(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第一実施形態:座屈拘束ブレース1〕
以下、本発明の第一実施形態に係る座屈拘束ブレース1について説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る座屈拘束ブレース1を示す図であって、(a)正面図、(b)平面図、(c)A−A断面図、(d)B−B断面図である。
座屈拘束ブレース1は、例えば建築、橋梁構造物において筋交い等に用いられ、これらの耐震・制震性能を向上するものである。
なお、座屈拘束ブレース1の軸線Pに沿う方向を、軸線P方向という。
【0020】
図に示すように、この座屈拘束ブレース1は、軸線Pに沿って延びる中心鋼材2と、中心鋼材2の両端部を突出させた状態で外周側から覆う拘束部材6と、拘束部材6の内側に充填された充填材8と、を備える。
また、座屈拘束ブレース1は、中心鋼材2の両端部に接続された4つの接合プレート(接合板)5を備える。
【0021】
中心鋼材2は、一対の芯材3と、2つブリッジプレート(連結板)4と、を備える。すなわち、座屈拘束ブレース1は、2つの芯材3を備えるデュアルコア(ダブルコア)プレートタイプである。
一対の芯材3は、それぞれ細長い平板形をなして、座屈拘束ブレース1の軸線Pに沿って延在する。これら一対の芯材3は、それぞれの板厚方向に互いに離間して平行に配置される。
【0022】
ブリッジプレート4は、それぞれ平板形をなして、一対の芯材3の両端部にそれぞれ一つずつ固定される。各ブリッジプレート4は、平行に配置された一対の芯材3に対して、それぞれ垂直に交差する。また、各ブリッジプレート4は、各芯材3の板幅方向の中央に固定される。
各ブリッジプレート4は、一対の芯材3の端部から、軸線Pに沿って突出する。
【0023】
拘束部材6は、細長い角筒形の鋼管であり、中心鋼材2よりも短く形成される。具体的には、拘束部材6は、一対の芯材3よりもやや短く、芯材3とブリッジプレート4の接合部の一部を露出させる。言い換えると、ブリッジプレート4が拘束部材6の内外に亘って配置される。
なお、拘束部材6は、例えば円筒形の鋼管であってもよい。
【0024】
拘束部材6の両端部には、開口を閉塞する端部蓋7が設けられる。中心鋼材2は、この端部蓋7を貫通した状態で、拘束部材6の軸線P上に配置される。
【0025】
充填材8は、コンクリートやモルタル等であって、中心鋼材2(特に芯材3)の軸線P方向を除く方向への変形を抑制する。また、充填材8は、芯材3の軸力が拘束部材6に伝達しないように、中心鋼材2を拘束部材6に対して軸線P方向に相対移動ができるように保持する。
【0026】
4つの接合プレート5は、それぞれ平板形をなして、中心鋼材2の両端部を挟み込む(挟持する)ように配置される。具体的には、ブリッジプレート4の各端部の板幅方向の両側に2つの接合プレート5がそれぞれ配置される。2つの接合プレート5は、ブリッジプレート4に対して垂直に連結する。各接合プレート5は、軸線P方向の長さがブリッジプレート4の板厚方向の長さよりも長い。
また、各接合プレート5は、拘束部材6の外部に配置される。そして、各接合プレート5は、ブリッジプレート4の端部から、軸線P方向の外側に突出するように配置される。
なお、各接合プレート5は、作業者が手で持つことができない位重いものである。
【0027】
図4に示すように、ブリッジプレート4と接合プレート5は、プレート連結部10を介して連結する。プレート連結部10は、接合プレート5をブリッジプレート4に対して回転可能(移動可能)に連結する。
プレート連結部10は、接合プレート5に形成された貫通孔11と、ブリッジプレート4に配置されたナット部12と、貫通孔11を挿通されてナット部12に螺着するボルト13とを備える。つまり、ブリッジプレート4と接合プレート5は、強固に接合されておらず、一本のボルト13を介して仮固定される。
【0028】
このため、接合プレート5は、ボルト13を緩めることにより、ブリッジプレート4に対して回転移動することができる。例えば、ブリッジプレート4に対して接合プレート5を90°回転させると、接合プレート5は
図1(b)に示す位置Qに配置され、ブリッジプレート4の端部から軸線P方向の外側に突出しなくなる。接合プレート5及び中心鋼材2の全体としての軸線P方向の長さが、長さL1だったものが長さL2に短くなる。
このように、本実施形態の座屈拘束ブレース1は、接合プレート5がブリッジプレート4に対して回転移動することで、接合プレート5及び中心鋼材2の全体としての軸線P方向の長さが長い延長状態と、軸線P方向の長さが短い短縮状態と、に切替え可能である。座屈拘束ブレース1は、接合プレート5及び中心鋼材2の全体としての軸線P方向の長さを調節可能である。
【0029】
図1に示すように、ブリッジプレート4の端部には、一対のエレクションピース15が配置される。ブリッジプレート4の端部には2つの貫通孔が形成され、この2つの貫通孔を覆うように、ブリッジプレート4の両面に一対のエレクションピース15がそれぞれ配置される。つまり、一対のエレクションピース15は、ブリッジプレート4の端部を挟持するように配置される。
エレクションピース15は、四角形の小形平板であって、4つの貫通孔が形成される。ブリッジプレート4とエレクションピース15に形成された2つの貫通孔にそれぞれボルトを挿通してナットに螺合することにより、エレクションピース15がブリッジプレート4の端部に連結される。
【0030】
〔耐力構造物100〕
次に、
図2を参照して、第一実施形態の座屈拘束ブレース1を組み込んだ耐力構造物100について説明する。
耐力構造物100は、外形が矩形の枠状をなす複数のフレーム103と、フレーム103の各々のコーナー部分104に配置されたガセットプレート(取り付け部材)108と、ガセットプレート108を介してフレーム103に取り付けられた座屈拘束ブレース1と、を備える。
【0031】
フレーム103は、上下方向に延びて互いに水平方向左右に離間して設けられた二本の縦枠106と、これら縦枠106同士を上下各々で接続する二本の横枠107とを有し、これにより、縦枠106と横枠107との接続部分にコーナー部分104が形成される。
【0032】
ガセットプレート108は、平板状の板部材であり、フレーム103のコーナー部分104に配置される。具体的には、ガセットプレート108は、縦枠106と横枠107との間に亘って、フレーム103の内側に向けて、斜め上方又は斜め下方に張り出すように設けられる。
ガセットプレート108は、縦枠106及び横枠107に対して、例えば溶接等によって接合される。
【0033】
図3に示すように、ガセットプレート108には、斜め上方を向く端面からフレーム103のコーナー部分104に向かって平行に延びる2つのスリット109が形成される。
これら2つのスリット109は、座屈拘束ブレース1をフレーム103に取り付けるときに、一対の接合プレート5が差し込まれる。このため、2つのスリット109は、接合プレート5の板厚よりもやや大きい幅に形成される。
ガセットプレート108には、2つの貫通孔が形成される。2つの貫通孔は、ガセットプレート108の端面の近傍で、2つのスリット109の間に配置される。ガセットプレート108の端面は、エレクションピース15が取り付けられる。ガセットプレート108とエレクションピース15に形成された2つの貫通孔にそれぞれボルトを挿通してナットに螺合することにより、エレクションピース15がガセットプレート108の端部に連結される。
【0034】
図2に示すように、座屈拘束ブレース1は、フレーム103の対角線上に位置する2つのガセットプレート108同士を接続するように配置される。座屈拘束ブレース1は、ガセットプレート108同士の間に架け渡される。つまり、座屈拘束ブレース1は、軸線Pが上下方向、左右方向に対して傾斜するように設けられる。
座屈拘束ブレース1は、各接合プレート5がガセットプレート108の各スリット109に差し込まれた状態で、隅肉溶接によって接合される。つまり、4つの接合プレート5が2つのガセットプレート108に対して接合される。
【0035】
〔座屈拘束ブレース1の取り付け方法〕
次に、
図3及び
図4を参照して、第一実施形態の座屈拘束ブレース1の取り付け方法について説明する。
座屈拘束ブレース1の取り付けは、ブレース揚重工程、仮固定工程、建入直し工程、接合プレート差し込み工程、溶接工程の順に行われる。
【0036】
ブレース揚重工程S1では、図示しないクレーンに取り付けられた吊り具により座屈拘束ブレース1を吊り上げて、座屈拘束ブレース1をフレーム103のガセットプレート108に近接させる。
このとき、座屈拘束ブレース1の接合プレート5を短縮状態にしておく。つまり、座屈拘束ブレース1の両端部側から接合プレート5を退避させる。具体的には、プレート連結部10のボルトを緩めて、接合プレート5を回転移動させた後に、ボルトを締めて仮固定する。これにより、ブリッジプレート4の端部から接合プレート5が突出していない状態になる。
接合プレート5がブリッジプレート4の端部から突出していないため、座屈拘束ブレース1をガセットプレート108に向けて近づけやすくなる。これにより、ブリッジプレート4の端部とガセットプレート108の端部を簡単に近接させることができる。
【0037】
仮固定工程S2では、エレクションピース15により、座屈拘束ブレース1とガセットプレート108を連結する。
エレクションピース15をブリッジプレート4とガセットプレート108の間に架け渡して、それぞれの貫通孔同士を重ね合わせる。そして、各貫通孔にそれぞれボルトを挿通してナットで螺合する。
それぞれの貫通孔は、ボルトが挿通しやすくなるように、大き目の径に形成されている。このため、座屈拘束ブレース1をクレーンで吊り下げた状態でも、座屈拘束ブレース1とガセットプレート108をエレクションピース15により容易に連結することができる。
本工程において、座屈拘束ブレース1はフレーム103に対して仮固定される。つまり、エレクションピース15に挿通したボルトは、本締めすることなく、仮締めされる。
座屈拘束ブレース1をフレーム103に仮固定したら、座屈拘束ブレース1に掛けられた吊り具を取り外す。
【0038】
そして、上述したブレース揚重工程S1と仮固定工程S2を繰り返して、複数のフレーム103に対して、座屈拘束ブレース1をそれぞれ取り付ける(仮固定する)。
【0039】
建入直し工程S3では、複数のフレーム103の倒れやゆがみ(歪み)を測定し、この倒れやゆがみを直す。フレーム103の倒れやゆがみを直すことにより、フレーム103と座屈拘束ブレース1の位置関係も正しい位置関係になる。
前述のようにエレクションピース15、ブリッジプレート4、及びガセットプレート108の貫通孔はボルトに対して大き目の径に形成されているため、これらの貫通孔とボルトとがガタつく。このガタつきにより、ガセットプレート108のスリット109に対して座屈拘束ブレース1の位置を調節することができる。
【0040】
接合プレート差し込み工程S4は、接合プレート5をガセットプレート108のスリット109に差し込む。
具体的には、プレート連結部10のボルト13を緩めて、接合プレート5をブリッジプレート4に対して回転移動させ、接合プレート5を延長状態にする。つまり、接合プレート5をブリッジプレート4の端部から突出するように、ガセットプレート108に向けて回転させる。
上述したように、フレーム103と座屈拘束ブレース1の位置関係が正しくなっているので、接合プレート5はガセットプレート108のスリット109に対して円滑に差し込まれる。接合プレート5はプレート連結部10を介してブリッジプレート4に連結されているため、スリット109に接合プレート5を差し込む工程は、作業者の人力でも行うことができる。
このようにして、全ての接合プレート5をガセットプレート108のスリット109に差し込む。
【0041】
最後に、溶接工程S5では、プレート連結部10のボルトを本締めして、接合プレート5をブリッジプレート4に対して固定する。また、エレクションピース15の4つのボルトも本締めして、ブリッジプレート4とガセットプレート108をエレクションピース15を介して連結する。
次いで、接合プレート5とガセットプレート108を溶接して溶接部W(
図4参照)を形成する。また、接合プレート5とブリッジプレート4も溶接する。各プレート同士は、隅肉溶接で溶接されることが好ましい。溶接は、ブリッジプレート4及びガセットプレート108に対して、片面だけ行ってもよいし、両面とも行ってもよい。
これにより、座屈拘束ブレース1は、フレーム103に対して強固に取り付けられる。
【0042】
以上説明したように、座屈拘束ブレース1においては、取り付け作業の際に、接合プレート5を短縮状態にして、接合プレート5を中心鋼材2の両端部側から退避させることができる。このため、耐力構造物100に設置したフレーム103のガセットプレート108に対して、座屈拘束ブレース1を干渉することなく仮固定できる。
そして、座屈拘束ブレース1をガセットプレート108に対して仮固定した後に、建入直し工程S3を行ってフレーム103のゆがみ等を直してから、接合プレート5を延長状態にして接合プレート5をガセットプレート108のスリット109に差し込む。このため、ガセットプレート108のスリット109の初期の位置精度が不十分な場合であっても、ガセットプレート108に対して座屈拘束ブレース1を容易に連結することができる。
座屈拘束ブレース1の取り付け時間を短縮できる。したがって、クレーンの占有時間(ブレース揚重工程S1)が短く、施工時間も短縮できる。
【0043】
また、座屈拘束ブレース1の製品コストを上昇させることなく、座屈拘束ブレース1の施工性を向上できる。
なお、座屈拘束ブレース1は、デュアルコア(ダブルコア)プレートタイプに限らず、シングルコアプレートタイプであってもよい。
【0044】
また、耐力構造物100及び座屈拘束ブレース1の取り付け方法においては、座屈拘束ブレース1をフレーム103に容易に組み込むことができるので、施工性向上によって施工工数の低減が可能となる。
【0045】
〔第二実施形態:座屈拘束ブレース21〕
次に、
図5を参照して、本発明の第二実施形態に係る座屈拘束ブレース21について説明する。なお、
図5中には、プレート連結部10の一部拡大図も示した。
第一実施形態と共通の構成要素には、同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0046】
座屈拘束ブレース21は、1つ芯材23を備えるシングルコアプレートタイプであり、さらに、4つの接合プレート5が芯材23の両端部に接続される。
芯材23は、2つブリッジプレート24よりも軸線Pに沿って突出するに配置される。
【0047】
4つの接合プレート5は、芯材23の両端部を挟み込むように配置される。具体的には、芯材23の各端部の板幅方向の両側に2つの接合プレート5がそれぞれ配置される。2つの接合プレート5は、芯材23に対して垂直に連結する。
そして、各接合プレート5は、芯材23の端部から、軸線Pに沿って突出できるように配置される。
【0048】
芯材23と接合プレート5は、プレート連結部10を介して連結する。
プレート連結部10は、接合プレート5に形成された貫通孔11と、芯材23に配置されたナット部12と、貫通孔11を挿通されてナット部12に螺着するボルト13とを備える。
このため、接合プレート5は、ボルト13を緩めることにより、芯材23に対して回転できる。例えば、接合プレート5を90°回転移動させると、接合プレート5は、芯材23の端部から突出しなくなる。
【0049】
座屈拘束ブレース21は、座屈拘束ブレース1と同一の作用効果を奏する。すなわち、座屈拘束ブレース21においては、取り付け作業の際に、接合プレート5を短縮状態にして接合プレート5を退避させることができる。このため、耐力構造物100に設置したフレーム103のガセットプレート108に対して、座屈拘束ブレース21を干渉することなく仮固定できる。
そして、座屈拘束ブレース21をガセットプレート108に対して仮固定した後に、建入直し工程S3を行ってフレーム103のゆがみ等を直してから、接合プレート5を延長状態にして接合プレート5をガセットプレート108のスリット109に差し込む。このため、ガセットプレート108のスリット109の初期の位置精度が不十分な場合であっても、ガセットプレート108に対して座屈拘束ブレース1を容易に連結することができる。
【0050】
このように、本発明は、種々の形式の座屈拘束ブレース1,21に対して適用することができる。
なお、耐力構造物100は、座屈拘束ブレース1に代えて、座屈拘束ブレース21を組み込んでもよい。また、座屈拘束ブレース1と座屈拘束ブレース21が混在してもよい。
そして、第一実施形態の座屈拘束ブレース1の取り付け方法は、第二実施形態の座屈拘束ブレース21の取り付け方法にも適用される。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。
【0052】
プレート連結部10は、接合プレート5をブリッジプレート4や芯材23に対して回転移動可能に連結する場合に限らない。プレート連結部10は、接合プレート5をブリッジプレート4や芯材23に対して軸線P方向等に平行移動(スライド)可能に連結してもよい。この場合には、例えば、接合プレート5に形成する貫通孔を、軸線P方向に延びる長孔にする。
【0053】
プレート連結部10は、ボルトやナットを用いる場合に限らない。接合プレート5がブリッジプレート4や芯材23に対して回転移動したり、平行移動したりするように連結できればよく、その構成は任意である。
【0054】
座屈拘束ブレース1、21は、いわゆる片流れ配置(コーナー部分104同士の間に配置)される場合に限らない。座屈拘束ブレース1、21は、いわゆるK型配置される場合であってもよい。
【解決手段】座屈拘束ブレース1は、軸線Pに沿ってに延在する中心鋼材2と、中心鋼材2の両端部を突出させた状態で外周側を覆う拘束部材6と、拘束部材6の内側に充填された充填材と、中心鋼材2の両端部を挟持するように配置される一対の接合プレート5と、接合プレート5を中心鋼材2に対して移動可能に連結するプレート連結部10と、を備え、接合プレート5が中心鋼材2に対して移動することで、接合プレート5及び中心鋼材2の全体としての軸線P方向の長さを調節可能である。