特許第6201102号(P6201102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201102
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】自動車とコンピューティングシステム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/06 20060101AFI20170914BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20170914BHJP
   G08G 1/09 20060101ALI20170914BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20170914BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20170914BHJP
   B60W 10/20 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B60W30/06
   B60R21/00 624G
   B60R21/00 628B
   G08G1/09 H
   G08G1/09 F
   B60W10/00 120
   B60W10/00 134
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-553704(P2015-553704)
(86)(22)【出願日】2015年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2015070820
(87)【国際公開番号】WO2016013574
(87)【国際公開日】20160128
【審査請求日】2015年11月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-150003(P2014-150003)
(32)【優先日】2014年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506249347
【氏名又は名称】株式会社発明屋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 謙治
【審査官】 岩田 玲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−125196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/06
B60R 21/00
B60W 10/04
B60W 10/18
B60W 10/20
G08G 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他車両の経験情報の提供を受ける機能と、
他車両の経験情報に基づいて自車両の運転支援制御を行う機能と、を有し、
前記運転支援制御を行う機能は、時々刻々と変化する自車両の走行状況をリアルタイムで解析しつつ、当該解析結果と他車輌の経験情報とに基づいて運転支援情報を生成する機能であり、当該機能により、
自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて運転支援制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの運転性能で当該状況に対処できるようにした、自動車。
【請求項2】
他車両の経験情報の提供を受ける機能と、
他車両の経験情報に基づいて自車両の自動運転制御を行う機能と、を有し、
前記自動運転制御を行う機能は、時々刻々と変化する自車両の走行状況をリアルタイムで解析しつつ、当該解析結果と他車輌の経験情報とに基づいて運転操作量を決定する機能であり、当該機能により、
自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの運転性能で当該状況に対処できるようにした、自動車。
【請求項3】
車庫に入庫した他車輌の経験情報を受ける機能と、
他車輌の入庫時の経験情報に基づいて自車両の入庫時の運転支援制御を行う機能と、を有し、
前記運転支援制御を行う機能は、時々刻々と変化する自車両の走行状況をリアルタイムで解析しつつ、当該解析結果と他車輌の経験情報とに基づいて運転支援情報を生成する機能であり、当該機能により、
自車両が当該車庫への入庫が未経験の状況であっても、当該車庫への入庫を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて運転支援制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの運転性能で当該状況に対処できるようにした、自動車。
【請求項4】
車庫に入庫した他車輌の経験情報を受ける機能と、
他車輌の入庫時の経験情報に基づいて自車両の入庫時の自動運転制御を行う機能と、を有し、
自動運転制御を行う機能は、時々刻々と変化する自車両の走行状況をリアルタイムで解析しつつ、当該解析結果と他車輌の経験情報とに基づいて運転操作量を決定する機能であり、当該機能により、
自車両が当該車庫への入庫が未経験の状況であっても、当該車庫への入庫を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの運転性能で当該状況に対処できるようにした、自動車。
【請求項5】
前記他車両の経験情報の提供を受ける機能は、
自車両と他車両との間の通信、
自車両と地上静止物との間の通信、
自車両と道路との間の通信、
自車両と地上静止物との間の通信、
自車両と携帯端末との間の通信、又は、
自車両とネットワーク上のサーバとの通信、
により他車両の経験情報を受け取る機能である、請求項1乃至4のいずれか1の自動車。
【請求項6】
車庫に入庫した自動車からその入庫時の運転操作量と車輌の走行状況とを関連付けた経験情報(駐車モード選択情報を除く)を受信する経験情報受信機能と、
当該経験情報を記憶する経験情報記憶機能と、
当該経験情報を当該車庫に入庫する自動車に送信する経験情報送信機能と、を有する車庫入れ経験報提供装置。
【請求項7】
地球上に存在する多数の自動車が経験情報を互いに利用し合うことにより、各車両の運転性能を向上させるためのコンピューティングシステムであって、
前記多数の自動車のうち少なくとも1の自動車は、
他車両の経験情報の提供を受ける機能と、
他車両の経験情報に基づいて自車両の自動運転制御を行う機能と、を有し、
前記自動運転制御を行う機能は、時々刻々と変化する自車両の走行状況をリアルタイムで解析しつつ、当該解析結果と他車輌の経験情報とに基づいて運転操作量を決定する機能であり、
前記サーバコンピュータは、
1又は複数の車両の経験情報を受信する経験情報受信機能と、
前記経験情報を当該経験情報の送信元とは異なる1又は複数の車両に送信する経験情報送信機能と、を有し、
前記経験情報受信機能により受信される経験情報は、運転操作量と車輌の走行状況とを関連付けた経験情報であコンピューティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の自動運転技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の自動運転に関する技術は数多く提案されている。それらの技術の中には、自動運転学習機能に関するものがある(特許文献1−10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−65392
【特許文献2】特開2012−108653
【特許文献3】特開2010−134865
【特許文献4】特開2008−298475
【特許文献5】特開2008−018872
【特許文献6】特開2006−113836
【特許文献7】特開2001−005979
【特許文献8】特開平10−338057
【特許文献9】再表2012/077204
【特許文献10】WO2012/073359
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の技術における自動運転学習機能は、各車両が自車両の運転中に当該運転に関するデータを取得し、当該取得したデータに基づいて自車両の自動運転性能を向上させるものである。このため、自動運転性能の向上の速さやレベルが車両ごとに異なる。また、未経験すなわち未学習の状況下では、初期値の自動運転性能しか発揮し得ない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、自車両の経験のみならず他車両の経験も活用して各車両の自動運転性能を向上させ得るシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[自動車の構成とその作用]
本発明の自動車には、以下の構成の自動車が含まれる。
[構成1−1]
自車両の経験情報を他車両に提供する機能と、
他車両の経験情報の提供を受ける機能と、
他車両の経験情報に基づいて自車両の運転を制御する機能と、を有することを特徴とする自動車。
自動車同士は、車両間で経験情報を提供し合うことができる。そして、他車両の経験情報を自車両の自動運転制御に利用できる。自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの自動運転性能で当該状況に対処できる。
【0007】
[構成1−2]
自車両と他車両との間の通信により他車両の経験情報を受け取る機能と、
他車両の経験情報に基づいて自車両の運転を制御する機能と、を有する自動車。
自動車は、車両間通信により他車両の経験情報を提供し合うことができる。そして、他車両の経験情報を自車両の自動運転制御に利用できる。自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの自動運転性能で当該状況に対処できる。
【0008】
[構成1−3]
自車両と地上静止物との間の通信により他車両の経験情報を受け取る機能と、
他車両の経験情報に基づいて自車両の運転を制御する機能と、を有する自動車。
自動車は、地上静止物との通信により他車両の経験情報を受け取ることができる。そして、他車両の経験情報を自車両の自動運転制御に利用できる。自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの自動運転性能で当該状況に対処できる。
【0009】
[構成1−4]
自車両と道路との間の通信により他車両の経験情報を受け取る機能と、
他車両の経験情報に基づいて自車両の運転を制御する機能と、を有する自動車。
自動車は、道路との通信により他車両の経験情報を受け取ることができる。そして、他車両の経験情報を自車両の自動運転制御に利用できる。自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの自動運転性能で当該状況に対処できる。
【0010】
[構成1−5]
自車両と携帯端末との間の通信により他車両の経験情報を受け取る機能と、
他車両の経験情報に基づいて自車両の運転を制御する機能と、を有する自動車。
自動車は、携帯端末との通信により他車両の経験情報を受け取ることができる。そして、他車両の経験情報を自車両の自動運転制御に利用できる。自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの自動運転性能で当該状況に対処できる。
【0011】
[構成1−6]
自車両の経験情報をネットワーク上のサーバコンピュータにアップロードする機能と、
他車両の経験情報をネットワーク上のサーバコンピュータからダウンロードする機能と、
ネットワーク上のサーバからダウンロードした経験情報に基づいて自車両の運転を制御する機能と、を有する自動車。
自動車は、ネットワークを介して多数の自動車との間で経験情報を提供し合うことができる。そして、他車両の経験情報を自車両の自動運転制御に利用できる。自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの自動運転性能で当該状況に対処できる。
【0012】
[構成1−7]
自車両の経験情報をネットワーク上のサーバコンピュータにアップロードする機能と、
自車両の経験情報と他車両の経験情報とに基づいて生成された経験情報をネットワーク上のサーバコンピュータからダウンロードする機能と、
ネットワーク上のサーバからダウンロードした経験情報に基づいて自車両の運転を制御する機能と、を有する自動車。
自動車は、自車両の経験情報をネットワーク上のサーバコンピュータにアップロードすることにより、自車両の経験情報と他車両の経験情報とに基づいて生成された経験情報をネットワーク上のサーバコンピュータからダウンロードすることができる。そして、自車両の経験情報と他車両の経験情報とに基づいて生成された経験情報を自車両の自動運転制御に利用できる。自車両が未経験の状況においても、自車両の経験情報と当該状況を経験したことのある他車両の経験情報とに基づいて生成された経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルかそれ以上の自動運転性能で当該状況に対処できる。
【0013】
[コンピューティングシステムの構成とその作用]
本発明のコンピューティングシステムには、以下の構成のコンピューティングシステムが含まれる。
[構成2−1]
1又は複数の車両の経験情報をインターネット経由で受信する経験情報受信機能と、
前記経験情報を当該経験情報の送信元とは異なる1又は複数の車両にインターネット経由で送信する経験情報送信機能と、を有するコンピューティングシステム。
このコンピューティングシステムは、1又は複数の車両の経験情報をインターネット経由で受信し、当該経験情報を当該経験情報の送信元とは異なる1又は複数の車両にインターネット経由で送信する。コンピューティングシステムから経験情報を受信した車両は、当該経験情報を自車両の自動運転制御に利用できる。自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの自動運転性能で当該状況に対処できる。
【0014】
[構成2−2]
1又は複数の車両の経験情報をインターネット経由で受信する経験情報受信機能と、
前記経験情報に基づいて最適化された経験情報を生成する最適化情報生成機能と、
前記最適化された経験情報を最新の情報に更新して管理する最適化情報更新機能と、
前記最適化された経験情報を1又は複数の車両にインターネット経由で送信する経験情報送信機能と、を有するコンピューティングシステム。
このコンピューティングシステムは、1又は複数の車両の経験情報をインターネット経由で受信し、当該経験情報に基づいて最適化された経験情報を生成し、当該最適化された経験情報を最新の情報に更新して管理し、1又は複数の車両にインターネット経由で送信する。このコンピューティングシステムから経験情報を受信した車両は、当該経験情報を自車両の自動運転制御に利用できる。自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて最適化された経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルかそれ以上の自動運転性能で当該状況に対処できる。
【0015】
[構成2−3]
構成2−2のコンピューティングシステムにおいて、
前記最適化された経験情報は、
消費エネルギが最少となるように最適化された経験情報である、コンピューティングシステム。
【0016】
[構成2−4]
構成2−2のコンピューティングシステムにおいて、
前記最適化された経験情報は、
回生エネルギが最大となるように最適化された経験情報である、コンピューティングシステム。
【0017】
[構成2−5]
構成2−2のコンピューティングシステムにおいて、
前記最適化された経験情報は、
所定走行距離又は所定走行時間における加速回数又は加速時間が最少となるように最適化された経験情報である、コンピューティングシステム。
【0018】
[構成2−6]
構成2−2のコンピューティングシステムにおいて、
前記最適化された経験情報は、
所定走行距離又は所定走行時間における制動回数又は制動時間が最少又は最大となるように最適化された経験情報である、コンピューティングシステム。
【0019】
[構成2−7]
構成2−2のコンピューティングシステムにおいて、
前記最適化された経験情報は、
出発地点から到着地点までの走行距離が最少となるように最適化された経験情報である、コンピューティングシステム。
【0020】
[構成2−8]
構成2−2のコンピューティングシステムにおいて、
前記最適化された経験情報は、
出発地点から到着地点までの走行時間が最少となるように最適化された経験情報である、コンピューティングシステム。
【0021】
[構成2−9]
構成2−2のコンピューティングシステムにおいて、
前記最適化された経験情報は、
自車両が障害物と接触する可能性が最少となるように最適化された経験情報である、コンピューティングシステム。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、他車両の経験情報を自車両の自動運転制御に利用できるので、自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの自動運転性能で当該状況に対処できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の自動車と本発明のコンピューティングシステムとを含むシステム構成の一例を示す概念図
図2】本発明の自動車のシステム構成の一例を示す機能ブロック図
図3】本発明の自動車の実施形態についての説明図
図4】他車両から自車両への経験情報の受け渡しの方法の一例を示す説明図
図5】他車両から自車両への経験情報の受け渡しの方法の一例を示す説明図
図6】他車両から自車両への経験情報の受け渡しの方法の一例を示す説明図
図7】他車両から自車両への経験情報の受け渡しの方法の一例を示す説明図
図8】他車両から自車両への経験情報の受け渡しの方法の一例を示す説明図
図9】本発明の自動車の別の実施形態についての説明図
図10図9に続く説明図
図11図9及び図10を前提とする実施形態の説明図
図12】本発明のコンピューティングシステムの実施形態の一例を示す概念図
図13】本発明のコンピューティングシステムの別の実施形態の一例を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0024】
[用語の説明等]
本発明のコンピューティングシステムには、クラウドコンピューティングシステム(Cloud Computing System)が含まれる。
クラウドコンピューティングとは、インターネットを利用した分散コンピューティングの一つである。
クラウドとは、クラウドコンピューティングを実現するためのデータセンタや、その中で運用されているサーバコンピュータ群などのことをいう。
クラウド技術により、インターネット上にあるデータの所在をユーザに意識させずに大容量のデータを処理することができる。
【0025】
「経験情報」の例として、運転操作量と車両の走行状況とを関連付けた情報、車両の走行経路と消費エネルギとを関連付けた情報、車両の走行経路と回生エネルギ吸収率とを関連付けた情報、等を挙げることができる。経験情報には、手動運転走行時に得られた各種データに基づく学習情報と、運転支援走行時に得られた各種データに基づく学習情報と、完全自動運転走行時に得られた各種データに基づく学習情報とが含まれる。学習情報には、運転操作量についての学習情報、検出物体についての学習情報、等が含まれる。
「走行状況」の例として、走行速度、自車両と周辺の物体との位置関係、自車両と周辺の物体との距離、自車両の現在位置(緯度、経度)、走行経路、周囲の明るさ、天候、車線数、走行車線の幅、道路形状、道路勾配、路面の種類、路面状態、信号機の表示内容、周辺車両数、前方車両速度、前方車両加速度、周辺障害物、自車両の走行車線の種類、等を挙げることができる。周辺の物体には、車両、地上静止物、等が含まれる。地上静止物には、路肩、ガードレール、車庫、電柱、信号機、家屋、等が含まれる。
【0026】
「運転操作量」の例として、自車両の推進力を調整するための操作量(アクセル操作量)、自車両の制動力を調整するための操作量(ブレーキ操作量)、自車両の操舵角または操舵角速度を調整するための操作量(ステアリング操作量)、等を挙げることができる。
「検出物体」の例として、歩行者、他車両、路肩、電柱、信号機、横断歩道、各種標識、等を挙げることができる。
【0027】
手動運転時におけるドライバによる運転操作を機械学習し、当該学習結果を参照して運転支援制御又は自動運転制御を実行する運転制御方式は公知である。本発明の自動車とコンピューティングシステムにおいても、この種の機械学習による運転制御方式を利用可能である。
車両や歩行者など任意の対象物の検出が可能な汎用画像認識システムは公知である。本発明の自動車とコンピューティングシステムにおいても、公知の汎用画像認識システムを利用可能である。歩行者や他車両を検出するための手法として、HOG(Histograms of Orientied Gradients)特徴量抽出、機械学習の手法の一つであるSVM(Support Vector Machine)によるしきい値学習、等が知られている。
【0028】
[システム構成例]
図1は本発明の自動車と本発明のコンピューティングシステムとを含むシステム構成の一例を示す概念図である。
クラウドコンピューティングシステム(以下、クラウドと略称する)200は、サーバコンピュータ210とデータベース220とを備える。サーバコンピュータ210は、自動車100を含む多数の車両の経験情報をインターネット300経由で受信する。サーバコンピュータ210は、受信した経験情報をデータベース220に蓄積する。サーバコンピュータ210は、データベース220から抽出した経験情報を、自動車100を含む多数の車両にインターネット300経由で送信する。サーバコンピュータ210は単体でも複数でもよい。データベース220は一つのサーバコンピュータに配置されていても、複数のサーバコンピュータに分散配置されていてもよい。
自動車100は、車載ゲートウェイ110を備える。
車載ゲートウェイ110は、図示しないCPU(Central Processing Unit )、ROM(Read Only Memory )、RAM(Random Access Memory)等を中心に構成される、無線通信機能を備えた情報処理装置である。車載ゲートウェイ110は、ROMに記憶されている制御プログラムをCPUが実行することにより、各種処理を実行する。車載ゲートウェイ110は、各種のデータをインターネット300経由でクラウド200にアップロード(サーバコンピュータ210に送信)し、また各種のデータをクラウド200からインターネット300経由でダウンロード(サーバコンピュータ210から受信)する。自動車100とクラウド200との間で送受信されるデータには、自車両の経験情報のデータ及び他車両の経験情報のデータが含まれる。
【0029】
図2は本発明の自動車のシステム構成の一例を示す機能ブロック図である。
自動車100は、車載ゲートウェイ110と走行制御システム120とを有する。
車載ゲートウェイ110は、走行制御システム120の制御下で、クラウド200と通信する。車載ゲートウェイ110は、クラウド200から受信したデータを走行制御システム120に入力する。車載ゲートウェイ110は、走行制御システム120から入力されたデータをクラウド200に送信する。
【0030】
走行制御システム120は、検知部121、車両情報入力部122、測位部123、地図情報入力部124、操作部125、通信部126、表示部127、記憶部129、制御部129、等を備える。
【0031】
検知部121は、自車両が走行する車線上、及び隣車線上において自車両と同方向に走行する周辺車両の位置、相対速度、大きさを検知するためのセンサ類で構成されている。検知部121は、例えば、ソナー121aやレーダ121b、カメラ121c等で具現化される。
【0032】
ソナー121aは、自車両の前後左右方向に向けられた各アンテナから超音波を所定領域に送信し、その反射波を受信する。そして、受信した反射波に基づき、自車両の前後左右方向に存在する物体について、自車両との位置関係、距離等を出力する。レーダ121bは、自車両の前後左右方向に向けられたアンテナからレーザ光又はミリ波を照射して所定の検知領域を走査し、その反射波を受信する。そして、受信した反射波に基づき、車両の前後左右方向に存在する物体について、自車両との位置関係、距離、相対速度等を出力する。カメラ121cは、自車両の前後左右方向の所定位置に設けられており、自車両の前後左右方向に存在する周辺車両が写った撮像データを出力する。なお、これらのソナーやレーダ、カメラ121c等のセンサ類は、複数のものを複合的に用いてもよいし、単独で用いてもよい。
【0033】
車両情報入力部122は、走行制御に関する自車両の走行状態を示す情報を制御部128に入力する。自車両の走行状態を示す情報には、運転操作量が含まれる。
【0034】
測位部123は、自車両の現在地を測位する。測位部123は、例えば、高精度GPS(Global Positioning System)に対応した高精度測位受信機等で具現化される。
【0035】
地図情報入力部124は、道路地図情報を記憶する記憶媒体から、自車両が現在走行している道路に関する情報を取得し、制御部128に入力する。地図情報入力部128によって入力される道路の情報の例として、車線数、車線幅、曲り、勾配、合流、規制等の情報等を挙げることができる。
【0036】
操作部125は、走行制御のオン・オフや制御モードの切り換え、表示部127における各種表示の切り換え等の操作指示を入力するための入力装置であり、例えば、車両のステアリングホイールのスポーク部分に設けられるスイッチ等により具現化される。
【0037】
通信部126は、地上静止物に設けられた通信機や、周辺車両に搭載された通信機との間で、通信を行うための通信装置である。地上静止物には、車庫や道路が含まれる。
【0038】
表示部127は、インストルメントパネル中央部に設けられるセンタディスプレイ、及び、メータパネル内に設けられるインジケータで構成される表示装置である。表示部127には、自車両の状態を示す情報とともに、走行制御のオン・オフや制御モードが表示される。制御モードには、手動運転モードと、運転支援モードと、自動運転モードとがある。
【0039】
記憶部128は、自車両の経験情報及び他車両の経験情報を記憶する記憶装置である。
【0040】
制御部129は、図示しないCPU、ROM、RAM等を中心に構成される情報処理装置であり、走行制御システム120の各部を統括制御する。制御部129は、ROMに記憶されている制御プログラムをCPUが実行することにより、各種処理を実行する。
【0041】
制御部129は、検知部121、車両情報入力部122、測位部123、及び、地図情報入力部124から入力された各種情報に基づく自車両の経験情報を記憶部19に蓄積する。自車両の経験情報には、検知部121、車両情報入力部122、測位部123、及び、地図情報入力部124により得られた各種データ(時系列情報など)と、当該各種データを入力データとして所定の学習アルゴリズムにより演算して得られた結果(学習情報)とが含まれる。
【0042】
制御部129は、車載ゲートウェイ110を介してクラウド200と通信する。
制御部129は、記憶部128に蓄積された自車両の経験情報を、車載ゲートウェイ110を介してクラウド200に送信する。
制御部129は、車載ゲートウェイ110を介して受信した他車両の経験情報を、記憶部128に蓄積する。他車両の経験情報には、他車両の検知部121、車両情報入力部122、測位部123、及び、地図情報入力部124により得られた各種データ(時系列情報など)と、当該各種データを入力データとして所定の学習アルゴリズムにより演算して得られた結果(学習情報)とが含まれる。
【0043】
制御部129は、通信部126を介して周辺の地上静止物や周辺の車両と通信する。
制御部129は、記憶部128に蓄積された自車両の経験情報を、通信部126を介して地上静止物や周辺の車両に送信する。
制御部129は、通信部126を介して受信した他車両の経験情報を、記憶部128に蓄積する。
【0044】
制御部129には、走行制御の制御対象となる車両制御部130が接続されている。
【0045】
車両制御部130は、エンジンECU(Electronic Control Unit)130a、ブレーキECU130b、舵角ECU130c、スタビリティECU130d、等の各種電子制御装置からなる。エンジンECU130aは、アクセルペダルの操作量やエンジンの状態に応じた制御指令を出して、エンジンの出力を制御する。ブレーキECU130bは、ブレーキペダルの操作量に応じてブレーキの制動力を制御する。舵角ECU130cは、ステアリングの舵角を制御する。スタビリティECU130dは、車両の走行安定性を制御する。
【0046】
制御部129は、運転操作量(アクセル操作量、ブレーキ操作量、ステアリング操作量、等)に応じて、車両制御部130内の各ECUに指令を与えることで、車両の走行を制御する。
【0047】
制御部129は、運転支援モードにおいては、時々刻々と変化する自車両の走行状況をリアルタイムで解析しつつ、当該解析結果と自車両の経験情報及び/又は他車両の経験情報とに基づいて運転支援情報を生成し、当該運転支援情報を表示部127などを使用してドライバに報知する。
【0048】
制御部129は、自動運転モードにおいては、時々刻々と変化する自車両の走行状況をリアルタイムで解析しつつ、当該解析結果と自車両の経験情報及び/又は他車両の経験情報とに基づいて運転操作量を決定し、車両制御部130内の各ECUに指令を与える。
【0049】
上記のように構成された自動車100は、自車両の走行状況と自車両の経験情報又は他車両の経験情報とに基づいて運転支援や自動運転を行う。
【0050】
上記の例では、車載ゲートウェイ110と走行制御システム120とが各々別個に存在しているが、車載ゲートウェイ110は走行制御システム120と統合できる。
【0051】
[実施形態1]
図3は本発明の自動車の実施形態についての説明図である。
自動車V1(100)は、走行経路Rを走行した経験がない。
自動車V2(100)は、走行経路Rを走行した経験がある。
自動車V2は、走行経路Rを走行した時に運転に関する各種データを取得し、当該各種データを自車両の記憶部128に記憶している。自動車V2は、当該記憶部128に記憶した当該各種データを含む情報を経験情報として自動車V1に提供する。
自動車(自車両)V1は、自動車(他車両)V2の経験情報を自車両V1の運転支援制御及び自動運転制御に利用できる。自動車V1は、走行経路Rを走行した経験がないが、走行経路Rを走行した経験がある自動車(他車両)V2の経験情報に基づいて運転支援制御及び自動運転制御を行うことにより、当該他車両V2と同等レベルの運転支援性能及び自動運転性能を発揮し得る。
自動車V2から自動車V1へ経験情報を受け渡す方法は任意である。その方法の例として、自車両V1と他車両V2との間の通信(図4参照)、自車両V1と地上静止物410との間の通信(図5参照)、自車両V1と道路420との間の通信(図6参照)、自車両V1と携帯端末500との間の通信(図7参照)、クラウド200を介しての情報の受け渡し(図8参照)、等を挙げることができる。
図5には、地上静止物410として道路の信号機が例示されている。自動車V1、V2は、信号機410をアクセスポイント(AP)に利用して経験情報を送受信する。図5の例では、自動車V2から送信された自動車V2の経験情報が信号機410を媒介として自動車V2に受信されている。なお、経験情報を受信する信号機410とその経験情報を送信する信号機410は、同一の信号機であってもよいし、異なる信号機であってもよい。
図6の例では、道路に沿って所定間隔ごとにアクセスポイント(AP)が配置されている。アクセスポイント(AP)は、路面に埋設されてもよいし、道路の側方に設けられてもよい。
図7の例では、自動車(他車両)V2の経験情報が自動車(自車両)V1のドライバの携帯端末500に記憶されている。当該経験情報はクラウド200から携帯端末430にダウンロードされたものである。そして、自動車V1の車内における近距離無線通信により、自動車(他車両)V2の経験情報が携帯端末430から自動車V1に送信される。
図8の構成は、自動車V1、V2がインターネット300経由でクラウド200と通信を行うためのアクセスポイントとして、例えば図5に示す地上静止物410や図6に示す道路420に設けられたアクセスポイント(AP)を使用することにより実現可能である。
【0052】
[実施形態2]
図9は本発明の自動車の別の実施形態についての説明図である。
車庫Gは、自動車V2(100)が日常使用している車庫である。
車庫Gは、細い道路STに面しているため、慣れないドライバには入庫操作が難しい。
車庫Gの左側斜め前方には、道路STから分岐した形状の凹部Dがある。
自動車V2を車庫Gに入れるためには、先ず、図10(A)に示すように、自動車V2の右先端が凹部Dの中に入るまで、自動車V2を右斜め方向に前進させなければならない。その後、図10(B)に示すように、軌道が弧を描くように蛇角を注意深く調整しながら自動車V2を進行させなければならない。
自動車V2は、車庫Gに入庫した時に運転に関する各種データを取得し、当該各種データを自車両の記憶部128に記憶している。自動車V2は、当該記憶部128に記憶した当該各種データを含む情報を経験情報として自動車V1(100)に提供する。自動車V2がその経験情報を自動車V1に提供する方法は任意である。
図11には、自動車V1、V2と車庫Gとの間の通信により経験情報の受け渡しが行なわれる場合が例示されている。図11の例では、車庫Gの入り口近傍に、車庫入れ経験提供装置440が設けられている。車庫入れ経験報提供装置440は、自動車V2からその経験情報を受信し(経験情報受信機能)、その経験情報を記憶部に記憶している(経験情報記憶機能)。そして、車庫入れ経験提供装置440は、自動車V1が車庫Gに近づいたら、その記憶部に記憶されている経験情報を自動車V1に送信する。
自動車V1は、自動車V2の経験情報を自車両の運転支援制御及び自動運転制御に利用する。自動車V1は、車庫Gに入庫した経験はないが、車庫Gを日常的に使用している自動車V2の経験情報に基づいて運転支援制御及び自動運転制御を行うことにより、自動車V2と同等レベルの運転支援性能及び自動運転性能で車庫Gに入庫することができる。出庫の場合も同様である。
【0053】
[実施形態3]
図12は本発明のコンピューティングシステムの構成例を示す概念図である。
クラウド200内のサーバコンピュータ210は、1又は複数の自動車V1、V2、V3・・・の経験情報をインターネット経由で受信し(経験情報受信機能)、当該経験情報を当該経験情報の送信元とは異なる1又は複数の自動車V1、V2、V3・・・にインターネット300経由で送信する(経験情報送信機能)。サーバコンピュータ210から経験情報を受信した車両は、当該経験情報を自車両の運転支援制御及び自動運転制御に利用できる。自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて運転支援制御及び自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルの運転支援性能及び自動運転性能で当該状況に対処できる。
このシステムによれば、地球上に存在する多数の自動車V1、V2、V3、・・・、Vnが経験情報を互いに利用し合うことにより、各車両の運転支援性能及び自動運転性能を効率良く向上させることができる。すなわち、地球上に存在する多数の自動車V1、V2、V3、・・・、Vnが自車両の経験のみならず他車両の経験も活用して各車両の運転支援性能及び自動運転性能を向上させ得るシステムを実現することができる。
【0054】
[実施形態4]
図13は本発明のコンピューティングシステムの別の構成例を示す概念図である。
クラウド200内のサーバコンピュータ210は、1又は複数の車両の経験情報をインターネット300経由で受信し(経験情報受信機能)、当該経験情報に基づいて最適化された経験情報を生成し(最適化情報生成機能)、当該最適化された経験情報を最新の情報に更新して管理し(最適化情報更新機能)、1又は複数の車両にインターネット経由で送信する(経験情報送信機能)。サーバコンピュータ210から経験情報を受信した車両は、当該経験情報を自車両の自動運転制御に利用できる。自車両が未経験の状況においても、当該状況を経験したことのある他車両の経験情報に基づいて最適化された経験情報に基づいて運転支援制御及び自動運転制御を行うことにより、当該他車両と同等レベルかそれ以上の運転支援性能及び自動運転性能で当該状況に対処できる。
このシステムによれば、地球上に存在する多数の自動車V1、V2、V3、・・・、Vnの運転支援性能及び自動運転性能を車両毎に効率良く最適化することができる。最適化の対象には、消費エネルギ、回生エネルギ、事故発生率、等が含まれる。
【0055】
以上の実施形態において、クラウド200は、経験情報の提供元の自動車と経験情報の提供先の自動車の車種や車体の各部の寸法などが異なる場合、提供先の自動車の車種などに応じて経験情報を最適値に修正することが望ましい。
自動車100は、経験情報の提供元である他車両と提供先である自車両の車種や車体の各部の寸法などが異なる場合、提供された経験情報を自車両の車種などに応じて最適値に修正することが望ましい。
【0056】
[応用例]
(1)保険会社等が本発明のコンピューティングシステムを利用する。
保険会社等は推奨経験情報を提供する。
自動車100は推奨経験情報をクラウド200からダウンロードする。
自動車100が推奨経験情報を利用して自動運転モードで走行すると、その走行距離、走行回数、等に応じて当該自動車100の保険料が割安になる。
(2)プロのドライバ(タクシードライバ等)が運転した際に得られた経験情報をクラウド200にアップロードする。
当該プロのドライバ又は当該プロのドライバの所属する組織(タクシー会社等)は経験情報を提供した代償を得る。
(3)経験情報に基づいて優秀ドライバ(エコドライバなど)、優秀車両(エコ車両など)、等を選定する。
優秀ドライバ、優秀車両、等を表彰する。
【用語の説明】
【0057】
100 自動車
110 車載ゲートウェイ
120 走行制御システム
200 クラウドコンピューティングシステム
210 サーバコンピュータ
220 データベース
300 インターネット
410 信号機(地上静止物)
420 道路(地上静止物)
440 車庫入れ経験提供装置
500 携帯端末
G 車庫(地上静止物)
V1 自車両
V2 他車両
図1
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図5
図6
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