(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200488
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】高められたコーティング特性を有するSiを用いたアーク堆積Al−Cr−Oコーティング
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20170911BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20170911BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
C23C14/08 K
C23C14/08 A
C23C14/24 E
C23C14/24 F
C23C14/32 A
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-506125(P2015-506125)
(86)(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公表番号】特表2015-518522(P2015-518522A)
(43)【公表日】2015年7月2日
(86)【国際出願番号】EP2013001188
(87)【国際公開番号】WO2013159893
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年3月28日
(31)【優先権主張番号】12002815.4
(32)【優先日】2012年4月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,トリュープバッハ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラハバウアー,リヒャルト
(72)【発明者】
【氏名】ラム,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ポーリッチュ,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】マイルホーファー,ポール・ハインツ
【審査官】
山田 頼通
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−160692(JP,A)
【文献】
特開2009−279690(JP,A)
【文献】
特開2004−238736(JP,A)
【文献】
特開2010−131741(JP,A)
【文献】
特開2004−176085(JP,A)
【文献】
米国特許第06602390(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0252973(US,A1)
【文献】
特開2009−255206(JP,A)
【文献】
特開2008−013852(JP,A)
【文献】
特開2006−315173(JP,A)
【文献】
特開2011−152627(JP,A)
【文献】
特表2009−534524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的にAl、Cr、Si、およびOから構成される少なくとも1つの層を用いてPVD酸化物コーティングを作る用法であって、方法は、
a)PVDコーティングチャンバを提供するステップと、
b)少なくとも1つのコーティングされる表面を有する基板をこのようなPVDコーティングチャンバに導入するステップと、
c)反応性PVDコーティングを行うステップとを少なくとも備え、処理ガスは、本質的にAl、Cr、Si、およびOから構成される少なくとも1つの層を基板表面に堆積させるための少なくとも1つのターゲットから作られる金属イオンと反応する反応性ガスを含み、ステップc)の反応性PVDコーティング処理を行うために使用される1つ以上のターゲットは、それぞれ原子百分率でAl1−x−yCrxSiy、x=0.25およびy=0.05の式によって与えられる要素組成を有し、反応性ガスは酸素であり、本質的にAl、Cr、Si、およびOから構成される少なくとも1つの層を有するコーティングが作られ、酸素が考慮されない場合は、少なくとも1つの層においてシリコン濃度が1つ以上のターゲットのシリコン濃度よりも小さくなり、
前記PVDコーティング処理はアーク蒸発処理である、方法。
【請求項2】
処理ガスは本質的に酸素のみを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸素が考慮されない場合は、前記少なくとも1つの層において、シリコン濃度は前記1つ以上のターゲットのシリコン濃度の半分以下となる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記PVD酸化物コーティングは、前記基板をコーティングするためのコーティングである、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記PVD酸化物コーティングは、耐食性コーティングである、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記PVD酸化物コーティングは、酸化バリヤである、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記PVD酸化物コーティングは、化学バリヤである、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記PVD酸化物コーティングは、高温トライボロジー用途のための層への施工である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加的なAl−O相を含有することができる三成分アルミニウムクロム酸化物コーティング(Al−Cr−O)に関する。コーティングは、本発明によれば、アルミニウムとクロムとを含む複合ターゲットから反応性陰極アークPVD技術によって堆積される。アルミニウムおよびクロムは優先的に含まれるものであって、その他を排除するものではない。本発明に係るコーティングは、特に耐食性、耐酸化性、機械的特性、および化学的安定性などのコーティング特性が高められている。さらに、本発明は、コーティング材料の供給源として使用されるAl−Crターゲットに少量の他の要素を加えることによってコーティング特性を調節することが可能な、Al−Cr−Oコーティングを工業生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術
結晶Al−Cr−Oコーティングは、その優れた特性から、非常に有望なものである。これは、主にコランダム構造を有する、またはコランダム構造を含む固溶体の結晶(Al,Cr)
2O
3コーティングを作るのに特に望ましい。なぜなら、この種の結晶構造に関連する良好な化学的特性、機械的特性、およびトライボロジー特性を有しているためである。反応性陰極アーク蒸発によって酸素を含む環境において蒸発するAl−Cr合金ターゲットから(Al,Cr)
2O
3層を作る堆積法が、Rammらによって米国特許出願公開第US20070000772号A1において提案されている。
【0003】
さらに、Rammらは、Surface & Coatings Technology 202 (2007) 876- 883 「高パルス電子放出(P3eTM)アーク蒸発およびコランダム構造の耐摩耗性Al−Cr−Oコーティングの合成(Pulse enhanced electron emission (P3eTM) arc evaporation and the synthesis of wear resistant Al-Cr-O coatings in corundum structure)」において、反応性アーク蒸発による三成分以上の酸化物の合成のために複合ターゲットを利用することは非常に効率的であることを報告している。したがって、広いプロセスウィンドウにおいて酸化物の金属組成がターゲット組成によって制御される。また、酸化物の合成が純粋酸素環境において行なわれることについても述べられている。
【0004】
反応性陰極アークPVD処理によってAl−Cr合金ターゲットからAl−Cr−O層を堆積させることに関する先行技術の制限
しかしながら、Rammらは、Surface & Coatings Technology 205 (2010) 1356-1361「反応性陰極アーク蒸発によって堆積されたAl−Cr−Oコーティングの合成におけるターゲット表面と層の核生成との相関(Correlation between target surface and layer nucleation in the synthesis of Al-Cr-O coatings deposited by reactive cathodic arc evaporation)」において、純酸素雰囲気におけるAlを含む複合ターゲットの作用には、酸化物を含有する材料が蒸発処理時にターゲット表面で成長するという問題が起こり得ることを報告している。酸素雰囲気に露出したターゲット表面において観察されるこの酸化物材料は、一般に「酸化物島」という。Rammらは、観察される「酸化物島」の成長は、蒸発時にターゲット表面で行われる溶解・急冷処理時にもたらされる余分なアルミニウムの酸化が原因であるとしている。
【0005】
Rammらは、ターゲット表面における酸化物島の出現は、所与のAl−Cr組成の複合ターゲットに含まれるアルミニウムの少なくとも一部が高融点金属間化合物の形成によって消費されないために起こると推定している。この余分なアルミニウムは、1000度を超える温度に置かれると、存在する酸素と反応し、少なくとも部分的にコランダム構造を示す酸化物島をこの高い温度で形成し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ターゲット表面における酸化物島の形成を防止または回避するには、2つの方法が検討される。
【0007】
1)1つの可能な方法として、アルミニウムを含む複合ターゲットの組成を選択し、ターゲット表面における溶解・急冷処理時(陰極アークによる蒸発時)の金属アルミニウム相の沈殿物の分離が1000℃を下回る温度で起こるようにすることが挙げられる。これは、たとえば原子百分率での要素組成Al
85Cr
15を有するターゲットが使用された場合である。
【0008】
2)他の可能な方法として、アルミニウムを含む複合ターゲットの組成を選択し、この選択された組成の金属金属間化合物の形成のみが可能となるようにすることが挙げられる。
【0009】
しかしながら、これら2つの手法は、コランダム構造を有する三成分酸化物を合成することを望む場合には、いずれもAl−Cr材料系に適用することはできない。Rammの刊行物(上述の2007年に公開されたもの)においては、層またはターゲットのそれぞれにおいてAl量が70原子%未満である場合にのみAl−Cr−Oのコランダム構造がXRD分析によって識別され得ることが述べられている。このため、Al含有量を85原子%より高くする方法によって実際に酸化物島の成長は防止され得るが、コランダム構造におけるAl−Cr−O固溶体の形成が妨げられることになる。
【0010】
発明の目的
本発明の目的は、上述のような問題のないAl−Cr−Oコーティングを工業的に合成するためのアーク蒸発PVD法を提供することにある。
【0011】
特に、本発明の目的は、酸素雰囲気中での陰極アーク蒸発時においてAl−Crターゲットの表面での酸化物島の成長を防止することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、高酸素流におけるアーク蒸着によって高密度の形態を有するコーティングを作ることにある。
【0013】
本発明の付加的な目的は、コランダム構造のAl−Cr−O固溶体に加え、またはこれに代えてAl−Cr−Oコーティングに結晶相を形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の説明
上記の問題を解決するために、発明者は、酸化物島の成長への影響を研究することを意図するとともに、ターゲット表面におけるこの酸化物島の成長を防止する、または酸化物島の成長に影響を与える目的で、付加的な要素を含むAl−Cr含有複合ターゲットを使用することを決めた。
【0015】
驚くべきことに、Al−Crを含むターゲットに少量のシリコン(Si)をドープして、たとえば原子百分率でAl
70Cr
25Si
5の要素組成を有するAl−Cr−Siターゲットを作ると、反応性陰極アーク蒸発処理によるターゲットの操作後において、非常に高い酸素流(約800sccm以上)で長期にわたるアーク操作を行っても、さらなる酸化物島の成長は検知されなかった。
【0016】
本発明についてのより良い理解のために、さらなる詳細の一部が
図1から
図4を用いて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】反応性陰極アーク蒸発によって操作される2つの異なるターゲットに対応する2つの表面の写真を示す図であって、a)は800sccmの酸素流の純酸素雰囲気において1.5時間にわたって操作されたAl
70Cr
30ターゲットの表面の写真であり、b)は800sccmの酸素流の純酸素雰囲気において1.5時間にわたって操作されたAl
70Cr
25Si
5ターゲットの表面の写真であり、c)は
図1aに示されたターゲット表面を拡大したものであり、d)は
図1bに示されたターゲット表面を拡大したものである。
【
図2】
図1に示された両方のターゲットの表面のXRDスペクトルを示す図であり、a)はAl
70Cr
30ターゲットであり、b)はAl
70Cr
25Si
5ターゲットである。
【
図3】純酸素雰囲気において反応性陰極アーク蒸発によって堆積された2つのコーティングの破壊形態のSEM顕微鏡写真を示す図であり、a)は800sccmの酸素流においてAl
70Cr
30ターゲットから堆積したものであり、b)は800sccmの酸素流においてAl
70Cr
25Si
5ターゲットから堆積したものである。
【
図4】破壊形態が
図3bに示される800sccmの酸素流におけるAl
70Cr
25Si
5ターゲットから堆積されたコーティングのXRDスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1aにおいて、Al
70Cr
30ターゲットの表面に多くの黒い点があることを観察することができ、これらの黒い点は、コランダム構造を有する若干量のAl
2O
3(XRDにより識別)を含有する酸化物島である。一方、
図1bにおいては、Al
70Cr
25Si
5ターゲットの表面に黒い点が無いことを観察することができる。Al
70Cr
30ターゲットおよびAl
70Cr
25Si
5ターゲットの両方の表面は、両方のターゲット材料のターゲット表面にある相を識別するために、X線回折分析によって分析された。ターゲット表面から得られたXRDスペクトルは、
図2に示される。Al
70Cr
30のターゲット表面の分析(
図2a)は事前の調査と一致しており、AlおよびCr相の形成に加え、Al
8Cr
5およびAl
4Cr相の形成も示している。Al
70Cr
25Si
5ターゲットの分析(
図2b)は、
図2aと同様にAlおよびCr相ならびにAl
8Cr
5およびAl
4Cr相の形成を示しているが、この場合において、Al
8Cr
5およびAl
4Crのピークはより高い回折角度へと移行している。これは、これらの層へのSiの取り込みによって説明され得て、加えてCrSi相の存在も観察することができる。
【0019】
本発明の実施形態は、シリコンでドープされたAl−Crターゲット(ソースコーティング材料として)を使用してAl−Cr−Oを作るための反応性陰極アーク蒸発コーティング法に関する。Al−Cr−Siターゲットは、原子百分率で以下の要素構成を有するのが好ましい。
【0020】
Al
aCr
1−a−bSi
cにおいて、90≧a≧60、40≧1−a−b≧10、20≧c≧1。
【0021】
したがって、高酸素流の使用も含め、純酸素雰囲気または酸素を含有する混合気においてターゲットを蒸発させることによって酸化物の成長を減少させることができる、または防止することができる。
【0022】
本発明の説明において、流れおよび圧力は、低流、中流、または高流として考慮される。
【0023】
低酸素流:約100から250sccm(コーティングチャンバにおいて200sccmから0.3Pa)
中酸素流:約250から500sccm
高酸素流:約800から1000sccm(コーティングチャンバにおいて≧2.3Paまで)
ターゲットをたとえば5原子%のSiでドープすることにより、Al
70Cr
30ターゲットと比較したAl/Cr比率が2.3から2.8に変化し、ドープされていないターゲットのAl(74)Cr(26)ターゲット組成と同程度となる。事前の調査(Rammらによる2007年の調査)に基づけば、合成された三成分酸化物の金属組成において金属ターゲット組成を再現できると期待され得る。しかし、これは当てはまらない。合成されたコーティングにおけるAl/Cr比率は、両方のターゲット組成については高いAl比率に移行している。表1において、合成されたAl−Cr−OコーティングについてのAl/Cr比率の組成が示される。
【0024】
表1:EDXおよびERDAによってAl
70Cr
30およびAl
70Cr
25Si
5のそれぞれから反応性陰極アーク蒸発によって作られた2つの異なるコーティングの要素組成
【0026】
組成は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)および弾性反跳粒子検出法(ERDA)の2つの別個の分析方法により測定された。しかしながら、Siでドープすることにより変更されたAl/Cr比率は、コーティング組成においてある程度のみが反映された。しかしながら、Al
70Cr
25Si
5の組成を有するターゲットから合成されたコーティングにおいてSiが検知されないことは完全に予想外であった。この効果は、酸素と組み合わされたSiの揮発によって説明することができる。Shyklaevらによる「高温におけるO
2のSi(111)−7×7に対する初期反応付着係数(Initial reactive sticking coefficient of O2 on Si(1 1 )-7 x 7 at elevated temperatures)」Surface Science 351 (1996) 64-74の刊行物において、この効果を示す反応が開示されている。しかしながら、この刊行物に記載されている条件は、今回の作業において酸化物の合成が行われた条件とは幾分異なっている。このため、酸化物コーティングにおいてSiを発見することができないという事実の説明は、仮定に過ぎない。驚くべき事実は、コーティングにSiが全くもしくはほとんど取り込まれないことである。
【0027】
本発明は、シリコンをドープしたAl−Crターゲットを利用することでターゲット表面に酸化物島が形成されないという利点を得ることを可能にするとともに、コーティングを本質的にSiでドープすることなく純粋なAl−Cr酸化物を合成することを可能とする。
【0028】
図3aおよび
図3bにおいて、異なるターゲット組成について得られた合成酸化物コーティングの形態は、断面走査電子顕微鏡法(X−SEM)によって比較される。Al
70Cr
30ターゲット(a)から得られた酸化層の形態は、特有の柱状構造を示す。既存の知識に基づけば、酸素流が高まると高密度構造(低酸素流を用いて得られる)から柱状成長(高酸素流を用いて得られる)へ形態が著しく変化することは、反応性アーク蒸発によって作られるAl−Cr−Oコーティングの典型的な挙動である。
図3bは、同じ高酸素流(800sccm)で、Al
70Cr
25Si
5ターゲットが利用された点を除いて同一の処理条件下において得られたコーティングから準備された。顕微鏡写真は、非常に高密度の構造によって特徴づけられる完全に異なる形態を示す。コーティングがSiを含有しないという事実に対峙すると、これは完全に予想外の結果である。しかしながら、この高密度の層成長により、アーク蒸発したAl−Cr酸化物は、拡散現象を抑制しなければならないとともに柱状構造が非常に漏れやすいものとなる抗酸化および抗食コーティングに適したものとなる。A−CrターゲットをSiでドープする付加的な実験は、1原子%から20原子%のSiを追加するとA−Cr酸化物コーティングに同様の高密度化が起こることを示しており、Siは2原子%から10原子%の範囲でドープするのが好ましい。
【0029】
合成酸化物コーティングにおいてはSiを全く見ることができない、または僅かにしか見ることができない(ターゲット組成と比較)が、Siをターゲットにドープすることにより、柱状成長がないが合成に利用される高酸素流のある高密度構造によって特徴付けられる酸化物コーティングの形態が完全に変化する。
【0030】
800sccmの酸素流でAl
70Cr
25Si
5ターゲットから合成された層のXRD分析(
図4)は、2シータ=46°付近で特有のピークを示した。このピークは、Khatibiらによる「面心立法(Al0.23Cr0.68)2O3薄膜における相転移(Phase transformations in face centered cubic Al0.23Cr0.68 thin films)」Surface & Coating technology 206 (2012) 3216-3222の刊行物に基づくA−Cr−Oの立方相に起因する。電子回折はコランダム構造におけるAl−Cr−O固溶体の追加を示すが、高酸素流では立方構造がより顕著となっている。しかしながら、酸素流およびAl/Cr比率は、A−Cr−Oにおけるコランダム相への立方の量を補うように調節することができる。XRD分析は、追加のピークを示す。69°近くの高い強度を有するピークは、シリコン基板に起因する。67°近くの高い強度を有する追加のピークは、コランダム構造におけるAl
2O
3またはアルファアルミナの特徴である。このため、Siでターゲットをドープすることにより、コーティングにおける立方Al−Cr−O相の成長が補助され、付加的に純粋なコランダム相も作られ得る。
【0031】
本発明に基づいて作られるコーティングの推奨される用途としては、耐食性コーティング、酸化バリヤ、化学バリヤ、高温トライボロジー用途のための層への施工、燃料電池の用途、および高温トライボロジーのための固体潤滑剤がある。
【0032】
本発明のさらに興味深い局面は、反応性陰極アーク蒸発PVD処理によって酸素を含む環境においてAl−Cr−Oコーティングを堆積させるためのコーティング材料の供給源としてSiでドープされたAl−Crターゲットを使用することにより、AlCrSiターゲットにおけるSi濃度が約5原子%である場合のコーティングにおけるAl−Cr−Oの立方相の形成が
図5に示されるようにX線試験で検知することができないことである。
【0033】
さらに、AlCrSiターゲットにおけるSi濃度が約5原子%である場合にターゲット表面における酸化物の形成の相当な減少が観察される。
【0034】
本発明の特定の詳細は、以下の請求項1から
8で述べられる。
この記載は、本質的にAl、Cr、Si、およびOから構成される少なくとも1つの層を用いてPVD酸化物コーティングを作る方法を開示しており、方法は、
a)PVDコーティングチャンバを提供するステップと、
b)少なくとも1つのコーティングされる表面を有する基板をこのようなPVDコーティングチャンバに導入するステップと、
c)反応性PVDコーティングを行うステップとを少なくとも備え、処理ガスは、本質的にAl、Cr、Si、およびOから構成される少なくとも1つの層を基板表面に堆積させるための少なくとも1つのターゲットから作られる金属イオンと反応する反応性ガスを含み、ステップc)の反応性PVDコーティング処理を行うために使用される1つ以上のターゲットは、原子百分率でAl
1−x−yCr
xSi
y、
0.05≦y<0.10、0.20≦x≦0.25の式によって与えられる要素組成を有し、反応性ガスは酸素であり、本質的にAl、Cr、Si、およびOから構成される少なくとも1つの層を有するコーティングが作られ、酸素が考慮されない場合は、少なくとも1つの層においてシリコン濃度が1つ以上のターゲットのシリコン濃度よりも小さくなる。
【0035】
PVDコーティング処理は、たとえば、アーク蒸発処理である。
一実施形態によれば、処理ガスは本質的に酸素のみを含む。x=
0.25およびy=
0.05を選ぶことが可能であり、好ましい。
【0036】
シリコン濃度は、1つ以上のターゲットにおけるシリコン濃度の半分以下であってもよい。
【0037】
方法は、コーティング系を作るために使用され得る。基板はコーティング系によってコーティングすることができる。
【0038】
コーティング系は、耐食性を向上させるために使用することができる。
コーティング系は、
−酸化バリヤ、および/または
−化学バリヤ、および/または
−たとえば200℃を超える高温トライボロジー用途のための層への施工、および/または
−燃料電池、および/または
−200℃を超える高温で行われるトライボロジー用途のための固体潤滑剤のために使用することができる。
【0039】
上記のコーティング系は、上記の特性のうち1つ以上を必要とする用途に使用される基板に適用され得る。