特許第6200985号(P6200985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ライストリッツ タービンテクニック ゲーエムベーハーの特許一覧

特許6200985α+γチタンアルミナイド合金から、往復ピストンエンジン及びガスタービン、特に航空エンジン用の高耐応力特性の部品を製造する方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200985
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】α+γチタンアルミナイド合金から、往復ピストンエンジン及びガスタービン、特に航空エンジン用の高耐応力特性の部品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/18 20060101AFI20170911BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20170911BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20170911BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20170911BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20170911BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170911BHJP
【FI】
   C22F1/18 H
   C22C14/00 Z
   F01D5/28
   F02C7/00 C
   F01D25/00 L
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 691
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】22
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-44588(P2016-44588)
(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公開番号】特開2016-166418(P2016-166418A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2016年3月8日
(31)【優先権主張番号】10 2015 103 422.0
(32)【優先日】2015年3月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516070472
【氏名又は名称】ライストリッツ タービンテクニック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ヤンシェク
(72)【発明者】
【氏名】マリアンヌ バウムゲルトナー
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−236503(JP,A)
【文献】 特開2006−118038(JP,A)
【文献】 特開2009−215631(JP,A)
【文献】 特開平08−283890(JP,A)
【文献】 特開2015−004092(JP,A)
【文献】 特開2001−316743(JP,A)
【文献】 特開平03−285051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/00 − 3/02
C22C 1/00 − 49/14
F01D 5/28
F01D 25/00
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α+γチタンアルミナイド合金から、往復ピストンエンジン又はガスタービン用の高耐応力特性の部品を製造する方法であって、使用する合金は、原子%で、
Al:40〜48%、
Nb:2〜8%、
Mo、V、Ta、Cr、Mn、Ni、Cu、Fe、Siから選択される少なくとも1種のβ相安定化元素:0.1〜9%、
B:0〜0.5%、
残部がTi及び精錬関連の不純物
の組成を有するTiAl合金であり、
プリフォームを、鋳造、金属射出成形(MIM)、アディティブ法、又はこれらの組合せによって製造し、
変形を、長手方向軸線にわたって変化する体積分布を有する前記プリフォームから出発して単一段階で実施し、
前記部品を、0.01〜0.5s−1の対数ひずみ速度で、1,070〜1,250℃のβ相領域で等温的に変形させることを特徴とする、方法。
【請求項2】
Mo、V、Ta又はこれらの混合物のみが、前記β相安定化元素として前記合金中に存在することを特徴とする、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記β相安定化元素の含有量が0.1〜2%であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載された方法。
【請求項4】
前記β相安定化元素の含有量が0.8〜1.2%であることを特徴とする、請求項3に記載された方法。
【請求項5】
Al:41〜47%、
Nb:1.5〜7%、
Mo、V、Ta、Cr、Mn、Ni、Cu、Fe、Siから選択される少なくとも1種のβ相安定化元素:0.2〜8%、
B:0〜0.3%、
残部がTi及び精錬関連の不純物
の組成のTiAl合金を使用することを特徴とする、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載された方法。
【請求項6】
Al:42〜46%、
Nb:2〜6.5%、
Mo、V、Ta、Cr、Mn、Ni、Cu、Fe、Siから選択される少なくとも1種のβ相安定化元素:0.4〜5%、
B:0〜0.2%、
残部がTi及び精錬関連の不純物
の組成のTiAl合金を使用することを特徴とする、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載された方法。
【請求項7】
Al:42.8〜44.2%、
Nb:3.7〜4.3%、
Mo:0.8〜1.2%、
B:0.07〜0.13%、
残部がTi及び精錬関連の不純物
の組成の合金を使用することを特徴とする、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載された方法。
【請求項8】
前記アディティブ法が、3D印刷若しくはレーザー肉盛溶接であることを特徴とする、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載された方法。
【請求項9】
高耐熱性材料でできた工具を前記変形に使用することを特徴とする、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載された方法。
【請求項10】
Mo合金の工具を使用することを特徴とする、請求項に記載された方法。
【請求項11】
前記変形の工程中に前記工具を不活性雰囲気によって保護することを特徴とする、請求項又は請求項10に記載された方法。
【請求項12】
前記変形に使用する工具を積極的に加熱することを特徴とする、請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載された方法。
【請求項13】
前記工具を誘導加熱することを特徴とする、請求項12に記載された方法。
【請求項14】
前記変形の前に前記プリフォームを誘導加熱又は抵抗加熱によって炉内で加熱することを特徴とする、請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載された方法。
【請求項15】
前記変形の後に、成形された部品の熱処理を行なうことを特徴とする、請求項1から請求項14までのいずれか一項に記載された方法。
【請求項16】
前記熱処理が、1,230〜1,270℃の温度での再結晶焼鈍を含むことを特徴とする、請求項15に記載された方法。
【請求項17】
前記再結晶焼鈍の保持時間が、50〜100分であることを特徴とする、請求項16に記載された方法。
【請求項18】
前記再結晶焼鈍後に、前記部品を、120秒未満内に900〜950℃の温度に冷却することを特徴とする、請求項17に記載された方法。
【請求項19】
次いで前記部品を室温まで冷却し、次いで850〜950℃の安定化及び応力緩和温度に加熱するか、又は
前記部品を、前もって冷却することなく850〜950℃の安定化及び応力緩和温度に保持することを特徴とする、請求項18に記載された方法。
【請求項20】
前記安定化及び応力緩和温度での保持時間が、300〜360分であることを特徴とする、請求項19に記載された方法。
【請求項21】
次いで0.5〜2K/分の冷却速度での300℃未満の温度へ前記部品を冷却することを特徴とする、請求項19又は請求項20に記載された方法。
【請求項22】
前記冷却速度が1.5K/分であることを特徴とする、請求項21に記載された方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α+γチタンアルミナイド合金から、往復ピストンエンジン及びガスタービン、特に航空エンジン用に高い耐応力特性(highly stressable)を有する部品を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
TiAl基の合金は金属間化合物材料に属し、現在は超合金が使用されている運転温度での用途に開発されたものである。この材料は密度が約4g/cmと小さいので、最高でおよそ700℃の温度におけるガスタービンのブレード及びディスク又はピストンエンジン部品などの可動部品の重量低減及び応力低減にかなりの可能性がある。先行技術として、例えば航空エンジン用タービンブレードの精密鋳造があるが、新しいギヤードターボファン航空エンジン用高速タービンなどのさらにより大きい負荷を伴う用途については、鋳造構造物の性質ではもはや十分ではない。変形の程度が規定された塑性加工およびその後の熱処理を含む加工熱処理によって、TiAl合金の静的及び動的性質を必要値まで増大させることができる。それでもやはり、TiAl合金は、変形抵抗が大きいために、従来方法で鍛造することができない。したがって、成形プロセスは、低変形速度にてシールド雰囲気下で、α相+γ相又はα相領域の範囲の高温で実施しなければならない。鍛造により所望の最終幾何形状を実現するために、通常、連続していくつかの鍛造ステップを実施する必要がある。
【0003】
α+γTiAl合金から高耐応力特性を有する部品を製造する方法の一例は、独国特許第10150674号(DE10150674B4)によって知られている。この方法では、特に、航空エンジン又は定置ガスタービン用に意図された部品が以下のように製造される。鍛造又は押出によって1,000〜1,340℃の範囲の温度にてα相+γ相領域で、又は1,340〜1,360℃の範囲の温度にてα相領域で一次等温変形によって球状ミクロ組織を有する封入された(encapsulated)TiAlブランクを形成する。その後、予備鍛造された部品を、同時に動的再結晶させながら1,000〜1,340℃の範囲の温度で、α相+γ相又はα相領域で少なくとも1回の二次等温変形プロセスにより最終形状に鍛造して指定された外形を有する部品を得る。その後、部品を、α相領域で溶体化焼鈍してミクロ組織を固定して、次に急冷を行なう。このように、α相+γ相領域又はα相領域での一次変形、その後の同時再結晶下での二次変形を含む二段階プロセスが実施される。しかし、このタイプの二段階プロセスは極めて高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許第10150674号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明は、従来知られていた方法よりも実施が容易である、α+γチタンアルミナイド合金から高耐応力特性を有する部品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この問題を解決するために、本発明によれば、往復ピストンエンジン及びガスタービン、特に航空エンジン用の高耐応力特性を有する部品をα+γチタンアルミナイド合金から製造する方法が提案される。この方法は、合金として、以下の組成(原子%)のTiAl合金が使用される。
Al:40〜48%、
Nb:2〜8%、
Mo、V、Ta、Cr、Mn、Ni、Cu、Fe、Siから選択される少なくとも1種のβ相安定化元素:0.1〜9%、
B:0〜0.5%、
残部がTi及び精錬関連の不純物。
変形は、長手方向軸線にわたって変化する体積分布を有するプリフォームから出発して単一段階で実施され、部品は、0.01〜0.5s−1(1/秒)の対数ひずみ速度で、β相領域で等温的に変形されることを特徴とする。
【0007】
本発明による方法は、β相領域の部品に遅い変形速度で単一段階の等温変形を行なうことによって特徴付けられる。ここでは、部品がβ相領域で安定化することが可能であり、その結果変形をその領域で実施できる特定のTiAl合金が使用される。この目的のために、TiAl合金は、β相が安定化できる適切な量の少なくとも1種の元素を含有する。この元素は、Mo、V、Ta、Cr、Mn、Ni、Cu、Fe、及びSiからなる群から選択されるが、これらの混合物も使用できる。高温で0.01〜0.5s−1の対数ひずみ速度でゆっくり変形する間に、体心立方β相中に存在する12のすべり面が活性化され、動的再結晶が開始される。追加の変形エネルギーを連続的に入力することによって、この再結晶は、変形の全過程にわたって継続するように誘導される。降伏応力が低いために、微細結晶粒のミクロ組織がこうして形成される。対照的に、独国特許出願公開10150674号(A1)に記載されるようにα相+γ相又はα相領域で変形が実施される場合、六方晶系構造が存在するため、すべり面がただ1つ存在し、2段階変形プロセスを必要とする。対照的に、本発明による方法によれば、有利なことに単一段階変形が可能であり、この単一変形プロセスが完了すると、鍛造物は完成された形状を有する。
【0008】
元素Mo、V及びTaは、β相安定化元素として特に好適であり、これらは、個々に又は混合物として使用することができる。
【0009】
β相安定化元素の含有量は、好ましくは0.1〜2%、特に0.8〜1.2%の範囲である。このことは、Mo、V及び/又はTaが使用されるときに特に当てはまる。その理由は、これらの元素が特に強い安定化特性を有するので、含有量を相対的に少なくできるためである。
【0010】
以下の組成の合金の使用が好ましい。
Al:41〜47%、
Nb:1.5〜7%、
Mo、V、Ta、Cr、Mn、Ni、Cu、Fe、Siから選択される少なくとも1種のβ相安定化元素:0.2〜8%、
B:0〜0.3%、
残部がTi及び精錬関連の不純物。
【0011】
さらにより具体的な観点からは、以下の組成の合金使用が好ましい。
Al:42〜46%、
Nb:2〜6.5%の、
Mo、V、Ta、Cr、Mn、Ni、Cu、Fe、Siから選択される少なくとも1種のβ相安定化元素:0.4〜5%、
B:0〜0.2%、
残部がTi及び精錬関連の不純物。
【0012】
以下の組成の合金が特に好適である。
Al:42.8〜44.2%、
Nb:3.7〜4.3%、
Mo:0.8〜1.2%、
B:0.07〜0.13%、
残部がTi及び精錬関連の不純物。
【0013】
β相領域における変形温度は、1,070〜1,250℃が好ましい。上述したように、変形は、等温条件下で実施される。すなわち、成形工具は、作業を要求される狭い温度ウィンドウを逸脱することなく実施できるように変形温度に保持される。対数ひずみ速度は、10−3−1〜10−1−1である。
【0014】
使用されるプリフォームは、長手方向軸線にわたって変化する体積分布を有する。すなわち、所定の基本3次元形状が既に存在する。それから、本発明による単一段階変形によって、完成された部品が鍛造される。このプリフォームは、鋳造、金属射出成形(MIM)、アディティブ法(3D印刷、レーザー肉盛溶接など)、又は今述べた可能性の組合せによって製造されることが好ましい。
【0015】
高耐熱性材料からなる工具、好ましくはMo合金の工具を使用することが変形のために好ましい。変形工程中、工具は、不活性雰囲気によって酸化から保護されることが望ましい。工具を変形温度に保つために、例えば、好ましくは誘導加熱、又は抵抗加熱によって積極的に加熱される。
【0016】
プリフォームも、例えば、誘導加熱又は抵抗加熱によって炉内で変形工程の前に加熱される。
【0017】
変形の後に、要求される特性を得るために、且つこの目的のために、変形にとって好都合であるβ相を適当な熱処理によって微細層状α相+γ相に変換するために、成形された部品の熱処理を行うことが好ましい。熱処理は、1,230〜1,270℃の温度での再結晶焼鈍を含むことができる。再結晶焼鈍の保持時間は、50〜100分が好ましい。再結晶焼鈍は、γ/α変態温度の領域で実施される。やはり本発明によって提供されるが、部品が再結晶焼鈍後120秒以内に、又はより急速に900〜950℃の温度に冷却されると、α相+γ相の密接な層間間隔が形成される。
【0018】
次に第2の熱処理を行うことが好ましい。部品は、最初に室温まで冷却され、次いで850〜950℃の安定化又は応力緩和温度に加熱される。代わりに、すでに記載した再結晶焼鈍後に急速に到達された900〜950℃の温度から直接、850〜950℃の安定化及び応力緩和温度に進むことも可能である。安定化及び応力緩和温度での好適な保持時間は、どのようにこの温度に到達するかにかかわらず、300〜360分が好ましい。
【0019】
保持時間が完了すると、部品の温度は、好ましくは規定された冷却速度で300℃未満に下げられる。冷却速度は、0.5〜2K/分が好ましい。すなわち、冷却は、相対的に徐々に進み、ミクロ組織を安定化させ、応力緩和するように機能を果たす。冷却速度は、1.5K/分が好ましい。
【0020】
この冷却ステップは、油などの液体中、又は空気中、又は不活性ガス中で実施することができる。
【0021】
本発明による方法に加えて、本発明は、ここで記載した方法によって製造される、特に往復ピストンエンジン、航空エンジン、又はガスタービン用のα+γチタンアルミナイド合金からなる部品にも関する。この部品は、例えば、ガスタービンのブレード又はディスクなどであり得る。