(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ボイラの火炉天井壁の上方に配置された管寄せで集合され前記火炉天井壁の下方に吊り下げられた複数の伝熱管の何れかに内部流体の漏洩が発生した際に、漏洩が発生した伝熱管を前記火炉天井壁の上方で切断して切断箇所の前記管寄せ側の下向き開口に栓をした状態で、前記切断箇所の下方の切断伝熱管の落下を防止するために使用する伝熱管の応急処置具であって、
前記切断伝熱管側の上向き開口から投入され前記切断伝熱管の内部を自重により降下する係止具と、
前記係止具に接続され、前記切断伝熱管の内部に投入された前記係止具を前記上向き開口側から支持する係止索と、を有し、
前記係止具は、前記係止索の操作によって前記切断伝熱管の内壁に圧接して係合する係合要素を備えている
ことを特徴とする、伝熱管の応急処置具。
ボイラの火炉天井壁の上方に配置された管寄せで集合され前記火炉天井壁の下方に吊り下げられた複数の伝熱管の何れかに内部流体の漏洩が発生した際に、請求項1〜7の何れか1項に記載の伝熱管の応急処置具を用いて応急処置を行なう、伝熱管の応急処理方法であって、
漏洩が発生した伝熱管を前記火炉天井壁の上方で切断して切断箇所の前記管寄せ側の下向き開口に栓をする切断閉塞ステップと、
前記係止索を繰り出しながら、前記係止具を前記切断伝熱管側の上向き開口から投入して、前記切断伝熱管の内部を自重により降下させる投入ステップと、
前記係止索の繰り出しを停止して、前記係止索を操作して前記係止具の前記係合要素を前記切断伝熱管の内壁に圧接させて係合させる係合ステップと、
その後、前記上向き開口から前記切断伝熱管の内部に冷却用流体を供給する冷却用流体供給ステップと、を有する
ことを特徴とする、伝熱管の応急処置方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
なお、以下に示す各実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
また、本発明の伝熱管の応急処置具及び応急処置方法は、ファイバースコープやガイド波による検査の結果、伝熱管に漏洩を招く損傷が発見された場合に、応急処置として、損傷した伝熱管の切断や切断部の閉塞や切断後の支持や冷却を行うものである。つまり、次回の定期点検時などで伝熱管の損傷箇所を新管に切り替えるまでの間、損傷した伝熱管を管寄せの近傍で切断し、管寄せ側の開口を閉塞すると共に、その下方の切断した伝熱管を支持しながら冷却してボイラ運転中の伝熱管の脱落を防止するためのものである。
【0023】
[1.ボイラの全体構成]
各実施形態に係るボイラ(蒸気発生装置)1の全体構成を、
図1を参照して説明する。
ボイラ1は、内部に火炉(燃焼室)2が形成される火炉壁3と、火炉壁3の下部に多段に設置されたバーナ4と、火炉2の出口に連結された煙道5と、火炉2の上部から煙道5に向かってこの順に並ぶ過熱器6,再熱器7及びエコノマイザ8と、火炉2の上部に設けられたドラム9とを備えている。
【0024】
火炉壁4は、管軸方向を上下方向に向けた水管(図示略)が複数並ぶ水冷壁として構成されている。各水管は上下各端部が図示しないヘッダ,上昇管及び降水管を介してドラム9に接続されている。
【0025】
バーナ4から噴射された燃焼用空気と燃料は、バーナ4の噴射口において火炎を形成し、燃焼ガスを発生する。燃焼ガスは火炉2を上昇し、過熱器6,再熱器7及びエコノマイザ8をこの順に通過する。
【0026】
給水ポンプ(図示略)から供給された水は、エコノマイザ8で燃焼ガスと熱交換されて予熱された後、火炉壁3へと送られる。火炉壁3へと送られた水は、ドラム9や火炉壁3を構成する各水管等からなる循環路を循環しながら、バーナ4の火炎や燃焼ガスにより加熱されて、飽和水と飽和蒸気とからなる二相流となる。飽和蒸気は、ドラム9により分離されて、過熱器6に導入され、バーナ4の火炎や燃焼ガスによって加熱され、過熱蒸気となる。
【0027】
この過熱蒸気は、主蒸気管を介して発電用の蒸気タービンに供給され、蒸気タービンでの膨張過程の中途で取り出された蒸気は、低温再熱蒸気管を介して再熱器7に導入され、燃焼ガスによって再度過熱されて高温再熱蒸気管を介して再び蒸気タービンに供給される(主蒸気管、蒸気タービン,低温再熱蒸気管及び高温再熱蒸気管は図示略)。
【0028】
[2.吊り下げ式伝熱器の構成]
図1に示すように、過熱器6及び再熱器7は、火炉天井壁3Aに吊り下げられた吊り下げ式伝熱器(熱交換器)である。過熱器6及び再熱器7は同様に構成されているので、以下、過熱器6を代表例として、
図2を参照してその構成を説明する。
【0029】
過熱器6は、
図2に示すように、入口管寄せ6Aと、出口管寄せ6Cと、複数の過熱管(伝熱管)6Bとを備えて構成されている。
管寄せ6A,6Cは、その軸心線を火炉の左右方向に向けた姿勢で、火炉天井壁3Aの上方、すなわち火炉2の外側(以下、炉外ともいう)に配設されている。
【0030】
各過熱管6Bは、管寄せ6A,6Cの軸心線に沿って複数並べられている。各過熱管6Bは、略U字形状の曲げ管であり、2つの鉛直部分(以下、鉛直管ともいう)6Ba,6Baと、これらの鉛直管6Ba,6Baの各下端の相互間に位置する水平部分(以下、水平管ともいう)6Bbと、を有する。各過熱管6Bは、一端(鉛直管6Baの一方)を入口管寄せ6Aに接続され、他端(鉛直管6Baの他方)を出口管寄せ6Cに接続されている。各過熱管6Bは、管寄せ6A,6Cに接続される端部近傍の一部分を除いて、火炉2の内側(以下、炉内ともいう)に配置されており、この炉内に配置された部分において、過熱管6Bを流通する蒸気が炉内を流れる燃焼ガスと熱交換する。
なお、鉛直管6Ba,6Baは、軸心線が厳格に鉛直方向に沿ったものだけでなく、軸心線が略鉛直方向に沿ったものも含む。
【0031】
本発明の伝熱管の応急処置具及び応急処置方法は、このような過熱器6や再熱器7といったボイラの伝熱器であって、火炉天井壁3Aの上方(即ち、炉外)に配置された管寄せで集合され、火炉天井壁3Aの下方(即ち、炉内)に吊り下げられた吊り下げ式の伝熱管を処理対象とする。
以下、本発明の伝熱管の応急処置具及び応急処置方法に関する各実施形態を説明する。なお、各実施形態ではボイラの伝熱器の1つである過熱器6に着目して、その伝熱管(過熱管)6Bを例に挙げて説明する。
【0032】
[3.第1実施形態]
第1実施形態にかかる伝熱管の応急処置具及び応急処置方法を、
図3〜
図5を参照して説明する。
まず、
図3,
図4を参照して本実施形態にかかる応急処置具を使用する状況を説明したうえで、
図5を参照してその応急処置具を説明する。その後、
図3,
図4を参照して本実施形態にかかる応急処置方法を説明する。
【0033】
[3.1.応急処置具を使用する状況]
ファイバースコープやガイド波による検査の結果、
図3に示すように、ある伝熱管6B´に漏洩を招く損傷が発見された場合、この伝熱管6B´とその損傷箇所BPの位置とを特定し、応急処置を開始する。
この特定した伝熱管6B´に対し、火炉天井壁3Aの上方の入口管寄せ6A及び出口管寄せ6Cの近傍でそれぞれ切断し、切断箇所の入口管寄せ6A側及び出口管寄せ6C側の下方を向いた開口(下向き開口)61A,61Cに、
図4(a)に示すように栓10を被せて閉塞する。そして、伝熱管6Bの切断箇所よりも下方の部分(以下、切断伝熱管と呼ぶ)60Bの落下(
図3に二点鎖線で示す)を防止するために、
図4(b)に示すように本応急処置具20を使用する。
【0034】
[3.2.応急処置具]
次に、本実施形態にかかる応急処置具20を説明する。
図5(a)〜
図5(d)に示すように、応急処置具20は、係止具(ストッパ)21と、係止索(ワイヤ)22とを有している。
【0035】
係止具21は、係止索22に接続されて、切断伝熱管60B側の上向き開口61Bから投入され、係止索22が繰り出されることで切断伝熱管60Bの内部を自重により降下する。係止索22は、このように切断伝熱管22の内部に投入された係止具21を上向き開口61B側から支持する。
そして、係止具21は、係止索22の操作によって切断伝熱管60Bの内壁に圧接して係合する係合要素を備えている。
【0036】
つまり、係止具21は、係止索22が接続される軸心支持部23と、軸心支持部23から円錐状又は略円錐状に広がる複数のアーム部24と、を有している。各アーム部24の先端には、切断伝熱管60Bの内壁に圧接して係合することが可能なカギ爪型の爪状係合要素(係合爪部)24aが装備されている。さらに、係止具21及び係止索22には、複数のアーム部24の先端の係合爪部24aを拡径させる拡径機構25が装備されている。
【0037】
軸心支持部23は、係止具21の軸心に配置され、その軸心線CLに沿って軸穴23aが形成され、軸穴23a内に係止索22の先端が貫入される。また、軸心支持部23には複数のアーム部24の基端が固定され、軸心支持部23に各アーム部24が支持される。軸心支持部23の外形は、ここでは球状に形成されるが、外形は限定されず、例えば、円筒状でもよい。
【0038】
複数のアーム部24は、基端が軸心支持部23に固定され、先端が係止具21を切断伝熱管60B内に投入する際に投入方向前方(以下、単に前方と言う)且つ軸心支持部23から離隔する外方へ延びている。ここでは、各アーム部24は、丸棒材で形成され、基端では主として前方に延び、先端に行くに従って、次第に前方よりも外方に向くように湾曲し、先端の係合爪部24aでは、投入方向後方(降下方向に対して後ろ向き)に傾斜している。これらのアーム部24は、周方向にほぼ同一角度だけ位相を変えて、環状に並んで配置されている。なお、これらのアーム部24は、弾性変形可能な材料で形成されている。
【0039】
係止索22は、その先端部が軸心支持部23の軸穴23aの内部に貫通されている。この係止索22の先端には球状の拡径部材25aが結合されており、複数のアーム部24の軸心支持部23に固定される基部近傍は、拡径部材25aの周囲に位置している。係止索22は軸穴23a内を遊動自在であり、係止索22が軸穴23a内を遊動すると、拡径部材25aも軸心支持部23に対して軸方向へ移動する。係止索22は、第1実施形態と同様に、高温強度の高い材料(例えば、インコネル600)を用いることが好ましい。
【0040】
拡径部材25aが軸心支持部23に近づくと、複数のアーム部24に圧接して、複数のアーム部24を外側に押し広げて拡径させる。拡径部材25aが軸心支持部23から遠ざかると、複数のアーム部24は拡径部材25aの押圧から解放されて、複数のアーム部24を中心側に復元し縮径するようになっている。このような拡径部材25aの形状や複数のアーム部24に対する配置、及び拡径部材25aが結合された係止索22が軸穴23a内を遊動する構造が拡径機構25を構成している。
【0041】
係止具21が、切断伝熱管60B側の上向き開口61Bから投入され、これと共に係止索22を繰り出していくと、
図5(a),
図5(c)に示すように、係止具21が自重で降下すると共に拡径部材25aも自重で降下していくため、拡径部材25aが軸心支持部23に接近するがことなく、複数のアーム部24の先端の係合爪部24aはあまり拡径せずに、切断伝熱管60B内を降下する。また、先端の係合爪部24aは、降下方向に対して後ろ向きに傾斜しているので、切断伝熱管60Bの内壁に摺接してもそれによる抵抗は僅かなものに抑えられる。
【0042】
そして、係止索22の繰り出しを停止すると、拡径部材25aは降下しないため、係止具21の荷重が複数のアーム部24と拡径部材25aとの接触部分に加わり、複数のアーム部24を拡径させながら、軸心支持部23を拡径部材25aに接近させる。これにより、拡径した複数のアーム部24の先端の係合爪部24aは、切断伝熱管60Bの内壁に圧接して係合する。ここで、係止索22を回収方向に引っ張れば、
図5(b),
図5(d)に示すように、拡径部材25aにはこの引張力Ftが加わり、軸心支持部23及び複数のアーム部24には自重による重力Fgが加わり、拡径部材25aは軸心支持部23に接近するように移動しながら、複数のアーム部24を矢印A1で示すように拡径方向に付勢する。これにより、各係合爪部24aの切断伝熱管60Bの内壁への圧接が強化される。
【0043】
[3.3.応急処置方法並びに作用及び効果]
本実施形態にかかる応急処置具20は、上述のように構成されているので、この応急処置具20を用いて、以下のような応急処置方法によって、漏洩が発生したことを検出した伝熱管6Bの応急処置を実施することができる。
【0044】
まず、
図3に示すように、漏洩が発生した伝熱管6B´を火炉天井壁3Aの上方で切断して、
図4(a)に示すように、切断箇所の管寄せ6A,6C側の下向き開口61A,61Cに栓10をする(切断閉塞ステップ)。この切断閉塞ステップは、火炉天井壁3Aの上方の炉外で作業者が火炉天井壁3A上を足場にして容易に実施することができる。
【0045】
そして、
図4(b)に示すように、係止索22を繰り出しながら、係止具21を切断伝熱管60B側の上向き開口61Bから投入して、切断伝熱管60Bの内部で係止具21を自重により降下させる(投入ステップ)。このときには、係止具21が自重で降下すると共に拡径部材25aも自重で降下していくため、
図5(a),
図5(c)に示すように、拡径部材25aが軸心支持部23に接近することなく、複数のアーム部24の先端の係合爪部24aはあまり拡径せずに、切断伝熱管60B内を円滑に降下する。また、このとき、先端の係合爪部24aが後ろ向きに傾斜しているので、切断伝熱管60Bの内壁に摺接しても抵抗は僅かであり係止具21は支障なく降下する。
【0046】
係止具21が、
図4(c)に示すように、損傷箇所BPの下方の所定の位置まで降下したら、係止索22の繰り出しを停止して、係止索22を回収側に引っ張る操作をして、
図5(b),
図5(d)に示すように、係止具21の係合爪部24aを切断伝熱管60Bの内壁に圧接させて係合させる(係合ステップ)。
【0047】
係止索22の繰り出しを停止すると、拡径部材25aは降下しないため、軸心支持部23及び複数のアーム部24には自重による重力Fgのみが作用し、複数のアーム部24が拡径部材25aによって拡径されながら、係合爪部24aは、切断伝熱管60Bの内壁に圧接して係合する。そして、係止索22を回収方向に引っ張れば、この引張力Ftが拡径部材25aを介して複数のアーム部24に作用し、複数のアーム部24を拡径方向に付勢するため、各係合爪部24aの切断伝熱管60Bの内壁への圧接が強化される。
【0048】
このようにして、比較的簡単な処理によって、応急処置具20によって切断伝熱管60Bを確実に係止して、その落下を防止することができる。
特に、本応急処置具の設置等は、炉外より処理を行うことができるので、炉内に足場を組む必要が無く、足場の架設に掛かる時間を短縮でき、工事期間を短縮できる効果がある。
また、炉外から作業できるので、炉内冷却に掛かる時間を短縮でき、工事期間を短縮できる効果もある。
しかも、管の取替が必要ないので、取替管が無くても処置が行える効果もある。
【0049】
また、応急処置具の設置後、
図4(d)に示すように、上向き開口61Bから切断伝熱管60Bの内部に、冷却用流体として水又は蒸気又は空気等を供給する(冷却用流体供給ステップ)。このように、冷却用流体を供給することにより、管のメタル温度の上昇が防止又は抑制されて、管が熱溶融に近い状態となって落下してしまうおそれも回避される。
【0050】
[4.第2実施形態]
次に、第2実施形態にかかる伝熱管の応急処置具を、
図6を参照して説明する。
なお、本実施形態にかかる応急処置具を使用する状況については第1実施形態と同様であるので説明を省略する。また、本実施形態にかかる応急処置具を用いて実施する応急処置方法において、第1実施形態と同様のステップについては簡略化して説明する。
【0051】
[4.1.応急処置具]
本実施形態にかかる応急処置具30を説明する。
図6(a),
図6(b)に示すように、応急処置具30は、係止具(ストッパ)31と、係止索(ワイヤ)32とを有している。
【0052】
係止具31は、切断伝熱管の内径よりも長い長さを有する棒状部材により構成される。なお、ここで言う棒状部材とは、棒に代表される長さ及び長さよりも短い幅を有する形状の部材を示し、長手方向に延びた形状であればよく、外観が棒状であることを規定するものではない。例えば、長さを有する板状部材や、紡錘形状の部材であってもよい。ここでは、係止具31は、厚みがあり長さを有する板状部材で形成される。
【0053】
この係止具31は、係止具31の重心から長手方向の一方へ外れた偏心箇所に、係止索32が係止される索係止軸(索接続部)33を備えている。
また、係止具31の長手方向両端には、切断伝熱管60Bの内部で、係止具31の方向が切断伝熱管60Bの軸方向(管軸方向)と直角に近づくと切断伝熱管60Bの内壁に圧接して係合する爪状係合要素(係合爪部)34が形成される。
【0054】
係止具31は、索係止軸33に係止索32の先端部が係止された状態で、切断伝熱管60B側の上向き開口61Bから投入される〔
図4(b)参照〕。そして、係止索32を繰り出していくと、
図6(a)に示すように、係止具31が自重で切断伝熱管60B内を降下する。係止具31の投入時に、係止具31を、索係止軸33側の端部が先頭になる姿勢で投入すると、係止具31は、その長手方向を切断伝熱管60Bの軸方向に沿う状態で降下する。なお、軸方向に沿う状態とは、軸方向と平行に近い状態を意味する。
【0055】
そして、係止索32の繰り出しを停止すると、索係止軸33は停止するため、係止具31は、重心に対して偏心した索係止軸33を中心に回転し、
図6(b)に示すように、係止具31の長手方向が切断伝熱管60Bの軸方向に対して角度を持った状態、即ち、切断伝熱管60Bの軸方向(管軸方向)と直角に近づいた状態となり、係合爪部34が切断伝熱管60Bの内壁に圧接して係合する。
【0056】
この状態で、
図6(b)に示すように、係止索32を回収方向に引っ張り引張力Ftを与えれば、係止具31には、矢印A2,A2で示すように揺動方向への力が作用し、各係合爪部34が切断伝熱管60Bの内壁に更に強く圧接するようになる。これにより、各係合爪部34が切断伝熱管60Bの内壁と確実に係合する。
【0057】
[4.2.応急処置方法並びに作用及び効果]
本実施形態にかかる応急処置具30は、上述のように構成されているので、この応急処置具30を用いて、以下のような応急処置方法によって、漏洩が発生したことを検出した伝熱管6Bの応急処置を実施することができる。
【0058】
まず、第1実施形態と同様に、漏洩が発生した伝熱管6Bを火炉天井壁3Aの上方で切断して、切断箇所の管寄せ6A,6C側の下向き開口61A,61Cに栓10をする(切断閉塞ステップ)。
【0059】
そして、係止索32を繰り出しながら、係止具31を切断伝熱管60B側の上向き開口61Bから投入して〔
図4(b)参照〕、切断伝熱管60Bの内部で係止具31を自重により降下させる(投入ステップ)。このときには、係止具31が自重で降下すると共に、係止索32の繰り出しにより索係止軸33も同様に降下していくため、
図6(a)に示すように、係止具31は、その長手方向を切断伝熱管60Bの軸方向に沿う状態で円滑に降下する。
【0060】
係止具21が、損傷箇所BPの下方の所定の位置まで降下したら〔
図4(c)参照〕、係止索22の繰り出しを停止して、係止索32を回収側に引っ張る操作をして、
図6(b)に示すように、係止具31の各係合爪部34を切断伝熱管60Bの内壁に圧接させて係合させる(係合ステップ)。
【0061】
こうして、比較的簡単な処理によって、応急処置具30によって切断伝熱管60Bを確実に係止することができる。
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、応急処置具の設置を炉外より行うことができるので、足場の架設に掛かる時間や炉内冷却に掛かる時間を短縮でき、工事期間を短縮できる効果や、取替管が無くても処置が行える効果もある。
【0062】
また、応急処置具の設置後、第1実施形態と同様に、上向き開口61Bから切断伝熱管60Bの内部に、冷却用流体として水又は蒸気又は空気等を供給すること(冷却用流体供給ステップ)により、管のメタル温度の上昇を防止又は抑制し、管が熱溶融に近い状態となって落下してしまうおそれも回避される。
【0063】
[5.第3実施形態]
次に、第3実施形態にかかる伝熱管の応急処置具を、
図7を参照して説明する。
なお、本実施形態にかかる応急処置具を使用する状況についても第1実施形態と同様であるので説明を省略する。また、本実施形態にかかる応急処置具を用いて実施する応急処置方法においても、第1実施形態と同様のステップについては簡略化して説明する。
【0064】
[5.1.応急処置具]
本実施形態にかかる応急処置具40を説明する。
図7(a),
図7(b)に示すように、応急処置具40は、係止具(ストッパ)41と、係止索(ワイヤ)42とを有している。
【0065】
係止具41は、係止索42が接続される軸心支持部43と、基端が軸心支持部43に支持され、外端が軸心支持部43から外方に突出する複数のアーム部44と、複数のアーム部44の先端の突出状態(軸心支持部43から外方への突出状態)を操作する突出操作機構45と、複数のアーム部44の先端にそれぞれ装備された面状係合要素(係合面部)46とを備えている。
【0066】
軸心支持部43は、係止具41の軸心に配置され、軸心支持部43の一端側の外周には、雄ねじ部43aが加工されている。この雄ねじ部43aの外周には、雄ねじ部43aと螺合し、軸心支持部43に対して相対回転することにより軸心支持部43の軸方向に相対移動する可動部材47が装備されている。
【0067】
突出操作機構45は、この可動部材47と、アーム部材44と、可動部材47の回転を規制する回転規制部材49と、軸心支持部43を回転操作可能な係止索42とから構成される。
【0068】
アーム部44は、軸心支持部43の周囲に複数(ここでは、180度の位相差で2つ)装備され、基端を可動部材47にピン48aにより枢着(回転自在に接続)された第1アーム44Aと、基端を軸心支持部43の他端側にピン48bにより枢着された第2アーム44Bと、を有し、第1アーム44Aの先端と第2アーム44Bの先端とが互いにピン48cにより枢着されている。また、係合面部46はピン48cに結合されている。
【0069】
各アーム部44の第1アーム44A及び第2アーム44Bは、リンク機構を成している。第1アーム44Aは先端を第2アーム44B側に傾倒させており、第2アーム44Bは先端を第1アーム44A側に傾倒させている。可動部材47が軸心支持部43に対して相対移動すると、第1アーム44A及び第2アーム44Bの傾倒状態が変化し、ピン48cが軸心支持部43の軸心線CLから離隔したり接近したりするようになっている。
【0070】
つまり、可動部材47が軸心支持部43の他端側(ピン48b側)に接近する方向へ相対移動すると、第1アーム44A及び第2アーム44Bの各基端が接近し、第1アーム44A及び第2アーム44Bは何れも傾倒角度α1,α2を減少させて起立状態に近づき、ピン48cが軸心支持部43の軸心線CLから離隔する。これにより、ピン48cに結合された係合面部46も軸心線CLから離隔する。
【0071】
逆に、可動部材47が軸心支持部43の他端側(ピン48b側)から離隔する方向へ相対移動すると、第1アーム44A及び第2アーム44Bの各基端が離隔し、第1アーム44A及び第2アーム44Bは何れも傾倒角度α1,α2を増加させて大きく傾倒し、ピン48cが軸心支持部43の軸心線CLに接近する。これにより、ピン48cに結合された係合面部46も軸心線CLに接近する。
【0072】
なお、係合面部46は、
図7(c),
図7(d)に示すように、部分円筒形状の部材であり、外周面46aは、伝熱管60Bの内壁の円筒状面と整合する形状に形成されている。可動部材47が軸心支持部43の他端側から離隔する方向へ相対移動すると、係合面部46は、
図7(a),
図7(c)に示すように、軸心線CLに接近するように縮径し、伝熱管60Bの内壁から離隔する。また、可動部材47が軸心支持部43の他端側に接近する方向へ相対移動すると、係合面部46は、
図7(b),
図7(d)に示すように、軸心線CLから離隔するように拡径し、伝熱管60Bの内壁に接近する。
【0073】
可動部材47を軸心支持部43に対して軸方向へ相対移動させるには、可動部材47を軸心支持部43に対して相対回転させればよい。ここでは、回転規制部材49によって可動部材47の回転を規制しながら、係止索42によって軸心支持部43を回転操作して可動部材47を軸心支持部43に対して相対回転させるようになっている。回転規制部材49には、捩り方向への高い剛性を有する中空部材(ホース)が用いられ、係止索42には、捩り方向へ一定の剛性を有し回転操作力を伝達可能な材料が用いられる。また、係止索42は、第1実施形態と同様に、高温強度の高い材料(例えば、インコネル600)を用いることが好ましい。
【0074】
係止索42は回転規制部材としてのホース49の内部に挿入されており、係合面部46を縮径させた状態で、係止具41を切断伝熱管60B側の上向き開口61Bから投入し〔
図4(b)参照〕、係止索42及びホース49を繰り出しながら、係止具41を自重で切断伝熱管60B内を降下させる。
【0075】
係止具41が、予め特定されている破損箇所BPに到達したら、上向き開口61Bからホース49の回転方向の位相を確認し、何れかの係合面部46が破損箇所BPに対応した回転位相となるようにして、ホース49の回転を固定しながら、係止索42を所定方向に回転させることにより、可動部材47に対して軸心支持部43が相対回転し、可動部材47が軸心支持部43に対して軸方向へ相対移動し、係合面部46を拡径させ、係合面部46の外周面46aを、破損箇所BPの伝熱管60Bの内壁に圧接させることができる。
【0076】
[5.2.応急処置方法並びに作用及び効果]
本実施形態にかかる応急処置具40は、上述のように構成されているので、この応急処置具40を用いて、以下のような応急処置方法によって、漏洩が発生したことを検出した伝熱管6Bの応急処置を実施することができる。
【0077】
まず、第1実施形態と同様に、漏洩が発生した伝熱管6Bを火炉天井壁3Aの上方で切断して、切断箇所の管寄せ6A,6C側の下向き開口61A,61Cに栓10をする(切断閉塞ステップ)。
【0078】
そして、係合面部46を縮径させた状態で、係止具41を切断伝熱管60B側の上向き開口61Bから投入して〔
図4(b)参照〕、係止索42及びホース49を繰り出しながら、切断伝熱管60Bの内部で係止具41を自重により降下させる(投入ステップ)。
【0079】
係止具41が、予め特定されている破損箇所BPまで到達したら、上向き開口61Bからホース49の回転方向の位相を確認し、何れかの係合面部46が破損箇所BPに対応した回転位相となるようにして、ホース49の回転を固定しながら、係止索42を所定方向に回転させる。これにより、可動部材47に対して軸心支持部43が相対回転し、可動部材47が軸心支持部43に対して軸方向へ相対移動し、係合面部46を拡径させ、係合面部46の外周面46aを、破損箇所BPの伝熱管60Bの内壁に圧接させる(係合ステップ)。これにより、係合面部46が破損箇所BPを閉塞すると共に、伝熱管60Bの内壁と係合する。
【0080】
こうして、比較的簡単な処理によって、応急処置具40によって切断伝熱管60Bを確実に係止すると共に、破損箇所BPを閉塞して、内部流体の漏洩を抑えることができるようになる。
そして、本実施形態でも、第1実施形態と同様に、応急処置具の設置を炉外より行うことができるので、足場の架設に掛かる時間や炉内冷却に掛かる時間を短縮でき、工事期間を短縮できる効果や、取替管が無くても処置が行える効果もある。
【0081】
また、応急処置具の設置後、第1実施形態と同様に、上向き開口61Bから切断伝熱管60Bの内部に、冷却用流体として水又は蒸気又は空気等を供給すること(冷却用流体供給ステップ)により、管のメタル温度の上昇を防止又は抑制し、管が熱溶融に近い状態となって落下してしまうおそれも回避される。
【0082】
特に、本実施形態では、係合面部46が破損箇所BPを閉塞して、内部流体の漏洩を抑えるので、破損が大きく内部流体の漏洩量が大きい場合であっても、冷却用流体を効率よく供給して管のメタル温度の上昇を防止又は抑制することができる。
【0083】
[6.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態の一部を変更したり、上記実施形態どうしを組み合わせたりして実施することができる。
【0084】
例えば、上記実施形態では、冷却用流体を入口管寄せ6A側の切断伝熱管60Bの開口61Bから供給し、出口管寄せ6C側の切断伝熱管60Bの開口61Bから排出するようにしているが、これとは逆に、出口管寄せ6C側の切断伝熱管60Bの開口61Bから供給し、冷却用流体を入口管寄せ6A側の切断伝熱管60Bの開口61Bから排出するようにしてもよい。
【0085】
また、第1〜3実施形態の各応急処置具20〜40を用意し、伝熱管6Bの破損状況に応じて最適な応急処置具を選択して用いても良い。例えば、破損箇所BPの漏洩量が少なければ応急処置具20,30を用いて、破損箇所BPの漏洩量が大きければ応急処置具40を用いることができる。
内壁と係合する。
【0086】
また、係止索22,32,42を操作して、切断伝熱管60Bの所定の位置まで投下された係止具21,31,41の係合要素24a,34,46を拡径させる機構は、係止索22,32,42を上向き開口61B側から操作して動作を達成できるものであればよい。例えば、第3実施形態の場合、係止具41を押圧力が伝達できる構成にし、係止具41を上向き開口61B側から押し引きして可動部材47を移動させるようにしても良い。