特許第6200809号(P6200809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6200809難燃性および導電性に優れたポリプロピレン系樹脂発泡粒子およびポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200809
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】難燃性および導電性に優れたポリプロピレン系樹脂発泡粒子およびポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/16 20060101AFI20170911BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20170911BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   C08J9/16CES
   C08L23/10
   C08K3/04
【請求項の数】19
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-550258(P2013-550258)
(86)(22)【出願日】2012年12月14日
(86)【国際出願番号】JP2012082481
(87)【国際公開番号】WO2013094529
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年10月26日
(31)【優先権主張番号】特願2011-279551(P2011-279551)
(32)【優先日】2011年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】三浦 新太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 融
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−251436(JP,A)
【文献】 特開2010−270243(JP,A)
【文献】 特開2010−209145(JP,A)
【文献】 特開平09−202837(JP,A)
【文献】 特開2004−175819(JP,A)
【文献】 特開2004−263033(JP,A)
【文献】 特開2000−169619(JP,A)
【文献】 特開平10−147661(JP,A)
【文献】 再公表特許第2003/048239(JP,A1)
【文献】 特開2009−275198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタル酸ジブチル吸収量が300cm/100g以上、600cm/100g以下の範囲である導電性カーボンブラックを、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、11重量部以上、25重量部以下の範囲で含むポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させてなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、
発泡粒子の平均気泡径が0.16mmを超え、0.35mm以下の範囲であることを特徴とする、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項2】
無機系発泡剤を用いて発泡させてなることを特徴とする、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項3】
二酸化炭素を含む発泡剤を用いて発泡させてなることを特徴とする、請求項2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項4】
ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、気泡径肥大化剤を0.01重量部以上、10重量部以下の範囲で含むポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子を用いることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項5】
気泡径肥大化剤が、150℃、常圧下で液体として存在し、かつ、水酸基を有する化合物であることを特徴とする、請求項4に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項6】
気泡径肥大化剤がポリエチレングリコールであることを特徴とする、請求項5に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項7】
発泡粒子の平均気泡径が0.17mm以上、0.30mm以下の範囲であることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項8】
嵩密度が23g/L以上、33g/L以下の範囲であることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項9】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の示差走査熱量計法による熱量測定を行ったときに得られるDSC曲線において、二つの融解ピークを有し、低温側の融解ピーク熱量Qlと、高温側の融解ピーク熱量Qhから算出した、高温側の融解ピークの比率「{Qh/(Ql+Qh)}×100」が、8%以上、16%未満の範囲であることを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項10】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成型して得られるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体であって、
成形体の平均気泡径が0.18mmを超え、0.50mm以下の範囲であり、体積固有抵抗値が10Ω・cm以上、5000Ω・cm以下の範囲であることを特徴とする、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
【請求項11】
難燃規格UL94のHBF試験に合格していることを特徴とする、請求項10に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
【請求項12】
成形体の平均気泡径が0.22mm以上、0.40mm以下の範囲であることを特徴とする、請求項10または11に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
【請求項13】
成形体の密度が23g/L以上、33g/L以下の範囲であることを特徴とする、請求項10〜12の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
【請求項14】
ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の示差走査熱量計法による熱量測定を行ったときに得られるDSC曲線において、二つの融解ピークを有し、低温側の融解ピーク熱量qlと、高温側の融解ピーク熱量qhから算出した、高温側の融解ピークの比率「{qh/(ql+qh)}×100」が、6%以上、16%未満の範囲であることを特徴とする、請求項10〜13の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
【請求項15】
ポリプロピレン系樹脂粒子、水および発泡剤を耐圧容器内に収容し、攪拌条件下で分散させると共に、上記ポリプロピレン系樹脂粒子の軟化点温度以上に昇温した後、耐圧容器の内圧よりも低い圧力域に耐圧容器内の分散液を放出してポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させる一段発泡工程を含むポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法であって、
ポリプロピレン系樹脂粒子が、フタル酸ジブチル吸収量が300cm/100g以上、600cm/100g以下の範囲である導電性カーボンブラックを、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、11重量部以上、25重量部以下の範囲で含むポリプロピレン系樹脂組成物からなるものであり、
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径が0.16mmを超え、0.35mm以下の範囲であることを特徴とする、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項16】
発泡剤が無機系発泡剤であることを特徴とする、請求項15に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項17】
発泡剤が二酸化炭素を含むことを特徴とする、請求項16に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項18】
ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、気泡径肥大化剤を0.01重量部以上、10重量部以下の範囲で含むポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子を用いることを特徴とする、請求項15〜17の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項19】
一段発泡工程で得たポリプロピレン系樹脂発泡粒子に、窒素、空気、および二酸化炭素から選択される少なくとも一つの無機ガスを加圧含浸し、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子内の圧力を常圧よりも高くした後、該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を水蒸気で加熱して更に発泡させる二段発泡工程を含むことを特徴とする、請求項15〜18の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、緩衝包材や電波吸収材等に用いられるポリプロピレン系樹脂発泡粒子およびポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を用いて得られるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、型内発泡成形体の長所である形状の任意性、緩衝性、軽量性、断熱性等の特徴を有している。また、ポリスチレン系樹脂発泡粒子を用いて得られるポリスチレン系樹脂型内発泡成形体と比較すると、耐薬品性、耐熱性、圧縮後の歪回復率に優れている。さらに、ポリエチレン系樹脂発泡粒子を用いて得られるポリエチレン系樹脂型内発泡成形体と比較すると、寸法精度、耐熱性、圧縮強度に優れている。
【0003】
これら特徴により、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を用いて得られるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、緩衝材、通箱、断熱材、自動車部材等の様々な用途に用いられている。
【0004】
さらに、電子機器や精密機器の緩衝材やロボットラインのパーツトレイ、或いは、電波暗室や電子機器の放射ノイズ対策、電波反射防止対策等に用いられる電波吸収体にも、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体が用いられている。このような場合には、10重量%以上の導電性カーボンブラックを添加した導電性ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体が用いられている(例えば、特許文献1〜6)。
【0005】
しかし、導電性カーボンブラックを10重量%以上含有する場合、導電性ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の難燃性が低下するという問題があり、難燃性を必要とする部材に適用する場合は、多量の難燃剤を添加しなければならない。
【0006】
また、導電性ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体における難燃性の低下は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を製造するときの発泡剤として、ブタン等の有機系発泡剤を用いる場合は顕著ではないものの、二酸化炭素等の無機系発泡剤を用いる場合に顕著となる。
【0007】
但し、導電性ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体において難燃性が低下する課題、特に無機系発泡剤を用いる場合に難燃性の低下がより顕著となる課題については、前述の特許文献1〜6には明示されていない。
【0008】
一方、カーボンブラックには前述の導電性カーボンブラックの他に、着色用カーボンブラックが知られており、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を着色するために一般的に着色用カーボンブラックが用いられている。そして、着色用カーボンブラックを用いた場合のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体において難燃性が低下することについては、従来、知られている(例えば、特許文献7〜9)。
【0009】
着色用カーボンブラックを用いて黒色に着色したポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体に対して、特許文献7では、窒素系難燃剤(ヒンダードアミン系難燃剤)の添加により、特許文献8では、平均面積が特定の値であるカーボンブラック凝集体の集合体を用いることにより、特許文献9では、特定の多価アルコールを添加することにより、それぞれ難燃性を向上させている。
【0010】
尚、着色用カーボンブラックの添加量は、上記特許文献中では10重量%以上であるとの記載もあるが、実際には、型内発泡成形体の黒色度を満足する上では10重量%以下で充分である。上記特許文献の実施例において、難燃性の向上効果が認められる着色用カーボンブラックの添加量は5重量%未満の低添加量であり、導電性カーボンブラックの使用時のような10重量%以上の添加量においても難燃性が向上することは示されていない。
【0011】
特許文献8には、発泡倍率を上げることを目的として、親水性ポリマーや、ポリエチレングリコール或いはグリセリン等の多価アルコールを用いることができるとの記載はあるものの、これら化合物が難燃性に影響を及ぼすことを示唆する記載はなく、また、カーボンブラックを10重量%以上添加する場合や無機系発泡剤を用いる場合に、難燃性の低下が顕著であるという課題についても記載されていない。
【0012】
特許文献9においては、着色用カーボンブラックの添加量が10重量%以下の場合には、特定の多価アルコールを添加することにより難燃性が改善することが記載されているものの、比較例に記載の通り、10重量%を超える量(例えば15重量%)を添加した場合には、特定の多価アルコールを添加しても難燃性が改善されないことが示されている。
【0013】
樹脂に添加して用いる導電性カーボンブラックと着色用カーボンブラックとでは、一般的に、フタル酸ジブチル(DBP)の吸収量に違いがある。DBP吸収量が概ね200cm/100g以上のカーボンブラックは、導電性能に優れるため、導電性カーボンブラックとして用いられる。これに対して、DBP吸収量が200cm/100g未満のカーボンブラックは、黒色度に優れるため、着色用カーボンブラックとして用いられる。
【0014】
着色用カーボンブラックを導電性付与のために用いることは不可能ではないが、優れた導電性、例えば体積固有抵抗値が5000Ω・cm以下であることを発現させるためには、導電性カーボンブラックよりも更に多量の添加量を必要とすることから、樹脂発泡粒子の発泡成形が困難になる等、実用的ではない。
【0015】
以上のように、これまでの技術では、優れた導電性と難燃性とを兼ね備えたポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を得るには充分ではなく、更なる改善が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開平7−300536号公報」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開平9−202837号公報」
【特許文献3】日本国公開特許公報「特開2000−169619号公報」
【特許文献4】日本国公開特許公報「特開2004−175819号公報」
【特許文献5】日本国公開特許公報「特開2003−229691号公報」
【特許文献6】日本国公開特許公報「特開2004−319603号公報」
【特許文献7】日本国公開特許公報「特開2004−263033号公報」
【特許文献8】日本国公開特許公報「特開2010−209145号公報」
【特許文献9】日本国公開特許公報「特開2010−270243号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、導電性に優れると共に、特に、難燃剤を用いなくても難燃性が向上したポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を提供し得るポリプロピレン系樹脂発泡粒子を提供することを主たる目的とする。特に、難燃性が低い従来の無機系発泡剤を用いる場合においても、優れた難燃性を発現させ得るポリプロピレン系樹脂発泡粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、特定量のフタル酸ジブチル吸収量(以降、「DBP吸収量」と称する場合がある)を示す導電性カーボンブラックを用いることによって優れた導電性を発現するポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体において、型内発泡成形体の平均気泡径を大きくする技術を導入することにより、意外にも、難燃剤を用いなくても難燃性が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
即ち、本発明は、次の要件からなる。
[1] フタル酸ジブチル吸収量が300cm/100g以上、600cm/100g以下の範囲である導電性カーボンブラックを、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、11重量部以上、25重量部以下の範囲で含むポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させてなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、発泡粒子の平均気泡径が0.16mmを超え、0.35mm以下の範囲であることを特徴とする、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[2] 無機系発泡剤を用いて発泡させてなることを特徴とする、[1]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[3] 二酸化炭素を含む発泡剤を用いて発泡させてなることを特徴とする、[2]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[4] ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、気泡径肥大化剤を0.01重量部以上、10重量部以下の範囲で含むポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子を用いることを特徴とする、[1]〜[3]の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[5] 気泡径肥大化剤が、150℃、常圧下で液体として存在し、かつ、水酸基を有する化合物であることを特徴とする、[4]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[6] 気泡径肥大化剤がポリエチレングリコールであることを特徴とする、[5]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[7] 発泡粒子の平均気泡径が0.17mm以上、0.30mm以下の範囲であることを特徴とする、[1]〜[6]の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[8] 嵩密度が23g/L以上、33g/L以下の範囲であることを特徴とする、[1]〜[7]の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[9] ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の示差走査熱量計法による熱量測定を行ったときに得られるDSC曲線において、二つの融解ピークを有し、低温側の融解ピーク熱量Qlと、高温側の融解ピーク熱量Qhから算出した、高温側の融解ピークの比率「{Qh/(Ql+Qh)}×100」が、8%以上、16%未満の範囲であることを特徴とする、[1]〜[8]の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[10] ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成型して得られるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体であって、成形体の平均気泡径が0.18mmを超え、0.50mm以下の範囲であり、体積固有抵抗値が10Ω・cm以上、5000Ω・cm以下の範囲であることを特徴とする、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
[11] 難燃規格UL94のHBF試験に合格していることを特徴とする、[10]に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
[12] 成形体の平均気泡径が0.22mm以上、0.40mm以下の範囲であることを特徴とする、[10]または[11]に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
[13] 成形体の密度が23g/L以上、33g/L以下の範囲であることを特徴とする、[10]〜[12]の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
[14] ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の示差走査熱量計法による熱量測定を行ったときに得られるDSC曲線において、二つの融解ピークを有し、低温側の融解ピーク熱量qlと、高温側の融解ピーク熱量qhから算出した、高温側の融解ピークの比率「{qh/(ql+qh)}×100」が、6%以上、16%未満の範囲であることを特徴とする、[10]〜[13]の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
[15] ポリプロピレン系樹脂粒子、水および発泡剤を耐圧容器内に収容し、攪拌条件下で分散させると共に、上記ポリプロピレン系樹脂粒子の軟化点温度以上に昇温した後、耐圧容器の内圧よりも低い圧力域に耐圧容器内の分散液を放出してポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させる一段発泡工程を含むポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法であって、ポリプロピレン系樹脂粒子が、フタル酸ジブチル吸収量が300cm/100g以上、600cm/100g以下の範囲である導電性カーボンブラックを、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、11重量部以上、25重量部以下の範囲で含むポリプロピレン系樹脂組成物からなるものであり、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径が0.16mmを超え、0.35mm以下の範囲であることを特徴とする、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
[16] 発泡剤が無機系発泡剤であることを特徴とする、[15]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
[17] 発泡剤が二酸化炭素を含むことを特徴とする、[16]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
[18] ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、気泡径肥大化剤を0.01重量部以上、10重量部以下の範囲で含むポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子を用いることを特徴とする、[15]〜[17]の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
[19] 一段発泡工程で得たポリプロピレン系樹脂発泡粒子に、窒素、空気、および二酸化炭素から選択される少なくとも一つの無機ガスを加圧含浸し、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子内の圧力を常圧よりも高くした後、該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を水蒸気で加熱して更に発泡させる二段発泡工程を含むことを特徴とする、[15]〜[18]の何れか一項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形して得られるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、優れた導電性を有しつつ、難燃剤を用いなくても難燃性が向上するという効果を奏する。即ち、優れた導電性と難燃性とを兼ね備えたポリプロピレン系樹脂発泡粒子およびポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を提供することができるという効果を奏する。
【0021】
特に、従来は難燃性が低下するという問題が顕著であった無機系発泡剤を用いて発泡させてなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子を用いて得られるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体も、優れた難燃性を発現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】示差走査熱量計を用い、本発明に係るポリプロピレン系樹脂一段発泡粒子を熱量測定したときに得られるDSC曲線の一例を示すチャートである。チャートの横軸は温度を示し、縦軸は吸熱量を示す。尚、低温側のピークと破線で囲まれる部分が低温側の融解ピーク熱量Qlであり、高温側のピークと破線で囲まれる部分が高温側の融解ピーク熱量Qhである。
図2】示差走査熱量計を用い、本発明に係るポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を熱量測定したときに得られるDSC曲線の一例を示すチャートである。チャートの横軸は温度を示し、縦軸は吸熱量を示す。尚、低温側のピークと破線で囲まれる部分が低温側の融解ピーク熱量qlであり、高温側のピークと破線で囲まれる部分が高温側の融解ピーク熱量qhである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子およびポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体について、以下に説明する。
【0024】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、フタル酸ジブチル吸収量が300cm/100g以上、600cm/100g以下の範囲である導電性カーボンブラックを、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、11重量部以上、25重量部以下の範囲で含むポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させてなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、発泡粒子の平均気泡径が0.16mmを超え、0.35mm以下の範囲である。また、本発明に係るポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、上記ポリプロピレン系樹脂粒子を型内成型して得られるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体であって、成形体の平均気泡径が0.18mmを超え、0.50mm以下の範囲であり、体積固有抵抗値が10Ω・cm以上、5000Ω・cm以下の範囲である。
【0025】
本発明で用いられる導電性カーボンブラックは、フタル酸ジブチル吸収量(DBP吸収量)が300cm/100g以上、600cm/100g以下の範囲であり、好ましくは350cm/100g以上、500cm/100g以下の範囲である。
【0026】
導電性カーボンブラックのDBP吸収量が300cm/100g未満である場合は、優れた導電性を付与するために多量の導電性カーボンブラックの添加が必要となり、発泡粒子化が困難となったり、例え発泡粒子化ができた場合においても、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径が小さくなり、難燃性が著しく低下したりする傾向がある。導電性カーボンブラックのDBP吸収量が600cm/100gを超えても、導電性および難燃性の更なる向上は見られず、性能的には飽和状態になる。
【0027】
ここで、DBP吸収量は、JIS K6217−4:2008に従って測定される値である。
【0028】
尚、一般的に、着色用カーボンブラックのDBP吸収量は300cm/100g未満であり、着色用カーボンブラックを添加してもポリプロピレン系樹脂発泡粒子は良好な導電性と難燃性とを兼ね備えることができない。
【0029】
本発明で用いられる導電性カーボンブラックは、DBP吸収量が300cm/100g以上、600cm/100g以下の範囲であればよく、特に制限されるものではない。導電性カーボンブラックとしては、具体的には、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等を用いることができる。
【0030】
本発明で用いられる導電性カーボンブラックのBET比表面積は、特に制限されるものではないが、良好な導電性が得られる観点から、600m/g以上であることがより好ましく、700m/g以上であることがさらに好ましい。BET比表面積が600m/g以上である場合には、優れた導電性を付与するための導電性カーボンブラックの添加量を減らすことが可能となり、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径の微細化を抑制することができる。その結果、優れた難燃性を得易くなるので、BET比表面積が600m/g以上である導電性カーボンブラックを用いることは、より好ましい態様である。
【0031】
ここで、BET比表面積は、JIS K6217−2:2001に従って測定される、窒素吸着法による値である。
【0032】
本発明に用いられる具体的な導電性カーボンブラックの商品名としては、例えば、ケッチェンブラックEC300J(DBP吸収量:365cm/100g、BET比表面積:800m/g)、ケッチェンブラックEC600JD(DBP吸収量:495cm/100g、BET比表面積:1270m/g)、エンサコ350G(DBP吸収量:320cm/100g、BET比表面積:770m/g)、プリンテックスXE2(DBP吸収量:380cm/100g、BET比表面積:950m/g)等が挙げられる。
【0033】
本発明における導電性カーボンブラックの添加量は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、11重量部以上、25重量部以下の範囲が好ましく、13重量部以上、23重量部以下の範囲がより好ましく、17重量部以上、22重量部以下の範囲がさらに好ましい。
【0034】
導電性カーボンブラックの添加量が11重量部未満では、良好な導電性を発現できない傾向があり、25重量部を超えると、平均気泡径が微細化し、良好な難燃性が得られなくなる傾向がある。
【0035】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリプロピレンホモポリマー、エチレン/プロピレンランダム共重合体、ブテン−1/プロピレンランダム共重合体、エチレン/ブテン−1/プロピレンランダム共重合体、エチレン/プロピレンブロック共重合体、ブテン−1/プロピレンブロック共重体、プロピレン/塩素化ビニル共重合体、プロピレン/無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらポリマーの中でも、エチレン/プロピレンランダム共重合体、 エチレン/ブテン−1/プロピレンランダム共重合体が、良好な発泡性を有し、かつ良好な成形性を有する点から、より好適である。ここで、本発明で用いられる「ポリプロピレン系樹脂」とは、モノマーの少なくとも一部としてプロピレンを用いて重合してなるポリマーであって、ポリマー100重量%中のプロピレン含有率が50重量%を超えるポリマーを指す。
【0036】
エチレン/プロピレンランダム共重合体またはエチレン/ブテン−1/プロピレンランダム共重合体におけるエチレン含有率は、各共重合体100重量%中、0.2重量%以上、10重量%以下の範囲が好ましい。また、エチレン/ブテン−1/プロピレンランダム共重合体におけるブテン−1含有率は、共重合体100重量%中、0.2重量%以上、10重量%以下の範囲が好ましい。但し、エチレンおよびブテン−1の合計含有率は、0.5重量%以上、10.2重量%以下の範囲が好ましい。各共重合体中のエチレンまたはブテン−1の含有率が0.2重量%未満では、発泡性や成形性が低下する傾向があり、10.2重量%を超えると、機械的物性が低下する傾向がある。
【0037】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂の融点は、特に制限されるものではないが、例えば、125℃以上、150℃以下の範囲であることがより好ましく、130℃以上、145℃以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂の融点が125℃未満であると耐熱性が低下する傾向があり、150℃を超えると発泡倍率を高めることが困難になる傾向がある。
【0038】
ここで、ポリプロピレン系樹脂の融点は、示差走査熱量計法(以降、「DSC法」と称する場合がある)によって熱量測定した値であり、具体的には、該樹脂5〜6mgを10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温して融解させた後、10℃/分の降温速度で220℃から40℃まで降温して結晶化させ、さらに10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温したときに得られるDSC曲線から、二回目の昇温時の融解ピーク温度を融点として求めた値である。
【0039】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂のメルトインデックス(以降、「MI」と称する場合がある)は、特に制限されるものではないが、3g/10分以上、30g/10分以下の範囲であることがより好ましく、4g/10分以上、20g/10分以下の範囲であることがさらに好ましく、5g/10分以上、18g/10分以下の範囲であることが特に好ましい。
【0040】
ポリプロピレン系樹脂のMIが3g/10分未満であると、導電性カーボンブラックを添加した後の樹脂組成物のMIが低くなりすぎ、発泡倍率を高めることが困難になる傾向がある。ポリプロピレン系樹脂のMIが30g/10分を超えると、得られるポリプロピレン系樹脂発泡粒子の気泡が連通化し、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の圧縮強度が低下する、または、表面性が低下する傾向がある。
【0041】
ポリプロピレン系樹脂のMIが3g/10分以上、30g/10分以下の範囲であると、比較的大きな発泡倍率のポリプロピレン系樹脂発泡粒子が得られ易い。さらに、該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形して得られるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、表面の美麗性に優れ、寸法収縮率が小さくなる。
【0042】
ここで、MI値は、JIS K7210:1999に記載のMI測定器を用い、オリフィス:2.0959±0.005mmφ、オリフィス長さ:8.000±0.025mm、荷重:2160g、温度:230±0.2℃の条件下で測定した値である。
【0043】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂を合成するときのモノマーの重合触媒としては、例えば、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒等を用いることができるが、特に制限されるものではない。
【0044】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂に気泡径肥大化剤を添加することは、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の難燃性を向上させる上で非常に有効である。
【0045】
本発明者らは、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体に導電性を付与するために、導電性カーボンブラックを11重量部以上、25重量部以下の範囲で添加した場合に、難燃性が低下するという課題に接し、これを解決すべく研究した結果、いわゆる難燃剤を添加するよりも、型内発泡成形体の平均気泡径を大きくすることが、意外にも難燃性の向上に有効であることを見出した。そして、その手段として気泡径肥大化剤の添加が効果的であることを見出した。
【0046】
特に、発泡剤として無機系発泡剤を用いる場合は、有機系発泡剤を用いる場合に比べて型内発泡成形体の平均気泡径が小さくなる傾向があることから、気泡径肥大化剤の添加による効果が顕著となる。
【0047】
本発明において、「気泡径肥大化剤」とは、次のように定義する化合物(物質)を指す。
【0048】
即ち、テスト物質Aを導電性カーボンブラックと共にポリプロピレン系樹脂に配合(添加)して得られる樹脂粒子を発泡して得られる導電性ポリプロピレン系樹脂発泡粒子(後述する一段発泡粒子)の平均気泡径αと、テスト物質Aを添加しないこと以外は全く同様の配合処方、発泡条件(発泡方法)にて発泡して得られる導電性ポリプロピレン系樹脂発泡粒子(後述する一段発泡粒子)の平均気泡径βとを比較した場合に、「α>β」となるテスト物質Aを「気泡径肥大化剤」であると定義する。上記定義における具体的な配合処方および発泡条件は、以下の通りである。
【0049】
上記「配合処方」とは、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、テスト物質Aを0.1重量部以上、1重量部以下の範囲における一定量、および、フタル酸ジブチル吸収量が300cm/100g以上、600cm/100g以下の範囲である導電性カーボンブラックを18重量部添加することにより、テスト物質Aおよび導電性カーボンブラックを含むポリプロピレン系樹脂粒子を得る処方を指す。
【0050】
上記「発泡条件(発泡方法)」とは、下記条件(方法)を指す。即ち、上記配合処方によって得られたポリプロピレン系樹脂粒子100重量部、水170重量部、後述する無機分散剤として第三リン酸カルシウム2.0重量部、および、分散助剤としてアルキルスルホン酸ナトリウム0.075重量部を、容量10Lの耐圧オートクレーブ内に仕込み、攪拌下、発泡剤として二酸化炭素を5.0重量部添加する。次いで、オートクレーブの内容物を昇温して、ポリプロピレン系樹脂の「融点+5℃」以上、「融点+10℃」以下の範囲における一定の発泡温度にまで加熱した後、さらに、オートクレーブ内に炭酸ガスを追加して当該オートクレーブの内圧を3.0MPa(ゲージ圧)とする。そして、30分間保持した後、オートクレーブ下部のバルブを開き、4.0mmφの開口オリフィスを通して、オートクレーブの内容物を大気圧(1気圧)下に放出して、テスト物質Aおよび導電性カーボンブラックを含むポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得る。このとき、発泡圧力が一定になるように、オートクレーブ上部から二酸化炭素を圧入して背圧を掛ける。そして、上記発泡条件によって得られた、テスト物質Aを含むポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径αを測定する。
【0051】
他方、テスト物質Aを含まないこと以外は、同様の発泡条件によって、テスト物質Aを含まないポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得る。得られたテスト物質Aを含まないポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径βを測定する。
【0052】
そして、「α>β」となる場合において、テスト物質Aを「気泡径肥大化剤」であると定義する。
【0053】
尚、テスト物質Aは0.1重量部以上、1重量部以下の範囲における或る一定量で評価するが、当該範囲の何れかの量での評価において「α>β」となれば、テスト物質Aは本発明における気泡径肥大化剤であると定義する。例えば、或るテスト物質A1の評価において、添加量が0.1重量部では「α>β」とはならないが、0.5重量部或いは1重量部では「α>β」となる場合がある。この場合、テスト物質A1は本発明における気泡径肥大化剤である。
【0054】
また、別のテスト物質A2の評価において、1重量部添加しようとしても添加量が多すぎることからポリプロピレン系樹脂粒子が得られず評価不能であっても、0.5重量部とすることで評価可能となり、「α>β」となる場合がある。この場合も、テスト物質A2は本発明における気泡径肥大化剤である。
【0055】
ここで、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径は、以下の方法により測定される値を指す。
【0056】
先ず、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の気泡膜(セル膜)が破壊されないように充分注意しながら、当該発泡粒子のほぼ中央を切断し、その切断面をマイクロスコープ[キーエンス製:VHXデジタルマイクロスコープ]を用いて観察する(観察写真を撮影する)。
【0057】
マイクロスコープでの観察ディスプレイ上或いは観察写真上において、発泡粒子の表層部を除く部分に長さ1000μmに相当する線分を引き、当該線分が通る気泡数nを測定し、気泡径(=1000/n(μm))を算出する。同様の操作を10個の発泡粒子に対して行い、それぞれ算出した気泡径の平均値を、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径とする。
【0058】
本発明で用いられる気泡径肥大化剤のより好ましい例としては、150℃、常圧(1気圧)下で液体として存在し、かつ、水酸基を有する化合物を挙げることができる。
【0059】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を製造するときの発泡温度は、用いるポリプロピレン系樹脂の融点等にも依存するが、概ね150℃前後である。従って、ポリプロピレン系樹脂中に添加されている、150℃、常圧下で液体として存在し、かつ、水酸基を有する化合物は、発泡温度においては樹脂中にて液体状態で存在しており、その結果、発泡核点として作用することはない。しかも、水酸基を有することから、後述するように発泡工程で用いる水を吸収し、吸収された水が発泡の瞬間に気化し、気泡径を肥大化させていると考えられる。
【0060】
本発明で用いられる気泡径肥大化剤としては、具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。また、グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノエステル、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオレフィン・ポリエーテルブロック共重合体等のうち、融点が150℃未満、かつ沸点が150℃を超える化合物(物質)も、本発明における気泡径肥大化剤として作用する。このような化合物としては、具体的には、例えば、グリセリンステアリン酸モノエステル、グリセリンステアリン酸ジエステル等が挙げられる。気泡径肥大化剤は、或る化合物を単独で用いてもよいし、複数の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
気泡径肥大化剤としては、上記例示の化合物のうち、ポリエチレングリコールがより好ましく、平均分子量が200以上、6000以下の範囲のポリエチレングリコールが最も好ましい。
【0062】
本発明で用いられる気泡径肥大化剤の添加量は、特に制限されるものではなく、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径を肥大化させるのに必要な添加量を選択すればよいが、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上、10重量部以下の範囲であることがより好ましく、0.2重量部以上、5重量部以下の範囲であることがさらに好ましく、0.3重量部以上、2重量部以下の範囲であることが特に好ましい。
【0063】
気泡径肥大化剤の添加量が0.01重量部未満では、平均気泡径を肥大化させる効果が小さい傾向があり、10重量部を超えて添加しても、肥大化効果は大きくならず、効果が飽和状態になる傾向がある。尚、気泡径肥大化剤の種類によって、平均気泡径を肥大化させるのに有効な添加量は変化する。
【0064】
ところで、上述した特許文献1(特開平7−300536号公報)には、導電性カーボンブラックと共に、高級脂肪酸の金属塩や高級脂肪酸のアミド化合物を用いることが記載されている。そして、具体的な金属塩として、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられ、具体的なアミド化合物として、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド等が挙げられている。しかしながら、これら化合物は融点が150℃以下のものもあるが、水酸基を有していないため、水の吸収能が小さく、気泡径肥大化剤としては作用しない。このことは、特許文献(日本国公開特許公報「特開平8−59876号公報」)に、気泡径を微細化する添加剤として脂肪族金属塩および脂肪酸アミドが挙げられていることからも明らかである。
【0065】
また、上述した特許文献2(特開平9−202837号公報)には、導電性カーボンブラックと共に、水溶性無機物を用いることが記載されている。そして、具体的な水溶性無機物として、例えば、硼砂、硼酸亜鉛、硼酸ナトリウム、硼酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられている。しかしながら、これら水溶性無機物は、水溶性であることから発泡工程で用いる水を吸収するものの、融点が150℃を大幅に超えているので、発泡温度においても固体で存在する。固体物質は、一般的に、発泡核点として作用することから、気泡数を増加させることになり、その結果、気泡径が微細化する(平均気泡径が小さくなる)傾向が強く、気泡径肥大化剤としては作用しない。また、特許文献2の実施例には平均気泡径が記載されているものの、0.05mm以上であるとの記載しかなく、それゆえ、特許文献2に記載の水溶性無機物では、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子のような0.16mmを超える平均気泡径を達成することは困難であり、難燃性を向上させることも不可能である。
【0066】
さらに、上述した特許文献8(特開2010−209145号公報)には、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、特定の凝集構造を有する着色用カーボンブラックを0.05重量部以上、20重量部以下の範囲(但し、実施例では4.0〜4.5重量部)で含むと共に、難燃剤としてヒンダードアミン系難燃剤を含むポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂を発泡させて得られるポリプロピレン系樹脂発泡粒子が記載されている。そして、実施例では、発泡剤としてイソブタンを用いたポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径が0.20〜0.28mmであることが記載されている。また、特許文献8の明細書の段落〔0070〕には、発泡剤として二酸化炭素を用いる場合には、発泡倍率が高くて気泡径が均一な発泡粒子を得るために、分子量300以下のポリエチレングリコール、グリセリン等をポリプロピレン系樹脂に添加することが好ましいことが記載されている(但し、実施例は無い)。しかしながら、特許文献8には、発泡剤として二酸化炭素を用いた場合に発現される特異的な効果、つまり、難燃剤を用いなくても難燃性が向上したポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得ることができるという効果に関する記載は一切無い。尚、特許文献8の実施例5〜8では、難燃性ではない石油樹脂を添加することによってポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の難燃性が向上しているように見えるものの、技術的には、平均面積が特定の値であるカーボンブラック凝集体(カーボンブラックマスターバッチ)の集合体(ストラクチャー)を用いることにより、難燃性を向上させている。つまり、特許文献8のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、石油樹脂を添加することによって難燃性を向上させているわけではない。
【0067】
また、一般的に、一部の難燃剤では、気泡径が微細化する傾向があり、これによって難燃性が低下する場合もある。従って、特許文献8には、発泡剤として二酸化炭素を用いることによってポリプロピレン系樹脂発泡粒子の難燃性を向上させるという技術思想は存在しない。これに対して、本発明では、特定量のDBP吸収量を示す導電性カーボンブラックを用いることによって優れた導電性を発現するポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体において、型内発泡成形体の平均気泡径を大きくする技術を導入することにより、具体的には、例えば発泡剤として二酸化炭素やイソブタンを用い、必要に応じて気泡径肥大化剤を用いることにより、難燃剤を用いなくても難燃性を向上させている。特定の発泡剤および必要に応じて気泡径肥大化剤を用いることによって、難燃剤を用いなくても難燃性が向上するという知見は、本発明者らが見出した新たな知見である。即ち、本発明は、特定の発泡剤および必要に応じて気泡径肥大化剤を用いることによって、難燃剤を用いなくても難燃性を向上させるという技術思想に基づいている。
【0068】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、DBP吸収量が300cm/100g以上、600cm/100g以下の範囲である導電性カーボンブラックを11重量部以上、25重量部以下の範囲で含み、必要に応じて、気泡径肥大化剤を0.01重量部以上、10重量部以下の範囲で含むポリプロピレン系樹脂組成物は、通常、発泡に利用され易いように、予め押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて溶融混練して、円柱状、楕円球状、球状、立方体状、直方体状等の所望の粒子形状に成形加工されて、ポリプロピレン系樹脂粒子となる。
【0069】
このとき、溶融混練されることから、導電性カーボンブラックや気泡径肥大化剤は樹脂粒子中にほぼ均一に分散される。その結果、得られるポリプロピレン系樹脂発泡粒子には、明確な外層と芯層との区別は無く、発泡粒子全体に導電性カーボンブラックや気泡径肥大化剤がほぼ均一に分散されることになる。
【0070】
本発明においては、ポリプロピレン系樹脂に、さらに、必要に応じて、酸化防止剤、耐光性改良剤、帯電防止剤、顔料、難燃剤、気泡核剤等の各種添加剤を加えて、ポリプロピレン系樹脂粒子としてもよい。このような添加剤は、気泡径肥大化剤と同様に、ポリプロピレン系樹脂粒子の製造過程において、樹脂中に添加することが好ましい。
【0071】
但し、これら一般的な添加剤のうち、本発明の効果を阻害するもの、例えば、気泡径の肥大化を妨げる(気泡径を微細化する)ものは用いることができない。例えば、タルク、カオリン、ホウ酸亜鉛等の気泡核剤は、一般的に気泡径を微細化させる傾向があり、添加する場合においては、気泡径を微細化させないように、その種類や添加量を注意深く選択しなければならない。特に、タルクは、気泡径を微細化させる効果が非常に強いことから、本発明においては添加しないことが望ましい。
【0072】
また、一般的に難燃剤として知られる場合であっても、気泡径の肥大化を妨げる(気泡径を微細化する)化合物は、難燃性を向上させないばかりか、難燃性を悪化させるように作用するので、用いることができない。
【0073】
尚、本発明では気泡径肥大化剤の添加によってポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の難燃性が向上するため、難燃剤を加える場合においては、その添加量を従来の添加量よりも少なくすることが可能な場合がある。それゆえ、より少ない量の難燃剤の添加は、本発明に係るポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体における好ましい態様と言える。
【0074】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、以下に示す製造方法によって製造することができる。
【0075】
例えば、上記ポリプロピレン系樹脂粒子、水、および発泡剤を耐圧容器内に収容し、攪拌条件下で分散させると共に、耐圧容器の内容物を上記ポリプロピレン系樹脂粒子の軟化点温度以上に昇温する。その後、耐圧容器の内圧よりも低い圧力域に耐圧容器内の分散液を放出して、ポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させる(発泡工程を行う)ことにより、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を製造する。耐圧容器の内圧よりも低い圧力域としては、大気圧(1気圧)が好ましい。尚、以下、ポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させる上記発泡工程を、一段発泡工程と称する。
【0076】
ここで、耐圧容器の内容物の温度をポリプロピレン系樹脂粒子の軟化点温度以上に昇温するときは、当該ポリプロピレン系樹脂粒子の「融点−20℃」以上、ポリプロピレン系樹脂粒子の「融点+10℃」以下の範囲の温度に昇温することが、ポリプロピレン系樹脂粒子の発泡性を確保する上で好ましい。
【0077】
本発明で用いられる発泡剤としては、特に制限されるものではなく、具体的には、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロブタン、シクロペンタン等の有機系発泡剤、または、二酸化炭素、水、空気、窒素等の無機系発泡剤が挙げられる。これら発泡剤は単独で用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。
【0078】
これら発泡剤の中でも、平均気泡径を大きくすることができ、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の難燃性を向上させることができる観点から、ノルマルブタン、イソブタンがより好ましい。一方、本発明の効果が最も顕著に現れる点からは、二酸化炭素、水、空気、窒素等の無機系発泡剤がより好ましく、二酸化炭素を含む発泡剤を用いることが最も好ましい。ここで、無機系発泡剤を用いた場合には、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径が微細化し易く、特に、導電性カーボンブラックを11重量部以上、25重量部以下の範囲で含む場合は上記平均気泡径がより微細化し易いことから、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の難燃性が大きく低下するという課題がある。しかしながら、本発明によれば、前述の気泡径肥大化剤を併用することにより、驚くべきことに難燃剤を用いなくても難燃性が向上する。
【0079】
本発明において、発泡剤の使用量は、特に制限されるものではなく、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の所望の発泡倍率に応じて適宣使用すればよい。発泡剤の使用量は、具体的には、例えば、ポリプロピレン系樹脂粒子100重量部に対して、2重量部以上、60重量部以下の範囲であることが好適である。
【0080】
但し、発泡剤として水を用いる場合は、耐圧容器内でポリプロピレン系樹脂粒子を分散させるために用いる水を用いる(転用する)ことができる。この場合は、ポリプロピレン系樹脂粒子に親水性化合物や吸水性化合物を予め含有させておくことにより、当該ポリプロピレン系樹脂粒子が耐圧容器内の水を吸収し易くなり、その結果、水を発泡剤として利用し易くなる。上記親水性化合物および吸水性化合物の種類やその使用量は、特に制限されるものではないが、本発明においては前述の気泡径肥大化剤が親水性或いは吸水性の特性を有し、かつ、気泡径を肥大化させることが可能である点から、気泡径肥大化剤を上記親水性化合物や吸水性化合物として用いる(兼用する)ことが好ましい。
【0081】
発泡剤として水を用いる場合におけるその使用量は、ポリプロピレン系樹脂粒子100重量部に対して、50重量部以上、500重量部以下の範囲がより好ましく、100重量部以上、350重量部以下の範囲がさらに好ましい。これにより、ポリプロピレン系樹脂粒子等を耐圧容器内で分散させることができると共に、水を発泡剤として用いることができる。
【0082】
また、二酸化炭素を含む発泡剤を用いる場合には、気泡径肥大化剤としてポリエチレングリコールやグリセリン等を使用することがより好ましい。これにより、平均気泡径が0.16mmを超え、0.35mm以下の範囲のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を容易に得ることができる。
【0083】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を製造するときに使用する耐圧容器は、特に制限されるものではなく、本発明に係る製造方法における容器内圧力や容器内温度に耐えられるものであればよい。具体的には、例えば、オートクレーブ型の耐圧容器が挙げられる。
【0084】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を製造するときには、ポリプロピレン系樹脂粒子、水、および発泡剤と共に、無機分散剤を用いることがより好ましい。無機分散剤としては、例えば、第三リン酸カルシウム、第三リン酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、アルミノ珪酸塩、カオリン、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0085】
本発明においては、耐圧容器内でのポリプロピレン系樹脂粒子の分散性を高めるために、分散助剤を更に併用することがより好ましい。分散助剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0086】
本発明における上記無機分散剤や分散助剤の使用量は、その種類や、用いるポリプロピレン系樹脂粒子の種類および使用量に応じて設定すればよく、特に制限されるものではないが、通常、水100重量部に対して、無機分散剤は0.2重量部以上、3重量部以下の範囲であることが好ましく、分散助剤は0.001重量部以上、0.1重量部以下の範囲であることが好ましい。
【0087】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径は、0.16mmを超え、0.35mm以下の範囲が好ましく、0.17mm以上、0.30mm以下の範囲がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径が0.16mm以下の場合には、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体としたときの難燃性が低下する傾向がある。また、導電性カーボンブラックを多量に含んでいるので、本発明においては、0.35mmを超える平均気泡径を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得ることは実質的に困難である。
【0088】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子の嵩密度は、比較的低い値である23g/L以上、33g/L以下の範囲であることがより好ましい。ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の嵩密度が23g/L未満である場合には、高度な難燃規格である難燃規格UL94のHBF試験に合格することができない場合があり、一方、嵩密度が33g/Lを超えると、元来、難燃性が発現され易いことから、本発明を採用することによる有効性が低下する傾向がある。
【0089】
尚、嵩密度が比較的低いポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、前述の一段発泡工程を行うだけで得ることが可能である。但し、発泡剤として無機系発泡剤を用いる場合は、一段発泡工程を行うだけでは嵩密度が比較的低いポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得ることができない場合がある。このような場合は、一段発泡工程を行って得たポリプロピレン系樹脂発泡粒子を更に発泡させる二段発泡工程、さらには、二段発泡工程を行った後、更に発泡させる三段発泡工程を行うことにより、嵩密度が比較的低いポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得ることができる。
【0090】
二段発泡工程(さらに、三段発泡工程)としては、以下に示す方法を例示することができる。
【0091】
例えば、一段発泡工程を行って得たポリプロピレン系樹脂発泡粒子を耐圧密閉容器内に入れた後、窒素、空気、二酸化炭素等の無機ガスを0.1MPa以上、0.6MPa以下(ゲージ圧)の範囲で圧入する。次いで、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子に無機ガスを1時間以上、48時間以下の範囲で加圧含浸(加圧処理)させて、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子内の圧力を常圧(1気圧)よりも高くした後、当該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を、圧力が0.01MPa以上、0.4MPa以下(ゲージ圧)の範囲の水蒸気等で加熱して更に発泡させる。これにより、嵩密度がより低い(発泡倍率がより高い)ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得ることができる。さらに、二段発泡工程を行って得たポリプロピレン系樹脂発泡粒子を上記二段発泡工程と同様にして更に発泡させることにより、嵩密度がさらに低い(発泡倍率がさらに高い)ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得ることができる。
【0092】
尚、一段発泡工程を行うことによって得たポリプロピレン系樹脂発泡粒子を一段発泡粒子、二段発泡工程を行うことによって得たポリプロピレン系樹脂発泡粒子を二段発泡粒子、三段発泡工程を行うことによって得たポリプロピレン系樹脂発泡粒子を三段発泡粒子と称する。
【0093】
ところで、本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径は、0.16mmを超え、0.35mm以下の範囲であることが好ましい。従って、一段発泡粒子における平均気泡径が0.16mm以下であっても、二段発泡粒子(または三段発泡粒子)とすることによって平均気泡径を大きくすることができるので、0.16mmを超え、0.35mm以下の範囲の平均気泡径を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得ることが可能である。
【0094】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、示差走査熱量計法による熱量測定を行ったときに得られるDSC曲線において、二つの融解ピークを有し、低温側の融解ピーク熱量Qlと、高温側の融解ピーク熱量Qhから算出した、高温側の融解ピークの比率「{Qh/(Ql+Qh)}×100」(以下、「DSC比」と称する場合がある)が、5%以上、20%以下の範囲であることが好ましく、8%以上、16%未満の範囲であることがより好ましい。DSC比が当該範囲であると、嵩密度を低くし易く、また、融着性が優れた表面の美麗性が高いポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体が得られ易い。
【0095】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子のDSC比が5%未満では、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子中の気泡が連泡化し易く、型内発泡成形したときの成形体が収縮したり、表面にシワが発生したりし易くなる傾向がある。一方、DSC比が20%を超えると、嵩密度が低くなり難い傾向がある。
【0096】
ここで、図1に示すように、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を40℃から220℃まで、10℃/分の速度で昇温したときに得られる二つの融解ピークを有するDSC曲線において、Qlは、DSC曲線の低温側ピークと、低温側ピークと高温側ピークとの間の極大点から融解開始ベースラインへ引かれた接線とで囲まれる熱量である低温側の融解ピーク熱量を示す。また、Qhは、DSC曲線の高温側ピークと、低温側ピークと高温側ピークとの間の極大点から融解終了ベースラインへ引かれた接線とで囲まれる熱量である高温側の融解ピーク熱量を示す。
【0097】
また、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子における高温側の融解ピーク熱量Qhは、特に制限されるものではないものの、2J/g以上、20J/g以下の範囲が好ましく、3J/g以上、15J/g以下の範囲がより好ましく、4J/g以上、10J/g以下の範囲がさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂発泡粒子における高温側の融解ピーク熱量Qhが2J/g未満では、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子中の気泡が連泡化し易く、型内発泡成形したときの成形体が収縮したり、表面にシワが発生したりし易くなる傾向がある。一方、高温側の融解ピーク熱量Qhが20J/gを超えると、発泡倍率を大きくし難い傾向がある。
【0098】
尚、DSC比や高温側の融解ピーク熱量は、例えば、一段発泡工程における昇温後から発泡までの保持時間(概ね発泡温度に達した後から発泡するまでの保持時間)、発泡温度(発泡時の温度)、発泡圧力(発泡時の圧力)等により、適宜調整することができる。一般的には、保持時間を長くする、発泡温度を低くする、発泡圧力を低くすることにより、DSC比或いは高温側の融解ピーク熱量は大きくなる傾向がある。
【0099】
以上のことから、保持時間、発泡温度、発泡圧力を系統的に適宜変化させた実験を何回か試行することにより、所望のDSC比や高温側の融解ピーク熱量となる条件を容易に見出すことができる。尚、発泡圧力の調節は、発泡剤の量によって調節することができる。
【0100】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子の表面に付着している無機分散剤の量は、2000ppm以下であることが好ましく、1300ppm以下であることがより好ましく、800ppm以下であることが最も好ましい。表面に付着している無機分散剤の量が2000ppmを超えると、型内発泡成形するときの融着性が低下する傾向がある。
【0101】
そして、フタル酸ジブチル吸収量が300cm/100g以上、600cm/100g以下の範囲である導電性カーボンブラックを、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、11重量部以上、25重量部以下の範囲で含むポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させてなる、本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子において、最も好ましい態様は、二酸化炭素を含む発泡剤(特に、二酸化炭素)を用いると共に、ポリエチレングリコール等の気泡径肥大化剤を用いて、発泡粒子の平均気泡径が0.16mmを超え、0.35mm以下の範囲としたポリプロピレン系樹脂発泡粒子である。これにより、難燃剤を用いなくても難燃性をより一層向上させることができ、それゆえ、より一層優れた導電性と難燃性とを兼ね備えたポリプロピレン系樹脂発泡粒子およびポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を得ることができる。
【0102】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子をポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体とするには、
イ)ポリプロピレン系樹脂発泡粒子をそのまま金型に充填して、型内発泡成形を行う方法、
ロ)ポリプロピレン系樹脂発泡粒子中に空気等の無機ガスを予め圧入して、内圧(発泡能)を付与した後、金型に充填して型内発泡成形を行う方法、
ハ)ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を圧縮状態で金型に充填して、型内発泡成形を行う方法、
等、従来既知の方法を使用することができる。
【0103】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子を用いてポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を得る方法の具体例としては、下記方法が挙げられる。例えば、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を耐圧容器内に入れた後、無機ガスを用いて予め加圧して、当該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子中に無機ガスを圧入することにより、内圧(発泡能)を付与する。次いで、二つの金型(雄型および雌型)からなる、閉鎖し得るが密閉し得ない成形空間内に上記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を充填し、水蒸気(加熱水蒸気)等を加熱媒体として用いて、圧力0.1MPa以上、0.4MPa以下(ゲージ圧)の範囲程度、および、加熱時間3秒以上、30秒以下の範囲程度で成形することにより、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子同士を発泡させながら融着させる。そして、取り出した後のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の変形を抑制することができる程度にまで水冷する等して金型を冷却した後、金型を開き、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を得る方法等が挙げられる。
【0104】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の内圧は、例えば、耐圧容器内にて、1時間以上、48時間以下の範囲の加圧時間、および、室温(25℃)以上、80℃以下の範囲の加圧温度で、空気、窒素等の無機ガスを用いて0.1MPa以上、2.0MPa(ゲージ圧)以下の範囲に加圧することによって調整することができる。
【0105】
以上の方法によって製造された本発明に係るポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の平均気泡径は、0.18mmを超え、0.50mm以下の範囲が好ましく、0.22mm以上、0.40mm以下の範囲がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の平均気泡径が0.18mm以下であると、難燃性が低下する傾向がある。また、導電性カーボンブラックを多量に含んでいるので、本発明においては、0.50mmを超える平均気泡径を有するポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を得ることは実質的に困難となる傾向がある。
【0106】
尚、本発明に係るポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体における上記範囲の平均気泡径は、型内発泡成形を行う前のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径を、0.16mmを超え、0.35mm以下の範囲とし、当該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形することにより、概ね達成することができる。
【0107】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の体積固有抵抗値は、10Ω・cm以上、5000Ω・cm以下の範囲が好ましく、10Ω・cm以上、3000Ω・cm以下の範囲がより好ましく、10Ω・cm以上、2000Ω・cm以下の範囲がさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の体積固有抵抗値が5000Ω・cmを超えると、電子機器や精密機器の緩衝材やロボットラインのパーツトレイ、或いは、電波暗室や電子機器の放射ノイズ対策、電波反射防止対策等に用いられる電波吸収体としての用途には不充分となる傾向がある。一方、導電性カーボンブラックを多量に含んでいるので、本発明においては、体積固有抵抗値を10Ω・cm未満とすることは困難である。
【0108】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、難燃規格UL94のHBF試験に合格していることが好ましい。尚、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の難燃性は、当該ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の平均気泡径を、0.18mmを超え、0.50mm以下の範囲とすることにより、発現し易くなる。
【0109】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の成形体密度は、比較的低い23g/L以上、33g/L以下の範囲であることが好ましく、25g/L以上、31g/L以下の範囲であることがより好ましい。ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の成形体密度が23g/L未満である場合には、高度な難燃規格である難燃規格UL94のHBF試験に合格することができない場合があり、一方、成形体密度が33g/Lを超えると、元来、難燃性が発現され易いことから、本発明を採用することによる有効性が低下する傾向がある。
【0110】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、示差走査熱量計法による熱量測定を行ったときに得られる二つの融解ピークを有するDSC曲線において、低温側の融解ピーク熱量qlと、高温側の融解ピーク熱量qhから算出した、高温側の融解ピークの比率「{qh/(ql+qh)}×100」(以下、「DSC比」と称する場合がある)が4%以上、20%以下の範囲であることが好ましく、6%以上、16%未満の範囲であることがより好ましい。
【0111】
DSC比が当該範囲であると、融着性が優れた表面の美麗性が高いポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体が得られ易い。DSC比が上記範囲のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、DSC比が5%以上、20%以下の範囲のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内発泡成形することによって得ることができる。DSC比が4%未満では、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体中の気泡が連泡化しやすい傾向があり、一方、20%を超えると、融着性が低下する傾向がある。
【0112】
ここで、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体のDSC曲線は、型内発泡成形時に熱履歴の影響を受けることから、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子のDSC曲線とは全く同様にはならない。特に、低温側ピーク(低温側の融解ピーク)における100℃以上、140℃以下の領域には、ショルダーピークや浅いピークが見られる場合がある。本発明においては、これらショルダーピークや浅いピークは、低温側ピークの一部であるとして取り扱うこととする。
【0113】
図2に示すように、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を40℃から220℃まで、10℃/分の速度で昇温したときに得られるDSC曲線において、二つの融解ピークを有し、qlは、DSC曲線の低温側ピークと、低温側ピークと高温側ピークとの間の極大点から融解開始ベースラインへ引かれた接線とで囲まれる熱量である低温側の融解ピーク熱量を示す。また、qhは、DSC曲線の高温側ピークと、低温側ピークと高温側ピークとの間の極大点から融解終了ベースラインへ引かれた接線とで囲まれる熱量である高温側の融解ピーク熱量を示す。
【0114】
また、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体における高温側の融解ピーク熱量qhは、特に制限されるものではないものの、2J/g以上、20J/g以下の範囲が好ましく、3J/g以上、15J/g以下の範囲がより好ましく、4J/g以上、10J/g以下の範囲がさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体における高温側の融解ピーク熱量qhが2J/g未満では、機械的強度が低下し易い傾向があり、一方、高温側の融解ピーク熱量qhが20J/gを超えると、融着性が低下する傾向がある。
【実施例】
【0115】
以下、本発明を実施例および比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0116】
実施例および比較例において用いた樹脂および化合物(物質)は、以下の通りである。
●ポリプロピレン系樹脂:
・[プライムポリマー製F227A(試作品):エチレン−プロピレンランダム共重合体、融点141℃、メルトインデックス7g/10分、エチレン含有率3重量%]
●カーボンブラック:
・エンサコ350G[ティムカル製、DBP吸収量320cm/100g、BET比表面積770m/g](導電性カーボンブラック)
・ケッチェンブラックEC600D[ライオン製、DBP吸収量495cm/100g、BET比表面積1270m/g](導電性カーボンブラック)
・アセチレンブラック[デンカ製デンカブラック粉状品、DBP吸収量160cm/100g、BET比表面積70m/g](導電性カーボンブラック)
・着色用カーボンブラックA[大日精化製(試作品):DBP吸収量140cm/100g、BET比表面積370m/g、ストラクチャー平均面積12.9×10nm
・着色用カーボンブラックB[カボット製バルカン9A32:DBP吸収量120cm/100g、BET比表面積20m/g、ストラクチャー平均面積0.8×10nm
●気泡径肥大化剤:
・ポリエチレングリコール[ライオン製PEG#300:平均分子量300、150℃・常圧下で液体]
・グリセリン[和光純薬製試薬:融点18℃、沸点290℃]
・グリセリンモノステアリン酸エステル[和光純薬製試薬:融点60℃、150℃・常圧下で液体]
●難燃剤:
・トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート[四国化成製タイク6B]
・立体障害性アミンエーテル[チバスペシャルティケミカルズ社製:NOR116]
・芳香族縮合リン酸エステル[大八化学製:PX200]
●その他の添加剤:
・ホウ酸亜鉛[富田製薬製ホウ酸亜鉛2335:融点980℃](水溶性無機物)
・エチレンビスステアリン酸アミド[東京化成工業製試薬、融点144℃、150℃・常圧下で液体]
実施例および比較例における物性測定並びに評価は、下記方法によって行った。
【0117】
〔融点の測定〕
示差走査熱量計[セイコーインスツルメンツ(株)製、DSC6200型]を用いて、基材樹脂となるポリプロピレン系樹脂5〜6mgを10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温して融解させた後、10℃/分の降温速度で220℃から40℃まで降温して結晶化させ、さらに10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温したときに得られるDSC曲線から、二回目の昇温時の融解ピーク温度を融点として求めた。
【0118】
〔ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径〕
先ず、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の気泡膜(セル膜)が破壊されないように充分注意しながら、当該発泡粒子のほぼ中央を切断し、その切断面をマイクロスコープ[キーエンス製:VHXデジタルマイクロスコープ]を用いて観察した(観察写真を撮影した)。
【0119】
マイクロスコープでの観察写真上において、発泡粒子の表層部を除く部分に長さ1000μmに相当する線分を引き、当該線分が通る気泡数nを測定し、気泡径(=1000/n(μm))を算出した。同様の操作を10個の発泡粒子に対して行い、それぞれ算出した気泡径の平均値を、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径とした。
【0120】
〔ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の平均気泡径〕
概ね縦300mm×横400mm×厚さ50mmの大きさに成形したポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の厚さ方向におけるほぼ中央を切断し、その切断面をマイクロスコープ[キーエンス製:VHXデジタルマイクロスコープ]を用いて観察した(観察写真を撮影した)。
【0121】
観察写真を用いた平均気泡径の算出は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の場合と同様にして行った。但し、長さ1000μmに相当する線分は、型内発泡成形体を構成するポリプロピレン系樹脂発泡粒子間にまたがることなく、単一のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の表層部を除く部分に引いた。同様の操作を10ヶ所で行い、それぞれ算出した気泡径の平均値を、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の平均気泡径とした。
【0122】
〔ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の発泡倍率〕
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の重量w(g)を測定した後、当該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子をエタノールに浸漬してそのときの増加体積(水没体積)v(cm)を求め、発泡前のポリプロピレン系樹脂の密度d(g/cm)を用いて次式により求めた。
【0123】
発泡倍率=d×v/w(倍)
尚、発泡前のポリプロピレン系樹脂の密度dは、含まれる添加剤の量や種類等によって厳密には変化するものの、本発明においては「d=0.9g/cm」とした。
【0124】
〔ポリプロピレン系樹脂発泡粒子のDSC比の測定〕
示差走査熱量計[セイコーインスツルメンツ(株)製、DSC6200型]を用いて、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子5〜6mgを10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温したときに得られるDSC曲線から、DSC比を算出した。具体的には、図1に示すように、二つの融解ピークを有するDSC曲線において、当該DSC曲線の低温側ピークと、低温側ピークと高温側ピークとの間の極大点から融解開始ベースラインへ引かれた接線とで囲まれる熱量である低温側の融解ピーク熱量Qlと、DSC曲線の高温側ピークと、低温側ピークと高温側ピークとの間の極大点から融解終了ベースラインへ引かれた接線とで囲まれる熱量である高温側の融解ピーク熱量Qhとから、高温側の融解ピークの比率「{Qh/(Ql+Qh)}×100」を算出した。
【0125】
〔ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体のDSC比の測定〕
ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体5〜6mgを切り出して試料とした。そして、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の替わりに当該試料を用いた以外は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子のDSC比の測定と同様にして測定し、高温側の融解ピークの比率「{qh/(ql+qh)}×100」を算出した。
【0126】
〔ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の嵩密度〕
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を容積約5Lの容器に静かに投入して満たした後、容器内のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の重量を測定し、これを容器の容量で除して嵩密度(g/L)とした。
【0127】
〔ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の成形体密度〕
概ね縦300mm×横400mm×厚さ50mmの大きさに成形したポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の厚さ方向におけるほぼ中央から、難燃規格UL94のHBF試験用に縦150mm×横50mm×厚さ12mmの直方体試験片を5本切り出した(スキン層は無し)。そして、切り出した試験片の重量、並びに縦、横および厚さの寸法を測定した。次いで、縦、横および厚さの寸法の積から試験片の体積を算出し、重量を当該体積で除して、5本の試験片の平均値を成形体密度(g/L)とした。
【0128】
〔融着性の評価〕
概ね縦300mm×横400mm×厚さ50mmの大きさに成形したポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の厚さ方向に、カッターナイフで約3mmの切り込みを入れた後、この切り込み部からポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を手で破断して、破断面を観察した。そして、破断面を構成するポリプロピレン系樹脂発泡粒子数に対する破壊されたポリプロピレン系樹脂発泡粒子数の割合を融着率(%)として求め、次の基準に従って融着性を評価した。評価結果を下記「○」または「×」で示す。
○:融着率が60%以上。
×:融着率が60%未満。
【0129】
〔表面性の評価〕
概ね縦300mm×横400mm×厚さ50mmの大きさに成形したポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の表面を目視で観察し、次の基準に従って表面性を評価した。評価結果を下記「○」、「△」または「×」で示す。
○:表面にしわ、ヒケやボイドが殆ど見られない。
△:表面にしわ、ヒケ、或いはボイドの少なくとも何れかが、少し見られる。
×:表面にしわ、ヒケ、或いはボイドの少なくとも何れかが、顕著に見られる。
【0130】
〔導電性の評価〕
JIS K7194−1994に従い、三菱化学ロレスターGPでポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の体積固有抵抗を測定し、次の基準に従って導電性を評価した。評価結果を下記「○」、「△」または「×」で示す。
○:体積固有抵抗が2000Ω・cm以下。
△:体積固有抵抗が2000Ω・cmを超え、5000Ω・cm以下の範囲。
×:体積固有抵抗が5000Ω・cmを超える。
【0131】
〔難燃性の評価〕
概ね縦300mm×横400mm×厚さ50mmの大きさに成形したポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の厚さ方向におけるほぼ中央から、難燃規格UL94のHBF試験用に縦150mm×横50mm×厚さ12mmの直方体試験片を切り出した(スキン層は無し)。得られた試験片を用いて、難燃規格UL94のHBF試験を行い、次の基準に従って難燃性を評価した。評価結果を下記「○」または「×」で示す。また、燃焼速度(mm/分)も下記表1,2に示した。
○:HBF試験の判定基準を満足する(100mm標線間の燃焼速度が40mm/分以下、または、燃焼距離が125mm未満)。
×:HBF試験の判定基準を満たさない。
【0132】
次に、本発明の実施例および比較例について、具体的に説明する。
【0133】
(実施例1)
[ポリプロピレン系樹脂粒子の作製]
エチレン−プロピレンランダム共重合体(融点141℃、メルトインデックス7g/10分、エチンレン含有率3%)100重量部に対し、導電性カーボンブラックであるエンサコ350G(DBP吸収量320cm/100g、BET比表面積770m/g)を18重量部配合して、バンバリーミキサーで混合してポリプロピレン系樹脂組成物を得た。次いで、当該ポリプロピレン系樹脂組成物を45mmφの二軸押出機[(株)オーエヌ機械製、TEK45mm押出機]に投入し、樹脂温度220℃で溶融混練した。但し、溶融混練時に二軸押出機の途中から、気泡径肥大化剤としてのポリエチレングリコールを、エチレン−プロピレンランダム共重合体100重量部に対して0.5重量部の割合となるように添加した。得られた溶融混練樹脂を、円形ダイを用いてストランド状に押出し、水冷後、ペレタイザーで切断した。これにより、一粒の重量が約1.8mgのポリプロピレン系樹脂粒子を得た。
【0134】
[ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の作製]
得られたポリプロピレン系樹脂粒子100重量部、水170重量部、無機分散剤としての第三リン酸カルシウム2.0重量部、および、分散助剤としてのアルキルスルホン酸ナトリウム0.075重量部を容量10Lの耐圧オートクレーブ内に仕込み、攪拌下、発泡剤としての二酸化炭素5.0重量部を添加した。ポリプロピレン系樹脂粒子にタルクは添加しなかった。そして、オートクレーブの内容物を昇温して、147℃の発泡温度にまで加熱した後、さらに二酸化炭素を追加してオートクレーブの内圧を3.0MPa(ゲージ圧)とした。次いで、147℃で30分間保持した後、オートクレーブ下部のバルブを開き、4.0mmφの開口オリフィスを通して、オートクレーブの内容物を大気圧下に放出することにより、一段発泡粒子を得た。このとき、発泡圧力が一定になるように、オートクレーブ上部から二酸化炭素を圧入して背圧を掛けた。
【0135】
得られた一段発泡粒子の平均気泡径は0.15mm、発泡倍率は13倍、DSC比は11%であった。この一段発泡粒子に空気を含浸させることによって0.26MPa(絶対圧)の内圧(発泡粒子内圧)を付与した後、0.05MPa(ゲージ圧)の圧力(蒸気圧力)の水蒸気を用いて加熱した。これにより、平均気泡径が0.17mm、嵩密度が30g/L、DSC比が12%の二段発泡粒子を得た。
【0136】
[ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の作製]
次に、ポリオレフィン発泡成形機[ダイセン株式会社製、KD−345]を用い、縦300mm×横400mm×厚さ50mmの金型内に、内部の空気圧力(発泡粒子内圧)が0.20MPa(絶対圧)になるように予め調整した二段発泡粒子(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子)を充填し、成形加熱蒸気圧(蒸気圧力)0.30MPa(ゲージ圧)として、厚さ方向に10%圧縮して加熱成形させた。これにより、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を得た。
【0137】
得られたポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、室温(25℃)で1時間放置した後、75℃の恒温室内で3時間、養生乾燥を行い、恒温室から取り出した後、再び室温で24時間放置した。そして、当該ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の平均気泡径、成形体密度およびDSC比を測定すると共に、融着性、表面性、導電性および難燃性の評価を行った。これら測定および評価の結果を表1に示す。
【0138】
(実施例2〜10)
[ポリプロピレン系樹脂粒子の作製]
表1に記載した導電性カーボンブラック、気泡径肥大化剤および難燃剤をそれぞれ用い、かつ、表1に記載した配合量に変更した以外は、実施例1の操作と同様の操作を行うことにより、ポリプロピレン系樹脂粒子をそれぞれ得た。尚、難燃剤は、ポリプロピレン系樹脂組成物を作製するときに添加した。
【0139】
[ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の作製]
発泡条件を表1に記載した条件に変更した以外は、実施例1の操作と同様の操作を行うことにより、一段発泡粒子および二段発泡粒子(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子)を得た。得られた一段発泡粒子および二段発泡粒子に関する評価の結果を表1に示す。
【0140】
[ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の作製]
得られた二段発泡粒子を用いて、実施例1の操作と同様の操作を行うことにより、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を得た。得られたポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体に関する評価の結果を表1に示す。
【0141】
(実施例11)
[ポリプロピレン系樹脂粒子の作製]
気泡径肥大化剤としてのポリエチレングリコールを添加しなかった以外は、実施例1の操作と同様の操作を行うことにより、ポリプロピレン系樹脂粒子を得た。
【0142】
[ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の作製]
得られたポリプロピレン系樹脂粒子100重量部、水300重量部、無機分散剤としての第三リン酸カルシウム1.56重量部、および、分散助剤としてのアルキルスルホン酸ナトリウム0.048重量部を容量10Lの耐圧オートクレーブ内に仕込み、昇温する前に発泡剤としてのイソブタン14重量部を添加して攪拌した。そして、オートクレーブの内容物を昇温して、147℃の発泡温度にまで加熱した後、さらにブタンを追加してオートクレーブの内圧を2.1MPa(ゲージ圧)とした。次いで、147℃で30分間保持した後、オートクレーブ下部のバルブを開き、4.0mmφの開口オリフィスを通して、オートクレーブの内容物を大気圧下に放出することにより、一段発泡粒子を得た。この時、発泡圧力が一定になるように、オートクレーブ上部から窒素を圧入して背圧を掛けた。
【0143】
得られた一段発泡粒子の平均気泡径は0.28mm、発泡倍率は22倍、嵩密度は26g/L、DSC比は11%であった。
【0144】
[ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の作製]
次に、二段発泡工程を行うことなく、一段発泡粒子を型内発泡成形した。即ち、一段発泡粒子を用いて、成形条件を表1に記載した条件に変更した以外は、実施例1の操作と同様の操作を行うことにより、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を得た。得られたポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体に関する評価の結果を表1に示す。
【0145】
【表1】
【0146】
(比較例1〜12)
[ポリプロピレン系樹脂粒子の作製]
表2に記載した導電性カーボンブラック、気泡径肥大化剤および難燃剤をそれぞれ用い、かつ、表2に記載した配合量に変更した以外は、実施例1の操作と同様の操作を行うことにより、ポリプロピレン系樹脂粒子をそれぞれ得た。尚、難燃剤は、ポリプロピレン系樹脂組成物を作製するときに添加した。
【0147】
[ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の作製]
発泡条件を表2に記載した条件に変更した以外は、実施例1の操作と同様の操作を行うことにより、一段発泡粒子および二段発泡粒子(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子)を得た。得られた一段発泡粒子および二段発泡粒子に関する評価の結果を表2に示す。
【0148】
[ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の作製]
得られた二段発泡粒子を用いて、実施例1の操作と同様の操作を行うことにより、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を得た。得られたポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体に関する評価の結果を表2に示す。
【0149】
【表2】
【0150】
実施例1、実施例9および実施例10における一段発泡粒子は、それぞれポリエチレングリコール、グリセリンおよびグリセリンステアリン酸エステルを含んでいる。一方、比較例1における一段発泡粒子は、これら化合物を含んでいない。そして、実施例1、実施例9および実施例10と、比較例1とでは、同一の一段発泡条件を採用している。その結果、実施例1、実施例9および実施例10における一段発泡粒子の平均気泡径は、比較例1における一段発泡粒子の平均気泡径よりも大きくなった。即ち、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびグリセリンステアリン酸エステルは、本発明における気泡径肥大化剤として好適であることが判る。
【0151】
一方、比較例11および比較例12における一段発泡粒子は、それぞれホウ酸亜鉛およびエチレンビスステアリン酸アミドを含んでいる。これに対して、比較例1における一段発泡粒子は、これら化合物を含んでいない。そして、比較例11および比較例12と、比較例1とでは、同一の一段発泡条件を採用している。その結果、比較例11および比較例12における一段発泡粒子の平均気泡径は、比較例1における一段発泡粒子の平均気泡径よりも小さくなった。即ち、ホウ酸亜鉛およびエチレンビスステアリン酸アミドは、本発明における気泡径肥大化剤として不適であることが判る。
【0152】
そして、実施例1〜11と比較例1〜12との対比から、本発明に係る製造方法によれば、優れた導電性と難燃性とを兼ね備えたポリプロピレン系樹脂発泡粒子およびポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体が得られることが判る。
【0153】
また、比較例2〜5の結果から、フタル酸ジブチル吸収量が300cm/100g以上、600cm/100g以下の範囲である導電性カーボンブラックの添加量が、11重量部以上、25重量部以下の範囲から外れる場合には、優れた導電性と難燃性とを兼ね備えたポリプロピレン系樹脂発泡粒子およびポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体が得られないことが判る。
【0154】
さらに、実施例1と比較例1との対比から、本発明によれば、難燃剤を用いなくてもポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の難燃性が向上することが判る。また、実施例1と比較例6との対比から、難燃剤を使用するよりも、気泡径肥大化剤を使用する方が、難燃性の向上に寄与することが判る。
【0155】
また、実施例5と比較例7との対比から、一般的に難燃剤として知られている化合物(物質)であっても、その種類や添加量によっては、難燃性を阻害する場合があることが判る。比較例7は、気泡径肥大化剤を添加しているにも拘らず、難燃剤の添加によって平均気泡径が小さくなり、その結果、全体として難燃性が低下したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、導電性および難燃性に優れることから、例えば、電子機器や精密機器の緩衝材やロボットラインのパーツトレイ、或いは、電波暗室や電子機器の放射ノイズ対策、電波反射防止対策等に用いられる電波吸収体等に好適に使用することができる。
図1
図2