特許第6200799号(P6200799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200799
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】エレクトレットシート
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20170911BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20170911BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20170911BHJP
   C08J 9/10 20060101ALI20170911BHJP
   H01G 7/02 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   C08J5/18CER
   C08L23/02
   C08L23/26
   C08J9/10
   H01G7/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-264011(P2013-264011)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-141651(P2014-141651A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-285758(P2012-285758)
(32)【優先日】2012年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】八田 文吾
(72)【発明者】
【氏名】岡林 賞純
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊一
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−061311(JP,A)
【文献】 特開平04−213335(JP,A)
【文献】 特開平08−041260(JP,A)
【文献】 特表2002−505034(JP,A)
【文献】 特開2010−089494(JP,A)
【文献】 特開2010−267906(JP,A)
【文献】 米国特許第05256176(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02、5/12−5/22
H01G 5/00−7/06
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未変性オレフィン系樹脂100重量部、酸変性オレフィン系樹脂5〜20重量部、及びα−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体1〜20重量部を含有する合成樹脂シートに電荷を注入して帯電させてなることを特徴とするエレクトレットシート。
【請求項2】
未変性オレフィン系樹脂が、未変性プロピレン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のエレクトレットシート。
【請求項3】
酸変性オレフィン系樹脂が、酸変性プロピレン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のエレクトレットシート。
【請求項4】
α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体が、エチレンとノルボルネン系モノマーとの付加共重合体を含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のエレクトレットシート。
【請求項5】
合成樹脂シートが、合成樹脂多孔質シートであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のエレクトレットシート。
【請求項6】
合成樹脂シートが架橋されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のエレクトレットシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温下での使用にあっても高い圧電性を維持するエレクトレットシートに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットは絶縁性の高分子材料に電荷を注入することにより、内部に帯電を付与した材料である。エレクトレットは繊維状に成形して集塵フィルターなどとして広く用いられている。
【0003】
又、合成樹脂シートはこれを帯電させることによってセラミックスに匹敵する非常に高い圧電性を示すことが知られている。このような合成樹脂シートを用いたエレクトレットは、その優れた感度を利用して音響ピックアップや各種圧力センサーなどへの応用が提案されている。
【0004】
特許文献1には、塩素化ポリオレフィンが付与されているシートであって、かつ、該シートが1×10-10クーロン/cm2以上の表面電荷密度を有するエレクトレットシートが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂を主体とする樹脂成分を含む成分1と、前記成分1よりも融点が高い熱可塑性ポリオレフィン樹脂を主体とする樹脂成分2によって構成される複合繊維であって、無水マレイン酸が、前記樹脂成分1及び樹脂成分2の少なくともいずれか一方の構成成分として含まれている繊維を用いてなる不織布により、圧電性に優れるエレクトレットシートを提供できることが開示されている。
【0006】
しかしながら、従来のエレクトレットシートでは、いずれも高温下にて使用すると経時的に圧電性が低下するという問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−284063号公報
【特許文献2】特開2007−308839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高温下での使用にあっても高い圧電性を維持するエレクトレットシートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエレクトレットシートは、未変性オレフィン系樹脂、酸変性オレフィン系樹脂、及びα−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体を含有する合成樹脂シートに電荷を注入して帯電させてなることを特徴とする。
【0010】
(未変性オレフィン系樹脂)
未変性オレフィン系樹脂は、不飽和カルボン酸又はその誘導体によって変性されていないオレフィン系樹脂である。未変性オレフィン系樹脂としては、未変性エチレン系樹脂及び未変性プロピレン系樹脂などが挙げられる。なかでも、絶縁性に優れており電荷保持力が高いことから、未変性プロピレン系樹脂が好ましい。未変性オレフィン系樹脂は、一種単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0011】
未変性プロピレン系樹脂としては、プロピレン成分を50重量%以上含有していれば、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数2〜20のα−オレフィンとの共重合体などが挙げられる。プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数2〜20のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。
【0012】
未変性プロピレン系樹脂としては、未変性プロピレン単独重合体、及び未変性プロピレン−エチレン共重合体がより好ましく、未変性プロピレン−エチレンランダム共重合体が特に好ましい。
【0013】
未変性オレフィン系樹脂の曲げ弾性率は、150MPa以上が好ましく、150〜3000MPaがより好ましい。未変性オレフィン系樹脂の曲げ弾性率が小さいと、エレクトレットシートの電荷の保持性が低下してエレクトレットシートの性能が長期間に亘って安定的に維持されないことがある。なお、未変性オレフィン系樹脂の曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定された値をいう。
【0014】
(酸変性オレフィン系樹脂)
酸変性オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸又はその誘導体によって変性したオレフィン系樹脂である。酸変性オレフィン系樹脂は、一種単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0015】
酸変性オレフィン系樹脂に用いられるオレフィン系樹脂としては、エチレン系樹脂及びプロピレン系樹脂などが挙げられる。なかでも、プロピレン系樹脂が好ましい。プロピレン系樹脂としては、プロピレン成分を50重量%以上含有していれば、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数2〜20のα−オレフィンとの共重合体などが挙げられる。プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。なかでも、酸変性プロピレン単独重合体が好ましい。酸変性プロピレン系樹脂によれば、未変性プロピレン系樹脂との界面に電荷を安定して保持することができ、優れた圧電性を有するエレクトレットシートを提供することができる。
【0016】
酸変性オレフィン系樹脂に用いられる不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、及びメタクリル酸などが挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、無水マレイン酸、無水フマル酸、及び無水イタコン酸などの酸無水物、並びにメタクリル酸ナトリウムなどの不飽和カルボン酸の金属塩が挙げられる。
【0017】
酸変性オレフィン系樹脂において、オレフィン系樹脂の主鎖の片末端又は両末端が不飽和カルボン酸又はその誘導体によって変性されていればよいが、オレフィン系樹脂の主鎖の片末端のみが不飽和カルボン酸又はその誘導体によって変性されていることが好ましい。
【0018】
オレフィン系樹脂の主鎖の少なくとも片末端を酸変性する方法としては、公知の方法を用いればよい。例えば、少なくとも主鎖の片末端に二重結合を有するオレフィン系樹脂と、不飽和カルボン酸又はその誘導体とを、必要に応じて有機過酸化物の存在下で、加熱することにより反応させる方法などが用いられる。
【0019】
酸変性オレフィン系樹脂中における不飽和カルボン酸成分又はその誘導体成分の含有量は、1〜10重量%が好ましく、3〜7重量%がより好ましい。不飽和カルボン酸成分又はその誘導体成分の含有量が低過ぎると、合成樹脂シートに電荷を十分に注入することができない恐れがある。また、不飽和カルボン酸成分又はその誘導体成分の含有量が高過ぎると、合成樹脂シートの耐衝撃性が低下する恐れがある。
【0020】
合成樹脂シート中における酸変性オレフィン系樹脂の含有量は、未変性オレフィン系樹脂100重量部に対して、5〜20重量部が好ましいが、8〜15重量部がより好ましい。酸変性オレフィン系樹脂の含有量が少な過ぎると、エレクトレットシートの圧電性が低下する恐れがある。また、酸変性オレフィン系樹脂の含有量が多過ぎると、エレクトレットシートの強度が低下する恐れがある。
【0021】
(α−オレフィン−シクロオレフィンとの付加共重合体)
α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体において、シクロオレフィンと共重合されるα−オレフィンの炭素数は、2〜20が好ましく、炭素数2〜8がより好ましい。α−オレフィンとして、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−へキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−へキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、及び1−エイコセンなどが挙げられる。
【0022】
α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体において、α−オレフィンと共重合されるシクロオレフィンとしては、ノルボルネン系モノマーが好ましく挙げられる。ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環骨格を分子内に有していればよく、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、及び5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンなどが挙げられる。なお、α−オレフィン−シクロオレフィンとの付加共重合体は、一種単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0023】
なかでも、α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体としては、エチレンとシクロオレフィンとの付加共重合体が好ましく、エチレンとノルボルネン系モノマーとの付加共重合体がより好ましく、エチレンとノルボルネンとの付加共重合体が特に好ましい。エチレンとノルボルネンとの付加共重合体としては、下記一般式(I)で示される繰り返し単位を有する共重合体が挙げられる。α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体によれば、高温環境下であっても電荷保持性に優れるエレクトレットシートを提供することができる。
【0024】
【化1】
(一般式(I)において、n及びmはそれぞれ独立して1以上の整数である。)
【0025】
α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体中におけるα−オレフィン成分の含有量は、5〜95重量%が好ましく、10〜90重量%がより好ましい。α−オレフィン成分の含有量が低過ぎると、合成樹脂シートに電荷を十分に注入することができない恐れがある。また、α−オレフィン成分の含有量が高過ぎると、高温環境下においてエレクトレットシート中に電荷を安定して保持することができない恐れがある。
【0026】
α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体の合成は、公知の方法により行うことができる。例えば、α−オレフィンとシクロオレフィンとを、メタロセン触媒などのシングルサイト系触媒やマルチサイト系触媒の存在下で、付加重合させる方法などが用いられる。
【0027】
合成樹脂シート中におけるα−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体の含有量は、未変性オレフィン系樹脂100重量部に対して、1〜20重量部が好ましいが、2〜15重量部がより好ましい。α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体の含有量が少な過ぎると、高温環境下においてエレクトレットシート中に電荷を安定して保持することができない恐れがある。また、α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体の含有量が多過ぎると、エレクトレットシートの強度が低下する恐れがある。
【0028】
合成樹脂シートは、酸化防止剤、金属害防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、及びブロッキング防止剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0029】
合成樹脂シートは、架橋されていることが好ましい。架橋させた合成樹脂シートに電荷を注入して帯電させることによって、圧電性に優れるエレクトレットシートを得ることができる。合成樹脂シートを架橋する方法としては、架橋剤や有機過酸化物などを用いる架橋方法、電子線照射による架橋方法等が挙げられる。
【0030】
合成樹脂シートを架橋させる場合、合成樹脂シートは多官能モノマーを含んでいることが好ましい。多官能モノマーを用いることによって、合成樹脂シートの架橋効率を向上させて、高温下におけるエレクトレットシートの電荷保持性をより向上させることができる。
【0031】
多官能モノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、シアノエチルアクリレート、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。なかでも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンが好ましい。なお、(メタ)アクリレートは、メタクリレート又はアクリレートを意味する。
【0032】
合成樹脂シート中における多官能モノマーの含有量は、未変性オレフィン系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましいが、0.5〜8重量部がより好ましい。多官能モノマーの含有量が少な過ぎると、合成樹脂シートの架橋効率を十分に向上させることができない恐れがある。また、多官能モノマーの含有量が多過ぎると、未反応の多官能モノマーによってエレクトレットシートの圧電性が低下する恐れがある。
【0033】
合成樹脂シートは、合成樹脂非多孔質シートであっても合成樹脂多孔質シートであってもよい。合成樹脂シートは、単独で用いられてもよく、2種以上を積層して用いてもよい。なかでも、圧電性能に優れるエレクトレットシートを提供することができることから、合成樹脂多孔質シートが好ましい。
【0034】
合成樹脂非多孔質シートの製造方法としては、例えば、(1)未変性オレフィン系樹脂、酸変性オレフィン系樹脂、及びα−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体、並びに必要に応じて多官能モノマーを含む合成樹脂組成物を押出機に供給して溶融混練し押出機に取り付けたTダイからシート状に押出して合成樹脂非多孔質シートを製造する方法、(2)未変性オレフィン系樹脂、酸変性オレフィン系樹脂、及びα−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体、並びに必要に応じて多官能モノマーを含む合成樹脂組成物を押出機に供給して溶融混練し押出機に取り付けたサーキュラダイから円筒状体を押出し、この円筒状体を押出方向に連続的に内外周面間に亘って切断して円筒状体を展開し合成樹脂非多孔質シートを製造する方法が挙げられる。合成樹脂非多孔質シートを架橋する場合には、合成樹脂非多孔質シートを上記方法により製造した後に架橋すればよい。
【0035】
合成樹脂多孔質シートの製造方法としては、(3)未変性オレフィン系樹脂、酸変性オレフィン系樹脂、α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体、及び熱分解型発泡剤、並びに必要に応じて多官能モノマーを押出機に供給して熱分解型発泡剤の分解温度未満の温度にて溶融混練し押出機に取り付けたTダイから発泡性合成樹脂シートを押出し、この発泡性合成樹脂シートを必要に応じて架橋した上で、発泡性合成樹脂シートを熱分解型発泡剤の分解温度以上に加熱して発泡させて合成樹脂多孔質シートを製造する方法が挙げられる。
【0036】
熱分解型発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4,4−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などが挙げられる。
【0037】
熱分解型発泡剤の発泡により得られた合成樹脂多孔質シートは、延伸することが好ましい。合成樹脂多孔質シートの延伸方法としては、例えば、合成樹脂多孔質シートの長さ方向(押出方向)又は幅方向に延伸を行う一軸延伸法、合成樹脂多孔質シートの長さ方向(押出方向)及び幅方向の双方向に延伸を行う二軸延伸法、合成樹脂多孔質シートの幅方向を固定した状態で長さ方向(押出方向)に延伸を行う延伸法、及び合成樹脂多孔質シートの長さ方向(押出方向)を固定した状態で幅方向に延伸を行う延伸法などが挙げられる。
【0038】
また、合成樹脂多孔質シートの製造方法としては、(4)未変性オレフィン系樹脂、酸変性オレフィン系樹脂、α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体、及び充填剤、並びに必要に応じて多官能モノマーを混合してなる樹脂組成物を押し出すことにより原反合成樹脂シートを得、この原反合成樹脂シートを必要に応じて架橋した上で、原反合成樹脂シートを一軸延伸又は二軸延伸して、合成樹脂と充填剤との界面を剥離させることにより、空孔が形成されてなる合成樹脂多孔質シートを得る方法なども挙げられる。充填剤としては、炭酸カルシウム、及び酸化ケイ素などが挙げられる。
【0039】
本発明のエレクトレットシートは、上述した合成樹脂シートに汎用の要領で電荷を注入して、合成樹脂シートを帯電させることにより製造することができる。
【0040】
合成樹脂シートに電荷を注入する方法としては、特に限定されず、例えば、(I)合成樹脂シートを一対の平板電極で挟持し、一方の平板電極をアースすると共に他方の平板電極を高圧直流電源に接続して、合成樹脂シートに直流又はパルス状の高電圧を印加して合成樹脂シートに電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させる方法、(II)合成樹脂シートの一面にアースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、合成樹脂シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極又はワイヤー電極を配設し、針状電極の先端又はワイヤー電極の表面近傍への電界集中によりコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極又はワイヤー電極の極性により発生した空気イオンを反発させて合成樹脂シートに電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させる方法、(III)電子線、X線などの電離性放射線や紫外線を合成樹脂シートに照射して、合成樹脂シートの近傍部の空気分子をイオン化することによって合成樹脂シートに電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させる方法などが挙げられる。上記方法の中で合成樹脂シートに容易に電荷を注入することができるので、上記(I)及び(II)の方法が好ましく、上記(II)の方法がより好ましい。
【0041】
上記(I)及び(II)の方法において、合成樹脂シートに印加する電圧の絶対値は、小さいと、合成樹脂シートに十分に電荷を注入することができず、高い圧電性を有するエレクトレットシートを得ることができないことがあり、大きいと、アーク放電してしまい、却って、合成樹脂シートに十分に電荷を注入することができず、高い圧電性を有するエレクトレットシートを得ることができないことがあるので、3〜100kVが好ましく、5〜50kVより好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明のエレクトレットシートでは、α−オレフィンとシクロオレフィンとの付加共重合体を、未変性オレフィン系樹脂及び酸変性オレフィン系樹脂と組み合わせて用いることによって、エレクトレットシート中に電荷を安定して保持することができる。したがって、本発明のエレクトレットシートは、高温環境下であっても、電荷の放出が高く低減され、優れた圧電性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0044】
(実施例1〜2及び比較例1〜2)
未変性プロピレン−エチレンランダム共重合体(エチレン含有量:4.5重量%以下、融解開始温度:97℃、曲げ弾性率:850MPa)、無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン(無水マレイン酸成分含有量5重量%、三洋化成工業社製 製品名「ユーメックス1001」)、エチレン−ノルボルネン付加共重合体(ポリプラスチックス社製 製品名「TOPAS8007」)、熱分解型発泡剤としてアゾジカルボンアミド、金属害防止剤としてメチルベンゾトリアゾール、及び酸化防止剤としてテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンを、それぞれ表1に示した配合量で、押出機に供給して150℃で溶融混練し、Tダイからシート状に押出すことにより、発泡性合成樹脂シートを製造した。
【0045】
次に、発泡性合成樹脂シートに電子線を加速電圧300kVの条件下にて25kGy照射して発泡性合成樹脂シートを架橋させた。この架橋させた発泡性合成樹脂シートを250℃の熱風オーブンに投入して、熱分解型発泡剤を分解させて発泡性合成樹脂シートを発泡させた後に冷却させることにより、合成樹脂多孔質シート(厚み300μm)を得た。
【0046】
次に、合成樹脂多孔質シートを、その表面温度が150℃となるようにして長さ方向(押出方向)にのみ一軸延伸した。これにより延伸合成樹脂多孔質シート(厚み120μm)を得た。
【0047】
そして、延伸合成樹脂多孔質シートの一面にアースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、延伸合成樹脂多孔質シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極を配設し、針状電極の表面近傍への電界集中により、電圧−10kV、放電距離10mm及び電圧印可時間1分の条件下にてコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させて延伸合成樹脂多孔質シートに電荷を注入して延伸合成樹脂多孔質シートを帯電させた。その後、電荷を注入した延伸合成樹脂多孔質シートを、接地されたアルミニウム箔で包み込んだ状態で3時間に亘って保持することで延伸合成樹脂多孔質シート表面に存在する静電気を除去してエレクトレットシートを得た。
【0048】
(実施例3〜4及び比較例3〜4)
未変性ホモポリプロピレン(融解開始温度:138℃、曲げ弾性率:1800MPa)、無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン(無水マレイン酸成分含有量5重量%、三洋化成工業社製 製品名「ユーメックス1001」)、エチレン−ノルボルネン付加共重合体(ポリプラスチックス社製 製品名「TOPAS8007」)、熱分解型発泡剤としてアゾジカルボンアミド、金属害防止剤としてメチルベンゾトリアゾール、及び酸化防止剤としてテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンを、それぞれ表2に示した配合量で、押出機に供給して150℃で溶融混練し、Tダイからシート状に押出すことにより、発泡性合成樹脂シートを製造した以外は、実施例1と同様にしてエレクトレットシートを得た。
【0049】
(評価)
エレクトレットシートの電荷発生量を、下記の要領で測定した。得られた結果を表1及び2に示す。
【0050】
(電荷発生量)
エレクトレットシートを裁断することにより、一辺が1cmの平面正方形状の試験片を得た。この試験片の表面及び裏面のそれぞれに金蒸着を施すことにより試験体を得た。この試験体に加振機を用いて荷重Fが2N、動的荷重が±0.25N、周波数が110Hzの条件下にて押圧力を加え、その時に発生する電荷Q(C)を計測した。そして、電荷Q(C)を荷重F(N)で除することによって、試験片の電荷発生量(pC/N)を算出した。
【0051】
製造直後のエレクトレットシートを23℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽内に1時間に亘って放置した後に、エレクトレットシートについて上記手順に従って電荷発生量を測定し、結果を表1における「電荷発生量(初期)」の欄に記載した。
【0052】
さらに、エレクトレットシートを50℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽内に7日間に亘って放置した後、エレクトレットシートを23℃、相対湿度30%の恒温恒湿槽内に24時間に亘って放置した。このエレクトレットシートについて上記手順に従って電荷発生量を測定し、結果を表1における「電荷発生量(耐久(50℃、7日))」の欄に記載した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】