特許第6200669号(P6200669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200669
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】電気接点材料
(51)【国際特許分類】
   H01H 1/021 20060101AFI20170911BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20170911BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20170911BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20170911BHJP
   C22C 29/08 20060101ALI20170911BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20170911BHJP
   H01H 11/04 20060101ALN20170911BHJP
   C22C 1/05 20060101ALN20170911BHJP
   B22F 3/26 20060101ALN20170911BHJP
   C22C 1/10 20060101ALN20170911BHJP
【FI】
   H01H1/021 101
   C22C27/04 101
   C22C5/06 C
   C22C9/00
   C22C29/08
   C22C1/08 F
   !H01H11/04 D
   !C22C1/05 S
   !B22F3/26 D
   !C22C1/10 D
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-66735(P2013-66735)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-192007(P2014-192007A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白谷 正治
(72)【発明者】
【氏名】久保 祐二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寧記
(72)【発明者】
【氏名】案浦 康徳
(72)【発明者】
【氏名】尾家 百代
【審査官】 関 信之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/053486(WO,A1)
【文献】 特開昭61−009539(JP,A)
【文献】 特開2002−294384(JP,A)
【文献】 特開平2−054819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 1/021
C22C 1/08
C22C 5/06
C22C 9/00
C22C 27/04
C22C 29/08
B22F 3/26
C22C 1/05
C22C 1/10
H01H 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気接点に用いる材料であって、
WCである第1成分と、
CuおよびAgから選択する第2成分と、
Ca、Sr、Ba、Mgおよび希土類金属のいずれかのホウ酸化物から選択する少なくとも1種または2種以上の第3成分と、
C、Cr、Co、Ni、Fe、VおよびPの単体またはいずれか2種以上からなる化合物からなる群から選択する少なくとも1種または2種以上から選択する第4成分
とを含有する電気接点材料。
【請求項2】
前記電気接点材料が直流電流遮断用電気接点材料である、請求項1に記載の電気接点材料。
【請求項3】
前記電気接点材料が直流電流遮断用電気接点の陰極材料である、請求項2に記載の電気接点材料。
【請求項4】
前記第1成分が20〜90質量%、
前記第2成分が80〜20質量%、
前記第3成分と前記第4成分が合せて0.1質量%以上14質量%以下である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【請求項5】
前記第1成分の平均粒子径と、前記第3成分の平均粒子径が共に20μm以下である
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【請求項6】
前記第1成分、前記第3成分および前記第4成分が連続した開気孔を有する多孔質体の形状を有し、
前記第2成分を開気孔中に充填した構造を有する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【請求項7】
前記第2成分のマトリックス中に、
前記第1成分および前記第3成分および前記第4成分が分散した構造を有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【請求項8】
気孔率が10%以下である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【請求項9】
導電率が10%IACS以上である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器や電気回路等の接点に利用される電気接点材料に関し、特に直流電気回路の遮断器、断路器および開閉器等の各種開閉機器の接点に最適な電気接点材料に関する。
【背景技術】
【0002】
送配電や受配電網などの高圧大電流回路に使用する遮断器、断路器および開閉器等には、タングステン(以後W)と銅(以後Cu)の複合材料、Wと銀(以後Ag)の複合材料、炭化タングステン(以後WC)とAgの複合材料を用いた電気接点などが数多くの提案されている。
【0003】
大電流の開閉時には、開閉する二つの電気接点間にアーク(電弧)が生じる。
【0004】
いったん接点の開閉により生じたアークは、消弧までには時間がかかる。アークの両端となる接点部分は、消弧までの間に連続的に高熱にさらされる。この現象は、装置内をアークが消失しやすい雰囲気(例えばSFガス中)で満たしても解決されていない。
【0005】
接点材料は良導体の必要がある。それに加えて、電気接点はアークによって溶融・蒸発しにくい材料を用いる必要がある。単一素材を用いての前記問題の解決は難しい。そこで、良導体と高融点・高沸点の材料を組み合わせたCu−W材料、Ag−W材料、Ag−WC材料がその用途に主に用いられている。
【0006】
優れた耐酸化性を有するAg−WC材料は中負荷の気中開閉器に、比較的優れた耐酸化性を有するAg−W材料は高負荷用の気中開閉器に、耐酸化性は劣るものの優れた耐消耗性を有すCu−W材料は、油中、ガス、真空遮断器において優れた機能を発揮する。
【0007】
一方、電流を遮断しない通電用接点としては、CuまたはAgなどの材料が使用されている。低圧用の気中遮断器、配線用遮断器のうち、大容量のものにはアーキングチップとしてAg−W材料、Ag−WC材料などが使用されている。メインコンタクト(主接点)としては、Ag−ニッケル(以後Ni)が使用されている。また、中容量以下のアーク・通電兼用接点としては、優れた通電性および耐溶着性を有するAg−WC材料、Ag−酸化カドミニウム(以後CdO)材料などが多用されている。
【0008】
また、風力や太陽光など自然エネルギーを利用した発電や電力損失の少ない直流送電、電気自動車などに使用される車載リレーなど直流での遮断が行なわれるケースも増えてきている。
【0009】
解決されていない問題は、電気接点のアーク開閉による蒸発・消耗が大きく、寿命が十分でないことである。
【0010】
特許文献1および特許文献2は、いずれもホウ化物を添加することでアーク発生点の分散を試みているが、ホウ化物を使用すると高融点材料の焼成を阻害し、電気接点材料内部にスポットを生じさせるため、耐消耗性が悪くなる問題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−294384号公報
【特許文献2】特開2003−203543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の技術的課題は、電気接点の開閉により発生するアークに対しての消耗の少ない電気接点材料を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電気接点材料は、電気機器、電気回路の接点に用いる材料であって、高融点材料であるWおよびWCから選択する第1成分と、高電気伝導材料であるCuまたはAgかから選択する第2成分と、仕事関数の低い材料であるカルシウム(以後Ca)、ストロンチウム(以後Sr)、バリウム(以後Ba)、マグネシウム(以後Mg)および希土類金属のそれぞれのホウ酸化物から選択する少なくとも1種の第3成分と、接点の強度を向上させ接触抵抗を低減する材料であるカーボン(以後C)、クロム(以後Cr)、コバルト(以後Co)、Ni、鉄(以後Fe)、リン(以後P)、バナジウム(以後V)およびこれらの化合物からなる群から選択する少なくとも1種または2種以上の第4成分とを含有する。
【0014】
本発明の電気接点材料は、前記第1成分が20〜90質量%、前記第2成分が80〜10質量%からなり、かつ前記第3成分および前記第4成分が合せて0.1〜14質量%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の電気接点材料の材料組織は大きく以下の2つに分類できる。
(組織1)前記第1成分、前記第3成分および前記第4成分が連続した開気孔を有する多孔体構造を有し、前記第2成分を前記開気孔に充填した材料組織
(組織2)前記第2成分マトリックス中に前記第1成分、前記第3成分および前記第4成分が分散している材料組織
本発明の電気接点材料の材料組織は、上のいずれでも構わない。
【0016】
本発明の電気接点材料は、前記多孔体は前記第1成分の平均粒子径、前記第3成分の平均粒子径が共に20μm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の電気接点材料は、前記第1成分はアルミニウム、カリウムおよびシリコンからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素がドープされていることを許容する。
【0018】
本発明の電気接点材料は、前記第2成分はCr、Co、Ni、Fe、Pからなる群から選択する少なくとも1種の金属と合金化していることを許容する。
【0019】
本発明の電気接点材料は、気孔率が10%以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の電気接点材料は、導電率が10%IACS以上であることが好ましい。
【0021】
本発明係る電気接点材料は、特に直流電流遮断用電気接点として使用に適している。また、その際は、特に陰極としての使用が適している。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば電流遮断による電気接点の体積消耗量を減少させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】試験片を電気開閉装置の可動側、固定側として接合した可動側を陽極、固定側を陰極とした試験回路の簡易図
図2図1で遮断試験を行った後の試験片の体積消耗量の比較グラフ
図3】試験片を電気開閉装置の可動側、固定側として接合した可動側を陰極、固定側を陽極とした試験回路の簡易図
図4図1および図3で遮断試験を行った後の試験片の体積消耗量の比較グラフ
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
この電気接点材料は、高融点材料であるW、WCから選択する第1成分と、高電気導電材料であるCuおよびAgから選択する第2成分と、仕事関数の低い材料であるCa、Sr、Ba、Mgおよび希土類金属のそれぞれのホウ酸化物から選択する少なくとも1種の第3成分と、接点材料の強度に影響し、接触抵抗を低減させる材料であるC、Cr、Co、Ni、Fe、P、Vおよびこれらの化合物からなる群から選択する少なくとも1種または2種以上の第4成分とを含有する。
仕事関数の低いホウ化物や酸化物は放電特性を改善することで知られているが、ホウ酸化物はより一層の放電特性の改善をもたらす。また、ホウ酸化物はホウ化物や酸化物に比べ電気接点材料の緻密化を阻害しない。従って、前記第3成分はホウ酸化物とした。また、前記第4成分を加えるのは、電気接点材料に適切な強度を与えることで破損や変形の対策となり、電気接点材料の接触抵抗を低減するためである。
前記第1成分の配合割合は、前記第1成分が20〜90質量%、前記第2成分が80〜10質量%からなり、かつ前記第3成分および前記第4成分の合計が0.1質量%〜14質量%であることが好ましい。
【0026】
本発明に係る電気接点材料において、材料組織は大きく以下の2つに分類できる。
(組織1)前記第1成分、前記第3成分および前記第4成分が連続した開気孔を有する多孔体構造を有し、前記第2成分が前記開気孔に充填した材料組織
(組織2)前記第2成分のマトリックス中に前記第1成分、前記第3成分および前記第4成分が分散している材料組織
本発明に係る電気接点材料の材料組織は、上のいずれでも構わない。
前記多孔体は、前記第1成分中に前記第3成分および前記第4成分が分散した組織を有することが好ましい。
特に、前記多孔体は前記第1成分の平均粒子径、前記第3成分の平均粒子径が共に20μm以下であることが好ましい。
前記多孔体の前記第1成分の平均粒子径が20μmを超えると、材料組織が不均質になり、良好な特性を発現することが困難になるおそれがある。前記多孔体の第3成分の平均粒子径が20μmを超える平均粒子径で存在すると、耐アーク特性のばらつきが大きくになるおそれがある。平均粒子径10μm以下であれば求める特性がより得られやすい。
【0027】
前記第1成分が20質量%以上であれば、耐アーク特性が高く保てる。一方、前記第1成分が90質量%以下であれば、導電率が10%IACS以上を保てる。前記第1成分の配合量は30〜70質量%、前記第2成分は70〜30質量%であれば求める特性が得られやすい。
【0028】
前記第3成分と前記第4成分の合計が14質量%以下であれば、材料組織が不均質になりにくく、特性のばらつきが少なくなる傾向にある。前記第3成分と前記第4成分の合計が0.1%以上であれば、求める特性が得られやすい。
【0029】
本発明の電気接点材料は、気孔率が10%以下であれば、耐アーク特性が得られやすい。気孔率が5%以下であれば求める特性は得られやすい。
【0030】
本発明の電気接点材料は、導電率が10%IACS以上であれば、通電時の発熱が少なくなるために、耐温度上昇特性がより得られやすい。

次に、本発明に係る電気接点材料の製造方法の一例を説明する。
【0031】
まず、高融点材料であるW、WCのいずれから選択する第1成分の粉末と、仕事関数の低い材料であるCa、Sr、Ba、Mgおよび希土類金属のそれぞれのホウ酸化物から選択する少なくとも1種の第3成分の粉末と、材料の強度に影響し、接触抵抗を低減する材料であるC、Cr、Co、Ni、Fe、P、Vおよびこれらの化合物からなる群から選択する少なくとも1種または2種以上の第4成分の粉末とを混合し、成形した後、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、または真空雰囲気のいずれかの雰囲気中にて焼成して、前記第1成分に前記第3成分および前記第4成分が分散した多孔体を作製する。前記第4成分は、前記単体でもよいし、例えばNiPやVCなどの化合物としてもよい。
【0032】
ホウ酸化物粉末については前述のホウ酸化物から選択するホウ酸化物粉末を準備する。
【0033】
本実施形態のホウ酸化物粉末はCa、Sr、Ba、Mgや希土類金属の酸化物あるいは炭酸化物と炭化ホウ素や炭酸ホウ素などのホウ素を有する物質とを混合し、酸化雰囲気中で熱処理を行うことによって得ることができる。
【0034】
前記第1成分の粉末は、平均粒子径が1〜20μmのものを用いることが好ましい。
【0035】
前記第3成分の粉末は、平均粒子径が1〜20μmのものを用いることが好ましい。
【0036】
前記焼成時の温度は、前記第1成分がWである場合、1000〜1500℃、第1成分がWCである場合、800〜1300℃にすることが好ましい。焼成温度を前記焼成条件で製造すると良好な機械的特性を得られやすい。
【0037】
次いで、前記多孔体とCuおよびAgのいずれから選択し、粉末状、粒子状、ペレット状およびプレート状のいずれかの形態を持つ第2成分とを例えばルツボのような容器に収容し、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、または真空雰囲気のいずれかの雰囲気中にて、適当な温度で加熱して前記多孔体に前記第2成分を溶浸することによって電気接点材料を製造する。
【0038】
前記第2成分を溶浸するための加熱温度は、第2成分がCuである場合、1080℃以上、第2成分がAgである場合、960℃以上であることが好ましい。第2成分がCuである場合、前記加熱温度を1080℃未満にするとCuを前記多孔体に十分に溶浸させることが困難になる。第2成分がAgである場合、前記加熱温度を960℃未満にするとAgを前記多孔体に十分に溶浸させることが困難になる。温度が高すぎると材料内部に気孔が生じやすくなるため、第2成分がCuである場合1080〜1180℃、第2成分がAgである場合960〜1060℃であることが好ましい。
【0039】
また、本発明に係る電気接点材料は前記第1成分、前記第2成分、前記第3成分および前記第4成分を混合、成形した後、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、または真空雰囲気のいずれかの雰囲気中にて、例えば900〜1000℃の温度で焼成することによっても製造することが可能である。
【0040】
以上に説明したように、本発明によれば高融点材料である前記第1成分と高電気伝導材料である前記第2成分、および接点の強度や接触抵抗に影響する材料である前記第4成分の系に前記第3成分として仕事関数が低く、高電子放出特性の高いホウ酸化物を配合、例えば前記第1成分中に分散させることにより、アークを分散させて、第2成分であるCuまたはAgの選択的な欠損を抑制させ、第1成分の脱落、損耗を大幅に低減できるため、耐アーク特性を向上できる。
【0041】
また、極性が一定である直流遮断の場合、電子を放出する陰極側に仕事関数の低いホウ酸化物を含む電気接点を使用することで、アークを分散させて耐アーク特性を向上できる。
【0042】
また、主材料が高融点材料である前記第1成分と高電気伝導材料である前記第2成分からなるため、耐溶着性に優れ、接触抵抗が低く、かつ良好な電気伝導性を有する。
【0043】
したがって、本発明によれば耐溶着性に優れ、接触抵抗が低く、かつ良好な電気伝導性を有するとともに、優れた耐アーク特性を有する電気接点材料を提供することができる。
【実施例】
【0044】
(電気接点材料試料の作製)
以下、本発明に係る電気接点材料の好ましい実施例を説明する。
【0045】
まず、平均粒子径が4μmのW粉末、平均粒子径が1μmの粉末状のNiおよび平均粒子径が7μmの粉末状のホウ酸化ストロンチウム粉末を用意した。
【0046】
前記ホウ酸化ストロンチウムは、平均粒子径が5μmのSrBOとBとを質量比で2:1の割合で混合し、大気雰囲気にて1050℃で30分間焼成して得られたものを使用した。
【0047】
これらの粉末を、ヘンシェルミキサーにて30分間混合し、混合粉末を得た。このとき、ホウ酸化ストロンチウムの配合量を変更することで6種類の粉末を製作した。
【0048】
次に混合粉末を50MPaの圧力にて金型プレスを行い、板状の成形体を得た。
【0049】
耐熱容器に成形体が十分収まる凹状部の部位を設けてその中に成形体を設置し、H雰囲気1150℃にて60分間焼結を行なうことによって、連続した開気孔を有する多孔体を得た。
【0050】
この多孔体上に、溶浸には十分量の板状のCuを設置し、この状態でH雰囲気、1100℃にて20分間溶浸を行い、前記連続した開気孔中にCuを充填した構造の電気接点材料を得た。
【0051】
得られた材料から溶浸しきれなかった余分なCuを取り除き、フライス盤にて切削加工を行なって直方体の試験片に成形し、試験に用いる電気接点を作製した。WとNiの合計質量は70質量%、溶浸したCuは30質量%であった。また、WとNiはそれぞれ69.6質量%、0.4質量%であった。この試験片の気孔率は3%未満であった。この試験片の導電率を測定したところ、導電率は50%IACSであった。
【0052】
前記電気接点に含まれるホウ酸化ストロンチウムは0質量%を比較試料1とし、0.1質量%、0.5質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%と添加した試料を、それぞれ、試料1〜試料5とした。
【0053】
前記試料1〜5の断面をXRD(X線回折)で組成分析すると、Niは単体としては観察できなかった。ホウ酸化物をXRDにて測定したところ、ピーク強度比で90%のSrと、10%のSrBがみられた。
【0054】
前記比較例1および試料例1〜5を直方体の真鍮の台座に、JIS規格で定められるろう材BAg−24でろう付を行ったものを試験片として、2種類の電気試験を実施した。

(実施例1)
実施例1として、可動側を陽極、固定側を陰極とし、同じ試験片を使い、試験電圧をAC230V、試験電流2500A、通電時間0.5サイクル、試験間隔30秒、接点サイズ2mm×5mm×5mmという条件で遮断試験を5回行い、試験片の質量損耗量から体積損耗率を算出して比較を行った(図1、2)。
【0055】
比較試料1に比べて試料1の陰極は明らかに消耗が少なく、また試料2の陰極は約65%、試料3〜5の陰極は約40%の消耗量となり、特に試料4が最も消耗が少ない結果となった。また、図には示していないが、比較試料にホウ酸化ストロンチウムを5質量%加えた試料を製作し、同様の試験を行った結果、比較試料1に比べて約80%の消耗量となった。

(実施例2)
極性の影響と可動側固定側の影響を比較するために、試料4(ホウ酸化ストロンチウム1.5質量%)を使用し、極性を入れ替えて実施例1と同様の試験を行った。(図3、4)
試験結果より、可動固定に関わらず、陰極側の体積消耗量が陽極側の体積消耗量と比較して60%〜70%に抑えられることがわかった。

(実施例3)
実施例3として、可動側を陽極、固定側を陰極とし、実施例1と同じ試験片を使い、試験電圧をAC230V、試験電流100A、通電時間1秒、試験間隔2秒、試験片サイズ2mm×8mm×8mmという条件で開閉試験を20,000回行い、試験片の接触抵抗を比較した。
【0056】
前記試料1〜5は前記比較試料1と比べて接触抵抗の増加が低く、20,000回開閉後の接触抵抗値は比較試料1の70%程度まで低下した。
前記実施例1〜3のいずれの試験においても溶着は発生しなかった。

(実施例4)
前記実施例1で使用した試験片のW部分をWCに入れ替えた試験片を比較試料2、試料6〜10として試験を実施した。
比較試料2に比べて試料6の陰極は明らかに消耗が少なく、また試料7の陰極は約65%、試料8〜10の陰極は約40%の消耗量となり、特に試料4が最も消耗が少ない結果となった。

(実施例5)
前記実施例3で使用した試験片のW部分をWCに入れ替えた試験片を比較試料2、試料6〜10として試験を実施した。
前記試料6〜10は前記比較試料2と比べて接触抵抗の増加が低く、20,000回開閉後の接触抵抗値は比較試料2の70%程度まで低下した結果となった。
前記実施例4、5のいずれの試験においても溶着は発生しなかった。

(実施例6)
まず平均粒子径が2μmのW粉末(第1成分)と、平均粒子径が2μmのAg(第2成分)、平均粒子径が7μmのホウ酸化ストロンチウム粉末(第3成分)、平均粒子径が100μm以下のC粉末と平均粒子径が2μmのVC粉末(第4成分)をヘンシェルミキサーにて30分間混合し、混合粉末を得た。このとき、ホウ酸化ストロンチウムの配合量を変更することで6種類の粉末を製作した。
【0057】
次に混合粉末を50MPaの圧力にて金型プレスを行い、板状の成形体を得た。
【0058】
耐熱容器に成形体が十分収まる凹状部の部位を設けてその中に成形体を設置し、H雰囲気1150℃にて60分間焼結を行なうことによって、Ag中にW粒子、ホウ酸化ストロンチウム粒子およびC粒子が分散した構造を有する材料を得た。
得られた材料を金型に入れ、圧力をかけ高密度化した後に、フライス盤にて切削加工を行なって直方体の試験片に成形し、試験に用いる電気接点を作製した。WCと第4成分の合計質量は21質量%(WC12質量%、C3質量%、VC6質量%)、Agの質量は79質量%であった。この試験片気孔率は3%未満であった。この試験片の導電率を測定したところ、導電率は40%IACSであった。
【0059】
前記電気接点に含まれるホウ酸化ストロンチウムは第1成分および第2成分と比較して0質量%を比較試料3とし、0.1質量%、0.5質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、5.0質量%であり、それぞれ、試料11〜試料16とする。
【0060】
前記試料11〜16の断面をEPMA(電子線マイクロアナライザ)にて観察すると、ホウ酸化物はその大部分がAgとWCの粒界に存在していることが確認された。ホウ酸化物をXRDにて測定したところ、ピーク強度比で90%のSrと、10%のSrBがみられた。
【0061】
前記比較例3および試料例11〜16を使用して実施例1と同じ試験を実施した。
試験の結果は、比較試料3に比べて試料11はほとんど変わらず、試料12は約90%、試料13〜16は約80%、試料16は約90%の消耗量となり、特に試料14が最も消耗が少なかった。
【0062】
前記試料11〜16は前記比較試料3と比べて接触抵抗の増加が低く、20,000回開閉後の接触抵抗値は比較試料4の80%程度まで低下した。
試料の11〜16は、いずれの試験においても溶着が発生しなかった。
図1
図2
図3
図4