(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200767
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】皮膚内部構造推定方法及び皮膚の色ムラ評価方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20170911BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
A61B5/00 M
A61B5/10 300Q
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-222121(P2013-222121)
(22)【出願日】2013年10月25日
(65)【公開番号】特開2015-83054(P2015-83054A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2016年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】水越 興治
(72)【発明者】
【氏名】中村 多実子
(72)【発明者】
【氏名】大場 愛
(72)【発明者】
【氏名】後藤 悠
【審査官】
門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/153959(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
A61B 5/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚表面に光を照射し、その光拡散量を測定する測定ステップ、及び
前記測定ステップで測定した光拡散量が照射スポットに対し予め準備した閾値以上である場合には、皮膚内部の乳頭の数が多いと推定し、光拡散量が照射スポットに対し予め準備した閾値より小さい場合には、皮膚内部の乳頭の数が少ないと推定する推定ステップ、を含む、美容目的で行われる皮膚内部構造推定方法。
【請求項2】
前記照射する光が単色光である、請求項1に記載の皮膚内部構造推定方法。
【請求項3】
前記光拡散量が光拡散面積であり、
前記推定ステップで準備した閾値は、単色光の照射範囲であるスポット面積を100とした際の光拡散面積が110以上120以下の数値である、請求項2に記載の皮膚内部構造推定方法。
【請求項4】
前記推定ステップは、単色光の照射範囲であるスポット面積を100とした際の光拡散面積により予め複数の領域を設定し、該複数の領域に対して光拡散面積の大きい順にスコアが大きくなるようスコアを設定し、スコアの大きいものから順に乳頭の数が多いと決定するステップ、を含む、請求項2に記載の皮膚内部構造推定方法。
【請求項5】
前記光拡散面積による複数の領域は、光拡散面積が120以上の領域、110以上120未満の領域、110未満の領域を少なくとも含む、請求項4に記載の皮膚内部構造推定方法。
【請求項6】
皮膚表面に光を照射し、その光拡散量を測定する測定ステップ、及び
前記ステップで測定した光拡散量が照射スポットに対し予め準備した閾値以上である場合には、肌の色ムラが少ないと評価し、光拡散量が照射スポットに対し予め準備した閾値より小さい場合には、肌の色ムラが多いと評価する評価ステップ、を含む、美容目的で行われる皮膚の色ムラ評価方法。
【請求項7】
前記照射する光が単色光である、請求項6に記載の皮膚の色ムラ評価方法。
【請求項8】
前記光拡散量が光拡散面積であり、
前記評価ステップで準備した閾値は、単色光の照射範囲であるスポット面積を100とした際の光拡散面積が110以上120以下の数値である、請求項7に記載の皮膚の色ムラ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚内部の真皮に存在する乳頭構造の推定方法に関する。また、皮膚の色ムラを評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚を構成する表皮と真皮とが接する部分には、表皮側には基底層が、真皮側には乳頭層が存在し、両者の界面として乳頭構造が形成されている。乳頭構造とは、基底層側からは真皮へ表皮突起(乳頭体)が突き出し、乳頭層側からは表皮突起間に食い込むように乳頭突起(真皮突起)が並び凹凸の状態の構造である。乳頭突起には細かな結合線維、毛細血管、知覚神経末端が存在し、真皮・表皮への酸素や栄養の補給を行い、真皮・表皮からの二酸化炭素の回収や情報の受容を行う役割を担っている。
【0003】
乳頭構造は、年齢や紫外線曝露によってその凹凸の扁平化や消失が起こり、肌のタルミに至りやすいことが知られている。また、真皮は自在に伸縮するが、真皮と接している表皮は、細胞が密に接しているシート状構造であるため伸縮性に乏しく、このような真皮と表皮の伸縮性の違いを緩衝するのが乳頭構造であるといわれている。また、乳頭構造における毛細血管はその凹凸に沿うように配置しているが、表皮直下にあるこの毛細血管は肌の色みに影響を与えることも知られている。そのため、乳頭構造と肌の状態とがどのような関係にあるかが関心を集め、検討されてきている。
【0004】
例えば、乳頭真皮の厚さや乳頭構造の配置が肌色に影響すること(特許文献1、2)や、口唇において乳頭構造と老化度が相関すること(特許文献3)が知られている。また、乳頭構造に起因する皮膚の伸縮性がキメと相関関係にあることに基づき、キメや肌色などの皮膚表面情報を指標として皮膚内部構造を推定する方法(特許文献4)や、真皮乳頭の形状に基づき毛穴の目立ちを評価する方法(特許文献5)、真皮乳頭層密度を指標として敏感肌を分類する方法(特許文献6)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−504020号公報
【特許文献2】特表2003−501651号公報
【特許文献3】特開2002−291722号公報
【特許文献4】特開2011−101738号公報
【特許文献5】特開2004−337317号公報
【特許文献6】特開2004−97436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、乳頭構造の特性に基づいた、新たな皮膚内部構造の推定方法及び皮膚の色ムラ評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、皮膚の真皮に存在する乳頭構造について研究を進め、すでにいくつかの知見を得て特許出願をしている(例えばPCT/JP2013/059271)。
本発明では、新たに皮膚による光拡散と乳頭構造との関係についての知見を得、これらの知見に基づき、発明を完成させた。
【0008】
本発明の第一の実施態様は、皮膚内部構造の推定方法である。具体的には、
皮膚表面に光を照射し、その光拡散を測定する測定ステップ、及び
前記測定ステップで測定した光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値以上である場合には、皮膚内部の乳頭の数が多いと推定し、光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値より小さい場合には、皮膚内部の乳頭の数が少ないと推定する推定ステップ、を含む、皮膚内部構造推定方法である。
【0009】
また、本発明の第二の実施態様は、皮膚の色ムラ評価方法である、具体的には、
皮膚表面に光を照射し、その光拡散を測定する測定ステップ、及び
前記ステップで測定した光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値以上である場合には、肌の色ムラが少ないと評価し、光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値より小さい場合には、肌の色ムラが多いと評価する評価ステップ、を含む、皮膚の色ムラ評価方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、新たな皮膚内部構造の推定方法及び皮膚の色ムラ評価方法を提供することが可能となり、カウンセリングなどの際に用いることで、適切な肌のケアや化粧料の選択に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試験例において行った、乳頭構造に起因する光拡散の増加を示す図である。
【
図3】乳頭構造の数と色ムラとの相関関係を示すグラフである(r=−0.35)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の皮膚内部構造の推定方法、及び皮膚の色ムラ評価方法について説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の具体的な実施形態にのみ限定されるものではない。
【0013】
本発明の第一の実施態様は皮膚内部構造の推定方法である。
本発明において、皮膚内部構造とは、皮膚を構成する表皮と真皮とが接する部分に存在する乳頭構造である。
皮膚内部構造の推定方法は、皮膚表面に光を照射し、その光拡散を測定する測定ステップ、及び前記ステップで測定した光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値以上である場合には、皮膚内部の乳頭の数が多いと推定し、光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値より小さい場合には、皮膚内部の乳頭の数が少ないと推定する推定ステップ、を含む、皮膚内部構造推定方法である。
本発明は、乳頭構造と光拡散の新たな関係を見出したことによるものである。以下に、本発明者らが行った試験例を説明する。
【0014】
<試験例1>
3Dプリンターにて、皮膚の乳頭構造を模した凹凸形状鋳型を作製した。次に光の拡散の指標であるHaze値を基準に、10%寒天(W/V)およびスキムミルク1%(W/V)になるように蒸留水にて調製した溶液を鋳型に流し込み冷却固化し、表皮モデルを作製した。作製した表皮モデルを真皮との接合面である凹凸形状を有する面を上向きに置き、真皮を反射体と考えるため、寒天を10%(W/V)になるように牛乳のみで調製したものを表皮モデルの上に流し込み冷却固化し表皮真皮モデルを作製した。
作製した表皮真皮モデルを表皮が上になるように置き、擬似角層として拡散シート(D123 株式会社ツジデン製)をのせ皮膚モデルとした。皮膚モデルに対して、15cm上方からレーザーポインター(赤色レーザーポインター KOKUYO製)にてレーザー光を入射させ、その様子を皮膚モデルから9cm斜め上方に固定したデジタルカメラにて
撮影した。撮影した画像に対して、画像解析ソフト(NS2K−Pro ナノシステム株式会社)を用いて、赤色領域を抽出後2値化し、画素数を算出することにより、入射したレーザー光の皮膚モデル上での拡散状態を定量化した。
【0015】
上記試験の結果、乳頭構造の突起が存在しない場合と比較して、乳頭構造の突起が存在する場合には、拡散領域が約20%増加した。この結果より、乳頭の数が多い場合には光拡散が多く、乳頭の数が少ない場合には光拡散が少ないことが判明した。すなわち、乳頭構造における乳頭突起は、光拡散を生じさせることが理解される。そのため光拡散を測定することで、皮膚内部の乳頭構造の推定が可能となる。
【0016】
測定ステップにおいて、光拡散を生じさせるための光は、光の広がりが少なく測定精度の向上が望めるというから可視光領域の単色光であることが好ましく、レーザー光がより好ましい。
また、光拡散の測定方法は、光拡散を測定できれば特段限定されず、例えば光が照射された皮膚をデジタルカメラで撮像した画像を用いて2値化処理を行うことで、光拡散を測定することができる。なお、2値化処理は、光拡散を測定しやすくするための処理であり、必須ではない。
【0017】
推定ステップでは、上記新たな知見に基づき、上記測定ステップで測定した光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値以上である場合には皮膚内部の乳頭の数が多いと推定し、光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値より小さい場合には皮膚内部の乳頭の数が少ないと測定するステップである。
照射スポットとは、照射された光が光拡散する前の、皮膚上に実際に光が照射された部分をいう。なお、照射スポットの大きさを正確に測定するために、照射された部位の画像を取得し、該画像を2値化処理することが好ましい。
【0018】
推定ステップでは、皮膚内部の乳頭の数が多いと推定するか、少ないと推定するかの閾値を予め準備する。該閾値は、例えば以下の手順で準備することができるが、これに限られない。
i)複数の被験者を準備する。
ii)複数の被験者の皮膚をin vivo共焦点レーザーにより測定し、被験者の乳頭の数を把握する。
iii)複数の被験者の皮膚表面に、光を照射し、その光拡散を測定する。
iv)上記ii)及びiii)の結果をプロットし、乳頭の数の平均値に対応する光拡散を、閾値とする。
このような方法を採用する場合、被験者の数は通常5以上であり、20以内であり、10以上が好ましい。
【0019】
上記閾値は、閾値を決めるための被験者の年代・数などにより変動はあるものの、単色光の照射範囲であるスポット面積を100とした際の光拡散面積が大凡110以上、120以下の範囲で設定される。112以上118以下で設定されてもよく、114以上116以下で設定されてもよく、115で設定されてもよい。
閾値は、被験者の年齢に応じて変化してもよく、被験者の居住地域に応じて変化してもよい。なお、閾値は通常整数であるが、小数であってもよい。
【0020】
また、推定ステップにおいて、単色光の照射範囲であるスポット面積を100とした際の光拡散面積が100以上の150以下の値において、光拡散面積により予め複数の領域を設定し、該複数の領域に対して光拡散面積の大きい順にスコアが大きくなるようスコアを設定し、スコアの大きいものから順に乳頭の数が多いと決定するステップ、を含むことが好ましい。
例えば、光拡散面積が100以上110未満をスコア1、110以上120未満をスコア2、120以上をスコア3とし、スコア3の光拡散面積120以上を乳頭の数が多いとし、110以上120未満を乳頭の数が普通であるとし、100以上110未満を乳頭の数が少ないと決定することができる。例えば、光拡散面積の測定結果が118であった場合には、乳頭の数が普通であると推定することができる。
【0021】
このように光拡散面積により予め複数の領域(N領域)を設定し、該複数の領域に対してスコアを設定することで、被験者の肌の内部構造をN段階評価で推定することが可能となる。なお、Nは通常2以上であり3以上が好ましい。また、通常10以下であり、5以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の第二の実施態様は皮膚の色ムラ評価方法である。
皮膚の色ムラ評価方法は、皮膚表面に光を照射し、その光拡散を測定する測定ステップ、及び前記ステップで測定した光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値以上である場合には、肌の色ムラが少ないと評価し、光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値より小さい場合には、肌の色ムラが多いと評価する評価ステップ、を含む。
【0023】
上記説明したように、乳頭の数と光拡散の関係について、本発明者らは新たな知見を得た。一方で、乳頭の数は、色ムラと相関があることを本発明者らは明らかにした。このことについて、以下説明する。
【0024】
<試験例2>
乳頭構造の数をin vivo共焦点レーザー顕微鏡などで計測した対象者の計測同一部位に対して、デジタルビデオマイクロスコープで皮膚画像を撮像する。撮像した画像に対して、例えばHIS表色系などの表色系を用いて撮像画像中の1ドット単位で色の計測を行う。その後、H、S、Iなどの表色系の指標毎の撮像画像全体におけるバラツキ度合を、標準偏差を指標として計算した。
【0025】
上記試験の結果、乳頭の数と皮膚の色ムラとの間には、相関関係が存在することが理解できる(r=−0.35)。本発明者らは、上記試験例1及び2の結果を総合し、光拡散を測定することで、乳頭の数が推定でき、加えて、乳頭と皮膚の色ムラが相関するという事実から、光拡散を測定することで皮膚の色ムラの評価が可能になることに想到した。
【0026】
本実施態様の評価ステップにおいて、光拡散を生じさせるための光は、光の広がりが少なく測定精度の向上が望めるためレーザー光が好ましい。また、光拡散の測定方法は、光拡散を測定できれば特段限定されず、例えば対象物をデジタルカメラで撮像した画像を用いて、光拡散を測定することができる。
【0027】
評価ステップでは、上記新たな総合知見に基づき、上記測定ステップで測定した光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値以上である場合には肌の色ムラが少ないと評価し、光拡散が照射スポットに対し予め準備した閾値より小さい場合には肌の色ムラが多いと評価するステップである。
【0028】
評価ステップの閾値の準備は、第一の実施態様の推定ステップにおける閾値の準備の方法を参照することができる。
また、照射スポットの説明も同様に、第一の実施態様の推定ステップにおける照射スポットの説明を参照することができる。
【0029】
評価ステップにおける上記閾値は、閾値を決めるための被験者の年代・数などにより変動はあるものの、単色光の照射範囲であるスポット面積を100とした際の光拡散面積が
大凡110以上、120以下の範囲で設定される。112以上118以下で設定されてもよく、114以上116以下で設定されてもよく、115で設定されてもよい。
閾値は、被験者の年齢に応じて変化してもよく、被験者の居住地域に応じて変化してもよい。なお、閾値は通常整数であるが、小数であってもよい。
【0030】
また、推定ステップにおいて、単色光の照射範囲であるスポット面積を100とした際の光拡散面積が100以上の150以下の値において、光拡散面積により予め複数の領域を設定し、該複数の領域に対して光拡散面積の大きい順にスコアが大きくなるようスコアを設定し、スコアの大きいものから順に肌の色ムラが少ないと決定するステップ、を含むことが好ましい。
例えば、光拡散面積が100以上110未満をスコア1、110以上120未満をスコア2、120以上をスコア3とし、スコア3の光拡散面積120以上を肌の色ムラが少ないとし、110以上120未満を肌の色ムラが普通であるとし、100以上110未満を肌の色ムラが大きいと決定することができる。例えば、光拡散面積の測定結果が118であった場合には、肌の色ムラが普通であると推定することができる。
【0031】
このように光拡散面積により予め複数の領域(N領域)を設定し、該複数の領域に対してスコアを設定することで、被験者の肌の色ムラをN段階評価で評価することが可能となる。なお、Nは通常2以上であり3以上が好ましい。また、通常10以下であり、5以下であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、化粧品売り場やエステにおける肌のカウンセリングに適用することが可能である。また、化粧品売り場やエステにおいて、被験者に適した化粧品の選択やエステ方法の選択に適用することが可能である。
本発明により、簡易な方法で、通常視認できない肌の内部構造や肌の色ムラを推定、評価することができるため、スキンケアアドバイスにも適用できる。