(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明に係るパワーモジュールの実施の形態について説明する。なお、各図において同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。
【0011】
まず、
図1から
図3を用いて、第1の実施形態に係るパワーモジュールの構成について説明する。
【0012】
図1は、本実施例のパワーモジュール300の回路構成図である。パワーモジュール300は、上アーム回路を構成するIGBT328及びダイオード156と、下アーム回路を構成するIGBT330及びダイオード166と、から構成される。ここでIGBTとは、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタの略称である。バッテリーの正極側に接続し、パワー半導体素子のスイッチングで交流波形を作成する回路が上アーム回路であり、バッテリーの負極側又はGND側に接続し、交流波形を作成する回路が下アーム回路である。中性点接地をする場合は、下アーム回路は、GNDでなくコンデンサの負極側に接続する。
【0013】
パワーモジュール300は、導体板315、318、320及び319を備える。導体板315は、上アーム側のIGBT328のコレクタ側に接続される。導体板318は、上アーム側のIGBT328のエミッタ側に接続される。導体板320は、下アーム側のIGBT330のコレクタ側に接続される。導体板導体板319は、下アーム側のIGBT330のエミッタ側に接続される。
【0014】
パワーモジュール300は、端子315B、319B、320B、325U及び325Lを備える。端子315Bは、導体板315に接続される。端子315Bは、直流バッテリー又は平滑コンデンサの正極側に接続される。端子319Bは、導体板319に接続される。端子319Bは、直流バッテリー若しくは平滑コンデンサの負極側又はグラウンド(GND)に接続される。端子320Bは、導体板320に接続される。端子320Bは、モータに接続される。端子325Uは、上アーム側のIGBT328の制御端子である。端子325Lは、下アーム側のIGBT325の制御端子である。
【0015】
端子315Bに接続される導体板315は、直流電流を伝達する。端子319Bに接続される導体板319は、直流電流を伝達する。端子320Bに接続される導体板320は、交流電流を伝達する。
【0016】
図2は、本実施例のパワーモジュール300の構造を示す平面図である。IBGT328及びIGBT330は、各々のエミッタ面が同じ方向を向くように配置されている。
【0017】
図3は、
図2のパワーモジュール300を、A−B断面で切断したときの断面図である。パワーモジュール300は、放熱のためのフィンが形成された放熱面307を有する。放熱面307は、導体板320及び導体板315を挟んで、IGBT328、330、ダイオード156、166とは反対側に配置される。放熱面307は、導電性の部材より形成され、電圧の安定化のためGNDに接地される。
【0018】
また、パワーモジュール300は、中間導体910及び中間導体911を有する。中間導体910は、導体板320と放熱面307との間に配置される。中間導体911は、導体板315と放熱面307との間に配置される。中間導体910と導体板320の間、中間導体910と放熱面307の間、中間導体911と導体板315の間、及び中間導体911と放熱面307の間には、絶縁層900が形成される。
【0019】
本実施例のパワーモジュールにおいては、導体板320と中間導体910の配列方向に沿って投影した場合、中間導体910は、導体板320の射影部が当該中間導体910の射影部を包含するように、形成される。また、導体板315と中間導体911の配列方向に沿って投影した場合、中間導体911は、導体板319の射影部が当該中間導体911の射影部を包含するように、形成される。
【0020】
本実施例のパワーモジュールのように、上アーム回路と下アーム回路の2つのアーム回路を一体にモジュール化した構造を2in1構造という。2in1構造は、1つのアーム回路ごとにモジュール化する1in1構造に比べ、出力端子の数を低減することができる。本実施例では、2in1構造の例を示したが、3in1構造、4in1構造又は6in1構造等にすることにより、さらに端子数を低減することができる。2in1構造のパワーモジュールでは、上アーム回路と下アーム回路を並べ、絶縁層を介して金属平板と対向して配置することにより、磁界相殺効果で回路のインダクタンスを低減することができる。
【0021】
本実施例のパワーモジュールは、中間導体910を設けることにより、導体板320と放熱面307の間の電圧を、導体板320と中間導体910の間と中間導体910と放熱面307の間とに分担させる。これにより、本実施例のパワーモジュールは、絶縁性を満足しつつ、絶縁層厚を低減させることができる。その原理について、以下、
図4から
図13を用いて説明をする。
【0022】
図4は、絶縁層と電極間に空気層がある場合の電圧分担のモデルを示す図である。電極間には、空気層850と、絶縁層851とが形成されている。電極間の全体に印加する交流電圧をVとし、そのうち空気層に加わる電圧をV
1とすると、電圧Vは、次式で表される。ただし、C
eは空気層の容量を、C
fは絶縁層の容量を、ε
0は真空の誘電率を、εは絶縁層の比誘電率を、Sは電極面積を、d
eは空気層の厚さを、d
fは絶縁層の厚さを、それぞれ表す。
(数1) V=V
1・(C
e+C
f)/C
f=V
1・(d
f/(ε・d
e)+1)
(数2) C
e=ε
0・S/d
e
(数3) C
f=ε
0・ε・S/d
f
電極と絶縁層の間や、絶縁層内部において、ボイドや剥離による空気層が発生すると、電極に高電圧が印加されたときに部分放電が発生する。絶縁層は、常時部分放電する環境に晒されると、放電による火花で侵食され、耐久時間が著しく低下する。特に、樹脂製の絶縁体では、セラミックスに比べ耐熱性が低く、その影響が顕著となる。絶縁性を向上させるには、部分放電しない条件で使用をすることが有効である。
【0023】
また、放電現象は、直流電圧と交流電圧とで異なる。直流電圧下で、電極間に絶縁層がある場合、部分放電が発生する条件でも、1回放電した後は、絶縁層が帯電して空間の電界が低くなるため、放電は停止する。したがって、電圧を1回だけ放電するだけであるので、放電による絶縁層の劣化への影響は少ない。一方、交流電圧下では、絶縁層に加わる電圧は時間の経過で反転するため、放電が繰り返される。そのため、放電による絶縁層の劣化への影響が大きい。さらに、パワー半導体素子のスイッチングで交流波形を作る場合、サージ電圧が交流波形に重畳されるため、定格電圧よりも高い電圧が絶縁層に加わる。
【0024】
そのため、交流電圧が加わる絶縁層は、特に、部分放電が発生する環境に晒さないようにすることが重要である。部分放電を抑えるためには、電極間に空気層が存在しないよう絶縁体で完全に満たされるように製造し、かつ温度変化が加わる使用環境であってもその状態を維持できるようにするか、または、剥離等によって空気層が発生しても部分放電しないような絶縁層の厚さを設けるか、いずれかの手法が考えられる。本実施形態のパワーモジュールは、後者のアプローチを採るものである。
【0025】
図5を用いて、部分放電が発生する電圧について説明する。電極間に空隙がある場合、部分放電が開始する電圧は、気圧と電極間の空隙長の関数で示される事が、パッシェンによって示され、その後多くの研究者によって理論的、実験的に確認されている。
図5は、気圧pにおいて、電極間距離dの電極に電圧を印加した際に、部分放電が発生する電圧を、気圧pと電極間距離dの積との関係で示したグラフである。
図5は、20℃において測定したものである。部分放電発生電圧は、
図5に示されるように、気圧と電極間距離の積p・dがある値のときに最小値を持つ。つまり、部分放電発生電圧の最小値であるその電圧を超える電圧が電極間の空隙に印加されたとき、p・d積の値によっては部分放電が発生することになる。
【0026】
パッシェンの法則による圧力は気体の粒子密度に換算できるため、気体の状態方程式を用いて、任意の温度、圧力での部分放電開始電圧を求めることができる。このようにして求めた部分放電開始電圧を式(1)中のV
1に代入すると、気圧pと空気層の厚さd
eとの関係で、放電が発生する電極間電圧Vの最小値を算出することができる。そのようにして算出した最小部分放電電圧の値を絶縁層の厚さd
fに対してプロットしたグラフを
図6から
図8に示す。
【0027】
図6は、25℃、1atmでの最小部分放電電圧と絶縁層厚さd
fの関係を示す。絶縁層厚さd
fが厚くなると、電圧Vに対して絶縁層851が分担する電圧が高くなるため、空気層850が分担する電圧V
1が小さくなる。よって、絶縁層厚さd
fが大きくなるほど、最小部分放電開始電圧が高くなる。
【0028】
ここで注目すべき点は、絶縁層厚さd
fに対する最小部分放電電圧の関係が、比例ではない点である。すなわち、絶縁層厚さd
fが小さい領域におけるグラフの傾きが、絶縁層厚さd
fが大きい領域におけるグラフの傾きに比べて大きい。この特徴を利用することで、後述するように、絶縁性を確保しつつ、絶縁層厚の低減を実現することができる。また、
図6からは、同じ最小部分放電電圧においては、絶縁層851の誘電率が低いほど、その厚さd
fを小さくすることができることがわかる。
【0029】
図7は、25℃、絶縁層の比誘電率6での最小部分放電電圧と絶縁層厚さd
fの関係を示す。
図7からは、同じ最小部分放電電圧にするには、標高が高いほど、すなわち気圧が低いほど、絶縁層厚さを厚くする必要がある事がわかる。特に4000mを越えたあたりからこの影響が顕著となった。
【0030】
図8は、1atm、絶縁層の比誘電率6での最小部分放電電圧と絶縁層厚さd
fの関係を示す。
図8より、同じ最小部分放電電圧にするには、温度が高いほど、絶縁層厚さd
fを厚くする必要がある事がわかる。特に50℃を越えたあたりからこの影響が顕著となった。
【0031】
図9は、25℃、1atm、比誘電率6での最小部分放電電圧と絶縁層厚さd
fの関係を示す。
図9を用いて、部分放電を抑制しつつ、絶縁層851の総厚d
fを低減する原理について説明する。
【0032】
例えば、電極間に最大1.6kVpの電圧が加わる場合を考える。
図9より、絶縁層厚さd
fが330μmのときの最小部分放電電圧が1.6kVpであるため、剥離等により空隙が生じても、絶縁層が330μmより厚く形成されていれば、部分放電は発生しない。
【0033】
一方、電極間に加わる電圧が0.8kVpであるときは、絶縁層は80μmより厚ければ、部分放電は発生しない。これは、前述のように、最小部分放電電圧と絶縁層厚さd
fの関係は、比例関係ではなく、絶縁層厚d
fが小さい領域での傾きが大きく、絶縁層厚さd
fが大きくなるにつれて傾きが小さくなっていることによる。
【0034】
そこで、1.6kVpの電圧であっても、その電圧を0.8kVpと0.8kVpに2分割することで、それぞれ80μmより厚い絶縁層を設ければ放電を抑制することができる。これにより、1層だけだと330μm必要な絶縁層の総厚を、160μmに低減することができる。ここでは、2層の例を示したが、3層以上にする事でより薄肉化できる事は明らかである。絶縁層を薄肉化できれば、その分だけ熱抵抗が低減するため放熱性が向上する。さらに絶縁層が薄肉化する分、材料コストが低減できる効果がある。そこで続いて、パワーモジュールの絶縁層に加わる電圧を分割するための構造についてのモデルを、
図10から
図13を用いて説明をする。
【0035】
図10は、中間導体を有する絶縁層部分に交流電圧を加える実験系の模式図である。上述したように、
図3のパワーモジュールにおいて、導体板319には直流電流が流れるが、導体板320には交流電流が流れる。
図10は、交流電圧が加わるパワーモジュールの絶縁層における電圧分担モデルを表している。
図10の電極800は
図3の導体板320に、
図10の中間導体801は
図3の中間導体910に、
図10の電極802は
図3の放熱面307に、
図10の絶縁層810及び811は
図3の絶縁層900に、それぞれ対応する。
【0036】
発信器1001には、電極800及び801が接続される。中間導体801は、電極800と電極801の間に配置される。絶縁層810は、電極800と中間導体801の間に配置される。絶縁層811は、電極802と中間導体801の間に配置される。電極802は、GNDに接地される。中間導体801と電極802の間の電圧をV
2とし、電極800と電極802の間の電圧をV
3とすると、交流電圧を印加した場合の容量回路の電圧分担は以下の式で算出することができる。
(数4) V
2=V
3・C
a/(C
a+C
b)
(数5) C
a=ε
0・ε
a・S
a/d
a
(数6) C
b=ε
0・ε
b・S
b/d
b
ただし、C
aは電極800と中間導体801の間の容量を、C
bは中間導体801と電極802の間の容量を、ε
0は真空の誘電率を、ε
aは絶縁層810の比誘電率を、ε
bは絶縁層811の比誘電率を、S
aは電極800と中間導体801の配置方向における投影面が重なり合う面積を、S
bは中間導体801と電極802の配置方向における投影面が重なり合う面積を、d
aは絶縁層810の厚さを、d
bは絶縁層811の厚さを、それぞれ表す。
【0037】
ここで、電圧分担モデルの構造と絶縁層の材質を調整し、ε
a=ε
b、d
a=d
b、S
a=S
bとすることで、C
a=C
bとなる。このとき、式(4)より、V
2をV
3で除した電圧分担率は、50%となる。本モデルでは、C
a=C
bとなるようにした。
(数7) V
2/V
3=50%
図11は、
図10の発信器1001の周波数を変化させたときの電圧分担率V
2/V
3を示すグラフである。電圧分担率は、中間導体801及び電極802間の電圧V
1と、電極800及び電極802間の電圧V
2とを、カーブトレーサ1000により測定することで、求めた。
【0038】
図11より、電極800及び電極802間に加わる電圧の周波数が高くなるにつれ、電圧分担率が50%に近づく傾向が見られる。電圧分担率は、周波数が100Hzを超えると、ほぼ50%となる。このような傾向は、正弦波及び矩形波でも同様であった。
【0039】
本モデルの結果からは、100Hz以上の交流電圧が加わる電極間の絶縁層中に、中間導体を設けることで、容量に応じて絶縁層に加わる電圧を分担することができることが分かる。
【0040】
なお、ここではモデル評価のため、中間導体801から電流を出力したが、実際のパワーモジュールにおいては、中間導体から電流を取り出す必要がない。そのため、中間導体を絶縁層内に埋設することができる。中間導体を絶縁層に埋設すると、中間導体の端面が電極と近接するのを防止でき、端面からの放電を防止することができる。
【0041】
中間導体を絶縁層に埋設する場合、中間導体の上下層に同じ材質の絶縁層を用い、中間導体の外形寸法を対向するいずれかの電極にサイズを合わせると、他方の電極とはサイズが異なっても、中間導体の両側の容量を同等することができる。この場合、完全に同等に合わせる事は実質困難なので、位置合わせや寸法交差を考慮して、中間導体の方が、面積が小さい側の電極より若干大きい事が望ましい。これは、中間導体の方が小さいと、電圧が分担されない部分が生じ、剥離により部分放電する場合があるためである。本実施形態のパワーモジュールでは、導体板320及び315の面積よりわずかに面積が大きい中間導体910及び911を有する。
【0042】
なお、直流側の中間導体910は、後述する理由で、導体板315のサイズに制約されず、導体板より大きくしても、小さくしても良い。また、省略する事もできる。
【0043】
上下アーム回路をモジュール化した2in1モジュール構造を有する本実施形態のパワーモジュールでは、直流電流を伝達する導体板と、交流電流を伝達する導体板とを有する。そのため、導電性の放熱面と導体板の間に配置される絶縁層には、直流電圧が加わる部分と、交流電圧が加わる部分とが存在する。
図3のパワーモジュールでは、導体板320と放熱面307の間には交流電圧が加わり、導体板315と放熱面307の間には直流電圧が加わる。
【0044】
本実施例のパワーモジュールは、交流電圧が加わる側の絶縁層中に中間導体910を設け、直流電圧が加わる側の絶縁層中に中間導体911を設けている。そして、中間導体910と中間導体911とは、電気的に独立して配置される。このとき、交流電圧が加わる導体板320と放熱面307との間には、中間導体910が配置されることにより、各導体間に形成される容量に応じた電圧分担が生じる。その結果、
図9で示した原理により、所定の耐圧を得る絶縁層の厚さを低減することができる。
【0045】
一方、直流電圧が加わる導体板315と放熱面307との間には、中間導体を配置しても、電圧分担は生じない。これは、直流電圧の周波数が0であるためである。
【0046】
続いて、比較例として、
図12及び
図13を用いて、中間導体910と中間導体911とが電気的に接続している場合の電圧分担について説明する。
【0047】
図12は、直流導体を有する絶縁層部分に直流電圧及び交流電圧を加える実験系の模式図である。
図12の電極802は
図3の放熱面307に、
図12の電極803は
図3の導体板320に、
図12の電極804は
図3の導体板315に、
図12の絶縁層810及び811は
図3の絶縁層900に、それぞれ対応する。
図12の中間導体801は、
図3の中間導体910及び911を電気的に接続したものに相当する。
【0048】
発信器1001には、電極803及び電極802が接続される。直流電源1002には、電極804及び電極802が接続される。中間導体801は、絶縁層810を挟んで電極803と対向するとともに、同じく絶縁層810を挟んで電極804と対向するように、配置される。また、中間導体801は、絶縁層811を挟んで電極802と対向して、配置される。電極802は、GNDに接地される。中間導体801と電極802の間の電圧をV
4とし、電極803と電極802の間の電圧をV
5とする。電源回路1002を介して電極804と中間導体801の間の容量が、中間導体801と電極802の間の容量に並列に加わるため、交流電圧を印加した場合の容量回路の電圧分担は以下の式で表される。
(数8) V
4=V
5・C
c/(C
c+C
d+C
e)
(数9) C
c=ε
0・ε
c・S
c/d
c
(数10) C
d=ε
0・ε
d・S
d/d
d
(数11) C
e=ε
0・ε
e・S
e/d
e
ただし、C
cは交流側電極803と中間導体801の間の容量を、C
dは直流側電極804と中間導体801の間の容量を、C
eは中間導体801と電極802の間の容量を、ε
0は真空の誘電率を、ε
cは交流側電極803と中間導体801の間の絶縁層の比誘電率を、ε
dは直流側電極804と中間導体801の間の絶縁層の比誘電率を、ε
eは中間導体801と電極802の間の絶縁層の比誘電率を、S
cは交流側電極803と中間導体801の配置方向における投影面が重なり合う面積を、S
dは直流側電極804と中間導体801の配置方向における投影面が重なり合う面積を、S
eは中間導体801と電極802の配置方向における投影面が重なり合う面積を、d
cは交流側電極803と中間導体801の間の絶縁層の厚さ、d
dは直流側電極804と中間導体801の間の絶縁層の厚さを、d
eは中間導体801と電極802の間の絶縁層の厚さを、それぞれ表す。
【0049】
ここで、容量が2.1C
C=2.1C
d=C
eとなるよう作製し、V
4をV
5で除した電圧分担率(%)を算出すると下記となる。
(数12) V
4/V
5≒24.4%
図13は、
図12の発信器1001の周波数を変化させたときの電圧分担率V
4/V
5を示すグラフである。電圧分担率は、中間導体801及び電極802間の電圧V
4と、電極803及び電極802間の電圧V
5とを、カーブトレーサ1000により測定することで、求めた。
【0050】
図13より、電極803及び電極802間に加わる電圧の周波数が高くなるにつれ、電圧分担率が24.4%に近づく傾向が見られる。電圧分担率は、周波数が100Hzを超えると、計算値と等しいほぼ24.4%となる。このような傾向は、正弦波及び矩形波でも同様であった。
【0051】
本モデルの結果から、交流側と直流側の中間導体が連結していると、交流電圧を電圧分担した際、電極803と中間導体801間に高い電圧が加わることが分かる。これは、中間導体801と電極802間の容量C
eに、電源経路を介して、電極804と中間導体801間の容量C
dが並列で加わるためである。
【0052】
このとき、電圧分担率が高い電極803と中間導体801の間において、部分放電が発生しないように、絶縁層厚を大きくしなければならない。
図9からは、1.6kVpの75%の電圧である1.2kVpの電圧が加わる場合には、絶縁層を190μmより厚くしなければならないことが分かる。前述の通り、1.6kVpの電圧を0.8kVpと0.8kVpに均等に分担した場合には、放電を抑制するのに必要な絶縁層厚は160μmであるので、電圧分担する片側だけでこの厚さを超えてしまう。
【0053】
また、絶縁層に加わる交流電圧を均等に分担させるようにする場合は、絶縁層の比誘電率や中間導体の上下層の絶縁層厚さを調整し次式を満足する必要がある。
(数13) C
c/(C
c+C
d+C
e)≒0.5
すなわち、次式を満足する必要がある。
(数14) C
c≒C
d+C
e
S
dやS
eを小さくする場合、放熱性が低下する弊害がある。また、比誘電率で対応する場合、比誘電率は材料起因であり、大幅に変更する事が難しいため対応できる幅が制限される。このため、絶縁層厚さで対応する事が望ましい。しかし、C
cを構成する絶縁層の厚さを0.8kVpの電圧で部分放電しない80μmより大きくし、かつ上式を満足するようにするためには、絶縁層の総厚は、160μmより小さくすることはできない。
【0054】
また、パワーモジュールと電源までの経路には、平滑コンデンサや、バスバーと筺体の寄生容量が存在する。これらの容量も重畳するため、パワーモジュール単独では絶縁層の設計が困難となる。
【0055】
したがって、2in1構造のパワーモジュールでは、中間導体を直流側と交流側で電気的に分離して配置することで、絶縁層の薄層化を達成することができる。
【0056】
また、直流電圧が加わる側の中間導体は省略しても絶縁層に印加される電圧に変化は生じないため、直流側の中間導体を省略することも有効である。しかし、直流側にも中間導体を設けると絶縁層に対して熱伝導率が高い中間導体の層を有する事で熱を拡散し放熱性が向上することができる。
【0057】
また、絶縁層が絶縁シート等の接着性の材料の場合、直流側と交流側に同じ厚さの中間導体を設ける事で、圧着時の荷重を均等化し均一な圧着面を形成することができる。
【0058】
図14及び
図15を用いて、第2の実施形態に係るパワーモジュールについて説明する。実施例2のパワーモジュールは、実施例1のパワーモジュールの変形例を示す。
図14は平面図であり、
図15は、
図14のC−D断面で切断した断面図である。
【0059】
本実施形態では、パワー半導体素子のエミッタ側の電極をワイヤで接続している。そして、下アーム側IGBT330のコレクタ側に接続される導体板320と、上アーム側IGBT328のエミッタ面とは、中間電極390を介して接続される。中間電極390は、導体板320及び315と同様に、絶縁層900を介して放熱面307と対向するように、配置される。中間電極390と放熱面307の間には、中間導体912が配置される。中間導体912は、中間導体910及び911と同様に、絶縁層900中に埋設される。
【0060】
中間電極390は、導体板320と同様に、交流電圧が加わるため、中間導体912により電圧分担することができる。
【0061】
図16ないし
図20を用いて、第3の実施形態に係るパワーモジュールについて説明する。
【0062】
図16(a)は、本実施形態のパワーモジュールの斜視図であり、
図16(b)は、
図16(a)におけるE−F断面で切断したときの断面図である。本実施形態のパワーモジュール300は、CAN型冷却器である冷却体304にパワー半導体素子を収納した両面冷却構造である。冷却体304は、放熱フィン305が形成される第一放熱面307A及び第二放熱面307B、放熱面と枠体を接続する薄肉部304A、フランジ部304Bを有する。有底筒型形状に形成される冷却体304の挿入口306からパワー半導体素子や導体板からなる回路体を挿入し、封止材351で封止してパワーモジュール300を形成する。本実施形態のパワーモジュールは、パワー半導体素子が第一放熱面307A及び第二放熱面307Bの両面から冷却されるため、放熱性に優れる。
【0063】
図17は、
図16(a)のG−H断面で切断したときの断面の模式図である。本実施形態のパワーモジュール300は、パワー半導体素子の一方側に配置される絶縁層において中間導体910及び911を有する。そして、パワーモジュール300は、パワー半導体素子の前記一方側とは反対側の他方側に配置される絶縁層において中間導体913及び914を有する。中間導体910は、交流電圧が加わる導体板320と放熱面307Aの間に配置される。中間導体911は、直流電圧が加わる導体板315と放熱面307Aの間に配置される。中間導体913は、交流電圧が加わる導体板318と放熱面307Bの間に配置される。中間導体914は、直流電圧が加わる導体板319と放熱面307Bの間に配置される。
【0064】
そして、各中間導体は、容量回路C1ないしC8を形成する。容量C1は、導体板315と中間導体911の間の容量である。容量C2は、中間導体911と放熱面307Aの間の容量である。容量C3は、導体板318と中間導体913の間の容量である。容量C4は、中間導体913と放熱面307Bの間の容量である。容量C5は、導体板320と中間導体910の間の容量である。容量C6は、中間導体910と放熱面307Aの間の容量である。容量C7は、導体板319と中間導体914の間の容量である。容量C8は、中間導体914と放熱面307Bの間の容量である。ただし、直流電圧が加わる導体板315と放熱面307Aの間の容量C1、C2及び導体板319と放熱面307Bの間のC8、C9は、直流電圧が変化したときのみ容量回路が形成される。
【0065】
図18は、本実施形態のパワーモジュールにおける中間導体の配置を説明するための展開図である。説明のため、一部の構成のみを図中に示している。
【0066】
図19は、容量C1ないしC8をパワーモジュールの回路図に示した図である。容量C1、C2、C8及びC7は直流電圧が加わる部分である。よって、当該部分の中間導体911及び914は、省略する事ができる。容量C3、C4、C5及びC6は交流電圧が加わる部分である。よって、当該部分の中間導体910及び913は、絶縁層に加わる電圧を分担することができる。
【0067】
本実施形態のパワーモジュールは、冷却性に優れた両面冷却構造のパワーモジュールにおいて、絶縁層に中間導体構造を設けることで、絶縁層が薄肉化でき、より放熱性に優れた高耐圧のパワーモジュールを得る事ができる。
【0068】
図20(a)及び
図20(b)を用いて、本実施形態のパワーモジュールにおけるインダクタンス低減について説明する。
図20(a)は、本実施形態のパワーモジュール300の回路図である。
図20(b)は、パワーモジュール300の展開図である。
【0069】
下アーム側のダイオード166が順方向バイアス状態で導通している状態とする。この状態で、上アーム側のIGBT328がON状態になると、下アーム側のダイオード166が逆方向バイアスとなりキャリア移動に起因するリカバリ電流が上下アームを貫通する。このとき、各導体板315、3318、320及び319には、
図20(b)に示されるリカバリ電流360が流れる。リカバリ電流360は、直流負極端子319Bと対向して配置された直流正極端子315Bを流れる。続いて、各導体板315、318、320、319により形成されるループ形状の経路を流れる。そして、直流負極端子319Bを流れる。
【0070】
ループ形状経路を電流が流れることによって、冷却器304の第1放熱面307A及び第2放熱面307Bに渦電流361が流れる。この渦電流361の電流経路に等価回路362が発生する磁界相殺効果によって、ループ形状経路における配線インダクタンス363が低減する。なお、リカバリ電流360の電流経路がループ形状に近いほど、インダクタンス低減作用が増大する。このように上アーム回路と下アーム回路を1セットでモジュール化した2in1構造とする事で磁界相殺効果によってインダクタンスを低減することができる。これは、4in1、6in1と増やしても同じ効果を持たせることができる。
【0071】
図21を用いて、第4の実施形態に係るパワーモジュールについて説明する。
【0072】
図21は、本実施形態のパワーモジュールの断面図である。実施例3のパワーモジュールについての
図17に相当する。実施例3からの変更点は、中間導体の数を増やした点である。
【0073】
中間導体910aおよび910bは、交流電圧が加わる導体板320と放熱面307Aの間に配置される。中間導体911a及び911bは、直流電圧が加わる導体板315と放熱面307Aの間に配置される。中間導体913a及び913bは、交流電圧が加わる導体板318と放熱面307Bの間に配置される。中間導体914a及び914bは、直流電圧が加わる導体板319と放熱面307Bの間に配置される。
【0074】
そして、各中間導体は、容量回路C1ないしC12を形成する。容量C1は、導体板315と中間導体911aの間の容量である。容量C2は、中間導体911aと中間導体911bの間の容量である。容量C3は、中間導体911bと放熱面307Aの間の容量である。容量C4は、導体板318と中間導体913aの間の容量である。容量C5は、中間導体913aと中間導体913bの間の容量である。容量C6は、中間導体913bと放熱面307Bの間の容量である。容量C7は、導体板320と中間導体910aの間の容量である。容量C8は、中間導体910aと中間導体910bの間の容量である。容量C9は、中間導体910bと放熱面307Aの間の容量である。容量C10は、導体板319と中間導体914aの間の容量である。容量C11は、中間導体914aと中間導体914bの間の容量である。容量C12は、中間導体914bと放熱面307Bの間の容量である。ただし、直流電圧が加わる導体板315と放熱面307Aの間の容量C1、C2、C3及び導体板319と放熱面307Bの間のC10、C11、C12は、直流電圧が変化したときのみ容量回路が形成される。
【0075】
本実施例のパワーモジュールでは、絶縁層に加わる電圧を3つに分担することができるため、より絶縁層の総厚を薄くすることができる。
【0076】
図22は、中間導体を有する絶縁層を作製する手順を示す図である。(1)銅箔をプレスで打ち抜く。銅箔の厚さは、例えば6μmのものを用いることができる。また、ここでは銅箔の例を示しているが、金属箔であれば銅箔でなくてもよい。(2)銅箔の表裏面に絶縁シートをプレスで圧着する。(3)金型で打ち抜く位置を設定する。(4)金型で打ち抜く。
【0077】
このように作製する事で、複数のシートを一括して作製する事ができる。この場合、複数の中間導体をサポートしている導体の切断面は、絶縁シートから露出することになる。この端面が電極と近接しないように導体が露出する切断面は、圧着する電極に対してシート長に余裕を持たせておくことで、中間導体端面からの放電を防止する事ができる。
【0078】
図23は、中間導体を有する絶縁層を作成する手順の変形例を示す図である。(1)絶縁シートを用意する。(2)中間導体形成部をくり抜いたマスキングを通して、アルミ蒸着でアルミ皮膜を絶縁シートに形成する。蒸着で形成したアルミ皮膜が内部になるように、パターン形成していない絶縁シートをプレスする。アルミ皮膜の厚さは、例えば0.1μmとすることができる。また、ここではアルミ蒸着の例を示したが、導電性材料であればアルミ皮膜でなくてもよい。また、ここでは蒸着の例を示したが、マスキングして導電材料を形成できる形成方法であれば、印刷等による方法でも良い。(3)金型で打ち抜く位置を設定する。(4)金型で打ち抜く。
【0079】
このように作製する事で、薄い中間導体を形成する事ができる。薄い中間導体層を有する絶縁シートとすることで、絶縁シートを圧着する時に中間導体の段差による圧着圧力の不均一が生じるのを低減し、均一な圧着面を形成することができる。
【0080】
図24ないし
図26を用いて、本発明のパワーモジュールを組み込んだ電力変換装置及び車両システムの構成例を説明する。
図24は、電力変換装置の回路図を示す。
【0081】
電力変換装置200は、インバータ回路部140、142と、補機用のインバータ回路部43と、コンデンサモジュール500と、を備えている。インバータ回路部140及び142は、パワーモジュール300を複数備えており、それらを接続することにより3相ブリッジ回路を構成している。電流容量が大きい場合には、更にパワーモジュール300を並列接続し、これら並列接続を3相インバータ回路の各相に対応して行うことにより、電流容量の増大に対応できる。また、パワーモジュール300に内蔵しているパワー半導体素子を並列接続することでも電流容量の増大に対応できる。
【0082】
インバータ回路部140とインバータ回路部142とは、基本的な回路構成は同じであり、制御方法や動作も基本的には同じである。ここでは代表してインバータ回路部140を例に説明する。インバータ回路部140は、3相ブリッジ回路を基本構成として備えている。具体的には、U相(符号U1で示す)やV相(符号V1で示す)やW相(符号W1で示す)として動作するそれぞれのアーム回路が、直流電力を送電する正極側および負極側の導体にそれぞれ並列に接続されている。なお、インバータ回路部142のU相、V相およびW相として動作するそれぞれのアーム回路を、インバータ回路部140の場合と同様に、符号U2、V2およびW2で示す。
【0083】
各相のアーム回路は、上アーム回路と下アーム回路とが直列に接続した上下アーム直列回路で構成されている。各相の上アーム回路は正極側の導体にそれぞれ接続され、各相の下アーム回路は負極側の導体にそれぞれ接続されている。上アーム回路と下アーム回路の接続部には、それぞれ交流電力が発生する。各上下アーム直列回路の上アーム回路と下アーム回路の接続部は、各パワーモジュール300の交流端子320Bに接続されている。各パワーモジュール300の交流端子320Bはそれぞれ電力変換装置200の交流出力端子に接続され、発生した交流電力はモータジェネレータ192あるいは194の固定子巻線に供給される。各相の各パワーモジュール300は基本的に同じ構造であり、動作も基本的に同じであるので、代表してパワーモジュール300のU相(U1)について説明する。
【0084】
上アーム回路は、スイッチング用のパワー半導体素子として上アーム用IGBT328と上アーム用ダイオード156とを備えている。また、下アーム回路は、スイッチング用のパワー半導体素子として下アーム用IGBT330と下アーム用ダイオード166とを備えている。各上下アーム直列回路の直流正極端子315Bおよび直流負極端子319Bは、コンデンサモジュール500のコンデンサ接続用直流端子にそれぞれ接続される。交流端子320Bから出力される交流電力は、モータジェネレータ192、194に供給される。
【0085】
IGBT328、330は、ドライバ回路174を構成する2つのドライバ回路の一方あるいは他方から出力された駆動信号を受けてスイッチング動作し、バッテリー136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。変換された電力は、モータジェネレータ192の固定子巻線に供給される。なお、V相およびW相については、U相と略同じ回路構成となるので、符号328、330、156、166の表示を省略している。インバータ回路部142のパワーモジュール300は、インバータ回路部140の場合と同様の構成であり、また、補機用のインバータ回路部43はインバータ回路部142と同様の構成を有しており、ここでは説明を省略する。
【0086】
スイッチング用のパワー半導体素子について、上アーム用IGBT328および下アーム用IGBT330を用いて説明する。上アーム用IGBT328や下アーム用IGBT330は、コレクタ電極、エミッタ電極(信号用エミッタ電極端子)、ゲート電極(ゲート電極端子)を備えている。上アーム用IGBT328や下アーム用IGBT330のコレクタ電極とエミッタ電極との間には、上アーム用ダイオード156や下アーム用ダイオード166が図示のように電気的に接続されている。
【0087】
上アーム用ダイオード156や下アーム用ダイオード166は、カソード電極およびアノード電極の2つの電極を備えている。上アーム用IGBT328や下アーム用IGBT330のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、ダイオード156、166のカソード電極がIGBT328、330のコレクタ電極に、アノード電極がIGBT328、330のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。なお、パワー半導体素子としてはMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いても良く、この場合は上アーム用ダイオード156、下アーム用ダイオード166は不要となる。
【0088】
上下アーム直列回路に設けられた温度センサ(不図示)からは、上下アーム直列回路の温度情報がマイコンに入力される。また、マイコンには上下アーム直列回路の直流正極側の電圧情報が入力される。マイコンは、それらの情報に基づいて過温度検知および過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全ての上アーム用IGBT328、下アーム用IGBT330のスイッチング動作を停止させ、上下アーム直列回路を過温度或いは過電圧から保護する。
【0089】
図25は電力変換装置200の外観を示す斜視図である。本実施の形態に係る電力変化装置200の外観は、上面あるいは底面が略長方形の筐体12と、筐体12の短辺側の外周の一つに設けられた上部ケース10と、筐体12の下部開口を塞ぐための下部ケース16とを固定して形成されたものである。筐体12の底面図あるいは上面図の形状を略長方形としたことで、車両への取付けが容易となり、また生産しやすい。
【0090】
図26は、電力変換装置を搭載したハイブリッド自動車の制御ブロック図を示す。ハイブリッド自動車(HEV)110は2つの車両駆動用システムを備えている。1つはエンジン120を動力源としたエンジン駆動システムで、もう1つはモータジェネレータ192、194を動力源とする回転電機駆動システムである。本発明の電力変換装置200は、バッテリー136、モータジェネレータ192、194、補機用モータ195間で、直流、交流の電力変換を行い車両の走行状態に応じて、モータへの駆動電力の供給や、モータからの電力回生を最適に制御し燃費の向上に貢献している。