(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ロサ・アルバ・セミプレナ、ロサ・ウィクライアナ、及びロサ・フェティダから選ばれる少なくとも1種のバラ科バラ属植物の地上部の抽出物を有効成分として含有する、幹細胞由来成長因子遺伝子発現促進剤。
【背景技術】
【0002】
脊椎動物、特に哺乳動物の組織は、傷害もしくは疾患、又は加齢などに伴い細胞・臓器の損傷が起こった場合、再生系が働き、細胞・臓器の損傷を回復しようとする。この作用に、当該組織に備わる幹細胞が大きな役割を果たしている。幹細胞は、あらゆる細胞に分化する多能性を有しており、この性質により損傷部の細胞・組織を再生することで回復に導くと考えられている。このような幹細胞を応用した次世代の医療である再生医療に期待が集まっている。
【0003】
一方、近年では、幹細胞が産生分泌する成長因子が注目を集めている。再生医療の基本戦略である幹細胞移植においては、実は幹細胞が産生分泌する成長因子が重要であり、これらが組織の再構築に寄与するのではないかと考えられるようになってきた。実際に、幹細胞から培養上清中に分泌された幹細胞由来の成長因子が、幹細胞移植と同等あるいはそれ以上の再生効果をもつことが、骨、皮膚、脊髄、脳を含む様々な組織において実証されている(非特許文献1)。また、幹細胞由来成長因子をシワの改善や発毛促進のために患部に注入して肌や髪を再生する再生美容も盛んになってきている。
【0004】
これまでに、成長因子産生を促進する技術として、プロスタグランジン(PG)I2アゴニスト、EP2アゴニストおよびEP4アゴニストから選択される1種または2種以上を含有する内因性修復因子産生促進剤(特許文献1)、アムラ抽出物及びリンゴンベリー抽出物の少なくともいずれかを含有する血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)産生亢進剤(特許文献2)、シイタケ、エチナシ、プルーン、モヤシ、アマチャヅルの各抽出物から選択した1種又は2種以上を含有する血管内皮細胞増殖因子産生促進剤(特許文献3)などが報告されている。しかしながら、これらの成長因子産生促進剤はいずれも線維芽細胞や血管内皮細胞などの細胞から成長因子を産生促進するものであり、幹細胞から成長因子を産生促進するものではない。幹細胞から成長因子を産生促進させる技術として、低酸素や紫外線照射の物理的刺激と培地へのビタミン類の添加といった培養条件の検討により脂肪由来幹細胞から成長因子を大量に生産する方法が報告されているが(特許文献4)、培養条件の設定や調整が複雑であり、簡便な方法とはいえない。
【0005】
バラ(薔薇)はバラ科(Rosaceae)バラ属(Rosa)の種の総称であり、バラ科バラ属に属する植物は150種以上あるといわれ、多くの栽培品種がある。バラは花の豪華さ、花色の多さ、優美な香りから主には鑑賞用に用いられるが、これまでバラの花びらなどの抽出物に、抗菌作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用、保湿作用、収斂作用、鎮静作用など様々な薬効があることが知られており、化粧品や医薬品などにも広く利用されている。しかしながら、幹細胞からの成長因子の産生促進効果についてはこれまで何ら知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について詳細に述べる。
【0013】
本発明の幹細胞由来成長因子産生促進剤は、ロサ・アルバ・セミプレナ、ロサ・ウィクライアナ、及びロサ・フェティダから選ばれる少なくとも1種のバラ科バラ属植物の抽出物を有効成分として含有する。
【0014】
ロサ・アルバ・セミプレナ(学名:Rosa alba semi−plena)は、16世紀以前に作出されたオールドローズの一種であり、ロサ・カニナとロサ・ダマスケナの交雑種とされている。ロサ・ウィクライアナ(学名:Rosa wichuraiana)は、日本の代表的なバラの原種の一つであり、別名は、テリハノイバラ、ハマイバラ、ハイバラといわれている。ロサ・フェティダ(学名:Rosa foetida)は中近東原産のバラ原種の一つである。
【0015】
本発明において、バラ科バラ属植物の抽出物は、植物体全体(全草)、あるいは、花、茎、葉、枝、枝葉、果実、根、種子等の植物体の一部またはそれらの混合物の抽出物をいうが、地上部の植物体の抽出物が好ましい。また、抽出には、これらの植物体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0016】
抽出方法は、特に限定されないが、水もしくは熱水、または水と有機溶媒の混合溶媒を用い、攪拌またはカラム抽出する方法により行うことができる。有機溶媒としては、アルコール類、エーテル類、エステル類などを用いることができるが、エタノール、メタノール、アセトン等の水溶性有機溶媒が好ましく、これらの一種又は二種以上を用いてもよい。特に好ましい抽出溶媒としては、水、または水−エタノール系の混合極性溶媒が挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記バラ科バラ属植物の地上部(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10〜100℃、好ましくは30〜90℃で、30分〜24時間、好ましくは1〜10時間を例示することができる。また、抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0017】
本発明における「幹細胞由来成長因子の産生促進」とは、生体レベルでまたは培養レベルで幹細胞による成長因子の産生および分泌を促進させることをいう。
【0018】
本発明における「成長因子」には、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子−1(IGF−1)、インスリン様成長因子−2(IGF−2)、トランスフォーミング成長因子−β1(TGF−β1)、トランスフォーミング成長因子−β2(TGF−β2)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、神経栄養因子(NGF)、肝細胞増殖因子(HGF)が含まれるが、これらに限定はされない。
【0019】
これらの「成長因子」は、生体において様々な効果を発揮する。例えば、bFGFは、皮膚組織の再生を促すことが知られている(特開2007−068884)。また、IGF−1についても皮膚組織の再生に関与することが知られている(Endocr Rev. 2003 Dec;24(6):737-64.Epidermal homeostasis: the role of the growth hormone and insulin-like growth factor systems.Edmondson SR, Thumiger SP, Werther GA, Wraight CJ.)。また、IGF−1については、皮膚組織の再生効果に加えて内臓脂肪の低下効果等を示すことが知られる(特表2007−502834)。さらに、TGF−β1は、皮膚の創傷治癒過程において非常に重要な役割を果たす(日皮会誌:119(10).1971-1977. 2009)。
【0020】
本発明において「幹細胞」とは、上記成長因子を産生しうる各種の幹細胞をいい、骨髄、血液、皮膚(表皮、真皮、皮下組織)、脂肪、毛包、筋肉、脳、肝臓、その他の組織に存在する未分化な状態の細胞(総称して、体性幹細胞という)、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などを含む。好ましくは、骨髄、血液、皮膚、脂肪組織由来の幹細胞に対してより効果を発揮する。ES細胞としては、例えば、着床以前の初期胚を培養することによって樹立されたES細胞、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立されたES細胞、及びそれらのES細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて改変したES細胞が挙げられる。このようなES細胞は、例えば、自体公知の方法によって作製することができるが、所定の機関より入手でき、さらには市販品を購入することもできる。また、これら幹細胞は、初代培養細胞、継代培養細胞、凍結細胞のいずれであってもよい。
【0021】
また、本発明の幹細胞由来成長因子産生促進剤は、幹細胞の成長因子産生分泌機構について同等の特性を持っていれば、全ての哺乳動物に応用が可能である。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物の幹細胞に対して効果を発揮することができる。
【0022】
本発明の幹細胞由来成長因子産生促進剤の有効成分であるロサ・アルバ・セミプレナ、ロサ・ウィクライアナ、及びロサ・フェティダから選ばれる少なくとも1種のバラ科バラ属植物は、幹細胞による成長因子の産生を培養レベルまたは生体レベルで促進する作用を有する。従って、本発明の幹細胞由来成長因子産生促進剤は、その有効量を添加した幹細胞培養用培地にて幹細胞を培養することによって、または、ヒトを含む哺乳動物に投与することによって、幹細胞からの成長因子産生を促進することができる。
【0023】
本発明の幹細胞由来成長因子産生促進剤を生体内に投与する場合は、そのまま投与することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに皮膚外用組成物に配合して提供することが好ましい。本発明の皮膚外用組成物には、医薬品、医薬部外品、化粧品などが含まれる。
【0024】
本発明の幹細胞由来成長因子産生促進剤は、幹細胞による成長因子の産生を促進することができるので、当該剤を含む皮膚外用組成物は、皮膚の障害若しくは損傷、または肥満を予防、改善、および治療するのに有効である。
【0025】
ここで、皮膚の障害や損傷としては、限定はされないが、シワ、タルミ、シミ、くすみ、肌荒れ、皮膚の肥厚、毛穴のひらき、ニキビ痕、創傷(切創、裂創、刺傷、咬創、挫創、挫傷、擦過傷等)、褥瘡、熱傷、瘢痕、ケロイドなどが挙げられ、薄毛や脱毛などの頭皮や毛髪の損傷も含まれる。肥満には、顔の輪郭、頸部、腹部、臀部、大腿部などへの皮下脂肪の蓄積のほか、皮下脂肪沈着に起因するセルライトなどが含まれる。
【0026】
本発明の幹細胞由来成長因子産生促進剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて賦形剤、増粘剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、保存剤、分散剤、乳化剤、ゲル化剤、色素、香料等を用いることができる。本発明の医薬品に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤などが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0027】
本発明の幹細胞由来成長因子産生促進剤を医薬部外品や化粧品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油二層系、または水−油−粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該医薬部外品や化粧品は、幹細胞由来成長因子産生促進剤とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0028】
医薬部外品や化粧品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、育毛剤等が挙げられる。
【0029】
本発明の皮膚外用組成物における幹細胞由来成長因子産生促進剤の含有量は、幹細胞から成長因子の産生促進作用が発揮できる量である限り特に限定はされないが、例えばバラ科バラ属植物抽出物の乾燥固形物重量として0.00001〜10重量%が好ましく、0.0001〜1重量%がより好ましい。上記の量はあくまで例示であって、組成物の種類や形態、一般的な使用量、効能・効果、及びコストなどを考慮して適宜設定・調整すればよい。
【0030】
一方、幹細胞からの成長因子産生を幹細胞の培養により行う場合、培地に本発明の幹細胞由来成長因子産生促進剤を添加する以外は、培養方法の条件及び操作は、当該技術分野で常套的な条件及び操作に従って行うことができる。幹細胞由来成長因子産生促進剤の培地への添加量は、バラ科バラ属植物抽出物の濃度として0.1〜1000μg/mL、好ましくは1〜100μg/mLである。
【0031】
幹細胞の培養には、幹細胞の未分化性維持および増殖のために一般的に使用されている培地を用いればよい。例えば、幹細胞の生存および増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む基本培地、例えば、Dulbeco’s Modified Eagle Medium(D−MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbeco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F−12(D−MEM/F−12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、ハンクス液(Hank’s balanced salt solution)に、細胞の増殖速度を増大させるために、必要に応じて、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27−サプリメント、N2−サプリメント、ITS−サプリメント、抗生物質などが含有された培地を用いることができる。
【0032】
また、上記以外には、1〜20%の含有率で血清が含まれることが好ましい。しかし、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
【0033】
市販品としては、インビトロジェン製の間葉系幹細胞基礎培地や、三光純薬製の間葉系幹細胞基礎培地、TOYOBO社製のMF培地、Sigma社製のハンクス液(Hank’s balanced salt solution)などを用いることができる。
【0034】
幹細胞の培養に用いる培養器は、幹細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、シャーレ、ディッシュ、プレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルなどが挙げられる。
【0035】
培養器は、細胞非接着性であっても接着性であってもよく、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質などで処理したものを用いてもよい。細胞外基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。
【0036】
幹細胞の培養条件は、幹細胞の培養に用いられる通常の条件に従えばよく、特別な制御は必要ではない。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30〜40℃、好ましくは約37℃である。CO
2ガス濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約2〜5%である。なお、培地の交換は2〜3日に1回行うことが好ましく、毎日行うことがより好ましい。前記培養条件は、幹細胞が生存及び増殖可能な範囲で適宜変動させて設定することもできる。
【0037】
上記培養により得られる幹細胞培養物中の成長因子は、例えばその遺伝子の量を測定することにより確認できる。測定は、培養後の幹細胞中の総RNAを抽出し、成長因子をコードするmRNAの量をリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)法により行なえばよい。あるいは、成長因子に特異的な抗体を利用し、酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、ウェスタンブロット法などの免疫学的測定法により行ってもよい。
【0038】
本発明によれば、ロサ・アルバ・セミプレナ、ロサ・ウィクライアナ、及びロサ・フェティダから選ばれる少なくとも1種のバラ科バラ属植物の抽出物の存在下で幹細胞を培養する工程を含む、幹細胞培養物の製造方法もまた提供される。また、本方法により得られた幹細胞培養物に含まれる成長因子を単離および精製してもよい。例えば、タンパク質の精製に用いられる一般的な方法、例えばゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー、脱塩法、HPLC、電気泳動法などを単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から成長因子を単離精製することができる。
【0039】
上記製造方法により得られる幹細胞培養物は各種の成長因子を高濃度で含有する。ここで、幹細胞培養物とは、培養上清、培養幹細胞、培養幹細胞の破砕物のいずれをも意味する。本発明の幹細胞培養物はそのままで、あるいは、それより成長因子を単離し、皮膚組織などに直接注入するといった方法により、再生医療や再生美容への応用が可能である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(製造例1)ロサ・アルバ・セミプレナの熱水抽出物の調製
ロサ・アルバ・セミプレナの地上部の乾燥物25gに精製水500mLを加え、90〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してロサ・アルバ・セミプレナの熱水抽出物を1.5g得た。
【0042】
(製造例2)ロサ・ウィクライアナの熱水抽出物の調製
ロサ・ウィクライアナの地上部の乾燥物25gに精製水500mLを加え、90〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してロサ・ウィクライアナの熱水抽出物を0.6g得た。
【0043】
(製造例3)ロサ・フェティダの熱水抽出物の調製
ロサ・フェティダの地上部の乾燥物25gに精製水500mLを加え、90〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してロサ・フェティダの熱水抽出物を2.1g得た。
【0044】
(製造例4)ロサ・アルバ・セミプレナの50%エタノール抽出物の調製
ロサ・アルバ・セミプレナの地上部の乾燥物25gに50(v/v)%エタノール水溶液500mLを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ロサ・アルバ・セミプレナの50%エタノール抽出物を1.4g得た。
【0045】
(製造例5)ロサ・ウィクライアナの50%エタノール抽出物の調製
ロサ・ウィクライアナの地上部の乾燥物25gに50(v/v)%エタノール水溶液500mLを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ロサ・ウィクライアナの50%エタノール抽出物を0.7g得た。
【0046】
(製造例6)ロサ・フェティダの50%エタノール抽出物の調製
ロサ・フェティダの地上部の乾燥物25gに50(v/v)%エタノール水溶液500mLを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ロサ・フェティダの50%エタノール抽出物を1.8g得た。
【0047】
(製造例7)ロサ・アルバ・セミプレナのエタノール抽出物の調製
ロサ・アルバ・セミプレナの地上部の乾燥物25gにエタノール500mLを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ロサ・アルバ・セミプレナのエタノール抽出物を0.8g得た。
【0048】
(製造例8)ロサ・ウィクライアナのエタノール抽出物の調製
ロサ・ウィクライアナの地上部の乾燥物25gにエタノール500mLを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ロサ・ウィクライアナのエタノール抽出物を0.4g得た。
【0049】
(製造例9)ロサ・フェティダのエタノール抽出物の調製
ロサ・フェティダの地上部の乾燥物25gにエタノール500mLを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ロサ・フェティダのエタノール抽出物を0.8g得た
【0050】
(実施例1)幹細胞からの成長因子産生促進効果の評価
間葉系幹細胞増殖培地(MF培地)(TOYOBO社製)を用いて培養したヒト成体幹細胞(皮下脂肪細胞由来)(DSファーマバイオメディカル社製)を6cmディッシュに1x10
6個播種し、評価試料としてロサ・アルバ・セミプレナ、ロサ・ウィクライアナ、またはロサ・フェティダの抽出物(製造例1〜9)を最終濃度が0.001%になるように添加し、3日間培養を続けた。培養3日後に、細胞を回収し、PBS(-)にて2回洗浄し、Trizol Reagent(Invitrogen社製)によって細胞からRNAを抽出した。その後、2−STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems社製)を用いて、RNAをcDNAに逆転写後、ABI7300(Applied Biosystems社製)により、下記成長因子(bFGF、IGF−1、TGF−β1、PDGFA及びVEGFA)増幅用プライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40サイクル)を実施し、各遺伝子の遺伝子発現を確認した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
【0051】
bFGF用プライマーセット:
フォワードプライマー:TGGTATGTGGCACTGAAACGAA(配列番号1)
リバースプライマー:TTCTGCCCAGGTCCTGTTTT(配列番号2)
IGF−1用プライマーセット:
フォワードプライマー:AAGGAGGCTGGAGATGTATTGC(配列番号3)
リバースプライマー:CGGACAGAGCGAGCTGACTT(配列番号4)
TGF−β1用プライマーセット:
フォワードプライマー:CGCGTGCTAATGGTGGAAA(配列番号5)
リバースプライマー:ATGCTGTGTGTACTCTGCTTGAACTT(配列番号6)
PDGFA用プライマーセット:
フォワードプライマー:TCAGGAAGAAGCCAAAATTAAAAGA(配列番号7)
リバースプライマー:GCAGGCGCACTCCAAATG(配列番号8)
VEGFA用プライマーセット:
フォワードプライマー:CTCTCTCCCTGATCGGTGACA(配列番号9)
リバースプライマー:GGAGGGCAGAGCTGAGTGTT(配列番号10)
GAPDH用のプライマーセット:
フォワードプライマー:TGCACCACCAACTGCTTAGC(配列番号11)
リバースプライマー:TCTTCTGGGTGGCAGTGATG(配列番号12)
【0052】
成長因子産生促進効果は、試料を添加せずに培養した細胞における各成長因子mRNAの発現量を内部標準であるGAPDH mRNAの発現量に対する割合として算出した各成長因子の遺伝子相対発現量(各成長因子の遺伝子発現量/GAPDH遺伝子の発現量)の値を1.0とし、これに対し、試料を添加して培養した細胞における各遺伝子の相対発現量の値を算出し、評価した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1の結果に示されるように、ロサ・アルバ・セミプレナ、ロサ・ウィクライアナ、ロサ・フェティダの抽出物(製造例1〜9)の全てに、顕著な幹細胞からの成長因子産生促進効果が認められた。なお、本実験例で用いた幹細胞以外にも、骨髄由来幹細胞、造血幹細胞、胚性の幹細胞(ES細胞)についても同様な試験を行ったところ、顕著な幹細胞からの成長因子産生促進効果が認められた。また、各成長因子産生及び分泌促進効果はELISA法においても確認された。さらに、上記抽出物(製造例1〜9)以外にも、各植物の葉のみ又は全草から抽出した抽出物にも同様な効果が認められた。
【0055】
(実施例2)製品の処方例
以下に示す処方例に従い、製造例1〜9で製造したロサ・アルバ・セミプレナ、ロサ・ウィクライアナ、またはロサ・フェティダの抽出物を配合したローション、クリームを常法により調製した。
【0056】
処方例1 ローション
処方 成分 配合量(部)
1 製造例1〜9のバラ科バラ属植物抽出物 0.05
2 1,3−ブチレングリコール 8.0
3 グリセリン 2.0
4 キサンタンガム 0.02
5 クエン酸 0.01
6 クエン酸ナトリウム 0.1
7 エタノール 5.0
8 パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9 ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.1
(40E.0.)
10 香料 0.1
11 精製水 84.52
【0057】
成分1〜6及び11と、成分7〜10をそれぞれ均一に溶解した後、両者を混合し濾過してローションを調製した。
【0058】
処方例2 クリーム
処方 成分 配合量(部)
1 製造例1〜9のバラ科バラ属植物抽出物 0.03
2 スクワラン 5.5
3 オリーブ油 3.0
4 ステアリン酸 2.0
5 ミツロウ 2.0
6 ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7 ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E. 3.0
0.)
8 ベヘニルアルコール 1.5
9 モノステアリン酸グリセリン 2.5
10 香料 0.1
11 パラオキシ安息香酸メチル 0.2
12 パラオキシ安息香酸エチル 0.05
13 1,3-ブチレングリコール 8.5
14 精製水 68.12
【0059】
成分2〜9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とした。また、成分1及び成分11〜14を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とした。次いで、油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、さらに30℃まで冷却することで製品とした。