(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201135
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】プラスチック成形品のサンドイッチ成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
B29C45/16ZBP
B29C45/16ZAB
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-63871(P2012-63871)
(22)【出願日】2012年3月21日
(65)【公開番号】特開2013-193358(P2013-193358A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年3月13日
【審判番号】不服2016-9939(P2016-9939/J1)
【審判請求日】2016年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】500376287
【氏名又は名称】株式会社岩本金属製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】508114454
【氏名又は名称】地方独立行政法人 大阪市立工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 和倫
(72)【発明者】
【氏名】泊 清隆
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩二
【合議体】
【審判長】
小柳 健悟
【審判官】
加藤 友也
【審判官】
佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−161853(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/029754(WO,A1)
【文献】
特開2010−284300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキン層とコア層とを有するプラスチック成形品のサンドイッチ成形方法であって、
ポリ乳酸を主成分として含有する第1樹脂組成物をキャビティ内に射出して前記スキン層を形成する第1工程と、竹繊維とポリ乳酸とを含有する第2樹脂組成物を前記キャビティ内に射出して前記コア層を形成する第2工程とを少なくとも有し、
前記第2樹脂組成物中の前記竹繊維の含有量が、51重量%以上であることを特徴とするプラスチック成形品のサンドイッチ成形方法。
【請求項2】
前記プラスチック成形品が食器である請求項1に記載のプラスチック成形品のサンドイッチ成形方法。
【請求項3】
前記キャビティ内での前記第1樹脂組成物と前記第2樹脂組成物との充填比率が、容積換算で1:0.2〜1:2.0である請求項1または2に記載のプラスチック成形品のサンドイッチ成形方法。
【請求項4】
前記キャビティ内への射出開始から、前記第1樹脂組成物の充填時間が0.3〜4.0秒であり、前記第2樹脂組成物の充填時間が0.3〜3.0秒である請求項1〜3の何れかに記載のプラスチック成形品のサンドイッチ成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキン層とコア層とを有するプラスチック成形品のサンドイッチ成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、竹林の拡大とそれに伴う森林の荒廃が問題となる中で、全国各地で竹林の整備や拡大・侵入防止策、また竹林や竹材の有効利用についての様々な取り組みが行われているが、整備後などに生ずる竹廃材の有効な利用策が講じられていないのが実情である。また、石油資源の枯渇が予想される状況下、プラスチック材料を焼却廃棄する際の有害ガスの発生を抑制する観点から、石油資源を原料とするプラスチック材料の使用量も、できるだけ減らす必要がある。
【0003】
下記特許文献1では、同一スプルーを経てスキン層となる樹脂と、コア層となる樹脂をキャビティ内に連続的に射出するサンドイッチ成形方法が記載されている。しかしながら、かかる特許文献では成形品のキャビティ面のゲート正面部に対応するスキン層の肉厚を十分に確保するため、コア層となる樹脂として流れの良好なものを使用する必要があり、竹繊維などの非溶融物をコア層に含有する成形品を製造するための条件検討はされていない。
【0004】
なお、下記特許文献2では、竹繊維を含有する繊維層と樹脂層とを有する食器が記載されているが、かかる食器をサンドイッチ成形方法にて製造する技術が記載されているわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−50622号公報
【特許文献2】特許第4531349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、廃棄の際にも環境に優しく、かつ竹資源の有効活用が可能で、美観に優れ、耐久性に優れたプラスチック成形品のサンドイッチ成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち本発明は、スキン層とコア層とを有するプラスチック成形品のサンドイッチ成形方法であって、ポリ乳酸を主成分として含有する第1樹脂組成物をキャビティ内に射出して前記スキン層を形成する第1工程と、竹繊維とポリ乳酸とを含有する第2樹脂組成物を前記キャビティ内に射出して前記コア層を形成する第2工程とを少なくとも有することを特徴とするプラスチック成形品のサンドイッチ成形方法、に関する。
【0008】
上記成形方法においては、サンドイッチ成形方法により、竹繊維とポリ乳酸とを含有するコア層を、ポリ乳酸を主成分とするスキン層により包み込んだプラスチック成形品を製造する。竹繊維およびポリ乳酸のいずれもカーボンニュートラルな原料であって、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の量を増やすことがない。さらに、竹繊維とポリ乳酸とを含有するコア層がポリ乳酸を主成分とするスキン層により確実に覆い隠されるため、例えばプラスチック成形品が水と接触する場合でも竹繊維の膨潤・劣化を防止し、かつ微小な竹繊維が突出することや成形時の熱履歴による竹繊維の焼け、分解に伴う外観不良も低減することができる。
【0009】
なお、スキン層とコア層とを有するプラスチック成形品において、コア層の露出をより確実に防止する方法として、プラスチック成形品を塗装する方法が挙げられるが、かかる塗装工程を設ける場合は、塗装の剥離に起因した安全性の問題や、塗装の耐熱性に限界があること、さらには塗装によるコストアップなどの問題がある。しかしながら、本発明に係る成形方法により得られたプラスチック成形品では、竹繊維とポリ乳酸とを含有するコア層が、ポリ乳酸を主成分とするスキン層により、確実に覆い隠されるため、塗装の省略、あるいは塗装量の低減が可能となる。その結果、耐熱性に優れ、コスト低減が可能であって、かつ安全性に優れたプラスチック成形品が得られる。
【0010】
上記成形方法において、前記第2樹脂組成物中の前記竹繊維の含有量が、51重量%以上であることが好ましい。かかる構成によれば、プラスチック成形品中の竹繊維の含有量がより多くなるため、竹資源のさらなる有効活用が可能となる。
【0011】
上記成形方法において、前記プラスチック成形品が食器であることが好ましい。一般に、食器は製品厚みが薄く、かつ水と接する機会も多いが、上記成形方法によれば、製品厚みが薄くても竹繊維の露出量を著しく低減できるため、耐水性などの耐久性がさらに向上し、かつ美観に優れる。
【0012】
上記成形方法において、前記キャビティ内での前記第1樹脂組成物と前記第2樹脂組成物との充填比率が、容積換算で1:0.2〜1:2.0であることが好ましい。スキン層を形成する第1樹脂組成物と、コア層を形成し、竹繊維を含有することにより流動性が低下した第2樹脂組成物とを、かかる充填比率に設定することにより、コア層がスキン層を突き破るブレイクスルー現象を生じることなく、より多くの竹繊維を充てんさせたプラスチック成形品を製造することができる。
【0013】
上記成形方法において、前記キャビティ内への射出開始から、前記第1樹脂組成物の充填時間が0.3〜4.0秒であり、前記第2樹脂組成物の充填時間が0.3〜3.0秒であることが好ましい。各々の充填時間をかかる範囲内に設定することにより、スキン層の硬化タイミングとコア層の冷却固化タイミングとを最適化することができ、コア層がスキン層を突き破るブレイクスルー現象を生じることなく、より多くの竹繊維を充てんさせたプラスチック成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のサンドイッチ成形方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のプラスチック成形品のサンドイッチ成形方法は、第1樹脂組成物をキャビティ内に射出してスキン層を形成する第1工程と、第2樹脂組成物をキャビティ内に射出してコア層を形成する第2工程とを少なくとも有する。
【0016】
第1樹脂組成物は、ポリ乳酸を主成分として含有し、具体的にはポリ乳酸を90重量%以上含有し、好ましくは95%以上含有し、より好ましくは99%以上含有する。必要に応じて、第1樹脂組成物中に酸化チタンなどの着色剤や、カーボンブラックなどの充填剤、さらにはポリ乳酸と共に射出成形可能な各種プラスチック材料を配合することができる。
【0017】
第2樹脂組成物は、竹繊維とポリ乳酸とを含有し、具体的には竹繊維を30%以上含有し、好ましくは51%以上含有する。竹繊維以外の成分として、全てをポリ乳酸としても良く、あるいは必要に応じて、酸化チタンなどの着色剤や、カーボンブラックなどの充填剤、さらにはポリ乳酸と共に射出成形可能な各種プラスチック材料を配合することができる。
【0018】
竹繊維は、竹を原料として当業者に公知の手法、例えば爆砕処理などにより得ることができる。爆砕処理によって得られた竹繊維は、ジュート繊維等に比べ、ヤング率が熱影響を受けにくいという特徴を有するので、例えば給食用食器のように食器洗い機で長時間高温に晒される用途においては特に好ましい。ここで「爆砕」は、高温高圧水蒸気下に対象物質を一定時間保持した後、圧力を瞬時に解放することにより物質成分を分解する手段をいう。例えば、竹繊維を含有する食器を成型した場合、竹繊維はポーラスであり、かつ繊維間の空隙に含まれる空気で成形後も多数の気泡が形成されるため、断熱性を高めることができ、例えば竹繊維を含有する食器とした場合、高い保温性を有する。また、この断熱性から、食器に盛った食品温度に応じて食器(特に縁部分)が極端に熱くなったり冷たくなることもなく、持ち運びも容易となる。
【0019】
本発明において、成形可能なプラスチック成形品の形状は、任意の厚み・大きさに設計可能であり、具体的には例えば、食器、玩具、厨房備品、家庭用品などが挙げられる。特に本発明は、製品厚みが薄くても竹繊維の露出量が著しく低減されたプラスチック成形品が製造可能であるため、製品厚みが薄く(例えば1〜5mm、より好ましくは2〜4mm)、かつ水と接する機会が多い食器のサンドイッチ成形方法として特に有用である。また、竹繊維とポリ乳酸とを主成分とする食器は、軽量でありながら十分な強度を備え、耐衝撃性に富み、かつ廃棄処分時の環境負荷も小さい。以下に、プラスチック成形品として、食器を例に挙げてサンドイッチ成形方法について説明する。
【0020】
図1では、食器の形状に対応するキャビティを有する金型1内に、第1樹脂組成物および第2樹脂組成物を連続的に射出して食器を製造する例を示す。この例ではポリ乳酸を主成分として含有する第1樹脂組成物がシリンダ2に投入され、竹繊維とポリ乳酸とを含有する第2樹脂組成物がシリンダ3に投入されている。
【0021】
まず、スプルーを通って第1樹脂組成物が金型1内のキャビティ内に射出されることで、食器のスキン層が形成される(第1工程)。続いて、連続的に、第2樹脂組成物がスプルーを通って金型1内のキャビティ内に射出されることでコア層が形成される(第2工程)。必要に応じて、第2工程の後に第1樹脂組成物をさらに射出することで、スキン層によりコア層をさらに確実に覆い隠すことができる(第3工程)。
【0022】
第2工程(または第3工程)後に適宜金型1を冷却し、型開き・製品取り出しを行うことで、食器が得られる。必要に応じて、食器を塗装しても良い。塗装する場合であっても、本発明に係るサンドイッチ成形方法により得られた食器では、スキン層によりコア層が確実に覆い隠されているため、塗装量を最小限に抑えることができ、さらに塗膜強度も著しく向上し、塗膜剥離の問題も解決することができる。
【0023】
後述する実施例を参照しても明らかなとおり、スキン層によりコア層をより均一に覆い隠すためには、キャビティ内での第1樹脂組成物と第2樹脂組成物との充填比率が、容積換算で1:0.2〜1:2.0であることが好ましく、1:0.5〜1:1.2であることがより好ましく、1:0.6〜1:1であることが特に好ましい。さらに、スキン層の冷却固化タイミングとコア層の冷却固化タイミングとを最適化し、スキン層によりコア層をより均一に覆い隠すためには、キャビティ内への射出開始から、第1樹脂組成物の充填時間が0.3〜4.0秒であり、第2樹脂組成物の充填時間が0.3〜3.0秒であることが好ましく、第1樹脂組成物の充填時間が0.8〜2.0秒であり、第2樹脂組成物の充填時間が0.5〜1.0秒であることがより好ましい。
【実施例】
【0024】
図1に記載の成形機(日精樹脂工業FN1000 12AD)を使用し、第1樹脂組成物としてポリ乳酸(「テラマックTE−8003W」、ユニチカ社製)100重量%、第2樹脂組成物として、竹繊維51重量%、ポリ乳酸(「テラマックTE−8003W」、ユニチカ社製)49重量%を含有するペレットを使用した。表1に実施例1〜6の各食器をサンドイッチ成形した際の成形条件を示す。なお、実施例1では大椀(145×60mm、厚み1.0〜3.0mm)、実施例2では小椀(128×55mm、厚み1.0〜3.0mm)、実施例3では深皿(170×35mm、厚み1.0〜3.0mm)、実施例4では小皿(145×34mm、厚み1.0〜3.0mm)、実施例5ではフルーツ皿(120×34mm、厚み1.0〜3.0mm)、実施例6ではパン皿(170×25mm、厚み1.0〜3.0mm)を製造した例を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
得られた大椀、小椀、深皿、小皿、フルーツ皿およびパン皿のいずれも、竹繊維とポリ乳酸とを含有するコア層が、ポリ乳酸を主成分として含有するスキン層によって、確実に覆い隠されているため、美観に優れ、耐水性などの耐久性にも優れ、コア層がスキン層を突き破るブレイクスルー現象を生じることなく、より多くの竹繊維を充てんさせることができた。