特許第6200575号(P6200575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6200575-無歯顎患者用咬合採得具 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200575
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】無歯顎患者用咬合採得具
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/04 20060101AFI20170911BHJP
   A61C 9/00 20060101ALI20170911BHJP
   A61C 19/05 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   A61C19/04 K
   A61C9/00 Z
   A61C19/05
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-505151(P2016-505151)
(86)(22)【出願日】2015年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2015054088
(87)【国際公開番号】WO2015129497
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2016年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-33869(P2014-33869)
(32)【優先日】2014年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】蒲原 敬
【審査官】 川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/135927(WO,A1)
【文献】 特開2004−8487(JP,A)
【文献】 特開2006−230689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/04
A61C 9/00
A61C 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無歯患者の口腔内の上下堤の頬側に位置させる後方側曲面板と、上下口唇の口腔外側に位置させる前方側曲面板と、前記後方側曲面板と前記前方側曲面板とのそれぞれ鉛直方向の中間部を連結する連結部と、前記後方側曲面板と前記前方側曲面板と前記連結部とを貫通した状態で形成された貫通穴とを有し、上下口唇がそれぞれ該連結部を挟持した状態で位置固定される本体部と、
前記本体部の貫通穴に挿入され、一端が上下口唇間の中央から前記口腔外側に突出し他端が口腔内で舌の先端を保持する舌サポ−ト部を有し、前記舌サポ−ト部の位置を調整して咬合採得時の舌の動きを抑制するための調整用軸とを備えたことを特徴とする、無歯顎患者用咬合採得具。
【請求項2】
前記調整用軸は、前記前方側曲面板より突出している部分に形成されたストッパを有することを特徴とする、請求項1に記載の無歯顎患者用咬合採得具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無歯顎患者用咬合採得具に関する。
【背景技術】
【0002】
無歯顎患者に対して総義歯等を作製する場合、一般には先ず上下の顎堤についてそれぞれの印象を採得し、この印象から口腔内の石膏模型を作製する。
【0003】
また咬合位置を決めるためにこの石膏模型上に作製した蝋堤を用い咬合採得を行い、次に歯科技工士等によって、石膏模型を咬合器に取り付け、通法に従い無歯顎患者に対する総義歯等が作製される。
【0004】
このようにして行われる咬合採得には、熟練と経験が必要であり、術者による差異が大きく正確な咬合採得が行えず、結果として患者に合わないものを提供することになったり、再度咬合採得からやり直して新たな総義歯等を作製しなければならなくなることがある。
【0005】
このような無歯顎患者の総義歯等の作製において、正中や咬合平面等を正確に決めることができる義歯作製方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この提案方法によれば、咬合採得を行う際、上顎前歯の標準的な前面形状を形取った合計六本の薄肉状ダミー歯が一体化されている義歯作製用フィット治具を上顎咬合床のろう提の適正な位置に固定し、これに基づいて咬合床のろう提に人工歯を植え付ける。
【0006】
上記の提案方法は、正中等を歯科医から歯科技工士に正確に知らせるために、咬合採得したろう提にダミー歯(または、義歯作製用フィット治具)を取り付けて正中等の目印となるようにしようとするものであり(特許文献1の例えば図2参照)、咬合採得自体は従来法によるものであることから(特許文献1の例えば段落番号0016及び0017参照)、咬合位置を正確に決めることが難しいという問題に対しては解決策となっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−8487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の問題に鑑み、無歯顎患者の咬合採得において、無歯顎患者の咬合位置の咬合位置の記録が正確、且つ、簡便に得られる無歯顎患者用咬合採得具を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、無歯患者の口腔内の上下堤の頬側に位置させる後方側曲面板と、上下口唇の口腔外側に位置させる前方側曲面板と、前記後方側曲面板と前記前方側曲面板とのそれぞれ鉛直方向の中間部を連結する連結部と、前記後方側曲面板と前記前方側曲面板と前記連結部とを貫通した状態で形成された貫通穴とを有し、上下口唇がそれぞれ該連結部を挟持した状態で位置固定される本体部と、前記本体部の貫通穴に挿入され、一端が上下口唇間の中央から前記口腔外側に突出し他端が口腔内で舌の先端を保持する舌サポ−ト部を有し、前記舌サポ−ト部の位置を調整して咬合採得時の舌の動きを抑制するための調整用軸とを備えた無歯顎患者用咬合採得具が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無歯顎患者の咬合位置の記録が正確、且つ、簡便に得られる無歯顎患者用咬合採得具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る無歯顎患者用咬合採得具の一実施例を示す斜視図である。
図2図1の無歯顎患者用咬合採得具の平面図である。
図3図1の無歯顎患者用咬合採得具において本体部から調整用軸を抜いた状態を示す平面図である。
図4図1の無歯顎患者用咬合採得具に印象材を盛った状態を示す平面図である。
図5】本発明に係る無歯顎患者用咬合採得具の他の実施例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明に係る無歯顎患者用咬合採得具の各実施例について説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る無歯顎患者用咬合採得具の一実施例を示す斜視図である。図2は、図1の無歯顎患者用咬合採得具の平面図であり、図3は、図1の無歯顎患者用咬合採得具において本体部から調整用軸を抜いた状態を示す平面図である。また、図4は、図1の無歯顎患者用咬合採得具に印象材を盛った状態を示す平面図である。
【0014】
無歯顎患者用咬合採得具は、図1乃至図4に示す本体部1と、調整用軸2とを有する。図4中、咬合採得の際に使用される印象材Xは、後述する本体部1の後方側曲面板1aの口腔内側に盛られ、上下顎堤全体に限らず少なくとも前歯側の上下顎堤間の咬合採得をするために用いられる。
【0015】
図1乃至図4中、本体部1は、無歯患者の口腔内の上下堤の頬側に位置させる後方側曲面板1aと、上下口唇の口腔外側に位置させる前方側曲面板1bと、後方側曲面板1aと前方側曲面板1bとのそれぞれ鉛直方向の中間部を連結する連結部1cと、後方側曲面板1aと前方側曲面板1bと連結部1cとを貫通した状態で形成された貫通穴1dとを有する。本体部1には、上下口唇がそれぞれ連結部1cを挟持した状態で位置固定される。
【0016】
本体部1は、柔らかい上下口唇で挟持されるので、柔らかさと強さとを兼ね備えた樹脂等の材料で形成されていることが好ましい。
【0017】
更に、本体部1は、後述する調整用軸2と共に口腔内に挿入されるものであることから、人体に無害である必要がある。また、本体部1は、再利用可能なように、例えばオートクレーブ処理をしても破損や変形をしないことが好ましい。
【0018】
調整用軸2は、本体部1の貫通穴1dに挿入され、一端が上下口唇間の中央から口腔外側に突出し他端が口腔内で舌の先端を保持する舌サポ−ト部2aを有する。調整用軸2は、舌サポ−ト部2aの位置を調整して咬合採得時の舌の動きを抑制する。
【0019】
調整用軸2の舌サポ−ト部2aによって舌を自然な状態で保持させた状態で、咬合採得をすることができる。
【0020】
ストッパ3は、調整用軸2の前方側曲面板1bより突出している部分に形成されており、調整用軸2が本体部1から外れて口腔内に落ち、誤飲や喉につまらせるなどの問題を防止できて好ましい。このようなストッパ3は、調整用軸2に一体に形成されていてもよいが、例えば図5のように環状のゴム材等であってもよい。図5は、本発明に係る無歯顎患者用咬合採得具の他の実施例を示す斜視図である。
【0021】
実際に本発明に係る無歯顎患者用咬合採得具を使用して無歯顎患者の総義歯等を作製するには、先ず図4のように本体部1の後方側曲面板1aの口腔内側に調整用軸2に絡めるようにして印象材Xを盛り、無歯顎患者の口腔内に挿入する。その際に本体部1の後方側曲面板1aの口腔内側や調整用軸2に溝等を形成させておけば、盛られた印象材Xを保持する効果が高くなって好ましい。
【0022】
次に、本体部1の後方側曲面板1aと前方側曲面板1bとの間の連結部1cを挟持するように、無歯顎患者にその上下口唇を当接するようにしてゆっくりと口を閉じてもらい、印象材Xが上下顎堤間にゆっくりと行き渡るようにする。このように上下の口唇位置を固定した状態で咬合採得をすることで、上下顎の位置が不自然となることがなく、ゆっくりと口を閉じるだけで簡便に咬合採得ができる。また、調整用軸2の舌サポ−ト部2aによって舌を自然な状態で保持させた状態で、正確な咬合採得を行うことができる。
【0023】
また、無歯顎患者の口腔内形状の基礎となる上下顎堤の印象採得を行う。この印象から口腔内の印象模型を作製する。
【0024】
このようにして製作された口腔内の上下顎堤の印象模型を咬合器にセットして、先に行った咬合採得により得られた印象に基づいて、義歯の大きさや位置を決定して総義歯等の作製を行う。
【0025】
なお、印象模型や咬合器を使用しない方法としては、先に得られた口腔内の上下顎堤の印象や咬合採得した印象を3次元スキャンして電子データとし、コンピュータ上で義歯の大きさや位置を決定して、自動切削加工機等により総義歯等を作製してもよい。
【0026】
上記の如き無歯顎患者用咬合採得具により、無歯顎患者の咬合位置の記録が正確、且つ、簡便に得られる。
【0027】
本発明者は、無歯顎患者の咬合採得において、上記各実施例の無歯顎患者用咬合採得具を用いることにより、口唇の位置と舌の位置が自然な状態で維持されるため、正確な咬合採得が行えることを確認した。具体的には、無歯患者の口腔内の上下堤の頬側に位置させる後方側曲面板と、上下口唇の口腔外側に位置させる前方側曲面板と、後方側曲面板と前方側曲面板とのそれぞれ鉛直方向の中間部を連結する連結部と、後方側曲面板と前方側曲面板と連結部とを貫通した状態で形成された貫通穴とを有し、上下口唇がそれぞれ連結部を挟持した状態で位置固定される本体部と、本体部の貫通穴に挿入され、一端が上下口唇間の中央から口腔外側に突出し他端が口腔内で舌の先端を保持する舌サポ−ト部を有し、舌サポ−ト部の位置を調整して咬合採得時の舌の動きを抑制するための調整用軸とを備えた無歯顎患者用咬合採得具を使用すれば、本体部で無歯顎患者の上下口唇が自然な状態で挟持されることで、上下が不自然な位置で固定されることがなく、また、無歯顎患者は本体部の連結部に上下の口唇をそれぞれ当接させるように挟持させることによって余分な力を抜いた状態で咬合採得ができ、更に、本体部の貫通穴に挿入された調整用軸の舌サポ−ト部によって舌を自然な状態で保持させた状態で咬合採得をすることができることを確認した。
【0028】
即ち、本発明の一実施例では、無歯顎患者用咬合採得具は、無歯患者の口腔内の上下堤の頬側に位置させる後方側曲面板と、上下口唇の口腔外側に位置させる前方側曲面板と、後方側曲面板と前方側曲面板とのそれぞれ鉛直方向の中間部を連結する連結部と、後方側曲面板と前方側曲面板と連結部とを貫通した状態で形成された貫通穴とを有し、上下口唇がそれぞれ連結部を挟持した状態で位置固定される本体部と、本体部の貫通穴に挿入され、一端が上下口唇間の中央から口腔外側に突出し他端が口腔内で舌の先端を保持する舌サポ−ト部を有し、舌サポ−ト部の位置を調整して咬合採得時の舌の動きを抑制するための調整用軸とを備える。
【0029】
無歯顎患者用咬合採得具は、無歯患者の口腔内の上下堤の頬側に位置させる後方側曲面板と、上下口唇の口腔外側に位置させる前方側曲面板と、後方側曲面板と前方側曲面板とのそれぞれ鉛直方向の中間部を連結する連結部と、後方側曲面板と前方側曲面板と連結部とを貫通した状態で形成された貫通穴とを有し、上下口唇がそれぞれ連結部を挟持した状態で位置固定される本体部と、本体部の貫通穴に挿入され、一端が上下口唇間の中央から口腔外側に突出し他端が口腔内で舌の先端を保持する舌サポ−ト部を有し、舌サポ−ト部の位置を調整して咬合採得時の舌の動きを抑制するための調整用軸とを備えている。このため、本体部で無歯顎患者の上下口唇が自然な状態で挟持されることで、上下が不自然な位置で固定されることなく、また、無歯顎患者は本体部の連結部に上下の口唇をそれぞれ載せるように挟持させることによって余分な力を抜いた状態で咬合採得ができ、更に、本体部の貫通穴に挿入された調整用軸の舌サポ−ト部によって舌を自然な状態で保持させた状態で咬合採得をすることができる。
【0030】
また、調整用軸の前方側曲面板より突出している部分にストッパを形成すれば、調整用軸が本体部から外れて口腔内に落ち、誤飲や喉につまらせるなどの問題を防止できて好ましいことも確認した。
【0031】
調整用軸の前方側曲面板より突出している部分にストッパを形成することで、調整用軸が本体部から外れて口腔内に落ち、誤飲や喉につまらせるなどの問題を防止できて好ましい。
【0032】
本出願は、2014年2月25日に日本国特許庁に出願された特願2014−033869に基づくものであり、この出願を優先権主張するものであり、この出願の全ての内容を参照することにより包含するものである。
【0033】
以上、開示の無歯顎患者用咬合採得具を実施例により説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0034】
1 本体部
1a 後方側曲面板
1b 前方側曲面板
1c 連結部
1d 貫通穴
2 調整用軸
2a 舌サポ−ト部
3 ストッパ
X 印象材
図1
図2
図3
図4
図5