口および出口を有して入口リザーバおよび出口リザーバの間に伸びるマイクロ流体チャネルを含む受動型マイクロ流体デバイスを準備し、チャネルの少なくとも1つの部分にはチャネルを通る流体の流量を減少もしくは増加させるために配列された構造的特徴が準備され、
液体サンプルを入口リザーバに導入して、流体サンプルが毛細管現象によって入口を経由してチャネルを通って出口まで流れることを可能とし、
第1および第2流れ制御剤を入口リザーバ内の流体サンプルへ、または流体サンプルを入口リザーバ内へ導入する前に加える工程をさらに含み、および
第1流れ制御剤が流体サンプルの表面張力を低下させる界面活性剤であり、第2流れ制御剤が粘度増強剤である方法が提供される。
【0007】
本発明の方法は、二重流れ制御剤系を利用して、液体サンプルの表面張力を低下させる界面活性剤を用いた流量の制御および粘度増強剤を用いた流体粘度の調整による流れ一貫性の制御を可能にする。液体サンプルの表面張力を低下させる第1流れ制御剤および粘度増強剤である第2流れ制御剤の複合作用は、界面活性剤の濃度がともすれば異常な流体の流れ、不均一な充填、気泡などを引き起こすと思われる濃度で流量を増強するために存在する条件下で制御された流れを提供する。そこで本方法は、例えばその上で実施される診断的イムノアッセイの制御および最適化のために必要とされるように、複雑なマイクロフルイディクス内で気泡を発生させずに、流体流量の制御およびマイクロ流体チャネル壁の完全な湿潤を可能にする。
【0008】
本発明の1つの実施形態では、本方法は、第1および第2流れ制御剤の内の少なくとも1つと流体サンプルとを、流体サンプルを入口リザーバ内へ導入する前に混合する工程を含んでいる。本方法は、第1および第2流れ制御剤の両方と流体サンプルとを、流体サンプルを入口リザーバ内へ導入する前に混合する工程を含んでもよい。
【0009】
本発明のまた別の実施形態では、本方法は、流体サンプルを入口リザーバ内へ導入する工程であって、第1および第2流れ制御剤の内の少なくとも1つが入口リザーバ内へ予備配置される工程を含んでいる。第1および第2流れ制御剤は、両方が入口リザーバ内へ予備配置されてもよい。この実施形態では、流れ制御剤の流体サンプルへの添加は、予備配置された流れ制御剤が流体サンプルによって可溶化されるにつれて発生する。第1および第2流れ制御剤の内の少なくとも1つは、入口リザーバ内への流体サンプルの導入前に入口リザーバ内に配置されたマトリックス(例えば、フィルタ)に含浸させられる。したがって本方法は、マトリックス(例えば、フィルタ)を第1および/または第2流れ制御剤で含浸させる工程とマトリックスを入口リザーバ内に、好ましくは入口に隣接させて配置する工程を含むことができる。含浸は、入口リザーバ内へマトリックスを配置する工程の前または後に実施することができる。流体サンプルが入口リザーバから入口を経由してチャネル内に流入するにつれて、流体サンプルはそれに含浸させられた流れ制御剤を可溶化するマトリックスと接触する、および/またはマトリックスを通過する。
【0010】
マトリックスは、その中に第1および第2流れ制御剤が含浸させることのできる物質を含んでいる。使用時には、第1および第2流れ制御剤のサンプル流体への添加は、サンプル流体と入口リザーバ内の含浸マトリックスとの接触によって、および/またはサンプル流体のマトリックス内の通過によって行われる。一部の実施形態では、マトリックスはフィルタ(例えば、全血フィルタ)である。一部の実施形態では、マトリックスは入口に隣接して配置される。一部の実施形態では、マトリックスはガラスファイバ製フィルタを含んでいる。
【0011】
第1流れ制御剤は、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(例えば、TWEENTM界面活性剤、例えばTween 20)、ノニルフェノールエトキシレートもしくは第2級アルコールエトキシレート(例えば、TERGITOLTM界面活性剤)およびオクチルフェノールエトキシレート(例えば、TRITONTM界面活性剤、例えばTriton X−100)からなるがそれらに限定されない群から選択される界面活性剤であってよい。
【0012】
第1流れ制御剤は、サンプル流体容積に基づいて0.01ないし2%(w/v)の濃度を生じさせる量で添加することができる。
【0013】
第2流れ制御剤は、界面活性剤粘度増強剤または非界面活性剤粘度増強剤であってよい。
【0014】
適切な界面活性剤粘度増強剤には、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル(例えば、BRIJTM界面活性剤、例えばBRIJ 98およびBRIJ S100)が含まれる。
【0015】
適切な非界面活性剤粘度増強剤には、親水性ポリマー、例えばセルロース誘導体(例えば、メチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含むメチルセルロース誘導体、ならびにヒドロキシエチルセルロース)、タンパク質(例えば、ゼラチン、アルブミンおよびグロブリン)、ポリエチレンオキシドポリマー(POLYOXTM)、多糖類(例えば、デキストラン、グリコーゲン、キサンタンガム、アルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)、ヒアルロン酸塩、ペクチン、キトサン、アガロースおよびアミロース)、シクロデキストリン、単糖類おび二糖類(例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、アルトース、スクロース、ラクトース、トレハロースおよびマルトース)、オリゴ糖およびポリペプチドが含まれる。
【0016】
第2流れ制御剤は、流体サンプルの容積に基づいて0.01ないし5%(w/v)、好ましくは0.1ないし5%の濃度を生じさせる量で添加してもよい。
【0017】
一部の実施形態では、第1制御剤および第2制御剤は、(重量で)1:10ないし10:1、好ましくは1:7.5ないし5:1、より好ましくは1:5ないし5:1、いっそうより好ましくは1:5ないし2.5:1の比率で加えてもよい。
【0018】
第1制御剤および第2制御剤の両方が界面活性剤である実施形態では、第1流体制御剤は、流体サンプルの容積に基づいて、好ましくは0.01ないし1%(w/v)の濃度、および第2流れ制御剤は0.1ないし5%(w/v)の濃度を生じさせるために加えてもよい。
【0019】
本発明の1つの実施形態では、マイクロ流体チャネルは、少なくとも1つの検出ゾーンを規定する。検出ゾーンは、流体サンプル内の分析物の検出が行われる間、または参照測定が行われる間は、その中に流体サンプルが存在するチャネルの部分である。
【0020】
本発明の上記の実施形態のいずれかでは、流体流量を減少もしくは増加させるように配列されたチャネルの構造的特徴の各存在は、チャネルのループ状部分(遅延ループ)、チャネル幅の狭小化もしくは拡大、チャネルのいずれかの断面寸法(例えば、チャネルの深さもしくは幅)における増加もしくは減少、またはチャネル壁の1部分を形成する材料における変動からなるがそれらに限定されない群から独立して選択することができる。好ましくは、チャネルには少なくとも1つの遅延ループが用意されるが、このとき遅延ループを形成するチャネルの部分は遅延ループに隣接しているチャネルの部分より小さい少なくとも1つの断面寸法(深さもしくは幅)を有する。より長い直線状チャネルとは対照的なループ状もしくは蛇行状チャネル形状は、典型的にはより小型のコンパクトなデバイスを作り出すためにマイクロフルイディクスの設置面積(foot−print)を最小限に抑えるために使用される。
【0021】
一部の実施形態では、分析物の存在を検出するためのプロービングは、マイクロ流体チャネルに沿った1つ以上の地点で実施される。このプロービングは、例えば、分析物の光学検出を含んでもよい。
【0022】
第2の態様では、本発明は、
a)入口リザーバ、出口リザーバならびに入口および出口を有して入口リザーバおよび出口リザーバの間に伸びるマイクロ流体チャネルを含む受動型マイクロ流体デバイスであって、チャネルの少なくとも1つの部分にはチャネルを通る流体の毛細管流量を減少もしくは増加させるために配列された構造的特徴を備える受動型マイクロ流体デバイスと、
b)第1および第2流れ制御剤であって、第1流れ制御剤は流体サンプルの表面張力を低下させる界面活性剤であり、第2流れ制御剤は粘度増強剤である第1および/または第2流れ制御剤を含むキットを提供する。
【0023】
一部の実施形態では、本キットは、本発明の第1の態様による方法において本キットを使用するための取扱説明書をさらに含んでいる。
【0024】
本発明の第1の態様の好ましい特徴は、さらに第2の態様へ必要な変更を加えて当てはめることもできる。したがって、本発明の第1の態様について記載した本デバイスの構造的特徴ならびに流れ制御剤の同一性および組成もまた、本発明の第2の態様に当てはまる。
【0025】
第3の態様では、本発明は、入口リザーバ、出口リザーバならびに入口および出口を有して入口リザーバおよび出口リザーバの間に伸びる少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを含む受動型マイクロ流体デバイスであって、第1流れ制御剤および第2流れ制御剤が含浸させられて入口リザーバ内に配置されたフィルタをさらに含み、第1流れ制御剤は液体の表面張力を低下させることのできる界面活性剤であり、第2流れ制御剤は粘度増強剤である受動型マイクロ流体デバイスを提供する。
【0026】
マトリックスは、その中に第1および第2流れ制御剤を含浸させることのできる物質を含んでいる。使用時には、第1および第2流れ制御剤のサンプル流体への添加は、サンプル流体と入口リザーバ内の含浸マトリックスとの接触によって、および/またはサンプル流体のマトリックス内の通過によって行われる。一部の実施形態では、マトリックスはフィルタ(例えば、全血フィルタ)である。一部の実施形態では、マトリックスは入口に隣接して配置される。一部の実施形態では、マトリックスはガラスファイバ製フィルタを含んでいる。
【0027】
本発明の第1の態様の好ましい特徴は、さらに第3の態様へ必要な変更を加えて当てはめることもできる。したがって、本発明の第1の態様について記載した本デバイスの構造的特徴ならびに流れ制御剤の同一性および組成もまた、本発明の第3の態様に当てはまる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
以下では本発明の特定の実施形態について例示するためにのみ、そして添付の図面を参照しながら記載する。
図1】2チャネル式マイクロ流体デバイスの略図を示す図である。
図2】マイクロ流体デバイスの検出ゾーンの詳細図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明によるマイクロ流体デバイスは、5mm未満、好ましくは1mm未満の少なくとも1つの寸法を有する少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを含むデバイスである。少なくとも1つの寸法は、チャネルの全長に沿ったいずれかの位置での断面寸法(つまり、チャネルの深さもしくは幅)であってよい。チャネルおよびデバイスの他の寸法がこの数値を超えてよいことは自明である。横断面は、チャネル内の流体の流れの方向に垂直であるとみなされる。
【0030】
受動型マイクロ流体デバイスは、デバイス内の流体の流れがデバイスの構造および組成ならびに流体の組成に固有の力(つまり、毛細管現象およびウィッキング(wicking)力)によってコードされるマイクロ流体デバイスである。そのようなデバイスでは、デバイスを通る流体の流れを作り出すために外力(例えば、ポンピング、電場の印加、圧力差の印加)は必要とされない。本発明の方法では、流体サンプルのチャネルを通る流れは、毛細管現象およびウィッキングによって発生し、好ましくは追加の外力は印加されない。チャネル内の毛細管の流れは、界面活性剤(第1流れ制御剤)の包含によって可能になり、第2流れ制御剤の追加の包含によってさらに制御される。
【0031】
本明細書で使用する状況における流体サンプルは、液体、つまり水および場合により追加の成分、例えば検出のための分析物を含む流体である。この状況における流体は、液体を意味すると考えられる。
【0032】
本開示は、流体サンプルを複雑な構造のマイクロ流体チャネルに通して流れさせるための方法であって、つまりチャネルの少なくとも1部分にはチャネルを通る流体の毛細管流量を減少もしくは増加させるように配列された構造的特徴が用意されている方法に関する。この構造的特徴は、チャネルを通る流体の流量を、構造的特徴の非存在下における、対応するチャネルの流量と比較して減少もしくは増加させることを引き起こすチャネルの1部分のいずれかの物理的特徴(例えば、構造、寸法もしくは材料)であってもよい。構造的特徴は、チャネルのループ状部分(遅延ループ)、チャネル幅の狭小化もしくは拡大、チャネルのいずれかの断面寸法(例えば、チャネルの深さもしくは幅)における増加もしくは減少、またはチャネル壁の1部分を形成する材料における変動からなるがそれらに限定されない群から選択することができる。チャネルのループ状部分(遅延ループ)は、チャネルを通って流れる流体がそれを通過しなければならないチャネルの非線形部分である。ループ状部分は、遅延ループを含んでいないチャネルの部分によって入口および出口の間で形成された流路から離れてその後に再接合する。遅延ループを含んでいないチャネルの部分によって形成された流路は、例えば、入口および出口の間の線形流路であってもよい。
【0033】
本発明は、流体の流れを減少もしくは増加させるために配列された構造的特徴を使用せずにマイクロ流体デバイスにおける本発明の第1の態様のいずれかの実施形態に対応するマイクロ流体デバイス内のマイクロ流体チャネルを通して流体サンプルを流れさせる方法をさらに企図していることは自明である。
【0034】
当分野においては周知であるように、BRIJ(R)界面活性剤は、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテルである。これらは、一般に式R−[OCHCH−OH(式中、Rはアルキルであり、nは2以上である)によって表すことができる。一部の実施形態では、RはC12−18アルキルであってよく、nは2ないし100であってよい。例えば、BRIJ 98は、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル(RはC1835であり、nは20である)に対応する。
【0035】
当分野においては周知であるように、TRITON(R)界面活性剤はオクチルフェノールエトキシレートであり、TERGITOL(R)界面活性剤はノニルフェノールエトキシレートおよび第2級アルコールエトキシレートである。フェノールエトキシレートは、一般に式:
【0036】
【化1】


(式中、Rはオクチル(オクチルフェノールエトキシレート)もしくはノニル(ノニルフェノールエトキシレートである)によって表すことができる。xはエトキシレート繰り返し単位を表し、2以上、例えば4ないし70である。例えば、Triton X−100では、xは9ないし10である。
【0037】
セルロース誘導体は、セルロースの結合グルコース単位のヒドロキシル基の1つ以上(または好ましくは全部)が置換基で置換されているセルロースに由来する化合物であることは自明である。一部の実施形態では、ヒドロキシル基は−OR(式中、Rは、例えば場合により置換されたアルキル基、好ましくは場合により1つ以上のヒドロキシル基もしくはカルボキシル基で置換されたアルキル基(例えば、C1−6アルキル)である)で置換されている。典型的なセルロース誘導体には、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロースが含まれる。
【0038】
本明細書で使用するように、オリゴ糖は3ないし20個の糖残基を含有している。11個以上の残基を含有するより大きなオリゴ糖は、遅延剤として使用するために好ましい。多糖は、21個以上の糖残基を含有している。ポリペプチド(タンパク質を含む)は、好ましくは20個を超えるアミノ酸残基を含有している。ポリペプチド(もしくはタンパク質)は、グリコシル化および/またはリン酸化されてよいことは自明である。一般に、ポリマーは、21個以上のモノマー単位を含む化合物であると考えられている。
【0039】
一般には、未知量の分析物を含有する検査用のサンプル流体は、サンプル入口リザーバ内へ配置される。第1および第2流れ制御剤は、サンプル流体をサンプル流体の入口リザーバ内へ導入する前に、または入口リザーバ内で、例えばその中に配置された流れ制御剤が含浸させられたフィルタへの曝露によって加えられる。サンプル流体は、毛細管現象によって入口を経由してマイクロ流体チャネル内へ引き入れられる。入口リザーバ内へのサンプル流体の配置は、デバイス内の圧力差を誘導することができる。デバイス内へのサンプル流体の導入によって作り出される何らかの圧力差(もしくは静水圧)は、本開示の状況では外部から印加された力とはみなされない。そこで、本発明の受動型デバイスは、好ましくは追加の外部圧力差を印加するための何らかの手段を含んでいない。これは、第1および第2流れ制御剤が外部から印加された力を必要としないようにデバイス全体を通る流れを制御するために、本デバイスでは必要とされない。サンプル流体は、毛細管現象によってマイクロ流体チャネル内を通って出口まで流れ、ウィッキングによって出口を通って出口リザーバ内へ流れる。分析物検出を可能にするプロービングは、マイクロ流体チャネルに沿った1つ以上の地点で実施することができる。これらの地点は、本明細書では検出ゾーンと呼ばれる。
【0040】
検出ゾーンは、マイクロ流体チャネルの離散部分によって規定されるチャンバである。検出ゾーンは、チャネルと流体連絡しており、好ましくは検出ゾーンを規定するチャネルの部分はチャネルの隣接部分の対応する断面寸法より大きな断面寸法を有する。プロービング、例えば光学プロービングは、検出ゾーン内のサンプル流体上で実施することができる。1つの実施形態では、検出ゾーン内へ発光するために光源が利用され、発光、例えば蛍光もしくは燐光を光学活性材料によって検出するために光検出器が利用される。光学活性材料は、分析物へ直接的もしくは間接的に結合する、または他の活性剤へ結合することについて分析物と競合する光学活性剤であってよい。参照測定、例えばバックグラウンド光測定を行うことのできる参照検出ゾーンもまた存在してよい。
【0041】
当業者であれば、光学および光線についての全ての言及は例示することだけを目的とし、本開示は電磁スペクトルの他の部分にも及ぶことを理解できるであろう。例えば、本発明によるデバイスは、赤外線源および/または赤外線検出器を用いて赤外線プロービングのために同等に適合する。さらに、光学検出以外の検出技術も使用できる。
【0042】
そこで、本発明によるマイクロ流体デバイスを使用すると、流体サンプル内の分析物の検出を可能にするアッセイを実施できる。検出技術は、分析物を定量的もしくは定性的にアッセイするための特異的結合アッセイの方法に適用できる。疑念を回避するために、「分析物」はアッセイ下の種を意味しており、「特異的結合パートナー」は分析物が特異的に結合する種を意味する。
【0043】
使用できる分析物および特異的結合パートナーの例を以下に提示する。いずれの場合にも、対の一方は分析物、他方は特異的結合パートナーとみなすことができる:抗原および抗体;ホルモンおよびホルモン受容体;ポリヌクレオチド鎖および相補的ポリヌクレオチド鎖;アビジンおよびビオチン;プロテインAおよび免疫グロブリン;酵素および酵素補因子(基質);レクチンおよび特異的炭水化物。
【0044】
実施形態は、2部位免疫測定アッセイとして公知のイムノアッセイの1つの形態に関する場合がある。そのようなアッセイでは、分析物は、1つは、例えば光学的もしくは電気化学的手段(検出抗体)によって測定できる実体で直接的もしくは間接的に標識され、もう1つは固体支持体(捕捉抗体)上で直接的もしくは間接的に固定化される2つの抗体間に「挟まれ」る。
【0045】
当業者であれば、本発明は、インビトロ(in vitro)診断以外の分析、例えば環境的、獣医学的および食品分析にも同等に適用できることを理解するであろう。
【0046】
さらに、本発明は異種もしくは同種イムノアッセイ、蛍光染料結合アッセイおよび他のアッセイフォーマットに同等に適用可能であることもまた理解することができる。
【0047】
本開示は、流体サンプルを複雑な構造のマイクロ流体チャネルに通して流れさせるための方法であって、流体サンプル内の分析物の存在を検出するためにその中で実施されるアッセイの制御および最適化の制御を可能にする方法に関する。流体サンプルは、検出のための分析物を含有している可能性がある液体サンプルである。このため流れ制御剤は、周囲条件下または加熱時のいずれかで水(もしくは水溶液)中に可溶化させることができる。流体サンプルは、例えば水性バッファ系(例えば、Bis−Trisバッファ)から尿、血清もしくは血漿またはろ過全血に及んでよい。
【0048】
本発明における流れ制御剤として有用な界面活性剤は、好ましくは10以上の親水性−親油性平衡(HLB)値を有していなければならない。10以上のHLB値を備える界面活性剤は、一般に水溶性であると認識されている。例えば、Triton X−100のHLB値は13.5であり、BRIJ 98についてのHLB値は15.3である。このタイプの界面活性剤は、液体(水もしくは水溶液)中に溶解させると、一般には流体の表面張力を低下させる作用、流体粘度を増加させる作用の両方を有するであろう。界面活性剤の同一性および濃度、特に例えばHLB、分子量および鎖長などの特性に依存して、様々な界面活性剤が表面張力および粘度に及ぼす作用の程度は変動する。第1流れ制御剤および第2流れ制御剤の両方が界面活性剤の場合は、界面活性剤は、規定容積の特定液体(例えば水)内の各界面活性剤の所定の濃度に対して第2流れ制御剤が流体粘度を増加させることに第1流れ制御剤より大きな作用を有するように選択することができる。好ましくは、第1流れ制御剤は、さらに流体の表面張力を低下させることに第2流れ制御剤よりも大きな作用を有するように選択される。そこで第1および第2流れ制御剤についての適切な同一性を決定するための試験は、i)各溶液が異なる界面活性剤を同一液体(例えば、水)中で同一濃度(w/v%)で含む2つ以上の候補界面活性剤溶液を用意する工程、ii)各界面活性剤が粘度および場合により表面張力に及ぼす作用を試験および比較する工程、ならびにiii)試験した溶液中で第2流れ制御剤が流体粘度を増加させることに第1流れ制御剤より大きな作用を有するように、さらに第1流れ制御剤が表面張力を低下させることに第2流れ制御剤より大きな作用を有するように界面活性剤を各々適合する第1および第2流れ制御剤として指定する工程によって実施できる。界面活性剤が粘度に及ぼす作用は濃度依存性であり、表面張力を低下させるために使用できる濃度より高い濃度でのみ明白になる。そこで上記の試験は、試験した界面活性剤の内の少なくとも1つについて、粘度を増加させる作用が観察される濃度で実施されなければならない。
【0049】
したがって本発明は、マイクロ流体チャネルを通って流れさせる流体サンプルへ添加するための第1および第2流れ制御剤を同定するための方法であって、第1および第2流れ制御剤は各々界面活性剤であり、上記に規定した試験工程を含む方法を提供する。第1および第2流れ制御剤は、好ましくは本発明の第1の態様の方法、本発明の第2の態様のキットまたは本発明の第3の態様のデバイスにおいて使用するために同定される。
【0050】
本発明の方法は、流体の流れの制御および幾何学的に複雑なマイクロ流体チャネルの充填を可能にするために特に有用である。したがって本方法は、1つ以上のマイクロ流体チャネルを有する、および各マイクロ流体チャネルが2つ以上の遅延ループであって遅延ループに隣接するチャネルの部分より小さな断面寸法を有する遅延ループを含むデバイス内で実施してもよい。各チャネルは、その全長に沿って断面寸法におけるまた別の変動をさらに含んでもよい。例えば、遅延ループがチャネル幅の狭小化を含む場合は、チャネルは1つ以上の部分でその深さにおける変動をさらに含んでもよい。これらの部分は、好ましくは遅延ループとは異なる部分であり、遅延ループの深さより大きな深さを備えるチャネルの1つ以上の部分であってよい。これらのより深い部分は、検出ゾーンとして機能してもよい。
【0051】
イムノアッセイの実施を可能にするために本発明の方法が流体サンプルの流れを有効に制御するために使用されてきた2チャネル式マイクロ流体デバイスの例は、図1に示されている。デバイスは、入口リザーバ101、出口リザーバ102およびそれらの間に伸びている2つのマイクロ流体チャネル103を含んでいる。各マイクロ流体チャネルは、入口104および出口105を有している。本デバイスは、単一チャネルだけ、または追加のチャネル、例えば3チャネル式デバイスを含んでよいことは自明である。このデバイスがアッセイを実施するための機能は、マイクロ流体チャネルの所定の区間内の流体サンプルの滞留時間の構造的制御に基づいている。マイクロ流体チャネル103の各々は、第1検出ゾーン106、第1遅延ループ107、第2検出ゾーン108および第2遅延ループ109を規定する。特に例示した実施例では、検出抗体110の沈積物は、各チャネル内の第1検出ゾーン106および第1遅延ループ107の間に配置される。入口リザーバ101、出口リザーバ102およびマイクロ流体チャネル103は、射出成形された基質111によって規定される。使用時に、サンプルは入口リザーバ101内に用意され、入口104を経由してマイクロ流体チャネル103を通しての流体の流れは毛細管現象に起因して発生する。二重流れ制御剤系は、デバイスの全充填時間を制御するために使用される。流れ制御剤は、流体サンプルの入口リザーバ101内への導入の前に流体サンプルと混合する工程、または入口104に隣接して入口104を被覆する入口リザーバ101内へ配置される流れ制御剤で予備含浸されたフィルタパッドへ流体サンプルを加える工程のいずれかによって導入される。その場合、入口リザーバ101内のサンプルは、チャネルへの途中でフィルタを通過する間に流れ制御剤を再水和させる。
【0052】
チャネルの充填は受動型で毛細管現象に基づいており、マイクロ流体チャネル表面の湿潤を可能にするために流体サンプルの表面張力を十分に低下させるためには、流体サンプルへの界面活性剤の添加が必要とされる。図示した2チャネル式デバイスについては、マイクロ流体チャネル103を通って流れる流体サンプルの移動する流頭は、最初に幅2mmおよび深さ200μmのレーンである第1の浅い部分112に遭遇し、その後に深さ500μmのチャンバである第1検出ゾーン106へ傾斜する。そこで流頭は、例えば、露出した光学素子またはそのような素子のための接着膜もしくはシーリング膜に遭遇する場合がある。図示したデバイスでは、接着層によって基質に固定される露出した二重輝度上昇フィルム(DBEF)には、図2に示した検出ゾーン内で遭遇する。
【0053】
毛細管現象がチャネルの深さの増加に起因して減少する第1検出ゾーン106に進入した後、流頭は、幅2mmおよび深さ200μmのレーンである第2の浅い部分113内へ移行する前にチャンバの充填を完了する。前沈着させた検出抗体110は、第2の浅い部分113内に配置されている。流体サンプルが検出抗体に達すると、抗体は再水和させられ、下流へ運ばれる。第1遅延ループ107(幅130μm、深さ200μm)は次に、検出抗体とサンプル内の分析物とのプレインキュベーションを可能にするために流体サンプルの十分な滞留時間を提供するように設計されている。第1遅延ループ107の末端では、チャネルは第2検出ゾーン108へ向かって再び広がる。第2検出ゾーン108では、予備結合分析物検出抗体複合体は、複合体を捕捉することを目的とする固定化捕捉抗体に遭遇する。流頭は、次に第2検出ゾーン108内でのサンプルの滞留時間を規定する第2遅延ループ109を通って移動する。第2遅延ループ109の末端では、流頭は出口に配置されたウィックと接触するようになり、それにより未結合検出抗体を除去するために洗浄を開始する。
【0054】
アッセイ操作のために典型的に必要とされる滞留時間は、第1遅延ループ107(プレインキュベーション)内および第2遅延ループ109(インキュベーション)において各々4および8分間であり、15分間未満の総チップ充填時間を生じさせる。さらに、検出ゾーン106、108が十分に湿潤させられ、気泡が封入されていないことを保証する必要もある。さらに流れ制御剤系は、射出成形チップバッチを起源とする様々な表面品質の変動やチャネルの様々な部分のチャネル壁を規定する材料に関する変動を考慮に入れるために、ならびにさらに水性バッファ系から尿、血清、血漿もしくはろ過全血の範囲に及ぶ多数のサンプル流体とともに機能するために、十分に頑丈でなければならない。
【0055】
本発明の二重流れ制御剤法を使用せずに使用した場合に図示した2チャネル式デバイスを用いて典型的に観察される問題には、以下が含まれる。最初に、より深い検出ゾーン106、108の充填は問題となることがある。一部の場合には、流体は側壁を優先的に湿潤させ、その後に出口ランプに向かうゾーンの末端で一体化する。この問題は、高い界面活性剤負荷および結果として低い表面張力を備えるバッファ系にとっては最も重大である。不適切な条件として、検出ゾーン内での不完全な湿潤および検出精度にとって有害な可能性がある気泡の封入を生じさせる可能性がある。活性DBEF領域の湿潤が不完全な場合は、特定シグナルを減少させることがある。これほど重大ではない場合には、流体が一方の側壁上でより急速に進行する場所で流頭の非対称性が観察され、出口ランプ領域におけるより小さな気泡形成を生じさせることが多く、下向き流れおよびウィッキングスループットに影響を及ぼす。上記の問題は、複雑な幾何構造の充填に関連する。
【0056】
第2の問題は、高い表面積対容積比を有する遅延ループ内で生じる可能性がある。そこで、所定の条件下では流頭での界面活性剤の部分的枯渇が観察されることがある。これは特に充填の有意な減速、流れの停止さえ発生する可能性がある第2遅延ループ109において当てはまる。
【0057】
上記から、遅延ループ内の界面活性剤枯渇を補正するための高界面活性剤負荷と高界面活性剤負荷によって妨害される検出チャンバの適正な充填を保証する必要との間にトレードオフ(trade−off)が存在することを理解できる。これは表面張力を低下させる1つの界面活性剤、および結果として空気封入を伴わずに検出チャンバを通過する流体を生じさせる慣性を増強する粘度吸収素子を加える第2流れ制御剤(好ましくは同様に界面活性剤)を含む二重流れ制御剤系を使用することによってバランスが取られる。
【0058】
そこで、遅延ループを通る流れを許容するために十分な界面活性剤負荷が異常な充填を引き起こすという予想とは反対に、界面活性剤の組み合わせが適切に選択されれば、一貫性の流れが達成され、異常な充填が回避される。
【0059】
1つの実施例として、第1流れ制御剤としてTriton X−100および第2流れ制御剤としてBRIJ 98を含む二重界面活性剤系が開発されており、複雑なマイクロフルイディクスにおいて適切な流れおよび充填特性を提供することが証明されている。二重界面活性剤系を、図1に示した構成の2チャネル式デバイスおよびさらに対応するチャネル構成の3チャネル式デバイス(チャネル幅が2チャネル式デバイスにおける2mmと比較して減少した1mm)において試験した。これらから、イムノアッセイを実施するために必要とされる滞留時間に関する仕様を満たしながら、二重流れ制御剤の非存在下でデバイスを充填する際に見られる問題を克服することが観察された。2チャネル式デバイスについては、0.2%(w/v)のTriton X−100および1%(w/v)のBRIJ 98を使用する。3チャネル式デバイスについては、界面活性剤系が0.7%(w/v)のTriton X−100および1%(w/v)のBRIJ 98へ変更した。これらの界面活性剤は、入口リザーバ内へ導入する前に流体サンプルと混合した。この場合に、Triton X−100は必要な充填時間を生じさせるために調整される、表面張力を低下させる界面活性剤として使用する。3チャネル式デバイスについては、Triton X−100の負荷が高いが、これは高い表面積対容積比を備える小さなチャネルにおいて増加した界面活性剤枯渇を説明するものである。両方のチップに対して、BRIJ 98は、幾何学的に複雑な検出チャンバの気泡を含まない充填を可能にする粘度増強流れ吸収剤として機能する。
【0060】
また別の実施例では、第1流れ制御剤としてのTriton X−100および第2流れ制御剤としてのBRIJ 98の二重界面活性剤系が水性Bis−Trisをベースとするバッファ溶液の充填時間に及ぼす作用が3チャネル式デバイス上で証明されている。固定の0.5%(w/v)のTriton X−100の濃度ならびに0.1、0.2、0.3および0.7%(w/v)のBRIJ 98の濃度に対して、3チャネル式デバイスにおける15分間、18分間、24分間および40分間の充填時間が各々観察された。ここで、充填時間の増加はBRIJ 98の粘度増強作用を反映している。全条件に対して充填時間CVsは5%未満であり、全チャネル部の完全充填が観察された。
【0061】
3チャネル式デバイスについてのまた別の実施例では、固定の0.2%(w/v)のBRIJ 98の濃度ならびに0.4、0.5および0.6%(w/v)のTriton X−100の濃度であると、各々28分間、18分間および16分間の充填時間が生じた。ここで充填時間の減少は、Triton X−100の表面張力の低下作用を反映している。全条件に対して充填時間CVsは5%未満であり、全チャネル部の完全充填が観察された。
【0062】
3チャネル式チップについてのまた別の実施例では、二重界面活性剤系の有用性は、Bis−Trisをベースとする水性バッファ溶液から診断用途において一般に使用される生理学的溶液に拡大された。0.5%(w/v)のTriton X−100および0.2%(w/v) BRIJ 98の二重界面活性剤系は、Bis−Trisをベースとする水性バッファ溶液についての18分間と比較すると、20分間の血清を用いた充填時間を生じさせた。充填時間における僅かな増加は、Bis−Tris水性バッファ溶液と比較して血清の増加した粘度に帰せられる。血清充填時間についてのCVsは、全チャネル部の完全充填を用いた場合は5%未満であった。
【0063】
他の実施例では、溶液中のTriton X−100およびBRIJ 98は、流体サンプル中にスパイクされるのとは対照的に、フィルタパッド上で乾燥させられた。界面活性剤溶液は適切なフィルタマトリックス上にピペッティングされ(例えば、Whatman社製の全血フィルタ膜VF1もしくはVF2またはMillipore社製のコンジュゲート剥離パッドG041)、その後に少なくとも2時間にわたり37℃で真空オーブン中で乾燥させられる。負荷サンプルによって界面活性剤の不完全なピックアップ(pick−up)を補正するために注意が払われなければならない。このため、15×22mmのフィルタがサンプル入口に配置された2チャネル式デバイスについては、フィルタを含浸させるために容積300μLの適用される界面活性剤溶液中で0.8%(w/v)のTriton X−100および4%(w/v)のBRIJ 98の濃度を使用することが最適であることが見いだされた。
【0064】
本開示を通して、流体サンプル中で特定濃度%(w/v)を生じさせるために加えられる流れ制御剤の量について言及する際に、全流れ制御剤を流体サンプル中に可溶化させられなければならない場合は、加えられる量は規定濃度を生じさせるであろう量である。実際に、量もしくは濃度の使用は、流体サンプルの適用時の可溶化の速度にしたがって調整することができる。
【0065】
本発明の実施形態は、例示するためにのみ記載してきた。記載した実施形態は、本発明の範囲内で変更を加えられることは自明である。
図1
図2