(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0015】
[防食材]
本実施形態に係る防食材は、異なる金属部材からなる接合部を被覆して腐食原因物質が浸入することを抑制し、当該接合部における腐食を長期に亘り防止するものである。そして、本実施形態の防食材は、紫外線硬化型樹脂を含有するものである。紫外線硬化型樹脂は、紫外線を照射することにより瞬時に硬化し、さらに洗浄工程や乾燥工程が不要なため、次工程を素早く行うことができ、工程を短縮することが可能である。
【0016】
紫外線硬化型樹脂としては、光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーの少なくとも一方からなる重合性化合物を主成分とした樹脂を使用する。紫外線硬化型樹脂として上述のアクリレート系の重合性化合物を使用した場合、硬化して得られる封止材は金属との接着力が高く、さらに優れた耐候性及び耐衝撃性を有するため、接合部の腐食を抑制することができる。
【0017】
ここで、光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーは、炭素−炭素不飽和結合を備える官能基を有している。そして、前記(メタ)アクリレートモノマーは、当該官能基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、当該官能基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートモノマー、当該官能基を3つ有する3官能(メタ)アクリレートモノマー、当該官能基を4つ以上有する多官能(メタ)アクリレートモノマーに分類される。また、前記(メタ)アクリレートオリゴマーは、当該官能基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートオリゴマー、当該官能基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートオリゴマー、当該官能基を3つ有する3官能(メタ)アクリレートオリゴマー、当該官能基を4つ以上有する多官能(メタ)アクリレートオリゴマーに分類される。
【0018】
そして、紫外線硬化型樹脂に含まれるモノマーとして、単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーを使用せず、3官能(メタ)アクリレートモノマー及び多官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方のみを使用した場合、硬化した際に硬化物の架橋密度が増加する傾向がある。そのため、このような紫外線硬化型樹脂の硬化物は、強度・硬度が向上し、さらに表面硬化性(タック性)も高い。しかしながら、その背反として、当該硬化物は、伸びや深部硬化性が低下し、得られる硬化物が剥離してしまうため、長期に亘り腐食を抑制することが困難であった。
【0019】
そのため、本実施形態では、紫外線硬化型樹脂における重合性化合物は、単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーを併用している。または、当該重合性化合物は、単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方と、3官能(メタ)アクリレートモノマー及び4官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方とを併用している。官能基数が少ない(メタ)アクリレート化合物と官能基数が多い(メタ)アクリレート化合物とを混合し、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーのみとしないことにより、得られる硬化物の架橋密度が過度に高まることがない。そのため、得られる硬化物は、強度・硬度及び表面硬化性に加えて、伸びや深部硬化性も向上させることができる。その結果、得られる硬化物は、異種材料からなる接合部での剥離が抑制され、接合部の腐食を長期間抑制することが可能となる。なお、深部硬化性とは、上部から光照射したときに、どのくらいの深度まで硬化するかを示す指標であり、この深部硬化性が高いほど優れている。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとを包含するものである。
【0020】
単官能アクリレートモノマーとしては、化学式1に示す化合物を使用することができる。具体的には、新中村化学工業株式会社製のエトキシ化o−フェニルフェノールアクリレート((a)参照)、メトキシポリエチレングリコール♯400アクリレート((b)参照、n=9)、メトキシポリエチレングリコール♯550アクリレート((b)参照、n=13)、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート((c)参照)、2−アクリロイルオキシエチルサクシネート((d)参照)、イソステアリルアクリレート((e)参照)を挙げることができる。また、単官能アクリレートモノマーとしては、ダイセル・オルネクス株式会社製のβ−カルボキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、オクチル/デシルアクリレート、エトキシ化フェニルアクリレート(EO2mol)、エトキシ化フェニルアクリレート(EO1mol)も挙げることができる。
【0022】
2官能アクリレートモノマーとしては、化学式2−1〜2−3に示す化合物を使用することができる。具体的には、新中村化学工業株式会社製の2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート((a)参照)、ポリエチレングリコール♯200ジアクリレート((b)参照、n=4)、ポリエチレングリコール♯400ジアクリレート((b)参照、n=9)、ポリエチレングリコール♯600ジアクリレート((b)参照、n=14)、ポリエチレングリコール♯1000ジアクリレート((b)参照、n=23)、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート((c)参照)、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート((d)参照)、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン((e)参照)、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート((f)参照)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート((g)参照)、1,10−デカンジオールジアクリレート((h)参照)、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート((i)参照)、1,9−ノナンジオールジアクリレート((j)参照)、ジプロピレングリコールジアクリレート((k)参照)、トリプロピレングリコールジアクリレート((l)参照、m+n=3)、ポリプロピレングリコール♯400ジアクリレート((l)参照、m+n=7)、ポリプロピレングリコール♯700ジアクリレート((l)参照、m+n=12)、ポリテトラメチレングリコール♯650ジアクリレート((m)参照)を挙げることができる。また、2官能アクリレートモノマーとしては、ダイセル・オルネクス株式会社製のジプロピレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、変性ビスフェノールAジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、PEG400ジアクリレート、PEG600ジアクリレート、ネオペンチルグリコール・ヒドロキシピバリン酸エステルジアクリレートも挙げることができる。
【0026】
3官能アクリレートモノマー及び多官能アクリレートモノマーとしては、化学式3−1及び3−2に示す化合物を使用することができる。具体的には、新中村化学工業株式会社製のエトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート((a)参照)、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート((b)参照)、Ethoxylated glycerine triacrylate(EO9mol)((c)参照、l+m+n=9)、Ethoxylated glycerine triacrylate(EO20mol) ((c)参照、l+m+n=20)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(トリエステル37%)((d)参照)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(トリエステル55%)((d)参照)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(トリエステル57%)((d)参照)、トリメチロールプロパントリアクリレート((e)参照)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート((f)参照)、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート((g)参照)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート((h)参照)、ジペンタエリスリトールポリアクリレート((i)参照)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート((j)参照)を挙げることができる。また、多官能アクリレートモノマーとしては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジアクリレートも挙げることができる。
【0029】
3官能アクリレートモノマーとしては、ダイセル・オルネクス株式会社製のペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレートを挙げることができる。4官能以上の多官能アクリレートモノマーとしては、ダイセル・オルネクス株式会社製のペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを挙げることができる。
【0030】
単官能メタクリレートモノマーとしては、化学式4に示す化合物を使用することができる。具体的には、新中村化学工業株式会社製の2−メタクリロイロキシエチルフタル酸((a)参照)、メトキシポリエチレングリコール♯400メタクリレート((b)参照、n=9)、メトキシポリエチレングリコール♯1000メタクリレート((b)参照、n=23)、フェノキシエチレングリコールメタクリレート((c)参照)、ステアリルメタクリレート((d)参照)、2−メタクリロイルオキシエチルサクシネート((e)参照)を挙げることができる。
【0032】
2官能メタクリレートモノマーとしては、化学式5−1及び5−2に示す化合物を使用することができる。具体的には、新中村化学工業株式会社製のエチレングリコールジメタクリレート((a)参照)、ジエチレングリコールジメタクリレート((b)参照、n=2)、トリエチレングリコールジメタクリレート((b)参照、n=3)、ポリエチレングリコール♯200ジメタクリレート((b)参照、n=4)、ポリエチレングリコール♯400ジメタクリレート((b)参照、n=9)、ポリエチレングリコール♯600ジメタクリレート((b)参照、n=14)、ポリエチレングリコール♯1000ジメタクリレート((b)参照、n=23)、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート((c)参照)、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート((d)参照)、1,10−デカンジオールジメタクリレート((e)参照)、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート((f)参照)、1,9−ノナンジオールジメタクリレート((g)参照)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート((h)参照)、エトキシ化ポリプロピレングリコール♯700ジメタクリレート((i)参照)、グリセリンジメタクリレート((j)参照)、ポリプロピレングリコール♯400ジメタクリレート((k)参照)を挙げることができる。
【0035】
3官能メタクリレートモノマーとしては、化学式6に示す化合物を使用することができる。具体的には、新中村化学工業株式会社製のトリメチロールプロパントリメタクリレートを挙げることができる。
【0037】
また、光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ダイセル・オルネクス株式会社製の芳香族ウレタンアクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレートも使用することができる。そして、エポキシアクリレートとしては、ビスフェノールAタイプエポキシアクリレート、エポキシアクリレート、エポキシ化大豆油アクリレート、変性エポキシアクリレート、脂肪酸変性エポキシアクリレート、アミン変性ビスフェノールAタイプエポキシアクリレートを挙げることができる。
【0038】
光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、多塩基酸変性アクリルオリゴマーなどのアクリルアクリレートや、シリコーンアクリレートも挙げることができる。
【0039】
ただ、単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、イソボルニルアクリレートやエトキシ化フェニルアクリレートが好ましい。2官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレートやジプロピレングリコールジアクリレートが好ましい。3官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、グリセリンプロポキシトリアクリレートやトリメチロールプロパンプロポキシトリアクリレートが好ましい。4官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレートやジトリメチロールプロパンテトラアクリレートが好ましい。
【0040】
なお、本実施形態の重合性化合物において、単官能(メタ)アクリレートモノマー、2官能(メタ)アクリレートモノマー、3官能(メタ)アクリレートモノマー及び4官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーの混合割合は、後述する実施例に限定されるわけではなく、本発明の効果が得られるように任意に設定することができる。
【0041】
本実施形態に係る紫外線硬化型樹脂は、上述の重合性化合物に加え、紫外線硬化を促進するための光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤は、光重合性モノマーや光重合性オリゴマーの重合反応を開始させる働きを持つ化合物で、紫外線から特定波長の光を吸収して励起状態となり、ラジカルを発生する物質である。
【0042】
このような光重合開始剤としては、例えばベンゾインエーテル系、ケタール系、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、及びチオキサントン系からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。なお、これらの光重合開始剤は一例であり、本実施形態はこれらに限定されない。つまり、光重合開始剤は、その目的に応じて種々の化合物を用いることができる。
【0043】
本実施形態の紫外線硬化型樹脂は、上述の重合性化合物を主成分としている。また、本実施形態に係る紫外線硬化型樹脂は、上述の重合性化合物に加え、他のモノマー及びオリゴマーを含有することができる。さらに、紫外線硬化型樹脂は、次のような添加剤の少なくとも一種を含有することができる。添加剤としては、光重合開始助剤、接着防止剤、充填剤、可塑剤、非反応性ポリマー、着色剤、難燃剤、難燃助剤、軟化防止剤、離型剤、乾燥剤、分散剤、湿潤剤、沈殿防止剤、増粘剤、帯電防止剤、静電防止剤、艶消し剤、ブロッキング防止剤、皮張り防止剤、界面活性剤等を用いることができる。
【0044】
上述のように、本実施形態の防食材は、上述の紫外線硬化型樹脂からなるものである。そのため、防食材に紫外線を照射することで瞬時に硬化し、さらに洗浄工程や乾燥工程が不要なため、次工程を素早く行うことができ、工程を短縮することが可能となる。ただ、紫外線硬化型樹脂の粘度が高すぎる場合、接合部に塗布した際に塗布厚さが大きくなりすぎてしまう。その結果、硬化して得られる被膜(封止材)の厚みが増大する。そのため、後述するように、金属端子をコネクタハウジングに収容する際に当該防食材がコネクタハウジングのキャビティ内に挿入できず、既存のコネクタハウジングを使用できない恐れがある。
【0045】
これに対し、本実施形態の防食材は、JIS Z8803(液体の粘度測定方法)に準拠して測定される25℃での粘度が18900mPa・s以下である。そのため、塗布厚さが大きくなりすぎず、硬化して得られる被膜(封止材)の厚みが増大しないことから、既存のコネクタハウジングを使用することが可能となる。なお、防食材の粘度の下限値は特に限定されないが、例えば300mPa・s以上とすることができる。防食材の粘度がこの値以上であることにより、接合部に塗布した際の液ダレが抑制されるため、硬化して得られる被膜の厚さを略均一にし、防食性を高めることが可能となる。
【0046】
本実施形態の防食材は、光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーの少なくとも一方からなる重合性化合物を主成分とする紫外線硬化型樹脂を含む。さらに、重合性化合物は、単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーを併用してなるか、又は単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方と、3官能(メタ)アクリレートモノマー及び4官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方とを併用してなる。そして、防食材は、JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度が18900mPa・s以下である。
【0047】
本実施形態では、官能基数が少ない(メタ)アクリレートモノマーと官能基数が多い(メタ)アクリレートモノマーとを混合した紫外線硬化型樹脂を、防食材として使用する。そのため、得られる硬化物は適度な架橋密度となることから、強度・硬度及び表面硬化性に加えて、伸びも向上させることが可能となる。また、紫外線硬化型樹脂に含まれるモノマーが3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーのみからなる場合には、深部硬化性が低下し、防食材の内部で樹脂が十分に硬化せずに接合部から剥がれてしまい、防食性が低下する可能性がある。しかし、本実施形態では、紫外線硬化型樹脂は官能基数が少ない(メタ)アクリレート化合物を含有するため、深部硬化性の低下を抑制して剥離を防ぎ、防食性を高めることが可能となる。
【0048】
また、当該防食材は、粘度が所定値以下であるため、塗布厚さが大きくなりすぎず、硬化して得られる被膜の厚みの増大を抑制することができる。さらに、防食材に紫外線を照射することで瞬時に硬化し、さらに洗浄工程や乾燥工程が不要なため、工程を短縮することが可能となる。また、本実施形態では、液状の防食材を接合部に塗布した後、紫外線照射により硬化するため、如何なる電線及び接合部の形状であっても、防食性に優れた封止材を形成することが可能である。
【0049】
[端子付き電線]
次に、本実施形態に係る端子付き電線について説明する。
図1乃至
図3に示すように、本実施形態の端子付き電線1は、導電性の導体11及び導体11を覆う電線被覆材12を有する電線10と、電線10の導体11に接続する金属端子20とを備える。さらに、端子付き電線1は、導体11と金属端子20との接合部を覆い、かつ、上述の防食材が硬化してなる封止材30を備える。
【0050】
端子付き電線1における金属端子20はメス型のもので、その前部に、図示しない相手方端子に対して接続する電気接続部21を有している。電気接続部21は、相手方端子に係合するバネ片を内蔵し、ボックス状の形体をしている。さらに、金属端子20の後部には、繋ぎ部23を介して、電線10の端末部に対して加締めることにより接続される電線接続部22を有している。
【0051】
電線接続部22は、前側に位置する導体圧着部24と、その後側に位置する被覆材加締部25とを備えるものである。
【0052】
前側の導体圧着部24は、電線10の端末部の電線被覆材12を除去して露出させた導体11と直接接触するものであり、底板部26と一対の導体加締片27とを有する。一対の導体加締片27は、底板部26の両側縁から上方に延長し、電線10の導体11を包み込むように内側に曲げられることで、導体11を底板部26の上面に密着した状態となるように加締める。この底板部26と一対の導体加締片27とにより、導体圧着部24は断面視略U字状に形成されている。
【0053】
また、後側の被覆材加締部25は、電線10の端末部の電線被覆材12と直接接触するものであり、底板部28と一対の被覆材加締片29とを有する。一対の被覆材加締片29は、底板部28の両側縁から上方に延長し、電線被覆材12の付いた部分を包み込むように内側に曲げられることで、電線被覆材12を底板部28の上面に密着した状態となるように加締める。この底板部28と一対の被覆材加締片29とにより、被覆材加締部25は断面視略U字状に形成されている。ここで、導体圧着部24の底板部26から被覆材加締部25の底板部28までが共通の底板部として連続して形成されている。
【0054】
本実施形態では、
図1及び
図2に示すように、上記構成の金属端子20の電線接続部22に電線10の端末部を挿入する。これにより、導体圧着部24の底板部26の上面に電線10の導体11を載置すると共に、被覆材加締部25の底板部28の上面に電線10の電線被覆材12の付いた部分を載置する。そして、電線接続部22と電線10の端末部を押圧することにより、導体圧着部24及び被覆材加締部25を変形させる。即ち、導体圧着部24の一対の導体加締片27を、導体11を包み込むように内側に曲げることで、導体11を底板部26の上面に密着した状態となるように加締める。さらに、被覆材加締部25の一対の被覆材加締片29を、電線被覆材12の付いた部分を包み込むように内側に曲げることで、電線被覆材12を底板部28の上面に密着した状態となるように加締める。こうすることにより、金属端子20と電線10を圧着して接続することができる。
【0055】
そして、
図3に示すように、本実施形態では、繋ぎ部23、電線接続部22、電線接続部22により覆われた導体11及び電線被覆材12の上部が封止材30により被覆されている。つまり、封止材30が、導体圧着部24と電線10の導体11の先端との境界を跨いで繋ぎ部23の一部まで覆うと共に、被覆材加締部25と電線被覆材12との境界を跨いで電線被覆材12の一部まで覆っている。このように、電線接続部22により覆われた導体11及び電線被覆材12の上部が封止材30で被覆されることにより、導体11と電線接続部22との接合部における腐食を抑制することができる。
【0056】
封止材30は、上述の紫外線硬化型樹脂を含有する防食材を紫外線硬化してなる硬化物である。
【0057】
電線10の導体11の材料としては、導電性が高い金属を使用することができるが、例えば銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金などを使用することができる。また、導体11の表面に錫をめっきしたものも使用することができる。ただ、近年、ワイヤーハーネスの軽量化が求められている観点から、導体11としては軽量なアルミニウムやアルミニウム合金を用いることが好ましい。そのため、導体11は、アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる素線を有することが好ましい。
【0058】
また、導体11を覆う電線被覆材12の材料としては、電気絶縁性を確保できる樹脂を使用することができ、例えばポリ塩化ビニル(PVC)を主成分とした樹脂やオレフィン系の樹脂を用いることができる。オレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン共重合体及びプロピレン共重合体を挙げることができる。
【0059】
さらに、金属端子20の材料(端子材)としては、導電性が高い金属を使用することができるが、例えば銅、銅合金、ステンレス、錫めっきされた銅、錫めっきされた銅合金及び錫めっきされたステンレスの少なくとも一つを用いることができる。また、金めっきされた銅、銅合金及びステンレスの少なくとも一つを用いてもよく、銀めっきされた銅、銅合金及びステンレスの少なくとも一つを用いてもよい。なお、金属端子は、銅又は銅合金を含有することが好ましい。
【0060】
次に、本実施形態の端子付き電線の製造方法について説明する。端子付き電線1は、まず、
図1及び
図2に示すように、金属端子20の電線接続部22に電線10の端末部を挿入する。これにより、導体圧着部24の底板部26の上面に電線10の導体11を載置すると共に、被覆材加締部25の底板部28の上面に電線10の電線被覆材12の付いた部分を載置する。そして、導体圧着部24の一対の導体加締片27を内側に曲げることで、導体11を底板部26の上面に密着した状態となるように加締める。さらに、被覆材加締部25の一対の被覆材加締片29を内側に曲げることで、電線被覆材12を底板部28の上面に密着した状態となるように加締める。これにより、金属端子20と電線10を接続することができる。
【0061】
次に、金属端子20と電線10の接合部に防食材を塗布する。この際、防食材の塗布方法は特に限定されず、例えばディスペンサー塗装機等を用いて行うことができる。そして、
図1に示すように、防食材は、当該接合部を覆うように塗布する。ただ、高い防食性能を確保するために、防食材は、導体圧着部24と電線10の導体11の先端との境界を跨いで繋ぎ部23の一部まで覆うと共に、被覆材加締部25と電線被覆材12との境界を跨いで電線被覆材12の一部まで覆うことが好ましい。
【0062】
次に、紫外線硬化型樹脂が塗布された金属端子20及び電線10に、紫外線照射装置40を用いて紫外線を照射する。紫外線の照射量及び照射時間は、使用する紫外線硬化型樹脂及び塗布量により適宜設定することができる。そして、紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射することにより、紫外線硬化型樹脂の偏りが生じる前に瞬時に硬化し、金属端子20と電線10の表面に封止材30が形成される。
【0063】
なお、紫外線硬化型樹脂は、硬化する際に酸素と接触すると反応阻害を起こすことが知られている。この反応阻害の原因としては、空気中の酸素が光重合開始剤より発生したラジカルと反応してラジカルを消失させ、紫外線硬化型樹脂の重合反応が低下してしまうため、当該樹脂の硬化が充分に促進しなくなることが挙げられる。そのため、酸素硬化阻害の影響を受け難い紫外線硬化型樹脂を使用することが好ましい。
【0064】
なお、紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂が硬化した後、必要に応じて封止材30を冷却する工程を施してもよい。封止材30の冷却方法としては、例えば空気を送風し、封止材30に接触させることにより冷却する方法が挙げられる。
【0065】
このように、本実施形態の端子付き電線は、上述の防食材を紫外線硬化してなる封止材30を使用している。そして、当該防食材の粘度が所定値以下であるため、塗布厚さが大きくなりすぎず、硬化して得られる被膜の厚みの増大を抑制することができる。その結果、後述するように、コネクタハウジングのピッチ寸法を変更する必要がないことから、本実施形態の端子付き電線を従来サイズのコネクタハウジングに挿入することができる。そのため、本実施形態の端子付き電線用にコネクタハウジングの設計を変更する必要がない。
【0066】
[ワイヤーハーネス]
次に、本実施形態に係るワイヤーハーネスについて説明する。本実施形態のワイヤーハーネスは、上述の端子付き電線を備える。具体的には、ワイヤーハーネス2は、
図4に示すように、コネクタハウジング50と、上述の端子付き電線1とを備えるものである。
【0067】
コネクタハウジング50の表面側には、図示しない相手方端子が装着される複数の相手側端子装着部(図示せず)が設けられている。そして、コネクタハウジング50の裏面側には、複数のキャビティ51が設けられている。各キャビティ51には、端子付き電線1における金属端子20及び封止材30が装着されるように、略矩形状の開口部が設けられている。さらに、各キャビティ51の開口部は、金属端子20及び封止材30の断面よりも若干大きく形成されている。そして、コネクタハウジング50に金属端子20が装着され、電線10はコネクタハウジング50の裏面側より引き出される。
【0068】
ここで、上述のように、本実施形態の防食材は粘度が所定値以下であるため、塗布厚さが大きくなりすぎず、硬化して得られる被膜(封止材)の厚みが増大することがない。そのため、端子付き電線1における封止材の幅は、金属端子20及び封止材30が挿入されるコネクタハウジング50のキャビティ51の開口幅Wよりも小さくすることができる。さらに、端子付き電線1における防食材の最大高さは、金属端子20及び封止材30が挿入されるコネクタハウジング50のキャビティ51の開口高さHよりも小さくすることができる。
【0069】
このように、本実施形態の封止材30は肉厚を薄くすることができるため、コネクタハウジング50のピッチ寸法を特別に変更する必要がない。そのため、端子付き電線を従来サイズのコネクタハウジングに挿入することができることから、端子付き電線用に特別にコネクタハウジングの設計を変更する必要がなく、従来のコネクタハウジングを使用することが可能となる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例及び比較例の端子付き電線を製造するに際し、オリゴマー、モノマー及び光重合開始剤として、以下の化合物を用いた。
・オリゴマー1:ダイセル・オルネクス株式会社製EBECRYL(登録商標) 8402(脂肪族ウレタンアクリレート)、平均分子量Mw:1000
・オリゴマー2:ダイセル・オルネクス株式会社製EBECRYL 4858(脂肪族ウレタンアクリレート)、平均分子量Mw:450
・単官能モノマー:ダイセル・オルネクス株式会社製IBOA(イソボルニルアクリレート)
・2官能モノマー:ダイセル・オルネクス株式会社製TPGDA(トリプロピレングリコールジアクリレート)
・3官能モノマー1:ダイセル・オルネクス株式会社製PETRA(ペンタエリスリトールトリアクリレート)
・3官能モノマー2:ダイセル・オルネクス株式会社製TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)
・多官能モノマー:ダイセル・オルネクス株式会社製EBECRYL 140(ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート)
・光重合開始剤:BASF社製IRGACURE(登録商標) 369
【0072】
[実施例1]
まず、防食材として、100質量部のオリゴマー1に対して、単官能モノマー、2官能モノマー及び光重合開始剤をそれぞれ質量比で90、10、2の割合で混合した。
【0073】
次に、電線として、導体にアルミニウムを用い、電線被覆材にポリ塩化ビニル(PVC)を用いたものを準備した。さらに、金属端子として、錫めっきされた銅を端子材として使用したものを準備した。
【0074】
そして、電線と金属端子を接続し、その後、金属端子と電線の接合部に防食材を塗布し、UVランプを使用して防食材を硬化させことにより、本例の端子付き電線を得た。
【0075】
[実施例2]
防食材として、100質量部のオリゴマー1に対して、単官能モノマー、2官能モノマー、3官能モノマー1、多官能モノマー及び光重合開始剤をそれぞれ質量比で20、5、5、5、2の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様にして、本例の端子付き電線を得た。
【0076】
[実施例3]
防食材として、100質量部のオリゴマー1に対して、単官能モノマー、2官能モノマー、3官能モノマー1及び光重合開始剤をそれぞれ質量比で3、3、3、2の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様にして、本例の端子付き電線を得た。
【0077】
[実施例4]
防食材として、100質量部のオリゴマー1に対して、単官能モノマー、2官能モノマー、多官能モノマー及び光重合開始剤をそれぞれ質量比で30、5、5、2の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様にして、本例の端子付き電線を得た。
【0078】
[実施例5]
防食材として、100質量部のオリゴマー1に対して、単官能モノマー、3官能モノマー1及び光重合開始剤をそれぞれ質量比で20、5、2の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様にして、本例の端子付き電線を得た。
【0079】
[実施例6]
防食材として、100質量部のオリゴマー1に対して、2官能モノマー、多官能モノマー及び光重合開始剤をそれぞれ質量比で5、5、2の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様にして、本例の端子付き電線を得た。
【0080】
[比較例1]
防食材として、100質量部のオリゴマー1に対して、単官能モノマー及び光重合開始剤をそれぞれ質量比で100、2の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様にして、本例の端子付き電線を得た。
【0081】
[比較例2]
防食材として、100質量部のオリゴマー1に対して、2官能モノマー及び光重合開始剤をそれぞれ質量比で65、2の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様にして、本例の端子付き電線を得た。
【0082】
[比較例3]
防食材として、100質量部のオリゴマー1に対して、3官能モノマー及び光重合開始剤をそれぞれ質量比で45、2の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様にして、本例の端子付き電線を得た。
【0083】
[比較例4]
防食材として、100質量部のオリゴマー2に対して、多官能モノマー及び光重合開始剤をそれぞれ質量比で5、2の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様にして、本例の端子付き電線を得た。
【0084】
[比較例5]
防食材として、100質量部のオリゴマー1に対して、3官能モノマー、多官能モノマー及び光重合開始剤をそれぞれ質量比で5、5、2の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様にして、本例の端子付き電線を得た。
【0085】
[粘度]
実施例及び比較例で使用した防食材の、25℃における粘度を、JIS Z8803に準拠して測定した。
【0086】
[防食性評価]
実施例及び比較例で得られた端子付き電線の防食性能を、日本工業規格JIS C60068−2−11(環境試験方法(電気・電子)塩水噴霧試験方法)に規定された測定法に基づいて評価した。すなわち、各例の端子付き電線の導体と金属端子との接合部に、塩水噴霧試験を行った。より詳細には、温度が35±2℃、相対湿度(RH)が85%以上、塩水濃度が5±1%、実施期間が4日間の条件で試験を行った。その後、各例の接合部に腐食(錆)が発生しているか否かを目視で判定した。腐食が認められなかったものを「○」と評価し、腐食が認められたものを「×」と評価した。
【0087】
[コネクタハウジング挿入性評価]
各例の端子付き電線を、コネクタハウジングに挿入した。コネクタハウジング挿入時に、キャビティの周壁に封止材が接触したか否かを目視で判定した。封止材がキャビティの周壁に接触しない場合を「○」と評価し、接触した場合を「×」と評価した。なお、この評価において、電線はALVSS 2sqを使用し、コネクタハウジングは2.3IIコネクタを使用した。
【0088】
実施例及び比較例で使用したオリゴマー、モノマー及び光重合開始剤、並びに防食材の粘度、防食性評価及びコネクタハウジング挿入性評価の結果を表1及び表2に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
表1に示すように、単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーを併用した実施例1は、防食性評価及びコネクタハウジング挿入性評価で良好な結果となった。また、単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方と、3官能(メタ)アクリレートモノマー及び多官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方とを併用した実施例2〜6も、防食性評価及びコネクタハウジング挿入性評価で良好な結果となった。
【0092】
これに対し、単官能(メタ)アクリレートモノマー、2官能(メタ)アクリレートモノマー、3官能(メタ)アクリレートモノマー、及び多官能(メタ)アクリレートモノマーをそれぞれ単独で使用した比較例1〜4は、防食性が不十分な結果となった。また、3官能(メタ)アクリレートモノマー及び多官能(メタ)アクリレートモノマーを併用した比較例5は、防食材の内部が十分に硬化せずに剥離してしまったため、防食性が不十分な結果となった。さらに、比較例5の防食材は粘度も高く、得られた封止材の厚みが増加したため、コネクタハウジングへの挿入が困難となった。
【0093】
以上、本発明を実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。また、上述した単官能(メタ)アクリレートモノマー、2官能(メタ)アクリレートモノマー、3官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートモノマー及び光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーの化合物は一例であり、本発明はこれらの化合物に限定されない。