(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線基板は、その自在に屈曲できる性質を活かしてハードディスクの読み書きヘッドやプリンターヘッドなどの電子機器の可動部の屈曲を要する配線部分、液晶ディスプレイ装置内のわずかな隙間を通す配線部分などに広く用いられている。かかるフレキシブル配線基板は、一般的に銅層と樹脂層とからなる積層構造のフレキシブルな銅張積層板(FCCL:Flexible Copper Clad Laminationとも称す)に対して、サブトラクティブ法やセミアディティブ法を用いて配線加工することで作製される。
【0003】
サブトラクティブ法とは、銅張積層板の銅層を化学エッチング処理して配線以外の不要部分を除去する方法である。具体的には、銅張積層板の銅層の表面にレジスト層を成膜した後、このレジスト層にパターニング処理を施すことにより導体配線として残したい部分以外の銅層の表面を露出させ、この銅層の露出部分を銅を溶かすエッチング液を用いて選択的に除去することで導体配線を形成し、その後水洗するものである。
【0004】
一方、セミアディティブ法とは、銅張積層板の銅層の表面に配線の形状となるように銅めっきを更に行った後、配線以外の不要な銅層と下地金属層とを化学エッチングで除去する方法である。具体的には、銅層の表面にレジスト膜を成膜してからこのレジスト膜に配線の形状に開口するようにパターニング処理を施した後、この開口した箇所に配線として必要な膜厚まで銅めっきを行い、レジストを除去した後、化学エッチングにより不要な銅層と下地金属層とを除去する方法である。
【0005】
上記したフレキシブルな銅張積層板(FCCL)は、接着剤を用いて電解銅箔や圧延銅箔をベース層である絶縁性の樹脂フィルムに接着した「銅箔/接着剤層/樹脂フィルム」からなる3層構造のFCCL板(以下、3層FCCLとも称する)と、銅層若しくは銅箔と樹脂フィルム基材とが直接接合した「銅層若しくは銅箔/樹脂フィルム」からなる2層構造のFCCL板(以下、2層FCCLとも称する)とに分類することができる。
【0006】
上記2層FCCLは更に3種類に大別することができる。即ち、樹脂フィルムの表面に下地金属層と銅層を順次めっきして形成したFCCL(通称メタライジング基板)、銅箔に樹脂フィルムのワニスを塗って絶縁層を形成したFCCL(通称キャスト基板)、および銅箔に樹脂フィルムをラミネートしたFCCL(通称ラミネート基板)の3種類である。これらのうち、メタライジング基板は銅層の薄膜化が可能であり、且つ樹脂フィルムと銅層との界面の平滑性が高いため、キャスト基板やラミネート基板あるいは3層FCCLと比較して配線のファインパターン化に適している。例えば特許文献1にはメタライジング基板の製造方法が開示されている。
【0007】
このような2層FCCLでは、樹脂フィルム基材として使用するポリイミドフィルムの厚さを従来の30μm以上のものよりも薄いポリイミドフィルムを使用することが市場から求められている。薄いポリイミドフィルムを製造する方法としては、例えば25μm以下の厚みとなるように原料のポリアミック酸をキャストしてから熱イミド化し、幅方向(TD方向)や長手方向(MD方向)に延伸することでフィルム化する方法がある。例えば特許文献2には、厚さ12.5μmのポリイミドフィルムを作製する技術が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
厚さ25μm以下のポリイミドフィルムは、従来広く用いられていた厚さ35μm以上のポリイミドフィルムとは異なり、フィルムに成膜した時に寸法変化の挙動にばらつきが生じやすく、寸法安定性が劣るという問題を有している。その理由は、フィルムの厚みが25μm以下になると、フィルムの製造段階において延伸を十分に行うことが困難であることに起因していると考えられる。すなわち、厚さ25μm以下のフィルムに対して延伸を強く行うと、フィルム厚みが薄い故にシワが入ったり破断したり等の不具合が生じやすくなる。
【0016】
このような状況の下、発明者は鋭意研究を行ったところ、厚さ25μm以下のポリイミドフィルムを所定の条件で熱処理することで、寸法安定性を高め得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明のポリイミドフィルムの熱処理方法は、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとからなりイミド結合を含む厚み25μm以下の長尺のポリイミドフィルムをその長手方向に単位断面積あたり0.762〜3.05N/mm
2の張力を加えた状態で100〜200℃に加熱する熱処理を行うものである。
【0017】
以下、かかる本発明の熱処理方法の一具体例として、厚さ25μm以下のポリイミドフィルムに上記熱処理を施した後、この熱処理されたポリイミドフィルムに下地金属層、銅薄膜層、および銅電気めっき層を成膜して銅張積層板を作製する場合を例に挙げて説明する。これらのうち、下地金属層および銅薄膜層は乾式めっき法で形成することができる。乾式めっき法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法、真空蒸着法、CVD法等を挙げることができるが、シード層の組成の良好な制御等の観点から、スパッタリング法が望ましい。
【0018】
スパッタリング法でポリイミドフィルムなどの樹脂フィルム基材に成膜するには公知のスパッタリング装置で成膜することができ、長尺の樹脂フィルム基材に成膜するには、公知のロール・ツー・ロール方式スパッタリング装置で行うことができる。このロール・ツー・ロールスパッタリング装置を用いれば、長尺のポリイミドフィルムの表面に、下地金属層および銅薄膜層を連続して成膜することができる。
【0019】
図1は係るロール・ツー・ロールスパッタリング装置の一具体例である。この
図1に示すロール・ツー・ロールスパッタリング装置10は、直方体状のチャンバー12内にその構成要素のほとんどを収納した構造になっている。チャンバー12の形状は
図1の直方体形状に限られるものではなく、10
−4Pa〜1Pa程度の減圧状態を維持できるのであれば円筒形状等の他の形状でもよい。
【0020】
このチャンバー12内に、長尺ポリイミドフィルムからなる樹脂フィルム基材F1が引き出される巻出ロール13、樹脂フィルム基材F1の搬送に追従して回転するフリーロール11a、11b、11c、11d、樹脂フィルム基材F1に熱処理を行う赤外線ヒータ19a、19b、樹脂フィルム基材F1を外周面に巻き付けて冷却するキャンロール14、マグネトロンカソード式のスパッタリングカソード15a、15b、15c、15d、キャンロール14に隣接して設けられた前フィードロール16aおよび後フィードロール16b、張力センサーを備えたテンションロール17a、17b、17c、下地金属層および銅薄膜層が成膜された樹脂フィルム基材F2をロール状に巻き取る巻取ロール18が設けられている。
【0021】
これらのうち、巻出ロール13、キャンロール14、前フィードロール16a、および巻取ロール18には回転駆動手段であるサーボモータが備わっている。更に巻出ロール13および巻取ロール18の各々は、パウダークラッチ等によるトルク制御によって搬送中の樹脂フィルム基材の張力バランスを保っている。フリーロール11a〜11d、キャンロール14、およびテンションロール17a〜17cは、外周面が硬質クロムめっきで仕上げられている。
【0022】
キャンロール14の内部にはチャンバー12の外部から供給される冷媒や温媒が循環しており、これによりキャンロール14の外周面を略一定の温度に調整することができる。このキャンロール14の外周面に対向してスパッタリングカソード15a〜15dが配置されている。キャンロール14の外周面の幅方向におけるスパッタリングカソード15a〜15dの寸法は、樹脂フィルム基材F1の幅よりも大きいのが好ましい。
【0023】
赤外線ヒータ19a、19bは樹脂フィルム基材F1を挟んで対向して配されている。これら赤外線ヒータ19a、19bによって下地金属層が成膜される前の樹脂フィルム基材F1に熱処理が施される。これら赤外線ヒータ19a、19bの直ぐ上流側に設けられたテンションロール17aは、赤外線ヒータ19a、19bで熱処理されている樹脂フィルム基材F1の長手方向の張力を測定できるようになっている。
【0024】
上記した構成のロール・ツー・ロールスパッタリング装置10を用いて樹脂フィルム基材F1の表面に下地金属層と銅薄膜層とを成膜する方法について説明すると、先ずスパッタリングカソード15aに下地金属層の組成を有するターゲットを装着し、スパッタリングカソード15b〜15dに銅ターゲットを装着する。次に巻出ロール13にロール状に巻かれた樹脂フィルム基材F1をセットしてからチャンバー12内を真空排気した後、アルゴン等のスパッタリングガスを導入してチャンバー12内を1.3Pa程度に保持する。この状態で樹脂フィルム基材F1を搬送経路に沿ってロール・ツー・ロールで搬送することにより、樹脂フィルム基材F1はキャンロール14の外周面に巻き付けられて冷却されながら対向するスパッタリングカソード15a〜15dによって成膜処理が行われる。これにより、銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2を作製することができる。なお、下地金属層をスパッタリングで成膜した後、銅薄膜層を蒸着法で成膜しても良い。
【0025】
ところで、一般にポリイミドフィルムは吸湿性が高いため、乾式めっき法による成膜前にポリイミドフィルムが吸湿した水分を低減するのが好ましい。このため、赤外線ヒータ19a、19bで樹脂フィルム基材F1の表裏面を熱処理してポリイミドフィルムが吸湿した水分を低減している。この赤外線ヒータ19a、19bの熱処理の際に樹脂フィルム基材F1をテンションロール17aとフリーロール11aとで張架することにより樹脂フィルム基材F1にその長手方向に一定の張力を加えることができる。このように、ポリイミドフィルムからなる樹脂フィルム基材F1に長手方向の張力を加えた状態で熱処理することにより、樹脂フィルム基材F1の寸法安定性を高めることができる。
【0026】
具体的には、厚さ25μm以下の長尺のポリイミドフィルムの場合、長手方向に単位断面積あたり0.762〜3.05N/mm
2の張力を加えた状態で当該ポリイミドフィルムの温度が100〜200℃、好ましくは100〜150℃となるように熱処理する。この温度が100℃未満では、温度が低すぎて寸法安定性を良好に是正できない。一方、この温度が200℃を超えるとシワが生じたり、寸法安定性がかえって悪化したりなどの不具合を生じるおそれがある。張力については0.762N/mm
2未満では、フィルムを十分に引っ張りきれていないことから寸法安定性を良好に改善することができない。一方、張力が3.05N/mm
2を超えると、寸法安定性がかえって悪化する。なお、単位断面積あたり0.762〜3.05N/mm
2の張力は、幅525mm、厚さ12.5μmのフィルムでは張力5〜20Nに該当する。
【0027】
上記の熱処理では、ポリイミドフィルムは室温から上記した熱処理温度まで昇温される。ここで重要なのは、熱処理の温度と張力であり、ポリイミドフィルムが熱処理に曝される時間については、ポリイミドフィルムが反りなどの変形の問題を生じない限り特に制約はない。一般的には所定の熱処理温度に達してから0.1〜100秒間程度その温度を維持できればよい。このように、ポリイミドフィルムに加えられる熱とその時の張力とを適切に調整することにより、フィルム化の際の不十分な延伸を補正することができる。
【0028】
上記した熱処理は不活性気体からなる減圧雰囲気下で行うのが望ましい。この不活性気体にはアルゴンガスや窒素ガスを挙げることができるが、熱処理の後に連続してスパッタリング成膜を行うことからアルゴンガスがより望ましい。また、減圧雰囲気としては0.1〜10Paの範囲内が望ましい。この圧力範囲内であれば、ポリイミドフィルムが吸湿した水分の離脱が容易になるからである。熱処理時の圧力は低ければ低いほど望ましいが、0.1Pa未満では効果が著しく向上することはなく、減圧雰囲気を維持するコストからすれば経済的ではない。このように熱処理は減圧雰囲気下で行うのが好適であるため、熱処理の熱源は赤外線ヒータが望ましい。
【0029】
上記乾式めっき法で銅薄膜層が成膜された銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2は、次に湿式めっき法により銅電気めっき層の成膜が行われる。湿式めっき法を行う装置としては、例えば硫酸銅などのめっき浴中にて不溶性アノードを用いて電気めっきを行う装置を挙げることができる。なお、使用する銅めっき浴の組成は、通常用いられるプリント配線板用のハイスロー硫酸銅めっき浴でも良い。
【0030】
図2には、かかる電気めっき装置の一具体例として、ロール・ツー・ロール電気めっき装置20(以下電気めっき装置20とも称する)が示されている。この電気めっき装置20は、下地金属層と銅薄膜層を成膜して得られた銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2をロール・ツー・ロールで連続的に搬送することで電気めっき槽21内のめっき液28への浸漬状態と非浸漬状態とを繰り返し、めっき液28に浸漬している間に電気めっきにより金属薄膜の表面に銅電気めっき層を成膜するものである。これにより所定の膜厚の銅層が形成された2層構造の銅張積層板Sを作製することができる。なお、銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2の搬送速度は、数m〜数十m/分の範囲が好ましい。
【0031】
具体的に説明すると、銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2は、巻出ロール22から巻き出され、給電ロール26aを経て、電気めっき槽21内のめっき液28に浸漬される。めっき液28内に入った銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2は、反転ロール23aにより搬送方向が反転された後、めっき液面28aより上に引き上げられる。反転ロール23aでの反転の直前および直後の搬送経路を走行する銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2に対向する位置にはそれぞれアノード24aおよびアノード24bが設けられている。各アノードは給電ロールとの間で電圧が印加されるようになっており、例えば給電ロール26a、アノード24a、めっき液、銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2および電源により電気めっき回路が構成される。これにより銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2の表面に電気めっき処理が施される。
【0032】
同様にして9個の給電ロール26b〜26jおよび9個の反転ロール23b〜23jにより銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2にはめっき液28への浸漬状態と非浸漬状態とが複数回(
図2では合計10回)繰り返され、これにより銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2の銅薄膜層上に徐々に銅層が成膜される。反転ロール23jで搬送方向が反転せしめられた樹脂フィルム基材は給電ロール26kを経た後、巻取ロール29に巻き取られる。なお、各アノードを構成する不溶性アノードには導電性セラミックで表面をコーティングした公知のものを使用することができる。
【0033】
電気めっき槽21の外部には、めっき液28に銅イオンを供給する機構が設けられている。このめっき液28への銅イオンの供給は、酸化銅水溶液、水酸化銅水溶液、炭酸銅水溶液等で供給するのが好ましい。あるいは、めっき液中に微量の鉄イオンを添加して、無酸素銅ボールを溶解して銅イオンを供給する方法でもよい。
【0034】
めっき中における電流密度は、アノード24aから搬送方向下流に進むにつれて電流密度を段階的に上昇させ、アノード24oから24tで最大の電流密度となるようにするのが好ましい。このように電流密度を上昇させることで、銅層の変色を防ぐことができる。また、銅層の膜厚が薄い場合に電流密度が高いと銅層の変色が起こりやすいため、めっき中の電流密度は0.1〜8A/dm
2が望ましい。この電流密度が8A/dm
2より高くなると銅電気めっき層の外観不良が発生するおそれがある。
【0035】
上記したように、熱処理を施した後のポリイミドフィルムに乾式めっき法と湿式めっき法とで成膜することにより、寸法安定性の極めて高い高品質の銅張積層板を効率よく作製することが可能になる。更に、この方法で作製した銅張積層板は、ポリイミドフィルムの表面上に接着剤を介することなく下地金属層と銅層とを積層させることができるので、高密度にパターニングすることが可能になる。
【0036】
本発明に係る熱処理方法が対象とするポリイミドフィルムには、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとからなりイミド結合を含むポリイミドフィルムを用いることが望ましい。この様なイミド結合をもつポリイミドフィルムにはカプトン(登録商標 東レ・デュポン社製)が知られている。ポリイミドフィルムによっては、パラフェニレンアミンや3,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミン成分と3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二水和物からなりイミド結合を有するポリイミドフィルムも知られている。このようなピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなりイミド結合を含むポリイミドフィルム以外のポリイミドフィルムの場合は、張力や熱処理温度を適宜調整すればよい。
【0037】
また、本発明に係るポリイミドフィルムの熱処理方法が対象とするポリイミドフィルムの厚みは25μm以下である。例えば厚み10μm、12.5μm、17.5μm、および25μmのポリイミドフィルムが市販されている。工業的な生産性からすればポリイミドフィルムの厚みは数μm以上である。本発明のポリイミドフイルムの熱処理方法に適したポリイミドフィルムの厚みは10〜17.5μmである。厚み25μmを超えたポリイミドフィルムは最適な延伸がされているため、本発明に係るポリイミドフィルムの熱処理方法を施しても効果は少ない。
【0038】
なお、寸法安定性は寸法変化率として、JPCA−BM03−2006やIPC−TM−650Number2.2.4に規定されている。これら規格または、これら規格の測定方法に準拠した測定方法で測定して寸法変化率が少なければ、寸法安定性が確保されていると判断することができる。
【0039】
図3に、上記した本発明の一具体例に係る銅張積層板の製造方法で作製した銅張積層板6の模式的断面図を示す。この
図3に示すように、ポリイミドフィルムを用いた樹脂フィルム基材1の少なくとも片面に、ポリイミドフィルム側から順に下地金属層2、銅薄膜層3、および銅電気めっき層4が積層されている。銅薄膜層3と銅電気めっき層4とから銅層5が構成される。ここで、下地金属層2は樹脂フィルム基材1と銅層5との密着性や耐熱性などの信頼性を確保するものである。従って、下地金属層2の材質は、ニッケル、クロム、またはこれらの合金の何れか1種とするのが好ましい。特に、密着強度や配線作製時のエッチングしやすさを考慮すると、ニッケル・クロム合金が適している。
【0040】
この場合のニッケル・クロム合金の組成は、クロム15質量%以上22質量%以下が望ましく、これにより優れた耐食性や耐マイグレーション性が得られる。このうち、20質量%クロムのニッケル・クロム合金はニクロム合金として流通しており、マグネトロンスパッタリング法のスパッタリングターゲットとして容易に入手可能である。また、ニッケルを含む合金には、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、コバルト等を添加しても良い。さらに、クロム濃度の異なる複数のニッケル・クロム合金の薄膜を積層して、ニッケル・クロム合金に関して濃度勾配を有する下地金属層を成膜しても良い。
【0041】
下地金属層2の膜厚は、3〜50nmが望ましい。この下地金属層2の膜厚が3nm未満では、ポリイミドフィルムからなる樹脂フィルム基材1と銅層5との密着性を保てず、耐食性や耐マイグレーション性で劣るおそれがある。一方、下地金属層2の膜厚が50nmを超えると、サブトラクティブ法やセミアディティブ法で配線加工する際に下地金属層2の十分な除去が困難な場合が生じる。このように下地金属層2の除去が不十分な場合は、配線間のマイグレーション等の不具合が懸念される。
【0042】
銅薄膜層3は、主に銅で構成され、その膜厚は、10nm〜1μmが望ましい。銅薄膜層3の膜厚が10nm未満では、銅電気めっき層4を電気めっき法で成膜する際の導電性の確保が困難になり、電気めっきの際の外観不良に繋がる。銅薄膜層3の膜厚が1μmを超えても2層銅張積層板の品質上の問題は生じないが、生産性が低下する問題を生じ得る。
【0043】
銅電気めっき層4の膜厚は12μm以下が望ましい。銅電気めっき層4の膜厚が12μmを超えると配線ピッチ50μm以下のフレキシブル配線基板への化学エッチング配線加工(サブトラクティブ法の配線加工)が困難となる。また、2層構造の銅張積層板をセミアディティブ法で配線加工する場合は、銅層の膜厚(銅薄膜層と銅電気めっき層の合計の膜厚)が1μm以上あればよい。セミアディティブ法の加工での導電性を確保するためである。
【実施例】
【0044】
ロール状に巻かれた厚み12.5μm、幅525mmの長尺ポリイミドフィルム(カプトン 登録商標 東レ・デュポン社製)K−50ENを、
図1に示すようなロール・ツー・ロールスパッタリング装置10の巻出ロール13にセットした。スパッタリングカソード15aには膜厚25nmの下地金属層を成膜すべく20質量%CrのNi−Cr合金ターゲットを装着し、スパッタリングカソード15b、15c、15dには膜厚100nmの銅薄膜層を成膜すべく純銅ターゲットを装着した。
【0045】
この状態でチャンバー12内部を到達圧力10
−3Paまで減圧した後、アルゴンガスを導入して1.3Paに保持した。そして、赤外線ヒータ19a、19bへの給電量を調整し、熱処理の際の樹脂フィルム基材F1の表面温度が最も高い部分で100℃、150℃、または200℃のいずれかになるように調整した。なお、この最も高い温度に到達してからその温度が維持される時間を2秒にした。また、この熱処理の際の樹脂フィルム基材F1の張力をテンションロール17aで測定し、その値が5N、10N、20N、50N、または100Nのいずれかになるように巻出ロール13および各フィードロールのトルクで調整した。
【0046】
このようにして熱処理温度およびその時の張力を様々に変えて複数の銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2を作製した。更に熱処理を行わない比較例として、赤外線ヒータ19a、19bを起動させず且つテンションロール17aでの張力を0Nとした以外は上記と同様の条件で銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2を作製した。これら複数の銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2の各々に対して
図2に示すような電気めっき装置20を用いて電気めっき処理を行った。その際、めっき液にはpH1以下の硫酸銅水溶液を用い、膜厚8μmの銅電気めっき層を成膜した。
【0047】
このようにして得た各銅張積層板に対して、JPCA−BM03−2006に準拠してエッチング前後の長手方向および幅方向の寸法変化率をそれぞれ測定した。その結果を、上記の熱処理時の樹脂フィルム基材の最も高い部位での温度およびテンションロール17aで測定した張力と共に下記の表1(長手方向)および表2(幅方向)に示す。なお、表中の温度20℃のデータは、熱処理を行わない比較例を示している。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
上記表1および表2から、5〜20Nの範囲内の張力をかけた状態で100〜200℃の熱処理を施すことにより特に長手(MD)方向において寸法安定性が向上することが分かる。しかし、張力が20Nを超えて高くなると特に長手(MD)方向において寸法安定性が悪化している。なお、一般的に寸法変化率は±0.017%以内が望ましい。