特許第6200464号(P6200464)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧

特許6200464EGRユニット及び舶用エンジンシステム
<>
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000006
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000007
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000008
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000009
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000010
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000011
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000012
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000013
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000014
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000015
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000016
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000017
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000018
  • 特許6200464-EGRユニット及び舶用エンジンシステム 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200464
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】EGRユニット及び舶用エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/35 20160101AFI20170911BHJP
   F02M 26/22 20160101ALI20170911BHJP
   F02M 26/50 20160101ALI20170911BHJP
   F02M 26/05 20160101ALI20170911BHJP
【FI】
   F02M26/35 Z
   F02M26/22
   F02M26/50
   F02M26/05
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-144290(P2015-144290)
(22)【出願日】2015年7月21日
(62)【分割の表示】特願2014-554162(P2014-554162)の分割
【原出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-194159(P2015-194159A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-287804(P2012-287804)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-287805(P2012-287805)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細野 隆道
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 克浩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 広崇
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 英和
(72)【発明者】
【氏名】西村 元彦
(72)【発明者】
【氏名】東田 正憲
(72)【発明者】
【氏名】野上 哲男
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−180814(JP,A)
【文献】 特開2011−157959(JP,A)
【文献】 特開2010−236475(JP,A)
【文献】 特開2011−157960(JP,A)
【文献】 特開2012−236143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/22 − 26/35
26/45 − 26/47
26/50
F01N 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を用いてEGRガスを洗浄する洗浄装置と、
前記洗浄装置の下流側に配置され、EGRガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器からのドレン量が、EGRガスを前記冷却器で冷却することで発生する凝縮水の量よりも所定量大きいときにキャリーオーバーが発生していると判定する演算制御装置と、を備えた舶用エンジンシステムのEGRユニット。
【請求項2】
前記演算制御装置は、キャリーオーバーが発生していると判定したとき、前記洗浄装置を通過するEGRガスの流量を減少させる、請求項1に記載のEGRユニット。
【請求項3】
前記演算制御装置は、キャリーオーバーが発生していると判定したとき、洗浄時にEGRガスが接する洗浄液の量を減少させる、請求項1に記載のEGRユニット。
【請求項4】
前記演算制御装置は、キャリーオーバーが発生していると判定したとき、EGRユニットから排出されるEGRガスの流量を減少させる、請求項1に記載のEGRユニット。
【請求項5】
洗浄液を用いてEGRガスを洗浄する洗浄装置と、
前記洗浄装置の下流側に配置され、EGRガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器からのドレン量が、EGRガスを前記冷却器で冷却することで発生する凝縮水の量よりも所定量大きいときに所定の処理を行う演算制御装置と、を備えた舶用エンジンシステムのEGRユニット。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれか一の項に記載のEGRユニットを備えた舶用エンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガスの一部をエンジンに再循環させるEGRユニットに関し、特に再循環させる排気ガスを洗浄する洗浄装置を備えた舶用エンジンシステムのEGRユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排出されるNOxの量を低減させる技術として、排気ガスの一部を抽出してエンジンに再循環させる排気再循環(Exhaust Gas Recirculation;以下、「EGR」と称す)がある。特に、舶用エンジンシステムにおいて、再循環させる排気ガス(以下、「EGRガス」と称する)にカーボンなどの浮遊粒子状物質(Suspended Particulate Matter;以下、「SPM」と称す)や硫黄酸化物(SOx)が多く含まれるような場合には、EGRユニット内で湿式の洗浄装置(スクラバ)を用いてEGRガスを洗浄するのが一般的である。
【0003】
洗浄装置を有するEGRユニットでは、洗浄装置で発生する霧状の洗浄液(以下、「洗浄液ミスト」と称する)が洗浄装置よりも下流に持ち越されたり、洗浄装置よりも下流に位置する冷却器のさらに下流に持ち越されたりする「キャリーオーバー」という現象が生じることがある。キャリーオーバーが生じ、その結果として、洗浄液ミストがエンジンや補機に入り込むと、摺動部の摺動不良により焼き付きが発生するなどの問題が生じる可能性がある。なお、洗浄装置を通過したEGRガスは飽和状態にあるため、キャリーオーバーが生じなくとも、ミスト除去部や冷却器の下流側では凝縮によって水滴が発生することもある。しかしながら、凝縮で生じる水滴はわずかであり、これだけではエンジン等に問題が生じることはない。
【0004】
上記のように、キャリーオーバーは非常に危険な現象であり、キャリーオーバーが発生しているか否かだけでも検知できれば、EGRユニット及びこれを含むエンジンシステムの信頼性は向上する。ところが、キャリーオーバーを検知できるEGRユニットはこれまでには、存在しない。キャリーオーバーはEGRガスに水滴が含まれる現象であるから、空気中の水滴を検出できる装置を用いれば、キャリーオーバーが発生しているか否かを判断できるはずである。EGRの技術分野からは離れるが、空気中の水滴を検出する装置としては、絶縁部に水滴が付着することで生じる電流変化を利用したもの(特許文献1参照)、水滴に光を照射すると散乱光が発生することを利用したもの(特許文献2参照)、画像処理により水滴を検出するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−154654号公報
【特許文献2】特開2011−27741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した装置のうち、水滴の付着によって水滴を検出する装置は、凝縮によって生じる水滴にも反応してしまうため、キャリーオーバーが発生しているか否かの判定に用いることはできない。また、散乱光を利用する装置は、EGRガスが通過する配管壁による反射光も検出してしまうため、この装置もキャリーオーバーが発生しているか否かの判定に用いることはできない。さらに、画像処理による装置は、エンジン付近の高温で振動が発生するという環境下では使用することはできない。このように従来からある水滴を検出する装置を用いて、キャリーオーバーが発生しているか否かを判定するのは非常に難しい。そこで、発明者らは、キャリーオーバーが発生しているか否かを判定する方法として、水滴を直接検出する以外の方法について検討を行った。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、キャリーオーバーが発生しているか否かを判定できる、又は、キャリーオーバー発生時に所定の処理を行える舶用エンジンシステムのEGRユニットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある形態に係る舶用エンジンシステムのEGRユニットは、洗浄液を用いてEGRガスを洗浄した後に、ミスト除去部によってEGRガスに含まれた洗浄液を捕集する洗浄装置と、前記ミスト除去部の上流側と下流側の差圧を取得し、当該差圧が閾値を超えたときにキャリーオーバーが発生していると判定する演算制御装置と、を備えている。
【0009】
ここで、発明者らの試験により、洗浄液ミストが洗浄装置よりも下流に持ち越されるようなキャリーオーバーが発生するとミスト除去部の上流側と下流側の差圧が急激に上昇することが判明した。そのため、上記のように当該差圧が閾値を超えたときにキャリーオーバーが発生していると判定すれば、確実にキャリーオーバーの発生を検知することができる。
【0010】
上記のEGRユニットにおいて、前記閾値はエンジン負荷及びEGR率、又はエンジン負荷及び排気ガスの循環比率に基づいて設定されてもよい。かかる構成によれば、適切な閾値を設定することができる。
【0011】
本発明の他の形態に係る舶用エンジンシステムのEGRユニットは、洗浄液を用いてEGRガスを洗浄する洗浄装置と、前記洗浄装置における洗浄液の消費量が、前記洗浄装置における洗浄液の蒸発量よりも大きいときにキャリーオーバーが発生していると判定する演算制御装置と、を備えている。
【0012】
洗浄液ミストが洗浄装置よりも下流に持ち越されるようなキャリーオーバーが発生すると、EGRガスに含まれる水蒸気のみならず霧状の洗浄液も洗浄装置よりも下流へと流れるため、洗浄液の消費量は洗浄液の蒸発量を上回ることになる。そのため、上記のように、洗浄液の消費量が蒸発量よりも大きいときには、キャリーオーバーが発生していると判定することができる。
【0013】
上記のEGRユニットにおいて、前記蒸発量は、洗浄前のEGRガスに含まれる水蒸気量と洗浄後のEGRガスに含まれる水蒸気量の差に基づいて算出されていてもよい。かかる構成によれば、確実に蒸発量を算出することができ、ひいては確実にキャリーオーバーが発生しているか否かを判定することができる。
【0014】
本発明のさらに他の形態に係る舶用エンジンシステムのEGRユニットは、洗浄液を用いてEGRガスを洗浄する洗浄装置と、前記洗浄装置の下流側に配置され、EGRガスを冷却する冷却器と、前記冷却器からのドレン量が、EGRガスを前記冷却器で冷却することで発生する凝縮水の量よりも所定量大きいときにキャリーオーバーが発生していると判定する演算制御装置と、を備えている。
【0015】
洗浄液ミストが洗浄装置よりも下流に持ち越されるようなキャリーオーバーが発生すると、冷却器では凝縮水のみならず洗浄液ミストも捕集されるため、ドレン量が凝縮水の量よりも大きくなる。そのため、上記のように、ドレン量が凝縮水の量よりも所定量大きいときには、キャリーオーバーが発生していると判定することができる。
【0016】
本発明のさらに他の形態に係る舶用エンジンシステムのEGRユニットは、洗浄液を用いてEGRガスを洗浄する洗浄装置と、前記洗浄装置の下流側に配置され、EGRガスを冷却する冷却器と、前記冷却器で発生又は捕獲した液体を洗浄液として使用するために溜めておく溜液部と、EGRガスが前記洗浄装置及び前記冷却器を通過する際に減少した当該EGRガスの水分量に比べて、前記溜液部に溜められた洗浄液の増加量が少ないときにキャリーオーバーが発生していると判定する演算制御装置と、を備えている。
【0017】
通常、EGRガスは洗浄装置及び冷却器を通過する際に冷却されるため、EGRガスに含まれる水分は凝縮し、凝縮水が発生する。そのため、洗浄液が溜められる溜液部にこの凝縮水が供給されると、発生した凝縮水の量だけ溜液部内の洗浄液が増えてゆくことになる。ところが、洗浄液ミストが冷却器の下流に持ち越されるようなキャリーオーバーが発生すると、一部の洗浄液が溜液部に戻らないため、発生した凝縮水の量に比べて洗浄液の増加量が少なくなる。よって、EGRガスが洗浄装置及び冷却器を通過する際に減少した水分量に比べて、溜液部に溜められた洗浄液の増加量が少ないときには、キャリーオーバーが発生していると判定することができる。
【0018】
上記のEGRユニットにおいて、前記演算制御装置は、キャリーオーバーが発生していると判定したとき、前記洗浄装置を通過するEGRガスの流量を減少させてもよい。かかる構成によれば、ミスト除去部で処理可能な量にまで洗浄液ミストの量を抑えることができ、又は洗浄装置の下流側へ流れる洗浄液ミストの流量を低減させることができる。そのため、例えばEGRユニットがミスト除去部を有している場合、従来に比べて処理能力を抑えたミスト除去部を用い、キャリーオーバーが発生したときにはこれを回避するという運用を行うことができる。そのため、ミスト除去部を小型化することができる。
【0019】
上記のEGRユニットにおいて、前記演算制御装置は、キャリーオーバーが発生していると判定したとき、洗浄時にEGRガスが接する洗浄液の量を減少させてもよい。かかる構成の場合も、ミスト除去部で処理可能な量にまで洗浄液ミストの量を抑えることができ、又は洗浄装置の下流側へ流れる洗浄液ミストの流量を低減させることができる。
【0020】
上記のEGRユニットにおいて、前記演算制御装置は、キャリーオーバーが発生していると判定したとき、EGRユニットから排出されるEGRガスの流量を減少させてもよい。かかる構成によれば、少なくとも洗浄装置の下流側へ流れる洗浄液ミストの流量を低減させることができる。
【0021】
本発明のさらに他の形態に係る舶用エンジンシステムのEGRユニットは、洗浄液を用いてEGRガスを洗浄する洗浄装置と、演算制御装置と、を備え、前記洗浄装置は、EGRガスに含まれた洗浄液を捕集するミスト除去部と、該ミスト除去部を清掃するよう作動する清掃装置と、を有し、前記演算制御装置は、前記ミスト除去部の上流側と下流側の差圧が所定の閾値を超え、かつ、前記洗浄装置における洗浄液の消費量が前記洗浄装置における洗浄液の蒸発量よりも大きくないとき、前記ミスト除去部を清掃するよう前記清掃装置を作動させる。
【0022】
洗浄装置がミスト除去部を有する場合、キャリーオーバーが発生するとミスト除去部の上流側と下流側の差圧が急激に上昇する。そのため、当該差圧が閾値を超えたときにキャリーオーバーが発生していると判定することが可能である。ただし、ミスト除去部の上流側と下流側の差圧が大きくなる要因としては、キャリーオーバーの発生以外に、異物によるミスト除去部の目詰まりも考えられる。ミスト除去部の上流側と下流側の差圧が所定の閾値を超えたとしても、洗浄装置における洗浄液の消費量が洗浄装置における洗浄液の蒸発量よりも大きくないときには、ミスト除去部の目詰まりの可能性は高い。上記の構成では、ミスト除去部の上流側と下流側の差圧が所定の閾値を超え、かつ、洗浄装置における洗浄液の消費量が洗浄装置における洗浄液の蒸発量よりも大きくないときには、ミスト除去部を清掃するため、ミスト除去部の目詰まりが解消され、安定したキャリーオーバーの判定が可能である。
【0023】
本発明のさらに他の形態に係る舶用エンジンシステムのEGRユニットは、洗浄液を用いてEGRガスを洗浄する洗浄装置と、前記洗浄装置の下流側に配置され、EGRガスを冷却する冷却器と、演算制御装置と、を備え、前記洗浄装置は、EGRガスに含まれた洗浄液を捕集するミスト除去部と、該ミスト除去部を清掃するよう作動する清掃装置と、を有し、前記演算制御装置は、前記ミスト除去部の上流側と下流側の差圧が所定の閾値を超え、かつ、前記冷却器からのドレン量がEGRガスを前記冷却器で冷却することで発生する凝縮水の量よりも所定量大きくないとき、前記ミスト除去部を清掃するよう前記清掃装置を作動させる。
【0024】
ミスト除去部の上流側と下流側の差圧が所定の閾値を超えたとしても、冷却器からのドレン量がEGRガスを冷却器で冷却することで発生する凝縮水の量よりも所定量大きくないときにはミスト除去部で目詰まりが生じている可能性が高い。上記の構成によれば、このような場合にミスト除去部を清掃するため、ミスト除去部の目詰まりを解消することができ、安定したキャリーオーバーの判定が可能である。
【0025】
本発明のさらに他の形態に係る舶用エンジンシステムのEGRユニットは、洗浄液を用いてEGRガスを洗浄した後に、ミスト除去部によってEGRガスに含まれた洗浄液を捕集する洗浄装置と、前記ミスト除去部の上流側と下流側の差圧を取得し、当該差圧が閾値を超えたときに所定の処理を行う演算制御装置と、を備えている。
【0026】
本発明のさらに他の形態に係る舶用エンジンシステムのEGRユニットは、洗浄液を用いてEGRガスを洗浄する洗浄装置と、前記洗浄装置における洗浄液の消費量が、前記洗浄装置における洗浄液の蒸発量よりも大きいときに所定の処理を行う演算制御装置と、を備えている。
【0027】
本発明のさらに他の形態に係る舶用エンジンシステムのEGRユニットは、洗浄液を用いてEGRガスを洗浄する洗浄装置と、前記洗浄装置の下流側に配置され、EGRガスを冷却する冷却器と、前記冷却器からのドレン量が、EGRガスを前記冷却器で冷却することで発生する凝縮水の量よりも所定量大きいときに所定の処理を行う演算制御装置と、を備えている。
【0028】
本発明のさらに他の形態に係る舶用エンジンシステムのEGRユニットは、洗浄液を用いてEGRガスを洗浄する洗浄装置と、前記洗浄装置の下流側に配置され、EGRガスを冷却する冷却器と、前記冷却器で発生又は捕獲した液体を洗浄液として使用するために溜めておく溜液部と、EGRガスが前記洗浄装置及び前記冷却器を通過する際に減少した当該EGRガスの水分量に比べて、前記溜液部に溜められた洗浄液の増加量が少ないときに所定処理を行う演算制御装置と、を備えている。
【0029】
本発明のある形態に係る舶用エンジンシステムは、上記のEGRユニットを備えている。
【発明の効果】
【0030】
以上のとおり、上記のEGRユニットによれば、キャリーオーバーの発生を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明の実施形態に係るエンジンシステムのブロック図である。
図2図2は、EGRガスの流速と前後差圧との関係を示した図である。
図3図3は、第1の判定方法のフローチャートである。
図4図4は、図2に、上記制御に用いる閾値の曲線等を重ねた図である。
図5図5は、閾値の設定方法の一例を示すグラフである。
図6図6は、第2の判定方法のフローチャートである。
図7図7は、第3の判定方法のフローチャートである。
図8図8は、第4の判定方法のフローチャートである。
図9図9は、第5の判定方法のフローチャートである。
図10図10は、第6の判定方法のフローチャートである。
図11図11は、第1変形例に係るエンジンシステムのブロック図である。
図12図12は、第2変形例に係るエンジンシステムのブロック図である。
図13図13は、第3変形例に係るエンジンシステムのブロック図である。
図14図14は、第4変形例に係るエンジンシステムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【0033】
<エンジンシステム>
まず、図1を参照して、エンジンシステム100の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係るエンジンシステム100のブロック図である。図1のうち太い破線はエンジン10に供給される供給ガスの流れを示しており、太い実線はエンジン10から排出された排気ガスの流れを示している。なお、後述するように、本実施形態のエンジン10は2ストロークエンジンであるため、上記の「供給ガス」はいわゆる「掃気ガス」である。ただし、エンジン10が4ストロークエンジンの場合には、いわゆる「給気ガス」となる。
【0034】
図1に示すように、本実施形態に係るエンジンシステム100は、舶用エンジンシステムであって、エンジン10と、過給器20と、EGRユニット30と、を備えている。本実施形態のエンジン10は、船舶用の2ストロークディーゼルエンジンである。ただし、エンジン10は、これ以外のエンジンであってもよい。過給器20は、外部から取り込んだ大気をコンプレッサ部21で圧縮し、圧縮した大気を供給ガスとしてエンジン10へ供給する。コンプレッサ部21はタービン部22に連結されており、タービン部22が排気ガスを駆動源として回転するのに伴って回転する。EGRユニット30は、エンジン10から排出された排気ガスの一部を抽出し、抽出した排気ガス(EGRガス)をエンジン10に戻して再循環させるユニットである。既に燃焼した排気ガスをエンジン10に戻すことで、供給ガスの酸素濃度が下がり、エンジン10における燃焼温度が低下する。その結果、エンジン10から排出されるNOxの排出量を低減することができる。
【0035】
<EGRユニット>
次に、図1を参照して、本実施形態に係るEGRユニット30の構成について説明する。図1に示すように、EGRユニット30は、洗浄装置40と、EGRブロワ60と、冷却器70と、補給タンク80と、演算制御装置90と、を備えている。以下、これらの各構成要素について順に説明する。
【0036】
洗浄装置(スクラバ)40は、EGRガスを洗浄する装置である。本実施形態のエンジン10は、重油を燃料としていることから、EGRガスには多量のSPM及びSOx(以下、「SPM等」と称す)が含まれる。EGRガスを洗浄せずにエンジン10に戻すと、EGRガスに含まれるSPM等がエンジン10に悪影響を及ぼす。そこで、この洗浄装置40によりEGRガスからSPM等を取り除いたうえで、EGRガスをエンジン10に供給している。本実施形態の洗浄装置40は、噴射式の洗浄装置であり、洗浄液を噴射する噴射部41を有している。洗浄装置40にEGRガスが流れ込むと、噴射部41から洗浄水が噴射される。これにより、洗浄液がEGRガス中のSPMを捕獲し、粒径の大きな洗浄液は自重で落下し、粒径の小さな洗浄液は、EGRガスとともに後述するミスト除去部43に搬送される。
【0037】
洗浄装置40では洗浄液を再利用しており、噴射部41から噴射される洗浄液は、洗浄装置40の容器の底に溜まった洗浄液を洗浄液ポンプ42で汲み上げたものである。そのため、洗浄液ポンプ42の回転速度を増減させることで、噴射部41から噴射される洗浄液の量、ひいては洗浄時にEGRガスが接する洗浄液の量(以下、「接液量」と称す)を調整することができる。なお、本実施形態の洗浄装置40は噴射式の洗浄装置であるが、洗浄装置40は溜水式等他の方式の洗浄装置であってもよい。溜水式の洗浄装置の場合、洗浄液を溜めた容器の底にEGRガスを送り込み、EGRガスが洗浄液の水面に浮かんでくる間にEGRガスと洗浄液を接触させ、これによりEGRガスからSPM等を除去する。この場合、容器に溜めた洗浄液の水位を上下させれば、接液量を調整することができる。
【0038】
洗浄装置40は、洗浄液ミストを捕集するミスト除去部43を有している。本実施形態のミスト除去部43は、いわゆるデミスタであって、細い金属線を編み込んで形成されている。ただし、ミスト除去部43は、ミストキャッチャー、又は、じゃま板であってもよい。洗浄液ミストを含んだEGRガスがミスト除去部43を通過しようとすると、洗浄液ミストがミスト除去部43に捕獲される。そして、捕獲された洗浄液ミストが集まってある程度大きくなると、自重によって洗浄装置40側の底に落下する。このように、捕集した洗浄液ミストは、洗浄装置40に戻される。なお、ミスト除去部43の処理能力を超える量の洗浄液ミストが通過しようとすると、ミスト除去部43が水封し、キャリーオーバーが発生する。なお、本実施形態の洗浄装置40では、ミスト除去部43が1個所に設けられているが、EGRガスの流れ方向の複数個所に設けられていてもよい。
【0039】
また、洗浄装置40は、ミスト除去部43を清掃するための清掃装置44を有している。ミスト除去部43の内部ではEGRガス中のSPMが堆積するなどして、ミスト除去部43に目詰まりが生じる場合がある。このような場合には、清掃装置44によって目詰まりを解消することができる。本実施形態の清掃装置44は、ミスト除去部43に浄水を吹き付けるよう構成された洗浄式の清掃装置である。ただし、清掃装置44は、高圧空気を吹き付けるものであってもよく、また、ミスト除去部43を振動させて目詰まりの原因となる物質を落とすように構成されていてもよい。清掃装置44は演算制御装置90と電気的に接続されており、演算制御装置90から送信された制御信号によって、清掃装置44は作動する。清掃装置44を作動させるタイミングについては後述する。
【0040】
洗浄装置40には、ミスト除去部43の上流側と下流側の両側から圧力を取得する差圧計45が設けられている。差圧計45はミスト除去部43の上流側と下流側の差圧(以下、「前後差圧」と称する)Pを測定する。なお、ミスト除去部43が複数箇所に配置されている場合には、それぞれのミスト除去部43に対応して差圧計45を設けるのが望ましいが、いずれか一つのミスト除去部43に対応して差圧計45を設けてもよい。また、上記の差圧計45に代えて、ミスト除去部43の上流側と下流側のそれぞれに圧力計を設け、これらの圧力計から送信された測定信号に基づいて演算制御装置90が前後差圧を算出(取得)するように構成してもよい。さらに、洗浄装置40には、洗浄装置40に溜まった洗浄液の液面高さHを測定する第1液面計46が設けられている。
【0041】
また、洗浄装置40の入口には、第1圧力計47、第1温度計48、及びガス流量計49が設けられている。第1圧力計47は洗浄前のEGRガスの圧力Pを測定し、第1温度計48は洗浄前のEGRガスの温度Tを測定し、ガス流量計49は洗浄装置40に流れ込むEGRガス(乾きガス)の流量Qを測定する。さらに、洗浄装置40のうちミスト除去部43の下流側には、第2圧力計50及び第2温度計51が設けられている。第2圧力計50は洗浄後のEGRガスの圧力Pを測定し、第2温度計51は洗浄後のEGRガスの温度Tを測定する。上述した差圧計45、第1液面計46、第1圧力計47、第1温度計48、ガス流量計49、第2圧力計50、及び第2温度計51は、それぞれ演算制御装置90と電気的に接続されており、測定信号を演算制御装置90へと送信する。
【0042】
EGRブロワ60は、EGRガスを昇圧する装置である。EGRブロワ60は、回転速度を増減させることで、EGRガスの流量を調整することができる。本実施形態のEGRブロワ60は、回転速度とEGRガスの流量が比例関係にある容積式のブロワであり、電動モータ61によって駆動される。電動モータ61は演算制御装置90と電気的に接続されており、演算制御装置90から送信された制御信号によって、電動モータ61の回転速度、ひいてはEGRガスの流量が設定される。
【0043】
冷却器(ガスクーラー)70は、EGRガスを冷却する装置である。本実施形態では、冷却器70は、EGRブロワ60の下流側に配置されている。なお、EGRブロワ60は、冷却器70の下流側に配置されていてもよい。冷却器70は、冷却器本体71と凝縮水捕集部72とを有している。冷却器本体71は、EGRガスを供給ガスの温度にまで低下させることができる。EGRガスは洗浄によって飽和温度にまで下がるが、冷却器本体71によってEGRガスを供給ガスの温度にまでさらに低下させることにより、EGRガスが供給ガスに合流した際に凝縮水が生じるのを防ぎ、エンジン10内への水分混入を防ぐことができる。冷却器本体71によってEGRガスが冷却されると、EGRガスに含まれる水蒸気が凝縮して凝縮水となる。この凝縮水は洗浄液として再利用するため、冷却器本体71のドレンポートから排出されて集められる。なお、キャリーオーバーが発生している場合、凝縮水のみならず、EGRガスに含まれる洗浄液ミストも冷却器本体71のドレンポートから排出される。
【0044】
凝縮水捕集部72は、冷却器本体71の下流に配置された、いわゆるミストキャッチャーであって、冷却器本体71で発生した凝縮水(洗浄液)を捕集する装置である。凝縮水捕集部72は、もともと凝縮水を捕集するものであるが、キャリーオーバーが発生している場合には、EGRガスに含まれる洗浄液ミストも捕集する。捕集した洗浄液は、凝縮水捕集部72のドレンポートから排出される。凝縮水捕集部72から排出された洗浄液は、冷却器本体71から排出された洗浄液とドレン管77で合流し、補給タンク80へと流れる。ドレン管77には、ドレン流量計78が配置されている。このドレン流量計78は、冷却器70(冷却器本体71及び凝縮水捕集部72)から排出された洗浄液の量(以下、「ドレン量」と称す)Qを測定することができる。なお、本実施形態の冷却器70は、凝縮水捕集部72を有しているが、冷却器本体71が凝縮水を全て捕集できるように構成されていれば、凝縮水捕集部72を省略しても良い。
【0045】
冷却器70のEGRガスの入口には、第3圧力計73、第3温度計74が設けられている。第3圧力計73は冷却器70による冷却前のEGRガスの圧力Pを測定し、第3温度計74は冷却器70による冷却前のEGRガスの温度Tを測定する。また、凝縮水捕集部72のEGRガスの出口には、第4圧力計75、第4温度計76が設けられている。第4圧力計75は冷却器70による冷却後のEGRガスの圧力Pを測定し、第4温度計76は冷却器70による冷却後のEGRガスの温度Tを測定する。上記の第3圧力計73、第3温度計74、第4圧力計75、及び第4温度計76は、それぞれ演算制御装置90と電気的に接続されており、測定信号を演算制御装置90へと送信する。
【0046】
補給タンク80は、冷却器70で発生又は捕獲した液体を、洗浄装置40で洗浄液として使用するために溜めておくタンクである。冷却器70から排出された洗浄液は、この補給タンク80に流れ込む。補給タンク80の下流側には貯蔵している洗浄液を洗浄装置40へ送り出すための供給ポンプ81が設けられている。供給ポンプ81は、演算制御装置90と電気的に接続されており、演算制御装置90から送信された制御信号によって制御される。また、供給ポンプ81の下流側には、洗浄装置40に供給する洗浄液の流量Qを測定する供給流量計82が設けられている。供給流量計82は、演算制御装置90と電気的に接続されており、測定信号を演算制御装置90へと送信する。さらに、補給タンク80には、補給タンク80に溜められた洗浄液の液面高さHを測定する第2液面計83が設けられている。第2液面計83は、演算制御装置90と電気的に接続されており、測定信号を演算制御装置90へと送信する。
【0047】
ここで、本実施形態では、洗浄装置40に溜められた洗浄液の液面高さHが一定になるよう制御が行われる。まず、演算制御装置90は、洗浄装置40に設けられた第1液面計46の測定信号に基づいて液面高さHを取得する。そして、演算制御装置90は、取得した液面高さHが所定の高さよりも低いと判定すると、液面高さHが所定の高さになるまで供給ポンプ81を駆動する。本実施形態ではこのように制御されているため、補給タンク80から洗浄装置40へ供給した洗浄液の量、すなわち供給流量計82によって測定した洗浄液の流量が、洗浄装置40における洗浄液の消費量であると考えることができる。なお、本実施形態とは異なり、液面高さが下がっても洗浄液が洗浄装置40に供給されないような制御が行われる場合は、第1液面計46によって測定した液面高さHの変動量を取得することで、洗浄装置40における洗浄液の消費量を算出することができる。
【0048】
演算制御装置90は、EGRユニット30全体を制御する装置であって、CPU、ROM、RAM等によって構成されている。上述したように演算制御装置90は、各計器と電気的に接続されており、これらの計器から送信される測定信号に基づいて、EGRガスに関する情報及び洗浄液に関する情報等を取得する。そして、演算制御装置90は、これらの情報に基づいて種々の演算を実行する。また、演算制御装置90は、計器以外の各機器とも電気的に接続されており、これらの機器に制御信号を送信する。
【0049】
<第1の判定方法>
次に、第1のキャリーオーバー判定方法について説明する。ここで、発明者らは、洗浄液ミストが洗浄装置40よりも下流に持ち越されるようなキャリーオーバーが発生すると、ミスト除去部43における圧力損失、つまりミスト除去部43の上流側と下流側の差圧(前後差圧)が急激に増大することを試験により発見した。図2は、EGRガスの流速と前後差圧の関係を示した図である。なお、EGRガスの流速が大きければ、ミスト除去部43を通過する洗浄液ミストの量が増える。図2では、紙面右側に進むにつれてEGRガス流速が大きくなり、ミスト除去部43を通過する洗浄液ミストの量が増えることになる。図2において、速度がV及びVであるとき、キャリーオーバーは発生していない。このとき、前後差圧は低い値を維持している。一方、速度がVであるとき、キャリーオーバーが発生している。このときの前後差圧は、速度がV及びVのときに比べて明らかに高い。
【0050】
第1のキャリーオーバー判定方法は、以上の特性を利用したものである。一例として、図3に示す手順でキャリーオーバーの判定が行われる。図3は、第1のキャリーオーバー判定方法を含むEGRユニット30の制御方法を示したフローチャートである。以下で説明する演算及び制御は、演算制御装置90によって遂行される。まず、処理が開始されると、演算制御装置90は、第1圧力計47、第1温度計48、及びガス流量計49の測定信号を読み込み、これらの信号に基づいてEGRガスの圧力P、EGRガスの温度T、及びEGRガスの流量Qの情報を取得する(ステップS1)。
【0051】
続いて、演算制御装置90は、理想的な状態におけるミスト除去部43の圧力損失(ミスト除去部43前後の差圧)を計算によって求める(ステップS2)。つまり、水封等を起こしていない正常な状態におけるミスト除去部43をEGRガスが通過したときに生じるEGRガスの圧力損失(以下、「理論値」と称する)を算出する。理論値ΔPは、次の式で求めることができる。
【0052】
【数1】
【0053】
上式において、“g”は重力加速度である。また、“x”、“ε”、“D”は、それぞれミスト除去部43の厚さ、空間率、ワイヤ径であって、ミスト除去部43特有の値である。また、“f”、“v”、“ρ”は、それぞれミスト除去部43に対するEGRガスの摩擦係数、EGRガスの速度、EGRガスの密度であって、演算制御装置90が取得したEGRガスの圧力P、EGRガスの温度T、及びEGRガスの流量Qの情報に基づいて算出することができる。
【0054】
続いて、演算制御装置90は、上記の理論値に基づいて閾値を設定する(ステップS3)。閾値は、理論値よりも若干高い値(例えば、理論値よりも30%高い値)に設定する。このように、閾値を理論値よりも高く設定するのは、ミスト除去部43の汚れや排気脈動を考慮したためである。なお、閾値を理論値よりもどの程度高くするかは、事前の試験により決定する。ここで、図4は、図2に、算出した理論値を示す曲線(一点鎖線)と閾値を示す曲線(二点鎖線)を重ねた図である。図4に示すように、速度が大きくなるに従って、閾値も大きくなるよう設定されている。なお、本実施形態のように条件によって異なる閾値を設定してもよいが、閾値を常に一定の値に設定してもよい。
【0055】
続いて、演算制御装置90は、測定した前後差圧Pdが閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップS4)。具体的には、演算制御装置90は、差圧計45から受信した測定信号に基づいて取得した実際の前後差圧P(以下、「実測値」と称する)が、ステップS3で設定した閾値よりも大きいか否かを判定する。演算制御装置90は、実測値が閾値よりも大きい場合にはキャリーオーバーが発生していると判定し(ステップS5)、測定値が閾値よりも小さい場合にはキャリーオーバーが発生していないと判定する(ステップS6)。演算制御装置90が、キャリーオーバーが発生していないと判定した場合(ステップS6)、処理は終了となる。一方、キャリーオーバーが発生していると判定した場合(ステップS5)、キャリーオーバーを回避し(ステップS7)、その後処理は終了となる。キャリーオーバーを回避する具体的な方法については後述する。
【0056】
なお、洗浄装置40内においてEGRガスの流れ方向の2箇所にミスト除去部43が設けられ、各ミスト除去部43に対応して差圧計45が設けられている場合は、次のような制御が可能である。つまり、2箇所に設けられたミスト除去部43のうち、上流側のミスト除去部43の前後差圧(実測値)が閾値を超えたとき、演算制御装置90は警告を発し、その後、下流側のミスト除去部43の前後差圧(実測値)が閾値を超えたとき、キャリーオーバーを回避する制御を行うように構成してもよい。
【0057】
また、以上では、理論値よりも若干高い値を閾値としているが、これ以外の方法で閾値を設定してもよい。例えば、エンジン負荷とEGR率に基づいて閾値を設定することも可能である。具体的には、演算制御装置90は、図5に示すようなグラフに対応するマップデータまたは数式を予め記憶しておき、このマップデータ等と算出したエンジン負荷及びEGR率を用いて閾値を設定してもよい。なお、EGR率とは、吸気ガス全体に占めるEGRガスの質量流量の割合をいう。図5に示す例では、エンジン負荷が大きくなるに従って閾値が大きくなり、EGR率が大きくなるに従って閾値が大きくなる。また、上記のEGR率に代えて排気ガスの循環率を用いてもよい。排気ガスの循環率とは、エンジンから排出される排気ガスのうちEGRガスとして抽気される排気ガスの質量流量の割合をいう。なお、EGR率に代えて排気ガスの循環率を用いたとしても、閾値の変化の傾向は同じとなる。
【0058】
上述したように、本実施形態によれば、ミスト除去部43の圧力損失(前後差圧)に基づいてキャリーオーバーが発生しているか否かを判定するため、特殊なセンサを必要としていない。そのため、キャリーオーバーを検知するシステムを低コストで構築することができる。
【0059】
<第2の判定方法>
次に、第2のキャリーオーバー判定方法について説明する。図6は、第2のキャリーオーバー判定方法を含むEGRユニット30の制御方法を示したフローチャートである。以下で説明する演算及び制御は、演算制御装置90によって遂行される。まず、処理が開始されると、演算制御装置90は、EGRガスの情報を取得する(ステップS11)。具体的には、演算制御装置90は、第1圧力計47、第1温度計48、ガス流量計49、第2圧力計50、及び第2温度計51の測定信号を読み込む。そして、これらの信号に基づいて、それぞれ洗浄前のEGRガスの圧力P[kPa abs]、洗浄前のEGRガスの温度T[℃]、EGRガスの流量Q[kg/min]、洗浄後のEGRガスの圧力P[kPa abs]、及び洗浄後のEGRガスの温度T[℃]の情報を取得する。
【0060】
続いて、演算制御装置90は、ステップS11で取得した情報に基づいて、洗浄装置40における洗浄液の蒸発量を算出する(ステップS12)。洗浄液の蒸発量は、洗浄後のEGRガスに含まれる水蒸気量から、洗浄前のEGRガスに含まれる水蒸気量を差し引くことで求めることができる。具体的には、洗浄液の蒸発量[kg/min]は、次の式で求めることができる。なお、下記の式におけるRH[%]は、洗浄前のEGRガスの相対湿度であって、エンジン10に供給する供給ガスの湿度と、エンジン10における燃料噴射量から算出することができる。また、RH[%]は、洗浄後のEGRガスの相対湿度であって、100[%]として演算を行うことができる。
【0061】
【数2】
【0062】
続いて、演算制御装置90は、洗浄装置40における洗浄液の消費量を取得する(ステップS13)。上述したように本実施形態では、洗浄装置40に溜められた洗浄液の水面高さが一定になるよう制御されている。そのため、演算制御装置90は、供給流量計82の測定信号に基づいて洗浄装置40への洗浄液の供給量を取得し、この供給量を洗浄装置40における洗浄液の消費量とすることができる。
【0063】
続いて、演算制御装置90は、洗浄装置40における洗浄液の消費量が、洗浄装置40における洗浄液の蒸発量よりも大きいか否かを判定する(ステップS14)。演算制御装置90は、消費量が蒸発量よりも大きい場合にはキャリーオーバーが発生していると判定し(ステップS15)、消費量が蒸発量よりも小さい又は等しい場合にはキャリーオーバーが発生していないと判定する(ステップS16)。演算制御装置90が、キャリーオーバーが発生していないと判定した場合(ステップS16)、処理は終了となる。一方、キャリーオーバーが発生していると判定した場合(ステップS15)、キャリーオーバーを回避し(ステップS17)、その後処理は終了となる。
【0064】
このように、消費量が蒸発量よりも大きい場合にはキャリーオーバーが発生していると判定できるのは次の理由による。つまり、高温で乾いたEGRガスが洗浄装置40に流れ込むと、洗浄液の一部は蒸発し水蒸気となってEGRガスに含まれる。通常の状態では、洗浄液の蒸発量と洗浄液の消費量は一致する。ところが、洗浄液ミストが洗浄装置40よりも下流に持ち越されるようなキャリーオーバーが発生すると、水蒸気のみならず洗浄液ミストも洗浄装置40の下流側へ流れ込むことから、洗浄液の消費量が蒸発量を上回ってしまう。よって、消費量が蒸発量よりも大きい場合にはキャリーオーバーが発生していると判定できるのである。
【0065】
第2のキャリーオーバー判定方法によれば、洗浄装置40における洗浄液の蒸発量及び消費量に基づいてキャリーオーバーが発生しているか否かを判定するため、キャリーオーバーの発生を確実に検知することができる。また、このキャリーオーバー判定方法では、特殊なセンサを必要としていないため、キャリーオーバーを判定するシステムを低コストで構築することができる。さらに、第1のキャリーオーバー判定方法とは異なり、洗浄装置40がミスト除去部43を有さない場合にも用いることができる。
【0066】
<第3の判定方法>
次に、第3のキャリーオーバー判定方法について説明する。図7は、第3のキャリーオーバー判定方法を含むEGRユニット30の制御方法を示したフローチャートである。以下で説明する演算及び制御は、演算制御装置90によって遂行される。まず、処理が開始されると、演算制御装置90は、EGRガスの情報を取得する(ステップS21)。具体的には、演算制御装置90は、ガス流量計49、第3圧力計73、第3温度計74、第4圧力計75、及び第4温度計76の測定信号を読み込む。そして、これらの信号に基づいて、それぞれEGRガスの流量Q[kg/min]、冷却器70による冷却前のEGRガスの圧力P[kPa abs]、冷却前のEGRガスの温度T[℃]、冷却後のEGRガスの圧力P[kPa abs]、及び冷却後のEGRガスの温度T[℃]の情報を取得する。
【0067】
続いて、演算制御装置90は、ステップS21で取得した情報に基づいて、EGRガスが冷却器70によって冷却されることで凝縮した洗浄液の量(凝縮量)を算出する(ステップS22)。凝縮量は、冷却前のEGRガスに含まれる水蒸気量から、冷却後のEGRガスに含まれる水蒸気量を引くことで求めることができる。具体的には、凝縮量[kg/min]は、次の式で求めることができる。なお、下記の式におけるRH[%]は冷却前のEGRガスの相対湿度であり、RH[%]は、洗浄後のEGRガスの相対湿度であって、いずれも、100[%]として演算を行うことができる。
【0068】
【数3】
【0069】
続いて、演算制御装置90は、閾値を設定する(ステップS23)。閾値は、ステップS22で算出した凝縮量に基づいて設定する。具体的には、凝縮量よりも所定量だけ高い値(例えば、凝縮量よりも10%高い値)に閾値を設定する。なお、閾値を凝縮量に比べてどの程度高くするかは、事前の試験の結果等に基づいて決定する。
【0070】
続いて、演算制御装置90は、冷却器70から排出された洗浄液の量(ドレン量)を取得する(ステップS24)。演算制御装置90は、ドレン流量計78の測定信号を受信し、この測定信号に基づいてドレン量を取得(算出)することができる。もしくは、供給流量計82の測定値に基づいて求められる消費量と第2液面計83の測定値に基づいて求められる補給タンク80の液面変動量からドレン量を算出しても良い。
【0071】
続いて、演算制御装置90は、ドレン量が閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップS25)。つまり、ドレン量が凝集量よりも所定量(例えば、凝集量の10%相当量)大きいか否かを判定する。演算制御装置90は、ドレン量が閾値よりも大きい場合にはキャリーオーバーが発生していると判定し(ステップS26)、ドレン量が閾値よりも小さい場合にはキャリーオーバーが発生していないと判定する(ステップS27)。演算制御装置90が、キャリーオーバーが発生していないと判定した場合(ステップS27)、処理は終了となる。一方、キャリーオーバーが発生していると判定した場合(ステップS26)、キャリーオーバーを回避し(ステップS27)、その後処理は終了となる。
【0072】
このように、ドレン量が閾値よりも大きい場合(凝縮量よりも所定量大きい場合)にはキャリーオーバーが発生していると判定できるのは次の理由による。つまり、飽和状態にあるEGRガスが冷却器70内を流れると、EGRガスに含まれる水蒸気が凝縮して洗浄液に戻る。本実施形態では、凝縮した洗浄液は、全て排出されるから、通常の状態では、ドレン量と凝縮量はほぼ一致する。ところが、洗浄液ミストが洗浄装置40よりも下流に持ち越されるようなキャリーオーバーが発生すると、水蒸気となった洗浄液のみならず、EGRガスに含まれる洗浄液ミストも冷却器70から排出される。その結果、ドレン量が凝縮量を上回ることになる。よって、ドレン量が凝縮量よりも所定量大きい場合(閾値よりも大きい場合)にはキャリーオーバーが発生していると判定できるのである。
【0073】
第3のキャリーオーバー判定方法によれば、EGRガスの冷却によって生じる洗浄液の凝縮量を算出し、洗浄液のドレン量がこの凝縮量に基づいて設定した閾値よりも大きいか否かでキャリーオーバーの発生を判定するため、キャリーオーバーの発生を確実に検知することができる。また、このキャリーオーバー判定方法では、特殊なセンサを必要としていないため、キャリーオーバーを判定するシステムを低コストで構築することができる。さらに、第3のキャリーオーバー判定方法によれば、第2のキャリーオーバー判定方法と同様に、洗浄装置40がミスト除去部43を有さない場合にも用いることができる。
【0074】
<第4の判定方法>
次に、第4のキャリーオーバー判定方法について説明する。第4のキャリーオーバー判定方法は、第1のキャリーオーバー判定方法と第2のキャリーオーバー判定方法を組み合わせたものである。ここでは重複する説明は省略する。図8は、第4のキャリーオーバー判定方法を含むEGRユニット30の制御方法を示したフローチャートである。以下で説明する演算及び制御は、演算制御装置90によって遂行される。まず、処理が開始されると、演算制御装置90は、第1のキャリーオーバー判定方法で行ったステップS1〜S3(EGRガスの情報取得、ミスト除去部の圧力損失を算出、及び閾値の設定)を行い、測定した前後差圧(実測値)が閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップS4)。演算制御装置90は、実測値が閾値よりも小さい場合にはキャリーオーバーが発生していないと判定する(ステップS31)。一方、実測値が閾値よりも大きい場合(ステップS4でYES)、第1のキャリーオーバー判定方法のときとは異なり、すぐにはキャリーオーバーが発生していると判定しない。ミスト除去部43の前後差圧が大きくなる要因としては、キャリーオーバーの発生以外も考えられるからである。
【0075】
実測値が閾値よりも大きい場合には、第2のキャリーオーバー判定方法で行ったステップS11〜S13(EGRガスの情報取得、凝縮水の量を算出、及び閾値を設定)を行い、その後、洗浄液の消費量が蒸発量よりも大きいか否かを判定する(ステップS14)。そして、洗浄液の消費量が蒸発量よりも小さい場合には、清掃装置44を作動して、ミスト除去部43の清掃を行う。ミスト除去部43の前後差圧が大きくなる要因としては、SPMの体積などによるミスト除去部43の目詰まりも考えられる。ミスト除去部43の前後差圧の実測値が閾値よりも大きくとも、洗浄液の消費量が蒸発量よりも小さければ、ミスト除去部43には目詰まりが発生している可能性が高い。そこで、第4のキャリーオーバー判定方法では、ミスト除去部43の前後差圧の実測値が閾値よりも大きく、かつ、洗浄液の消費量が蒸発量よりも小さければ、ミスト除去部43には異物による目詰まりが発生しているとして、ミスト除去部43を清掃する。
【0076】
一方、演算制御装置90は、洗浄液の消費量が蒸発量よりも大きい場合には、キャリーオーバーが発生していると判定する(ステップS33)。つまり、第4のキャリーオーバー判定方法では、ミスト除去部43の前後差圧が閾値より大きく、かつ、洗浄液の消費量が蒸発量よりも大きいときにキャリーオーバーが発生していると判定するのである。キャリーオーバーが発生していると判定した場合には(ステップS33)、キャリーオーバーを回避し(ステップS34)、その後処理は終了となる。
【0077】
このように、第4のキャリーオーバー判定方法では、キャリーオーバーの発生についていわば二重のチェックが行われるため、精度の高い判定が可能である。また、ミスト除去部43に目詰まりが発生している可能性がある場合は、ミスト除去部43を清掃するため、精度の高い判定を維持することができる。
【0078】
<第5の判定方法>
次に、第5のキャリーオーバー判定方法について説明する。第5のキャリーオーバー判定方法は、第1のキャリーオーバー判定方法と第3のキャリーオーバー判定方法を組み合わせたものである。ここでは重複する説明は省略する。図9は、第5のキャリーオーバー判定方法を含むEGRユニット30の制御方法を示したフローチャートである。以下で説明する演算及び制御は、演算制御装置90によって遂行される。まず、処理が開始されると、演算制御装置90は、第1のキャリーオーバー判定方法で行ったステップS1〜S3(EGRガスの情報取得、ミスト除去部の圧力損失を算出、及び閾値の設定)を行い、測定した前後差圧(実測値)が閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップS4)。演算制御装置90は、実測値が閾値よりも小さい場合にはキャリーオーバーが発生していないと判定する(ステップS41)。
【0079】
一方、実測値が閾値よりも大きい場合には、キャリーオーバーが発生しているとすぐには判定せずに、第3のキャリーオーバー判定方法で行ったステップS21〜S24(EGRガスの情報取得、凝縮水の量を算出、閾値を設定、及びドレン量を取得)を行う。その後、演算制御装置90は、ドレン量が閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップS25)。そして、ドレン量が閾値よりも小さい場合には、清掃装置44を作動して、ミスト除去部43の清掃を行う。上記の第4のキャリーオーバー判定方法で説明したのと同様の理由により、ミスト除去部43の前後差圧の実測値が閾値よりも大きくとも、ドレン量が閾値よりも小さい場合には、ミスト除去部43に目詰まりが発生している可能性が高いからである。
【0080】
一方、演算制御装置90は、ドレン量が閾値よりも大きい場合には、キャリーオーバーが発生していると判定する(ステップS42)。つまり、ミスト除去部43の前後差圧が閾値より大きく、かつ、ドレン量が閾値よりも大きいときにキャリーオーバーが発生していると判定するのである。キャリーオーバーが発生していると判定した場合には(ステップS43)、キャリーオーバーを回避し(ステップS44)、その後処理は終了となる。
【0081】
<第6の判定方法>
次に、第6のキャリーオーバー判定方法について説明する。図10は、第6のキャリーオーバー判定方法を含むEGRユニット30の制御方法を示したフローチャートである。以下で説明する演算及び制御は、演算制御装置90によって遂行される。まず、処理が開始されると、演算制御装置90は、EGRガスの情報を取得する(ステップS51)。具体的には、演算制御装置90は、ガス流量計49、第1圧力計47、第1温度計48、第4圧力計75、第4温度計76、及び第2液面計83の測定信号を読み込む。そして、これらの信号に基づいて、それぞれEGRガスの流量Q[kg/min]、洗浄前のEGRガスの温度T[℃]、洗浄前のEGRガスの圧力P[kPa abs]、冷却後のEGRガスの圧力P[kPa abs]、冷却後のEGRガスの温度T[℃]、及び補給タンク80における液面の変位量の情報を取得する。
【0082】
続いて、演算制御装置90は、ステップS51で取得した情報に基づいて、EGRガスが洗浄装置40及び冷却器70を通過する際に減少したEGRガスの水分量(減少水分量)を算出する(ステップS52)。減少水分量は、洗浄前のEGRガスに含まれる水蒸気量から、冷却後のEGRガスに含まれる水蒸気量を差し引くことで求めることができる。具体的には、減少水分量[kg/min]は、次の式で求めることができる。なお、下記の式におけるRH[%]は、洗浄前のEGRガスの相対湿度であって、エンジン10に供給する供給ガスの湿度と、エンジン10における燃料噴射量から算出することができる。また、RH[%]は、洗浄後のEGRガスの相対湿度であって、100[%]として演算を行うことができる。
【0083】
【数4】
【0084】
続いて、演算制御装置90は、補給タンク80における洗浄液の増加量(増液量)を取得する(ステップS53)。増液量は、補給タンク80における液面の変位量によって求めることができる。なお、洗浄装置40にも洗浄液が溜められているが、本実施形態では洗浄装置40の洗浄液の水面高さが一定になるよう制御されている。そのため、補給タンク80における洗浄液の増加量は、補給タンク80と洗浄装置40の洗浄液が溜められた部分全体(これらが、本発明の「溜液部」に相当する)での洗浄液の増加量に等しい。
【0085】
続いて、演算制御装置90は、減少水分量に比べて増液量が少ないか否かを判定する(ステップS54)。演算制御装置90は、減少水分量に比べて増液量が少ない場合にはキャリーオーバーが発生していると判定し(ステップS55)、減少水分量に比べて増液量が少なくない場合にはキャリーオーバーが発生していない判定する(ステップS56)。演算制御装置90が、キャリーオーバーが発生していないと判定した場合(ステップS56)、処理は終了となる。一方、キャリーオーバーが発生していると判定した場合(ステップS55)、キャリーオーバーを回避し(ステップS57)、その後処理は終了となる。
【0086】
このように、減少水分量に比べて増液量が少ない場合にはキャリーオーバーが発生していると判定できるのは次の理由による。通常、EGRガスは洗浄装置40及び冷却器70を通過する際には冷却されるため、EGRガスに含まれる水分は凝縮し、凝縮水が発生する。そのため、凝縮水の量だけ補給タンク80内の洗浄液が増えてゆくことになる。ところが、洗浄液ミストが冷却器70の下流に持ち越されるようなキャリーオーバーが発生すると、一部の洗浄液が補給タンク80に戻らなくなるため、発生した凝縮水の量に比べて洗浄液の増加量が少なくなる。よって、減少水分量に比べて増液量が少ない場合にはキャリーオーバーが発生していると判定できるのである。
【0087】
なお、以上では、補給タンク80と洗浄装置40の洗浄液が溜められている部分が別々に形成されている場合について説明したが、これらが共有タンクとして一体となっている場合には、その共有タンクの液面の変位量により増液量を求めることができる。この共有タンクが本発明の「溜液部」に相当することになる。また、第6のキャリーオーバー判定方法によれば、洗浄装置40、冷却器70、及び補給タンク80が一体に形成され、その内部におけるEGRガスの温度や圧力が測定できない場合であっても、キャリーオーバーを判定することができる。なお、第6の判定方法は、他の判定方法と組み合わせてもよい。また、溜液部における増液量は液面計によって検知する場合に限られず、例えば各タンクの重量やタンク底部の水圧から検知してもよい。
【0088】
<第1の回避方法>
上記のように、本実施形態では、キャリーオーバーが発生していると判定された場合には、キャリーオーバーの回避が行われる。以下では、具体的なキャリーオーバーの回避方法について説明する。洗浄装置40がミスト除去部43を有している場合は、ミスト除去部43の処理能力を超える洗浄液ミストがミスト除去部43を通過しようとしたときにキャリーオーバーが発生する。そのため、ミスト除去部43を通過しようとする洗浄液ミストの量を減らせば、キャリーオーバーを回避することができる。そこで、第1のキャリーオーバー回避方法では、ミスト除去部43を通過するEGRガスの流量を減らすことで、ミスト除去部43を通過しようとする洗浄液ミストの量も減らしている。具体的には、演算制御装置90は、電動モータ61に制御信号を送信し、EGRブロワ60(ガス通過調整装置)の回転速度を小さくして、ミスト除去部43を通過するEGRガスの流量を減らす。本実施形態ではEGRブロワ60が容積式のブロワであり、回転速度とEGRガスの流量が比例関係にあるため、EGRガスの流量調整は比較的容易である。
【0089】
<第2の回避方法>
第2のキャリーオーバー回避方法は、ミスト除去部43を通過するEGRガスの量を減らすのではなく、EGRガスに含まれる洗浄液ミストの量自体を減らす方法である。ミスト除去部43を通過するEGRガスの流量が同じであったとしても、EGRガスに含まれる洗浄液ミストの量を減らせば、ミスト除去部43を通過しようとする洗浄液ミストの量を減らすことができる。具体的には、EGRガスが接する洗浄液の量(接液量)を減らし、これによりEGRガスに含まれる洗浄液ミストの量を減少させる。本実施形態では、演算制御装置90が洗浄液ポンプ42に制御信号を送信し、洗浄液ポンプ42の回転速度を低減させることで接液量を減らすことができる。なお、洗浄装置40が溜水式である場合には、容器に溜めた洗浄液の水位を低下させれば、接液量を減らすことができる。なお、第2のキャリーオーバー回避方法は、第1のキャリーオーバー回避方法と同時に行ってもよい。
【0090】
<第3の回避方法>
第3のキャリーオーバー回避方法は、第1のキャリーオーバー回避方法と同じように、ミスト除去部43を通過するEGRガスの流量を減らす方法である。ただし、第3のキャリーオーバー回避方法は、EGRユニット30が図11のように構成された場合に行われる。図11は、本実施形態の第1変形例に係るエンジンシステム101のブロック図である。図11に示すEGRユニット30では、EGRブロワ60としてターボ式のブロワを用いており、洗浄装置40の入口側(上流側)とEGRブロワ60の出口側(下流側)に開閉バルブ31、32が設けられている。これらの開閉バルブ31、32は、演算制御装置90によって開度が設定される。このように、EGRブロワ60としてターボ式のブロワを用いた場合、演算制御装置90はキャリーオーバーが発生したと判定すると、EGRブロワ60の回転速度だけでなく、開閉バルブ31、32の開度を調整することで、ミスト除去部43を通過するEGRガスの流量を低減させる。これにより、キャリーオーバーを回避することができる。
【0091】
<第4の回避方法>
第4のキャリーオーバー回避方法は、EGRユニット30を図12に示すように構成して行う。図12は、本実施形態の第2変形例に係るエンジンシステム102のブロック図である。図12に示すEGRユニット30は、洗浄装置40の入口側と出口側をつなぐバイパス配管64と、このバイパス配管64に設けられたバイパスバルブ65とを有している。バイパスバルブ65は、演算制御装置90によって開度が設定される。第4のキャリーオーバー回避方法では、演算制御装置90がキャリーオーバーが発生したと判断すると、上記のバイパスバルブ65を開く。これにより、EGRガスの一部が洗浄装置40を迂回してEGRブロワ60の入口側に搬送される。そのため、ミスト除去部43を通過するEGRガスの流量が減り、かつ、EGRガス全体での接液量も減るため、ミスト除去部43を通過しようとする洗浄液ミストの量は減少する。その結果、キャリーオーバーを回避することができる。なお、第4のキャリーオーバー回避方法によれば、ミスト除去部43を通過するEGRガスの流量が減少するが、エンジン10に供給するEGRガスの流量を維持することができる。
【0092】
<第5の回避方法>
第5のキャリーオーバー回避方法は、EGRユニット30を図13に示すように構成して行う。図13は、本実施形態の第3変形例に係るエンジンシステム103のブロック図である。図13に示すEGRユニット30は、冷却器70の出口側とEGRブロワ60の入口側をつなぐ循環配管66と、この循環配管66に設けられた循環バルブ67とを有している。循環バルブ67は、演算制御装置90によって開度が設定される。第5のキャリーオーバー回避方法では、演算制御装置90がキャリーオーバーが発生したと判断すると、上記の循環バルブ67を開く。これにより、冷却器70から排出されたEGRガスの一部がEGRブロワ60の入口側に搬送される。そのため、EGRブロワ60の回転数を小さくするのと同じような効果が得られ、ミスト除去部43を通過するEGRガスの流量が減る。その結果、キャリーオーバーを回避することができる。なお、図13では、EGRブロワ60の下流側に冷却器70が配置されているが、冷却器70の下流にEGRブロワ60を配置してもよい。
【0093】
上述した第1〜第5のキャリーオーバー回避方法は、洗浄装置40がミスト除去部43を有する場合を想定して説明した。ただし、洗浄装置40がミスト除去部43を有さない場合であっても、キャリーオーバーが発生したときにEGRガスの流量を減らしたり、接液量を減らしたりすることで、洗浄装置40の下流へ搬送される洗浄液ミストの量を減少させることができる。つまり、キャリーオーバーを軽減することができる。また、洗浄装置40の下流へ搬送される洗浄液ミストの量を減少させることができれば、冷却器70である程度の洗浄液ミストを捕集できるため、洗浄液ミストがエンジン10に流れ込むのを防止することができる。
【0094】
<第6の回避方法>
第6のキャリーオーバー回避方法は、EGRユニット30を図14に示すように構成して行う。図14は、本実施形態の第4変形例に係るエンジンシステム104のブロック図である。図14に示すEGRユニット30は、洗浄装置40の入口側とEGRブロワ60の出口側をつなぐ循環配管68と、この循環配管68に設けられた循環バルブ69とを有している。循環バルブ69は、演算制御装置90によって開度が設定される。第6のキャリーオーバー回避方法では、演算制御装置90がキャリーオーバーが発生したと判定するすると、上記の循環バルブ69を開く。これにより、EGRブロワ60から排出されたEGRガスの一部が洗浄装置40の入口側へ戻ることから、冷却器70へ流れるEGRガスの流量を減少させることができる。その結果、冷却器70及びエンジン10へ搬送される洗浄液ミストの量を減少させることができ、キャリーオーバーを回避又は軽減することができる。
【0095】
以上が本実施形態に係るエンジンシステム100の説明である。本実施形態に係るEGRユニット30では、キャリーオーバーが発生しているか否かを判定するとともに、キャリーオーバーを回避する制御が行われるため、エンジン10等に生じうるダメージを未然に防ぐことができる。また、本実施形態によれば、ミスト除去部43の処理能力を抑え、キャリーオーバーが発生した場合にはこれを回避するという運用が可能である。そのため、ミスト除去部43に過剰な処理能力は不要であり、ミスト除去部43をコンパクトで安価なものにすることができる。
【0096】
以上、本発明の実施形態について図を参照して説明したが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、演算制御装置90が、キャリーオーバーが発生していると判定したとき、これを回避する制御を行わず、キャリーオーバーの発生を単に運転者に知らせるだけの制御を行う場合でも本発明に含まれる。この場合でも、EGRユニット30及びエンジンシステム100の信頼性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明に係るEGRユニットによれば、キャリーオーバーが発生しているか否かを判定できる。よって、EGRユニットの技術分野において有益である。
【符号の説明】
【0098】
10 エンジン
30 EGRユニット
40 洗浄装置
43 ミスト除去部
44 清掃装置
70 冷却器
80 補給タンク(溜液部)
100、101、102、103、104 エンジンシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14