【実施例】
【0061】
以下に、本発明によるシリコン系積層型薄膜太陽電池として実施例1から4を、
図2を参照しつつ、比較例1から4と比較しながら説明する。
【0062】
(実施例1)
図2は、実施例1で作製した集積型シリコンハイブリッド太陽電池の断面形状を、製造工程を追って模式的に示す断面図である。
【0063】
本実施例では、透光性基板1として1200mm×998mm×5mm厚の白板ガラスを用いた。透光性基板1の一主面上に、酸化錫からなる表面に微細な凹凸構造を有する透明導電膜2を熱CVD法により形成した。透明導電膜2の厚さは700nm、透明導電膜2側よりC光源で測定したヘイズ率は14%、シート抵抗は12Ω/□であった。次に、透明導電膜2を複数の帯状パタ−ンへと分割するためにYAG基本波パルスレーザーを透光性基板1に照射することにより、幅30μmの透明電極層分離溝2aを形成し、超音波洗浄および乾燥を行った。
【0064】
次に、非晶質シリコン光電変換ユニット3asを形成するために、透明導電膜2が形成された透光性基板1を高周波プラズマCVD装置内に導入し、厚さ10nmの非晶質p型シリコンカーバイド(p型a−SiC)層、厚さ10nmの非晶質i型シリコンバッファ層、厚さ200nmの非晶質i型シリコン光電変換層、厚さ90nmのn型シリコンオキサイド層を順次積層した。p型a−SiC層pの形成においては、SiH
4 、水素、水素希釈されたB
2 H
6 、CH
4 を反応ガスとして用いた。n型シリコンオキサイド層の形成においては、SiH
4 、水素、水素希釈されたPH
3 、CO
2 を反応ガスとして用いた。次に、薄膜結晶質シリコン光電変換ユニット3psを形成するために、引き続きプラズマCVD装置を用いて厚さ15nmのp型薄膜結晶質シリコン層、厚さ1700nmの結晶質i型シリコン光電変換層、厚さ30nmのn型シリコンオキサイド層、厚さ7nmのn型薄膜結晶質シリコン層を順次積層した。
【0065】
その後、非晶質シリコン光電変換ユニット3as及び薄膜結晶質シリコン光電変換ユニット3ps(以降はこの両者を併せて、単に光電変換ユニット3と記す)を複数の帯状パターンへと分割するために、YAG第2高調波パルスレーザーを透光性基板1に照射することにより幅40μmの接続溝3aを形成した。次に、厚さ80nmのZnOから成る透明反射層4と厚さ200nmのAg、厚さ10nmのTiから成る裏面電極層5をDCマグネトロンスパッタ法によって形成した。最後に、光電変換ユニット3、透明反射層4及び裏面電極層5を複数の帯状パターンへと分割するために、YAG第2高調波パルスレーザーを透光性基板1に照射することにより、幅40μmの裏面電極層分離溝5aを形成し、
図2に示すような左右に隣接する短冊状ハイブリッド太陽電池が電気的に直列接続された集積型シリコンハイブリッド太陽電池を作製した。この集積型シリコンハイブリッド太陽電池は、幅8.95mmのハイブリッド太陽電池が108段直列接続されて構成されている(
図2(a)参照)。
【0066】
実施例1で作製した集積型シリコンハイブリッド太陽電池を1200mm方向に5等分に切断した後、各々を周縁部と発電部に分けるために、透明導電膜2、光電変換ユニット3、透明反射層4及び裏面電極層5の全てを除去する周縁分離溝6aをYAG基本波パルスレーザーを照射することにより形成した。更に、引き続いて周縁分離溝6aの発電部側に接し、光電変換ユニット3、透明反射層4及び裏面電極層5を除去する短絡防止分離溝7aをYAG第2高調波パルスレーザーを透光性基板1に続けて照射することにより形成した(
図2(b)参照。同図では透光性基板1の一端部の断面のみを示している。以下、
図2(c)から(e)に関しても同様である)。これにより、240mm×998mmの透光性基板1上に、幅8.95mm×長さ220mmのハイブリッド太陽電池が108段直列接続された集積型シリコンハイブリッド太陽電池モジュールを形成した。更に、前述の周縁部の一部に対してガラス端部から周縁部までの透明導電膜2、光電変換ユニット3、及び裏面電極層5の全てを除去する縁研磨を実施した(
図2(c)参照)。
【0067】
次に、裏面電極層5の上に厚さ0.4mmのEVA樹脂シート10と、PET/アルミニウム/PVFの積層フィルム11とをこの順に積み重ねた。そして、積み重ねた積層体を真空加熱ラミネータにセットし、大気圧で加圧しながらEVA樹脂が溶融する温度に加熱してラミネートすることにより、一体化して薄膜太陽電池モジュールを作製した(
図2(d)参照)。こうして得られた封止後の薄膜太陽電池モジュール10枚に対して、エアマス1.5に近似されたスペクトルでエネルギー密度100mW/cm
2 の擬似太陽光を、測定雰囲気及び太陽電池の温度25±1℃の条件下で照射し、電流−電圧特性を測定した。開放電圧Voc、短絡電流Isc、曲線因子FF、最大出力Pmaxの測定結果の平均値を表1に示す。
【0068】
次に、封止後の薄膜太陽電池モジュールの周縁部および裏面を周縁分離溝よりもやや外側の、基板端から10mmの領域に渡って樹脂系の仮保護部材で覆った。その後、凹部形成の第一工程として、ガラス受光面に対して、砥粒#400のホワイト・アルミナ(鉄分を含まないアルミナ)を用いてブラスト処理することで、凹凸加工した(
図2(e)参照)。更に、凹凸形成の第二工程として、第一工程でできた凹凸表面を濃度10wt%のフッ化水素酸に室温(25℃)で15分間浸してエッチングした。その後、太陽電池モジュールを流水に2分間浸漬し、取り出してドライヤーで乾燥させた。これにより、ガラス基板の端部から各々10mm内側までの周縁領域を除く表面全面に、ガラス基板の法線方向から見て略長円形状の凹部が隙間なく多数形成され、前記略長円形状の凹部は最小幅(短径)が3μm以上50μm以下、最大幅(長径)と最小幅(短径)の比が1.1以上10以下、断面が滑らかな曲線のスプーンカット形状、算術平均粗さ0.35μm以上10μm以下である凹凸領域が形成された。
【0069】
図3にレーザー顕微鏡(オリンパス製、型式LEXT OLS4000)で測定した加工後の凹凸表面の形状を示す。ガラスの法線方向から見た形状が略長円形状をしていることがわかる。また、
図8(a)に
図3中に示した補助線Bに沿った断面プロファイルを示す。
図8(b)は
図8(a)の曲線をトレースした図である。
図8より、断面が、滑らかな曲線のスプーンカット形状であることがわかる。特に本実施例では、凹部101,102は、中央部分が最も深い。また凹部101,102は、周部からなだらかに傾斜している。また最深部に至る近傍は、大きなアールを描いている。即ち凹部101,102の内周壁に相当する領域と、最深部に相当する領域との間は、なだらかに繋がっている。
【0070】
また、光沢計(日本電色製、型式PG−IIM)を用いて、法線角度60°、85°、20°の光沢度を測定した。この薄膜太陽電池モジュールに対して、先と同様の条件で電流−電圧特性を測定した結果の平均値も表1に併せて示す。
【0071】
【表1】
【0072】
なお、表1は、実施例および比較例で得られた各太陽電池モジュールの出力特性と基板の表面形状とを記載した表である。表1の略長円の数値は、凹部101(
図3)のものである。
【0073】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1と比較してフッ化水素酸による処理時間が15分間から6分間に変更され、他は実施例1と全く同様にして10枚の薄膜太陽電池モジュールの作製を行った。加工後の凹凸表面は
図4のような形状であった。実施例2で作製した薄膜太陽電池モジュールに対して、防眩処理前後の出力測定結果を表1に示す。表1の略長円の数値は、凹部108(
図4)のものである。
【0074】
図4は、薄膜太陽電池モジュール実施例2の基板表面の顕微鏡写真である。
図11(a)は、前記した
図4の写真に明確に写った3個の凹部105,106,107をトレースしたものである。
本実施例においても、近似楕円の短径が3μm以上50μm以下であり、長径と短径の比が1.1以上10以下である。そして本実施例では、当該近似楕円の短径が3μm以上50μm以下であり、長径と短径の比が1.1以上10以下である。
図11(b)は、近似楕円205,205,207を抜き書きしたものである。
図11に示す例では、近似楕円205の長径は22.4μmであり、短径は13.6μmである。また近似楕円206の長径は26.4μmであり、短径は16.0μmである。近似楕円207の長径は47.2μmであり、短径は17.6μmである。
また各凹部の断面は、滑らかな曲線のスプーンカット形状であった。基板表面の算術平均粗さは0.35μm以上10μm以下であった。
【0075】
(実施例3)
実施例3においては、実施例1と比較してフッ化水素酸による処理時間が15分間から3分間に変更され、他は実施例1と全く同様にして10枚の薄膜太陽電池モジュールの作製を行った。加工後の凹凸表面は
図5のような形状であった。実施例3で作製した薄膜太陽電池モジュールに対して、防眩処理前後の出力測定結果を表1に示す。表1の略長円の数値は、凹部113(
図5)のものである。
【0076】
図5は、薄膜太陽電池モジュール実施例3の基板表面の顕微鏡写真である。
図12(a)は、前記した
図5の写真に明確に写った3個の凹部110,111,112をトレースしたものである。
本実施例においても、近似楕円の短径が3μm以上50μm以下であり、長径と短径の比が1.1以上10以下である。そして本実施例では、当該近似楕円の短径が3μm以上50μm以下であり、長径と短径の比が1.1以上10以下である。
図12(b)は、近似楕円210,211,212を抜き書きしたものである。
図12に示す例では、近似楕円210の長径は20.0μmであり、短径は9.6μmである。また近似楕円211の長径は28.8μmであり、短径は12.8μmである。近似楕円212の長径は18.4μmであり、短径は10.4μmである。
また各凹部の断面は、滑らかな曲線のスプーンカット形状であった。基板表面の算術平均粗さは0.35μm以上10μm以下であった。
【0077】
(比較例1)
比較例1においては、実施例1と比較して、10枚の薄膜太陽電池モジュールに対してブラスト処理、フッ化水素酸処理のいずれも行わなかった。そのときの平均出力測定結果を表1に示す。
比較例1の薄膜太陽電池モジュールは、基板表面が平滑であって凹凸は無い。
【0078】
(比較例2)
比較例2においては、実施例1と比較して、10枚の薄膜太陽電池モジュールに対してブラスト処理のみを実施し、フッ化水素酸処理は行わなかった。加工後の凹凸表面は
図6のような形状であった。比較例2の薄膜太陽電池モジュールは、
図6に示すように、基板表面に細かな凹凸があるが、その形状は、実施例の様な規則的なものではない。
そのときの平均出力測定結果を表1に示す。
【0079】
表1より、実施例1から3と比較例1を比較すると、防眩処理前後でPmaxが1.8〜3%改善されていることがわかる。また、サンドブラストのみの加工をした比較例2が、加工前後でPmaxが3%低下していることがわかる。
図9に実施例2(
図9写真の左)、比較例1(
図9写真の中央)、比較例2(
図9写真の右)の薄膜太陽電池モジュールを並べて蛍光灯の下で撮影した写真を示す(天井に蛍光灯が配置された部屋で、実施例2、比較例1、比較例2の長方形形状の薄膜太陽電池モジュールを、写真に向かって左側にモジュールの長手方向を配置し、写真に向かって手前側にモジュールの短手方向を配置して、3つモジュールを並べて床に配置して、床上に立った撮影者がカメラで撮影した。)。実施例2(
図9写真の左の長方形)はまったく蛍光灯の反射が見られないが、比較例1(
図9写真の中央の長方形)ははっきりと蛍光灯の反射が観察され防眩性能が無く、比較例2(
図9写真の右の長方形)は蛍光灯の反射が観察され防眩性能が無いことがわかる。
【0080】
実施例1から3の方法で作製した薄膜太陽電池モジュール各10枚を南向き22度傾斜(4寸勾配)で屋外に設置し、約20m離れた位置から観察したところ、光のぎらつきや周囲の景色の映りこみは全く見られなかった。
【0081】
(実施例4)
実施例4においては、実施例2と比較してサンドブラストの砥粒が#1000に変更され、他は実施例2と全く同様にして10枚の薄膜太陽電池モジュールの作製を行った。加工後の凹凸表面は
図7のような形状であった。実施例4で作製した薄膜太陽電池モジュールに対して、防眩処理前後の出力測定結果を表1に示す。Pmaxは1.2%増加している。
表1の略長円の数値は、凹部118(
図7)のものである。
【0082】
図13(a)は、前記した
図7の写真に明確に写った3個の凹部115,116,117をトレースしたものである。
本実施例においても、近似楕円の短径が3μm以上50μm以下であり、長径と短径の比が1.1以上10以下である。そして本実施例では、当該近似楕円の短径が3μm
以上50μm以下であり、長径と短径の比が1.1以上10以下である。
図13(b)は、近似楕円215,216,217を抜き書きしたものである。
図13に示す例では、近似楕円215の長径は14.4μmであり、短径は10.4μmである。また近似楕円216の長径は9.6μmであり、短径は7.2μmである。近似楕円217の長径は12.0μmであり、短径は8.8μmである。
また各凹部の断面は、滑らかな曲線のスプーンカット形状であった。基板表面の算術平均粗さは0.35μm以上10μm以下であった。
【0083】
(比較例3)
比較例3においては、実施例1と比較して、フッ化水素酸の濃度を50Wt.%として2分間のエッチングに変更され、他は実施例1と全く同様にして10枚の薄膜太陽電池モジュールの作製を行った。そのときの平均出力測定結果を表1に示す。略長円の最小幅が4.7μmと小さくなり、Pmaxの増加幅が−0.5%と低下した。防眩性能も良くなかった。
【0084】
実施例1と同様にして、加工後のガラス基板表面をレーザー顕微鏡で観察した(
図23)。
図23に示すように、ところどころに、黒くて瓢箪を延ばしたような形状(長手方向における中央部が細くなっている形状)が見られた。当該形状は略楕円形とは呼べないものであり、したがって近似楕円を想定することができない。
当該部分の断面形状を
図24、
図25に示す。
図24は、
図23中に示した線Aに沿った断面プロファイルを示す。
図25は、
図23中に示した線Bに沿った断面プロファイルを示す。
図24,25において、(b)は(a)の曲線をトレースした図である。
図24、
図25に示すように、当該部分の断面は鋭い谷間になっており、クラック状の形状となっている。この断面形状は、
図8に示した実施例1における断面形状とは大きく異なっている。即ち、比較例3では、実施例1のような滑らかな曲線のスプーンカット形状とはなっていない。また周囲からの傾斜は急であり、アールを描いておらず、内周壁に相当する領域と最深部に相当する領域との間には段差がある。このクラック形状が、電池の特性と防眩性能を低下させている1つの要因と考えられる。
なお、瓢箪を延ばしたような形状となった要因としては、サンドブラスト処理でできたガラスのクラックがエッチング処理で徐々に削れて、そのような形状となったものと考えられる。
【0085】
(比較例4)
比較例4においては、比較例3と比較して、サンドブラストの砥粒が#50に変更され、他は比較例3と全く同様にして10枚の薄膜太陽電池モジュールの作製を行った。そのときの平均出力測定結果を表1に示す。略長円の最大幅と最小幅の比が20と大きくなり、Pmaxの増加幅が−2.5%と低下した。防眩性能も良くなかった。
【0086】
実施例1と同様にして、加工後のガラス基板表面をレーザー顕微鏡で観察した(
図26)。
図26に示すように、ところどころに黒く細長い筋が見られた。この細長い筋の部分の形状は略楕円形とは呼べないものであり、したがって近似楕円を想定することができない。
当該部分の断面形状を
図27に示す。
図27は、
図26中に示した線Aに沿った断面プロファイルを示す。
図27において、(b)は(a)の曲線をトレースした図である。
図27に示すように、当該部分の断面は鋭い谷間になっており、クラック状の形状となっている。この断面形状は、
図8に示した実施例1における断面形状とは大きく異なっている。即ち、比較例4についても、実施例1のような滑らかな曲線のスプーンカット形状とはなっていない。また周囲からの傾斜は急であり、アールを描いておらず、内周壁に相当する領域と最深部に相当する領域との間には段差がある。このクラック形状が、電池の特性と防眩性能を低下させている1つの要因と考えられる。
【0087】
なお上記した非特許文献1の顕微鏡写真でも、ガラス基板表面に比較例3,4と同様の黒い筋が認められ、クラックが残っている。これが、非特許文献1の太陽電池モジュールの特性と防眩性能を低下させている1つの要因と考えられる。
【0088】
ここで凹部の平面形状について、さらに説明する。上記のように、本発明では凹部の平面形状が楕円形や長円形であることが好ましい。ただし、凹部は機械加工によって作られるものではなく、サンドブラストとエッチングによって作られるものであるから、その形状、特に輪郭線は偶発的に形成される。そのため、凹部の平面形状を、厳密に楕円形や長円形にすることは現実的には不可能であり、いずれも「略楕円形」や「略長円形」とならざるを得ない。
したがって、「略楕円形」と「略長円形」とは、多くの部分で共通する。前記した実施形態の凹部は、「略楕円形」でもあり、「略長円形」でもあるともいえる。
即ち「略楕円形」は、
図28(a)の様な完全な楕円形を基本として、やや変形したものも含む意味である。また「略長円形」は、
図28(b)の様な完全な長円形を基本として、やや変形したものも含む意味である。
即ち楕円形は、両端にアール部があり、中央部の外郭が、両端のアール部の中心同士を結ぶ直線に対して外側に膨らんだ曲線の形状である。長円形は、両端に円弧部があり、中央部の外郭が、両端の円弧部の中心同士を結ぶ直線と平行に延びる。したがって長円形は略楕円形でもあり、楕円形は略長円形でもある。
また
図28(c)の様な、両端のアールや円弧の径が異なるものも、略楕円形および略長円形に含まれる。
しかしながら、
図28(d)の様な瓢箪型のものは、凹部として不適である。即ち、両端のアール部又は円弧部の中心同士を結ぶ直線に対し、中央部の外郭が内側に湾曲したものは、凹部として不適である。また勾玉のように、両端のアール部又は円弧部の中心同士を結ぶ直線が、輪郭線から外れる形状も、凹部として不適である。
【0089】
次に実際の製品に近い大きさのシリコン系積層型薄膜太陽電池を作成し、受光面の処理条件を変えて反射率を測定し、防眩性能を調べた。
【0090】
<試験方法>
図14に示す方法で絶対反射率を連続的に測定した。即ち、変角光度計を用い、波長550nmの光源からガラス基板の受光面に対し、ガラス基板の法線からマイナス45度の角度で光を照射した。測定には、日本分光( 株)製の変角光度計(紫外可視近赤外分光光度計V-670DS 、自動絶対反射率測定ユニットARMN-735から構成)を使用した。そして受光角度をガラス基板の法線を0度とし、法線に対してマイナス85度からプラス85度に変化させながら反射検知器を移動させ、反射光を連続的に検知し、絶対反射率(%)を測定した。S偏光、P偏光、及び無偏光(S偏光とP偏光の平均)に分けて、受光角度に対する絶対反射率の変化曲線を得た。
なお
図15から
図20に示すグラフでは、法線を基準とする角度表示(横軸の下段)と、正反射される角度を基準とする角度表示(横軸の上段)を併記している。
本実験では、法線に対してマイナス45度で光を照射しているから、正反射光は、法線に対してプラス45度に放射される。反射光は、当然に正反射光の角度たる法線に対してプラス45度の近傍にピークがある。
【0091】
<試料>
受光面の表面処理が異なる6種の太陽電池を作成した。処理条件は以下のとおりとした。エッチング処理の条件は実施例1と同様とした。
【0092】
(実施例5)
・サンドブラスト処理:砥粒♯50
・エッチング処理:有り
【0093】
(実施例6)
サンドブラスト処理:砥粒♯100
エッチング処理:有り
【0094】
(実施例7)
サンドブラスト処理:砥粒♯600
エッチング処理:有り
【0095】
(比較例5)
サンドブラスト処理:無し
エッチング処理:無し
【0096】
(比較例6)
サンドブラスト処理:砥粒♯50
エッチング処理:無し
【0097】
(比較例7)
サンドブラスト処理:砥粒♯100
エッチング処理:無し
【0098】
図15〜20に各太陽電池における反射率の変化曲線を示す。図中、太い実線はS偏光、太い破線はP偏光、S偏光とP偏光との間にある細い破線(点線)は無偏光を、それぞれ示す。なお無偏光はS偏光とP偏光の平均である。
実施例5、実施例6、及び実施例7の太陽電池の受光面は、光のぎらつきや周囲の景色の映りこみがなく、防眩性能に優れていた。即ち、サンドブラスト処理とエッチング処理を行うことにより、高い防眩性能が得られた。
そして、実施例5(
図15)、実施例6(
図16)、及び実施例7(
図17)では、最大反射率Rmaxを中心とした一定領域において、反射率の変化曲線の相対的な傾きd(R/Rmax)/dAが緩やかであった。無偏光の、反射率がRmax/3以上の領域内におけるd(R/Rmax)/dA(絶対値)の最大値は、以下のとおりであった。
【0099】
実施例5(♯50 +エッチング処理):0.0456
実施例6(♯100+エッチング処理):0.0482
実施例7(♯600+エッチング処理):0.0587
【0100】
即ち、実施例5〜7ではd(R/Rmax)/dAの最大値が0.059程度であり、0.065未満に抑えられていた。
【0101】
一方、比較例5、比較例6、及び比較例7では、いずれも光のぎらつきや映りこみが観察され、防眩性能が低かった。そして、比較例5(
図18)、比較例6(
図19)、及び比較例7(
図20)では、最大反射率Rmaxに比較的近い領域で、反射率の変化曲線の傾きが急な領域が存在した。
【0102】
即ち、サンドブラスト処理とエッチング処理のいずれも行わなかった比較例5(
図18)では、正反射の角度(正反射からの偏差角度0、法線に対してプラス45度)の位置に急峻なピークがあり、この近傍における反射率の変化曲線の傾きが極端に大きい。無偏光の変化曲線における最大のd(R/Rmax)/dA(絶対値)は、0.38程度であった。
【0103】
また、サンドブラスト処理(砥粒♯50)のみ行った比較例6(
図19)では、正反射の角度(正反射からの偏差角度0、法線に対してプラス45度)の位置の近傍における反射率の変化は、なだらかであるが、正反射からの偏差角度がプラス15度を越えた角度から、プラス35度程度に至る間の反射率の変化が急峻である。この間における無偏光の最大のd(R/Rmax)/dA(絶対値)は0.12程度であった。
なお、比較例6(
図19)では、正反射からの偏差角度が、プラス35度を越えた領域についても反射率の変化が急であるが、この角度領域は、そもそも反射率の絶対値が小さく、写り込みに与える影響は小さい。
【0104】
サンドブラスト処理(砥粒♯100)のみ行った比較例7(
図20)では、正反射の角度(正反射からの偏差角度0、法線に対してプラス45度)の近傍に、反射率が突出する角度領域(狭いピーク)があり、この近傍における反射率の変化曲線の傾きが極端に大きい。この間における無偏光の最大のd(R/Rmax)/dA(絶対値)は0.081程度であった。
【0105】
このように、比較例5〜7ではd(R/Rmax)/dAの最大値が0.081〜0.38と大きく、少なくとも0.065を超えていた。
【0106】
以上より、サンドブラスト処理とエッチング処理の両方を行うことで、高い防眩性能が得られることが示された。
【0107】
実施例1と同様にして、実施例5から7及び比較例5から7の太陽電池における電流−電圧特性を測定した。開放電圧Voc、短絡電流Isc、曲線因子FF、最大出力Pmaxの測定結果の平均値を算出した。また実施例1と同様にして、光沢度を測定した。受光面の特性と光沢度を表2に、出力特性を表3に示す。即ち、実施例5から7の太陽電池は、比較例5から7の太陽電池と比較して、出力特性も優れていた。
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
なお、上記した実施例と比較例について、エッチング液にはフッ化水素酸のみを用いたが、さらに硝酸、燐酸、硫酸、塩酸の少なくとも1つを添加すると、エッチングで生じたフッ化物を溶かすことができるので望ましい。特にCaFが生成すると、白色沈殿物としてガラス表面を覆ってエッチングが遅くなったりムラの原因になるので、追加の酸を添加することが望ましい。また、フッ化物が生成すると装置の配管のつまりや搬送ローラーのトラブルの原因となる。たとえば、フッ化水素酸に対して0.5倍から4倍の硫酸を加えることによってフッ化物の生成を抑制して、エッチングの再現性、均一性、装置トラブルの抑制を行うことができる。