【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年10月12日から平成29年1月18日にかけ、複数の顧客に対し本願発明に係るライニング鋼管を公開した。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているようにバサルトのライニング材を内張りすることで、シュート内側表面の摩耗を抑制できる。しかしながら、エルボなど屈曲部や、ライニング材の継ぎ目におけるバサルトの摩耗が顕著であることから、定期的に人手によりバサルトの貼り替えを行うなどのメンテナンスが必要とされていた。このようなメンテナンス作業は非常に労力が大きく、コストのかさむものであった。
【0005】
この点、特許文献2から特許文献5に記載されているような高クロム系鋳鉄は、バサルトに比べて優れた耐摩耗性がある。したがって、高クロム系鋳鉄をライニング材として用いることにより、メンテナンスにかかる労力及びコストを大幅に削減することができる。しかしながら、特許文献2に記載のようなライニング材を内張りする方法では、ライニング材の継ぎ目の目地が摩耗しやすく、耐久性が十分とは言えない。また、特許文献3から5の方法によれば高クロム系鋳鉄のライニング材を外層の内側に一様に設けることは可能であるが、遠心鋳造により製造されるため、直管以外の異形管に適用できないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、遠心鋳造によらない鋳ぐるみで作成されたライニング鋼管、ライニング鋼管を用いたプラント配管設備、ライニング鋼管の検査方法、ライニング鋼管の設置方法及びライニング鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のライニング鋼管は、
鋳ぐるみにより作成した異種素材の二重鋼管であるライニング鋼管であって、
外層の鋼管にはもたせ穴が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、
内層のライニングが高クロム系鋳鉄である
ことが好ましい。
【0009】
本発明のライニング鋼管は、
鋳ぐるみにより作成した異種素材の二重鋼管であって、かつ異形管である
ことを特徴とする。
【0010】
本発明のライニング鋼管の製造方法は、
外層となる鋼管に所定径のもたせ穴を所定ピッチで穿設し、
前記外層となる前記鋼管の内側に中子を配し、
前記鋼管と前記中子との間隙に溶湯を注入することによりライニングを形成する
ことを特徴とする。
【0011】
本発明のライニング鋼管の製造方法は、
外層となる鋼管の内壁に接して発泡スチロール層を形成し、
前記発泡スチロール層の内側に砂を投入し、
溶湯を注入して前記発泡スチロール層を前記溶湯で置換することによりライニングを形成する
ことを特徴とする。
【0012】
本発明のプラント配管設備は、
前記ライニング鋼管を用いたプラント配管設備である。
【0013】
本発明のライニング鋼管の検査方法は、
前記もたせ穴からライニング材の残存厚みを測定する
ことを特徴とする。
【0014】
本発明のライニング鋼管の設置方法は、
前記ライニング鋼管と隣接する他の鋼管とを接続するにあたって、
前記外層の前記鋼管を前記隣接する他の鋼管と直接溶接して接続するか、または、
前記外層の前記鋼管にフランジを溶接して、前記フランジを介して前記隣接する他の鋼管と接続する。
ことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本発明の実施の形態にかかるライニング鋼管1の構造について説明し、次に、ライニング鋼管1の製造方法について説明する。
【0017】
<ライニング鋼管1の構造>
図1に示すように、ライニング鋼管1は、鋼管10と、鋼管10の内側に形成されたライニング20と、を有する。
鋼管10は、SGP(配管用炭素鋼管)やSTKM(機械構造用炭素鋼鋼管)等のパイプであって、例えば水砕スラグの輸送用途では外径100mmから2000mmのものが使われ、例えば外径300mmから700mmのものがよく使用される。なお、外層になる鋼管の材質、製法、径、さらには形状については限定されない。
【0018】
ライニング20は、耐摩耗性を有する材料でできた内層であり、典型的には高クロム系鋳鉄が材料として用いられる。
表1に、高クロム系鋳鉄を用いたライニング20の化学成分の一例を示す。高クロム系鋳鉄を用いたライニング20の硬度は、例えばHRC(ロックウェル硬さ)40以上である。
【0020】
鋼管10の側面には、もたせ穴11が設けられる。
本実施の形態では、もたせ穴11の直径は10mm〜30mm程度とした。また、鋼管10の周方向及び軸方向に所定のピッチで複数のもたせ穴11を配置した。
もたせ穴11を設ける軸線方向のピッチとしては、例えば、20mm〜150mmピッチであり、鋼管の大きさにもよるが、100mmピッチ前後とするのがよい。
もたせ穴11を設ける周方向のピッチとしては例えば45度ピッチであってもよく、もっと広い角度ピッチ(例えば120度ピッチ)でもよいし、もっと狭い角度ピッチ(例えば30度ピッチ)でもよい。好ましくは、90度ピッチ程度である。
なお、もたせ穴11の直径及び位置は上述の例に限定されるものでなく、任意である。
【0021】
ライニング20の構成材料(典型的には高クロム系鋳鉄)がもたせ穴11から鋼管10の外側に向けて幾らかはみ出ることによって、ライニング20と鋼管10とが軸方向又は周方向にズレることがないよう保持される。すなわち、もたせ穴11は、ライニング20の抜け止め及び回り止めとして機能する。
また、もたせ穴11は、ライニング20の形成時に発生する熱やガスを外部に逃がす通気口としても機能する。
【0022】
さらに、もたせ穴11は、ライニング20の残存厚みを超音波等を用いた公知の非破壊検査方法を使用して計測するための検査口として使用できる。
玄武岩(バサルト)を用いた従来のライニング鋼管は、その特性上、残存厚みを計測する場合は、管の内側に人が入って内張りを目視で検査したり、実際にライニング鋼管をプラント設備から一旦取り外して計測したりする必要があった。
この点、本実施の形態にかかるライニング鋼管1では、もたせ穴11から単一の素材(ライニング20の構成材料)を露出させている。よって、このもたせ穴11部分においてライニング20の残存厚みを上述の超音波等を用いて計測すれば、従来のライニング鋼管特有の問題が解消され、大規模プラントの配管設備のメンテナンスが画期的に簡便となる。このことは、検査する作業者の手間や労力の削減とともに安全性を向上させることにも繋がる。
ちなみに、超音波を用いて残存厚みを正確に計測する方法は本発明のライニング鋼管1以外にはできない。その理由は玄武岩(バサルト)のライニング鋼管では玄武岩そのものの特性上計測不可であり、また、遠心鋳造で製造した二重管は外層と内層とが密着していない場合があるため正確に計測できないからである。したがって、従来のライニング鋼管では、手間を掛けて目視で残存厚みの検査をするか、あるいは、検査せずに(できずに)経験則に基づいて定期的に交換するようにしていた。
【0023】
<ライニング鋼管1の製造方法1>
次に、ライニング鋼管1の製造方法について説明する。
図2を参照されたい。
この例では、まず外径300mm、内径約286mmのSGPの鋼管10に、所定径(例えば直径13mm)のもたせ穴11を所定のピッチで穿孔する(
図2A)。
次に、鋼管10の内側に直径240mmの円柱状の中子(
図2B)を挿入する。
中子には、製造中に発生するガスを通しやすい通気性のある素材を用いることが好ましい。
【0024】
鋼管10と中子との中心軸を一致させるように両者を配置すると、鋼管10と中子との間に厚み約20mmの間隙Gができる(
図2C)。
鋼管10および中子を砂中に配置し、前記間隙Gにライニング20の構成材料(典型的には高クロム系鋳鉄)の溶湯を流し込む。
このとき、もたせ穴11にも溶湯が流れ込み、溶湯はもたせ穴11からわずかに外側に出ていく。
(なお、鋼管10および中子を砂中に配置する前に、もたせ穴11の外側からテープを貼っておいて、砂がもたせ穴11から浸入しないようにしておく。)
冷却時間をおいて、成型後に中子を取り除くと、鋼管10の内側をライニング20が覆うライニング鋼管1が形成される。
【0025】
(変形例1)
なお、外層の鋼管10にもたせ穴11を穿設した後、
図3に例示するように、もたせ穴11に発泡スチロール(発泡樹脂)50を詰めておいてもよい。
発泡スチロール(発泡樹脂)50は、
図3に例示されるように、もたせ穴11の外側にも突き出す形状をしている。
鋼管10および中子を砂中に配置し、ライニング20の構成材料の溶湯を流し込むと、発泡スチロール50が溶湯と置換され、もたせ穴11からしっかりとライニング20が突き出る。仕上げ段階において、もたせ穴11から突き出た不要なライニング材は切断する。
【0026】
<ライニング鋼管1の製造方法2>
図4に、ライニング鋼管1の製造方法の他の例を示す。
この例において、鋼管10はL字型に曲がっていたり、Y字のように分岐があったりするような異形管(つまり直管でない)であってもよい。
もたせ穴11の直径及び配置は上述してきたように適切に決めればよい。
【0027】
まず、鋼管10の内側、すなわち内壁に約20mm厚の成型発泡スチロール51を内張りする(
図4B)
次に、中空に形成された発泡スチロール層の内側の余白に砂を投入して押し固める。そこへライニング20の構成材料の溶湯を流し込むと、発泡スチロールが燃焼気化して溶湯と置換される。成型後に砂を取り除くと、鋼管10の内側をライニング20が覆うライニング鋼管1が形成される。
【0028】
この方法であれば、発泡スチロール(発泡樹脂)を内張りできれば、この発砲スチロール(発泡樹脂)を置換してライニングを形成できるわけであるから、ライニング鋼管の形状の制限はほぼなくなる。
摩耗が激しいのは管の屈曲部分なのであるが、従来のような遠心鋳造では直管にしかライニングできなかった。この点、上記方法であれば異形のライニング鋼管が得られる。
【0029】
さらに、屈曲部Cにおいてライニングの損傷が激しいと予想されるので、屈曲部のライニングを他の部分よりも厚めにしておくこともできる。これは
図4(B)ように内張りする成型発泡スチロール(発泡樹脂)の厚み(52)を調整することによって達成される。場所によってライニング材の厚みを変えるというのは遠心鋳造では不可能なことである。
【0030】
<ライニング鋼管1の試験結果>
発明者らは、高クロム系鋳鉄をライニング20として用いた本発明にかかるライニング鋼管1(以下、高クロム管と称する)と、従来のバサルトをライニングとして用いた鋼管(以下、バサルト管と称する)との耐摩耗性を比較する実験を行った。
まず、高クロム管及びバサルト管の摩耗していない部分をそれぞれ切り出して試験体とした。
高クロム管の試験体の厚さは28.2〜29.9mm、バサルト管の試験体の厚さは20mmであった。なお、高クロム管は焼入れを行っていない。
硬度を測定したところ、高クロム管の試験体はHRC45.5、バサルト管の試験体はHRC65.3であった。
【0031】
次に、エアー圧力0.7MPa、グリッド量100g/s、粒子径1.7mmのグリッドショットを、90度又は120度の投射角度で、300mmの距離から試験体に投射した(
図5参照)。
表2に試験結果を示す。
【0033】
バサルト管については、投射角度90度の場合、ショット時間3分で20mm摩耗し、試験体に穴が空いた。
同様の条件で再度試験を行ったところ、ショット時間2分30秒で試験体に穴が空いた。
投射角度120度の場合、ショット時間2分30秒で試験体に穴が空いた。
一方、高クロム管については、投射角度90度の場合、ショット時間3分で試験体が1.2mm摩耗した。
投射角度120度の場合、ショット時間3分での摩耗量は0mmであった。
【0034】
この実験により、バサルト管は高クロム管よりも脆く、高クロム管のほうが耐摩耗性に優れることが明らかになった。
具体的には、高クロム管はバサルト管の約1/20の摩耗量であった。
【0035】
<ライニング鋼管1の使用例>
ライニング鋼管1は、水砕スラグをはじめとする種々の流体を輸送するための配管設備として、製鉄所の溶鉱炉や他のプラント設備等に利用することができる。
ライニング鋼管1の外層である鋼管10は公知の技術により溶接が可能であるから、直管やエルボなどの異形管にフランジ等を溶接することが可能である。
一般的にフランジを配管に取り付けボルト等で接合し自在に配管設備を設置することができる。
また、ライニング鋼管1は、金属の外層を備えているので、従来のバサルト管などともフランジ等を溶接して取り付けることができ、本発明にかかるライニング鋼管を用いて自在に配管設備を設置することができる。
したがって、例えば従来のバサルト管を用いて構成された配管設備のうち、エルボなど摩耗の激しい部分のみを本発明にかかるライニング鋼管1に置換、すなわち交換することで、従来の配管設備の耐久性を向上させることも可能である。
(ちなみに、高クロム鋳鉄単層の管では、耐摩耗性は高いのであるが、脆いし、溶接で接続できない、という難点がある。)
【0036】
また、ライニング鋼管1の配管劣化調査を行う場合には、ライニング20の残存厚みの検査部位としてもたせ穴11を利用することができる。
典型的には、配管劣化調査においては超音波厚さ計などを用い、配管の所定の測定部位における管壁の残存厚みを計測する。
測定部位は、例えば周方向及び軸方向に数箇所から十数箇所設定される。
一般に、ライニング鋼管1のような二重管は、製造工程や構造上の問題から外層と内層とが密着していない場合がある。
この場合、外部から正確な厚みを正確に測定することが困難である。
【0037】
しかしながら、ライニング鋼管1では、もたせ穴11から単一の素材(ライニング20の構成材料)が露出しているから、もたせ穴11を測定部位として残存厚みを計測すれば、上述の不正確性の影響を免れることができる。そのため、もたせ穴11は、配管劣化調査に適した位置及びピッチで配置されていることが望ましい。
【0038】
例えば、
図4に例示するように、屈曲した管(例えばL字管)の屈曲部Cにおいてライニングの損傷が激しいと予想されるので、検査がより密にできるように、屈曲部(とくには屈曲部の外側)に重点的にもたせ穴を配置しておくとよい。(なお、その他の部分については、これまで説明してきたように、外層の鋼管と内層のライニング材との結合がとれるようにもたせ穴を設けておけばよい。)
【0039】
本実施の形態によれば、ライニング鋼管1は、もたせ穴11を有する鋼管10の内側に、高クロム系鋳鉄などのライニング20を遠心鋳造によらずに形成することができる。
上記実施形態によれば、外層の鋼管にもたせ穴を穿設し、内層のライニング材をこのもたせ穴から少しはみ出るようにして、外層と内層とが十分に強く結合したライニング鋼管を得ることができる。
【0040】
遠心鋳造すれば、たしかに、外層の鋼管の内側に内層のライニング材を一様に設けることができるかもしれないが、これでは直管しかできない。
本発明により、直管だけでなく、エルボなど屈曲部を有するような異形管にも、高クロム系鋳鉄などのライニング20を設けることができる。
また、ライニング鋼管1には継ぎ目がなく、従来のバサルト管で課題となっていた目地から剥離することが皆無になり材質的にも更に耐摩耗性に優れた内層が形成されている。
また、もたせ穴11によりライニング20はズレや回転を起こすことがない。
また、もたせ穴11は、製造時に発生する熱やガスを逃す点で有用である。
さらに、もたせ穴11は、ライニング鋼管1の厚みを正確に測定するための測定部位として用いることができる。
【0041】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
もたせ穴11の利用法として、溶湯を流し込む湯口とすることも考えられる。鋼管が長かったり、複雑な異形管だったりすると、管の端にある湯口だけからでは満遍なく溶湯を行き渡らせることが難しい場合もある。この点、いくつかのもたせ穴11も湯口とすれば、細い通路に一気に満遍なく溶湯を行き渡らせることができる。これは製品の品質の安定性に繋がる。
【解決手段】鋳ぐるみにより作成した異種素材の二重鋼管であるライニング鋼管1は、外層の鋼管10と、内層のライニング20とを有する。鋼管10には、もたせ穴11が設けられている。ライニング20は、例えば高クロム系鋳鉄である。ライニング鋼管1は、例えば鋼管10の内側に中子を配し、鋼管11と中子との間隙に溶湯を注入してライニング20を形成することにより製造される。