【0026】
本発明に係る電気接点材料において、材料組織は大きく以下の2つに分類できる。
(組織1)前記第1成分、前記第3成分および前記第4成分が連続した開気孔を有する多孔体構造を有し、前記第2成分が前記開気孔に充填した材料組織
(組織2)前記第2成分のマトリックス中に前記第1成分、前記第3成分および前記第4成分が分散している材料組織
本発明に係る電気接点材料の材料組織は、上のいずれでも構わない。
前記多孔体は、前記第1成分中に前記第3成分および前記第4成分が分散した組織を有することが好ましい。
特に、前記多孔体は前記第1成分の平均粒子径、前記第3成分の平均粒子径が共に20μm以下であることが好ましい。
前記多孔体の前記第1成分の平均粒子径が20μmを超えると、材料組織が不均質になり、良好な特性を発現することが困難になるおそれがある。前記多孔体の第3成分の平均粒子径が20μmを超える平均粒子径で存在すると、耐アーク特性のばらつきが大きくになるおそれがある。平均粒子径10μm以下であれば求める特性がより得られやすい。
【実施例】
【0044】
(電気接点材料試料の作製)
以下、本発明に係る電気接点材料の好ましい実施例を説明する。
【0045】
まず、平均粒子径が4μmのW粉末、平均粒子径が1μmの粉末状のNiおよび平均粒子径が7μmの粉末状のホウ酸化ストロンチウム粉末を用意した。
【0046】
前記ホウ酸化ストロンチウムは、平均粒子径が5μmのSrBO
3とB
2O
3とを質量比で2:1の割合で混合し、大気雰囲気にて1050℃で30分間焼成して得られたものを使用した。
【0047】
これらの粉末を、ヘンシェルミキサーにて30分間混合し、混合粉末を得た。このとき、ホウ酸化ストロンチウムの配合量を変更することで6種類の粉末を製作した。
【0048】
次に混合粉末を50MPaの圧力にて金型プレスを行い、板状の成形体を得た。
【0049】
耐熱容器に成形体が十分収まる凹状部の部位を設けてその中に成形体を設置し、H
2雰囲気1150℃にて60分間焼結を行なうことによって、連続した開気孔を有する多孔体を得た。
【0050】
この多孔体上に、溶浸には十分量の板状のCuを設置し、この状態でH
2雰囲気、1100℃にて20分間溶浸を行い、前記連続した開気孔中にCuを充填した構造の電気接点材料を得た。
【0051】
得られた材料から溶浸しきれなかった余分なCuを取り除き、フライス盤にて切削加工を行なって直方体の試験片に成形し、試験に用いる電気接点を作製した。WとNiの合計質量は70質量%、溶浸したCuは30質量%であった。また、WとNiはそれぞれ69.6質量%、0.4質量%であった。この試験片の気孔率は3%未満であった。この試験片の導電率を測定したところ、導電率は50%IACSであった。
【0052】
前記電気接点に含まれるホウ酸化ストロンチウムは0質量%を比較試料1とし、0.1質量%、0.5質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%と添加した試料を、それぞれ、試料1〜試料5とした。
【0053】
前記試料1〜5の断面をXRD(X線回折)で組成分析すると、Niは単体としては観察できなかった。ホウ酸化物をXRDにて測定したところ、ピーク強度比で90%のSr
2B
2O
5と、10%のSrB
2O
4がみられた。
【0054】
前記比較例1および試料例1〜5を直方体の真鍮の台座に、JIS規格で定められるろう材BAg−24でろう付を行ったものを試験片として、2種類の電気試験を実施した。
(実施例1)
実施例1として、可動側を陽極、固定側を陰極とし、同じ試験片を使い、試験電圧をAC230V、試験電流2500A、通電時間0.5サイクル、試験間隔30秒、接点サイズ2mm×5mm×5mmという条件で遮断試験を5回行い、試験片の質量損耗量から体積損耗率を算出して比較を行った(
図1、2)。
【0055】
比較試料1に比べて試料1の陰極は明らかに消耗が少なく、また試料2の陰極は約65%、試料3〜5の陰極は約40%の消耗量となり、特に試料4が最も消耗が少ない結果となった。また、図には示していないが、比較試料にホウ酸化ストロンチウムを5質量%加えた試料を製作し、同様の試験を行った結果、比較試料1に比べて約80%の消耗量となった。
(実施例2)
極性の影響と可動側固定側の影響を比較するために、試料4(ホウ酸化ストロンチウム1.5質量%)を使用し、極性を入れ替えて実施例1と同様の試験を行った。(
図3、4)
試験結果より、可動固定に関わらず、陰極側の体積消耗量が陽極側の体積消耗量と比較して60%〜70%に抑えられることがわかった。
(実施例3)
実施例3として、可動側を陽極、固定側を陰極とし、実施例1と同じ試験片を使い、試験電圧をAC230V、試験電流100A、通電時間1秒、試験間隔2秒、試験片サイズ2mm×8mm×8mmという条件で開閉試験を20,000回行い、試験片の接触抵抗を比較した。
【0056】
前記試料1〜5は前記比較試料1と比べて接触抵抗の増加が低く、20,000回開閉後の接触抵抗値は比較試料1の70%程度まで低下した。
前記実施例1〜3のいずれの試験においても溶着は発生しなかった。
(実施例4)
前記実施例1で使用した試験片のW部分をWCに入れ替えた試験片を比較試料2、試料6〜10として試験を実施した。
比較試料2に比べて試料6の陰極は明らかに消耗が少なく、また試料7の陰極は約65%、試料8〜10の陰極は約40%の消耗量となり、特に試料4が最も消耗が少ない結果となった。
(実施例5)
前記実施例3で使用した試験片のW部分をWCに入れ替えた試験片を比較試料2、試料6〜10として試験を実施した。
前記試料6〜10は前記比較試料2と比べて接触抵抗の増加が低く、20,000回開閉後の接触抵抗値は比較試料2の70%程度まで低下した結果となった。
前記実施例4、5のいずれの試験においても溶着は発生しなかった。
(実施例6)
まず平均粒子径が2μmのW粉末(第1成分)と、平均粒子径が2μmのAg(第2成分)、平均粒子径が7μmのホウ酸化ストロンチウム粉末(第3成分)、平均粒子径が100μm以下のC粉末と平均粒子径が2μmのVC粉末(第4成分)をヘンシェルミキサーにて30分間混合し、混合粉末を得た。このとき、ホウ酸化ストロンチウムの配合量を変更することで6種類の粉末を製作した。
【0057】
次に混合粉末を50MPaの圧力にて金型プレスを行い、板状の成形体を得た。
【0058】
耐熱容器に成形体が十分収まる凹状部の部位を設けてその中に成形体を設置し、H
2雰囲気1150℃にて60分間焼結を行なうことによって、Ag中にW粒子、ホウ酸化ストロンチウム粒子およびC粒子が分散した構造を有する材料を得た。
得られた材料を金型に入れ、圧力をかけ高密度化した後に、フライス盤にて切削加工を行なって直方体の試験片に成形し、試験に用いる電気接点を作製した。WCと第4成分の合計質量は21質量%(WC12質量%、C3質量%、VC6質量%)、Agの質量は79質量%であった。この試験片気孔率は3%未満であった。この試験片の導電率を測定したところ、導電率は40%IACSであった。
【0059】
前記電気接点に含まれるホウ酸化ストロンチウムは第1成分および第2成分と比較して0質量%を比較試料3とし、0.1質量%、0.5質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、5.0質量%であり、それぞれ、試料11〜試料16とする。
【0060】
前記試料11〜16の断面をEPMA(電子線マイクロアナライザ)にて観察すると、ホウ酸化物はその大部分がAgとWCの粒界に存在していることが確認された。ホウ酸化物をXRDにて測定したところ、ピーク強度比で90%のSr
2B
2O
5と、10%のSrB
2O
4がみられた。
【0061】
前記比較例3および試料例11〜16を使用して実施例1と同じ試験を実施した。
試験の結果は、比較試料3に比べて試料11はほとんど変わらず、試料12は約90%、試料13〜16は約80%、試料16は約90%の消耗量となり、特に試料14が最も消耗が少なかった。
【0062】
前記試料11〜16は前記比較試料3と比べて接触抵抗の増加が低く、20,000回開閉後の接触抵抗値は比較試料4の80%程度まで低下した。
試料の11〜16は、いずれの試験においても溶着が発生しなかった。