(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200899
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】フィルター付きカソードアーク堆積装置および方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/32 20060101AFI20170911BHJP
【FI】
C23C14/32 A
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-545191(P2014-545191)
(86)(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公表番号】特表2015-503030(P2015-503030A)
(43)【公表日】2015年1月29日
(86)【国際出願番号】EP2012074147
(87)【国際公開番号】WO2013083495
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2015年11月5日
(31)【優先権主張番号】11191978.3
(32)【優先日】2011年12月5日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506352212
【氏名又は名称】プラティット・アー・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(74)【代理人】
【識別番号】100179154
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 真衣
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100184424
【弁理士】
【氏名又は名称】増屋 徹
(72)【発明者】
【氏名】イーレク,モイミール,シニア
(72)【発明者】
【氏名】イーレク,モイミール,ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】コデット,オリヴィエ
【審査官】
宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2004/0103845(US,A1)
【文献】
特開平01−234562(JP,A)
【文献】
特開2010−059544(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/134892(WO,A1)
【文献】
特開2003−193219(JP,A)
【文献】
特開2001−059165(JP,A)
【文献】
特開2006−117978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空コーティングチャンバ(2)と、
前記真空コーティングチャンバ(2)内に配置された基板ホルダー(1)と、
電源(12)の負極に接続され、実質的に円筒形状を有する少なくとも1つの消耗可能なアークカソードと、
前記電源(12)の正極に接続され、前記アークカソードに関連付けられた少なくとも1つのアノード(10)と、
前記アークカソードと前記基板ホルダー(1)との間に配置され、磁場を生成するための少なくとも1つの水冷式電磁コイル(8)と、
を備える、真空中で基板上に被覆を施すためのフィルター付きカソード真空アーク堆積装置において、
前記アークカソードは、回転式アークカソードであり、前記回転式アークカソードがその外側シリンダジャケット上で消耗可能に構成され、
前記水冷式電磁コイル(8)は、細長いドーナツ形状であり、前記水冷式電磁コイル(8)の前記磁場の強度が最も高い中央部は、前記回転式アークカソードの軸と実質的に平行になるように配置され、
前記水冷式電磁コイル(8)によって生成された磁力線(17)は、前記回転式アークカソードと前記基板ホルダー(1)との間の空間で実質的に収縮し、
前記アノード(10)は、アーク放電が前記回転式アークカソードから前記水冷式電磁コイル(8)を通って前記アノード(10)まで燃えるように、配置されていることを特徴とするフィルター付きカソード真空アーク堆積装置。
【請求項2】
前記水冷式電磁コイル(8)の内側には、マクロ粒子を反射するバッフル(9)が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のフィルター付きカソード真空アーク堆積装置。
【請求項3】
前記水冷式電磁コイル(8)は、前記回転式アークカソードの回転軸に沿って移動可能であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフィルター付きカソード真空アーク堆積装置。
【請求項4】
前記磁場と反対向きの追加の磁場ソース(6)は、前記回転式アークカソード内に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフィルター付きカソード真空アーク堆積装置。
【請求項5】
前記追加の磁場ソース(6)の少なくとも一部は、前記回転式アークカソードの前記回転軸に沿って移動可能な強磁性のコア(7)であることを特徴とする請求項4に記載のフィルター付きカソード真空アーク堆積装置。
【請求項6】
追加のアノード(24)は、前記回転式アークカソードと前記水冷式電磁コイル(8)との間に配置され、
前記電源(12)によって生成されたアーク電流が、前記追加のアノード(24)と前記アノード(10)とに分割され、
前記追加のアノード(24)に対して燃えるアーク電流と、前記アノード(10)に対して燃えるアーク電流とのアーク電流比が、0.1〜10の範囲にあることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のフィルター付きカソード真空アーク堆積装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のフィルター付きカソード真空アーク堆積装置において、前記基板上にアークスポット速度の低い材料のコーティングを施すための方法において、
フィルター付きカソード真空アーク堆積装置は、
アークスポットが、前記回転式アークカソードの第1の端部および第2の端部のそれぞれ達したときに、プラズマチャネルによって占有される場所に位置する2つのアークセンサ(19、20)を、さらに備えており、
前記方法は、
前記消耗可能な回転式アークカソードの第1の端部における前記回転式アークカソードと、関連付けられたアノード(10)との間でアークを発生させ、前記磁力線(17)が前記回転式アークカソードの表面、すなわち前記外側シリンダジャケットに実質的に垂直(22)な場所であり、前記アークスポットが移動している場所の近くでプラズマを生成するステップと、
前記回転式アークカソードの回転(16)によって、前記アークスポットを、前記磁力線(17)が前記回転式アークカソードの外側シリンダジャケットに垂直に前記回転式アークカソードに入っている前記場所から、前記ターゲットを回転させることによって前記回転式アークカソードの外側シリンダジャケットに接するより高い磁場成分の場所へシフトさせ、それによって、前記アークスポットの前記移動を、前記回転式アークカソードの前記回転軸の方向に前記回転式アークカソードの外側シリンダジャケット上で加速させるステップと、
前記アークスポットが、消耗可能な前記回転式アークカソードの第2の端部に達したときに、
アークのスイッチを切り、再点火する処置、
または、前記アークスポットの移動方向を逆転させる処置
のいずれかがとられるステップであって、
前記アークの位置が、前記センサによって評価される、ステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記アークスポットの移動方向が、前記回転式アークカソード(16)の回転方向を変更することによって逆転されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アークスポットの移動方向が、前記水冷式電磁コイル電流(26)の向きを変更することによって逆転されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
効率的なイオン輸送およびマクロ粒子フィルタリングが望まれるフィルター付きカソードアーク堆積方法および装置に関する。
【0002】
本発明は、カソードアーク堆積方法および装置に関する。より詳細には、蒸発材料の凝結を介して基板の表面にコーティングを施すための導電性材料のプラズマを生成するカソードアーク堆積方法および装置に関する。原料材料のマクロ粒子をイオン流から分離するための手段を含むこの装置は、切断工具、成形工具および機械部品などの上に高品質の耐摩耗性のコーティングを形成するために使用されうる。
【背景技術】
【0003】
カソードアーク堆積は、主として、真空チャンバ中でアーク放電によって蒸発ソース(カソード)から膜形成材料の気体放出を発生させること、およびこの気体を負バイアス電圧が印加された状態の基板上に堆積することを含む。アーク放電が集束する1つまたは複数のアークスポットは、蒸発ソースの表面上に形成され、この蒸発ソースがアーク放電回路におけるカソードである。通常のアーク電流は、15〜50ボルトの電圧で50〜500アンペアの範囲にある。アークプラズマ放電は、アークによるターゲット材料の蒸発、およびイオン化によって生成されたプラズマを介してカソードとアノード間に電流を通す。ターゲットは、少なくとも0.01パスカルの通常のバックグラウンド圧力にまで排気された真空チャンバ中で低電圧アークプラズマ放電によって蒸発する。カソード(陰極)は、電気的に絶縁されたソース構造体であり、この構造体が処理中に少なくとも一部消耗される。カソードの消耗可能な部分は、「ターゲット」と呼ばれ、カソード本体と呼ばれる冷却された非消耗性要素にクランプされる置き換え可能な要素として作製される。アノード(陽極)は、真空チャンバ中の電気的に絶縁された構造体であってもよく、または真空チャンバそのものであってもよく、処理中に消耗されない。
【0004】
アークスポットから、イオン、中性原子、原料材料のマクロ粒子、および電子がアークスポットにおける高温のためにビームの状態で放出される。これらのイオン化された粒子は、好ましくはカソードターゲット表面に対して垂直に放出される。放出された電子とともにプラズマを形成する原料材料のイオンは、膜堆積における最も重要な種である。カソードアーク堆積の1つの特徴は、入射する蒸発したイオンのエネルギーが、優れた硬さおよび耐摩耗性を有する高密度の膜を生成するのに十分に高いことである。カーボン蒸発の場合、Deckerの米国特許第5,799,549号によると、この発明は、剃刀刃の非常に薄い刃先上に高アスペクト比の非常に固い剛性のコーティングを形成するのに特に有用である。それだけではなく、本技法の迅速な膜形成および高い生産性は、産業的に適用されてきた。
【0005】
アークスポットにおけるターゲット材料の蒸発の望ましくない副作用は、溶けたターゲット材料の液滴が生成されることであり、この液滴は、アークスポットにおける気体の膨張による反力によってターゲットから放出される。しばしばマクロ粒子と呼ばれるこれらの液滴は、通常、直径がサブミクロン〜数十ミクロンの範囲にある。液滴は、コーティングされる基板上に液滴が到達したとき、しばしばコーティングに埋め込まれるような速度でカソード表面から外方向に飛び出す。したがって、カソードアークコーティングは、基板表面に付着する、または孔を残すマクロ粒子でしばしば汚染され、このマクロ粒子は、一旦くっつくと、それ以降除去されない。付着するマクロ粒子は、コーティングされた加工品と接触相手との間の摩擦係数を増加させる。その結果、ソフトなマクロ粒子は、孔を残し、これらの孔は、腐食が始まるまたはクラックが伝播する部位を意味する。
【0006】
したがって、マクロ粒子の堆積を防ぎまたは低減し、一方で基板表面上に均一に付着するカーボンまたは金属化合物コーティングを形成するための工業的方法および装置が引き続き大いに必要である。
【0007】
コーティングに取り込まれるマクロ粒子の数を減少させるために様々な方策が開発された。一般的に2つの異なる方策があり、すなわち、アークを制御し加速するためにある形態の電磁場を使用し、こうしてマクロ粒子の生成を低減する第1のカテゴリーの装置、およびイオン化された一部分を基板に透過させるが、溶けた液滴をブロックするためにカソードソースと基板との間にフィルタリング装置を使用する第2のカテゴリーである。従来、プラズマ流を誘導するまたは偏向する電磁場を使用するフィルター装置が構築されることがあった。
【0008】
マクロ粒子は、中性なので、マクロ粒子は、電磁場によって影響を受けない。そのため、フィルタリング方法は、カソードターゲット表面を見通し線から外して基板を配置することによって効果的に働き、その結果、マクロ粒子は基板に直接到達せず、一方アークスポット加速方法は、一般に、より単純であるが、完全にはマクロ粒子の存在がなくなるわけではない。第2のカテゴリーによるフィルター装置は、カソードチャンバとコーティングチャンバとの間にプラズマ角度付けフィルタリングダクトを設けることができ、基板ホルダーがプラズマソースの光軸から外れて据え付けられている。装置のまわりの集束および偏向電磁場は、このように基板に向けてプラズマ流を誘導するが、電磁場によって影響を受けないマクロ粒子は、カソードから直線状に進み続ける。しかし、マクロ粒子がダクト中でバッフルからはね返ることによって、マクロ粒子の一部がフィルターを通り抜けて透過し基板に達する場合がある。チャンバ内の、マクロ粒子ファイアウォールとも呼ばれるバッフルは、Andersの米国特許第2009/0065350A1号において言及されているように、アークソースおよびフィルター領域から発する中性粒子を物理的にブロックする。
【0009】
第1のカテゴリーのアークスポット加速方法は、フィルター方法よりも概して単純であるが、完全にはマクロ粒子の発生がなくなるわけではない。フィルタリング方法は、一般に、より効果的な場合があるが、この方法は、装置をさらに複雑にし、その歩留まりを途方もなく低下させる。放出された粒子のうちの帯電しイオン化された一部分を透過させ、中性粒子をブロックするように、ある種のフィルタリング装置をカソードソースと基板との間に使用することによって基板上のコーティングに取り込まれるマクロ粒子の数を低減する取り組みの例を以下に示す。
【0010】
別の例は、Gorokhovskyによる米国特許第5,435,900号および米国特許第2004/103845A1号「Filtered Cathodic Arc Deposition Method And Apparatus」に述べられ、例示されている。この機械的なフィルタリング機構は、プラズマ流の進路を基板に向かうプラズマソースの光軸から外して変え、カソードの光軸に沿って全体的に配置されたバッフルにマクロ粒子をトラップすることによってマクロ粒子をトラップする。しかし、ターゲット材料から基板ホルダーまでを直接見通す線はない。このため、この装置は、偏向磁気システムによって囲まれたプラズマダクト、プラズマソース、およびプラズマソースの光軸から外してコーティングチャンバ内に取り付けられた基板ホルダーを組み込み、プラズマソースおよび基板ホルダーが集束電磁石によって囲まれている。しかし、荷電粒子の相当部分が確実に基板に達するには、ターゲット材料と基板ホルダーとの間の距離が大きすぎる。本発明の装置では、この距離を最小化してこの問題を克服し、システムの歩留まりを改善した。また、本発明の装置は、上で言及した特許において提案されているような固定された平坦なカソードの使用とは反対に、カソードの外側シリンダジャケット上に消耗可能な回転式アークカソードの使用を導入する。
【0011】
国際特許公報第2010/134892A1号では、回転可能なカソードを有するフィルター付きカソードアーク堆積装置を開示しているが、アークカソードの外側シリンダジャケット上に消耗可能な回転式アークカソードを使用する代わりに、シリンダの底部に消耗されるアークカソードが使用されている。
【0012】
これは、ダクトを貫くソレノイドの磁場を生成する電磁コイル、ならびにダクトの一方の端部に円形のアーク蒸発カソードおよびもう一方の端部に基板を有する、90度の曲がりを含む円筒状のプラズマダクトを使用する。従来のフィルター付きカソードアーク装置は、円形で平坦な、または円筒状のカソードおよびフィルターの幾何学的配置に基づいており、その透過が低いために一般に適用分野が限定されていた。細長い円筒状のカソードの例は、Pinkhasovの米国特許第4,609,564号および第4,859,489号、Vergasonの米国特許第5,037,522号、およびWeltyの米国特許第5,279,898号に含まれ、それらのすべてが円筒または棒の形態の細長いカソードの使用について記載し、アーク電流の自己磁場を利用してカソードの長さに沿ってアークを強制的に動かす。Weltyは、アークの動きを加速し制御するように追加の軸方向磁場成分を印加することによってマクロ粒子の生成を低減することができることを教示する。これは、カソードの両端部を追加電源に接続することによって実現され、この追加電源がターゲットのまわりに円周方向の磁場を生成するターゲット材料を貫通する電流を供給し、アークの長手方向の動きを制御する。我々の利点は、カソードがそのヘッドでのみアークケーブルに接続されているということである。それに加えて、アークスポットセンサは、アークスポットの位置を効率的に検出し、カソードの回転がアークスポットをその最適位置に維持する手助けをする。
【0013】
Tamagakiの米国特許第5,127,030号およびTreglioの米国特許第5,317,235号は、曲がりのない直線の円筒状のフィルタリングダクト、ダクトの一方の端部に位置する円形カソード、ダクトを貫くソレノイド磁場を生成し基板に対するカソードからの直接見通し線の堆積を部分的にブロックする電磁コイルについて記載する。カソードによって放出されたプラズマは、電磁場によってシステムの光軸に集束される。アークを安定化させるアーク閉じ込めリング(いわゆるアノード)は、ターゲットのまわりに位置する。結果として生じる磁場がターゲット表面に中央部で垂直となるコイルは、基板へ向かって荷電粒子を運ぶ磁力線を圧縮する。アークスポットは、高速で円い平坦なターゲット上で(フィルタリングモードではほとんど外側の領域まで)燃える。中性のマクロ粒子は、電磁場によって偏向されず、コイルダクトによってブロックされる。大面積にわたってコーティングすることが必要な場合、磁場に沿って広がるプラズマ流を利用するために、基板は、コイルからかなり離れて配置される。しかし、このために装置の成長速度が著しく低下し、その用途が限定される。重要な点は、アノードの位置である。アノードがターゲット材料を囲む従来の2つの参考文献と異なり、我々の今回のケースでは、アノードは、磁場ソースと基板との間に位置する。
【0014】
Sandersの米国特許第5,292,944号およびSathrumの国際特許公報03/087425A1号は、アーチ形磁場の幾何学的配置で動作する円筒状の対称なアークソースを紹介する。放出されたイオンは、表面から径方向に離れ、電磁場によって反射される。第1の参考文献では、荷電粒子は、それらの軌道を90°、第2の参考文献では180°も向きをそらす必要があり、これは、以降詳述する直線のダクトほどはフィルター効率にとって都合がよくない。
【0015】
従来技術の参考文献のいずれも、円筒形状の蒸発可能な表面を有する、カソード表面上のアークの移動を制御するために内部磁場に加えて主に外部磁場を使用する回転式アークカソードについても、荷電粒子用の摘出器およびマクロ粒子用のバッフルとして使用される真空チャンバ内への外部磁場ソースを有するフィルタリングダクトについても開示していない。アノード位置は、アノードが磁場ソースと基板との間に位置するので、このソースの出力に重要な役割を果たす。
【0016】
フィルター付きカソードアークソースは、蒸着およびスパッタリングなどのアークに基づかない堆積方法と異なり、ソースから放出されたカソード材料の蒸気流が完全にイオン化されるという長所を有する。円筒状のカソードからの完全にイオン化された蒸気流により、ターゲットの利用ならびにコーティングまたはイオン注入を行うために基板に達する粒子のエネルギーに対してより大きな制御が可能となり、本システムにおいて化合物を形成する際の蒸気の反応性ガスとの反応性、または直接基板との反応性を向上させる。
【0017】
本発明は、高スループットを有するフィルター付きカソードアークの利点(完全にイオン化された蒸気流、飛び散るマクロ粒子の排除)、および円筒状の回転するアークカソードの利点(直線的な動きおよびアークスポット位置検出を使用して均一なターゲットの蒸発および基板上の均一な堆積)を実現する。さらに、本発明は、通常の円筒状の回転するアークカソード(LARC(登録商標))技術を改良することができるコンパクトなシステムである。容易なシステムアクセシビリティおよびメンテナンスにより、本発明を、従来技術によっては達成することができなかったユーザフレンドリーとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
発明の目的は、密で滑らかなコーティングを行うために高度にイオン化された金属蒸気を生成し、少なくとも一部はマクロ粒子フィルタリングモードで働くフィルター付きカソード真空アーク堆積装置を提供することである。
【0019】
発明の別の目的は、プラズマチャネルに沿った電子の拡散を最小化し、それにより、ほとんどのイオンが基板表面に達し、高い堆積速度を保証することである。
【0020】
発明の別の目的は、フィルター付きでないカソード真空アーク堆積装置と比較して、構造の変更をできるだけ少なくしたフィルター付きカソード真空アーク堆積装置を提供することである。
【0021】
発明の別の目的は、軽微な変更の範囲内でフィルター付き、またはフィルター付きでないカソード真空アーク堆積装置として使用することができる融通性のある装置を提供することである。
【0022】
発明の別の目的は、堆積に関与する粒子が高いイオン化度を有し、堆積層の粗さが低い、酸化物および窒化物層PVD堆積が可能な装置を提供することである。
【0023】
発明の別の目的は、堆積に関与する粒子が高いイオン化度を有し、堆積層の粗さが低い、カーボン層PVD堆積が可能な装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、膜形成材料を含有する実質的に円筒形状を有する回転式アークカソードを使用する、薄膜堆積のためのフィルター付きカソード真空アークソースを含む。前記回転式アークカソードは、その外側シリンダジャケット上で消耗されうる。
【0025】
本発明のこれらおよび他の目的は、集束磁場ソース、膜形成材料を含有する実質的に円筒形状を有する消耗可能な回転式アークカソード、およびアノードを備えるフィルター付きカソード真空アークソースを提供することによって解決され、集束磁場ソースがアークカソードと基板ホルダーとの間に配置され、ターゲット表面上に生成されるアークスポットが、磁力線によって、磁力線がターゲット表面に垂直な場所に保持され、磁力線が回転式アークカソードと基板ホルダーとの間の空間で収縮(収束)し、磁力線が収縮(収束)している空間がバッフルによって制限される。
【0026】
磁力線が可能な限りバッフル内で収縮(収束)している場合、有利である。
【0027】
また、磁力線が、距離の増加とともに回転式アークカソードへ向かう集束磁場ソースの中心から可能な限り分岐している場合、有利である。磁力線分岐は、カソードに配置された、集束磁場ソースと反対向きの追加の磁場ソースによって影響を受ける場合がある。
【0028】
また、磁場が集束磁場ソースとターゲット表面との間で向きを変更せず、したがって追加の磁場ソースが集束磁場ソースとターゲット表面との間で磁力線を分岐はさせるが、磁力線の向きを変更しないレベルしか追加の磁場ソースにエネルギーが与えられない場合、有利である。
【0029】
また、集束磁場ソースが細長い電磁コイルから作られ、磁場の強度が最も高い電磁コイルの中央部が、回転式アークカソードの軸と実質的に平行な線上に配置される場合、有利である。
【0030】
アークのプラズマチャネルは、磁力線に沿って伝播し、アークスポットが燃える場所(磁力線がターゲット表面に垂直にターゲットに入る場所)から始まり、さらに(集束磁場ソースの中心に置かれた)バッフルの中心を通って、さらに基板を通って、次いでプラズマチャネルは、アノードの表面で終了する。アノードがアークスポットと同一の磁力線上に置かれる場合、有利である。アノードをこの最適位置からさらに遠くに置く場合、アーク電圧は、急速に増加する。
【0031】
アノードを上記のように置くことと併せて上記の形状の磁場によって、アークがターゲット表面上で燃える安定した領域が、磁力線が表面に垂直にターゲットに入る場所であることが保証される。アークが安定して燃えるこの場所は、通常ターゲット表面上の線であり、そのため、カソードのまわりで均一なターゲットの腐食を有するようにその外側シリンダジャケット上で消耗可能な実質的に円筒形状を有する回転式アークカソードを使用することはきわめて有利である。上記の方法によるアルミニウムカソード上でアークが安定して燃える場所の例を参照する。
【0032】
磁力線によるプラズマチャネルの上記の誘導を使用する場合、アークは明確に画成された狭い空間内で燃え、したがって、集束磁場ソースの中心に置かれたバッフルを狭くすることによって、確実にマクロ粒子を非常に効率的にフィルタリングすることが可能である。
【0033】
集束磁場ソースの中心だけでなく、回転式アークカソードと集束磁場ソースとの間の全領域において高い磁場強度を有することによって、フィルタリングの効率が著しく向上する。
【0034】
また、集束磁場ソースが非磁性材料から作られた水冷式ハウジング内に配置された細長い電磁コイルによって生成される場合、有利である(この細長い電磁コイルは、コーティングチャンバ内に直接配置され、バッフルの役割を果たすこともできる)。
【0035】
細長い電磁コイルが、可能な限りハウジングの中心に近く、それにより、ハウジングの中心において磁力線を狭め、磁場の強度が最大となるように細長い電磁コイルが置かれる場合、有利である。集束磁場ソースがこのように作られている場合、細長い電磁コイルによって生成される磁場の強度を急速に増加させ、集束磁場ソースの寸法を減少させることが可能である。集束磁場ソースの寸法の減少によって、細長い電磁コイルを標準的なコーティング装置内に、細長い電磁コイルの寸法を著しく変更することなく配置することが可能である。
【0036】
アークスポット速度の低いターゲット材料(例えば、グラファイト)の場合、ターゲットを回転させることによって、磁力線がターゲット表面に垂直にターゲットに入る場所からターゲット表面と接する方向の磁場成分のより高い場所にアークスポットをシフトさせることが可能である。この方法によって、アークスポットを垂直方向に限定して加速することが可能であり、そのため、回動速度の変更によって、全ターゲット長に沿って蒸発の均一性を効果的に制御することが可能である。
【0037】
このシステムは、様々なモードで使用されてもよい:
− アークは、アーク発生器によってターゲットの第1の端部において点火され、ターゲットの回転によって、アークスポットは、ターゲットの第2の端部に移動し始める。アークスポットがターゲットの第2の端部に達した瞬間に、その位置がアークポジションセンサによって評価され、アークのスイッチが切られる。その後、アークは、再びアーク発生器によってターゲットの第1の端部において再点火される。
− アークは、アーク発生器によってターゲットの第1の端部において点火され、ターゲットの回転によって、アークスポットは、ターゲットの第2の端部に移動し始める。アークスポットがターゲットの第2の端部に達した瞬間に、その位置がアークポジションセンサによって評価され、ターゲット回転の方向が逆転し、それにより、カソードスポットは、反対方向に移動し始める。この方法を繰り返すことによって、連続的なアークの燃焼を実現ことが可能である。また、初期の、および回転を変更した後のターゲットの回動速度がわずかに異なり、それにより均一なターゲットの腐食がもたらされる場合、有利である。
− アークは、アーク発生器によってターゲットの第1の端部において点火され、ターゲットの回転によって、アークスポットは、ターゲットの第2の端部に移動し始める。アークスポットがターゲットの第2の端部に達した瞬間に、その位置がアークポジションセンサによって評価され、磁場の方向が逆転し、それにより、カソードスポットが反対方向に移動し始める。集束磁場ソースおよび追加の磁場ソースの両方を同時に逆転させなければならない。この方法を繰り返すことによって、連続的なアークの燃焼を実現することが可能である。
【0038】
アークスポット速度の高いターゲット材料(例えばTi、Al)の場合、標準的なターゲット回動速度では上記のようなターゲットの回転によってアークスポットをシフトさせることはできない。より高いターゲット回動速度を使用することが必要であるが、このことは、必ずしも技術的に適切だとは限らない。この場合、次の方法のうちの1つを使用することができる:
− (ほぼ1000A程度の)より高いアーク電流を使用する場合、アークスポット燃焼領域は、ターゲット長全体に拡大する。この場合、アーク電流源をパルス化した状態で動作させることが有利である。パルスのパラメータは、例えば、パルス幅10ms、パルス電流1000A(パルスの能動部)、パルス幅100ms、パルス電流50A(パルスの受動部)であってもよい。
− 追加の磁場ソースとしてターゲットの全長の一部分にのみ限定された強磁性のコアを有する細長い電磁コイルを使用する場合、細長い電磁コイル中で強磁性のコアを垂直に移動させることによってアークスポットの垂直方向の位置を制御することができ、アークスポットが実際に強磁性のコアが位置する場所で燃える。
− アークスポットの移動に対してさらなる制御を行うために、追加のアノードが設けられる。電流の一部分を、メインのアノードから追加のアノードに方向が変えることができる。これによって、アークスポットを閉曲線で移動させることができる。また、プラズマチャネルが試料のまわりの集束磁場ソースを通り抜けるだけでなく、プラズマチャネルの一部分が追加のアノードに方向を変えるので一部のイオンが失われる。この電流の方向を変えるのに必要な電圧は、標準的なアノードに対してアークを燃焼させるのに必要な電圧よりも著しく高いことを強調しておきたい。
【0039】
蒸発が集束磁場ソース前方のターゲット上の狭い場所からのみ生じるので、ターゲットと集束磁場ソースとの間の距離を実質的に減少させることができ、システムの歩留の向上に役立つ。
【0040】
さらに、プラズマチャネルの曲げの助けを借りて100%のフィルタリングが要求される場合、この要求はこのプラズマチャネルを最小限曲げることで実現することができる。
【0041】
別の利点は、磁場の強度がプラズマチャネル全体に沿って非常に高く、そのため、電子、したがってイオンの実質的な損失が生じる可能性のある磁場強度の低い空間がプラズマチャネルに沿って存在しないということである。
【0042】
別の利点は、うまく設計された水冷式ハウジング内の細長い電磁コイルが集束磁場ソースとして使用される場合、その寸法を最小化することができ、したがって、このマクロ粒子付加機能を、わずかな量だけ構造を変更することによって既存のフィルターの付いてないカソード真空アーク堆積装置に据え付けることができるということである。その場合、要求されるコーティング用途に応じて、この装置をフィルター付き、およびフィルターなしの状態で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】実質的に円筒形状を有する1つの消耗可能な回転式アークカソード、細長い電磁コイルによって作られた集束磁場ソースを使用する、本発明のフィルター付きカソード真空アークソースの概略図であり、プラズマチャネルが片側に曲げられている。
【
図2】グラファイト上のアークスポットの軌跡の方向およびアークポジションセンサの位置示す概略図である。
【
図3】実質的に円筒形状を有する1つの消耗可能な回転式アークカソード、細長い電磁コイルによって作られた集束磁場ソースを使用する、本発明のフィルター付きカソード真空アークソースの概略図であり、直線のプラズマチャネルが基板ホルダーに向けられている。
【
図4】実質的に円筒形状を有する2つの消耗可能な回転式アークカソード、細長い電磁コイルによって作られた集束磁場ソースを使用する、本発明の二重化されたフィルター付きカソード真空アークソースの概略図であり、1つの集束磁場ソースが両方のカソードに対して使用されている。
【
図5】実質的に円筒形状を有する1つの消耗可能な回転式アークカソード、2つの細長い電磁コイルによって作られた集束磁場ソースを使用する、本発明のフィルター付きカソード真空アークソースの概略図であり、プラズマチャネルが片側に曲げられている。
【
図6a】追加の磁場ソースのスイッチが切られ、強磁性のコアがない場合の、磁力線およびアークスポットが燃える場所を示す概略図である。アークへの電流は、実質的に高い。
【
図6b】追加の磁場ソースのスイッチが入れられ、強磁性のコアを有する場合の、磁力線およびアークスポットが燃える場所を示す概略図である。この図は、回転式アークカソード内部の強磁性のコアの垂直移動の助けを借りてアークスポットが燃える場所をどのように制御することができるかを示す。
【
図6c】集束磁場ソースがそれほど細長くない電磁コイルから作られている場合の磁力線およびアークスポットが燃える場所を示す概略図である。この図は、集束磁場ソースの垂直移動の助けを借りてアークスポットが燃える場所をどのように制御することができるかを示す。
【
図7】実質的に円筒形状を有する1つの消耗可能な回転式アークカソード、細長い電磁コイルによって作られた集束磁場ソース、および電子流の一部分を排出することによって、アークスポットが燃える場所を変更させる追加のアノードを使用する本発明のフィルター付きカソード真空アークソースの概略図である。
【
図8】
図6に関しアークスポットが燃える場所を示す概略図である。
【
図9】アークスポット速度の低いターゲット材料に対する堆積方法の第1段階である、アーク発生器によるアークの点火を示す概略図である。
【
図10】アークスポット速度の低いターゲット材料に対する堆積方法の第2段階を示す概略図であり、ターゲットの回転によって、アークスポットがターゲットの第2の端部に移動し始める。
【
図11】アークスポット速度の低いターゲット材料に対する堆積方法の第3段階を示す概略図であり、アークのスイッチが切られ、その後、アークがアーク発生器によってターゲットの第1の端部において再点火される堆積のモードを指す。
【
図12】アークスポット速度の低いターゲット材料に対する堆積方法の第3段階を示す概略図であり、ターゲットの回転が逆になり、それにより、カソードスポットが反対方向に移動し始める堆積のモードを指す。
【
図13】アークスポット速度の低いターゲット材料に対する堆積方法の第3段階を示す概略図であり、磁場の方向が逆になり、それにより、カソードスポットが反対方向に移動し始める堆積のモードを指す。
【
図14】回転式アークカソードの回転のスイッチが入れられた状態でのグラファイトターゲットの外側シリンダジャケット上のアークスポットの軌跡を示す写真である。
【
図15】回転式アークカソードの回転のスイッチが切られた状態でのアルミニウムターゲットの外側シリンダジャケット上のアークスポットの軌跡を示す写真である。
【
図16a】プラズマチャネル全体に沿って高い強度の磁場がない平坦なアークカソードを有するフィルタリング機構を使用する場合に、電子がどのように失われるかを示す概略図である。
【
図16b】プラズマチャネル全体に沿って高い強度の磁場がない回転式アークカソードを有するフィルタリング機構を使用する場合に、電子がどのように失われるかを示す概略図である。
【
図17】プラズマチャネル全体に沿って高い強度の磁場がある回転式アークカソードを有するフィルタリング機構を使用する場合に、電子がどのように失われないかを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1および
図2に、主としてグラファイトターゲットに適した本発明の基本構成を示す概略図を提示する。コーティングされる加工品を有する基板ホルダー1がコーティングチャンバ2内に配置され、このコーティングチャンバ2がポンプ装置への連結部3によって排気される。ドア4内に配置されたフィルター付きカソード真空アークソースは、実質的に円筒形状を有する(ターゲット5、細長い電磁コイル6によって作られた追加の磁場ソース、および強磁性のコア7によって生成された)消耗可能な回転式アークカソード、(水冷式バッフル9内に配置された細長い電磁コイル8によって作られた)集束磁場ソース、水冷式アノード10、アーク発生器11、電流源12、ならびに抵抗器14から構成される。
【0045】
ターゲット材料は、プラズマチャネル14の内側のターゲット5表面上に位置するアークスポットにおいて蒸発する。プラズマチャネル14の内側の電子流は、バッフル9を通って正に帯電した蒸発材料を誘導する。バッフルは、抵抗器13によって正電位に帯電し、これによって帯電した材料をプラズマチャネルの内側に保持するのに役立つ。プラズマチャネル14が基板のそばまたは中を通過すると、正に帯電した蒸発材料は、基板バイアス源15によって作られた負電位によって引きつけられ、基板上にコーティングを生成する。
【0046】
前記回転式アークカソードの回転16は、プラズマチャネル14内のターゲット5表面上で燃えるアークスポットを、磁力線17がターゲット5表面に垂直でない側にシフトさせる。磁場は、アークスポットを、磁力線17がターゲット5表面に垂直な場所に戻し、ターゲットの長さ方向に沿ってアークスポットの軌跡18上でターゲット5の底部に移動させる。
【0047】
アークスポットは、ターゲット5の上方部のアーク発生器11によって点火される。アークスポットが底部に達すると、アークポジションセンサ19上で電圧が増加し、アークのスイッチが切られる。次いで、アークは、再び上方部において点火され、処理が絶え間なく繰り返される。
【0048】
グラファイトターゲットに対する最適条件は、
− バッフルの内側21の磁場の強度が100mT、
− アークスポットの位置22における磁場の強度が15mT、
− バッフルのギャップ幅が10mm、
− 回転式アークカソードの回動速度が1.5RPM
− アーク電流が80A
である。
【0049】
図3に、代替の解決策の概略図を提示する。(例えば、Ti、Alのターゲット材料に対して)アークスポットの速度が速すぎる場合、回転の力を借りてアークスポットを片側へ適度にシフトさせることは不可能である。その場合、アークスポットは、磁力線17がカソード表面に垂直な位置に終始保持される。プラズマチャネルの内側の磁力線17は、直線であり、バッフルおよび回転式アークカソードを
図3でわかるように片側にシフトさせる場合、有利である。
【0050】
図4に、代替の解決策の概略図を提示する。フィルター付きカソード真空アークソースは、(7a、6a、5a、および7b、6b、5bからそれぞれ構成された)2つのカソード、(水冷式バッフル9内に配置された細長い電磁コイル8によって生成される)より大きな集束磁場ソース、2つの追加のアノード10a、10b、ならびにより優れたフィルタリングを提供するための追加のバッフル23から構成される。磁場の強度は、上記の解決策と比較して、おおよそ2倍高い。システムは、アークスポット速度の低いターゲット材料(例えば、グラファイト)、およびアークスポット速度の高いターゲット材料(例えばTi、Al)にも同様に適する。
【0051】
図5に、代替の解決策の概略図を提示する。集束磁場ソースは、2つの細長い電磁コイルを含み、バッフルは、湾曲したプラズマチャネルを生成する。システムは、アークスポット速度の低いターゲット材料(例えば、グラファイト)、およびアークスポット速度の高いターゲット材料(例えばTi、Al)にも同様に適する。
【0052】
図6bに、代替の解決策の概略図を提示する。アークスポットの垂直位置の制御を行うために、強磁性のコア7は、追加の磁場ソースの長さ全体にわたって配置されず、ターゲット5の全長の一部分に限定されている。
図8でわかるように、長さ40cmのターゲットの場合、7cmの長さの強磁性コア6が適切である。コアを垂直に機械的に移動させることによって、アークスポットの移動を制御することができる。アークスポットは、強磁性コアの位置に追随する。
【0053】
図6cに、代替の解決策の概略図を提示する。アークスポットの垂直位置の制御を行うために、それほど細長くない電磁コイルから作られた集束磁場ソースを使用する。集束磁場ソースを垂直に機械的に移動させることによって、アークスポットの移動を制御することができる。アークスポットは、集束磁場ソースの垂直位置に追随する。
【0054】
アークスポットの動きの制御に対するこれらの追加手段を使用する場合、上方の電圧センサ20および底部の電圧センサ19の両方を使用して、アークスポットがその境界位置に達したかどうかを制御することができる。このシステムは、主としてアークスポット速度の高いターゲット材料(例えば、Ti、Al)に対して開発されたが、このシステムは、アークスポット速度の低いターゲット材料(例えば、グラファイト)にも同様に適する。
【0055】
図7および
図8に、代替の解決策の概略図を提示する。アークスポットの移動に対するさらなる制御を行うために、追加のアノード24が設けられている。電流の一部分をメインのアノード10から追加のアノード24にそらすことができる。これによって、アークスポットを
図8に概略的に示す閉曲線18で強制的に移動させることができる。このシステムは、主としてアークスポット速度の高いターゲット材料(例えば、Ti、Al)に対して開発されたが、アークスポット速度の低いターゲット材料(例えば、グラファイト)にも同様に適する。
【0056】
図9、10、11、12および13に、アークスポット速度の低いターゲット材料(例えば、グラファイト)に使用される堆積方法の概略図を提示する。アークスポット速度の低いターゲット材料(例えば、グラファイト)の場合、ターゲットの回転の助けを借りてアークスポットをアークスポットが垂直方向に加速される場所へシフトさせることが可能である。このシステムは、様々なモードで動作することができ、これらのモードが上記の図に提示されている。それらの説明は以下の通りである:
− アークは、アーク発生器11によってターゲット5の第1の端部で点火され(
図9参照)、ターゲット5の回転によって、アークスポットは、ターゲット5の第2の端部に移動し始める(
図10参照)。アークスポットがターゲット(5)の第2の端部に達した瞬間に、その位置がアークポジションセンサ19によって評価され、アークのスイッチが切られる。その後、アークは、アーク発生器11によってターゲットの第1の端部で再点火される(
図11a参照)。次いで、
図10における以前の軌跡と平行な新しい軌跡が生成される(
図11b参照)。
【0057】
グラファイトターゲット上のアークスポットの移動を示す写真を
図14に示す。
− アークは、アーク発生器11によってターゲット5の第1の端部で点火され(
図9参照)、ターゲット5の回転によって、アークスポットは、ターゲット5の第2の端部に移動し始める(
図10を参照)。アークスポットがターゲット5の第2の端部に達した瞬間に、その位置がアークポジションセンサ19によって評価され、ターゲット5の回転方向が逆になり、それにより、カソードスポットが反対方向に移動し始める。この方法を繰り返すことによって、連続的なアーク燃焼を行うことが可能である。また、ターゲット5の回転速度が初期と逆回転後とでわずかに異なり、それにより、均一なターゲット5の腐食(浸食)を提供することができる場合、有利である(
図12参照)。
− アークは、アーク発生器11によってターゲット5の第1の端部で点火され(
図9参照)、ターゲット5の回転によって、アークスポットは、ターゲット5の第2の端部に移動し始める(
図10参照)。アークスポットがターゲット5の第2の端部に達した瞬間に、その位置がアークポジションセンサ19によって評価され、磁場を生成する電磁コイル中のコイル電流の向き26を逆にすることによって磁場の方向を逆転し、それにより、カソードスポットが反対方向に移動し始める。集束磁場ソース8および追加の磁場ソース6の両方を同時に逆にしなければならない。この方法を繰り返すことによって、連続的なアーク燃焼を提供することができる(
図13参照)。
【0058】
センサ19、20によってアークスポットがターゲットの端部に達するのを評価する代わりに、アークスポットがターゲット5の一方の端部からターゲットのもう一方の端部まで移動するのに必要な時間を既知のカソードスポット速度から計算することもできる。この時間が経過した後、カソードスポットがターゲットの所望の端部に達したと見なし、上で言及した処置の1つを行うことができる。
【0060】
図16aの、磁場によって規定されるアークスポットの軌跡18が閉じている平面のアークカソードのためのマクロ粒子フィルタリングに対する元の手法では、非常に低い磁場を有する空間29のために、イオンを試料に誘導するメインのプラズマチャネル27だけでなく、電子に対する脱出経路28も存在し、このことが実質的にシステムの歩留を低下させる。
図16bに、回転式アークカソードに対する同様の手法を詳述する。
図17において、本発明は、電子が脱出ルートを見つけること妨げており、そのため、システムの歩留が実質的に向上する。
【符号の説明】
【0061】
1 基板ホルダー
2 コーティングチャンバ
3 ポンプ装置への連結部
4 ドア
5 ターゲット
6 EMコイル
7 強磁性コア
8 EMコイル
9 水冷式バッフル
10 水冷式アノード
11 アーク発生器
12 電流源
13 抵抗器
14 プラズマチャネル
15 基板バイアス源
16 カソードの回転
17 MF線
18 カソードスポットの軌跡
19 底部の電圧センサ
20 上方の電圧センサ
21 バッフルの内側のMF
22 アークスポットの位置におけるMF
23 追加のバッフル
24 追加のアノード
25 アークスポットが燃える場所
26 EMコイルの電流の向き
27 電子に対するメインチャネル
28 脱出チャネル
29 磁場がゼロを有する場所