(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基材の主面又は前記中間層のうち何れかの層の主面は配向阻害領域を有し、前記配向阻害領域は、前記配向阻害領域の上に積層される層の結晶配向性を阻害して前記第1非配向領域および前記第2非配向領域を形成させる領域である、請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
なお、以下の説明において、XYZ直交座標系を採用する。Y方向は線材の長手方向である。X方向は、線材表面の面内であってY方向と直交する方向であり、線材の幅方向である。Z方向は、X方向およびY方向に直交する方向であり、線材の厚み方向である。
【0015】
<第1実施形態>
図1に本実施形態に係る酸化物超電導線材8の断面斜視図を示す。
図2Aに本実施形態に係る酸化物超電導線材8の横断面模式図を示す。
図2Bは本実施形態に係る酸化物超電導線材8の断面拡大図である。
図1、
図2Aおよび
図2Bに示すように、本実施形態に係る酸化物超電導線材8は、積層体5と、積層体5の外周に形成された金属層6と、を備えている。
積層体5は、基材1の主面1b(第1面)に、中間層2、酸化物超電導層3、及び金属安定化層4(第1の金属安定化層)がこの順に積層され、基材1の裏面1c(第2面)に下地層(基材下地層)7が形成されて構成されている。換言すれば、積層体5において、下地層7上に基材1が形成され、基材1上に中間層2が形成され、中間層2上に酸化物超電導層3が形成され、酸化物超電導層3上に金属安定化層4が形成されている。
【0016】
基材1の主面1bには、間隔をおいて平行に配置された複数本の第1凹溝部1aが形成されている。第1凹溝部1aは、配向阻害領域として機能する。配向阻害領域により、第1凹溝部1a上に形成される中間層2と酸化物超電導層3の配向性が阻害され、第1凹溝部1aの上の中間層2に非配向領域(第1非配向領域)2bが形成され、酸化物超電導層3に非配向領域(第2非配向領域)3bが形成される。
酸化物超電導層3の非配向領域3bは、超電導特性を有さないため、使用時には高抵抗領域となり電流が流れにくくなる。したがって、酸化物超電導層3は、実質的に分断され細線化される。非配向領域3bに起因する分断・細線化により、酸化物超電導線材8は、並行する複数のフィラメント10に分割された構成となる。
【0017】
なお、本明細書において、非配向領域とは、結晶が配向性を示す領域を含む層において、配向性を示さない領域を意味する。また、配向阻害領域とは、配向阻害領域上に積層される層の結晶配向性を阻害する領域である。なお、配向阻害領域は、配向阻害領域上に別の層が積層された場合に、別の層を介して積層された層(例えば、別の層上に積層された層)の配向性をも阻害する。
【0018】
以下、各部の構成について詳細に説明する。
基材1は、超電導線材の基材として使用し得る材料であればよく、耐熱性の金属から構成される材料が好ましい。基材1は、耐熱性を有する金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル(Ni)合金又は銅(Cu)合金がより好ましい。なかでも、市販品であればハステロイ(商品名、ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等の何れの種類も使用できる。また、基材1として、金属結晶の配向をそろえた配向基板を用いてもよい。
本実施形態においては、基材1の形状は、長尺のテープ形状であるが、例えば、シート形状であってもよい。基材1の厚みは、目的に応じて適宜調整すればよく、10〜500μmの範囲とすることができる。
【0019】
基材1の主面1bには、複数本の第1凹溝部(配向阻害領域)1aが形成されている。
第1凹溝部1aは、基材1の主面1bに形成された溝であり、基材1の長手方向に直線状に延びている。複数の第1凹溝部1aは、互いに間隔をおいて平行に形成されている。
図2Aおよび
図2Bに示すように、第1凹溝部1aは、向かい合う一対の傾斜内側面1d,1dを有する断面V字状の溝である。傾斜内側面1d,1dは、溝深さ方向に向かって、Z方向(酸化物超電導線材8の厚さ方向)に対して内側方に傾斜している。
ここでいう内側方とは、一方の傾斜内側面(第1の傾斜内側面)1dから見て他方の傾斜内側面(第2の傾斜内側面)1dに近づく方向である。
【0020】
第1凹溝部1aの深さDは0.3μm以上10μm以下とすることが好ましく、幅W1は10μm以上500μm以下とすることが好ましい。
第1凹溝部1aの深さDを0.3μm以上とすることで第1凹溝部1a上に形成される部分の中間層2に非配向領域2bを形成できる。また、第1凹溝部1aの深さDを10μm以下とすることで、基材1の強度を維持することができる。
第1凹溝部1aの幅W1を10μm以上とすることで十分な幅を有する非配向領域2bを形成できる。また、第1凹溝部1aの幅W1を500μm以下とすることで、酸化物超電導層3の非配向領域3bの幅を狭くして線材全体の臨界電流を確保することができる。
なお、本実施形態において、第1凹溝部1aは、V字状の溝としたが、第1凹溝部1aの形状はV字状に限られず、中間層2に非配向領域2bを形成できる形状であれば第1凹溝部1aの形状は限定されない。
【0021】
中間層2は、基材1の主面1b上に形成される。中間層2は、下地層2Aと、配向層2B、及びキャップ層2Cがこの順に積層された構造を適用することができる。換言すれば、基材1上に下地層2Aが形成され、下地層2A上に配向層2Bが形成され、配向層2B上にキャップ層2Cが形成された構造を適用することができる。
下地層2Aは、拡散防止層及びベッド層のうち少なくとも一つから構成される。
【0022】
拡散防止層は、拡散防止層よりも上面に他の層を形成する際に加熱処理した結果、基材1や他の層が熱履歴を受ける場合に、基材1の構成元素の一部が拡散し、不純物として酸化物超電導層3に混入することを抑制する機能を有する。拡散防止層は、Si
3N
4、Al
2O
3、GZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成され、例えば厚み10〜400nmに形成される。
【0023】
ベッド層は、基材1と酸化物超電導層3との界面における構成元素の反応を抑え、ベッド層よりも上面に設ける層の配向性を向上させるために設けられる。ベッド層は、界面反応性を低減し、ベッド層の上に形成される膜の配向性を得るため層であり、Y
2O
3、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3等から構成される。ベッド層の厚みは例えば10〜100nmである。
【0024】
配向層2Bは、配向層2Bの上に形成されるキャップ層2Cや酸化物超電導層3の結晶配向性を制御するために設けられる。配向層2Bは、配向層2Bの上のキャップ層2Cの結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から形成される。配向層2Bの材質としては、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示することができる。配向層2BはIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法で形成することが好ましい。
【0025】
キャップ層2Cは、酸化物超電導層3の結晶配向性を配向層2Bと同等以上に強く制御するために設けられる。キャップ層2Cは、上述の配向層2Bの表面に成膜されて結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料から構成される。キャップ層2Cは、具体的に、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、ZrO
2、YSZ、Ho
2O
3、Nd
2O
3、LaMnO
3等から構成される。キャップ層2Cの膜厚は50〜5000nmの範囲に形成できる。なお、キャップ層は複数の層で構成してもよい。
【0026】
中間層2において、特に配向層2B及びキャップ層2Cは、中間層2の上に形成される酸化物超電導層3の配向性を制御するために設けられている。配向層2B及びキャップ層2Cが配向性を有することで、中間層2上の酸化物超電導層3の配向性を制御できる。したがって、配向層2B及びキャップ層2Cが配向性を有していない場合には、中間層2上に形成される酸化物超電導層3も配向性を有することができない。
【0027】
中間層2の配向性は、中間層2が積層される基材1の主面1bの表面性状(表面の特性)に依存する。
主面1bの表面が傾いている場合または主面1bの表面が粗い場合には、中間層2の層内で結晶の成長方向が乱れて、中間層2は酸化物超電導層3の下地として好適な配向性を有する層にならない。
本実施形態においては、基材1の主面1bに第1凹溝部1aが形成され、被成膜面に傾いた面が形成されているため、第1凹溝部1a上に形成される中間層2の配向が乱れる。第1凹溝部1a上に形成された中間層2の配向の乱れにより、中間層2において、基材1の第1凹溝部1a上に形成される部分には、第1凹溝部1aに対応する非配向領域2bが形成される。また、第1凹溝部1a上に形成される中間層2においては、第1凹溝部1aを転写するように第1凹溝部1aの表面に第2凹溝部2aが形成される。第2凹溝部2aは、第1凹溝部1aと同様に、V字状の溝となる。
【0028】
中間層2の厚みに対して、基材1の第1凹溝部1aの深さDが浅い場合には、中間層2の積層により、第1凹溝部1aが埋め込まれ、中間層2の表面に第2凹溝部2aが形成されない場合がある。第2凹溝部2aが形成されない場合であっても中間層2の表面に非配向領域2bが形成されていれば、酸化物超電導層3に非配向領域3bを形成できる。
【0029】
酸化物超電導層3を構成する材料としては、公知の材料が挙げられ、具体的には、RE−123系と呼ばれるREBa
2Cu
3O
7−X(REは希土類元素であるSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上を表す)を例示できる。酸化物超電導層3として、Y123(YBa
2Cu
3O
7−X)又はGd123(GdBa
2Cu
3O
7−X)などを例示できる。
酸化物超電導層3の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0030】
酸化物超電導層3において、中間層2の非配向領域2b上に形成される部分は、結晶の配向が乱れた非配向領域3bとなる。また、非配向領域3bには、中間層2の第2凹溝部2aを転写するように第3凹溝部3aが形成されている。
酸化物超電導層3は、中間層2(特に配向層2B、キャップ層2C)によって配向性が制御されている。したがって、中間層2の非配向領域2b上に形成された部分は、超電導状態を発現するのに十分な結晶配向性を有さない。
加えて、中間層2の非配向領域2bの表面にはV字状の溝である線状の第2凹溝部2aが形成されている。酸化物超電導層3の配向性は、中間層2の配向性のみならず、中間層2の表面性状にも依存する。このように中間層2の非配向領域2b上に第2凹溝部2aが形成されていることで、第2凹溝部2aの上に形成される酸化物超電導層3を構成する結晶は、より配向しにくくなる。なお、中間層2の表面に第2凹溝部2aが形成されていない場合であっても、非配向領域2bが形成されていれば、非配向領域2b上に形成される酸化物超電導層3にも、非配向領域3bが形成される。しかしながら、第2凹溝部2aがあることで酸化物超電導層3の非配向領域3bの非配向性が顕著となる。
【0031】
非配向領域3bは、配向性が乱されていることにより、超電導特性を有さない、又は臨界電流が著しく低い。したがって、極低温で酸化物超電導線材8に電流を流すと、非配向領域3bには電流が流れにくく、酸化物超電導層3を実質的に分断する。
非配向領域3bによって酸化物超電導層3が幅方向に区画されていることによって、酸化物超電導層3は、非配向領域3bによって細線化された複数本の超電導線として機能する。
非配向領域3bは、酸化物超電導層3を幅方向に区画するように形成されていれば、第2凹溝部2a上の部分全体に形成されていなくてもよい。即ち、非配向領域3bは、非配向領域3bを挟んで隣り合う配向性の高い酸化物超電導層3同士の電流を阻害できれば、部分的に幅が広くなったり、狭くなったりしてもよい。
【0032】
金属安定化層(保護層)4は、Ag又はAg合金などの良電導性の材料から形成され、酸化物超電導層3に対する接触抵抗が低くなじみの良い層として形成される。金属安定化層4は、スパッタ法などの成膜法により積層されて、金属安定化層4の厚さは、1〜30μm程度とされる。
金属安定化層4の表面(主面4a)には、酸化物超電導層3の第3凹溝部3aを転写するように、第4凹溝部4bが形成される。主面4aは、積層体5の表面のうち酸化物超電導層3側の表面である。
なお、金属安定化層は、積層体5の側面5bおよび裏面5cに設けられていてもよい。
金属安定化層が積層体5の側面5bに設けられる場合には、金属安定化層は、少なくとも酸化物超電導層3の側面から基材1の側面までの領域を覆うように形成されているのが好ましい。
【0033】
下地層7は、銅、銅合金、銀、銀合金などから形成される。下地層7の厚さは例えば0.1〜10μmとされる。下地層7はスパッタ法などにより形成することができる。下地層7によって、積層体5に対する金属層6の密着性を高めることができる。
【0034】
金属層6(第2の金属安定化層)は、少なくとも積層体5の主面5a(金属安定化層4の主面4a)および側面5b(基材1、中間層2、酸化物超電導層3、金属安定化層4および下地層7の側面)を覆って形成される。
詳しくは、
図1および
図2Aに示すように、金属層6は、主面部6aと、側面部6b,6bと、裏面部6cとを有する。主面部6aは、金属安定化層4の主面4a側(主面4a上)に設けられており、主面4aを覆っている。側面部6bは、積層体5の側面5bに設けられており、側面5bを覆っている。裏面部6cは、積層体5の裏面5c(下地層7の表面7c)に設けられ、裏面5cを覆っている。
【0035】
金属層6を構成する金属材料としては、銅、銅合金、ニッケル、金、銀、クロム、錫などを挙げることができ、これらのうち1または2以上を組み合わせて用いてもよい。銅合金としては、Cu−Zn合金、Cu−Ni合金等がある。銅および銅合金は、高い導電性を有し、安価であるため好ましい。
金属層6は、酸化物超電導層3が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、金属安定化層4とともに、酸化物超電導層3の電流を転流するバイパスとして機能する。
【0036】
金属層6を構成する金属材料としては、銅よりも抵抗が高い金属(高抵抗金属)、例えばNi−Cr合金を用いてもよい。高抵抗金属を使用すると、遮蔽電流及び遮蔽電流に起因する磁化損失、並びに交流損失が低減されやすくなる。
【0037】
金属層6の厚さは例えば10〜300μmとすることができる。
金属層6の厚さを10〜300μmの範囲とすることによって、ピンホールが発生しにくくなるため水分の浸入を防ぐことができ、しかも全体の厚みを抑えて屈曲性を良好にすることができる。
【0038】
金属層6は、めっきにより形成されためっき被覆層である。金属層6は、例えば積層体5を硫酸銅水溶液から構成されるめっき浴に浸漬し、電気めっきにより形成することができる。
金属層6は、めっきにより形成されるため、積層体5の全周において十分な厚さを確保することができる。よって、金属層6は、積層体5の全周を確実に覆い、水分による酸化物超電導層3の劣化を効果的に防ぐことができる。
【0039】
酸化物超電導線材8は、さらに、全体が絶縁性の被覆層で被覆されていてもよい(図示略)。被覆層で被覆することにより、全体が保護され、安定した性能の酸化物超電導線材8が得られる。
被覆層は、例えば、酸化物超電導線材等の絶縁被覆に通常使用される、各種樹脂や酸化物等の公知の材質から構成される層でよい。
前記樹脂として具体的には、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、シリコン樹脂、アルキッド樹脂、ビニル樹脂等が例示できる。また、紫外線硬化性樹脂が好ましい。
前記酸化物としては、CeO
2、Y
2O
3、Gd
2Zr
2O
7、Gd
2O
3、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、Zr
2O
3、Ho
2O
3等が例示できる。
被覆層による被覆の厚さは特に限定されず、被覆対象部位等に応じて、適宜調節すればよい。
被覆層は、被覆層の材質に応じて公知の方法で形成すればよく、例えば、原料を酸化物超電導線材8に塗布して、塗布された原料を硬化させればよい。また、シート状の被覆層が入手できる場合には、シート状の被覆層を使用して酸化物超電導線材8上に積層してもよい。
【0040】
酸化物超電導線材8の酸化物超電導層3には、間隔をおいて並行に延びる複数本の非配向領域3bが形成されている。非配向領域3bにより、酸化物超電導層3は分断され、酸化物超電導線材8は、複数のフィラメント10に分割されている。各フィラメント10は、機械的に分断されていないが、酸化物超電導層3に非配向領域3bが形成されているために、超電導状態において各フィラメント10の単位で電流が流れることとなる。非配向領域3bの存在により、酸化物超電導線材8は、個別の超電導線(フィラメント10)が並行に配置された構成となる。
【0041】
第1凹溝部1aの本数(即ち、第1凹溝部1aの上に形成される非配向領域2b、3bの本数)を多くすることで、酸化物超電導線材8に形成されるフィラメント10の本数は増加し、フィラメント10の本数に反比例して交流損失が低減する。また、フィラメント10の本数は増加すると遮蔽電流及び遮蔽電流に起因する磁化損失が低減する。したがって、線状に形成される第1凹溝部1aは、本数を増加させて形成することが好ましい。しかしながら、細線化を進めすぎると、酸化物超電導層3において、非配向領域3bが占める割合が多くなり、臨界電流密度が低くなってしまう。また、酸化物超電導層3において、互いに隣り合う非配向領域3b同士がつながり、長さ方向に電流が流れなくなってしまう虞がある。
したがって、基材1の第1凹溝部1a及び第1凹溝部1aの上に形成される非配向領域2b、3bによって分断されたフィラメント10の幅は、100μm以上とすることが好ましい。
なお、各フィラメント10の幅は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよいが、通常はほぼ同一とされる。
【0042】
このように、非配向領域3bによって酸化物超電導層3が分割されて細線化されることで、酸化物超電導線材8の遮蔽電流及び遮蔽電流に起因する磁化損失、並びに交流損失が低減される。
酸化物超電導線材8は、複数の線状の非配向領域3bにより複数のフィラメント10に分割された各酸化物超電導層3間の1cm長あたりのフィラメント抵抗は、1Ω/cm以上となる。
なお、複数のフィラメント10は、金属安定化層4および金属層6によって互いに電気的に接続されるが、金属安定化層4および金属層6は超電導特性を有さないため、酸化物超電導線材8の使用時には相対的に高抵抗となり電流が流れにくくなる。したがって、酸化物超電導層3が分割された状態が損なわれることはない。
【0043】
酸化物超電導線材8は、次の効果を奏する。
(1)金属層6は、酸化物超電導層3が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたときに、金属安定化層4とともに、酸化物超電導層3の電流を転流するバイパスとして機能することができる。そのため、分割により形成された複数のフィラメント10が細い場合でも、局所的な欠陥がある場合に局所的な欠陥に起因する悪影響を抑制し、クエンチを防ぐことができる。
(2)金属層6が形成されているため、第1凹溝部1aによる基材1の機械的強度の低下を補い、酸化物超電導線材8の機械的強度を高めることができる。
(3)積層体5の側面5bに金属層6が形成されることによって酸化物超電導層3の露出がなくなるため、外部から浸入した水分によって酸化物超電導層3が劣化するのを防ぐことができる。
(4)金属層6は、金属安定化層4とともに、酸化物超電導層3の電流を転流するバイパスとして機能するため、酸化物超電導線材8が複数のフィラメント10に分割されているにもかかわらず、電流バイパス機能を高め、クエンチを確実に防ぐことができる。
【0044】
なお、その他の実施態様として、金属安定化層4は第3凹溝部3aに沿って分断された構成としてもよい。このような金属安定化層4は、例えば金属安定化層4の上にマスキングを行い、第3凹溝部3aに対応する部分のマスキングを除去してエッチングを行うことで形成できる。これにより、金属安定化層4の第3凹溝部3aに対応する部分を除去でき、酸化物超電導層3における配向性の高い部分の上にのみに金属安定化層4を積層した状態とできる。
このような実施態様においては、各フィラメント10同士が電気的に接続されないため、遮蔽電流及び遮蔽電流に起因する磁化損失、並びに交流損失をより効果的に低減できる。
【0045】
次に、本実施形態に係る酸化物超電導線材8の製造方法の一例について説明する。
本実施形態に係る酸化物超電導線材8の製造方法は、基材1に第1凹溝部1aを形成する工程を有している。以下に具体的な製造方法を説明する。
【0046】
まず、テープ状の基材1を用意して、テープ状の基材1の主面1bを研磨して、その算術平均粗さRaを3nm〜4nmとする。さらに、前記基材の主面1bをアセトンにより脱脂、洗浄する。以上の工程を経ることで、基材1の主面が、中間層2を基材1上に積層した際に、中間層2の配向性を得やすいように準備をする。
【0047】
次に、テープ状の基材1の主面1bに線状の第1凹溝部1aを形成する。
図3は、本実施形態において、基材1の主面1bに第1凹溝部1aを形成する第1凹溝部加工装置109を示す概略図である。
【0048】
第1凹溝部加工装置109は、送出しリール106と巻取りリール107と送出しリール106および巻取りリール107の間に配置される中継リール108Aと加工工具108とから概略構成されている。
基材1は、送出しリール106に巻回されている。巻取りリール107には、モータ(図示略)等の搬送装置が取り付けられている。巻取りリール107に基材1の一端を巻き掛けて、搬送装置を動作させることで基材1を送出しリール106から巻取りリール107へ送り出して、中継リール108Aを介し巻取りリール107で基材1を巻き取ることができる。
【0049】
加工工具108は、加工工具108の先端が中継リール108Aに向けられた金属加工用の刃物である。加工工具108の先端は、例えばV字状を有し、かつ、鋭利な形状とされる。
基材1を巻取りリール107に巻き取りながら、加工工具108の先端を、中継リール108Aの外周に沿って搬送される基材1に押し当てることで、基材1に直線状の溝(第1凹溝部1a、
図1参照)を形成することができる。
なお、加工工具108を
図3の奥行方向(X軸方向)に並べて複数の加工工具を配置することで、テープ状の基材1の長手方向に沿って平行な複数の第1凹溝部1aを形成することができる。
【0050】
このように、第1凹溝部1aを形成した酸化物超電導線材8に、従来公知の方法で中間層2を積層する(積層工程)。さらに、中間層2の主面に酸化物超電導層3を積層する。
中間層2の成膜工程において、第1凹溝部1a上には、配向性を有さない非配向領域2bが形成される。同様に酸化物超電導層3の成膜工程において、中間層2の非配向領域2b上に酸化物超電導層3の非配向領域3bが形成される。
酸化物超電導層3上に、金属安定化層4を積層する。次いで、基材1の裏面1cに、スパッタ法などにより下地層7を形成する。
これによって、非配向領域3bにより複数のフィラメント10を有するように細線化された積層体5を作製することができる。
【0051】
積層体5の外周に金属層6を形成する。金属層6は、例えば積層体5を硫酸銅水溶液から構成されるめっき浴に浸漬し、電気めっきにより形成することができる。
【0052】
本実施形態に係る酸化物超電導線材8の製造方法は、酸化物超電導層3の積層後にレーザ等による機械的な加工、又はエッチング等による化学的な加工が加えられていないため、酸化物超電導層3の配向領域以外の領域の超電導特性が悪化することがない。また、同様の理由から、各層の密着性が悪化することがない。
【0053】
<第1実施形態の変形例>
図4Aおよび
図4Bに、第1実施形態に係る酸化物超電導線材8の変形例である酸化物超電導線材18の断面図を示す。
酸化物超電導線材18は、めっきにより形成された金属層6に代えて、金属テープから構成される金属層16が用いられている点で、
図1に示す酸化物超電導線材8と異なる。以下、第1実施形態に係る酸化物超電導線材8と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0054】
金属層16は、少なくとも積層体5の主面5aおよび側面5bを覆って形成される。
詳しくは、
図4Bに示すように、金属層16は、主面部16aと、側面部16b,16bと、裏面部16cとを有する。主面部16aは、金属安定化層4の主面4a側に設けられており、主面4aを覆っている。側面部16bは、積層体5の側面5b側に設けられており、側面5bを覆っている。裏面部16cは、積層体5の裏面5c側に設けられ、裏面5cを覆っている。
【0055】
金属層16を構成する金属材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼などを挙げることができ、これらのうち1または2以上を組み合わせて用いてもよい。銅合金としては、Cu−Zn合金、Cu−Ni合金等がある。銅および銅合金は、高い導電性を有し、安価であるため好ましい。
金属層16は、酸化物超電導層3が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、金属安定化層4とともに、酸化物超電導層3の電流を転流するバイパスとして機能する。
【0056】
金属層16を構成する金属材料としては、銅よりも抵抗が高い金属(高抵抗金属)、例えばNi−Cr合金を用いてもよい。高抵抗金属を使用すると、遮蔽電流及び遮蔽電流に起因する磁化損失、並びに交流損失が低減されやすくなる。
【0057】
金属層16の厚さは例えば10〜300μmとすることができる。
金属層16の厚さを10〜300μmの範囲とすることによって、ピンホールが発生しにくくなるため酸化物超電導線材18への水分の浸入を防ぐことができ、しかも酸化物超電導線材18の全体の厚みを抑えて屈曲性を良好にすることができる。
金属層16は、半田層9を介して積層体5の表面(主面5a、側面5b、裏面5c)に接合されている。
【0058】
金属層16は、例えば次のようにして形成することができる。積層体5の表面にめっきにより半田層を形成した後、半田層の上に金属テープを配置し、金属テープを横断面略C字型をなすように積層体5を包み込んで折り曲げ加工する。半田層を加熱溶融させるとともに、半田層により金属テープを積層体5に接合する。これによって、半田層9を介して積層体5に接合された金属層16を得る。
【0059】
金属層16は、金属テープにより形成されるため、積層体5の全周において十分な厚さを確保することができる。よって、積層体5の全周を確実に覆い、水分による酸化物超電導層3の劣化を効果的に防ぐことができる。
【0060】
<第2実施形態>
次に第2実施形態について説明する。
図5Aに、第2実施形態に係る酸化物超電導線材28の断面図を示す。また、
図5Bは、酸化物超電導層33の非配向領域33bの拡大図である。以下、
図5Aおよび
図5Bを基に、酸化物超電導線材28について説明する。
第2実施形態に係る酸化物超電導線材28は、第1実施形態に係る酸化物超電導線材8と比較して、凹溝部32Baの構成が異なる。以下、第1実施形態および第1実施形態の変形例である酸化物超電導線材8,18と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0061】
図5Aおよび
図5Bに示すように、酸化物超電導線材28は、積層体15と、積層体15の外周に形成された金属層6と、を備えている。
積層体15は、基材31の主面31b(第1面)に、中間層32(下地層32A、配向層32B、キャップ層32C)、酸化物超電導層33、及び金属安定化層34がこの順に積層され、基材31の裏面31c(第2面)に下地層7が形成されて構成されている。換言すれば、積層体15において、下地層7上に基材31が形成され、基材31上に中間層32が形成され、中間層32上に酸化物超電導層33が形成され、酸化物超電導層33上に金属安定化層34が形成されている。
【0062】
基材31は、第1実施形態に係る酸化物超電導線材8の基材1と同様の構成を採用することができる。
下地層32Aは、第1実施形態に係る酸化物超電導線材8の下地層2Aと同様に、拡散防止層及びベッド層のうち少なくとも1つから構成される。下地層32Aは、下地層2Aと同様の構成を採用することができる。
凹溝部32Baが形成された部分の下地層32Aは、幅方向(X方向)に不連続であってもよい。すなわち、下地層32Aは幅方向(X方向)において分断されていてもよい。
【0063】
配向層32Bは、第1実施形態に係る酸化物超電導線材8の配向層2Bと同様に、配向層32Bの上に形成されるキャップ層32Cや酸化物超電導層33の結晶配向性を制御するために設けられる。
【0064】
配向層32Bの主面32Bbには、基材31まで達する複数の凹溝部32Baが形成されている。凹溝部32Baは、基材31の長手方向に直線状に延びている。複数の凹溝部32Baは、互いに間隔をおいて平行に形成されている。凹溝部32Baは、配向層32Bの主面32Bbに加工工具を押し当てて基材31を移動させることで形成できる。凹溝部32Baの形成方法は、第1実施形態に係る第1凹溝部1aの形成方法と同様である。
【0065】
図5Bに示すように、凹溝部32Baの断面形状は、例えば略円弧状である。凹溝部32Baは、向かい合う一対の内側面32Bd,32Bdを有する。内側面32Bd,32Bdの少なくとも一部は、溝深さ方向に向かって、Z方向(酸化物超電導線材28の厚さ方向)に対して内側方に傾斜している。ここでいう内側方とは、一方の内側面(第1の内側面)32Bdから見て他方の内側面(第2の内側面)32Bdに近づく方向である。
凹溝部32Baが形成された部分の配向層32Bは、断面円弧状に湾曲した形状となる。
【0066】
凹溝部32Baが形成されることで、凹溝部32Baの直下及び凹溝部32Baの周囲の配向層32Bは、配向性が乱され、配向層32Bに非配向領域が形成される。
図5Bに拡大して示すように、凹溝部32Baの縁部には、配向層32Bが盛り上がった隆起部32Bcが形成されている。隆起部32Bcは、加工工具を配向層32Bに押し当てて凹溝部32Baを形成する際に、加工工具により押圧された配向層32B、下地層32A及び基材31の一部が凹溝部32Baの外側に押されて盛り上がることで形成される。したがって、配向層32Bは、凹溝部32Baと隆起部32Bcにおいて配向性を有さない。即ち、凹溝部32Baと隆起部32Bcが形成された領域は、非配向領域として機能する。また、凹溝部32Baと隆起部32Bcは、凹溝部32Baおよび隆起部32Bcの上に積層される酸化物超電導層33の配向性を阻害する配向阻害領域として機能する。
【0067】
凹溝部32Baの幅W2は、0.3μm以上40μm以下とすることが好ましい。
凹溝部32Baの幅W2を0.3μm以上とすることで酸化物超電導層33に確実に非配向領域33bを形成できる。また、凹溝部32Baの幅W2を40μm以下とすることで、酸化物超電導層33の非配向領域33bの幅を狭くして臨界電流密度を確保することができる。
なお、本明細書において、凹溝部32Baとは、配向層32Bが凹み、成膜厚さより薄くなっている領域を意味する。したがって、隆起部32Bcは、凹溝部32Baに含まれず、凹溝部32Baの両側に形成された領域となる。凹溝部32Baの幅W2は、隆起部32Bcを含まず、配向層32Bが凹んだ部分の幅である。凹溝部32Baの深さD4は、配向層32Bの主面32Bbから凹溝部32Baの最も深い部分までの深さ方向の距離である。
【0068】
凹溝部32Baの深さD4は、0.3μm以上10μm以下とすることが好ましい。
凹溝部32Baの深さD4を0.3μm以上とすることで酸化物超電導層33に確実に非配向領域33bを形成できる。また、凹溝部32Baの深さD4を10μm以下とすることで、基材31の強度を維持することができる。
【0069】
配向層32Bは、その他の構成については、酸化物超電導線材8の配向層2Bと同様の構成を採用することができる。
なお、凹溝部32Baの断面形状は、
図5A、
図5Bに示された略円弧形状に限られず、例えばV字状であってもよい。
【0070】
図5Bに示すように、基材31の主面31bには、凹溝部32Baに対応する位置に、凹溝部32Baの形状に対応した断面円弧状を有する第1凹溝部31aが形成されている。
第1凹溝部31aは、向かい合う一対の内側面31d,31dを有する。内側面31d,31dの少なくとも一部は、溝深さ方向に向かって、Z方向(酸化物超電導線材28の厚さ方向)に対して内側方に傾斜している。ここでいう内側方とは、一方の内側面(第一の内側面)31dから見て他方の内側面(第二の内側面)31dに近づく方向である。
基材31は、その他の構成については、酸化物超電導線材8の基材1と同様の構成を採用することができる。
なお、第1凹溝部31aの断面形状は、略円弧形状に限られず、例えばV字状であってもよい。
【0071】
凹溝部32Baが形成された部分の配向層32Bは、凹溝部32Baの幅方向(X方向)に連続して形成されていてもよいが、凹溝部32Baの方向(X方向)に不連続であってもよい。すなわち、配向層32Bは、第1凹溝部31a内で、幅方向(X方向)において分断されていてもよい。また、配向層32Bは、第1凹溝部31a内に形成されていなくてもよい。
【0072】
キャップ層32Cのうち、配向層32Bの凹溝部32Ba及び隆起部32Bcの上に積層される部分は、配向性を有さない。中間層32は、全体として非配向領域32bを有する。また、非配向領域32bは、凹溝部32Ba及び凹溝部32Baの縁部に位置する32Bcに対応する領域である。
【0073】
凹溝部32Baが形成された部分におけるキャップ層32Cは、凹溝部32Baの形状に対応した断面円弧状に湾曲した形状となる。凹溝部32Baが形成された部分におけるキャップ層32Cは、凹溝部32Baの幅方向(X方向)において分断されておらず、凹溝部32Baの幅方向に連続して形成されている。
キャップ層32Cは、その他の構成については、酸化物超電導線材8のキャップ層2Cと同様の構成を採用することができる。
【0074】
酸化物超電導層33は、中間層32(特に配向層32B、キャップ層32C)によって配向性が制御されているため、中間層32の非配向領域32b上に形成された部分は配向性を有することができない。酸化物超電導層33において、中間層32の非配向領域32b上に形成される部分は、配向性を有していない非配向領域33bとなる。
【0075】
凹溝部32Baが形成された部分における酸化物超電導層33は、凹溝部32Baの形状に対応した断面円弧状に湾曲した形状となる。凹溝部32Baが形成された部分における酸化物超電導層33は、凹溝部32Baの幅方向(X方向)において分断されておらず、凹溝部32Baの幅方向に連続して形成されている。
酸化物超電導層33は、その他の構成については、酸化物超電導線材8の酸化物超電導層3と同様の構成を採用することができる。
【0076】
凹溝部32Baが形成された部分の金属安定化層34は、凹溝部32Baの形状に対応した断面円弧状に湾曲した形状となる。凹溝部32Baが形成された部分における金属安定化層34は、凹溝部32Baの幅方向(X方向)において分断されておらず、凹溝部32Baの幅方向に連続して形成されている。
【0077】
金属安定化層(保護層)34の表面(主面34a)には、配向層32Bの凹溝部32Baを転写するように、凹溝部32Baの形状に対応した断面円弧状を有する第4凹溝部34bが形成されている。
主面34aは、積層体15の表面のうち酸化物超電導層33側の表面である。
金属安定化層34は、その他の構成については、酸化物超電導線材8の金属安定化層4と同様の構成を採用することができる。
【0078】
図5Aに示すように、金属層6は、めっきにより形成されためっき被覆層であり、少なくとも積層体15の主面15a(金属安定化層34の主面34a)および側面15b(基材31、中間層32、酸化物超電導層33、金属安定化層34および下地層7の側面)を覆って形成される。
金属層6の主面部6aは、金属安定化層34の主面34a側に設けられており、主面34aを覆っている。側面部6bは、積層体15の側面15b側に設けられており、側面15bを覆っている。裏面部6cは、積層体15の裏面15c(下地層7の表面7c)側に設けられ、裏面15cを覆っている。
【0079】
金属層6は、めっきにより形成されるため、積層体15の全周において十分な厚さを確保することができる。よって、積層体15の全周を確実に覆い、水分による酸化物超電導層33の劣化を効果的に防ぐことができる。
【0080】
第2実施形態に係る酸化物超電導線材28は、酸化物超電導層33が非配向領域33bにより、酸化物超電導層33は実質的に分断されている。非配向領域33bの存在により、酸化物超電導線材28は、複数のフィラメント40に分割され並行に配置された構成となる。このように、非配向領域33bによって酸化物超電導層33が分割されて細線化されることで、酸化物超電導線材28の遮蔽電流及び遮蔽電流に起因する磁化損失、並びに交流損失が低減される。
【0081】
また、第2実施形態に係る酸化物超電導線材28は、酸化物超電導層33の配向性を制御する中間層32の一部を直接的に加工して、凹溝部32Baを形成している。凹溝部32Baの存在により、中間層32により確実に非配向領域32bを形成することができる。
【0082】
本実施形態に係る酸化物超電導線材28は、酸化物超電導層33の積層後にレーザ等による機械的な加工、又はエッチング等による化学的な加工が加えられていないため、酸化物超電導層33における配向領域以外の領域の超電導特性が悪化することがない。また、各層の間の密着性が悪化することがない。
【0083】
一般的に積層された酸化物超電導層33は、下の層に対する密着性が弱いことが知られている。本実施形態に係る酸化物超電導線材28は、酸化物超電導層33と酸化物超電導層33の下に設けられた中間層32との密着性を高めることができる。即ち、酸化物超電導層33の剥離を抑制できる。配向層32Bにおける凹溝部32Baは、配向層32Bの主面32Bbに加工工具を押し当てることで形成されており、表面に加工に起因する微細な凹凸が形成されている。凹凸を有する凹溝部32Ba上に形成されたキャップ層32Cは、配向層32Bの微細な凹凸に倣って表面に微細な凹凸が形成される。キャップ層32C上に酸化物超電導層33が形成されると、微細な凹凸のアンカー効果によりキャップ層32Cと酸化物超電導層33との接合強度が大きくなるため、キャップ層32Cと酸化物超電導層33との密着性が高まる。キャップ層32C上の微細な凹凸により、キャップ層32Cから酸化物超電導層33が剥離しにくくなると考えられる。
【0084】
酸化物超電導線材28は、第1の実施形態に係る酸化物超電導線材8と同様に、次の効果を奏する。
(1)金属層6が、金属安定化層34とともに、酸化物超電導層33の電流を転流するバイパスとして機能するため、局所的な欠陥がある場合に局所的な欠陥の悪影響を抑制し、クエンチを防ぐことができる。
(2)金属層6によって、第1凹溝部31aによる基材31の強度低下を補い、酸化物超電導線材28の機械的強度を高めることができる。
(3)金属層6によって酸化物超電導層33の露出がなくなるため、水分によって酸化物超電導層33が劣化するのを防ぐことができる。
(4)金属層6は、金属安定化層34とともに、酸化物超電導層3の電流を転流するバイパスとして機能するため、電流バイパス機能を高め、クエンチを確実に防ぐことができる。
【0085】
なお、本実施形態では、中間層32のうち、配向層32Bに凹溝部32Baを形成する構成を例示した。中間層32に形成される凹溝部は、中間層32のうち何れかの層の主面に形成されていればよい。これにより、凹溝部は、中間層32に非配向領域32bを構成できる。即ち、中間層32の非配向領域32bは、中間層32のうち何れかの層に形成された凹溝部により配向が乱された領域であればよい。
また、本実施形態に例示したように、配向層32Bに凹溝部32Baを形成することで、凹溝部32Baは、配向層32B上に形成されたキャップ層32Cにより覆われる。配向層32Bに凹溝部32Baを形成する場合、凹溝部32Baの部分における配向層32Bおよび配向層32Bの下の中間層の各層が薄くなったり、あるいは配向層32Bが部分的に除去されることにより基材31が露出したりして、基材31の元素が酸化物超電導層33に拡散しやすくなる。凹溝部32Baにキャップ層32Cを形成することで、凹溝部32Baの領域内で基材31と酸化物超電導層33が直接接触することがない。キャップ層32Cの形成により、基材31の金属材料が、酸化物超電導層33へ拡散することを抑制できる。したがって、凹溝部32Baが、配向層32Bに形成され、キャップ層32Cにより凹溝部32Baを覆う構造とすることが好ましい。
【0086】
<第2実施形態の変形例>
図6に、第2実施形態に係る酸化物超電導線材28の変形例である酸化物超電導線材38の断面図を示す。以下、第2実施形態に係る酸化物超電導線材28と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
酸化物超電導線材38は、めっきにより形成された金属層6に代えて、金属テープから構成される金属層16が用いられている点で、
図5Aおよび
図5Bに示す酸化物超電導線材28と異なる。
【0087】
図6に示すように、金属層16は、少なくとも積層体15の主面15aおよび側面15bを覆って形成される。
金属層16の主面部16aは、金属安定化層34の主面34a側に設けられており、主面34aを覆っている。側面部16bは、積層体15の側面15b側に設けられており、側面15bを覆っている。裏面部16cは、積層体15の裏面15c側に設けられ、裏面15cを覆っている。
【0088】
金属層16は、半田層9を介して積層体5の表面(主面15a、側面15b、裏面15c)に接合されている。
金属層16は、例えば次のようにして形成することができる。積層体15の表面にめっきにより半田層を形成した後、半田層の上に金属テープを配置し、金属テープを横断面略C字型をなすように積層体15を包み込んで折り曲げ加工する。半田層を加熱溶融させるとともに、半田層により金属テープを積層体15に接合する。これによって、半田層9を介して積層体15に接合された金属層16を得る。
金属層16は、金属テープにより形成されるため、積層体15の全周において十分な厚さを確保することができる。よって、積層体15の全周を確実に覆い、水分による酸化物超電導層3の劣化を効果的に防ぐことができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
<試料の作製>
<サンプルNo.1>
まず、ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)から構成される幅4mm、厚み0.075mm、長さ1000mmのテープ状の基材の主面を平均粒径3μmのアルミナを使用し研磨した。次に、前記基材の表面をアセトンにより脱脂、洗浄した。
【0091】
洗浄後の基材の主面上にスパッタ法によりAl
2O
3(拡散防止層;膜厚100nm)を成膜し、成膜されたAl
2O
3の上に、イオンビームスパッタ法によりY
2O
3(ベッド層;膜厚30nm)を成膜した。
次いで、ベッド層上に、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)によりMgO(配向層;膜厚5〜10nm)を成膜し、成膜されたMgOの上にパルスレーザー蒸着法(PLD法)により500nm厚のCeO
2(キャップ層)を成膜した。次いでCeO
2層上にPLD法により2.0μm厚のGdBa
2Cu
3O
7−X層(酸化物超電導層)を形成した。酸化物超電導層上にスパッタ法によりAgから構成される金属安定化層(膜厚2μm)を形成し、さらに500℃で10時間の酸素アニールを行い26時間炉冷後に取り出した。
以上の手順を経て、サンプルNo.1の酸化物超電導線材を得た。
【0092】
<サンプルNo.2>
サンプルNo.1の酸化物超電導線材の作製手順において、MgO層(配向層;膜厚5〜10nm)を形成して積層構造物(基材、拡散防止層、ベッド層、および配向層)を得た後、積層構造物の表面に、
図3に示す第1凹溝部加工装置を用いて、基材の長手方向に延びる第1凹溝部(凹溝部)を形成した。
加工工具としては厚さ100μmの刃物を用いた。積層構造物を送出しリールと巻取りリールの間に搬送させながら、刃物を積層構造物に押し当てて、長手方向に延びる傷(断面V字状を有する第1凹溝部)を形成した。傷により積層構造物の酸化物超電導層等を幅方向に4分割した。傷の幅は約20μmであり、深さは約10μmであった。
次いで、サンプルNo.1と同様にして、MgO層の上に、CeO
2層(キャップ層)、GdBa
2Cu
3O
7−X層(酸化物超電導層)、金属安定化層を形成し、酸素アニールを行った。
以上の手順を経て、サンプルNo.2の酸化物超電導線材を得た。
【0093】
<サンプルNo.3>
サンプルNo.1の酸化物超電導線材と同様の酸化物超電導線材を作製し、基材の裏面にスパッタによりCuから構成される下地層(膜厚1μm)を形成して積層体を得た。
積層体の外周に、積層体の全周を覆うようにCuから構成される金属層(膜厚20μm)を電気めっきにより形成した。
以上の手順を経て、サンプルNo.3の酸化物超電導線材を得た。
【0094】
<サンプルNo.4>
サンプルNo.2の酸化物超電導線材と同様の酸化物超電導線材を作製し、基材の裏面にスパッタによりCuから構成される下地層(膜厚1μm)を形成して積層体を得た。
積層体の外周に、積層体の全周を覆うようにCuから構成される金属層(膜厚20μm)を電気めっきにより形成した。
以上の手順を経て、サンプルNo.4の酸化物超電導線材を得た。
【0095】
<サンプルNo.5>
サンプルNo.1の酸化物超電導線材と同様の酸化物超電導線材を作製し、基材の裏面にスパッタによりCuから構成される下地層(膜厚1μm)を形成して積層体を得た。
積層体の外周に、積層体の全周を覆うようにCuから構成される金属層(膜厚20μm)を電気めっきにより形成し、酸化物超電導線材を得た。
酸化物超電導線材において、金属層の主面部の表面に、ポリイミドテープで、線材の長手方向に延びる隙間を形成してマスキングを行った。次に、硝酸を用いて、金属層、金属安定化層、および酸化物超電導層をエッチングして溝を形成することにより幅方向において分割することによって、4本のフィラメント(幅約1mm)に分割された酸化物超電導線材を得た。
以上の手順を経て、サンプルNo.5の酸化物超電導線材を得た。
【0096】
<評価>
<引張強度>
サンプルNo.1〜No.4の酸化物超電導線材の引張強度を測定した。
引張強度の測定は液体窒素中で行い、Ic不可逆応力(引張前の臨界電流Ic
0と、引張後の臨界電流Ic
1との比(Ic
1/Ic
0)が0.99未満となる応力)を求めた。
金属層があるサンプルNo.3、No.4について引張強度の比(サンプルNo.4/サンプルNo.3)を求めた。同様に、金属層がないサンプルNo.1、No.2について引張強度の比(サンプルNo.2/サンプルNo.1)を求めた。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示すように、引張強度の比に基づいて、線材の細線化が線材の引張強度に与える影響を評価した。
金属層がある場合には、2つのサンプルの引張強度の差が小さいことから、線材の細線化を行っても強度低下が起こりにくいことがわかった。
これに対し、金属層がない場合には、線材の細線化を行うと、強度低下が起こりやすかった。
【0099】
<水分による劣化の有無>
サンプルNo.4、No.5の酸化物超電導線材について、以下の手順で試験を行った。
(1)四端子法を用いて、サンプルの臨界電流Ic
0を測定した。
(2)サンプルを純水中に1時間浸漬させた。
(3)純水から取り出したサンプルについて、四端子法を用いて臨界電流Ic
1を測定した。
各サンプルについてIc
1/Ic
0を求めた。結果を表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
表2より、金属層を形成したサンプルNo.4では、Ic
1/Ic
0が高く、水分による劣化が起こりにくかったことがわかる。
【0102】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
例えば、上述の実施形態においては、特定の層に配向阻害領域を形成する場合を例示している。しかしながら、配向阻害領域が形成される層は、基材又は、中間層のうち何れの層であってもよい。即ち、酸化物超電導層の下に形成される層であれば、どの層であってもよい。
図1等では、酸化物超電導線材8は、複数の第1凹溝部1aにより複数のフィラメント10に分割されているが、凹溝部は1本でもよい。凹溝部は1本である場合は、酸化物超電導線材は2つのフィラメントに分割される。
なお、
図1等に示す酸化物超電導線材8,18,28,38は下地層7を有するが、本発明の酸化物超電導線材は下地層がなくてもよい。
酸化物超電導線材であって、基材と、前記基材の主面上に積層され、配向性を有する1以上の層から構成されるとともに前記基材の長さ方向に沿って延びる一本以上の第1非配向領域を有する中間層と、前記中間層上に積層され、かつ、前記中間層により結晶配向制御されるとともに前記中間層の前記第1非配向領域上に位置する第2非配向領域を有する酸化物超電導層と、を備えた積層体と、前記積層体の、少なくとも前記酸化物超電導層の表面および側面を覆う金属層と、を備える。