特許第6200426号(P6200426)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6200426樹脂用炭酸カルシウム填料及び該填料を含む樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200426
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】樹脂用炭酸カルシウム填料及び該填料を含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08K 3/26 20060101AFI20170911BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20170911BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20170911BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20170911BHJP
   C01F 11/18 20060101ALI20170911BHJP
   C08J 9/00 20060101ALN20170911BHJP
【FI】
   C08K3/26
   C08K9/04
   C08L101/00
   C08L67/02
   C01F11/18 C
   C01F11/18 J
   !C08J9/00 ACFD
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-540909(P2014-540909)
(86)(22)【出願日】2013年10月11日
(86)【国際出願番号】JP2013077782
(87)【国際公開番号】WO2014058057
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2016年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-226637(P2012-226637)
(32)【優先日】2012年10月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008442
【氏名又は名称】丸尾カルシウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(72)【発明者】
【氏名】笠原 英充
(72)【発明者】
【氏名】瀧山 成生
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−269653(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/088707(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/064729(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/073660(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/141236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/26
C01F 11/18
C08K 9/04
C08L 1/00−101/16
C08J 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡写真から測定(Mountech社製Mac-VIEW)した個数粒度分布径において、粒子径0.26μm以下の粒子の含有率が30%以下であり、且つ下記の式(a)、(b)及び(c)を満足することを特徴とする樹脂用炭酸カルシウム填料。
(a)Dms5/Dmv5≦3.0
(b)1.0≦Sw≦10.0(m2/g )
(c)Dma≦5.0(体積%)
但し、
Dms5:レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラックMT-3300EX II)にて測定した体積粒度分布において、小さな粒子側から累積した5%直径(μm );
Dmv5:電子顕微鏡にて測定した粒子径(Mountech社製Mac-VIEW)における個数粒度布において、小さな粒子側から累積した5%直径(μm );
Sw:BET比表面積(Mountech社製Macsorb )(m2/g );
Dma:レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラックMT-3300EX II)にて測定した体積粒度分布において、粒子径が3μm以上の粒子の含有率(体積%)。
【請求項2】
有機リン系表面処理剤で表面処理してなることを特徴とする請求項1記載の樹脂用炭酸カルシウム填料。
【請求項3】
樹脂と、請求項1又は2に記載の樹脂用炭酸カルシウム填料とからなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂がポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリエステル系樹脂が光反射用ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項4記載の樹脂組成物。
【請求項6】
フィルムであることを特徴とする請求項3又は4記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂用炭酸カルシウム填料及び該填料を含む樹脂組成物に関し、更に詳しくは、微粉が極めて少ない均一な粒子で、水分等の揮発性成分も極めて少ない樹脂用炭酸カルシウム填料及び該填料を配合してなる樹脂組成物に関する。
本発明の樹脂用炭酸カルシウム填料は、特定の粒度範囲において水分等の揮発性成分の発生量が極めて少ないことから、高濃度配合される従来のシーラント、床材、接着剤用途はもちろん、例えば、加工温度が高いポリエステル系樹脂やエンジニアリング系樹脂等の樹脂に配合した場合においても、熱安定性の優れた樹脂組成物を得ることができる。
さらに、本発明の樹脂用炭酸カルシウム填料は、微粉や粗粒が極めて少なく、粒子の均一性や分散性に優れていることから、特に、携帯電話やノートパソコン、テレビ等の液晶用光反射板に使われる白色PET用微多孔形成剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭酸カルシウムは、塩化ビニル樹脂やアクリル樹脂と可塑剤を混合したプラスチゾル用途や、ウレタンやシリコーン樹脂、ポリサルファイド樹脂等と混合したシーラント分野などに高濃度で配合されている。一方、合成樹脂の中でも例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)で代表されるポリエステル系樹脂や、ポリアミド(PA)やポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)で代表されるやエンジニアリング系プラスチック等の加工温度が高い分野には、これまで光拡散材、アンチブロッキング材などの目的で炭酸カルシウムが微量配合されている。
【0003】
例えば、PET樹脂に微多孔形成剤として粒度調整した炭酸カルシウムと非相溶性樹脂を併用添加して延伸フィルム化(シート化)する方法(特許文献1)や、硫酸バリウムと等の無機微粒子を添加して延伸フィルム化(シート化)する方法(特許文献2)等で、PET樹脂と微多孔形成剤の界面に空孔ボイドを形成させる方法で製造される多孔質白色PETフィルムは、合成紙、(プリペイド)カード類、ラベル、光学用反射フィルム(シート)等の多種多様な分野で実用化されている。その中でも、例えば液晶TV用途に利用される光反射フィルムの場合、液晶TVの高画質化、広画面化、低コスト化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−207337号公報
【特許文献2】特開2005−125700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭酸カルシウムと、有機系非相溶性樹脂や硫酸バリウム、酸化チタン等の他の微孔形成剤とを比較した場合、炭酸カルシウムはより安価であることはもちろんのこと、有機系非相溶性樹脂と比べ耐熱性が高いため、白色PETフィルムの製造時に生じる端の部分(耳の部分)をリサイクル化できるメリットもあり、環境面や歩留まりの面でも有利である。
また、硫酸バリウムや酸化チタンは、比重が約4〜4.5g/cm3 に対し、炭酸カルシウムの比重は約2.7g/cm3 と軽いため、添加重量を約2/3に減量できるので、コストや軽量化の面で有利である。従って、炭酸カルシウムを配合した白色系多孔質樹脂系フィルムが市場に求められている。
しかしながら、白色PET樹脂に炭酸カルシウムを高濃度で配合すると、特に炭酸カルシウム微粒子表面に存在している水分等の揮発性成分が白色系多孔質樹脂フィルムを発泡化させたり、炭酸カルシウム微粒子が光学性能の低下を招くという問題があり、これまで高濃度で配合することに課題があった。
【0006】
本発明は、上記した実情に鑑み、上記問題点を解消し、特に、加工温度が高い樹脂に高濃度で配合を行うことを可能とするために、炭酸カルシウムの表面に存在する水分等の揮発性成分の脱気性をコントロールした、微粉粒子が極めて少ない炭酸カルシウム填料を提供することを目的とし、更に、該填料を加工温度が高い樹脂に高濃度で配合しても、発泡等が抑制され、熱安定性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意検討した結果、微粉が極めて少なく特定の粒度に調整した炭酸カルシウムは、加工温度が高い樹脂に高濃度で配合され混練されても、炭酸カルシウム表面に存在する水分等の揮発性成分が脱気し易く、発泡等を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の特徴は、電子顕微鏡写真から測定(Mountech社製Mac-VIEW)した個数粒度分布径において、粒子径0.26μm以下の粒子の含有率が30%以下であり、且つ下記の式(a)、(b)及び(c)を満足することを特徴とする樹脂用炭酸カルシウム填料である。
(a)Dms5/Dmv5≦3.0
(b)1.0≦Sw≦10.0(m2/g )
(c)Dma≦5.0(体積%)
但し、
Dms5:レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラックMT-3300EX II)にて測定した体積粒度分布において、小さな粒子側から累積した5%直径(μm );
Dmv5:電子顕微鏡にて測定した粒子径(Mountech社製Mac-VIEW)における個数粒度布において、小さな粒子側から累積した5%直径(μm );
Sw:BET比表面積(Mountech社製Macsorb )(m2/g );
Dma:レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラックMT-3300EX II)にて測定した体積粒度分布において、粒子径3μm以上の粒子の含有率(体積%)。
【0009】
本発明の他の特徴は、有機リン系表面処理剤で表面処理してなる樹脂用炭酸カルシウム填料である。
【0010】
本発明の他の特徴は、樹脂と、上記樹脂用炭酸カルシウム填料とからなる樹脂組成物である。
【0011】
本発明の他の特徴は、上記樹脂がポリエステル系樹脂である。
【0012】
本発明の他の特徴は、上記ポリエステル樹脂が光反射用ポリエチレンテレフタレートである。
【0013】
本発明の他の特徴は、フィルムである樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂用炭酸カルシウム填料は、微粉が極めて少なく特定の粒度に調整されることにより、樹脂と混練した際の水分等の揮発性成分が脱気し易く、加工温度が高い樹脂に高濃度で配合しても成形時に発泡等の問題を引き起こすことがなく、特に、反射率や耐光性等が要求される液晶用光反射板や金属膜との接着力や光沢度等が要求されるランプリフレクター等の光学的分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例3で得られた樹脂用炭酸カルシウム填料の電子顕微鏡(SEM)径の写真(10,000倍)である。
図2】比較例1で得られた樹脂用炭酸カルシウム填料の電子顕微鏡(SEM)径の写真(5,000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の樹脂用炭酸カルシウム填料(以下、炭酸カルシウム填料と記す)は、電子顕微鏡写真から測定(Mountech社製Mac-VIEW)した個数粒度分布径において、粒子径0.26μm以下の粒子の含有率が30%以下であり、且つ下記の式(a)、(b)及び(c)を満足することを特徴とする。
(a)Dms5/Dmv5≦3.0
(b)1.0≦Sw≦10.0(m2 /g )
(c)Dma≦5.0(体積%)
但し、
Dms5:レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラックMT-3300EX II)にて測定した体積粒度分布において、小さな粒子側から累積した5%直径(μm );
Dmv5:電子顕微鏡にて測定した粒子径(Mountech社製Mac-VIEW)における個数粒度布において、小さな粒子側から累積した5%直径(μm );
Sw:BET比表面積(Mountech社製Macsorb )(m2/g );
Dma:レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラックMT-3300EX II)にて測定した体積粒度分布において、粒子径が3μm以上の粒子の含有率(体積%)。
【0017】
一般に、粒子径が小さいほど、分子間力や水分起因による液架橋力による粒子間凝集性が強い。微細な1次粒子の粒子径を測定しようとする際、レーザー回折法等の一般的な粒度分布測定機では、微細な1次粒子を一つ一つ測定することは極めて難しく、1次粒子同士が凝集して2次凝集体もしくは3次凝集体となった大きな塊状粒子体の径として判別されやすい。また超音波分散機で予備分散しても、完全に1次粒子が解れて分散することは極めて困難であるため、0.26μm 以下の微細な1次粒子径を精度よく測定するには、上記した一般的な粒度分布測定機では不向きである。
【0018】
従って、本発明における微細な1次粒子径の測定法は、電子顕微鏡写真から1つ1つを目視観察して測定した個数粒度分布を基準とし、その粒度分布において、粒子径0.26μm以下の微細な1次粒子の含有率が30%以下であることが必要である。該粒子の含有率が30%を超えると、樹脂と混練した際に炭酸カルシウム表面に内在する水分等の揮発成分を脱気するのが困難になるだけでなく、外気から水分を吸着しやすくなるため、炭酸カルシウム同士の凝集性も強くなり、本発明の目的用途に使用することができない。従って、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。尚、下限については特に制限されず低い程好ましく、0%が最も望ましい。
【0019】
Mountech社製Mac-VIEWを用いた電子顕微鏡写真からの粒子径の測定方法は下記のとおりである。
<測定方法>
ビーカー(100ml )に炭酸カルシウム填料1〜3g とメタノール溶媒60g を加え懸濁させ、チップ式超音波分散機(US-300T ;日本精機製作所製)を使用し、電流300 μA−1 分間の一定条件で予備分散する。次に、0.5ml のスポイトを用いSEM 試料台に薄く均一に載せ乾燥し試料を調整する。
調整した試料をSEM にて100 〜500 個数カウントできる倍率で観察した後、市販の画像解析式粒度分布測定ソフト(Mountech社製Mac-VIEW)を用い、100 〜500 個の粒子を端から順番に輪郭をなぞりカウントしたHeywood 径(投影面積円相当径)である。なお、粒度分布は個数頻度であり、30%以下とは100 〜500 個当たりにおける個数%である。
電子顕微鏡観察像は、SEM (走査型顕微鏡)像、TEM (透過型電子顕微鏡)像や、それらの電解放射型像等が例示でき特に限定されないが、本発明ではSEM 像を用いた。
【0020】
本発明の(a)式については、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラックMT-3300EX II)にて測定した体積粒度分布において、小さい粒子側から累積した5%直径(Dms5)(以下、レーザー回折径と記す場合がある)を、電子顕微鏡の観察にて測定した個数粒度分布において、小さい粒子側から累積した5%直径(Dmv5)(以下、電子顕微鏡径と記す場合がある)で除した値が、3.0以下であることが必要である。
前記したように、1次粒子の大きさが微細であるほど、水分を多く保持し凝集付着力が強固となる。従って、市販のレーザー回折式の場合、凝集付着した2次凝集体あるいは3次凝集体を1つの粒子としてカウントするため、電子顕微鏡観察像から観察した1つ1つの1次粒子径を正確にカウント測定し、レーザー回折径と電子顕微鏡径とについて、それぞれの小さい粒子側から累積した5%直径の比を採っている。
上記(a)式が3.0を超える場合、即ち、レーザー回折径と電子顕微鏡径との差が大きい場合、微粒子含有率が多いことになり本発明の目的とする用途に使うことはできない。従って、好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。尚、下限については1.0に近い程好ましく、1.0が最も望ましい。
【0021】
レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラックMT-3300EX II)による体積粒度分布の測定方法は下記のとおりである。
<測定方法>
レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラックMT-3300EX II)を用い、媒体としてメタノールを用いる。測定する前に、本発明の樹脂用炭酸カルシウム填料の懸濁化を一定にするため、前処理としてビーカー(100ml )に炭酸カルシウム填料0.1 〜0.3gとメタノール溶媒60mlを加え懸濁させ、チップ式超音波分散機(US-300T ;日本精機製作所製)を使用し、電流300 μA-1分間の一定条件で予備分散した後の測定値である。
【0022】
本発明の(b)式は、炭酸カルシウム填料の個々の大きさをBET比表面積(Sw)として表しており、1.0〜10.0m2 /g であることが必要である。Swが10.0m2 /g を超えると、炭酸カルシウム中に含有する水分等の揮発成分が多く含有し、樹脂混練時の脱気に問題があり、1.0m2 /g 未満の場合、樹脂に配合した場合、炭酸カルシウム填料の粒子が大きく樹脂と均一に混合するのが難しく、また混合ができても樹脂成形体から炭酸カルシウム填料が脱落する問題がある。さらに前記した光反射フィルム用微多孔形成剤として使用する場合、微孔径が大き過ぎる問題もある。従って、より好ましくは2.0〜9.0m2 /g 、さらに好ましく3.0〜8.0m2 /g である。
【0023】
BET比表面積測定装置(Mountech社製Macsorb )によるBET比表面積の測定方法は下記のとおりである。
<測定方法>
炭酸カルシウム填料0.2 〜0.3gを測定装置にセットし、前処理として窒素とヘリウムの混合ガス雰囲気下で200 ℃で10分間の加熱処理を行った後、液体窒素の環境下で低温低湿物理吸着を行い比表面積を測定した。
【0024】
本発明の(c)式については、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラックMT-3300EX II)にて測定した体積粒度分布において、粒子径が3μm以上の粒子の含有率が5.0体積%以下であることが必要である。
前記したように、本発明の目的用途である加工温度が高い樹脂に高濃度で配合するには、上記した特定の粒子径と比表面積であれば、樹脂混練中に揮発性成分が除去され、樹脂の発泡性を十分に抑制することができるが、液晶テレビ用光反射フィルムへの微多孔形成剤等に応用する場合、光反射率の特性上、粒子径3μm以上の炭酸カルシウム填料が多いと、反射率に寄与せず、また高濃度配合も困難となり易い。従って、 好ましくは3.0体積%以下、さらに好ましくは1.5体積%以下である。
レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラックMT-3300EX II)による体積粒度分布の測定方法は前記したとおりである。
【0025】
本発明で用いる炭酸カルシウムは、樹脂との混練時の脱気性の観点から、微粉粒子を多く含有している天然の白色糖晶質石灰石(重質炭酸カルシウム)を粉砕法で調整したものよりも、天然の灰色緻密質石灰石を焼成する合成法で調整したものが、粒子を均一に制御でき、比較的不純物を取り除くことができる。従って、合成品(軽質・コロイド炭酸カルシウム)であることが好ましい。
【0026】
本発明の炭酸カルシウム填料は、炭酸カルシウム填料の特性を向上させる目的で必要に応じて、各種表面処理剤で表面処理(被覆)することができる。
表面処理剤は特に限定されるものでないが、例えば、有機リン系表面処理剤、ポリカルボン酸系表面処理剤、カップリング剤系表面処理剤、等が例示され、これらは、単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて表面処理することができる。
【0027】
有機リン系表面処理剤としては、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTMP)、リン酸トリメチル(TMP)、リン酸トリエチル(TEP)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリフェニル(TPP)、リン酸メチル酸(MAP)、リン酸エチル酸(EAP)等の有機リン酸エステルが挙げられる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0028】
ポリカルボン酸系表面処理剤としては、ポリアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸や、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸等のジカルボン酸が挙げられる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。ポリプロピレングリコール(PPG)やポリエチレングリコール(PEG)等の官能基との共重合物も問題なく使用できる。
【0029】
カップリング剤表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3- アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートで代表されるチタネートカップリング剤、メチルハイドロジェンに代表されるシリコーン系オイル等が挙げられる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0030】
これら表面処理剤の中でも、樹脂への相溶性や、耐熱性、及び脱気性の観点から、ポリアクリル酸系のアンモニウム塩(APA)や、ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTMP)、リン酸トリメチル(TMP)やリン酸トリエチル(TEP)、シリコーン系処理剤が好ましい。特に、エステル結合を有するポリエステル系樹脂の場合、耐アルカリ性が低いために前記表面処理剤は好適である。
【0031】
上記表面処理剤の使用量は、炭酸カルシウムの比表面積や、コンパウンド条件等に応じて変わるので一概には規定し難いが、本発明の目的用途から、通常、炭酸カルシウムに対して0.01〜5重量%が好ましい。使用量が0.01重量%未満では充分な表面処理効果が得られ難く、一方、5重量%を越えて添加した場合、樹脂混練時に表面処理剤が分解揮発等により樹脂の色相が黄変化するなどの問題が生じる可能性があるため、より好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜1.5重量%である
【0032】
炭酸カルシウムへの表面処理方法としては、例えばスーパーミキサーやヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、ニーダーミキサー、バンバリーミキサー等のミキサーを用い、炭酸カルシウム粉体に直接表面処理剤を混合し、必要に応じて加熱して表面処理する乾式処理法、表面処理剤を水溶媒等で溶解し、炭酸カルシウム水懸濁液中に添加して表面処理した後、脱水、乾燥する湿式処理法、または、その両者の複合で炭酸カルシウム水懸濁液を脱水したケーキを表面処理してもよい。
【0033】
次に、本発明の樹脂組成物について説明をする。
本発明で使用される樹脂は、勿論、加工温度の低い各種樹脂でもよいが、加工温度が比較的高い樹脂が好適である。例えば、アクリル樹脂(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリブタジエン(PBD)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等で代表される汎用樹脂や、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート( PBT) 、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、フッ素樹脂(FR)、液晶ポリマー(LCP)等のエンジニアリングプラスチック、フェノール、尿素、メラミン、アルキッド、不飽和ポリエステル、エポキシ、ジアリルウフタレート、ポリウレタン、変性シリコーン、ポリサルファイド、反応アクリル、ポリイソブチレン、シリルカウレタン、変性エポキシ等の熱硬化樹脂が例示できる。更に、ポリ乳酸樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリアミド11、ポリヒドロキシ酪酸等の生分解性プラスチックやバイオマスプラスチックも使用可能である。
これらの中でも、PET、PBT、PEN、PC、LCP等のエステル結合を有するポリエステル系樹脂は、シート・フィルム加工製品として汎用性が高く、特にPETは本発明の目的用途に好適である。
【0034】
本発明の樹脂用表面処理炭酸カルシウム填料と樹脂との配合割合は、樹脂の種類や用途、所望する物性やコストによって大きく異なり、それらに応じて適宜決定すればよいが、高濃度配合の目的からは、例えば光反射用多孔質フィルムとして用いる場合は、通常、樹脂100重量部に対して6〜200重量部であり、より好ましくは10〜150重量部、さらに好ましくは20〜120重量部である。
【0035】
また、本発明の樹脂組成物の効能を阻害しない範囲で、必要に応じて、樹脂組成物の特性を向上させるため、脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ソルビタン脂肪酸エステル等の滑剤、可塑剤及び安定剤、酸化防止剤等を添加してもよい。さらには、一般にフィルム用樹脂組成物に用いられる添加物、例えば滑剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、スリップ剤、着色剤等を配合してもよい。
【0036】
本発明の炭酸カルシウム填料と各種添加剤を樹脂に配合する場合は、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、リボンブレンダー等の公知の混合機を用いて混合される。
樹脂組成物は混合機で混合した後、一軸あるいは二軸押出機、ニーダーミキサー、バンバリーミキサー等で加熱混練し、一旦、マスターバッチと称される、本発明の炭酸カルシウム填料を始めとする各種添加剤を含有するペレットを作製し、Tダイ押出、あるいはインフレーション成形等の公知の成形機を用いて、溶融、製膜する。その後、必要に応じて一軸または二軸に延伸して均一な微孔径を有するフィルム製品としてもよい。
さらに、必要に応じて、上記工程中のTダイ押出までの工程を複数組み、押出時にフィルムを多層構造にしたり、あるいは、延伸時に貼り合わせて再度延伸するような工程を導入して多層フィルムにしたり、常温より高温でかつ樹脂の溶融温度より低い温度条件でフィルム養生することも可能である。
また、上記フィルムに印刷適性を付与する目的で、フィルム表面にプラズマ放電等の表面処理を施しインク受理層をコートさせたり、フィルムの少なくとも片面に保護層として、芳香族パラ系アラミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などの耐熱樹脂の有機溶媒液を塗工液として塗っても何ら差し支えない。
また、炭酸カルシウムや表面処理剤を溶解する塩酸等を用い、本発明の炭酸カルシウム填料を溶解させて、微細な孔のみを有する多孔質フィルム製品としても差し支えない。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例、比較例により何ら制限されるものではない。
【0038】
実施例1
灯油を熱源に灰色緻密質石灰石をコマ炉式キルンで焼成して得られた生石灰を溶解して容量1000L、比重1.040、温度30℃の消石灰スラリーを調整した。次いで、該スラリーに純度99%以上の炭酸ガスを50m3 /hrのガス流量で導通し炭酸カルシウムを合成した。その時のBET比表面積は12m2 /g であった。該炭酸カルシウム水スラリーをオストワルド熟成により粒子成長を行い、BET比表面積10.4m2 /g の炭酸カルシウム水スラリーを得た。得られた炭酸カルシウム水スラリーをフィルタープレス機と気流乾燥機で脱水・乾燥させた。
次に、炭酸カルシウムに対して1.0重量%相当分のリン酸トリメチル(TMP)をヘンシェルミキサーにて処理温度120℃で乾式処理し、さらに精密空気分級機(ターボクラシファイヤ)で分級を行い、樹脂用炭酸カルシウム填料(以下、炭酸カルシウム填料と記す)を調整した。得られた炭酸カルシウム填料の粉体物性及び主要実施条件を表1に示す。
【0039】
実施例2
オストワルド熟成により粒子成長を行い、BET比表面積7.8m2 /g の炭酸カルシウム水スラリーを得て、乾燥粉体を調整後、炭酸カルシウムに対して0.8重量%相当分のリン酸トリメチル(TMP)をヘンシェルミキサーにて処理した以外は、実施例1と同条件で操作し、炭酸カルシウム填料を調整した。得られた炭酸カルシウム填料の粉体物性及び主要実施条件を表1に示す
【0040】
実施例3
オストワルド熟成により粒子成長を行い、BET比表面積5.3m2 /g の炭酸カルシウム水スラリーを得て脱水プレス後、炭酸カルシウムに対して0.5重量%相当分のリン酸トリメチル(TMP)をニーダーミキサーにて処理し、気流乾燥機で乾燥させた以外は、実施例1と同条件で操作し、炭酸カルシウム填料を調整した。得られた炭酸カルシウム填料の粉体物性及び主要実施条件を表1に示す。
また、電子顕微鏡(SEM)径の観察写真(10,000倍)を図1として示す。
【0041】
実施例4
オストワルド熟成により粒子成長を行い、BET比表面積3.4m2 /g の炭酸カルシウム水スラリーを得て、0.5重量%相当分のリン酸エチル酸(EAP)アンモニア中和品をヘタンブラーミキサーにて処理した以外は実施例1と同条件で操作し、炭酸カルシウム填料を調整した。得られた炭酸カルシウム填料の粉体物性及び主要実施条件を表1に示す。
【0042】
実施例5
実施例3において、表面処理剤を炭酸カルシウムに対して0.5重量%相当分のニトリロトリメチレンホスホン酸(NTMP)に変更した以外は実施例3と同条件で操作し、炭酸カルシウム填料を調整した。得られた炭酸カルシウム填料の粉体物性及び主要実施条件を表1に示す。
【0043】
実施例6
実施例3において、表面処理剤を炭酸カルシウムに対して0.5重量%相当分のポリアクリル酸アンモニウム(APA)に変更した以外は実施例3と同条件で操作し、炭酸カルシウム填料を調整した。得られた炭酸カルシウム填料の粉体物性や主要実施条件を表1に示す。
【0044】
実施例7
実施例3において、表面処理をしなかった以外は実施例3と同条件で操作し、炭酸カルシウム填料を調整した。得られた炭酸カルシウム填料の粉体物性や主要実施条件を表1に示す。
【0045】
実施例8
実施例5において、精密空気分級機(ターボクラシファイヤ)を用いなかった以外は、実施例5と同条件で操作し、炭酸カルシウム填料を調整した。得られた炭酸カルシウム填料の粉体物性及び主要実施条件を表1に示す。
【0046】
比較例1
市販の重質炭酸カルシウム(#2000,丸尾カルシウム社製)を精密流体分級機により分級し、粗粉側を回収した。次に、炭酸カルシウムに対して0.5重量%相当分のリン酸トリメチル(TMP)をヘンシェルミキサーにて処理温度120℃にて乾式処理し、炭酸カルシウム填料を調整した。得られた炭酸カルシウム填料の粉体物性及び主要実施条件を表1に示す。
また、電子顕微鏡(SEM)径の観察写真(5,000倍)を図2として示す。実施例3(図1)の炭酸カルシウム填料に比べ、微粉が多いことが認められる。
【0047】
比較例2
実施例1で調整したオストワルド熟成前のBET比表面積12m2 /g の合成炭酸カルシウム水スラリーをフィルタープレス機と気流乾燥機で脱水・乾燥させた。
次に、炭酸カルシウムに対して1.0重量%相当分のリン酸トリメチル(TMP)をヘンシェルミキサーにて処理温度120℃にて乾式処理し、さらに精密空気分級機(ターボクラシファイヤ)で分級を行い、炭酸カルシウム填料を調整した。得られた炭酸カルシウム填料の粉体物性及び主要実施条件を表1に示す。
【0048】
比較例3
オストワルド熟成により粒子成長を行い、BET比表面積0.7m2 /g の炭酸カルシウム水スラリーを得て、リン酸トリメチル(TMP)をヘンシェルミキサーにて処理した以外は実施例4と同条件で操作し、炭酸カルシウム填料を調整した。得られた炭酸カルシウム填料の粉体物性及び主要実施条件を表1に示す。
【0049】
<水分>
炭酸カルシウム填料の水分は、下記の方法で測定した。
微量水分測定装置(京都電子工業社製MKSー1s)を用いた。脱水溶剤(アクアミロン脱水溶剤CM、三菱化学社製)を水分測定装置附属のセルに50g秤量し、炭酸カルシウム填料0.1〜1gをセル内に添加し、カールフィッシャー溶液(アクアミロン滴定剤SS、三菱化学社製)3mgで滴定した。滴定値から水分値を読み取った。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例9〜16、比較例4〜6
<白色PET樹脂フィルム>
ポリエチレンテレフタレート(PET)(比重1.39;日本ポリペンコ社製)60重量部、樹脂用炭酸カルシウム填料30重量部をヘンシェルミキサーで混合攪拌して充分に分散せしめた後に、混練押出し機(ラボプラストミル2D25W型;東洋精機製)を用いて280℃で造粒しペレットにした。得られたペレットを110℃、1時間乾燥させた後、このペレットをフィルム押出し機(ラボプラストミルD2025型;東洋精機製)を用いて290℃でTダイからシート状に押し出し、30℃の冷却ドラムで冷却固化せしめ無延伸フィルムを得た。
次いで、テンター延伸機で無延伸フィルムを95℃に加熱してMD方向(押出し方向)に3.3倍に延伸し、更に120℃に加熱してTD方向(横手方向)に3倍に延伸して厚さ180μmのフィルムを得た。得られたフィルムの物性を下記の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0052】
<成形性>
押出成形した際に、安定的に押出できるか観察し、下記の基準で評価した。
◎:押出成形時の粘性が低くトルクも安定し、吐出量も一定である。
○:押出成形時の粘性がやや高いが、トルクや吐出量は安定している。
△:押出成形時の粘性が高く、トルクや吐出量も不安定であるが、ペレットを得ることはできる。
×:押出成形時の粘性が高く、トルクも不安定で吐出の際、発泡が起こりペレットが得られない。
【0053】
<粒子の分散性>
フィルム300mm×300m中における凝集物、粗大粒子によるフィッシュアイを目視で観察し、下記の基準により評価した。
◎:全く認められない。
○:1個か2個である。
△:3個以上10個未満である。
×:10個以上である。
【0054】
<気泡(ガスマーク)>
フィルム300mm×300m中における水分等の揮発成分による気泡(ガスマーク)を目視にて観察し、下記の基準により評価した。
◎:全く認められない。
○:1個か2個である。
△:3個以上10個未満である。
×:10個以上である。
【0055】
3)反射率
紫外可視分光光度計(UV3101PC:島津製作所社製) を用い、硫酸バリウム白板を100%とした時の反射率0.30〜0.80μm の波長範囲を測定し、0.45μm の反射率を代表値とした。反射率が高い程、前記した波長範囲で均一なボイド径が得られていると言える。
【0056】
4)耐光性
ソーラシミュレーター(YSS-50A ;山下電装製)を用い、120時間照射した後の反射率を測定した。耐光性が高いほど、光反射フィルムとして安定性が高いと言える。
【0057】
【表2】
【0058】
以上の結果より、本発明の炭酸カルシウム填料は、PET樹脂等に配合し樹脂組成物とした場合の成形性、分散性、気泡(ガスマーク)、及び反射率や耐光性の光学特性に優れていることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の樹脂用炭酸カルシウム填料は、微粉が極めて少なく特定の粒度に調整してなり、加工温度が高い樹脂に高濃度で配合され混練された場合でも、炭酸カルシウム表面に存在する水分等の揮発性成分が脱気し易く、発泡等を抑制することができ、特に、反射率や耐光性等が要求される液晶用光反射板や金属膜との接着力や光沢度等が要求されるランプリフレクター等の光学的分野に有用である。
図1
図2