特許第6201208号(P6201208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201208
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】通信装置、プログラムおよび通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 4/00 20090101AFI20170914BHJP
   H04W 88/06 20090101ALI20170914BHJP
   H04W 76/04 20090101ALI20170914BHJP
【FI】
   H04W4/00 111
   H04W88/06
   H04W76/04
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-137378(P2013-137378)
(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2015-12514(P2015-12514A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴
【審査官】 久慈 渉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−030890(JP,A)
【文献】 特開2005−341310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なうことが可能な複数の無線通信機を有する通信装置であって、
アプリケーションから送信されたリクエストを解析し、任意に決められた量のデータを要求するリクエストとそれ以外のリクエストとを振り分けて出力するリクエスト解析部と、
前記任意に決められた量のデータを要求するリクエストがあった場合、各無線通信方式の通信経路の状態に応じて、無線通信方式毎にデータのレンジサイズを定め、前記定めたレンジサイズのデータを同時に複数の無線通信方式で要求するリクエストを行なうと共に、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定するリクエスト分配部と、を備え、
前記リクエスト分配部は、
前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、複数の無線通信方式を、スループットが最小の無線通信方式を少なくとも含む低速通信方式群とスループットが最大の無線通信方式を少なくとも含む高速通信方式群とにグルーピングし、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第1の時間と、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得すると共に前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第2の時間とを比較し、
前記第2の時間の方が小さい場合は、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なうことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記リクエスト分配部は、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応するデータをすべて取得した時点を基準として、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第3の時間と、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第4の時間とを比較し、
前記第4の時間の方が小さい場合は、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なうことを特徴とする請求項1記載の通信装置。
【請求項3】
相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なうことが可能な複数の無線通信機を有する通信装置であって、
アプリケーションから送信されたリクエストを解析し、任意に決められた量のデータを要求するリクエストとそれ以外のリクエストとを振り分けて出力するリクエスト解析部と、
前記任意に決められた量のデータを要求するリクエストがあった場合、各無線通信方式の通信経路の状態に応じて、無線通信方式毎にデータのレンジサイズを定め、前記定めたレンジサイズのデータを同時に複数の無線通信方式で要求するリクエストを行なうと共に、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定するリクエスト分配部と、を備え、
前記リクエスト分配部は、
前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、第1の無線通信方
式で行なったリクエストに対応する未取得の第1のデータをすべて取得するために要する第1の時間と、前記第1の無線通信方式以外の第2の無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得の第2のデータをすべて取得すると共に前記第2の無線通信方式で前記未取得の第1のデータをすべて取得するために要する第2の時間とを比較し、
前記第2の時間の方が小さい場合は、前記第1の無線通信方式によるリクエストを停止し、前記第2の無線通信方式で前記未取得の第1のデータを取得するリクエストを行なうことを特徴とする通信装置。
【請求項4】
前記リクエスト分配部は、前記第2の無線通信方式で行なったリクエストに対応する第2のデータをすべて取得した時点を基準として、前記第1の無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得の第1のデータをすべて取得するために要する第3の時間と、前記第2の無線通信方式で前記未取得の第1のデータをすべて取得するために要する第4の時間とを比較し、
前記第4の時間の方が小さい場合は、前記第1の無線通信方式によるリクエストを停止し、前記第2の無線通信方式で前記未取得の第1のデータを取得するリクエストを行なうことを特徴とする請求項3記載の通信装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の通信装置と通信を行なうサーバ装置であって、
各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定し、前記通信装置から、無線通信方式毎にデータのリクエストがあった場合、前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、各無線通信方式で送信するデータの量を定める通信制御部を備え、
前記通信装置に対して、前記各無線通信方式にそれぞれ対応する無線通信機で前記定めた量のデータを同時に送信することを特徴とするサーバ装置。
【請求項6】
前記通信制御部は、少なくともスループットが最小の無線通信方式で送信するデータの量をゼロとすることを特徴とする請求項5記載のサーバ装置。
【請求項7】
前記通信制御装置は、少なくともスループットが最小の無線通信方式のセッションを切断することを特徴とする請求項5または請求項6記載のサーバ装置。
【請求項8】
相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なうことが可能な複数の無線通信機を有する通信装置のプログラムであって、
アプリケーションから送信されたリクエストを解析し、任意に決められた量のデータを要求するリクエストとそれ以外のリクエストとを振り分けて出力する処理と、
前記任意に決められた量のデータを要求するリクエストがあった場合、各無線通信方式の通信経路の状態に応じて、無線通信方式毎にデータのレンジサイズを定め、前記定めたレンジサイズのデータを同時に複数の無線通信方式で要求するリクエストを行なうと共に、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定する処理と、
前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、複数の無線通信方式を、スループットが最小の無線通信方式を少なくとも含む低速通信方式群とスループットが最大の無線通信方式を少なくとも含む高速通信方式群とにグルーピングする処理と、
前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第1の時間と、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得すると共に前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第2の時間とを比較する処理と、
前記第2の時間の方が小さい場合は、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なう処理と、の一連の処理をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の通信装置と通信を行なうサーバ装置のプログラムであって、
各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定する処理と、
前記通信装置から、無線通信方式毎にデータのリクエストがあった場合、前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、各無線通信方式で送信するデータの量を定める処理と、
前記通信装置に対して、前記各無線通信方式にそれぞれ対応する無線通信機で前記定めた量のデータを同時に送信する処理と、の一連の処理を、コンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なうことが可能な複数の無線通信機を有する通信装置の通信方法であって、
アプリケーションから送信されたリクエストを解析し、任意に決められた量のデータを要求するリクエストとそれ以外のリクエストとを振り分けて出力するステップと、
前記任意に決められた量のデータを要求するリクエストがあった場合、各無線通信方式の通信経路の状態に応じて、無線通信方式毎にデータのレンジサイズを定め、前記定めたレンジサイズのデータを同時に複数の無線通信方式で要求するリクエストを行なうと共に、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定するステップと、
前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、複数の無線通信方式を、スループットが最小の無線通信方式を少なくとも含む低速通信方式群とスループットが最大の無線通信方式を少なくとも含む高速通信方式群とにグルーピングするステップと、
前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第1の時間と、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得すると共に前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第2の時間とを比較するステップと、
前記第2の時間の方が小さい場合は、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なうステップと、を少なくとも含むことを特徴とする通信方法。
【請求項11】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の通信装置と通信を行なうサーバ装置の通信方法であって、
各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定するステップと、
前記通信装置から、無線通信方式毎にデータのリクエストがあった場合、前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、各無線通信方式で送信するデータの量を定めるステップと、
前記通信装置に対して、前記各無線通信方式にそれぞれ対応する無線通信機で前記定めた量のデータを同時に送信するステップと、を少なくとも含むことを特徴とする通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なう技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、無線LAN、携帯電話等の異なる無線メディアを統合するための技術が提案されている。特許文献1には、ピコセル、マイクロセル、マクロセルなる異なるセルサイズを有する異種無線システムを、コグニティブ基地局、コグニティブ端末を用いて統合する技術が開示されている。コグニティブ基地局、コグニティブ端末は、スイッチ、複数の無線モジュール、無線環境認識部を備えており、無線環境認識部は、無線環境を認識して、その認識結果に基づき、スイッチに対してリンクフレームの分配先である無線モジュールの切り替えを指示する。リンクフレームは指示された無線モジュールを介して送受信される。
【0003】
また、特許文献2には、既存の無線メディアの無線リソース制御方式に修正を加えずに、複数の無線メディアをスイッチにより統合して、QoS要求を満たす伝送レートを確保し、セル外周部等の低レートにならざるを得ない通信を避けるように、動的に無線メディアを選択して通信する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−085759号公報
【特許文献2】特開2010−130209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、パーソナルコンピュータやスマートフォンなどの通信機器で、高速な通信を行なうために、複数の通信経路を束ねて通信を行なう技術が提案されている。この技術でデータを取得する場合、例えば、ファイルをダウンロードするような通信においては、各々の通信能力(通信速度)を考慮して実行しないと、通信速度の遅い経路に引きずられて、ダウンロード時間が遅くなってしまう。
【0006】
すなわち、複数の無線インタフェースを同時に使用して通信を行なう場合、無線通信システムの規格の違い、任意の通信場所における各無線システムの無線・通信状態の違い、クライアント−サーバ間の経路(クライアント−サーバ間距離)の違いにより、データパケットの到着時間に差(遅延差)が生じる。この遅延差が大きいと遅延時間の小さい単一の無線システムで通信を行なった方が、通信時間が短いという結果になってしまう場合がある。
【0007】
例えば、図7A図7Bに示すように、通信速度が異なる2つの無線システム(A、B)があった場合、単純に取得したいデータの半分ずつをそれぞれの無線システムを使ってダウンロードした場合、通信速度の遅い無線システムに引きずられ、通信速度の速い無線システムで全てのデータをダウンロードした時よりも遅くなってしまう。図7Aに示すように、無線システムAは、無線システムBの約3倍の通信速度があるため、無線システムBのみを用いてデータのダウンロードを行なうと、無線システムAのみを用いてダウンロードする場合よりも3倍の時間を要する。
【0008】
ここで、送信すべきデータを半分にし、それぞれを無線システムAとBを用いてダウンロードすると、図7Bに示すように、ダウンロード時間は、ダウンロード時間が長くかかる無線システムBが完了する時間となるため、無線システムAだけで全データ量をダウンロードした方が早くダウンロードが完了することとなる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、無線の通信経路の状況の変化等によりデータの取得時間が大幅に遅れる通信方式をリアルタイムに検出し、速やかに是正することによって、任意の無線環境において、常に通信速度の大きい無線通信方式を用いてデータの取得を行なうことができる通信装置、プログラムおよび通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の通信装置は、相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なうことが可能な複数の無線通信機を有する通信装置であって、アプリケーションから送信されたリクエストを解析し、任意に決められた量のデータを要求するリクエストとそれ以外のリクエストとを振り分けて出力するリクエスト解析部と、前記任意に決められた量のデータを要求するリクエストがあった場合、各無線通信方式の通信経路の状態に応じて、無線通信方式毎にデータのレンジサイズを定め、前記定めたレンジサイズのデータを同時に複数の無線通信方式で要求するリクエストを行なうと共に、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定するリクエスト分配部と、を備え、前記リクエスト分配部は、前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、複数の無線通信方式を、スループットが最小の無線通信方式を少なくとも含む低速通信方式群とスループットが最大の無線通信方式を少なくとも含む高速通信方式群とにグルーピングし、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第1の時間と、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得すると共に前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第2の時間とを比較し、前記第2の時間の方が小さい場合は、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なうことを特徴とする。
【0011】
このように、第2の時間の方が小さい場合は、低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なうので、常に通信速度の大きい無線通信方式を用いてデータを取得することが可能となる。
【0012】
(2)また、本発明の通信装置において、前記リクエスト分配部は、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応するデータをすべて取得した時点を基準として、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第3の時間と、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第4の時間とを比較し、前記第4の時間の方が小さい場合は、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なうことを特徴とする。
【0013】
このように、第4の時間の方が小さい場合は、低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なうので、常に通信速度の大きい無線通信方式を用いてデータを取得することが可能となる。
【0014】
(3)また、本発明の通信装置は、相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なうことが可能な複数の無線通信機を有する通信装置であって、アプリケーションから送信されたリクエストを解析し、任意に決められた量のデータを要求するリクエストとそれ以外のリクエストとを振り分けて出力するリクエスト解析部と、前記任意に決められた量のデータを要求するリクエストがあった場合、各無線通信方式の通信経路の状態に応じて、無線通信方式毎にデータのレンジサイズを定め、前記定めたレンジサイズのデータを同時に複数の無線通信方式で要求するリクエストを行なうと共に、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定するリクエスト分配部と、を備え、前記リクエスト分配部は、前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、第1の無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得の第1のデータをすべて取得するために要する第1の時間と、前記第1の無線通信方式以外の第2の無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得の第2のデータをすべて取得すると共に前記第2の無線通信方式で前記未取得の第1のデータをすべて取得するために要する第2の時間とを比較し、前記第2の時間の方が小さい場合は、前記第1の無線通信方式によるリクエストを停止し、前記第2の無線通信方式で前記未取得の第1のデータを取得するリクエストを行なうことを特徴とする。
【0015】
このように、第2の時間の方が小さい場合は、第1の無線通信方式によるリクエストを停止し、第2の無線通信方式で未取得の第1のデータを取得するリクエストを行なうので、常に通信速度の大きい無線通信方式を用いてデータを取得することが可能となる。
【0016】
(4)また、本発明の通信装置において、前記リクエスト分配部は、前記第2の無線通信方式で行なったリクエストに対応する第2のデータをすべて取得した時点を基準として、前記第1の無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得の第1のデータをすべて取得するために要する第3の時間と、前記第2の無線通信方式で前記未取得の第1のデータをすべて取得するために要する第4の時間とを比較し、前記第4の時間の方が小さい場合は、前記第1の無線通信方式によるリクエストを停止し、前記第2の無線通信方式で前記未取得の第1のデータを取得するリクエストを行なうことを特徴とする。
【0017】
このように、第4の時間の方が小さい場合は、第1の無線通信方式によるリクエストを停止し、第2の無線通信方式で未取得の第1のデータを取得するリクエストを行なうので、常に通信速度の大きい無線通信方式を用いてデータを取得することが可能となる。
【0018】
(5)また、本発明の通信装置は、相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なうことが可能な複数の無線通信機を有する通信装置であって、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定し、通信相手先装置から、無線通信方式毎にデータのリクエストがあった場合、前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、各無線通信方式で送信するデータの量を定める通信制御部を備え、前記通信相手先装置に対して、前記各無線通信方式にそれぞれ対応する無線通信機で前記定めた量のデータを同時に送信することを特徴とする。
【0019】
このように、通信相手先装置に対して、各無線通信方式にそれぞれ対応する無線通信機で定めた量のデータを同時に送信するので、常に大きい通信速度でデータを送信することが可能となる。
【0020】
(6)また、本発明の通信装置において、前記通信制御部は、少なくともスループットが最小の無線通信方式で送信するデータの量をゼロとすることを特徴とする。
【0021】
このように、少なくともスループットが最小の無線通信方式で送信するデータの量をゼロとするので、通信速度の遅い経路に引きずられて、ダウンロード時間が遅くなってしまうことを回避することが可能となる。
【0022】
(7)また、本発明の通信装置において、前記通信制御装置は、少なくともスループットが最小の無線通信方式のセッションを切断することを特徴とする。
【0023】
このように、少なくともスループットが最小の無線通信方式のセッションを切断するので、通信速度の遅い経路に引きずられて、ダウンロード時間が遅くなってしまうことを回避することが可能となる。また、無駄なパケットが送信されることが無くなり、通信システム全体のスループット向上に資することが可能となる。
【0024】
(8)また、本発明のプログラムは、相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なうことが可能な複数の無線通信機を有する通信装置のプログラムであって、アプリケーションから送信されたリクエストを解析し、任意に決められた量のデータを要求するリクエストとそれ以外のリクエストとを振り分けて出力する処理と、前記任意に決められた量のデータを要求するリクエストがあった場合、各無線通信方式の通信経路の状態に応じて、無線通信方式毎にデータのレンジサイズを定め、前記定めたレンジサイズのデータを同時に複数の無線通信方式で要求するリクエストを行なうと共に、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定する処理と、前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、複数の無線通信方式を、スループットが最小の無線通信方式を少なくとも含む低速通信方式群とスループットが最大の無線通信方式を少なくとも含む高速通信方式群とにグルーピングする処理と、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第1の時間と、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得すると共に前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第2の時間とを比較する処理と、前記第2の時間の方が小さい場合は、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なう処理と、の一連の処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0025】
このように、第2の時間の方が小さい場合は、低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なうので、常に通信速度の大きい無線通信方式を用いてデータを取得することが可能となる。
【0026】
(9)また、本発明のプログラムは、相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なうことが可能な複数の無線通信機を有する通信装置のプログラムであって、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定する処理と、通信相手先装置から、無線通信方式毎にデータのリクエストがあった場合、前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、各無線通信方式で送信するデータの量を定める処理と、前記通信相手先装置に対して、前記各無線通信方式にそれぞれ対応する無線通信機で前記定めた量のデータを同時に送信する処理と、の一連の処理を、コンピュータに実行させることを特徴とする。
【0027】
このように、通信相手先装置に対して、各無線通信方式にそれぞれ対応する無線通信機で定めた量のデータを同時に送信するので、常に大きい通信速度でデータを送信することが可能となる。
【0028】
(10)また、本発明の通信方法は、相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なうことが可能な複数の無線通信機を有する通信装置の通信方法であって、アプリケーションから送信されたリクエストを解析し、任意に決められた量のデータを要求するリクエストとそれ以外のリクエストとを振り分けて出力するステップと、前記任意に決められた量のデータを要求するリクエストがあった場合、各無線通信方式の通信経路の状態に応じて、無線通信方式毎にデータのレンジサイズを定め、前記定めたレンジサイズのデータを同時に複数の無線通信方式で要求するリクエストを行なうと共に、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定するステップと、前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、複数の無線通信方式を、スループットが最小の無線通信方式を少なくとも含む低速通信方式群とスループットが最大の無線通信方式を少なくとも含む高速通信方式群とにグルーピングするステップと、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第1の時間と、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得すると共に前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータをすべて取得するために要する第2の時間とを比較するステップと、前記第2の時間の方が小さい場合は、前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、前記高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で前記低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なうステップと、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0029】
このように、第2の時間の方が小さい場合は、低速通信方式群に含まれる各無線通信方式によるリクエストを停止し、高速通信方式群に含まれる各無線通信方式で低速通信方式群に含まれる各無線通信方式で行なったリクエストに対応する未取得のデータを取得するリクエストを行なうので、常に通信速度の大きい無線通信方式を用いてデータを取得することが可能となる。
【0030】
(11)また、本発明の通信方法は、相互に異なる無線通信方式で同時に無線通信を行なうことが可能な複数の無線通信機を有する通信装置の通信方法であって、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定するステップと、通信相手先装置から、無線通信方式毎にデータのリクエストがあった場合、前記測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、各無線通信方式で送信するデータの量を定めるステップと、前記通信相手先装置に対して、前記各無線通信方式にそれぞれ対応する無線通信機で前記定めた量のデータを同時に送信するステップと、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0031】
このように、通信相手先装置に対して、各無線通信方式にそれぞれ対応する無線通信機で定めた量のデータを同時に送信するので、常に大きい通信速度でデータを送信することが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、クライアント装置の移動や通信経路における無線状態の変化に伴い、スループット等の通信品質が大きく変化する環境において、データの取得時間が大幅に遅れる通信経路をリアルタイムに検出し、これを速やかに是正することによって、任意の無線環境において、常に通信速度の大きい無線通信方式を用いてデータを取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本実施形態に係る通信装置としてのクライアント装置の概略構成を示すブロック図である。
図2A】2種類の無線通信方式を用いる場合の制御の概念を示す図である。
図2B】3種類の無線通信方式を用いる場合の制御の概念を示す図である。
図2C】3種類の無線通信方式を用いる場合の制御の概念を示す図である。
図3】本実施形態に係る通信装置の動作を示すシーケンスチャートである。
図4A】従来の送受信の様子を示す図である。
図4B】ACKを待たずにデータを連続送信する様子を示す図である。
図4C】従来のTCPにおける動作を示す図である。
図5】本実施形態に係るサーバ装置の概略構成を示す図である。
図6A】本実施形態に係るサーバ装置とクライアント装置の動作を示す図である。
図6B】本実施形態に係るサーバ装置とクライアント装置の動作を示す図である。
図6C】本実施形態に係るサーバ装置とクライアント装置の動作を示す図である。
図7A】各無線システムにおける通信時間を示す図である。
図7B】各無線システムにおける通信時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本実施形態に係る通信端末装置が動作する為の前提条件(前提環境)を説明する。本実施形態では、ダウンロード、ストリーミングなど、無線通信装置からデータおよび、データのレンジを指定してファイル等を取得する通信を対象とする。レンジを指定することによるファイルの取得は、現時点で一般的に利用されているWEBサーバおよびストリーミングサーバに標準的実装され利用されているもので、本実施形態の内容を実現する上で、特にサーバ側の改修等を必要としない。ここで、レンジ指定による通信とは、ダウンロード等の対象となるデータに対し、データの何バイト目から何バイト目までデータといたように対象となるファイルを部分的に指定して取得可能な通信である。
【0035】
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態に係る通信装置としてのクライアント装置の概略構成を示すブロック図である。クライアント装置100は、アプリケーション部1、リクエスト解析部3、リクエスト分配部5、3G/LTEインタフェース7、およびWi−Fiインタフェース9を備えている。本実施形態では、通信インタフェースとして、3G/LTEインタフェース7、およびWi−Fiインタフェース9の2つを例にとって説明するが、本発明は、これに限定されるわけではなく、3種類以上の異なる無線通信方式の通信インタフェースを設けることが可能である(Wi-Fi、LTE、WiMAX等)。
【0036】
アプリケーション部1は、例えば、ブラウザ等、アプリケーション層で動作するアプリケーションを有し、いずれかの通信インタフェース(無線通信機)を介してサーバ装置に対してリクエストを行なう。リクエスト解析部3は、アプリケーション部1で発生したリクエストを解析し、そのリクエストが、データのダウンロードのような任意に決められた量のデータを取得するサービスのリクエストであるか、そうではないかを解析する。そのリクエストが、任意に決められた量のデータを取得するサービスのリクエストである場合は、リクエストをリクエスト分配部5に転送する。
【0037】
リクエスト分配部5は、アプリケーション部1でリクエストが発生した場合、通信インタフェース(7、9)を用いて、同時にサーバ装置に対してTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)のセッションを確立する。また、アプリケーションから要求のあった取得対象ファイルに対し、2つの経路から任意量のレンジサイズのデータを要求するリクエストを送信する。レンジのサイズは、各通信経路の状態の変化(通信品質の変化、使用状況の変化等)に追随して扱えるデータ量を変更出来るように、取得するデータ量より少ないサイズが設定されるものとする。また、リクエスト分配部5は、任意のタイミングで定期的に各通信経路のスループットを測定する。
【0038】
リクエスト分配部5は、要求したリクエストが完了したが、まだ取得対象のファイル全てのデータが取得出来ていない場合、続けて任意のレンジサイズでデータを取得するための要求を行なう。この時、基本的の2つの通信経路で同じ時間にデータの取得が完了する量にレンジサイズを計算してデータの取得要求を行なう。
【0039】
このように、基本的に通信経路の状態変化に応じて最適な量のデータ取得を行なうが、このデータを取得している最中に通信経路の状況が変化してしまう場合がある。この状況を回避する方法として、定期的に確認しているスループット測定と、残りの取得しなければいけないサイズの量から、既に取得途中のデータを、他方で取り直した方が早いと判定された場合、このリクエスト停止し、他方でデータを取得しなおす制御を行なう。この制御によって、通信経路の状況の変化によって、取得に時間が掛かる通信の最適化を行なう。
【0040】
なお、本実施形態において、クライアント装置上で動作する通信プロトコルは、トランスポート層、ネットワーク層はTCP/IPを使用した通信を対象とし、アプリケーション層で動作するアプリケーションは特に限定されないものとする。
【0041】
図2Aは、2種類の無線通信方式を用いる場合の制御の概念を示す図である。リクエスト分配部5は、通信が開始されると、定期的にスピードの測定を行なう(スループットの測定)。ここでは、パケット1と2を通信速度が大きい無線通信方式Aで取得し、パケット3を通信速度が小さい無線通信方式Bで取得するように割り当てられているとする。無線通信方式Aで、パケット1と2の取得が完了したが、無線通信方式Bではまだパケット3がすべて取得されていない。しかも、未取得のパケット3を無線通信方式Bですべて取得するために要する時間は、パケット2までをすべて取得した後、無線通信方式Aで未取得のパケット3をすべて取得するために要する時間よりも大きい。そこで、本実施形態では、無線通信方式Bをキャンセルして、無線通信方式Aでパケット3を取得するリクエストを行なう。ここで、無線通信方式Aでは、未取得のパケット3のみを取得し、取得済みのデータと合成しても良いし、パケット3をはじめから取得するようにしても良い。
【0042】
図2Bは、3種類の無線通信方式を用いる場合の制御の概念を示す図である。リクエスト分配部5は、通信が開始されると、定期的にスピードの測定を行なう(スループットの測定)。ここで、無線通信方式Aで最大のスループットを測定し、無線通信方式BとCで無線通信方式Aと比較してかなり小さいスループットを測定したとする。例えば、スループットが最小の無線通信方式Cのスループットを1とし、無線通信方式Bのスループットを2とし、スループットが最大の無線通信方式Aのスループットを5とする。そして、スループットが最小の無線通信方式Cと、その次にスループットが小さい無線通信方式Bを低速通信方式群にグルーピングし、スループットが最大の無線通信方式Aを高速通信方式群にグルーピングする。
【0043】
理解を容易にするために、各無線通信方式に、それぞれ同一の10という比の値のデータ量を割り当てたとすると、無線通信方式AがデータA1を取得する時間の比は、データ量10÷速度5=時間2、無線通信方式BがデータB1を取得する時間の比はデータ量10÷速度2=時間5、無線通信方式CがデータC1を取得する時間の比はデータ量10÷速度1=時間10となる。
【0044】
このままでは、データA1〜C1をすべて取得するために要する時間は10となってしまうため、本実施形態では、高速通信方式群に含まれる無線通信方式AでデータB1とデータC1を取得するリクエストを行なう。そして、低速通信方式群に含まれる無線通信方式BおよびCにおけるリクエストをキャンセルする。これにより、データA1〜C1をすべて取得するために要する時間がデータ量30÷速度5=時間6となり、最も早くすべてのデータを取得することが可能となる。
【0045】
なお、その後、各無線通信方式のスループットに応じて、無線通信方式BおよびCを用いたデータの取得を再開しても良い。
【0046】
また、上記の説明では、データA1〜C1をすべて同じ量のデータとしたが、スループットに応じてデータ量を適応的に変更しても良い。
【0047】
図2Cは、3種類の無線通信方式を用いる場合の制御の概念を示す図である。リクエスト分配部5は、通信が開始されると、定期的にスピードの測定を行なう(スループットの測定)。ここで、無線通信方式Aで最大のスループットを測定し、無線通信方式Bでもかなり大きいスループットを測定し、無線通信方式Cでかなり小さいスループットを測定したとする。例えば、スループットが最小の無線通信方式Cのスループットを1とし、無線通信方式Bのスループットを4とし、スループットが最大の無線通信方式Aのスループットを6とする。そして、スループットが最小の無線通信方式Cを低速通信方式群にグルーピングし、スループットが最大の無線通信方式Aとその次にスループットが大きい無線通信方式Bを高速通信方式群にグルーピングする。
【0048】
理解を容易にするために、各無線通信方式に、それぞれ同一の12という比の値のデータ量を割り当てたとすると、無線通信方式AがデータA1を取得する時間の比は、データ量12÷速度6=時間2、無線通信方式BがデータB1を取得する時間の比はデータ量12÷速度4=時間3、無線通信方式CがデータC1を取得する時間の比はデータ量12÷速度1=時間12となる。
【0049】
このままでは、データA1〜C1をすべて取得するために要する時間は12となってしまうため、本実施形態では、高速通信方式群に含まれる無線通信方式AおよびBでデータC1を取得するリクエストを行なう。そして、低速通信方式群に含まれる無線通信方式Cにおけるリクエストをキャンセルする。
【0050】
ここで、データC1を無線通信方式Aのみで取得しようとすると、データ量24÷速度6=時間4となり、無線通信方式BがデータB1を取得する時間3よりも大きくなってしまう。
【0051】
そこで、本実施形態では、データC1を無線通信方式AとBに、スループットに応じた比で振り分けることとする。無線通信方式AとBは、スループットの比が6対4であるため、無線通信方式Aにデータ量12のデータC1のうち、48/5となるデータ量を割り当てる一方、無線通信方式BにデータC1のうち、12/5となるデータ量を割り当てる。これにより、データA1〜C1をすべて取得するために要する時間の合計は、無線通信方式Aでは、データ量が(データA1+データC1×48/5)で、108/5となるため、データ量108/5÷速度6=時間18/5となる。無線通信方式Bでは、データ量が(データB1+データC1×12/5)で、75/5となるため、データ量72/5÷速度4=時間18/5となり、無線通信方式Aと同じ時間となる。
【0052】
これにより、データA1〜C1をすべて取得するために要する時間が3.6となり、無線通信方式AとBで同じ時間で、かつ、最も早くすべてのデータを取得できることとなる。この場合、データC1を無線通信方式Aのみで取得するときの時間4よりも早くなる。
【0053】
なお、その後、各無線通信方式のスループットに応じて、無線通信方式Cを用いたデータの取得を再開しても良い。
【0054】
また、上記の説明では、データA1〜C1をすべて同じ量のデータとしたが、スループットに応じてデータ量を適応的に変更しても良い。
【0055】
図3は、本実施形態に係る通信装置の動作を示すシーケンスチャートである。まず、クライアント装置において、アプリケーションからのリクエスト要求前に利用可能な通信インタフェースをすべて通信可能な状態にする(ステップS1)。この動作では、クライアント装置による接続可能な基地局装置の検出、リンクの確立、IPアドレス取得までを行なう。次に、リクエスト解析部が、クライアント上のアプリケーションから任意のサーバ(ホスト)にリクエストが送信されたことを検出する(ステップS2)。リクエスト解析部は、このリクエストを解析し、ダウンロードのような任意に決められた量のデータを取得するサービスのリクエストである場合、リクエスト分配部に転送する。
【0056】
リクエスト分配部は、利用可能な複数の無線経路を経由してリクエスト先のサーバとTCP/IPのセッションを確立する(ステップS3)。ここでは、利用可能な通信経路が2つである場合を例に説明する。アプリケーションから要求のあった取得対象ファイルに対し、2つの経路から任意量のレンジサイズのデータを要求するリクエストを送信する(ステップS4)。レンジのサイズは、各通信経路の状態の変化、すなわち、通信品質の変化、使用状況の変化等に追随して扱えるデータ量を変更できるように、取得するデータ量より少ないサイズが設定されるものとする。次にホストから各通信経路を経由して、ダウンロードを行なう(ステップS5)。また、リクエスト分配部は、任意のタイミングで定期的に各通信経路のスループットを測定する(ステップS6)。
【0057】
リクエスト分配部は、要求したリクエストが完了したが、まだ取得対象のファイル全てのデータが取得できていない場合、続けて任意のレンジサイズでデータを取得するための要求を行なう(ステップS7)。この時、基本的の2つの通信経路で同じ時間にデータの取得が完了する量にレンジサイズを計算してデータの取得要求を行なう。
【0058】
ここで、基本的に通信経路の状態変化に応じて最適な量のデータ取得を行なうことになるが、このデータを取得している最中に通信経路の状況が変化してしまう場合がある。この状況を回避する方法として、定期的に確認しているスループット測定と、残りの取得しなければいけないサイズの量から、既に取得途中のデータを、他方で取り直した方が早いと判定された場合、このリクエスト停止し、他方でデータを取得しなおす制御を行なう(ステップS8、ステップS9)。
【0059】
このような制御によって、通信経路の状況の変化によって、取得に時間が掛かる通信の最適化を行なうことが可能となる。
【0060】
[第2の実施形態]
リンクアグリゲーションで通信を行なう場合、通信速度が遅い無線通信方式(通信インタフェース)での通信に引きずられ、通信全体が遅くなってしまう場合がある。本実施形態では、サーバ側でこの問題を回避する手法を説明する。本実施形態では、何らの方法により、一方の通信インタフェースの通信が他方に比べ遅く、通信全体のパフォーマンスに悪影響をおよぼすと判断できる状態にある場合、サーバ側でOSI参照モデルのトランスポート層(TCP:Transmission Control Protocol)での回避する方法を示す。
【0061】
図4Aは、従来の送受信の様子を示す図である。TCPでは、“信頼性のある通信を実現するために、相手にデータが届いたことを確認する”という手法を採用している。基本的に、TCPでは、パケットを1つ送信するごとに受信側から1つのACKパケットを返信する仕様となっている。
【0062】
しかし、この方法は効率が悪いため、通信効率を改善するために、「ウィンドウ制御」という方式を採用し、複数のTCPパケットを連続して送信し、ACK確認をしないで効率化を図るという方式が用いられている。ウィンドウにはある決まったサイズがある。プロトコルによっては、ウィンドウ・サイズをパケット数で数えたり、データのバイト数で数えたりする。TCPでは、バイト数単位となる。
【0063】
図4Bは、ACKを待たずにデータを連続送信する様子を示す図である。TCPでは、ウィンドウ・サイズの分だけ、ACKを待たずにデータを連続して送信してもよいこととなっている。具体的には、送信側はTCPパケットを受信側からのACKを待たずにまとめて連続して送信する。そしてACKは、それらのデータに対して、まとめて1つだけ返送する。
【0064】
従来の一般的なTCPでのデータのやりとりは、上記の通りであるが、複数の無線インタフェースを使って通信を行なう場合において、通信速度の遅い無線インタフェースに対してもウィンドウ制御によるTCPの連続送信が行なわれる場合がある。この場合、既に通信速度の遅い無線インタフェースに大量のデータを送信してしまったことにより、通信速度の速い方も無線インタフェースで、リカバリを取るためのデータ再取得を行なう際、既にネットワーク上に無駄に多くのパケットが流れてしまう場合がある。その結果、通信システム全体の動きとして非効率かつ、遅く無線インタフェース側の通信を遅くしてしまう可能性がある。
【0065】
これを回避する為に、複数の無線通信方式を同時に利用する通信においては、通信速度の遅い方の無線インタフェース側のTCP制御は、ウィンドウ・サイズによらず、例えば、速い方の無線インタフェースの通信速度の比を上限とするなど、大量のTCPデータの送信を控えることができる。これにより、通信速度の速い方も無線インタフェース側でデータを取り直すといった制御が極力低減され、通信時間の低減と、ネットワークに無駄に流れるパケットを低減することができ、システム全体のパフォーマンスを向上させることが可能となる。
【0066】
図4Cは、従来のTCPにおける動作を示す図である。無線I/F−Aと無線I/F−Bの通信スピードが3対1であるとした場合、本来TCPデータ5と6は、無線I/F−Aで取得した方が速いが、TCPのウィンドウ制御により既に無線I/F−Bに向けて送信してしまっており、無駄なパケットが送信されてしまう。また、無線I/F−Aで再取得の動作が非効率となっている。
【0067】
図5は、本実施形態に係るサーバ装置の概略構成を示す図である。サーバ装置200は、通信制御部201と、通信インタフェースとしての3G/LTEインタフェース202、およびWi−Fiインタフェース203を備えている。
【0068】
通信制御部201は、各無線通信方式の通信経路のスループットを定期的に測定する。そして、通信相手先装置から、無線通信方式毎にデータのリクエストがあった場合、測定した各無線通信方式の通信経路のスループットに基づいて、各無線通信方式で送信するデータの量を定める。また、通信制御部201は、少なくともスループットが最小の無線通信方式で送信するデータの量をゼロとする。また、通信制御部201は、少なくともスループットが最小の無線通信方式のセッションを切断する。3G/LTEインタフェース202およびWi−Fiインタフェース203は、通信相手先装置に対して、通信制御装置201が定めた量のデータを同時に送信する。
【0069】
図6A〜Cは、本実施形態に係るサーバ装置とクライアント装置の動作を示す図である。本実施形態では、通信速度が遅い無線インタフェース向けのTCPデータを、あえて沢山送らずに、通信速度差程度に押さえておく。これにより、データ受信側から新たな無線I/Fの速度に応じた最適なリクエストを促し、データの再取得など無駄な制御及び無駄なデータがネットワークに流れてパフォーマンスを落とすことを抑える。
【0070】
また、図6Bに示すように、送信側で任意の無線I/Fの通信速度が明らかに他方の比べて遅い場合、例えば1/10の速度しか出ていない場合、遅い方の無線I/F経由がデータ取得のリクエスが来たとしても、データを全く送信しないように制御する。図6Cに示すように、通信速度が遅い無線I/Fのセッションを切断しても良い。これにより、通信速度が速い方の無線I/F経由での通信を促し、無題ネットワーク側にデータを流し、システム全体のパフォーマンスを落とすことを防止することが可能となる。
【0071】
以上説明したように、本実施形態によれば、無線通信のように移動や無線状態の変化に伴いスループット等の通信品質が大きく変化する環境において、無線の状況の変化等により、データの取得時間が大幅に遅れる回線をリアルタイムに検出し、速やかに是正することによって、任意の無線環境において最速のデータ取得が行なうことができるようになる。
【符号の説明】
【0072】
1 アプリケーション部
3 リクエスト解析部
5 リクエスト分配部
7 3G/LTEインタフェース
9 Wi−Fiインタフェース
100 クライアント装置
200 サーバ装置
201 通信制御部
202 3G/LTEインタフェース
203 Wi−Fiインタフェース
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B