特許第6200722号(P6200722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200722
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】ティルティングパッド軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/03 20060101AFI20170911BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20170911BHJP
   F16N 31/00 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   F16C17/03
   F16C33/10 Z
   F16N31/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-162960(P2013-162960)
(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公開番号】特開2015-31372(P2015-31372A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 基喜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
(72)【発明者】
【氏名】辺見 真
(72)【発明者】
【氏名】村田 健一
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−234147(JP,A)
【文献】 特開昭58−180814(JP,A)
【文献】 特開平09−144750(JP,A)
【文献】 特開2002−122143(JP,A)
【文献】 特開2002−155946(JP,A)
【文献】 実開平05−067813(JP,U)
【文献】 特開昭60−157512(JP,A)
【文献】 米国特許第5518321(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00−17/26,33/00−33/28
F16N 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受ハウジングと、前記軸受ハウジングに対して搖動自在に設けられ、回転軸を支持する複数のティルティングパッドと、前記回転軸の荷重支持を分担する下半部における前記ティルティングパッドに形成された給油孔又は隣り合う前記ティルティングパッドの間に配置された給油ノズルを介し、前記下半部における前記ティルティングパッドの摺動面に潤滑油を供給するように構成されたティルティングパッド軸受装置であって、
前記回転軸の荷重支持を分担しない上半部における前記ティルティングパッドには給油孔が形成されない構成にすると共に、隣り合う前記上半部における前記ティルティングパッドの間に給油ノズルが配置されない構成とし、
前記回転軸の荷重支持を分担しない前記上半部における前記ティルティングパッドの摺動面のみに、軸受装置の側面側に潤滑油を排出する潤滑油排出構造が設けられていることを特徴とするティルティングパッド軸受装置。
【請求項2】
請求項1記載のティルティングパッド軸受装置において、前記潤滑油排出構造は、前記回転軸の回転方向から見て前記上半部における前記ティルティングパッドの前端部に設けられた切り欠きであり、前記切り欠きが設けられたティルティングパッドは周方向下流側に向かうに従って摺動面が広がるように構成されていることを特徴とするティルティングパッド軸受装置。
【請求項3】
請求項1記載のティルティングパッド軸受装置において、前記潤滑油排出構造は、周方向下流側に向かうに従って前記上半部における前記ティルティングパッドの一側面又は両側面に向かって斜めに設けられた1つ又は複数の排油溝であり、前記排油溝は前記上半部における前記ティルティングパッドの側面まで貫通していることを特徴とするティルティングパッド軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティルティングパッド軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体軸受は、薄い流体膜を介して回転軸の荷重を支持する軸受であり、転がり軸受と比較して耐荷重性能が高く、振動減衰性にも優れる。このため、高い信頼性が必要とされる蒸気タービンや発電機等の産業用大型回転機械に広く採用されている。これらの機械では、振動安定性に優れたティルティングパッド軸受が使用されることがある。
【0003】
ティルティングパッド軸受は、軸受ハウジングとこれに配設されたピボット、及びピボットを介して支持される複数のティルティングパッドで構成されている。パッドと回転軸の間に潤滑油を供給することで、油膜圧力により回転軸を支持できる。パッドはピボットにより揺動可能となっており、油膜の圧力分布に応じてその傾きが変化し、オイルホイップなどの不安定振動を抑制することができる。
【0004】
ティルティングパッド軸受の潤滑油供給方法として、各パッドに形成された給油孔又は隣り合うティルティングパッドの間に配置された給油ノズルから潤滑油を供給する直接給油式が知られている。この方法では、パッドと回転軸の間に温度の低い潤滑油を直接供給できるため、軸受メタルの摺動面における温度上昇を抑制できる。
【0005】
摺動面には低融点金属が鋳込んであるため、摺動面は融解温度以下に維持する必要があり、軸受にとって温度上昇の抑制は重要である。
【0006】
特許文献1には、各ティルティングパッドの外周面、或いはそれに対向するハウジングの内周面に複数の周方向の溝を有し、同溝或いは外周面に直接潤滑油を噴出する複数の小径オリフィスを、ハウジング或いは周方向に隣合う各ティルティングパッドの間に設置された給油片に配置したティルティングパッド型軸受装置が提案されており、このような構成により、ティルティングパッドの温度上昇及びそれに伴う焼付き、不安定振動の発生を防止し、供給潤滑油を効率的に利用することで、安定した高特性を有するティルティングパッド型軸受装置が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−293554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
軸受にとって温度上昇の抑制は重要であるが、温度上昇は給油量に関係しており、従来、温度上昇を抑制できるような給油量に設定されている。しかしながら、給油量によらず温度上昇を抑制できれば、その分給油量を削減することができ、軸受装置の低コスト化につながる。
【0009】
軸受における課題として、せん断による発熱で高温となった潤滑油が、パッド後端部を通過し、回転軸に連れ回りながら後続のパッドにおけるパッド前端部へと供給される現象が知られている。この高温となった潤滑油について改善すれば軸受メタルの温度上昇をさらに抑制することができ、給油量の削減量を大きくすることができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された構造では、せん断による発熱で高温となった潤滑油それ自体の取り扱いについては特に考慮されていない。
【0011】
本発明の目的は、軸受メタルの温度上昇を抑制するとともに軸受給油量の削減を可能とするティルティングパッド軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、荷重分担に関与しないパッドにおいて高温油の排出を促進することにより、軸受メタルの温度上昇を抑制するものである。より具体的には、本発明のティルティングパッド軸受装置は、荷重を分担する下半部のティルティングパッドの摺動面に潤滑油を供給する給油構造を設け、荷重を分担しない上半部のティルティングパッド摺動面には軸受装置の側面側に潤滑油を排出する潤滑油排出構造を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軸受メタルの温度上昇を抑制するとともに軸受給油量の削減することが可能となる。
【0014】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施例のティルティングパッド軸受装置断面図である。
図2】比較例における上半部ティルティングパッドの摺動面上の油流れを示す摺動面展開図である。
図3】本発明の第1の実施例の上半部ティルティングパッド斜視図である。
図4】本発明の第1の実施例における上半部ティルティングパッドの摺動面上の油流れを示す摺動面展開図である。
図5】本発明の第1の実施例のティルティングパッド軸受装置軸方向断面図である。
図6】本発明の第1の実施形態及び比較例におけるティルティングパッド軸受メタルの摺動面温度を表す図である。
図7】本発明の第1の実施例のティルティングパッド軸受装置を給油ノズルに変えたときの断面図である。
図8】本発明の第1の実施例のティルティングパッド軸受装置のパッド枚数を変えたときの断面図である。
図9】本発明の第2の実施例の上半部ティルティングパッド斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の第1の実施例について図1図6を用いて説明する。図1は本発明の第1の実施例のティルティングパッド軸受装置断面図である。
【0018】
本発明の軸受は、回転軸1の径方向荷重を支持するジャーナル軸受である。また、本発明の軸受は、下半部のパッドは荷重を分担するため、給油孔又は給油ノズルを設けるが、上半部のパッドは荷重の分担に関与しないため、それらのパッドに対しては給油を行わない。
【0019】
図1に示すように、本実施例のティルティングパッド軸受は、回転軸1の外周面に対向するように回転軸1の周方向(上半側,下半側)に配置された複数のティルティングパッド2a及び2bと、複数のピボット3を介して複数のティルティングパッド2a及び2bを傾動(搖動)可能に支持する軸受ハウジング4とを備えている。
【0020】
回転軸の回転方向Aから見て、荷重を分担する下半部のティルティングパッド2bの前端部には、径方向に貫通する給油孔5が形成されている。軸受ハウジング4の外周側には、周方向に延在する導油溝6が形成されている。また、軸受ハウジング4には、各ティルティングパッド2bの給油孔5に対応して、導油溝6から径方向に貫通する導油孔7が形成されている。軸受ハウジング4の導油孔7とティルティングパッド2bの給油孔5は、導油管8を介して接続されている。軸受ハウジング4の導油溝6は、ケーシング9の導油孔10,配管11及びポンプ12を介してオイルタンク13に接続されている。そして、ポンプ12の駆動により、オイルタンク13で貯蔵された潤滑油が軸受ハウジング4の導油溝6に供給され、さらに、軸受ハウジング4の導油孔7,導油管8及びティルティングパッド2bの給油孔5を介して、ティルティングパッド2bの摺動面14に供給されるようになっている。ティルティングパッド2bの摺動面14に供給された潤滑油によりティルティングパッド2bと回転軸1との間に薄い流体膜を形成する。また、ティルティングパッド2bの摺動面に供給した潤滑油は、軸受装置の側面側に一部溢れ出て、溢れ出た潤滑油はオイルタンク13に回収される。
【0021】
給油孔5によりティルティングパッド2bと回転軸1の間に潤滑油を供給すると、潤滑油はせん断による摩擦で温度上昇を経て、回転軸1に連れ回りながら後続のティルティングパッド2aへと流れる。
【0022】
図2は比較例における上半部ティルティングパッドの摺動面上の油流れを示す摺動面展開図である。比較例では、軸受装置の側面側に潤滑油の排出を促進する構造が設けられていないものである。
【0023】
比較例の場合、上半部のティルティングパッド2aへ流入した高温油は、図2に示すように排出されずに連れ回り、ティルティングパッド2aを通過して後続のティルティングパッド2bへと再度流れていき、軸受メタル温度の上昇を助長してしまう。
【0024】
そこで、本実施例では上半部のティルティングパッド2aへ流入した高温油の排油を促進して、軸受メタル温度の上昇を抑制するようにしている。図3は、本発明の第1の実施例の構造を示すもので、荷重を分担しない上半部のティルティングパッド2aの摺動面に設けた、軸受装置の側面側に潤滑油を排出する潤滑油排出構造を示す。図3は、上半部のティルティングパッド2aを下方から見た斜視図である。
【0025】
本発明の第1の実施例の場合、図3に示すように、上半部ティルティングパッド2aの前端部は、周方向下流側(すなわち、図中矢印Aで示す回転軸1の回転方向)に向かうに従って摺動面が広がるような切り欠き15を有する。
【0026】
図4及び図5を用いて、切り欠き15で構成された潤滑油排出構造による潤滑油の流れを説明する。図4は本発明の第1の実施例における上半部ティルティングパッドの摺動面上の油流れを示す摺動面展開図、図5は本発明の第1の実施例のティルティングパッド軸受装置軸方向断面図である。
【0027】
図4及び図5に示すように潤滑油は軸受側面へと誘導され、高温油を排出する。それにより、軸受メタル温度の上昇を抑制できる。また、図4に示すように、切り欠き部で構成された潤滑油排出構造を備えたティルティングパッド2aを通過する度に潤滑油が軸受側面から排出される。なお、下半側では潤滑油が溢れ出ているが、図5ではその図示を省略している。本実施例では、下半側において見られるような潤滑油が溢れ出ることを排出とは言わない。積極的に潤滑油を軸受装置の側面側へ誘導し排出する作用を有するものを潤滑油排出構造という。
【0028】
この切り欠き15により軸受装置の側面側への潤滑油の排出を促進することができる。また、この切り欠き15は、潤滑油の流れに対して傾斜して形成されているので、潤滑油の流れを乱さないように、すなわち、潤滑油をスムースに排出できるように作用する。また、本実施例では、切り欠き15を上半部ティルティングパッド2aの両側に設けているが、片側にのみ設けても良い。また、切り欠き15の深さは、軸受装置の側面側への潤滑油の排出を効果的に促進できる程度とする。また、切り欠きは角部を全部カットした構造(貫通構造)でも良い。
【0029】
図6を用いて本実施例の効果を説明する。図6は本発明の第1の実施例及び比較例(図2)におけるティルティングパッド軸受メタルの摺動面温度を表す図である。図6に示すように給油量を等しくした場合、比較例と比較して全体的に温度を低下させることができる。また、少量の油量で同等の軸受メタル温度が得られるということであり、その分給油量を削減することができる。すなわち、本実施例では、荷重分担に関与しないパッドにおいて高温油の排出を促進し、軸受メタルの温度上昇を抑制することで、軸受給油量の削減を可能とすることができる。
【0030】
また、上述の第1の実施例においては、ティルティングパッド2bに形成された給油孔5を介して、ティルティングパッド2bの摺動面14に潤滑油を供給する構成に適用した場合を例にとって説明したが、これに限らない。すなわち、図7に示すように、隣り合うティルティングパッド2aと2b若しくは隣り合うティルティングパッド2bと2bの間に設けられた給油ノズル17を介して、ティルティングパッド2bの摺動面14に潤滑油を供給する構成に適用してもよい。このような変形例においても、上術の第1の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0031】
また、上述の第1の実施例においては、パッド枚数が6枚の場合を例にとって説明したが、これに限らない。すなわち、図8に示すように、ティルティングパッド2b(図8の左側及び右側のティルティングパッド2b)が下半部を超えて上半部に至る場合でも、回転軸1の下部に位置するティルティングパッド2bを挟む左右のティルティングパッド2b(図8の左側及び右側のティルティングパッド2b)は荷重を分担しているため、給油孔又は給油ノズルにより給油を行う。その他のパッド枚数においても同様であり、このような変形例においても、上述の第1の実施例と同様の効果を得ることができる。
【実施例2】
【0032】
本発明の第2の実施例について図9を用いて説明する。図9は本発明の第2の実施例の上半部のティルティングパッドを下方から見た斜視図である。
【0033】
図9に示すように、本実施例のティルティングパッド2aは、複数の排油溝18が周方向下流側(すなわち、図中矢印Aで示す回転軸1の回転方向)に向かうに従って、軸受両側面に向かって斜めに設けられており、さらに側面端部と連通(側面まで貫通)している。
【0034】
本実施例のようなティルティングパッド2aの場合、第1の実施例のように前端部の切り欠き15だけでなく、各排油溝において高温油を排出できるため、実施例1と比較してさらに給油量を削減可能である
その他の構成及び効果は第1の実施例と同様である。なお、本実施例においても、片側の側面に向かって斜めに複数の排油溝18を設けるようにしても良く、その場合にも同様の効果を得ることができる。また、排油溝18は1つでも良い。
【0035】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1…回転軸、2a,2b…ティルティングパッド、3…ピボット、4…軸受ハウジング、5…給油孔、6…導油溝、7…導油孔、8…導油管、9…ケーシング、10…導油孔、11…配管、12…ポンプ、13…オイルタンク、14…摺動面、15…切り欠き、16…シール、17…給油ノズル、18…排油溝。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9