特許第6200805号(P6200805)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200805
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】新規な方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/04 20060101AFI20170911BHJP
   A61K 39/145 20060101ALI20170911BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   C12N7/04
   A61K39/145
   A61P31/12
【請求項の数】17
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-508438(P2013-508438)
(86)(22)【出願日】2011年4月28日
(65)【公表番号】特表2013-529897(P2013-529897A)
(43)【公表日】2013年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2011056762
(87)【国際公開番号】WO2011138229
(87)【国際公開日】20111110
【審査請求日】2014年4月2日
【審判番号】不服2016-2546(P2016-2546/J1)
【審判請求日】2016年2月19日
(31)【優先権主張番号】61/330,443
(32)【優先日】2010年5月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】305060279
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ,ブリュノ,ルネ
(72)【発明者】
【氏名】シャンプルヴィエ,ブノワ,ポール,シュザンヌ
【合議体】
【審判長】 大宅 郁治
【審判官】 瀬下 浩一
【審判官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/029695(WO,A1)
【文献】 特表2008−500303(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/038719(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/129058(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/157247(WO,A1)
【文献】 特表平11−503601(JP,A)
【文献】 特開平7−196531(JP,A)
【文献】 特表平3−504963(JP,A)
【文献】 特表昭63−264532(JP,A)
【文献】 特表平10−501520(JP,A)
【文献】 特表2007−516215(JP,A)
【文献】 特開2008−289499(JP,A)
【文献】 Goldstein MA,et al.,Effect of formalin, beta−propiolactone, merthiolate, and ultraviolet light upon influenza virus infectivity chicken cell agglutination, hemagglutination, and antigenicity.,Appl Microbiol.,1970年 2月,19(2),p.290−4.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N7/00-7/08
MEDLINE/BIOSIS/WPIDS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養において増殖させたインフルエンザウイルスを不活性化し、および混入している外来性ウイルスを不活性化する方法であって、少なくとも以下のステップ:
(a)インフルエンザウイルスを含有する液体をβ−プロピオラクトンで処理するステップ、および
(b)インフルエンザウイルスを含有する液体にUV光を照射するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)および(b)を同時に行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
β−プロピオラクトンが0.01%〜0.1%、または0.03%〜0.8%、または0.05%の濃度で使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
UV線量が50〜500J/m、もしくは100〜400J/mの範囲にあるか、または200J/mであるか、または100J/mである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのウイルス精製ステップをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ウイルス精製ステップが清澄化、限外ろ過、核酸分解、超遠心およびクロマトグラフィーからなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ウイルスが清澄化によって精製される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(a)および(b)が清澄化後に行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ウイルスがショ糖勾配超遠心によって精製される、請求項6または請求項7に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)および(b)がショ糖勾配超遠心後に行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
スプリットステップをさらに含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
Triton X−100がスプリット剤として使用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
スプリットステップがステップ(a)およびステップ(b)の後に行われる、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
細胞が哺乳動物細胞、またはトリ細胞である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
外来性ウイルスがマウス白血病ウイルス、A型肝炎ウイルス、ブタパルボウイルス、ブタ仮性狂犬病ウイルス、またはそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
外来性ウイルスがマウス白血病ウイルス、A型肝炎ウイルス、ブタパルボウイルス、ブタ仮性狂犬病ウイルスである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法によって得られるウイルスを製薬上許容可能な担体と混合するステップを含む、ワクチンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援研究に関する記載
本発明の態様は、保健社会福祉省からの、契約番号HHSO100200600011Cによる米国政府支援によってなされた;米国政府は本発明において一定の権利を有し得る。
【0002】
技術分野
本発明は、ウイルス、特に、細胞培養によって産生されたウイルスを不活性化する方法に関する。本発明の方法は簡単で実行容易である。特に、それは任意のウイルス精製過程中に適切に挿入することができる。
【背景技術】
【0003】
ウイルスによって引き起こされる非常に多くの疾患のため、ウイルス学は集中的に研究されている分野である。ウイルスタンパク質を単離し精製するため、ワクチンを製造するため、分析ツールを作製するため、または実験室研究のためのウイルスを提供するために、ウイルスを効率的に産生する必要性が常にある。
【0004】
最近、従来の卵由来産生系の代替として、細胞培養に基づく技術が開発されている。
【0005】
細胞培養系は、ワクチン製造の好適な代替法として現れ、特により簡単で、柔軟で、一貫性があるため、ワクチン製造能力をスケールアップする可能性を改善し、それ故、必要であれば、特に、世界的流行の脅威またはテロ攻撃の場合に、大量のウイルスを得ることが可能となる。
【0006】
産生方法に関わらず、ウイルスは、特に、ワクチン接種に使用されることが意図されるならば、安全である必要があり、従って感染性は低減または除去される必要がある。このことは、ウイルスが弱毒化されることを必要とし得る。あるいは、このことは、ウイルスが精製され不活性化されることを必要とし得る。ウイルスの感染性を可能な限り不可逆的に低減する必要があるが、免疫原性は維持されるべきである。ワクチンは外来性物質を含まないことも重要であるが、ウイルスを産生するための宿主、例えば卵または細胞培養には培養中にウイルスが混入している場合がある。様々な不活性化剤、例えば界面活性剤、または化学物質、例えばホルムアルデヒドおよびβ−プロピオラクトン(BPL)が当技術分野で公知である。しかし、該剤の使用に関して以下の問題が伴い得る:(i)かなりの残存する感染性が報告されることが多いことから、非常に多くの場合、これらの剤の使用は、処理対象のウイルス懸濁液を完全に不活性化しない;(ii)界面活性剤はウイルス免疫原性に重要であり得るウイルスタンパク質の構造に悪影響を有する場合があり、界面活性剤によって誘導されるその変性は、最終的に、免疫原性喪失によるワクチン有効性の低下をもたらすため、界面活性剤は注意して使用しなければならない;(iii)化学物質、例えばBPLおよびホルムアルデヒドは、有害製品であり、扱う人に健康リスクを与えることが多いため、注意深く扱う必要があり、かつ扱うための特殊な装置を必要とする;(iv)ホルムアルデヒド、特に、ウイルスを不活性化する標準的方法は、ウイルスを不活性化するために1〜数日の長いインキュベーション時間を通常必要とし、ことのことは、タンパク質を凝集させる原因となることも知られており、この凝集は、ウイルス精製に必要な続くステップに悪影響を及ぼし得る;(iv)界面活性剤及び化学物質は、使用後にウイルス懸濁液から除去される必要があり、それ故、ウイルス精製過程を複雑にする。オルトミクソウイルスを不活性化するこれらの技術の実施は、依然として存在するかなりの残存感染性をさらにもたらし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US 2006/270017 A1
【特許文献2】WO 2009/029695 A1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Goldstein et al.,Applied Microbiology,vol.19,p.290−294(1970)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、残存する感染性はワクチンの安全性にとって許容できないため、実施が簡単で、かつ完全なウイルス不活性化を達成することができる、別のウイルス不活性化法を提供するニーズが依然としてあり、その方法は、目的のウイルスを含む液体に混入し得る、可能性のある外来性物質、例えばウイルスを不活性化するのにも有用であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明の方法は、上述の欠点を克服するウイルスを不活性化する方法を提供する。特に、本発明の方法は、ウイルス抗原性を維持しながら、高レベルのウイルス不活性化を達成することを可能にする。
【0011】
本発明の第一の態様において、少なくとも以下のステップ:
(a)オルトミクソウイルスを含有する液体をアルキル化剤で処理するステップ、および
(b)オルトミクソウイルスを含有する液体にUV光を照射するステップ
を含む、細胞培養において増殖させたオルトミクソウイルスを不活性化し、および/または混入している外来性物質を不活性化する方法を提供する。
【0012】
第二の態様において、本発明の方法によって得られるウイルスを提供する。
【0013】
第三の態様において、本発明によって得られるウイルスを好適な医薬担体と混合して含む免疫原性組成物を提供する。
【0014】
第四の態様において、医療において使用するための本発明の免疫原性組成物を提供する。特に、オルトミクソウイルスに関連する感染の予防または治療に使用するための本発明の免疫原性組成物を提供する。
【0015】
第五の態様において、少なくとも、本発明によって得られるウイルスを製薬上許容可能な担体と混合するステップを含む、ワクチンの製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、小規模および大規模の両方のウイルス産生に適用することができるウイルスを不活性化する改善された方法に関する。本発明の方法は、特に、卵に由来するウイルスおよび細胞培養に由来するウイルスに適用できる。本方法は、少なくとも2種の異なる不活性化剤を用いた、少なくとも1つの不活性化ステップの実施を含む。より具体的には、本発明の方法は、ウイルスを不活性化するために、物理的処理、例えばUV照射、および化学的処理、特に、例えばBPLを用いた、アルキル化ステップを伴う処理の組み合わせに基づく。場合により、該方法は、界面活性剤に基づくスプリット(splitting)ステップをさらに含む。
【0017】
本発明者らは、物理的処理と化学的処理を組み合わせる、本願で特許請求されている不活性化手段の特定の組み合わせが、より完全なウイルス不活性化、すなわち先行技術の処理に伴い得る残存する感染性の除去を達成することを可能にすることを見出した。本発明者らは、驚くべきことに、この組み合わせが、完全なウイルス不活性化を提供することに加えて、産生されたウイルスタンパク質の完全性にも抗原性にも影響を与えないことを観察した。得られたウイルスは、さらに精製されるか否かを問わず、免疫原性組成物、例えばワクチン組成物における使用に適する。
【0018】
特許請求されている方法は、以下の利点の1つまたはそれ以上を有する:(i)ウイルスが凝集しているか否かを問わず、細胞残屑内に捕捉されるか否かを問わず、コンフォメーションまたは環境条件がウイルス不活性化ステップに最適であるか否かを問わず、処理に対するウイルス接近可能性を最適化する;(ii)1つだけの不活性化ステップを行う場合にウイルス画分が不活性化を免れ得るリスクを低減させ、それにより、より完全なウイルスの不活性化を達成する;(iii)ウイルスが特定の処理に対して示し得る耐性に関連する不完全不活性化のリスクを低減させる(この耐性がウイルスの性質に関係があるか、または処理の実験/環境条件に関係があるかを問わず)。例えば、ウイルス懸濁液中のウイルスのある画分だけを所定濃度の化学物質によって不活性化し得るが、安全性の理由または免疫原性の理由から、特に、不活性化剤の濃度をさらに増加させることが不可能であり得る場合、このことが当てはまり得る。特許請求されている方法のさらなる利点は、不活性化が化学物質を使用することのみによって行われる状況と比べて、UV照射を行うことが、例えば、使用される化学物質の量の低下を可能とし得る;(iv)先行技術の処理、特に、ホルムアルデヒドに基づく処理と比べて、産生されるウイルスを不活性化するのに要する時間を短縮する。
【0019】
ウイルスに対して不活性化効果を有することが知られているいずれの化学物質も、例えばアルキル化剤(例えばBPL)を、本発明の方法に使用することができる。BPLは、不活性化能に加えて、核酸、例えばDNAを分解する利点を提示するため、特に好適である。このさらなる能力は、特許請求されている細胞培養において産生されるウイルスがワクチンに含まれる予定であるならば、特に重要である。実際、安全性の理由から、ウイルスを増殖させるために使用される宿主細胞に由来する残存DNA含量は、可能な限り低く維持し、そのサイズは可能な限り小さくなければならない。BPLは、様々な生物学的分子と反応するモノアルキル化剤であり、特に、ウイルスゲノムの核酸塩基を修飾し複製を阻害する。それは、非毒性生成物β−ヒドロキシプロピオン酸と乳酸の異性体に完全に加水分解されるため、37℃で2時間加熱することにより素早く不活性化することができる。一実施形態では、本発明のウイルスを不活性化する方法は、少なくとも、ウイルスを含有する液体をBPで処理する1つのステップ(BPL処理)およびウイルスを含有する液体にUV光を照射する1つのステップ(UV照射)を含む。BPL処理およびUV照射は、任意の順で連続して行ってよい。例えば、BPL処理はUV照射に先行してよく、またはBPL処理はUV照射に続いてもよい。あるいは、本発明の特別な実施形態では、BPL処理およびUV照射ステップは同時に行ってよい。この後者の実施形態は、追加のステップを省くことによって過程を単純化し短縮するというさらなる利点を提示する。また、BPLとUV照射は、他の精製ステップによって分離してよく、またはBPL処理の直後にUV処理が続き、もしくはUV処理の直後にBPL処理が続き、間にさらなる精製ステップがないという点で、連続的様式で行ってよい。
【0020】
用語「ウイルスを含有する液体」、例えばオルトミクソウイルスを含有する液体、および「ウイルスを含む液体」は同義であり、精製状態に関わらず、ウイルスを含む液体調製物であると理解されたい。液体は全く精製されていなくてよい。例えば、液体は、細胞にウイルスを感染させ、ウイルスが複製し、培地に放出された後に回収された細胞培養上清であってよい。あるいは、液体は、部分的に精製されていてもよい。例えば、ウイルスを含有する液体は、BPL処理およびUV照射による不活性化に供される前に、ろ過または遠心によって、予め清澄化されていてもよい。
【0021】
ウイルス不活性化は、1%未満のBPLを用いて達成し得る。好適には、BPLは、0.01%〜0.1%、特に、0.03%〜0.8%、好適には0.05%の濃度で使用される。BPLは、適切に緩衝液に添加され、溶液のpHは6〜10に維持される。BPL活性はpHに特に感受性であることが知られているため、緩衝液のpHは6〜9、好適には7〜8、より好適には7.4〜8に維持される。一実施形態では、BPLは、本発明の方法において、リン酸66mM−クエン酸125mM pH7.4緩衝液に添加される。BPLは、4℃〜室温の範囲の温度で活性である。本発明の方法の一実施形態では、BPLのインキュベーション温度は4℃である。別の実施形態では、BPLのインキュベーション温度は室温である。本発明の意味では、室温は約20℃〜約24℃に含まれる温度と理解されたい。インキュベーション時間は、1時間〜数日でさまざまであり得る。一実施形態では、BPLは一晩添加される。本発明の意味では、一晩インキュベーションは、少なくとも8時間、場合により12〜16時間のインキュベーション時間を意味する。特別な実施形態では、BPLは0.05%の濃度で4℃において一晩添加される。別の特別な実施形態では、BPLは0.05%の濃度で室温において一晩添加される。BPLが添加され、室温で適切な時間置かれた後、BPLで処理したウイルス懸濁液は、4℃で数日間、例えば3日間保存してよく、その後、必要であれば、さらにウイルス懸濁液を精製する。
【0022】
好適なUV照射は、C型光、すなわち100〜280、好適には200〜270nm、より好適には、処理されるウイルスの核酸による最大吸収領域である254nmの波長を有する光により生じる。UV不活性化の際、UV波長照射の励起エネルギーは、プリンおよびピリミジン塩基の共有結合を破壊し、標的ウイルス、そして外来性物質および細菌バイオバーデン(bioburden)に損傷を引き起こす。UV線量またはフルエンシー(fluency)は、特に、50〜500J/mの範囲であってよい。本発明は、ウイルス不活性化を引き起こすいずれのUV線量も想定する。本発明の方法の一実施形態では、UVフルエンシーは200ジュール/mである。別の実施形態では、UVフルエンシーは100ジュール/mである。さらなる実施形態では、UVフルエンシーは60ジュール/mである。UV照射のための利用可能な市販のデバイスは、少量〜非常に大量までの液体を扱うことを可能にする。例示のためだけに、以下のデバイスを挙げ得る:UVIVATECTM(Bayer社より)。
【0023】
不活性化される必要があるウイルスの量およびタイプに従って、ウイルス不活性化のための最適条件を達成するために、BPL条件およびUVフルエンシーが決定される。当業者は、ウイルス不活性化を評価するための当技術分野で公知のいずれのアッセイを使用してもよく、例えば、50%の細胞に感染することができるウイルスの量を表示する組織培養感染量(TCID50/ml)を測定してもよい。このアッセイでは、細胞培養を、感染しているかまたは感染していないかとしてスコアし、ウイルス感染性の尺度としてウイルス力価の決定を可能にする。試験対象の感染性サンプルの一連の連続希釈を行い、各希釈物の一部を使用して適切な感染可能な細胞に接種する。ウイルスが、感染性であるならば複製できるように、数日間細胞をインキュベートした後、ウイルスの存在は、当業者に公知の2つの読み取り法、細胞における細胞変性作用(CPE)の分析および/または培養上清について行うニワトリ赤血球細胞を用いた赤血球凝集アッセイによって検出してよい。次いで、ウイルス力価がReedおよびMuench法(Reed,L.J.およびMuench,H.,1938,The American Journal of Hygiene 27:493−497)に従って計算される。抗原性および免疫原性を維持しようとするならば、当業者は、ウイルスタンパク質コンフォメーション、すなわち構造を変化させないようにウイルス不活性化条件を適合化させる。不活性化試験と並行して、当技術分野で公知の技術によって、ウイルスの完全性、またはその特定のタンパク質の完全性をモニターする。例として挙げ得る技術は、任意のタンパク質検出技術、例えば特定の抗体を用いたウエスタンブロット解析、または閾値アッセイである。インフルエンザウイルスの特定の場合、免疫原性であることがわかっているタンパク質HAの含量を、当業者によく知られた技術である、SRD(一元放射免疫拡散アッセイ)アッセイによって特異的にモニターすることができる(J.M.Wood et al.:An improved single radial immunodiffusion technique for the assay of influenza haemagglutinin antigen:adaptation for potency determination of inactivated whole virus and subunit vaccines.J.Biol.Stand.5(1977)237−247;J.M.Wood et al.,International collaborative study of single radial diffusion and immunoelectrophoresis techniques for the assay of haemagglutinin antigen of influenza virus.J.Biol.Stand.9(1981)317−330)。SRDアッセイは、抗体/抗原複合体の形成に基づくため、該アッセイは、インフルエンザウイルス懸濁液由来のHAレベルを評価する場合、その懸濁液の不活性化処理がウイルス抗原性に悪影響を与えるか分析することを可能にする。
【0024】
目的のウイルスを不活性化することに加えて、本発明の不活性化法は、目的のウイルスを含有する液体に混入し得る、可能性のある外来性物質を不活性化することも可能にする。特に、これらの物質は、オルトミクソウイルスを産生する宿主に存在している場合があり、または、精製中任意のステップでウイルスを含有する液体に混入している場合がある。例えばワクチン接種の分野における規制当局は、より厳しくなりつつあり、ワクチンを数多くの可能性のある混入ウイルスに対して試験することを課す。そのようなウイルスの例として、PPV(ブタパルボウイルス)、MuLV(マウス白血病ウイルス)、PRV(ブタ仮性狂犬病ウイルス)およびHAV(A型肝炎ウイルス)が挙げられる。パルボウイルスは、多くの動物種に感染する小さな非エンベロープDNAウイルスである。それらは、特に、化学的処理に対して極めて耐性である。本発明の方法は、広範囲の外来性ウイルス、例えば、以下に限定されるものではないが、MuLV、PRV、HAVおよびPPVを不活性化することを可能にする。特に、本発明の方法は、細胞培養において産生されたオルトミクソウイルスから、混入しているMuLV、PRV、HAVおよびPPVの少なくとも1つ、またはそれらの任意の組み合わせを不活性化するために使用される。特別な実施形態では、本発明の方法は、それらの全てを不活性化するために使用される。外来性物質の除去は、混入ウイルスに関する場合、ウイルスクリアランスと称されることが多い。従って、本発明の意味では、「ウイルスクリアランス」は、目的のウイルスの懸濁液に混入し得る外来性ウイルスを除去する能力と理解されたい。ウイルスクリアランスは、所定のウイルスの存在の検出を可能にするいずれかの好適な方法によってモニターし評価することができる。例えば、評価は直接的であってよく、すなわち内因性ウイルスの存在は、混入物として存在するならば、例えば目的の混入ウイルスのゲノムに特異的なプライマーを用いるPCRによって、試験対象のウイルス懸濁液から直接検出してよい。しかし、感度の理由から、混入ウイルスはあったとしても非常に低レベルでのみ存在すると予想されるため、例えば外因性ウイルスの添加に基づく間接的評価を使用することがより好適であり得る。その場合、不活性化されるウイルス懸濁液に、目的の外来性ウイルス、すなわちウイルスクリアランスを決定する必要がある既知量の外来性ウイルスを混合する。この混合は、不活性化およびおそらく精製の前に基準として機能するのに十分な量のウイルスを有するように、いずれかのウイルス不活性化ステップを行う前に行う。次いで、目的の不活性化ステップ、例えば本発明の不活性化法を、混合されたウイルス懸濁液に対して行う。混合に使用される外来性ウイルスの感染性を評価し、それにより、不活性化法の有効性を評価することができるように、混合されたウイルス懸濁液に不活性化法を行う前と後にウイルス力価を測定する。精製ステップは不活性化ステップを伴ってもよく、従って、それらの組み合わせを、目的の外来性ウイルスの感染性について評価してもよい。
【0025】
本発明に従って調製されるウイルスは、例えばウイルスタンパク質の精製、分析アッセイ、宿主細胞の感染、診断目的または治療もしくは予防用途、例えばワクチン接種および臨床投与をはじめとするいずれの目的にも使用することができる。特に、本発明によって得られるウイルスは、免疫原性組成物における、例えばワクチンにおける使用に適する。
【0026】
本発明の特別な実施形態では、オルトミクソウイルス、特にインフルエンザウイルスを不活性化する方法について特許請求する。
【0027】
本発明の別の態様では、特許請求している方法は、以下に限定されるものではないが、アデノウイルス、ヘパドナウイルス(hepadnavirus)、ヘルペスウイルス、オルトミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、レオウイルスおよびレトロウイルスをはじめとする他のウイルス、特に細胞に感染し、それらを複製のために使用することができるいずれのウイルスにも適用される。特に、本発明の方法は、エンベロープウイルス、例えばミクソウイルスに適する。
【0028】
それ故、ウイルスまたはウイルス抗原は、オルトミクソウイルス、例えばインフルエンザウイルスに由来してよい。オルトミクソウイルス抗原は、赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク質(NP)、マトリックスタンパク質(M1)、膜タンパク質(M2)、1種またはそれ以上の転写酵素(PB1、PB2およびPA)をはじめとする、1種またはそれ以上のウイルスタンパク質から選択してよい。特に好適な抗原としては、インフルエンザサブタイプの抗原特異性を決定する2つの表面糖タンパク質であるHAおよびNAが挙げられる。
【0029】
インフルエンザウイルスは、ヒトインフルエンザウイルス、トリインフルエンザウイルス、ウマインフルエンザウイルス、ブタ(例えばスワイン)インフルエンザウイルス、ネコインフルエンザウイルスからなる群より選択される。インフルエンザウイルスは、より特定的には、A型、B型およびC型株から、好ましくはA型およびB型株から選択される。
【0030】
インフルエンザウイルスまたはその抗原は、大流行間期の(毎年のまたは季節性の)インフルエンザ株に由来してよい。あるいは、インフルエンザウイルスまたはその抗原は、世界的流行の発生を引き起こす可能性のある株(すなわち現在広まっている株の赤血球凝集素と比べて新な赤血球凝集素を有するインフルエンザ株、またはトリ被験体で病原性でありヒト集団に水平に伝染する可能性を有するインフルエンザ株、またはヒトに病原性であるインフルエンザ株)に由来してよい。特定の季節に応じて、およびワクチンに含まれる抗原の性質に応じて、インフルエンザウイルスまたはその抗原は、以下の赤血球凝集素サブタイプ:H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16の1種またはそれ以上に由来してよい。好ましくは、インフルエンザウイルスまたはその抗原は、H1、H2、H3、H5、H7またはH9サブタイプに由来する。
【0031】
本発明の方法に使用される細胞は、原則として、細胞培養において培養することができ、ウイルス複製を支援することができる細胞の任意の所望の細胞タイプであり得る。それらは、接着して増殖する細胞または懸濁液中で増殖する細胞の両方であり得る。それらは、初代細胞または継続的細胞株のいずれかであり得る。遺伝的に安定な細胞株が好ましい。
【0032】
哺乳動物細胞、例えばヒト、ハムスター、ウシ、サルまたはイヌ細胞が特に好適である。
【0033】
多くの哺乳動物細胞株が当技術分野で公知であり、PER.C6、HEK細胞、ヒト胎児腎臓細胞(293細胞)、HeLa細胞、CHO細胞、Vero細胞、およびMDCK細胞を含む。
【0034】
好適なサル細胞は、例えば、Vero細胞株におけるような腎臓細胞などのアフリカミドリザル細胞である。好適なイヌ細胞は、例えばMDCK細胞株におけるような腎臓細胞である。
【0035】
インフルエンザウイルスを増殖させるために好適な哺乳動物細胞株としては、MDCK細胞、Vero細胞、またはPER.C6細胞が挙げられる。これらの細胞株は全て、例えばアメリカン・タイプ・セル・カルチャー(ATCC)コレクションから広く入手可能である。
【0036】
具体的な一実施形態では、本発明の方法はMDCK細胞を使用する。元のMDCK細胞株は、ATCCからCCL−34として入手可能であるが、この細胞株の派生株、例えば懸濁液中での増殖に適合したMDCK細胞(WO1997/37000)を使用してもよい。
【0037】
あるいは、本発明に使用される細胞株は、トリ起源、例えばニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラまたはキジに由来してもよい。トリ細胞株は、胚、幼鳥および成鳥をはじめとする様々な発達段階に由来してよい。特に、細胞株は、胚細胞、例えば胚性線維芽細胞、生殖細胞、または個々の器官、例えば神経、脳、網膜、腎臓、肝臓、心臓、筋肉、または胚外組織および胚を保護する膜に由来してよい。ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)を使用してよい。トリ細胞株の例としては、トリ胚性幹細胞(WO01/85938)およびアヒル網膜細胞(WO05/042728)が挙げられる。特に、アヒル胚性幹細胞に由来するEB66(登録商標)細胞株が、本発明において想定される(WO2008/129058)。他の好適なトリ胚性幹細胞としては、ニワトリ胚性幹細胞に由来するEBx細胞株、EB45、EB14およびEB14−074(WO2006/108846)が挙げられる。このEBx細胞株は、その確立が天然に起こり、遺伝的、化学的またはウイルスによる改変を必要としなかった遺伝的に安定な細胞株であるという利点を提示する。これらのトリ細胞は、インフルエンザウイルスを増殖させるのに特に好適である。
【0038】
特定の実施形態では、本発明の方法はEB66(登録商標)細胞を使用する。
【0039】
細胞培養条件(温度、細胞密度、pH値など)は、用いる細胞の適合性によって非常に広い範囲にわたり変更でき、特定のウイルス増殖条件の詳細の要求に適合させることができる。細胞培養は当技術分野において広く記載されているため、適切な培養条件を決定することは当業者の能力の範囲内である(例えば、Tissue Culture,Academic Press,KruseおよびPaterson,編(1973)、およびR.I.Freshney,Culture of animal cells:A manual of basic technique,第4版(Wiley−Liss Inc.,2000,ISBN 0−471−34889−9)を参照)。
【0040】
具体的な一実施形態では、本発明に記載される方法に使用される宿主細胞は、血清不含および/またはタンパク質不含培地中で培養される。「血清不含培地」(SFM)は、細胞生存および細胞増殖を可能にする血清添加を必要としない、すぐに使える細胞培養培地を意味する。この培地は、必ずしも化学的に規定されなくてもよく、様々な由来、例えば植物由来の加水分解物を含有し得る。このような血清不含培地は、ウイルス、マイコプラズマまたは未知の感染性物質の混入を排除することができるという利点を提示する。「タンパク質不含」は、タンパク質、増殖因子、他のタンパク質添加物および非血清タンパク質を排除しながら細胞の増殖が起こる培養を意味すると理解されるが、場合により、トリプシンまたはウイルス増殖に必要であり得る他のプロテアーゼなどのタンパク質を含むことができる。このような培養中で増殖する細胞は、元来、それ自体タンパク質を含有する。
【0041】
血清不含培地は、VP SFM(Invitrogen Ref 11681−020)、Opti−Pro(Invitrogen、Ref 12309−019)、またはEX−CELL(JHR Bioscience)など、数多くの供給元から市販されている。
【0042】
細胞は、様々な様式で、例えば、懸濁液中で、または微小担体上での増殖をはじめとして表面に接着して、あるいはそれらの組み合わせで増殖させることができる。培養は、ディッシュ、フラスコ、ローラーボトル中で、またはバッチ、フェドバッチ、半連続的もしくは連続的系、例えばかん流系を用いたバイオリアクター中で行うことができる。典型的には、細胞は、マスターまたはワーキング細胞バンクバイアルから、様々なサイズのフラスコまたはローラーボトルを経由して、そして最終的にはバイオリアクターまでスケールアップされる。一実施形態では、本発明の方法において用いられる細胞は、撹拌バイオリアクター中の血清不含培地中の微小担体ビーズ上で培養され、培養培地はかん流によって提供される。
【0043】
別の実施形態では、細胞、特にEB66(登録商標)細胞は、バッチ様式にて懸濁液中で培養される。
【0044】
ウイルスの感染前に、約37℃、より好適には36.5℃で、6.7〜7.8、好適には約6.8〜7.5、より好適には約7.2のpHで細胞を培養する。
【0045】
本発明の方法では、細胞培養に基づくウイルスの産生は、一般に、培養した細胞に、産生されるウイルス株を接種するステップ、および感染した細胞を所望の期間培養し、ウイルスを複製させるステップを含む。
【0046】
細胞によって産生されるウイルスを大量に産生するために、細胞が高密度に達したら、細胞に所望のウイルス株を接種することが好ましい。通常、接種は、細胞密度が少なくとも約1.5×10細胞/ml、好適には約3×10細胞/ml、より好適には約5×10細胞/ml、さらにより好適には7×10細胞/ml、またはさらにより高い場合に行う。最も多いウイルス産生を得るために最適な細胞密度は、ウイルス増殖のために使用される細胞タイプによって変化し得る。
【0047】
接種は、約10−1〜10−7、好適には約10−2〜10−6、より好適には約10−5のMOI(感染多重度)で行うことができる。
【0048】
ウイルス感染のための温度およびpH条件を変化させてよい。温度は、ウイルスタイプによって32℃〜39℃の範囲であってよい。インフルエンザウイルス産生のために、細胞培養感染は産生される株によって変化し得る。インフルエンザウイルス感染は、32℃〜35℃、好適には33℃の温度で適切に行われる。一実施形態では、ウイルス感染は33℃で行われる。別の実施形態では、ウイルス感染は35℃で行われる。プロテアーゼ、典型的にはトリプシンを、ウイルス複製を可能にするために、ウイルス株に応じて細胞培養に添加してよい。プロテアーゼは、培養中任意の適切な段階で添加することができる。トリプシンは、好ましくは非動物由来であり、つまりプロテアーゼは動物源から精製されたものではない。それは、好適には、微生物、例えば細菌、酵母または植物において組み換えによって産生される。組み換えトリプシンの好適な例は、トウモロコシで産生される組み換えトリプシン、Trypzean(Prodigen,101 Gateway Blvd,Suite 100 College Station,Texas 77845.製造者コード:TRY)、または真菌で発現されるトリプシン様酵素であるTrpLE(Invitrogen)である(WO2004/020612)。
【0049】
感染すると、細胞は、受動的溶解とも称される宿主細胞の自発的溶解によって、新たに形成されたウイルス粒子を培養培地に放出し得る。従って、一実施形態では、細胞に基づくウイルスの回収物を、細胞培養培地または上清を回収することによって、ウイルス接種後の任意の時に提供し得る。特定の実施形態では、細胞培養培地は、かん流によって回収される。この回収方法は、細胞に由来するウイルスをウイルス接種後の異なる時点で回収し、必要であれば、異なる回収物をプールすることが望ましい場合に、特に適する。
【0050】
あるいは、ウイルス感染後、細胞に基づくウイルスを、宿主細胞を溶解する外的因子を用いることによって回収してよく、これは能動的溶解とも称される。しかし、前のものとは異なり、能動的に細胞を溶解することがすぐに細胞培養を終了させるため、このような回収方法は、細胞に基づくウイルスの回収物を一度の時点で回収することを要する。
【0051】
能動的細胞溶解に用いることができる方法は公知である。この点において有用な方法は、例えば、凍結融解、固体せん断(solid shear)、高張および/または低張溶解、液体せん断(liquid shear)、高圧押し出し(high pressure extrusion)、界面活性剤溶解、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0052】
一実施形態では、細胞に基づくウイルスの回収物は、細胞培養培地または上清を回収すること、接種した細胞を溶解すること、または両者によって、ウイルス接種後の任意の時に提供し得る。
【0053】
回収前に、細胞感染は2〜10日間続いてよい。具体的な一実施形態では、接種後3、4および5日の培養上清を回収し、さらなる下流処理(ウイルス単離)のためにプールする。異なる実施形態では、細胞培養上清を接種後5日に回収する。細胞によって産生されたウイルスを回収するための最適な時は、通常、感染ピークの決定に基づく。例えば、CPE(細胞変性作用)を、ウイルス接種後に宿主細胞に生じる形態的変化、例えば細胞円形化、方向喪失(disorientation)、膨張または収縮、死、表面からの分離をモニターすることによって測定する。また、特定のウイルス抗原の検出を、タンパク質検出の標準的技術、例えばウエスタンブロット解析によってモニターしてもよい。次いで、所望の検出レベルが達成された場合、回収物を回収することができる。インフルエンザウイルスの特定の場合、HAの含量を、細胞にウイルスを接種した後任意の時に、当業者によく知られた技術であるSRDアッセイによってモニターしてよい(Wood,JM,et al.(1977).J.Biol.Standard.5,237−247)。さらに、SRDアッセイは、最適なウイルス収量を得るために要する最適な細胞密度を決定するために使用してもよい。
【0054】
本発明の内容では、細胞培養相は、ウイルス回収ステップに先行する任意のステップを含むものと理解すべきであり、ウイルス精製相は、該回収ステップに続く任意のステップを含むものと理解すべきである。例えば、細胞培養に基づくウイルスのウイルス精製相は、いくつかの様々なろ過、濃縮および/または他の分離ステップ、例えば限外ろ過、超遠心(勾配超遠心を含む)、クロマトグラフィー(例えばイオン交換クロマトグラフィー)および吸着ステップを様々な組み合わせで含んでよい。本発明のウイルスを不活性化する方法は、任意の適切なステップで、化学的不活性化およびUV照射ステップを実施することによって、任意のウイルス精製過程を適切に伴ってよい。
【0055】
一実施形態では、本発明の不活性化法は、遠心によるかもしくはろ過によるかを問わない清澄化、限外ろ過/透析ろ過(diafiltration)、核酸分解、超遠心、特にショ糖勾配超遠心およびクロマトグラフィー、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つのさらなるステップを含む。
【0056】
BPL処理およびUV照射の組み合わせは、任意の順で、上記ステップのいずれかの後に適切に行ってもよい。例えば、BPL処理は、ウイルス精製過程の初期に、特に、ウイルスを含有する細胞培養培地を回収することによって得られたウイルス回収物の清澄化後に、行ってよい。この処理の直後にUV照射が続いてよい。あるいは、BPL処理およびUV照射は、他の精製ステップによって分離してもよい。ウイルス不活性化の第一ステップを過程における初期に、すなわち清澄化した回収物に対して行うことは、特に、作業する人に関する限り安全性の利点を提供する。実際、精製される必要がある液体に由来するウイルスが過程における初期に不活性化され、それ故、非感染性である場合、作業する人は可能性のあるウイルス感染から保護される。しかし、このような不活性化のための初期段階は、また、大量の容量を扱わなければならないという欠点をも提供する。従って、不活性化されるウイルス懸濁液の大量の容量のため、不活性化ステップ、特にBPLステップに伴うコストはかなり大きいものであり得る。従って、本発明者らは、また、精製過程の後期に、例えば清澄化した回収物の限外ろ過および濃縮後、ならびに/またはショ糖勾配超遠心ステップ後にウイルスを不活性化することが、良い不活性化結果を依然としてもたらすかどうかについても試験した。本発明者らは、精製されたウイルス懸濁液に対してBPLおよびUV不活性化ステップを行うことが、ウイルス精製前に不活性化を行う場合と少なくとも同程度の、場合によりより良い不活性化結果をもたらすことを観察した。
【0057】
一実施形態では、オルトミクソウイルスを含有する細胞培養培地は、特に哺乳動物MDCK細胞またはトリEB66(登録商標)細胞で産生されたインフルエンザウイルスは、連続的に、ろ過または遠心によって清澄化され、BPL処理によって不活性化され、限外ろ過によって濃縮され、そしてUV照射を受ける。
【0058】
あるいは、清澄化されたウイルス回収物が、例えば限外ろ過によって濃縮された後、BPL処理を行ってもよい。ウイルス回収物を濃縮することは、第一に、より少ない量のBPLを使用することを可能にし、上記のように、コスト面の利点を提示するだけでなく、作業者がより少ない量のBPLを扱うことも可能にする。UV照射は、BPL処理直後に、または後に、該BPL処理後に行われるさらなる精製ステップ後に行ってもよい。
【0059】
不活性化後、得られたウイルスはさらに精製してよい。従って、遠心および/またはろ過による清澄化、BPL処理による不活性化、限外ろ過による濃縮およびUV照射に連続的に供された、インフルエンザウイルスを含有する細胞培養培地を、さらにショ糖勾配超遠心に供してもよい。
【0060】
あるいは、本発明の不活性化ステップは、精製過程の後期に行ってもよい。例えば、ウイルス回収物は、遠心によって予め清澄化され、微小ろ過によって清澄化され、限外ろ過および濃縮に供され、そしてショ糖勾配超遠心に供される。次いで、ショ糖勾配超遠心から回収されたウイルスを含有する画分全てを不活性化に供する。一実施形態では、まず50〜200J/mの範囲のUV照射を画分に対して行い、次いで照射された回収ウイルス画分にBPL、特にBPL0.05%を添加する。BPLは、一晩、特に12〜16時間室温で置いてよい。別の実施形態では、まずBPL、特にBPL0.05%を回収されたウイルス画分に直接添加し、室温にて少なくとも一晩置く。翌日、BPLで処理されたウイルス懸濁液をUV照射、例えばUV100J/mに供してよい。回収されたウイルス画分中に存在する残存ショ糖は、ウイルスに対する公知の安定化効果のため、ウイルスを不活性化する際にBPLの有効性に影響を与え得るが、本発明者らは、驚くべきことに、不活性化されるウイルスを含有する液体中に残存するショ糖は、たとえあったとしても、BPLによって生じる不活性化効果に影響しないことを観察した。従って、BPL処理およびUV照射の組み合わせに基づく本発明の不活性化法は、不活性化ステップを、ショ糖勾配超遠心ステップ直後をはじめとする、ウイルスの産生および精製の異なる段階において実施することができる点で、広く応用性がある。
【0061】
本発明のウイルスを不活性化する方法は、また、ウイルスを産生した宿主に由来する残存混入DNAを分解するさらなるステップを伴ってもよい。例えば、ヌクレアーゼ、例えば限定されるものではないがBenzonaseTMを用いるDNA分解ステップを、化学的不活性化およびUV照射の組み合わせに加えて実施してもよい。
【0062】
本発明の方法は、可能性としてのスプリットステップをさらに想定する。例えば、精製ステップ、例えばショ糖勾配超遠心を、ウイルススプリットステップと組み合わせることが可能であり得る。特に、スプリット剤をショ糖勾配に添加してよい。この実施形態は、単一作業内でウイルスを精製しスプリットすることを可能とするため、本発明の方法のステップの総数を最小限にすることが望ましい場合に特に好適である。従って、特定の実施形態では、少なくとも1回のショ糖勾配超遠心を行う場合、ショ糖勾配はスプリット剤をさらに含む。
【0063】
あるいは、本発明の方法のウイルススプリットステップはバッチで行われる。
【0064】
ウイルス、例えばインフルエンザウイルスをスプリットする方法は、当技術分野で周知である(WO02/28422)。ウイルスのスプリットは、スプリット剤の破壊濃度で、感染性(野生型もしくは弱毒型)または非感染性(不活性化)を問わない全ウイルスを破壊または断片化することによって行われる。スプリット剤は、一般に、脂質膜を分解し溶解することができる物質を含む。従来、スプリットインフルエンザウイルスは、リン酸トリ−n−ブチル、またはTweenTMと組み合わせたジエチルエーテル(「Tween−エーテル」スプリットとして知られる)などの溶剤/界面活性剤処理を使用して産生され、この過程は依然として一部の製造設備で使用されている。現在用いられている他のスプリット剤としては、界面活性剤またはタンパク質分解酵素または胆汁塩、例えばデオキシコール酸ナトリウムが挙げられる。スプリット剤として使用することができる界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、他のイオン性界面活性剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、タウロデオキシコール酸塩、または非イオン性界面活性剤、例えばTweenTMもしくはTriton X−100、または任意の2種もしくはそれ以上の界面活性剤の組み合わせが挙げられる。
【0065】
一実施形態では、スプリット剤はデオキシコール酸塩である。別の実施形態では、スプリット剤はTriton X−100である。Triton X−100は、好適には、0.5%〜3%、特に1%〜2%の範囲の濃度で使用される。さらなる実施形態では、本発明の方法はスプリット剤としてTriton X−100およびラウリル硫酸ナトリウムの組み合わせを使用する。特別な実施形態では、任意の順のBPL処理およびUV照射後、ウイルスを含有する液体、例えばインフルエンザウイルスを含有する液体は、Triton X−100、特にTriton X−100 2%を用いてバッチでスプリットされる。
【0066】
スプリット過程はバッチの、連続的なまたは半連続的な過程として行ってよい。バッチで行う場合、スプリットウイルスは、界面活性剤を除去するためのさらなる精製ステップ、例えばクロマトグラフィーステップを必要とし得る。
【0067】
一実施形態では、ウイルス回収物は、遠心および/またはろ過によって清澄化され、場合により限外ろ過によって濃縮され、ショ糖勾配超遠心ステップによって精製され、任意の順のBPL処理およびUV照射ステップによって連続的に不活性化され、そして不活性化されたウイルス液は界面活性剤、好適にはTriton X−100を添加することによってバッチでスプリットされる。
【0068】
ワクチンをはじめとする本発明の免疫原性組成物は、場合により、ワクチンに慣用的な添加物、特に組成物を受容する患者において誘発される免疫応答を増強する物質、すなわちいわゆるアジュバントを含有することができる。
【0069】
一実施形態では、免疫原性組成物は、本発明によって得られるウイルスまたはそのウイルス抗原を好適な医薬担体と混合して含む。特別な実施形態では、それらはさらにアジュバントを含む。
【0070】
アジュバント組成物は、代謝可能な油および乳化剤を含む水中油型乳剤を含んでよい。任意の水中油型組成物がヒト投与に適したものであるために、乳剤系の油相は代謝可能な油を含まなければならない。代謝可能な油という用語の意味は当技術分野で周知である。代謝可能とは、「代謝によって変換されることができる」と定義することができる(Dorland’s Illustrated Medical Dictionary,W.B.Sanders Company,第25版(1974))。油は、受容者に毒性ではなく、代謝によって変換されることができる、植物油、魚油、動物油または合成油であってよい。木の実、種子、および穀粒は、植物油の一般的な原料である。合成油も本発明の一部であり、市販の油、例えばNEOBEE(登録商標)およびその他のものを含み得る。
【0071】
特に好適な代謝可能な油はスクアレンである。スクアレン(2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサヘキサエン)は、サメ肝油に大量に、そしてオリーブ油、小麦胚種油、ぬか油、および酵母に少量見られる不飽和油であり、本発明での使用に特に好ましい油である。スクアレンはコレステロールの生合成における中間体であるという事実を理由として代謝可能な油である(Merck index,第10版,エントリー番号8619)。本発明のさらなる実施形態では、代謝可能な油は、組成物の全量の0.5%〜10%(v/v)の量で免疫原性組成物中に存在する。
【0072】
水中油型乳剤は乳化剤をさらに含む。乳化剤は好適にはモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンであってよい。さらに該乳化剤は、好適には、ワクチンまたは免疫原性組成物中に組成物の全量の0.125〜4%(v/v)存在する。
【0073】
本発明の水中油型乳剤は、場合によりトコール(tocol)を含む。トコールは当技術分野で周知であり、EP0382271に記載されている。好適には、トコールはα−トコフェロールまたはその誘導体、例えばα−トコフェロールスクシネート(ビタミンEスクシネートとしても知られる)であってよい。該トコールは、好適には、免疫原性組成物の全量の0.25%〜10%(v/v)の量でアジュバント組成物中に存在する。
【0074】
水中油型乳剤の製造方法は当業者に周知である。一般に、その方法は、油相(場合によりトコールを含む)を界面活性剤、例えばPBS/TWEEN80TM溶液と混合し、続いてホモジナイザーを使ってホモジナイズすることを含み、混合物をシリンジ針に2回通過させることを含む方法が、少量の液体をホモジナイズするのに適していることは、当業者に明らかであろう。同様に、当業者は、マイクロフルイダイザー(M110Sマイクロフルイディクス装置、6barの最大入力圧力で2分間に最大50回の通過(約850barの出力圧力))中の乳化過程を、より少量またはより大量の乳剤を製造するために適合させることができる。適合化は、必要とする直径の油滴を有する調製物が得られるまで生成された乳剤を測定することを含む、通常の実験によって達成することができる。
【0075】
水中油型乳剤では、油と乳化剤は水性担体中にある。水性担体は、例えばリン酸緩衝生理食塩水であってよい。
【0076】
特に、本発明の水中油型乳剤系は、サブミクロン範囲の小さな油滴サイズを有する。好適には、液滴サイズは直径120〜750nmの範囲にあり、より特定的には120〜600nmのサイズである。さらにより特定的には、水中油型乳剤は、強度により少なくとも70%が直径500nm未満であり、より特定的には強度により少なくとも80%が直径300nm未満であり、さらに特定的には強度により少なくとも90%が直径120〜200nmの範囲にある油滴を含有する。
【0077】
油滴サイズ、すなわち直径は、本発明では強度(intensity)によって与えられる。油滴サイズの直径を強度によって測定するいくつかの方法がある。強度は定寸装置の使用によって、好適には動的光散乱、例えばMalvern Zetasizer 4000または好適にはMalvern Zetasizer 3000HSによって測定される。詳細な手順は実施例II.2に与えられる。最初の可能性は動的光散乱(PCS−光子相関分光法)によってz平均直径ZADを測定することである;この方法はさらに多分散指数(PDI)を与え、ZADおよびPDIの両者はキュムラントアルゴリズムを用いて計算される。これらの値は粒子屈折率の知識を必要としない。第二の方法は、別のアルゴリズム、コンチン(Contin)、またはNNLS、または自動的「Malvern」のもの(定寸装置によって提供されるデフォルトアルゴリズム)によって、全粒子サイズ分布を測定することによって油滴の直径を計算することである。大抵の場合、複合組成物の粒子屈折率は未知であるため、強度分布のみが考慮され、必要であればこの分布に由来する強度平均が考慮される。
【0078】
アジュバント組成物はToll様受容体(TLR)4アゴニストをさらに含んでよい。「TLR4アゴニスト」によって、直接のリガンドとして、または間接的に内因性もしくは外因性リガンドの生成を介して、TLR4シグナル伝達経路を介したシグナル伝達応答を引き起こすことができる成分が意味される(Sabroe et al,JI 2003 p1630−5)。TLR4はリピドA誘導体、特にモノホスホリルリピドAまたはより特定的には3脱アシル化モノホスホリルリピドA(3D−MPL)であってよい。
【0079】
3D−MPLは商標MPL(登録商標)としてGlaxoSmithKline Biologicals北米から入手可能であり、IFN−g(Th1)表現型を有するCD4+ T細胞応答を主に促進する。それはGB 2 220 211 Aに開示される方法によって製造することができる。化学的には、それは3−脱アシル化モノホスホリルリピドAと3,4,5または6アシル化鎖との混合物である。特に、本発明のアジュバント組成物中では、小粒子3D−MPLが使用される。小粒子3D−MPLは、0.22μmフィルターを通して滅菌ろ過され得る粒子サイズを有する。そのような調製物は国際特許出願第WO94/21292号に記載される。リピドAの合成誘導体は公知であり、TLR4アゴニストであると考えられており、限定されるものではないが、以下を含む:
OM174 (2−デオキシ−6−o−[2−デオキシ−2−[(R)−3−ドデカノイルオキシテトラ−デカノイルアミノ]−4−o−ホスホノ−β−D−グルコピラノシル]−2−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]−α−D−グルコピラノシルリン酸二水素)、(WO95/14026)
OM294 DP (3S,9R)−3−−[(R)−ドデカノイルオキシテトラデカノイルアミノ]−4−オキソ−5−アザ−9(R)−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]デカン−1,10−ジオール,1,10−ビス(リン酸二水素)(WO99/64301およびWO00/0462)
OM197 MP−Ac DP (3S−,9R)−3−[(R)−ドデカノイルオキシテトラデカノイルアミノ]−4−オキソ−5−アザ−9−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]デカン−1,10−ジオール,1−リン酸二水素10−(6−アミノヘキサン酸)(WO01/46127)
【0080】
使用され得る他のTLR4リガンドは、アルキルグルコサミニドホスフェート類(AGP)、例えばWO9850399もしくはUS6303347(AGPの製造方法も開示されている)に開示されているもの、またはUS6764840に開示されているような製薬上許容可能なAGPの塩である。一部のAGPはTLR4アゴニストであり、一部はTLR4アンタゴニストである。両者はアジュバントとして有用であると考えられる。加えて、さらに好適なTLR4アゴニストがUS2003/0153532およびUS2205/0164988に開示されている。
【0081】
本発明はインフルエンザウイルス免疫原性組成物、例えばワクチンを製造するのに特に適する。インフルエンザウイルスの様々な形態が現在入手可能である。それらは一般に生ウイルスまたは不活性化ウイルスのいずれかに基づく。不活性化されたワクチンは全ビリオン、スプリットビリオンまたは精製された表面抗原(HAを含む)に基づいてよい。インフルエンザ抗原は、また、ビロソーム(virosome、核酸不含ウイルス様リポソーム粒子)の形態で提示することもできる。
【0082】
ワクチンに使用されるインフルエンザウイルス株はシーズン毎に変化する。現在の流行間期には、ワクチンは典型的には2種のA型インフルエンザ株および1種のB型インフルエンザ株を含む。3価ワクチンが典型的であるが、より高価数、例えば4価も本発明で想定される。本発明は、また、流行株由来のHA(すなわちワクチン受容者および一般ヒト集団に免疫がない株)を使用してもよく、および流行株に対するインフルエンザワクチンは1価であってよく、または流行株が補充された通常の3価ワクチンに基づいてもよい。
【0083】
本発明の組成物は、A型インフルエンザウイルスおよび/またはB型インフルエンザウイルスをはじめとする、1種またはそれ以上のインフルエンザウイルス株に由来する抗原を含んでよい。特に、2種のA型インフルエンザウイルス株および1種のB型インフルエンザウイルス株に由来する抗原を含む3価ワクチンが本発明によって想定される。
【0084】
本発明の組成物は、1価組成物、すなわち1株タイプのみ、すなわち季節性株のみまたは流行株のみを含むものに限定されない。本発明は、また、季節性株および/または流行株の組み合わせを含む多価組成物を包含する。特に、3種の季節性株および1種の流行株を含む、アジュバント添加されていてよい、4価組成物が本発明の範囲内にある。本発明の範囲内にある他の組成物は、2種のA型株および1種のB型株、例えばH1N1、H3N2およびB型株を含む3価組成物、ならびに異なる系統の2種のA型株および2種のB型株、例えばH1N1、H3N2、B/VictoriaおよびB/Yamagataを含む4価組成物である。
【0085】
HAは、現在の不活性化インフルエンザワクチンにおいて主要な免疫原であり、ワクチン用量は、SRDによって典型的に測定されるHAレベルを基準に標準化される。既存のワクチンは、典型的には、株あたり約15μgのHAを含有するが、例えば子供には、または流行状況では、またはアジュバントを使用する場合には、より低用量を使用することができる。部分用量、例えば半分(すなわち株あたり7.5μgHA)または4分の1が使用されており、より高用量、特に3×または9×用量が使用されている。従って、本発明の免疫原性組成物は、インフルエンザ株あたり0.1〜150μgのHA、特に0.1〜50μg、例えば0.1〜20μg、0.1〜15μg、0.1〜10μg、0.1〜7.5μg、0.5〜5μg等を含んでよい。特定の用量としては、株あたり約15、約10、約7.5、および約5μgが挙げられる。
【0086】
HAは、現在の不活性化インフルエンザワクチンにおいて主要な免疫原であり、ワクチン用量は、SRDによって典型的に測定されるHAレベルを基準に標準化される。既存のワクチンは、典型的には、株あたり約15μgのHAを含有するが、例えば子供には、または流行状況では、またはアジュバントを使用する場合には、より低用量を使用することができる。部分用量、例えば半分(すなわち株あたり7.5μgHA)または4分の1が使用されており、より高用量、特に3×または9×用量が使用されている。従って、本発明の免疫原性組成物は、インフルエンザ株あたり0.1〜150μgのHA、特に0.1〜50μg、例えば0.1〜20μg、0.1〜15μg、0.1〜10μg、0.1〜7.5μg、0.5〜5μg等を含んでよい。特定の用量としては、株あたり約15、約10、約7.5、約5μg、株あたり約3.8μgおよび株あたり約1.9μgが挙げられる。
【0087】
特定の株についてインフルエンザウイルスが精製されたら、他の株由来のウイルスと組み合わせて、例えば上記のような3価ワクチンを作製してよい。各株を別個に処理し、1価のバルクを混合して最終的な多価混合物を与えることが、ウイルスを混合しDNAを分解して多価混合物から精製するより、好適である。
本発明の様々な態様を以下に示す。
1.細胞培養において増殖させたオルトミクソウイルスを不活性化し、および/または混入している外来性物質を不活性化する方法であって、少なくとも以下のステップ:
(a)オルトミクソウイルスを含有する液体をアルキル化剤で処理するステップ、および
(b)オルトミクソウイルスを含有する液体にUV光を照射するステップ
を含む、方法。
2.ステップ(a)および(b)を任意の順で連続して行う、上記1に記載の方法。
3.ステップ(a)がステップ(b)に先行する、上記2に記載の方法。
4.ステップ(b)がステップ(a)に先行する、上記2に記載の方法。
5.ステップ(a)および(b)を同時に行う、上記1に記載の方法。
6.アルキル化剤がβ−プロピオラクトンである、上記1〜5のいずれかに記載の方法。
7.β−プロピオラクトンが0.01%〜0.1%、または0.03%〜0.8%、または0.05%の濃度で使用される、上記1〜6のいずれかに記載の方法。
8.UV線量が50〜500J/m、もしくは100〜400J/mの範囲にあるか、または200J/mであるか、または100J/mである、上記1〜7のいずれかに記載の方法。
9.少なくとも1つのウイルス精製ステップをさらに含む、上記1〜8のいずれかに記載の方法。
10.ウイルス精製ステップが清澄化、限外ろ過、核酸分解、超遠心およびクロマトグラフィーからなる群より選択される、上記9に記載の方法。
11.ウイルスが清澄化によって精製される、上記10に記載の方法。
12.ステップ(a)および(b)が清澄化後に行われる、上記11に記載の方法。
13.ウイルスがショ糖勾配超遠心によって精製される、上記10または11に記載の方法。
14.ステップ(a)および(b)がショ糖勾配超遠心後に行われる、上記13に記載の方法。
15.ステップ(a)がステップ(b)の前に行われる、上記14に記載の方法。
16.スプリットステップをさらに含む、上記1〜15のいずれかに記載の方法。
17.Triton X−100がスプリット剤として使用される、上記16に記載の方法。
18.スプリットステップがステップ(a)およびステップ(b)の後に行われる、上記16または17に記載の方法。
19.オルトミクソウイルスがインフルエンザウイルスである、上記1〜18のいずれかに記載の方法。
20.細胞が哺乳動物細胞またはトリ細胞である、上記1〜19のいずれかに記載の方法。
21.哺乳動物細胞がMDCK細胞である、上記20に記載の方法。
22.トリ細胞がEB66(登録商標)細胞である、上記20に記載の方法。
23.外来性物質が外来性ウイルスである、上記1〜22のいずれかに記載の方法。
24.外来性ウイルスがマウス白血病ウイルス、A型肝炎ウイルス、ブタパルボウイルス、ブタ仮性狂犬病ウイルス、またはそれらの任意の組み合わせから選択される、上記23に記載の方法。
25.外来性物質がマウス白血病ウイルス、A型肝炎ウイルス、ブタパルボウイルス、ブタ仮性狂犬病ウイルスである、上記24に記載の方法。
26.上記1〜25のいずれかに記載の方法によって得られるウイルス。
27.上記26に従って得られたウイルスを好適な医薬担体と混合して含む、免疫原性組成物。
28.医療に使用するための上記27に記載の免疫原性組成物。
29.オルトミクソウイルスに関連する感染の予防または治療に使用するための、上記27または28に記載の免疫原性組成物。
30.少なくとも、上記1〜25のいずれかに記載の方法によって得られるウイルスを製薬上許容可能な担体と混合するステップを含む、ワクチンの製造方法。
【0088】
以下の非限定的な実施例を参照することにより本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0089】
MDCK細胞で産生されたインフルエンザウイルスの、BPLによって誘導される不活性化(NCP124−ニューカレドニアA株、NCP127−ニューカレドニアA株、JP125−江蘇B株、JP128−江蘇B株、NCP134−ニューカレドニアA株、およびJP129−江蘇B株)
MDCK接着細胞を36.5℃にてかん流培養様式で微小担体上で増殖させた。増殖相の後、適切な細胞密度に達したら(4.5×10細胞/ml〜7.5×10細胞/ml)、かん流様式で細胞に様々なインフルエンザウイルス株を接種し(1×10−5の感染多重度)、温度を33℃に変化させた。数日後ウイルスをかん流によって回収した。かん流回収物をプールし、全ウイルス回収物を以下のようにした。
【0090】
a)以下の公称孔隙率:5μm−0.5μm−0.2μmを有する3種の異なるデプスフィルター(depth filter)から構成されるろ過列(filtration train)上で清澄化した。実験NCP127では、ウイルス回収物にTween80を最終濃度0.02%で清澄化前に添加した。
【0091】
b)次いで、清澄化した回収物を、750kD中空繊維膜を用いた限外ろ過によって10倍(NCP124)、20倍(JP128)、または30倍(NCP127、JP125、NCP134およびJP129)に濃縮し、約2リットルの最終容量を得て、125mMクエン酸および0.01%Triton X−100を含有する5容のPBSに対して、および4容の10mM Tris、2mM MgCl、0.1μM CaCl、0.01%Triton X−100に対して透析ろ過した。
【0092】
c)保持液(retentate)を限外ろ過系から取り出し、水浴中で37℃に温めた。BenzonaseTM(Merck)を最終濃度100ユニット/ml(NCP124)、200ユニット/ml(JP125、NCP134およびJP129)または135ユニット/ml(NCP127およびJP128)で保持液に添加することによってDNA分解を行い、混合物を37℃にて1時間インキュベートした。
【0093】
d)実験JP128およびJP129においてのみ、BenzonaseTM処理した保持液を1000barで高圧ホモジナイゼーションによってホモジナイズした。
【0094】
e)次いで、限外ろ過保持液(ホモジナイズされているか否かを問わず)を、ウイルスおよび混入物がそれぞれの密度に到達するまで勾配中に移動する、ショ糖勾配(0〜55%)超遠心に供した。勾配上に全保持液をロードした後、60分のバンディング(banding)時間で、大部分のウイルスが勾配内のそれぞれの密度に到達することができた。ウイルス粒子は数画分内に濃縮された。生成物画分は125mMクエン酸およびショ糖を含有するPBS pH7.4中である。精製された全ビリオン(Whole virion)を約26〜51%の範囲にあるショ糖割合からプールした。この範囲はSDS−PAGEの、および抗HAおよび抗MDCK抗体を用いるウエスタンブロット解析のプロファイルに基づいて決定されている。全ビリオンをプールした画分を4℃〜8℃の範囲の温度で保存した。
【0095】
f)ウイルスをさらに精製するために、第二ショ糖勾配(5〜55%)超遠心を行い、同時にウイルスをスプリット(split)する。2%Triton X−100−0.5mM α−トコフェリル水素スクシネート(NCP127、JP125、JP128、NCP134およびJP129)または1.5%Triton X−100−1%ラウロイルサルコシンナトリウム−0.5mM α−トコフェリル水素スクシネート(NCP124)をショ糖層に添加し、界面活性剤ミセル障壁を形成させた。この界面活性剤障壁に進入する全ウイルス(Whole virus)はスプリットされた。ウイルス膜タンパク質赤血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)を含有するウイルス断片は、ミセル密度に移動した。残存するビリオン、宿主細胞タンパク質混入物の一部およびDNAは、ウイルスタンパク質がプールされないより高いショ糖濃度画分に移動した。約13〜55%ショ糖の範囲の画分に存在するウイルスタンパク質をプールした。この範囲はSDS−PAGEの、および抗HAおよび抗MDCK抗体を用いるウエスタンブロット解析のプロファイルに基づいて決定されている。ウイルスタンパク質を含有する画分プールはPBS pH7.4中であった。次いで、このプールを総タンパク質含量についてアッセイし、0.01%Tween 80−0.3%Triton X−100−α−トコフェリル水素スクシネート0.1mMを含有するPBS pH7.4で250μgタンパク質/mlに希釈した。
【0096】
BPLを用いたウイルス不活性化の少なくとも1つのステップを、上記過程中に、以下のように行った:
−実験NCP124では、ステップa)の清澄化後に、BPLを様々な濃度:0.02、0.04、0.05、0.06および0.1%で添加し、4℃で一晩インキュベートした。
【0097】
−実験JP125では、ステップd)の第一ショ糖勾配超遠心後に、回収しプールした全ビリオンを含有する画分にBPLを0.1%の濃度で添加し、4℃で一晩インキュベートした。
【0098】
−実験NCP127では、ステップb)で得られた保持液をステップc)でBenzonaseTMとインキュベートした後に、BPLを様々な濃度:0.02、0.04、0.05、0.06、0.08および0.1%で添加し、4℃で一晩インキュベートした。 −実験JP128では、様々な濃度:0.05、0.04、0.03、0.02および0.1%を使用したことを除いて、JP125と同じ条件でBPLを添加した。
【0099】
−実験JP129では、使用した濃度が:0.03、0.04および0.05%であったことを除いて、NCP127と同じ条件でBPLを添加した。
【0100】
−実験NCP134では、使用した濃度が0.05%および0.1%であったことを除いて、NCP127と同じ条件でBPLを添加し、インキュベーションは室温(RT)で一晩であった。
【0101】
ウイルス不活性化を、TCID50アッセイ(組織培養感染量)によってウイルス力価を測定することによって評価した。BPL不活性化の有効性を評価するために、一晩インキュベーションの終わりに、各実験における各BPL条件からサンプルを回収し、感染性を試験した。試験対象のサンプルの一連の連続希釈を行う。各希釈の50μlをMDCK細胞を含有する96ウェルマイクロプレートに10箇所反復して(in 10 replicates)接種し、8個の希釈を各試験対象サンプルについて接種する。次いで、ウイルスがもし感染性なら細胞内で複製することができるように、プレートを35℃で5〜7日間インキュベートする。細胞内の感染性ウイルスの存在は、顕微鏡によって細胞上の細胞変性作用(CPE)をモニターすることによって検出される。感染性ウイルスの懸濁液を細胞の感受性を実証するための陽性対照として使用し、非接種培養物を陰性対照として使用する。CPEが検出されるウェルの数を、感染した細胞として各希釈についてスコアし、ウイルス力価をReedおよびMuench法(Reed,L.J.およびMuench,H.,1938,The American Journal of Hygiene 27:493−497)に従って計算する。得られた結果を表1に表し、log TCID50/mlとして表す。BPLを添加しなかった対照(0)は、何らかの精製ステップを経る前の、表示されたウイルス回収物から回収されたサンプル中で評価される力価に相当する。
【表1】
【0102】
結果−結論
表1は、BPLが、ウイルス液に添加された場合、BPLを添加しなかった対照と比較して、ウイルスを不活性化するのに有効であることを示す。使用した大部分のBPL濃度は、アッセイの定量の限界と同じまたはそれ未満のウイルス力価をもたらし、BPLを添加しなかった対照と比較して、約8 logのウイルス力価低減の達成を可能にする。BPLの不活性化効果はインキュベーション温度(4℃またはRT)に関わらず観察される。いくつかの実験では、一部のウイルス力価が約4〜約8の範囲であり、ウイルス力価低減が2〜6 logであり、残存する感染性が観察された。
【実施例2】
【0103】
MDCK細胞で産生されたインフルエンザウイルスの、UVによって誘導される不活性化(JP128−江蘇B株)
JP128の実験細胞培養条件は実施例1に記載されたとおりであった。ウイルス回収物を実施例1のステップa)に記載されるように清澄化した。清澄化後、ウイルスの清澄化された回収物を様々な線量のUV:200、300、および400に供した。UV照射を、UV−C254nm低圧水銀ランプを含むBayer Technical ServicesのUVivatecTM Labデバイスを用いて製造業者の推奨に従って行った。UV線量またはフルエンシーは、ランプ強度の、および254nmで測定される照射対象サンプルの光学密度(OD)の関数である。254nmにおけるODの値を、所望のフルエンシーの値と同様に、該フルエンシーを達成するのに必要な流速を計算するために、Bayerによって提供されるMaster Calculationシートに挿入する。表2は、実験JP128でUVivatecTM Labデバイスを用いたUV照射に使用されるパラメーターを示す。
【表2】
【0104】
サンプルを様々なUV線量照射に供した後、ウイルス不活性化を、実施例1に記載されるように、TCID50アッセイによってウイルス力価を測定することによって評価した。ウイルス液の初期力価を得るために、清澄化された回収物、すなわち照射前(フルエンシー0)について、および照射後のウイルス液の残存力価を得るために、UV照射後に、測定を行った。UV不活性化効果は、上記初期力価から上記残存力価を減算することにある、LVR(Logウイルス低減)の計算によって表される。結果を表3に表示する。UV処理がウイルス抗原性に影響を及ぼすか評価するために、各UV処理後、SRDによってHA濃度も測定した。
【表3】
【0105】
結果−結論
表3は、SRDによって測定されるHAが、試験したUV線量のいずれによっても影響を受けなかったことを示す。5.4 logのウイルス力価の低減が200J/mの低フルエンシーについて観察された。試験したUV線量のいずれも定量アッセイと同じまたはそれ未満のウイルス力価をもたらさなかったが、このことは、UV照射後に残存感染性が持続することを示唆する。
【0106】
−HA含量を測定するために用いられるSRD法
ガラスプレート(12.4−10cm)を、NIBSCによって推奨される濃度の抗インフルエンザHA血清を含有するアガロースゲルで被覆した。ゲルが固化した後、72個のサンプルウェル(3mm直径)をアガロースに開けた。標準およびサンプルについて10μlの適切な希釈物をウェルにロードした。プレートを湿式チャンバー内で室温(20〜25℃)にて24時間インキュベートした。その後、プレートをNaCl溶液に一晩浸し、蒸留水中で短く洗浄した。次いで、ゲルを圧縮乾燥した。完全に乾燥したら、プレートをクマシーブリリアントブルー溶液で10分間染色し、明らかに明確な染色領域が見えるようになるまで、メタノールおよび酢酸の混合液中で2回脱染した。プレートを乾燥した後、抗原ウェルを取り囲む染色領域の直径を直角に2方向で測定した。代わりに、表面を測定する装置を使用することができる。表面に対する抗原希釈物の用量−応答曲線を構築し、結果を標準的傾斜比アッセイ法(Finney,D.J.(1952).Statistical Methods in Biological Assay.London:Griffin,Quoted in:Wood,JM,et al(1977).J.Biol.Standard.5,237−247)に従って計算した。
【実施例3】
【0107】
MDCK細胞で産生されたインフルエンザウイルスの、BPLおよびUVの組み合わせによって誘導される不活性化(MAP140−マレーシアB株、WiP144−ウィスコンシンA株およびSOP138−ソロモンA株)
MDCK接着細胞を36.5℃にてかん流培養様式で微小担体上で増殖させた。増殖相の後、適切な細胞密度に達したら(6×10細胞/ml超)、かん流様式で細胞にインフルエンザウイルス(1×10−5の感染多重度)を接種し、温度を33℃に変化させた。接種後5日にウイルスをかん流によって回収した。かん流回収物を実施例1のステップa)に記載されるように清澄化した。清澄化後、ウイルス回収物をUVおよびBPLを組み合わせた以下の不活性化処理に供した:2種の異なるUV線量を試験し(200および500J/m)、2種のBPL濃度(0.05%および0.1%)と全ての組み合わせで組み合わせた。
【0108】
UV照射を、実施例2に記載されるように、同じUVivatecTM Labデバイスを用いて同じ製造業者の推奨に従って行った。BPLを4℃で一晩添加した。UVおよびBPL処理は続けて行い、UV照射をBPLとのインキュベーション前に行った。
【0109】
各不活性化処理後、以下の表に示すように、ウイルス力価を実施例1に記載されるようにTCID50アッセイによって測定した。HAの抗原性を、表示されるステップ後に、実施例2に記載されるようにSRDアッセイによってその含量を測定することによってモニターした。結果を表4(SOP138)、表5(MAP140)および表6(WiP144)に表示する。HA結果は、開始材料中に存在する、すなわち清澄化前のウイルス回収物中に存在する総HA量を表す対照値100%(HAの列)と、または表示されるステップを行う前に存在する総HA量(HA回復ステップの列)と、比較した割合の形式で表示される。
【表4】
【0110】
【表5】
【0111】
【表6】
【0112】
結果−結論
試験した3種のインフルエンザ株について、ウイルス力価低減がUV処理後に観察された。定量の限界と同じまたはそれ未満のウイルス力価を達成するように、BPL作用によってこのウイルス低減は達成された。UVおよびBPLの組み合わせ処理後、HA抗原活性に大きな影響は観察されなかった。従って、物理的処理、例えばUV照射、および化学的処理の組み合わせが、精製過程と並行したインフルエンザウイルス不活性化を確実なものとし、各ステップの個別の実施と比較して、より完全なウイルス不活性化の達成を可能にする。
【実施例4】
【0113】
EB66(登録商標)細胞で産生されたインフルエンザウイルスの、BPLによって誘導される不活性化
4.1 EB66(登録商標)細胞をバッチ様式にて懸濁液中で増殖させた。それらにH5N1を接種し、数日後、細胞培養培地を回収することによってウイルスを回収した。ウイルス回収物を、以下の公称孔隙度:5μm−0.5μm−0.2μmを有する3種の異なるデプスフィルターから構成される一連のろ過列を使用することによって(EB66_26、EB66_28、EB66_33およびEB66_42)、または4500gでの遠心および0.2μmろ過の連続的組み合わせによって(EB66_29およびEB66_30)清澄化した。清澄化後、清澄化されたウイルス回収物を、750kD中空繊維フィルターを用いた限外ろ過によって10倍に濃縮し、クエン酸125mMを含有するPBSの溶液を用いて透析ろ過した。
【0114】
BPL0.05%を室温にて一晩、限外ろ過ステップの前に添加するか(EB66_26、EB66_28、EB66_29、EB66_30およびEB66_31)、または限外ろ過後に、すなわち限外ろ過後に得られた保持液にBPLを添加した(EB66_42およびEB66_33)。力価を、実施例1に記載されるようにTCID50アッセイによって測定した。不活性化される前のウイルス調製物の初期力価を得るために、清澄化された回収物(表7)または限外ろ過保持液(表8)について、および不活性化後のウイルス液の残存力価を得るために、BPL処理後に、測定を行った。BPL不活性化効果は、上記初期力価から上記残存力価を減算することにある、LVR(Logウイルス低減)の計算によって表される。結果を表7および表8に表示し、それぞれ限外ろ過ステップ前または限外ろ過ステップ後に行った場合のBPLの不活性化効果を表示する。ウイルス力価をlog TCID50/mlとして表す。最終列は5つの異なる実験に基づく平均LVRを表示する。また、HAの含量を実施例2に記載されるようにSRDによって測定した。HA結果は、BPLを添加する前に存在する、すなわち清澄化された回収物中に存在する総HA量を表す対照値100%と比較した割合の形式で表示される。
【表7】
【0115】
【表8】
【0116】
結果−結論
表7は、ウイルス清澄化回収物のBPLによる処理が、BPLを添加しなかった対照と比較して、ウイルスを不活性化するのに有効であったことを示す。BPL0.05%は、アッセイの定量の限界と同じまたはそれ未満のウイルス力価をもたらし、BPLを添加しなかった対照と比較して、約5.8 logのLVRの達成を可能にした。表8は、限外ろ過によって濃縮された後におけるウイルス清澄化回収物のBPL0.05%による処理が、一方では、アッセイの定量の限界と同じまたはそれ未満の力価(EB66_42を参照)、および他方では、定量の限界を超える力価(得られた力価が定量の限界を超えるため、感染性ウイルスの残存レベルを示すEB66_33を参照)を与えることを示し、それぞれ≧5.9および4.6のLVRを示す。
【0117】
4.2 別の実験では、EB66(登録商標)細胞にH5N1を接種し、数日後、細胞培養培地を回収することによってウイルスを回収した。ウイルス回収物を、8500rpmでの遠心および0.45μmろ過の連続的組み合わせによって清澄化した(EB66_65および69)。次いで、清澄化されたウイルス回収物を、限外ろ過によって約10倍に濃縮し、PBSの溶液(EB66_69)またはクエン酸125mMを含有するPBS pH7.4の溶液を用いて透析ろ過した。次いで、限外ろ過保持液を実施例1に記載されるようにショ糖勾配(0〜55%)超遠心に供した。次いで、全ビリオンをプールした画分に直接BPL0.05%を添加した。力価を、実施例1に記載されるようにTCID50アッセイによって測定した。不活性化される前のウイルス液の初期力価を得るために、BPLを添加する前に、および不活性化後のウイルス調製物の残存力価を得るために、BPL処理後に、測定を行った。BPL不活性化効果はLVRの計算によって表される。結果を表9に表示する。
【表9】
【0118】
結果−結論
表9は、6 logを超えるLVRの達成を可能にするため、BPL0.05%がウイルスを不活性化するのに有効であることを示す。これらの結果は、ショ糖勾配超遠心ステップ直後にBPL処理を行うことが、良い不活性化結果を提供することを示し、残存ショ糖がBPLの不活性化効果に悪影響を与えないことを示唆する。これらのBPL条件で達成されるLVRは表7および8で得られるものより若干高い。
【実施例5】
【0119】
EB66(登録商標)細胞で産生されたインフルエンザウイルスの、UVによって誘導される不活性化
EB66(登録商標)細胞を培養し、実施例4に記載されるようにH5N1を感染させた。ウイルス回収物を連続的な4500gでの遠心および0.2μmフィルターのろ過によって清澄化した。次いで、ウイルス清澄化回収物を実施例4に記載されるように限外ろ過によって濃縮した。これらの実験ではBPLを添加しなかった。
【0120】
限外ろ過後、保持液を、実施例2に記載されるように、同じUVivatecTM Labデバイスを用いて同じ製造業者の推奨に従って、ある線量範囲のUV照射(100J/m、150J/mおよび200J/m)に供した。照射後、ウイルス力価を、実施例1に記載されるようにTCID50アッセイによって測定した。ウイルス液の初期力価を得るために、限外ろ過保持液から回収されたサンプルにおいてUV照射前に、および不活性化後のウイルス液の残存力価を得るために、UV照射後に、測定を行った。UV不活性化効果は、上記初期力価から上記残存力価を減算することにある、LVR(logウイルス低減)の計算によって表される。結果を表10に表示する。ウイルス力価をlog TCID50/mlとして表す。
【表10】
【0121】
結果−結論
表10は、ウイルス力価がアッセイの定量の限界と同じまたはそれ未満であっため、100〜200J/mの範囲のUV線量がEB66(登録商標)細胞で産生されたインフルエンザウイルスを不活性化するのに有効であったことを示す。
【実施例6】
【0122】
EB66(登録商標)細胞で産生されたインフルエンザウイルスの、BPLおよびUVによって誘導される不活性化
6.1 EB66(登録商標)細胞を培養し、実施例4に記載されるようにH5N1を感染させた。ウイルス回収物を連続的な10500rpmでの遠心および0.45μmフィルターの微小ろ過によって清澄化した。
【0123】
清澄化された回収物を、(i)BPL0.01%処理、(ii)UV20J/m照射、または(iii)BPL0.01%処理およびUV60J/m照射に供した。BPL0.01%を室温で一晩置いた。UV照射は、実施例2に記載されるように、同じUVivatecTM Labデバイスを用いて同じ製造業者の推奨に従って行った。条件(iii)では、清澄化された回収物をまず室温にて一晩BPL0.01%で処理し、次いで翌日、60J/mのUV線量を照射した。ウイルス液の初期力価を得るために、BPLを添加する前またはUV照射前に、および不活性化後のウイルス液の残存力価を得るために、BPL処理および/またはUV照射後に、ウイルス力価を実施例1に記載されるようにTCID50アッセイによって測定した。BPLおよび/またはUV不活性化効果は、上記初期力価から上記残存力価を減算することにある、LVR(logウイルス低減)の計算によって表される。結果を表11に表示する。ウイルス力価をlog TCID50/mlとして表す。
【表11】
【0124】
結果−結論
表11は、残存する感染性が測定されたため(LVRは2.1 log)、0.01%濃度のBPLがインフルエンザウイルスを含有する清澄化回収物を部分的に不活性化することを示すが、表9は、得られた力価がアッセイの定量の限界と同じまたはそれ未満であったため、BPL0.05%がより完全なウイルス不活性化の達成を可能にした結果を提供した。しかし、最適より低いBPL0.01%濃度をUV60J/m照射ステップと組み合わせると、得られた力価はアッセイの定量の限界と同じまたはそれ未満であり、このことは、物理的処理、例えばUV、および化学的処理、例えばBPLの組み合わせが精製過程と並行したインフルエンザウイルス不活性化を確実なものとし、効果のために使用する必要があるBPLの量を制限しながら、より完全なウイルス不活性化の達成を可能にすることを示唆する。
【0125】
6.2 別の実験では、EB66(登録商標)細胞を培養し、実施例4に記載されるようにH5N1を感染させた。ウイルス回収物を回収し、実施例4に記載されるように清澄化した。BPL0.05%を清澄化されたウイルス回収物に室温にて一晩添加した。次いで、BPLによって処理されたウイルス回収物を750kD中空繊維フィルターを用いた限外ろ過によって10倍に濃縮し、クエン酸125mMを含有するPBSの溶液を用いて透析ろ過した。濃縮後、BPLによって処理されたウイルス回収物に200J/mUV線量を照射した。ウイルス力価を、ウイルス液の初期力価を得るために、表示される清澄化回収物から回収されたサンプルにおいてBPLを添加する前に、および不活性化後のウイルス調製物の残存力価を得るために、BPL添加後およびUV照射後に、測定した。BPLおよびBPL/UVの不活性化効果は、上記初期力価から上記残存力価を減算することにある、LVR(Logウイルス低減)の計算によって表される。結果を表13に表示する。ウイルス力価をlog TCID50/mlとして表す。
【表12】
【0126】
結果−結論
ウイルス清澄化回収物へのBPL添加および続くUV照射は、このように組み合わされた処理がアッセイの定量の限界と同じまたはそれ未満であるウイルス力価をもたらすため、インフルエンザウイルスを不活性化するのに有効である。
【実施例7】
【0127】
EB66(登録商標)細胞で産生されたインフルエンザウイルスの、Triton X−100によって誘導される不活性化
EB66(登録商標)細胞を培養し、実施例4に記載されるようにH5N1を感染させた。実施例4に記載されるように、ウイルス回収物を回収し、清澄化し、限外ろ過によって濃縮した。過程中、BPLを添加せず、UV照射も行わなかった。次いで、濃縮されたウイルス回収物を、ウイルスおよび混入物がそれぞれの密度に到達するまで勾配中に移動するショ糖勾配(0〜55%)超遠心に供した。勾配上に全保持液をロードした後、60分のバンディング時間で、大部分のウイルスが勾配内のそれぞれの密度に到達することができた。ウイルス粒子は数画分内に濃縮された。生成物画分は125mMクエン酸およびショ糖を含有するPBS pH7.4中であった。精製された全ビリオンを約30〜48%の範囲のショ糖の割合からプールした。この範囲は、SDS−PAGEの、および抗HAおよび抗MDCK抗体を用いるウエスタンブロット解析のプロファイルに基づいて決定されている。次いで、全ウイルスをプールした画分を750kD中空繊維フィルターを用いた限外ろ過によって濃縮し、PBSの溶液を用いて透析ろ過した。
【0128】
ウイルスをスプリットするために、ショ糖勾配遠心後、回収しプールした全ウイルスを含有する画分に室温にてTriton X−100 2%を添加した。ウイルス力価を、ウイルス液の初期力価を得るために、Triton X−100を添加する前に、およびスプリット後のウイルス調製物の残存力価を得るために、Triton X−100添加後様々な時点(表12に示す)に、測定した。Triton X−100不活性化効果は、上記初期力価から上記残存力価を減算することにある、LVR(Logウイルス低減)の計算によって表される。結果を表13に表示する。ウイルス力価をlog TCID50/mlとして表す。
【表13】
【0129】
結果−結論
Triton X−100 2%は、処理後30分という短時間でインフルエンザウイルスを不活性化するのに有効である。3.2 logおよび3.8 logのLVRが、それぞれ処理30分後および2時間後に観察された。
【実施例8】
【0130】
EB66細胞で産生されたインフルエンザウイルスのBPL、UVおよびTriton X−100によって誘導される不活性化の累積的効果
同じ過程中にBPL、UVおよびTriton X−100ステップを行う累積的効果を評価するために、個別ステップBPL、UVおよびTritonについてそれぞれ実施例4、5および7で得られたLVRを合計した。結果を表14に表示する。
【表14】
【0131】
結果−結論
同じ過程中の不活性化の3つの個別ステップの組み合わせ(BPL;UVおよびTriton X−100)は、15.2より高いLVRをもたらす。
【実施例9】
【0132】
外来性ウイルスのBPLおよびUVによって誘導される不活性化の累積的効果
特にワクチンに含ませるための、インフルエンザ産生のための動物細胞の使用は、ウイルス増殖および複製に適する条件下で細胞を培養することを伴う。従って、これらの条件はインフルエンザウイルス以外の病原体が細胞培養中で増殖し得る危険性を増大させ、それにより、最終ワクチン製品の外来性ウイルスの混入を引き起こす可能性がある。本発明の方法により得られたウイルス調製物を、4種のモデル外来性ウイルス:ブタ仮性狂犬病ウイルス(PRV)、マウス白血病ウイルス(MuLV)、ブタパルボウイルス(PPV)およびA型肝炎ウイルス(HAV)に対して試験した。表示される不活性化ステップ(UVまたはBPL)に進む前に、インフルエンザウイルス液に表示される外来性ウイルスを混合した。
【0133】
9.1 インフルエンザウイルスを実施例1に記載されるようにMDCK細胞で産生した。ウイルス液にMuLVおよびPPVを別個に混合した。BPL0.05%およびBPL0.1%を各混合インフルエンザウイルス調製物に室温にて一晩添加した。実施例1に記載されるように、力価をTCID50アッセイによって測定した。不活性化される前のウイルス液の初期力価を得るために、BPLを添加する前に、および不活性化後のウイルス液の残存力価を得るために、BPL処理後に、測定を行った。BPL不活性化効果は、上記初期力価から上記残存力価を減算することにある、LVR(Logウイルス低減)の計算によって表される。また独立に、MuLVおよびPPVを別個に混合したインフルエンザウイルス調製物に200J/mUV線量を照射した。不活性化される前のウイルス調製物の初期力価を得るために、UV照射前に、および不活性化後のウイルス調製物の残存力価を得るために、UV照射後に、力価を測定した。BPLおよびUV不活性化効果は、上記初期力価から上記残存力価を減算することにある、LVR(Logウイルス低減)の計算によって表される。結果を表15に表示する。ウイルス力価をlog TCID50/mlとして表す。
【表15】
【0134】
結果−結論
BPL処理は、試験した2種の濃度でMuLVおよびPPVの両者に関してウイルス力価の低減をもたらした。また、UV処理は、MuLVおよびPPVの両者のウイルス力価の低減をもたらし、観察されたLVRが8.2 logであったため、PPVに特に強い効果を有した。BPLおよびUVの組み合わせ処理は、細胞培養で産生されたインフルエンザウイルスの、もしあれば、外来性ウイルスの混入からの精製過程を、該ウイルスを不活性化することによって確実なものとする。
【0135】
9.2 実施例4に記載されるようにEB66(登録商標)細胞で産生されたインフルエンザウイルスに、PPV、PRV、HAVおよびMuLVを別個に混合した。混合後、各インフルエンザウイルス液を、表16に示すように、BPL0.05%を室温にて一晩添加することによって、または200J/mの線量をUV照射することによって、不活性化した。ウイルス力価を、実施例1に記載されるようにTCID50アッセイによって測定した。不活性化される前のウイルス液の初期力価を得るために、BPLを添加するか、またはUVを照射する前に、ならびに不活性化後のウイルス液の残存力価を得るために、BPL処理後またはUV照射後に、測定を行った。BPLおよびUV不活性化効果は、上記初期力価から上記残存力価を減算することにある、LVR(Logウイルス低減)の計算によって表される。結果を表16および17に表示する。ウイルス力価をlog TCID50/mlとして表す。
【表16】
【0136】
【表17】
【0137】
結果−結論
BPL処理は、全ての試験したウイルス、MuLV、PPV、HAVおよびPRVに関してウイルス力価の低減をもたらした。UV処理は、PRV、PPVおよびHAVのウイルス力価の低減をもたらし、観察されたLVRが6.8 logであったため、PPVに特に強い効果を有した。従って、BPLおよびUVの組み合わせ処理は、細胞培養で産生されたインフルエンザウイルスの、もしあれば、外来性ウイルスの混入からの精製過程を、該ウイルスを不活性化することによって確実なものとする。