特許第6200661号(P6200661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200661
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20170911BHJP
【FI】
   G05B11/36 507F
   G05B11/36 507G
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-43743(P2013-43743)
(22)【出願日】2013年3月6日
(65)【公開番号】特開2014-174585(P2014-174585A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(74)【代理人】
【識別番号】100182349
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 誠治
(72)【発明者】
【氏名】横山 宗一
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−287701(JP,A)
【文献】 特開2007−9807(JP,A)
【文献】 特開2005−240576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 11/00−13/04
G05D 7/00− 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流量を調整するためのバルブを制御する制御装置であって、
前記バルブの開度または前記バルブの所定時間後の予測開度を取得する開度取得部と、
前記開度と、予め設定された目標開度と、該目標開度に対する前記開度の割合とに基づいて、前記バルブの制御に制動をかけ始める制動開始開度を算出する算出部と、
前記制動開始開度に基づいて、前記バルブの制御に制動をかけるための制動条件を作成し、前記開度または前記予測開度が、前記制動条件を満たすか否かを判定する判定部と、
前記開度または前記予測開度が前記制動条件を満たすと判定された場合、所定の制御則により算出される前記バルブを駆動し前記開度を変更するための操作量を、所定の比例制御則により算出される補正値で補正する補正部と
を備える制御装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記開度または前記予測開度が前記制動条件を満たすと判定された場合、前記比例制御則により算出された補正値と、所定の微分制御則により算出された補正値とを合わせた補正値で前記操作量を補正する
請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記比例制御則により算出された補正値を、所定の一次遅れ要素を用いてフィルタリングし、該フィルタリングした結果の値で前記操作量を補正する
請求項1または請求項2記載の制御装置。
【請求項4】
記バルブの駆動方向を取得する方向取得部と
を更に備え、
前記判定部は、前記制動開始開度と前記駆動方向とに基づいて前記制動条件を作成し、前記駆動方向が開方向であり、前記制動開始開度が前記目標開度より閉側であり、且つ前記開度または前記予測開度が前記制動開始開度以上、前記目標開度未満である場合、または、前記駆動方向が閉方向であり、前記制動開始開度が前記目標開度より開側であり、且つ前記開度または前記予測開度が前記目標開度を超え、前記制動開始開度以下である場合、前記開度が前記制動条件を満たすと判定する
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制動開始開度は、前記目標開度と前記開度との差に前記割合を乗じ、該乗じた結果に前記開度を加えた値であり、前記目標開度が変更される度に更新され
請求項4記載の制御装置。
【請求項6】
前記制動開始開度は、前記目標開度が変更されるまで記憶部に保持され、
前記算出部は、前記目標開度が変更された場合、該目標開度に基づいて算出した制動開始開度で前記記憶部に保持された制動開始開度を更新する
請求項4または請求項5記載の制御装置。
【請求項7】
流体の流量を調整するためのバルブを制御する制御装置が行う制御方法であって、
前記制御装置が、
前記バルブの開度または前記バルブの所定時間後の予測開度を取得し、
前記開度と、予め設定された目標開度と、該目標開度に対する前記開度の割合とに基づいて、前記バルブの制御に制動をかけ始める制動開始開度を算出し、
前記制動開始開度に基づいて、前記バルブの制御に制動をかけるための制動条件を作成し、前記開度または前記予測開度が、前記制動条件を満たすか否かを判定し、
前記開度または前記予測開度が前記制動条件を満たすと判定された場合、所定の制御則により算出される前記バルブを駆動し前記開度を変更するための操作量を、所定の比例制御則により算出される補正値で補正する
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体等の流体の流量を調整するためのバルブを制御する制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気体、液体等の流体の流量を調整するためのバルブをPID(Proportional Integral Derivative)制御などのフィードバック制御により電子制御する技術が知られている。この技術による制御対象のバルブとして、例えば冷却水バルブが挙げられる。従来、冷却水バルブの制御において、フィードバック制御側則のゲインを調整することにより応答性を上げると、次第にオーバーシュートやアンダーシュートを生じるようになるという問題があった。
【0003】
このような問題に対し、電動式ウォーターポンプの吐出量による内燃機関の冷却水温の制御において、目標水温と測定水温との制御偏差の絶対値が閾値A以下であり、且つ水温の速度変化の絶対値が閾値B以上である場合に、冷却水の流量の制御に関して、補正流量を演算し、この補正制御流量を基本の制御則により算出された流量に加えることでオーバーシュートを抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、関連する技術として、モータの駆動において、高トルクにおいて起動を行うとともに目的の位置に近づいた時にブレーキをかける技術が知られている(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−190142号公報
【特許文献2】特開2000−333482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1及び特許文献2に記載の技術を、ロータリー式バルブによる流量の制御に適用する場合、それぞれ問題が生じる。
【0007】
例えば、ロータリー式バルブによる制御によって冷却水温を制御する場合、冷却水の目標温度と測定温度とに基づく温度制御を行い、この温度制御において算出された目標流量に基づいてロータリー式バルブの開度を算出し、この開度に基づくバルブ制御を行う。このような制御において、例えば冷却水温の制御によりエンジン温度を制御するような場合、温度制御のサンプル周期は1秒程度を必要としているため、バルブ制御のサンプル周期はそれ以下である必要がある。このような要求に対して、特許文献1に記載の技術における補正は、PI制御に目標温度近傍において先行型微分制御則を加えたものであり、そのためバルブ制御におけるロータリー式バルブを駆動するモータの角度制御の応答性が悪くなるという問題が生じる。
【0008】
また、ETB(Electric Throttle Body)と比較して大きなギア比を有するロータリー式バルブ(例えば、ETBが1:21に対しバルブが1:120)を用いる場合、特許文献2に記載の技術のように、大電流によりバルブを起動してブレーキをかけるようなバルブ制御を行うと、ギア等のロータリー式バルブの駆動に係る機械構造部分に負担が係るという問題が生じる。
【0009】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、バルブの駆動に係る機械構造部分に負担をかけることなく、オーバーシュートまたはアンダーシュートの抑制と応答性の向上とを両立することができる制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様は、流体の流量を調整するためのバルブを制御する制御装置であって、前記バルブの開度または前記バルブの所定時間後の予測開度を取得する開度取得部と、前記開度または前記予測開度が、前記バルブの制御に制動をかけるための制動条件を満たすか否かを判定する判定部と、前記開度または前記予測開度が前記制動条件を満たすと判定された場合、所定の制御則により算出される前記バルブを駆動し前記開度を変更するための操作量を、所定の比例制御則により算出される補正値で補正する補正部とを備える。
【0011】
また、本発明の一態様は、流体の流量を調整するためのバルブを制御する制御装置が行う制御方法であって、前記制御装置が、前記バルブの開度または前記バルブの所定時間後の予測開度を取得し、前記開度または前記予測開度が、前記バルブの制御に制動をかけるための制動条件を満たすか否かを判定し、前記開度または前記予測開度が前記制動条件を満たすと判定された場合、所定の制御則により算出される前記バルブを駆動し前記開度を変更するための操作量を、所定の比例制御則により算出される補正値で補正する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バルブの駆動に係る機械構造部分に負担をかけることなく、オーバーシュートまたはアンダーシュートの抑制と応答性の向上とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態に係るエンジン冷却システムを示す模式図である。
図2】ECUのハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】ECUの機能構成を示す機能ブロック図である。
図4】本実施の形態に係る操作量算出処理を示すフローチャートである。
図5】第1演算処理及び第2演算処理を説明するための模式図である。
図6】第1演算処理及び第2演算処理を説明するための模式図である。
図7】本実施の形態に係る操作量算出処理の別形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態においては、自動車等のエンジンを冷却水により冷却するエンジン冷却システムに用いられる冷却水制御バルブを制御する制御装置に本発明を適用した場合を例に取り説明を行う。なお、これに限定されるものではなく、液体または気体の流量を、バルブを用いて電子制御するシステムであれば本発明を適用できる。
【0015】
まず、本実施の形態に係るエンジン冷却システムについて説明する。図1は、本実施の形態に係るエンジン冷却システムを示す模式図である。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態に係るエンジン冷却システム1は、エンジン11、ウォータージャケット12、ウォーターポンプ13、冷却水バルブ21、モータ22、ポジションセンサ23、水温センサ24a,24b、ECU(Engine Control Unit)31、ラジエータ41、ヒータ42、スロットル43、メイン流路パイプ91、サブ流路パイプ92、バイパス流路パイプ93を備える。
【0017】
エンジン冷却システム1は、メイン流路パイプ91、サブ流路パイプ92、またはバイパス流路パイプ93を介して冷却水を循環させ、ウォータージャケット12によりエンジン11の温度を制御する。
【0018】
エンジン11は、自動車等の車両の内燃機関である。ウォータージャケット12は、エンジン11近傍に備えられ、その内部の冷却水によりエンジン11を冷却するものである。メイン流路パイプ91は、ラジエータ41に冷却水を流入させるものである。サブ流路パイプ92は、ヒータ42及びスロットル43に冷却水を流入させるものである。バイパス流路パイプ93は、ウォータージャケット12から流出した冷却水をウォーターポンプ13に流入させるものである。なお、ラジエータ41、ヒータ42及びスロットル43に流入した冷却水はウォーターポンプ13に流入する。ウォーターポンプ13は、ウォータージャケット12に冷却水を流入させるものである。ラジエータ41は、冷却水を冷却するものである。ヒータ42は、車室内を暖めるものである。スロットル43は、エンジン11への吸気の流入量を制御するものである。
【0019】
冷却水バルブ21は、流体(冷却水)の流量を調整するためのロータリー式のバルブであり、外周面の一部に開口部が設けられ、その開度によってメイン流路パイプ91及びサブ流路パイプ92へ冷却水を流入させるものである。モータ22は、冷却水バルブ21を駆動するアクチュエータとしての直流モータである。ポジションセンサ23は、冷却水バルブ21の周方向の位置を検出することにより、メイン流路パイプ91及びサブ流路パイプ92に対する冷却水バルブ21の開度を検出するものである。水温センサ24a,24bは、冷却水の温度を検出するものである。ECU31は、エンジン11に係る各種動作を制御するマイクロコントローラであり、本実施の形態においては、所謂モータ22の動作を操作するバルブコントローラとして以後説明を行う。
【0020】
前述したような構成により、冷却水は、メイン流路パイプ91を経由して循環することでラジエータ41により冷却され、バイパス流路パイプ93を経由する場合は冷却されずに循環する。また、エンジン冷却システム1は、冷却水バルブ21の開度により冷却水の循環経路を切り替え、また、メイン流路パイプ91への冷却水の流入量を制御することによりエンジン11の温度を制御する。
【0021】
次に、ECUのハードウェア構成について説明する。図2は、ECUのハードウェア構成を示すブロック図である。
【0022】
図2に示すように、ECU31は、CPU(Central Processing Unit)311、メモリ312、入出力インターフェイス313を備える。ECU31は、CPU311、メモリ312、入出力インターフェイス313を協働して冷却水バルブ21の制御に係る処理を行う。具体的には、入出力インターフェイス313を介して、ポジションセンサ23及び水温センサ24a,24b等の各種センサにより検出された情報を取得する。取得する情報としては、エンジン11の回転数、マニホールド圧力、ラジエータ41の冷却水温、上位装置から要求される目標としてのウォータージャケット12の目標水温、ウォータージャケット12の実水温等が挙げられる。なお、エンジン11の回転数、マニホールド圧力については予めメモリ312等に格納されていてもよい。これらの取得結果に基づいて、要求される目標水温とするための要求冷却水量を算出し、この要求冷却水量となるようなバルブ21の目標開度を算出する。この目標開度へ冷却水バルブ21の開度を導くために、後述する操作量算出処理により、モータ22の操作量を算出し、入出力インターフェイス313を介してモータ22の操作量に応じた信号を駆動回路25に出力する。この駆動回路25は、モータ22をPWM(Pulse Width Modulation)制御するPWM回路であり、入力された信号の大きさに応じてパルス幅のデューティ比を変更することによりモータ22を駆動する。
【0023】
なお、本実施の形態において、冷却水バルブ21の可動域は190°とし、モータ22の駆動に係る分解能を240とする。よって、本実施の形態においては、0.344度単位で冷却水バルブ21の開度を制御することとなる。また、操作量を正方向に増加させた場合に冷却水バルブ21は開方向に制御されるものとする。また、冷却水バルブ21の制御は、所定のサンプリング周期でなされるものとする。
【0024】
次に、本実施の形態の理解を容易にするため、前述した操作量算出処理の概要を簡単に説明する。本実施の形態に係る操作量算出処理は、冷却水バルブ21の所定時間後の開度である予測開度(例えば、次サンプル時における冷却水バルブ21の開度)が、目標開度近傍となった場合に、モータ22により冷却水バルブ21を駆動し、その開度を変更するための操作量を算出する現制御則の構成を、位置型から速度型に切り替える処理である。この位置型から速度型への切り替えは、現制御則に比例制御則(比例制御演算)及び微分制御則(微分制御演算)を追加する、即ち、Pゲイン+Dゲインによって、冷却水バルブ21の制御に制動をかけることによりなされる。より具体的には、比例制御則により算出される補正値と微分制御則により算出される補正値とで、現制御則により算出される操作量を補正するものである。なお、本実施の形態においては、補正される操作量が、駆動回路25に入力されるものとして以後説明する。このような操作量算出処理は、ECU31が有する各機能により実現される。
【0025】
次に、ECU31の機能構成について説明する。図3は、ECUの機能構成を示す機能ブロック図である。図3に示されるように、ECU31は、情報取得部101、角度算出部102、判定処理部103、操作量補正部104を機能として備える。なお、これらの機能は、上述したCPU311及びメモリ312等のハードウェア資源が協働することにより実現される。
【0026】
情報取得部101は、操作量算出処理に係る各種情報を取得するものであり、例えば、ポジションセンサ23により検知された現サンプルの冷却水バルブ21の実開度、冷却水バルブ21の駆動方向(開方向または閉方向)を取得する。駆動方向は、冷却水バルブ21の開度の変動により判定され、これを取得する。例えば、現サンプルの実開度と前回サンプルの実開度とから方向を算出する。なお、図示しないセンサにより検知されたものを取得するようにしてもよい。また、情報取得部101は、前述した要求冷却水量に基づいて設定された目標開度や、冷却水バルブ21の駆動制御に制動をかけるための係数であって、目標開度に対する実開度の割合である制動係数を取得する。本実施の形態においては、図示しないROM(Read Only Memory)等の不揮発性記憶媒体に制動係数が記憶されているものとする。
【0027】
角度算出部102は、情報取得部101により取得された実開度、目標開度、及び制動係数に基づいて制動開始開度を算出するものである。制動開始開度は、冷却水バルブ21の駆動制御に制動を加える始める目安となる開度を示すしきい値である。
【0028】
判定処理部103は、操作量算出処理に係る各種の判定や、予測開度の算出、制動開始開度と駆動方向とに基づいた制動条件の作成を行うものである。各種の判定としては、実開度または予測開度が制動条件を満たすか否かの判定や、目標開度に変更があるか否かの判定を行う。予測開度は、実開度に基づいて算出される。なお、実開度と現制御則により算出された操作量とから算出してもよく、現サンプルの実開度と前回サンプルの実開度とからその増減の割合に応じて算出する等、次サンプル時の実開度が算出できればよい。作成する制動条件は、冷却水バルブ21の制御に制動をかけるための条件であり、本実施の形態においては、駆動方向が開方向である場合、予測開度が制動開始開度以上、前記目標開度未満が制動条件となる。一方、駆動方向が閉方向である場合、予測開度が目標開度を超え、制動開始開度以下が制動条件となる。
【0029】
操作量補正部104は、予測開度が制動条件を満たすと判定された場合、所定の制御則により算出される冷却水バルブ21を駆動し実開度を変更するための操作量を、所定の比例制御則により算出される補正値と、所定の微分制御則により算出された補正値とを合わせた補正値で補正するものである。また、操作量補正部104は、比例制御則演算により算出された補正値に関し、所定の一次遅れ要素を用いてフィルタリングする。
【0030】
次に、ECU31による操作量算出処理の詳細を説明する。図4は、本実施の形態に係る操作量算出処理を示すフローチャートである。なお、本実施の形態における操作量算出処理は、サンプル毎に実行されるものであり、図示しないイグニッションキースイッチがオフ(所謂Key Off)後に学習時間を経て冷却水バルブ21が全閉となるまで、継続して実行される。また、目標開度が設定されたことをトリガーとして操作量算出処理は実行される。
【0031】
先ず、図4に示されるように、情報取得部101は、実開度、目標開度、制動係数、駆動方向、を取得する(S101)。取得後、角度算出部102は、実開度、目標開度、制動係数に基づいて制動開始開度を算出する(S102)。制動開始開度を算出する方法としては、目標開度と実開度との制御偏差に制動係数を乗じ、該乗じた結果に実開度を加えて算出することが好ましい。なお、制動係数は90%が好ましい。この算出された制動開始開度は、目標開度が変更となるまで保持される。
【0032】
算出後、判定処理部103は、目標開度に変更があるか否かを判定する(S103)。目標開度に変更がある場合(S103,YES)、角度算出部102は、予め保持された制動開始開度をステップS102にて算出された制動開始開度により更新し(S104)、ステップS105の制動条件を作成する処理へ移行する。なお、初回サンプル時等で予め保持された制動開始開度がない場合は、単にステップS102にて算出された制動開始開度が選択される。一方、目標開度に変更がない場合(S103,NO)、保持された制動開始開度を選択し、ステップS105の制動条件を作成する処理へ移行する。
【0033】
なお、前述したように制動開始開度が保持される機能は、制動開始開度を示す出力信号がEnabled Subsystemといった要素に入力されることにより実現される。Enabled Subsystemといった要素により制動開始開度が保持されている場合、例えば、入力されるenable信号が0以外の場合は、その出力が入力信号と同一となる。即ち、算出された制動開始開度が出力される。一方、enable信号が0の場合は、0以外の状態の入力が保持され、保持されている制動開始開度が出力されことで、前述した処理を実現する。なお、enable信号が0の場合にresetするようにしてもよい。
【0034】
次に、判定処理部103は、実開度に基づいて予測開度を算出し、目標開度が変更された場合、制動開始開度と、駆動方向と、により制動条件を作成する(S105)。例えば、判定処理部103は、情報取得部101により取得された駆動方向が開方向である場合、予測開度が制動開始開度以上、前記目標開度未満を制動条件とする。一方、駆動方向が閉方向である場合、予測開度が目標開度を超え、制動開始開度以下を制動条件とする。
【0035】
なお、制動条件はこれに限るものではなく、冷却水バルブ21が過渡状態であることを制動条件に含むようにしても良い。例えば、駆動方向が開方向である場合、予測開度が制動開始開度以上であり且つ過渡状態であることを制動条件とする。一方、駆動方向が閉方向である場合、予測開度が制動開始開度以下であり且つ過渡状態であることを制動条件とする。過渡状態であるか定常状態であるかは、制御偏差が0であるか否かの判定、制御偏差の絶対値が3LSB以内であること等、定常状態か過渡状態かを判断できる処理であれば、何を用いても良い。
【0036】
この制動条件作成処理において、目標開度が変更されていない場合、過去の目標開度に基づいて作成された制動条件があるため、これを選択する。なお、変更されていない目標開度に基づいて再度制動条件を作成するようにしてもよい。
【0037】
制動条件作成後、判定処理部103は、予測開度が制動条件に満足するか否かを判定する(S106)。判定後、操作量補正部104は、補正値を算出する処理を行う(S107)。この処理は、目標開度と実開度の偏差に基づいて、所謂、比例制御則演算及び微分制御則演算を行い、これら演算結果を足し合わせる処理である。補正値算出後、判定処理部103は、ステップS106における制動条件判定の判定結果を受け、予測開度が制動条件を満たすか否かを判定する(S108)。制動条件を満たさない場合(S108,NO)、操作量補正部104は、第1演算処理を行うことにより、操作量を算出し、駆動回路25に与える(S109)。第1演算処理は、現制御則により操作量を算出するものであり、例えば、実開度と目標開度との偏差に基づく一般的なフィードバック制御則演算により操作量を算出する。
【0038】
一方、制動条件を満たす場合(S108,YES)、操作量補正部104は、第2演算処理を行うことにより、操作量を算出し、駆動回路25に与える(S110)。第2演算処理は、ステップS108における補正値の算出結果を現制御則による演算結果に加える処理である。これにより、現制御則により算出される操作量に比例制御則により算出される補正値及び微分制御則により算出される補正値で補正をかけることができ、冷却水バルブ21の制御に制動をかけることが可能となる。第1演算処理または第2演算処理後、対象を次サンプルに移行し(S111)、再度ステップS101の制御情報取得の処理が行われ、本フローはサンプル毎に繰り返される。
【0039】
ここで、ステップS108乃至ステップS110にかけて実行される処理の概念を、図を用いて説明する。図5及び図6は、第1演算処理及び第2演算処理を説明するための模式図である。なお、図5に示されるeVOSDは、目標開度と実開度との偏差を示し、51は比例制御則を示す。また、52は微分制御則を、53は制動条件を満たすか否かの判定をそれぞれ示し、図6に示される54は現制御則を示す。
【0040】
図5に示されるように、偏差eVOSDに基づいて、それぞれ比例制御則51及び微分制御則52による各演算がなされ、それぞれの結果が足し合わされる。その後、足し合わされた補正値を出力するか、0を出力(即ち制動制御を0)するかが、制動条件を満たすか否かの結果に基づいて切り替わる。ここで、gainCは目標開度であること(または定常状態であること)を示し、getTargetは予測開度が制動開始開度以上または制動開始開度以下であることを示す。即ち、これらはステップS107における制動条件判定の処理結果である。これらの値により出力が切り替わる。例えば、目標開度であり、予測開度が制動開始開度以上(駆動方向が開方向である場合)であれば、AND要素にそれぞれ1が加えられ、補正値が出力されるようにスイッチが切り替わる。なお、図5に示されるゲイン等の値は単なる例示に過ぎず、これに限定されるものではない。
【0041】
このようにして算出された補正値は、図6に示されるように、目標開度と実開度との偏差に基づくフィードバック制御則演算がなされ、その結果を補正値により補正される。一方、制動条件を満たさない場合であれば、図5に示されるように制動制御0(停止信号)が補正値として出力されるため、現制御則のみによる操作量の演算がなされることになる。
【0042】
ここで、図5では、比例制御則演算において、1st Order Discrete Fillter(1次遅れフィルタ)を用いて、比例制御則演算により算出された値を、フィルタリングしているが、この要素を除くように構成したとしても、前述した効果を奏することができる。同様に、微分制御則演算を加えているが、状況に応じて加えるようにしてもよく、除いたとしても、前述した効果を奏することは可能である。
【0043】
本実施の形態によれば、制御則に制動としてのPもしくはPD制御が加わるため、制御ゲインを上げても制動が加わるため、オーバーシュートやアンダーシュートを抑制できると共に応答性を向上させる(応答時間を短縮させる)効果を奏する。また、モータに反転電流を印加する所謂ブレーキ制御と比較して、機械構造部分への負担を軽減できると共に、比例ゲイン(または比例ゲイン+微分ゲイン)を追加するだけであるため、キャリブレーションの簡便化を図れる。更には、Key Off後の学習時間、量産時の設定・検査時のタクトをも短縮できる。
【0044】
なお、図4に示される操作量算出処理における各ステップで実行される処理の順番は、これに限定されるものではなく、適宜変更しても良い。例えば、制動開始開度の算出や補正値の算出後に各種判定を行うと説明したが、これら算出を各種判定後に行うようにしてもよい。
【0045】
図7は、本実施の形態に係る操作量算出処理の別形態を示すフローチャートである。図7に示されるように、ステップS101における制御情報取得の処理後に、ステップS103の目標開度に変更があるか否かの判定を行う。目標開度に変更があれば(S103,YES)、ステップS102における制動開始開度算出、ステップS104における制動開始開度更新が行われ、ステップS105における制動条件作成の処理に移行する。一方、目標開度に変更がなければ(S103,NO)、保持された制動開始開度が選択され(S112)、ステップS105における制動条件作成の処理に移行する。
【0046】
作成後、ステップS105における制動条件の作成、ステップS106における制動条件の判定が行われる。次いで、ステップS108における予測開度が制動条件を見たすか否かの判定が行われ、満たさないのであれば(S108,NO)、ステップS109における第1演算処理が行われる。一方、満たすのであれば(S108,YES)、ステップS107における補正値の算出、ステップS110における第2演算処理が行われる。このように、制動開始開度の算出や補正値の算出を各種判定前に行うようにすれば、判定結果によって生じる算出結果の不使用を回避でき、ECU31の負荷を低減できる。
【0047】
本実施の形態では、予測開度を制動条件の対象として説明したが、これに限定されるものではなく、実開度を対象としても良い。このような場合、制動係数を低める補正(例えば80%)を行い、駆動方向が開方向であれば制動開始開度を低くし、駆動方向が閉方向であれば制動開始開度を高くする。
【0048】
本発明は、その要旨または主要な特徴から逸脱することなく、他の様々な形で実施することができる。そのため、前述の実施の形態は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、何ら拘束されない。更に、特許請求の範囲の均等範囲に属する全ての変形、様々な改良、代替および改質は、全て本発明の範囲内のものである。
【0049】
なお、特許請求の範囲に記載の制御装置は、例えば前述の実施の形態におけるECU31に対応する。また、開度取得部及び方向取得部は、例えば情報取得部101に対応し、算出部は、例えば角度算出部102に対応する。また、判定部は、例えば条件判定部103に対応し、補正部は、例えば操作量補正部104に対応する。一次遅れ要素は、例えば一次遅れフィルタに対応し、開始開度は、例えば制動開始開度に対応する。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン冷却システム、11 エンジン、12 ウォータージャケット、13 ウォーターポンプ、21 冷却水バルブ、22 モータ、23 ポジションセンサ、24a,24c 水温センサ、31 ECU、41 ラジエータ、42 ヒータ、43 スロットル、51 比例制御則、52 微分制御則、53 制動条件を満たすか否かの判定、91 メイン流路パイプ、92 サブ流路パイプ、93 バイパス流路パイプ、101 情報取得部、102 角度取得部、103 判定処理部、104 操作量算出部、311 CPU、312 メモリ、313 入出力インターフェイス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7