特許第6200736号(P6200736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 水澤化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6200736-変性X型ゼオライト製除湿剤 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200736
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】変性X型ゼオライト製除湿剤
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/28 20060101AFI20170911BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20170911BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20170911BHJP
   C01B 39/22 20060101ALI20170911BHJP
   F24F 3/14 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   B01D53/28
   B01J20/18 B
   B01J20/30
   C01B39/22
   F24F3/14
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-187569(P2013-187569)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-54265(P2015-54265A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕史
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−193358(JP,A)
【文献】 特開2012−120953(JP,A)
【文献】 特開2012−071278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/26 − 53/28
B01J 20/00 − 20/34
C01B 33/20 − 39/54
F24F 3/00 − 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO/Al(モル比)が2.0〜3.0、Na/Alモル比が0.15〜0.65、結晶度が10〜80%、及び窒素吸着法により測定して細孔直径が2〜5nmでの細孔容積が35cm/kg以上であるX型ゼオライトの変性物からなり、
該X型ゼオライトの変性物が、X型ゼオライトをアンモニウムイオン交換した後に焼成することで得られるものであることを特徴とする除湿剤。
【請求項2】
請求項1に記載の除湿剤が担体に担持されていることを特徴とする除湿用部材。
【請求項3】
前記担体が、ハニカム構造であることを特徴とする請求項2に記載の除湿用部材。
【請求項4】
請求項1に記載の除湿剤を使用することを特徴とするヒートポンプ。
【請求項5】
請求項1に記載の除湿剤を使用することを特徴とするデシカント除湿機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X型ゼオライトの変性物からなる除湿剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体などの製造装置が収容された各種の工場内や一般家庭では、空気中の水分を一定量に保つために除湿剤が使用されている。このような除湿剤としてはシリカゲルや各種のゼオライトが知られている。
【0003】
特にゼオライトは、シリカゲルに比べて湿度や温度に左右されない吸湿能力を持つため、除湿機のデシカント用除湿剤として利用されている。例えば、特許文献1には複数種のゼオライト粒子が分散されている除湿層を備えた除湿ロータが開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、ゼオライトをそのまま除湿剤として用いた場合、吸湿後のゼオライトから水分を放出せしめ、再び水分の吸着に再利用するためには、数百度の高温で加熱する必要となる。このため、ゼオライトを除湿剤として用いたデシカントを使用した除湿機は、消費電力が高いうえに室温を上昇させてしまう欠点ゆえ夏場の使用に向かないとされ、より低温で吸着能力を回復させることのできるゼオライト系除湿剤の開発が行われている。
【0005】
さらに、近年では工場などから排出される、100℃以下の比較的低温の排熱を利用し、除湿などの空調機を駆動させることが求められており、この点においても、吸湿した水分を低温で放出しうる除湿剤が望まれている。このような除湿剤の発明としては特許文献2にはゼオライトを酸処理して非晶質化した変性アルミノケイ酸を乾燥剤として用いることが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献2で提案されている変性アルミノケイ酸は、未変性のゼオライトに比べて吸着水分を容易に放出することができるという利点を有しているが、吸湿性能が大きく低下してしまうという問題があり、求められる能力を達成するためにはデシカントへの担持量を過剰にする必要がある。
【0007】
また、特許文献3には、FAU型ゼオライトのアルミニウム硫酸塩処理物(ゼオライト変性物)からなる除湿剤が本出願人により提案されている。かかる除湿剤は、水分の吸着性に優れているばかりか、吸着水分の放出を低温で行うことができ、さらに耐久性に優れるという利点を有している。
しかしながら、特許文献3のゼオライト変性物からなる除湿剤においても、再生するためには200℃の加熱が必要であり、吸着水分の低温放出性については未だ不十分であり、更なる向上が求められている。
【0008】
さらに、特許文献4には、X型ゼオライトを酸処理することによって得られた結晶化度が5〜70%である部分非晶質化ゼオライトを含む吸湿剤が提案されている。
しかしながら、特許文献4に示されるような酸処理による変性法では、ゼオライトの持つ吸湿容量を十分に生かすことが出来ていない。すなわち、酸処理の程度を強くするほど低温で吸着した水分を回復する能力が高くなる傾向にはあるが、これにより得られた除湿剤は、原料のX型ゼオライトよりも吸着能力が低下することが、本発明者等の実験からわかっている。このため、かかる除湿剤においても、水分吸着性及び低温での吸着水分の放出性の何れも不十分であり、さらなる特性向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−167838号
【特許文献2】特開平6−277440号
【特許文献3】特開2012−71278号
【特許文献4】特開2012−120953号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、水分の吸着性に優れているばかりか、低温での吸着水分の放出性にも優れた除湿剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、ゼオライトの吸湿性能について多くの実験を行った結果、X型ゼオライトの結晶構造を緩やかに崩壊させることにより、合成X型ゼオライトのもつ吸着性能を低下させずに、低温での吸着水分の放出性が著しく向上するという知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明によれば、SiO/Al(モル比)が2.0〜3.0、Na/Alモル比が0.15〜0.65、結晶度が10〜80%、及び窒素吸着法により測定して細孔直径が2〜5nmでの細孔容積が35cm/kg以上であるX型ゼオライトの変性物からなり、該X型ゼオライトの変性物が、X型ゼオライトをアンモニウムイオン交換した後に焼成することで得られるものであることを特徴とする除湿剤が提供される。
【0014】
また、本発明の除湿剤を担体に担持した除湿用部材が提供され、特に担体は、ハニカム構造であることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の除湿剤を使用したヒートポンプやデシカント除湿機が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の除湿剤、即ちX型ゼオライト変性物は、従来公知のX型ゼオライトと同等の吸湿容量を維持しているばかりか、公知の合成X型ゼオライトや酸処理によって変性されたX型ゼオライトの変性物に比して、吸着水分の放出性が著しく向上している。例えば、後述する実施例1に示されているように、60℃×90分での吸着水分の放出量が10%以上と変性前のものに比して極めて多い。即ち、この除湿剤は低温で多量の吸着水分を放出することができるため、容易に再生して再利用することができ、特に、一般家庭での使用や工場などの排熱の利用を利用する除湿剤の基部として最適である。
【0017】
水分吸着性及び低温での吸着水分放出性が優れているという理由について完全に解明したわけではないが、本発明者等は、X型ゼオライトの結晶構造が適度に崩壊されており、水分吸着や水分放出に寄与する細孔部分に変化が持たされているためではないかと考えている。特に、本発明品は、実施例で示す通り、2〜5nmの範囲の細孔直径を有する細孔容積が大きくなっており、低温での放出性能と細孔容積は相関がとられていることは明らかである。
【0018】
本発明において、除湿として用いるX型ゼオライトの変性物は、SiO/Al(モル比)が2.0〜3.0、Na/Al比が0.15〜0.65の範囲にある。このことは、ゼオライトに耐熱性を付与するNaの一部がイオン交換されていることを意味している。
また、上記X型ゼオライトの変性物は、結晶度が10〜80%、特に40〜70%の範囲にある。このことは、X型ゼオライトに特有のX線回折ピークが消失しない程度に縮退し、結晶構造が適度に崩壊し変性されていることを意味する。ところで、このような変性は水溶液中でアンモニウムイオン交換された後、比較的低温での焼成でなされる。即ち、Naを交換性のカチオンとして有するX型ゼオライトは、耐熱性が高く、700度の焼成を行っても結晶度の低下はほとんど見られないが、上記で説明しているように、この変性物はNaがイオン交換されているものであるため、比較的低温での焼成により結晶構造を破壊することができるのである。これは200℃から400℃程度の比較的低温で、アンモニウムイオンが分解しアンモニアを放出する際に、結晶構造の破壊を伴って変性されるためと考えられる。そして、結晶構造の適度な破壊が比較的低温の焼成でなされることは、X型ゼオライトの構造の一部と吸湿容量を維持したまま、2〜5nmの細孔直径を持つ孔を新規に付与することで、吸湿した水分をより低温で再生することを可能とする。
かかる事実を裏付けるように、本発明におけるX型ゼオライトの変性物は、細孔直径が2〜5nmでの細孔容積が35cm/kg以上(特に40〜80cm/kg)であるが、未変性のX型ゼオライトでは、この細孔直径の領域での細孔は5cm/kg以下と小さい。即ち本発明品は、未変性のゼオライトの持つ極めて小さな細孔も維持しながら、直径の大きな細孔が付与されることによって、吸着水分の放出性に極めて良好な向上をもたらしたものと信じられる。
なお、酸処理によるゼオライトの変性は、処理程度を強くするほど低温での再生性が良くなる傾向にあるが、構造を壊しすぎてしまうために細孔を十分に付与することが出来ず、結果として吸着性能および低温での放出性能を満足させる除湿剤を提供することが出来ない。さらに、特許文献4に示されるように酸処理程度を強くするとゼオライトが溶解にともなって崩壊しすぎてしまい、吸湿性能が低下してしまううえ、原料に対して得られる除湿剤の割合が少なくなることから、工業的に有用な手段とは言えない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のゼオライト変性物(実施例1)とX型ゼオライトの非晶質化物(比較例4)、X型ゼオライト市販品(東ソー製X型ゼオライトF―9)のX線回折像。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<X型ゼオライトの変性>
本発明の除湿剤は、X型ゼオライトの変性物であるが、この変性物は、X型ゼオライトを水溶液中でイオン交換した後、焼成することにより得られる。なお、酸処理や焼成のみの処理がゼオライト構造に変性をもたらすことはすでに公知であるが、耐熱性を付与するNaイオン量を低下させることで、その後の変性の処理を簡便にする方法は知られていない。
これは、通常ゼオライトのイオン交換は、交換後のゼオライトが能力を持つことを前提に行われる処理であるためであるが、本発明者等はこれを新規な変性の手段として利用できることを本発明で見出している。
【0021】
X型ゼオライト;
変性に供されるX型ゼオライトとしては、それ自体公知のものの中でも比較的アルミナリッチなものが使用される。その代表的な組成等は、以下のとおりである。
SiO/Al(モル比):2.0〜3.0
NaO:15.0〜18.0mass%
Na/Alモル比:1.0
強熱減量(1050℃):15.0〜20.0mass%
細孔容積(細孔直径650nm以下):0.25〜0.40cm/g
細孔容積(細孔直径2〜5nm):5cm/kg以下
【0022】
イオン交換;
焼成に先立って行われるイオン交換は、X型ゼオライト中のNaイオンを水溶液中で他のカチオン種にイオンに交換するものである。即ち、Na型のゼオライトは耐熱性に優れているため、これを焼成によって変性するには、焼成温度を著しく高い温度とすることが必要であり、X型ゼオライトの結晶構造を大きく破壊せずに細孔構造を適度に変化させ得るような変性が困難となってしまう。例えば、比較例3に示されるように、ナトリウムX型ゼオライトは700℃の高温でも高い結晶度を維持しているうえ、これによって得られた焼成ゼオライトは、吸湿能力と放出性共に未変性のX型ゼライトより低下する。さらに、これ以上の温度で焼成すると、公知のように相転移が生じてしまうため、ほとんど吸湿性を持たない非晶質になってしまう。
イオン交換に用いるカチオン種は、その後の焼成でX型ゼオライトを変性するのに好適な、アンモニウムイオンなどがあげられる。
しかるに、Naイオンをアンモニウムイオンに交換しておけば、200℃から400℃での加熱によってアンモニウムイオンが速やかに分解してしまうため、低温での焼成による結晶構造の適度な破壊が可能となる。すなわち、X型ゼオライトの細孔構造を大きく破壊せず、適度に変性し新たな細孔を付与することが可能となる。
【0023】
このようなイオン交換は、Na/Alモル比が0.15〜0.65、特に0.30〜0.55となる程度に行われる。Naイオンが多く残存すると、後述する低温での焼成による適度な変性が不十分となる。例えば、参考例として示されるNa/Alモル比が0.66の除湿剤は、未変性のX型ゼオライトよりも低温での放出性能が勝るものの、酸処理品程度の能力しか持たないため、Naの交換が不十分であることがわかる。
また、Naイオンを減らしすぎると、耐熱性が低下しすぎてしまい、構造を維持することが出来なくなるため、非晶質化して吸着性能が極めて低くなる(比較例4、図1)。
また、かかるイオン交換処理は、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩の水溶液を使用し、上述したX型ゼオライトと該水溶液とを、室温で混合すればよいが、60℃程度に加熱するとより速やかに進行する。処理時間は、アンモニウム塩の種類や水溶液のアンモニウム塩濃度によっても異なるが、一般に、2〜40mass%濃度の塩化アンモニウム水溶液を用いた場合で0.5〜24時間程度である。
【0024】
焼成;
上記のようにしてイオン交換処理が行われた後は、ろ過及び水洗を行い、未反応の塩化アンモニウムや生成したNa塩を除去した後、焼成を行い、X型ゼオライトの適度な変性を行う。
【0025】
焼成は、X型ゼオライトの結晶構造を大きく破壊せずに、細孔構造を適度に変える程度に行われるものであり、具体的には、結晶度が10〜80%、特に40〜70%に低下する程度に焼成が行われる。
尚、本発明において結晶度とは、X線回折において、市販品(東ソー製X型ゼオライトF―9)の特定の5つの面指数のピーク強度の和を100%とし、このピーク強度の和に対する変性ゼオライトのピーク強度の和の相対比である(詳細は、後述の実施例を参照)。
【0026】
即ち、結晶度が上記範囲よりも大きいと、変性が十分に行われておらず、従ってX型ゼオライトの細孔構造がほとんど変化しておらず、このため、水分吸着性や低温での吸着水分放出性を向上させるという本発明の目的を達成することができない。また、結晶度が上記範囲よりも小さくなるまで焼成が行われると、X型ゼオライトの結晶構造が大きく破壊され、非晶質化が進行しすぎて、細孔構造も大きく変化してしまい、この結果、水分に対する吸着性及び放出性の何れも大きく損なわれてしまうこととなる。
尚、酸処理による変性法もすでに公知であるが、酸処理による変性ではNa/Alモル比や結晶度が上記範囲となっていても、目的とする直径2〜5nmの細孔の再構築をもたらすことが十分に出来ないため、水分吸着性能の低下を起こしてしまう。
【0027】
上記のような結晶度の範囲にするための適度な焼成は、一般に、350〜600℃、特に400〜500℃程度の焼成温度で行われ、それ自体公知の焼成炉を用いて行われる。焼成時間は、用いる焼成炉の構造や焼成温度によっても異なり、一概に規定することはできないが、一般的には1〜24時間程度である。例えば、前述したX型ゼオライトをイオン交換せずにそのまま焼成に供した場合、上記のような温度範囲での焼成では結晶度はほとんど低下せず、さらに高温にしなければ変性することができない。
また、900℃程度の高温での焼成は相転移を引き起こすものであり、目的の吸湿性能と低温での放出性能を満足させる除湿剤を得ることが出来ない。
【0028】
以上のようにして適度な焼成が行われて得られるX型ゼオライトの変性物は、適宜、粒度調整を行うことにより、本発明の除湿剤として使用される。
【0029】
<除湿剤>
上記のような適度な焼成によって得られたX型ゼオライトの変性物は、SiO/Al(モル比)が2.0〜3.0の範囲にあり、出発原料として用いたX型ゼオライトと実質的に同じである(図1)。即ち、この変性物は、X型ゼオライトに特有の結晶構造は大きく失われてはおらず、その結晶度は、焼成の項でも説明したように、10〜80%、特に40〜70%の範囲にある。
【0030】
さらに、上記のような結晶度は低温での焼成により実現されていることから、合成したX型ゼオライトの吸湿性能は大きく失われないが、細孔直径2〜5nmでの細孔容積は、35cm/kg以上、特に40〜80cm/kgの範囲にかなり増大している。この領域での細孔容積の増大が、水分吸着性や低温での吸着水分放出性の向上をもたらしていると信じられる。
【0031】
また、このX型ゼオライトの変性物は、ナトリウムX型ゼオライトのイオン交換を介して得られたものであることから、Na/Alモル比は、先にも述べたように、0.15〜0.65の範囲にある。
【0032】
上述したX型ゼオライト変性物は、一般に、レーザ回折散乱法により測定した中位径(D50)が0.5乃至3.5μmの範囲となるように粒度調整されていることが除湿剤として用いる際の成形性や作業性等の点で好ましい。
かかるX型ゼオライト変性物からなる除湿剤は、粒状物の使用に供することもできるし、樹脂バインダと混合し、所定の形状に成形して使用に供することもできる。
かかる除湿剤は、水分に対して優れた吸着性を示すばかりか、低温での吸着水分の放出性が向上しており、低温領域での加熱により吸着水分を放出せしめて再生することができる。従って、一般家庭の空調用として好適に使用することができ、例えば、特許文献1の除湿ロータなどに設けられている除湿層中に配合して使用することが可能である。或いは、除湿剤を担体に担持して除湿用部材として用いる事もでき、担体はハニカム構造を有していることが好適である。
また、この除湿剤は、水分の吸着及び脱着の何れもが容易に行われるため、空気を利用した蓄熱システム(例えば、ヒートポンプ)に用いる吸着剤などの用途にも使用することができる。
また、本発明品は低温での吸湿性能の再生を前提に設計されたものであるが、当然、低温での吸湿能力の再生は高温での再生の場合よりも、除湿剤の経時劣化が起きづらいことは明白である。このため、本発明品は既存の除湿剤よりも高い能力を持ちつつ、長期間使用できると信じられる。
さらに、この除湿剤は、湿度調節用シートまたは湿度調節壁材として使用することも可能である。
【実施例】
【0033】
本発明の優れた効果を、次の実施例で説明する。
なお、実施例における各種試験は下記の方法で行った。
【0034】
(1)化学組成;
元素分析は、(株)リガク製Rigaku RIX2100を用い、ターゲットはRh、分析線はKαで、その他は表1の条件で測定を行った。
なお、試料は110℃で3時間乾燥した物を基準とする。
【0035】
【表1】
【0036】
(2)結晶度
相対湿度90%に調湿済みのデシケーター中に乾燥試料を入れ、室温下で24時間以上静置し、水分を飽和量吸着させる。取出した試料を、X線回折測定する。同一条件で測定した市販品(東ソー製X型ゼオライトF―9)のXRDにおいて、ICDD39−1380で(331)、(440)、(533)、(642)、(555)で示される5つの面指数のピーク強度の和を100%とした時の、測定試料の同一面指数ピーク強度の和の相対比を結晶度とする。
なお、X線回折測定はリガク社製のultima4を用いて、Cu−Kαにて下記の条件で測定を行った。
ターゲット:Cu
フィルター:湾曲結晶グラファイトモノクロメーター
検出器:SC
電圧:40kV
電流:40mA
ステップサイズ:0.02°
計数時間:0.6sec/step
スリット:DS2/3° RS0.3mm SS2/3°
【0037】
(3)細孔容積(V)
Micromeritics社製 Tri Star 3000を用いて測定を行った。
細孔容積は、P/Po=0.975未満の窒素吸着量から求めた。
【0038】
(4)吸湿容量の評価
まず、事前に110℃で1時間乾燥したシャーレΦ100mmの重量を測定する(w1)。このシャーレに、約2gの除湿剤を測り取り、イオン交換水を10ml加えてスラリー化する。このスラリーを、予め150℃に温めておいた卓上乾燥機で、2時間前処理乾燥する。乾燥後、シャーレと除湿剤の合計重量(w2)を測定し、硫酸希釈液により、25℃でRH=90%となるように調節したデシケーター内で16時間かけ飽和吸湿させる。吸湿16時間後のシャーレと除湿剤の合計重量(w3)を測定し、以下の式により吸着容量(150℃
乾燥重量基準)を求めた。
吸湿容量 [mass%]=(w3−w2)/(w2−w1)×100
【0039】
(5)脱着量の評価
吸湿容量の評価を前処理とする。飽和吸湿した除湿剤を、予め60℃に温めておいた卓上乾燥機で、90分間乾燥する。この乾燥したシャーレと除湿剤の合計重量(w4)を測定する。同様に90℃、110℃、150℃の順で同様の操作を繰り返し、それぞれの重量を測定する(w5、w6、w7)。以下の式により、それぞれの温度で、吸湿した水分を放出させた時の脱着量(RH=90%
吸湿重量基準)を求めた。
脱着量(60℃)[mass%]=(w3−w4)/(w3−w1)×100
脱着量(90℃)[mass%]=(w3−w5)/(w3−w1)×100
脱着量(110℃)[mass%]=(w3−w6)/(w3−w1)×100
脱着量(150℃)[mass%]=(w3−w7)/(w3−w1)×100
【0040】
(比較例1)
(X型ゼオライトの合成)
X型ゼオライトは以下の通り合成した。5Lのステンジョッキに、655gの3号ケイ酸ソーダ(SiO=22.9mass%、NaO=7.4mass%、HO=69.7mass%)を測り取り、718gの水を加えてシリカ側原料とした。3Lポリジョッキに382gのアルミン酸ソーダ(Al=23.0mass%、NaO=19.2mass%、HO=57.8mass%)を測り取り、191gの49mass%NaOHおよび718gの水を加えてアルミ側原料を調整した。なお、仕込み原料のSiO/Al(モル比)は3.4である。シリカ側原料とアルミ側原料を室温で混合し、この混合液を1時間撹拌した。撹拌終了後95℃まで昇温し、撹拌を止めて95℃で18時間反応し、濾過水洗した。得られたケーキを110℃で一晩乾燥することで、X型ゼオライトを得た。
得られたX型ゼオライトの化学組成解析を行ったところ、SiO/Al(モル比)は2.6であった。また、このX型ゼオライトは、東ソー製F−9と比較して結晶度が91%だった。
【0041】
(実施例1)
(アンモニウムイオン交換工程)
比較例1のX型ゼオライト200g(110℃乾燥重量)に対して1800gの水を加えて10%スラリーとし、56gの塩化アンモニウムを加え、撹拌しながら室温で3時間イオン交換反応を行った。その後、濾過水洗を行った後に110℃で一晩乾燥を行った。
(焼成工程)
乾燥品20gを蒸発皿に測り取り、電気炉で450℃、3時間焼成することで除湿剤を得た。
【0042】
(実施例2)
塩化アンモニウムの量を112gにした以外は、実施例1と同様の処理で除湿剤を得た。
【0043】
(実施例3)
塩化アンモニウムの量を200gにした以外は、実施例1と同様の処理で除湿剤を得た。
【0044】
(実施例4)
比較例1で示される、X型ゼオライトの合成条件について、仕込みのSiO/Al(モル比)を2.9とし、X型ゼオライトを得た。得られたX型ゼオライトの化学組成解析を行ったところ、SiO/Alは2.5であり、結晶度は102.4%だった。
このゼオライト200g(110℃乾燥質量)に対して1800gの水を加えて10%スラリーとし、116gの塩化アンモニウムを加え、撹拌しながら室温で3時間イオン交換反応を行った。その後、濾過水洗を行った後に110℃で一晩乾燥を行った。最後に、乾燥品20gを蒸発皿に測り取り、電気炉で400℃、3時間焼成することで除湿剤を得た。
【0045】
(比較例2)
比較例1のX型ゼオライトを原料とし、特許文献4(特開2012−120953号)の実施例2に従って除湿剤を得た。
【0046】
(比較例3)
比較例1のX型ゼオライトを、700℃で3時間焼成することで、X型ゼオライトの焼成品を得た。
【0047】
(比較例4)
比較例1のX型ゼオライト40g(110℃乾燥質量)に対して1960gの水を加えて2%スラリーとし、400gの塩化アンモニウムを加え、撹拌しながら室温で3時間イオン交換反応を行った。その後、濾過水洗を行った後、濾過ケーキを再度2%スラリーとし、400gの塩化アンモニウムを加え2回目のイオン交換を行った。再度濾過水洗し、110℃で一晩乾燥を行った。乾燥品20gを450℃で3時間焼成することで非晶質を得た。
【0048】
(比較例5)
塩化アンモニウムの量を23gにした以外は、実施例1と同様の処理で除湿剤を得た。
【0049】
上記の各実施例について、組成および物性と吸脱着能力について表2に示す。
【0050】
【表2】
図1