(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]
図1は実施例1の電動車両の構成を表すシステム図である。電動車両は、前輪駆動車両であり、駆動輪である前輪FR,FLと、従動輪である後輪RR,RLとを有する。各輪には、タイヤと一体に回転するブレーキロータにブレーキパッドを押し付けて摩擦制動力を発生させるホイルシリンダW/C(FR),W/C(FL),W/C(RR),W/C(RL)(単にW/Cとも記載する。)と、各輪の車輪速を検出する車輪速センサ9(FR),9(FL),9(RR),9(RL)(単に9とも記載する。)が設けられている。ホイルシリンダW/Cには液圧配管5aを介して液圧ユニット5が接続されている。
【0009】
液圧ユニット5は、複数の電磁弁と、リザーバと、ポンプ用モータと、ブレーキコントローラ50を備え、ブレーキコントローラ50からの指令に基づいて、各種電磁弁及びポンプ用モータの駆動状態を制御し、各輪のホイルシリンダ液圧を制御する。尚、液圧ユニット5は、周知のブレーキバイワイヤユニットでもよいし、ビークルスタビリティコントロールが実行可能な液圧回路を備えたブレーキユニットでもよく、特に限定しない。
【0010】
駆動源である電動モータ1には、モータ回転角を検出するレゾルバ2が設けられている。電動モータ1には、減速機構3aを介してディファレンシャルギヤ3が接続され、ディファレンシャルギヤ3に接続されたドライブシャフト4には、前輪FR.FLが接続されている。車両の後方には、電動モータ1に駆動用の電力を供給し、もしくは回生電力を回収する高電圧バッテリ6と、高電圧バッテリ6のバッテリ状態を監視及び制御するバッテリコントローラ60とが搭載されている。高電圧バッテリ6と電動モータ1との間に介在されたインバータ10は、モータコントローラ100により制御される。また、高電圧バッテリ6にはDC-DCコンバータ7(コンポーネント)を介して補機用バッテリ8が接続され、液圧ユニット5の駆動用電源として機能する。
【0011】
実施例1の電動車両には、車両に搭載された複数のコントローラが接続された車内通信ラインであるCAN通信線が設けられ、ブレーキコントローラ50や、車両コントローラ110、バッテリコントローラ60等が互いに情報通信可能に接続されている。尚、
図1には図示していないが、ドライバのステアリング操作をアシストするパワーステアリング装置を制御するパワーステアリングコントローラ20と、車速表示を行う速度メータを制御するメータコントローラ22とは、CAN通信線に接続されている。また、パワーステアリングコントローラ20には、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ21が設けられている。
【0012】
図2は実施例1の各種コントローラの接続状態を表す概略図である。実施例1の電動車両内には、駆動輪と路面との間に作用するトルク状態を制御するバッテリコントローラ60,モータコントローラ100,DC-DCコンバータ7及びブレーキコントローラ50をパワートレーン系としてまとめて第1CANバスCAN1(第1通信手段)に接続している。また、パワーステアリングコントローラ20及びメータコントローラ22といったシャシー系は、第2CANバスCAN2(第2通信手段)に接続されている。
【0013】
第1CANバスCAN1と第2CANバスCAN2とは接続バスCAN3によって接続されている。接続バスCAN3には車両コントローラ110が設けられ、第1CANバスCAN1内で送受信される情報は、接続バスCAN3上の車両コントローラ110で受信した後、第2CANバスCAN2に出力される。同様に、第2CANバスCAN2内で送受信される情報は、接続バスCAN3上の車両コントローラ110で受信した後、第1CANバスCAN1に出力される。
【0014】
(コントローラの接続構成について)
ここで、上記コントローラの接続関係を構成した理由について、比較例の接続状態を表す概略図と対比して説明する。
図3は比較例の各種コントローラの接続状態を表す概略図である。従来、車両の制御系を構成する際、ブレーキコントローラ50は
図3に示すように第2CANバスCAN2に接続されていた。これは、従来からブレーキ系の制御はシャシー系の制御であって、パワートレーン系の制御という位置づけではなかったことによる。例えば、車両開発の効率化といった観点から、パワートレーン系統,ブレーキ系統,ステアリング系統,サスペンション系統といった各システムは、それぞれ個別のシステムとして開発されることが多い。そして、これら個別に開発されたシステムを車両全体システムとして統合する際、CAN通信線に接続することで統合する。CAN通信線は、接続可能なコントローラ数に上限があるものの、複数のコントローラを容易に接続してグループ化できるため、シャシー系をまとめて接続するグループと、パワートレーン系をまとめて接続するグループとに分け、それぞれのグループ間を接続する接続バスに、車両コントローラを設けて全体をコントロールしていたのが従来のシステムである。
【0015】
ここで、上記比較例の構成では、十分な走行性能を確保することが困難な場面が生じてきた。例えば、車両発進時において、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込み、駆動輪に大きなトルクが出力されると、駆動スリップを生じる場合がある。これを抑制するために、ブレーキコントローラ50はスリップ状態を抑制するよう車両コントローラ110に要求する。すると、車両コントローラ110では、ブレーキコントローラ50から受け取った要求に基づいてモータコントローラ100にトルクダウン等の要求を出力する。
【0016】
しかし、第2CANバスCAN2内に流れた情報を車両コントローラ110で一旦受け取った後、第1CANバスCAN1内に流すという処理が行われるため、ブレーキコントローラ50から出力されたブレーキ要求は、通信タイミングとしては一回遅れてモータコントローラ100に出力されることとなり、遅れが生じて駆動スリップを効果的に抑制することができない場面が出てきた。特に、駆動輪がスリップした場合、駆動輪のイナーシャは車両のイナーシャに比べて極めて小さく、それだけ回転状態が急変しやすい。また、制御ゲインや通信速度を上昇させることも考えられるが、CAN通信線は、いろいろなシステムを後から容易に接続できるように設計されており、ブレーキコントローラのみが制御ゲインや制御周期を上昇させても、CAN通信線内での通信速度に制限されるため、十分な応答性を確保することは困難である。
【0017】
そこで、実施例1では、ブレーキコントローラ50は駆動輪と路面との間のトルクを制御するシステムである、という観点から、パワートレーン系に位置づけることとし、第1CAN通信線CAN1に接続することとした。この場合、ブレーキコントローラ50が出力していた車速情報等は、第2CANバスCAN2内に送信されるタイミングが若干遅れることになるが、車速は車両のイナーシャの大きさからいって急変するものではなく、何ら問題はない。
【0018】
(電動車両特有の課題について)
次に、電動車両特有の課題について説明する。従来から車輪速データを用いて内燃機関を有するパワートレーン系の制御を行う車両システムにあっては、車輪速データやトルクダウン要求をブレーキコントローラ50から受信して利用していることが多い。これは内燃機関の制御を工夫しても、実際に出力トルクに反映させるまでの応答性に限界があることから、パワートレーンの開発において要求される応答性のボトルネックとして、CAN通信線の応答性が問題となるような場面が少ないからである。よって、パワートレーンの開発でトルクダウン要求や車輪速データを使用する場合は、ブレーキシステムの開発で培われた車輪速検出性能をそのまま利用して制御することが多かった。この基本的な設計思想は、電動車両を開発する上でも踏襲されることが多いのが実情である。
【0019】
一方、駆動輪に電動モータ1を接続した電動車両の場合には、内燃機関よりも遥かにトルク制御の応答性が良好となり、より精度の高い駆動輪スリップ制御を行うことが可能となってきている。この電動モータ1の良好な応答性を活かした制御を達成するには、CAN通信線の応答性が問題となってきた。これらの背景から、電動モータ1の高い応答性を活かしたシステムを構築するには、車輪速データをブレーキコントローラ50から二次情報として受信するのではなく、一次情報として受信して制御量を算出するようなシステム構築が求められる。
【0020】
また、車両全体をコントロールする車両コントローラ110が全体を監視して制御することは重要ではあるが、すべての情報を集めてから各コントローラに全ての指令を出力するような中央集権化を進めすぎると、車両コントローラ110の演算負荷が増大し、非常に高価なコントローラが必要とされる。また、車両コントローラ110は、低い通信速度の情報も考慮した上で指令を出力することとなり、どれだけ高価な車両コントローラ110を採用しても、応答性の良好な車両システムは構築できない。また、すべての情報を素早く送受信することも考えられるが、通信速度の上昇は、この通信線に接続される他のコントローラすべてに影響を与える仕様変更となり、全体の通信速度を上げることは複雑なシステム内においては非常に困難である。
【0021】
そこで、実施例1では、CAN通信線の構成を第1CANバスCAN1と第2CANバスCAN2とに分けることに加えて、車両コントローラ110が全ての指令を出力するのではなく、車両コントローラ110よりも下位のコントローラがある程度の判断を行って制御する構成を構築した。具体的には、モータコントローラ100において車両コントローラ110よりも先に最終的なモータトルク指令値の判断を可能とするために、ブレーキコントローラ50から出力されたブレーキ要求を直接モータコントローラ100に送信可能に構成する。更に、モータコントローラ100では、通常の車両コントローラ110からのトルク要求に加え、ブレーキコントローラ50からのブレーキ要求を読み込み、走行状態に応じた最終的なモータトルク指令値を出力可能な構成とした。
【0022】
(コントローラで送受信する情報について)
図4は実施例1の各コントローラで送受信される情報の内容を表す制御ブロック図である。車両コントローラ110は、アクセルペダル位置情報や、シフト位置情報を入力し、基本的な運転者要求トルクや他の制御処理の結果に基づく第1トルク指令値を算出し、モータコントローラ100及びブレーキコントローラ50に第1トルク指令値を出力する。ブレーキコントローラ50は、ブレーキペダル操作状態を表すブレーキスイッチのON・OFF状態や、各輪の車輪速信号を入力し、例えばトラクション制御の要求に基づく第2トルク指令値や、液圧ユニット5やブレーキコントローラ50が正常作動中であるか否かを表すブレーキ装置状態、運転者要求に対してトルクを増加したいか、低減したいか、もしくは増減しないか、といったトルク増減要求を出力する。
【0023】
モータコントローラ100では、ブレーキ装置状態が正常であり、かつ、第1トルク指令値と第2トルク指令値とを比較し、トルク増減要求と一致していれば、ブレーキコントローラ50からの第2トルク指令値を採用し、これらの条件を満たさない場合は第1トルク指令値を採用する。これらの判断により、仮に通信障害などの問題が発生しても、運転者やブレーキコントローラ50の意図に反してモータコントローラ100が動作することを防止できる。
【0024】
(コントローラ内における制御の詳細について)
図5は実施例1の車両コントローラとブレーキコントローラ内に設けられたトラクション制御の要求と、モータコントローラとによって実行される制御内容を表す制御ブロック図である。
図5ではトラクション制御の内容に特化して説明する。
車両コントローラ110内の運転者要求トルク指令値算出部111では、アクセルペダル開度とシフト位置に基づいて運転者要求トルク(第1トルク指令値)を算出し、モータコントローラ100に出力する。ブレーキコントローラ50内のトラクション制御部51では、車輪速センサ9からの車輪速度情報と、操舵角センサからの操舵角情報と、電動モータ1の出力している実モータトルクを入力する。そして、駆動輪が駆動スリップ状態か否かを判断し、駆動スリップのときには駆動スリップを抑制するトラクション制御トルク(第2トルク指令値)を出力すると共に、ブレーキコントローラ50内で実行されている制御内容を表す制御フラグをモータコントローラ100に出力する。
【0025】
モータコントローラ100内には、運転者要求トルクとトラクション制御トルクのうち、どちらの指令値を選択するかを制御フラグに基づいて切り替える切り替えスイッチ101と、切り替えられたトルク指令値TMCIN*に後述する制振制御トルクを加算して最終トルク指令値を出力するトルク加算部102と、最終トルク指令値に基づいて電動モータ1に供給する電流を制御するために、インバータ10にインバータ駆動信号を出力するモータ電流制御部105と、パワートレーン系に発生する駆動系の振動を抑制するための制振制御ゲイン及び制振制御制限値を算出する制振制御情報算出部103と、算出された制振制御情報及びモータ回転速度にハイパスフィルタ処理を施して高周波数成分を検出し、検出した高周波数成分に基づいて、パワートレーン系の振動を抑制する制振制御トルクを算出する制振制御部104とを有する。尚、実施例1ではハイパスフィルタを採用したが、オブザーバを用いて推定してもよい。
【0026】
図6は実施例1の指令値選択処理を表すフローチャートである。切り替えスイッチ101では、以下の判断処理が行われることで、運転者要求トルク指令値TDRV*とスリップ制御トルク指令値TESC*とのいずれかをトルク指令値TMCIN*として出力する。尚、ブレーキコントローラ50内では、トラクション制御部51内でスリップ制御状態を表す加速スリップ制御フラグFA及び減速スリップ制御フラグFDが設けられ、更に液圧ユニット5やブレーキコントローラ50自体の異常状態を表すESC状態フラグFHが設けられている。
ステップS1011では、ESC状態フラグFHが異常なし状態を表しているか否かを判断し、異常なしの場合はステップS1012に進み、異常有りの場合はステップS1020に進んでブレーキコントローラ50からの指令は選択せず、トルク指令値TMCIN*を運転者要求トルク指令値TDRV*に切り換える。
【0027】
ステップS1012では、加速スリップ制御フラグFAが制御中を表しているか否かを判断し、制御中の場合はステップS1013に進み、非制御中の場合はステップS1016に進む。
ステップS1013では、スリップ制御トルク指令値TESC*が運転者要求トルク指令値TDRV*以下か否かを判断し、運転者要求トルク指令値TDRV*以下の場合はステップS1014に進んでトルク指令値TMCIN*をスリップ制御トルク指令値TESC*に切り換える。すなわち、加速スリップ制御中は運転者要求トルク指令値TDRV*に対してトルクダウンが行われるはずであり、スリップ制御トルク指令値TESC*が運転者要求トルク指令値TDRV*以下であれば、より低いトルクを選択してスリップを抑制する必要があるからである。一方、加速スリップ制御中にも関わらずスリップ制御トルク指令値TESC*が運転者要求トルク指令値TDRV*以上の場合には、加速スリップが助長される方向であり、この場合はステップS1015に進んでトルク指令値TMCIN*を運転者要求トルク指令値TDRV*に切り換える。
【0028】
ステップS1016では、減速スリップ制御フラグFDが制御中を表しているか否かを判断し、制御中の場合はステップS1017に進み、非制御中の場合はステップS1020に進む。
ステップS1017では、スリップ制御トルク指令値TESC*が運転者要求トルク指令値TDRV*以上か否かを判断し、運転者要求トルク指令値TDRV*以上の場合はステップS1018に進んでトルク指令値TMCIN*をスリップ制御トルク指令値TESC*に切り換える。すなわち、減速スリップ制御中は運転者要求トルク指令値TDRV*として回生トルクが生じることでスリップが生じており、このスリップを解消するためにトルクアップするため、スリップ制御トルク指令値TESC*は運転者要求トルク指令値TDRV*以上であれば適正な制御が実施されていると考えられるからである。一方、減速スリップ制御中にも関わらずスリップ制御トルク指令値TESC*が運転者要求トルク指令値TDRV*以下の場合には、減速スリップが助長される方向であり、この場合はステップS1019に進んでトルク指令値TMCIN*を運転者要求トルク指令値TDRV*に切り換える。
【0029】
図7は実施例1の制振制御トルク指令値算出処理を表す制御ブロック図である。制振制御部104は、モータ回転速度から振動成分を抽出する振動成分抽出部104aを有する。振動成分抽出部104aは、ハイパスフィルタで構成され、所定の高周波数成分のみを通過させる。ゲイン乗算部104bは、ハイパスフィルタを通過した振動成分に振動制御ゲインを乗算する。トルク制限部104cでは、制振制御トルク制限値とゲイン乗算後の制振制御トルクとの大小を比較し、小さい方の値を選択する。負値乗算部104dでは、制振制御トルク制限値に負値を乗算する。トルク制限部104eでは、制振制御トルク制限値の負値とゲイン乗算後の制振制御トルクとの大小を比較し、大きい方の値を選択する。これにより、振動成分に応じた制振制御トルクを演算すると共に、過剰な制振制御トルクの発生を抑制する。
【0030】
(スリップ制御について)
図8は実施例1のトラクション制御部において実行されるスリップ制御を表す制御ブロック図である。駆動輪速度算出部511では、検出された車輪速度VWに基づいて駆動輪速度VDを算出する。車体速度推定部512では、車輪速度VWに基づいて推定車体速度VCを演算する。例えば従動輪平均値に基づいて車体速度を推定してもよいし、4輪の平均値でもよいし、従動輪と駆動輪のセレクトロー等でもよく、特に限定しない。また、車体加速度GCを検出する車体加速度検出部を有する。この検出部は、前後加速度を検出するGセンサや、推定車体速度VCの微分値を用いて車体加速度GCとしてもよく、特に限定しない。
【0031】
(目標駆動輪速度基準値算出処理)
目標駆動輪速度基準値算出部513では、車両加速度GCと操舵確度Astrと、推定車体速度VCとに基づいて各駆動輪の目標となる速度である目標駆動輪速度基準値VDbase*を算出する。
図9は実施例1の目標駆動輪速度基準値算出処理を表す制御ブロック図である。
加速度用目標スリップ率ゲイン算出部513aには、加速度用目標スリップ率ゲインマップが設けられており、検出された加速度GCが大きいほど、大きな加速度用目標スリップ率ゲインを算出するように設定されている。つまり、大きな加速度が得られているのであれば、ある程度のスリップ率を許容しても路面との間で摩擦力が確保できていると考えられるからである。
操舵角用目標スリップ率ゲイン算出部513bでは、操舵角用目標スリップ率ゲインマップが設けられており、検出された操舵角が中立位置付近では大きな操舵角用目標スリップ率ゲインを算出し、操舵角が操舵状態を表すほど小さな操舵角用目標スリップ率ゲインが算出される。これは、直進状態であれば、さほどコーナリングフォースを必要としないから、タイヤの摩擦円の前後方向に大きく力を使うこととし、操舵状態であれば、コーナリングフォースが必要とされるため、タイヤの摩擦円の前後方向にあまり大きく力を使わず、左右方向の力を確保する。
【0032】
スリップ率算出部513cでは、加速度用目標スリップ率ゲインと操舵角用目標スリップ率ゲインとを乗算し、両者の状態を考慮した目標スリップ率を算出する。目標スリップ量算出部513dでは、算出された目標スリップ率に推定車体速度VCを乗算し、目標スリップ量を算出する。リミッタ処理部513eでは、目標スリップ量にリミット処理を施し、目標値の急変を抑制する。乗算部513fでは、推定車体速度VCに目標スリップ量を加算して目標駆動輪速度VD*を算出する。リミッタ処理部513gでは、目標駆動輪速度VD*にリミッタ処理を施し、目標駆動輪速度基準値VDbase*を算出する。尚、ヨーレイトセンサを備えている場合には、ヨーレイトセンサ値と、操舵角と推定車体速度VCとから算出される推定ヨーレイトとを比較し、乖離が大きい場合には目標スリップ率やトルク指令値を修正することでヨーレイトセンサ値と推定ヨーレイトとの乖離を抑制するように制御してもよい。
【0033】
(加速スリップ制御開始速度算出処理)
加速スリップ制御開始速度算出部514では、推定車体速度VCに基づいて制御開始速度VSを算出する。
図13は実施例1の加速スリップ制御開始速度算出処理を表す制御ブロック図である。制御開始用スリップ量マップ514aでは、推定車体速度VCが高いほど大きなスリップ量が算出される。これはスリップ率で考えたときに制御開始スリップ率がおよそ一定になるようにするためである。ただし、発進時を含む低車速時にはスリップ率の算出が困難になるためマップ514aはスリップ量を設定する。そして、加算部514bでは、推定車体速度VCに制御開始用スリップ量マップ514aから算出されたスリップ量を加算し、制御開始速度VSを算出する。
【0034】
(加速スリップ制御終了速度算出処理)
加速スリップ制御終了速度算出部515では、推定車体速度VCに基づいて制御終了速度VFを算出する。
図14は実施例1の加速スリップ制御終了速度算出処理を表す制御ブロック図である。制御終了用スリップ量マップ515aでは、推定車体速度VCが高いほど大きなスリップ量が算出される。尚、制御終了速度VFを設定するにあたり、制御ハンチングを回避する観点から、同じ推定車体速度VCで比較した場合、制御終了用スリップ量マップ515aに設定されるスリップ量は、制御開始用スリップ量マップ514aに設定されるスリップ量よりも小さく設定される。次に、加算部515bでは、推定車体速度VCに制御終了用スリップ量マップ515aから算出されたスリップ量を加算し、制御終了速度演算値を算出する。次に、第1選択部515cでは、制御終了速度演算値と目標駆動輪速度基準値VDbase*とのうち、小さい方の値を選択することで、制御終了速度VFが目標駆動輪速度基準値VDbase*よりも推定車体速度VC側に設定し、ハンチングを防止する。同様に、第2選択部515dでは、第1選択部515cで選択された値と制御開始速度VSとのうち、小さい方の値を選択することで、制御終了速度VFが制御開始速度VSよりも推定車体速度VC側に設定し、ハンチングを防止する。そして、最終的に選択された値を制御終了速度VFとして出力する。
【0035】
(加速スリップ制御フラグ算出処理)
加速スリップ制御フラグ算出部516では、駆動輪の状態に基づいて加速スリップ制御を実行するか否かを判断し、実行する場合は加速スリップ制御フラグFAをONとして出力し、実行しない場合はOFFとして出力する。
図15は実施例1の加速スリップ制御フラグ算出処理を表す制御ブロック図である。尚、
図15はシフトレバーがDレンジの場合を示すが、他のシフトレンジであっても基本的には同様の処理を行う。
【0036】
制御終了判断部516aでは、駆動輪速度基準値VDと制御終了速度VFとを比較し、駆動輪速度基準値VDが制御終了速度VF以下のときは終了側第1スイッチ516bに切り換え信号を出力する。終了側第1スイッチ516bは、0と前回値出力部516C及びカウントアップ部516dから構成されるカウンタ値とを切り替えるスイッチであり、駆動スリップ制御中に0が選択されている状態で、制御終了判断部516aから切り換え信号を受信すると、前回値出力部516c及びカウントアップ部516cによりカウントアップを開始して制御終了遅延判断部516fに出力する。制御終了遅延判断部516fでは、終了側第1スイッチ516bから出力された値が予め設定されたタイマ値TimeF以上のときはAND条件判断部516kに制御終了条件の一つが成立していることを表す信号を出力する。言い換えると、駆動輪速度基準値VDが制御終了速度VF以下となってからTimeF以上の時間が経過したか否かを判断し、経過したときは制御終了条件の一つが成立していることを表す信号を出力する。
【0037】
トルク偏差演算部516gでは、運転者要求トルク指令値TDRV*と電動モータ1への最終トルク指令値TFBとのトルク偏差を算出し、絶対値処理部516hで絶対値化した値をトルク状態判断部516jに出力する。トルク状態判断部516jでは、トルク偏差が予め設定された所定トルク値TrpF以下となっているときは制御終了条件の一つが成立している信号を出力する。
AND条件判断部516kでは、駆動輪速度基準値VDに基づく終了判断及び遅延処理の条件が成立し、かつ、運転者要求トルク指令値TDRV*が電動モータ1に指令されているトルクとほぼ一致している条件が成立した場合には、OR条件判断部516mに制御終了条件成立信号を出力する。また、負値判断部516lでは、運転者要求トルクTRDV*が0以下のときは制御終了条件成立信号を出力する。
OR条件判断部516mでは、AND条件判断部516kもしくは負値判断部516lのいずれか一方が制御終了条件成立信号を出力した場合には、制御フラグスイッチ516sに切り換え信号を出力する。
【0038】
制御開始判断部516nでは、駆動輪速度基準値VDと制御開始速度VSとを比較し、駆動輪速度基準値VDが制御開始速度VS以上のときは開始側スイッチ516qに切り換え信号を出力して1を出力する。制御開始判断の場面では、駆動輪のスリップが増大している状態であるため、速やかに制御を開始する必要がある。よって、遅延時間等は設けず速やかにスリップ制御を開始する。
開始側スイッチ516qは、制御フラグスイッチ516sの前回値である制御フラグ前回値出力部516pの信号が入力されており、制御開始判断部516nからの切り換え信号により1を出力しているときに、制御開始判断部516nの条件が不成立となった場合、1から制御フラグ前回値に切り換えられる。このとき、OR条件判断部516mから制御終了条件成立信号が出力されていなければ、制御フラグスイッチ516sからは継続的に1が出力されることになるため、制御フラグはON状態となる。
【0039】
(目標駆動輪速度算出処理)
目標駆動輪速度算出部517では、目標駆動輪速度基準値VDbase*に基づいて目標駆動輪速度VD*を算出する。
図10は実施例1の目標駆動輪速度算出処理を表す制御ブロック図である。尚、スリップ制御を開始する前の状態では、目標駆動輪速度VD*として駆動輪速度VDを初期値として設定する。目標値偏差演算部517aでは、目標駆動輪速度基準値VDbase*と目標駆動輪速度前回値算出部517gで算出された前回の目標駆動輪速度VD*との目標値偏差を演算する。リミッタ517bでは、滑らかなトルク変化を達成させるために、偏差に制限をかけるリミット処理を行い、第1加算部517eに出力する。また、変化量演算部517dでは、目標駆動輪速度基準値VDbase*の前回値を出力する前回値出力部517cから出力された前回の目標駆動輪速度基準値VDbase*と今回の目標駆動輪速度基準値VDbase*との差分から変化量を算出し、第1加算部517eに出力する。
【0040】
第1加算部517eでは、目標値偏差と目標駆動輪速度基準値VDbase*の変化量とを加算し、今回の制御で変化させるべき駆動輪速度の変化量を算出する。これによりスリップ制御開始後に目標駆動輪速度基準値VDbase*がリミッタ517bの制限を越える変化をしたとしても目標駆動輪速度VD*は目標駆動輪速度基準値VDbase*に追従することができる。第2加算部517fでは、前回の目標駆動輪速度VD*に第1加算部517eから出力された値を加算して一次目標駆動輪速度を算出し、目標駆動輪速度切り替えスイッチ517hに出力する。目標駆動輪速度切り替えスイッチ517hでは、加速スリップ制御フラグFAが0のときは、駆動輪速度VDを最終的な目標駆動輪速度VD*として出力し、加速スリップ制御フラグFAが1のときは、一次目標駆動輪速度を最終的な目標駆動輪速度VD*として出力する。
【0041】
(加速スリップ制御トルク指令値算出処理)
加速スリップ制御トルク指令値算出部518では、駆動輪速度VDと目標駆動輪速度VD*との偏差に基づいて加速スリップ制御トルク指令値を算出する。
図11は実施例1の加速スリップ制御トルク算出処理を表す制御ブロック図である。速度偏差演算部518aでは、目標駆動輪速度VD*と駆動輪速度VDとの速度偏差を演算する。比例ゲイン乗算部518bでは、速度偏差に比例ゲインKpを乗算して比例成分を出力する。積分ゲイン乗算部518cでは、速度偏差に積分ゲインKiを乗算する。積分部518dでは、最終トルク指令値TFBを初期値として積分した値と、運転者要求トルク指令値TDRV*のうち小さい方の値を積分成分として出力する。PI制御量演算部518eでは、比例成分と積分成分を加算してPI制御トルク指令値を出力する。加速スリップ制御トルク指令決定部518fでは、運転者要求トルク指令値TDRV*とPI制御トルク指令値とのうち小さい方の値を最終的な加速スリップ制御トルク指令値TA*として出力する。尚、目標駆動輪速度VD*の初期値は駆動輪速度VDであるため、比例成分はゼロとなり、積分成分も最終トルク指令値TFBが設定されるものであり、制御開始直後に偏差が生じないため、トルク変動を招くことがない。
【0042】
(スリップ制御トルク指令値算出処理)
スリップ制御トルク指令値算出部519では、加速スリップ制御フラグFA及び減速スリップ制御フラグFD等の信号に基づいて、スリップ制御トルク指令値TA*と運転者要求トルク指令値TDRV*とのいずれかを選択し、最終的なスリップ制御トルク指令値TESC*を出力する。
図12は実施例1のスリップ制御トルク指令値算出処理を表す制御ブロック図である。加速スリップ制御実施許可フラグFAExecOK及び減速スリップ制御実施許可フラグFDExecOKは、それぞれスリップ制御の実施許可フラグであり、回生禁止状態やスリップ制御オフスイッチが押された場合、もしくは何らかの異常(例えば車輪速センサ異常)を検出した場合には実施が禁止され、それ以外の場合は許可される。加速側AND判断部519aでは、加速スリップ制御フラグFA及び加速スリップ制御実施許可フラグFAExecOKが共に条件を満たしているときは、加速スリップ制御トルク指令値切り替えスイッチ519c及びNAND判断部519eに切り換え信号を出力する。同様に、減速側AND判断部519bでは、減速スリップ制御フラグFD及び減速スリップ制御実施許可フラグFDExecOKが共に条件を満たしているときは、減速スリップ制御トルク指令値切り替えスイッチ519d及びNAND判断部519eに切り換え信号を出力する。尚、NAND判断部519eは、加速スリップ制御フラグFAと減速スリップ制御フラグFDとが同時に成立した場合に異常と判断し、スリップ制御要求に従わず運転者要求トルク指令値TDRV*を出力するように処理する構成である。
【0043】
第1トルク指令値切り替えスイッチ519cでは、加速側AND判断部519aから加速スリップ制御要求が出力されている場合は、第2トルク指令値切り替えスイッチ519dから出力された信号(TD* or TDRV*)から、加速スリップ制御トルク指令値TA*に切り換えてスリップ制御トルク指令値算出部519fに出力し、加速スリップ制御要求が出力されていない場合は、第2トルク指令値切り替えスイッチ519dから出力された信号を出力する。
第2トルク指令値切り替えスイッチ519dでは、減速側AND判断部519bから減速スリップ制御要求が出力されている場合は、運転者要求トルク指令値TDRV*から減速スリップ制御トルク指令値TD*に切り換えて第1トルク指令値切り替えスイッチ519cに出力し、減速スリップ制御要求が出力されていない場合は、運転者要求トルク指令値TDRV*を第1トルク指令値切り替えスイッチ519cに出力する。
スリップ制御トルク指令値算出部519fは、NAND判断部510eにより異常判断がなされた場合は運転者要求トルク指令値TDRV*がスリップ制御トルク指令値TESC*として出力し、異常判断がなされていない場合は第1トルク指令値切り替えスイッチ519cから出力された信号をスリップ制御トルク指令値TESC*として出力する。
【0044】
(応答性を改善したスリップ制御による作用について)
次に、上記制御構成によって得られるスリップ制御時の作用について説明する。
図16は駆動スリップ制御を行った場合の回転数とトルクの関係を表すタイムチャートである。
図16(a)は実施例1の構成を採用した場合であり、
図16(b)は上記
図3の比較例の構成を採用し、かつ、制御ゲインを高くした場合であり、
図16(c)は上記
図3の比較例の構成を採用し、かつ、制御ゲインを低くした場合である。
図16(a)に示すように、運転者要求トルク指令値TDRV*を出力しているときに駆動スリップが発生すると、加速スリップ制御フラグFAが1となり、目標駆動輪速度VD*に向けて駆動輪速度VDが収束するように加速スリップ制御トルク指令値TA*が出力される。このとき、実施例1の構成では、ブレーキコントローラ50のトラクション制御部51から、車両コントローラ110を介することなくモータコントローラ100に直接加速スリップ制御トルク指令値TA*が出力されるため、応答遅れが無く、良好に目標駆動輪速度VD*に収束していることが分かる。また、走行中に路面が急に氷結路となり、路面摩擦係数が急激に低下するようなμチェンジが起こった場合であっても、やはり良好な応答性によって極めて収束性の高いトラクション制御が実現されており、特に収束性が良好であるがゆえにコーナリングフォースを確保できている点が特筆すべき事項と考えられる。
【0045】
これに対し、
図16(b)に示す比較例では、駆動輪速度VDが目標駆動輪速度VD*を越えてからトラクション制御を開始したとしても、応答遅れによって大きくオーバーシュートしてしまう。さらに、このオーバーシュートした回転数を収束させるためにモータトルクを低下させたとしても、トラクション制御が振動的となり、収束するまでに時間がかかってしまう。また、μチェンジが生じた場合にも、やはり振動的な動きをすることで収束性が悪い。
図16(b)の問題を解決する観点から、
図16(c)に示すように、制御ゲインを低く設定し、振動的な動きを抑制することが考えられる。この場合、制御の振動的な動きは抑制されるものの、駆動輪速度VDが目標駆動輪速度VD*に収束するまでには時間がかかり、その間は、スリップ量が大きな状態を継続するため、タイヤと路面との間に十分なトラクションを伝達することができず、また、コーナリングフォースも低下気味となり、車両安定性も十分とは言えない。
すなわち、実施例1のようにモータコントローラ100に直接指令することで、極めて大きな収束性の違いが発生している。この効果は、実際に実施例1の車両を氷結路等で走行させた場合に、机上検討から想像される安定性を超えて、運転者に今までに体感したことのない安定性を与えることができる。
【0046】
(制振制御制限値について)
ここで、制振制御トルク制限値に関する課題について説明する。上述したように、モータコントローラ100内には、制振制御部104が設けられ、パワートレーン系に生じる高周波振動を抑制するために制振制御トルクが付与される。ここで、制振制御トルクを付与する理由について説明する。通常、運転者は発進や、加速、減速といった動作を意図してアクセルペダルやブレーキペダルを操作し、走行意図を表明すると、その意図に沿って電動モータ2からトルクが出力され、駆動輪から路面に駆動力が伝達され、または路面から駆動輪に制動力が伝達されて車両が走行する。運転者はもちろん応答性のよい車両挙動を希望しているとはいえ、大きな車両イナーシャがあるため、この車両イナーシャを踏まえた上での応答性を期待していると言える。尚、大きな車両イナーシャの固有振動数に対応する共振周波数は低周波数領域に属しているといえる。
【0047】
一方、車両のパワートレーン系には電動モータ2,ドライブシャフト4及び駆動輪のイナーシャ(以下、パワートレーン系のイナーシャ)に応じた固有振動数を有し、この固有振動数に対応する共振周波数は車両の共振周波数よりも高周波数領域に属し、高周波数のトルク変動は、運転者にとって不快な振動や音として認識され、運転性の悪化を招く。そこで、制振制御部104では、モータ回転数の変動成分に注目し、この変動成分の高周波数領域における振動成分を抑制するための制振制御トルクを付与して振動を抑制している。
【0048】
すなわち、駆動輪がグリップ状態で走行しているときには、パワートレーン系に作用するイナーシャは車両イナーシャであることから、振動の原因となる共振周波数が低く、さほど制振制御トルクを必要とはしないが、駆動輪がスリップ状態で走行すると、パワートレーン系のイナーシャとなることから、共振周波数が高く、高周波数のトルク変動を招くため、大きな制振制御トルクが必要とされる。
【0049】
ここで、車両発進時や、駆動輪と路面との間の摩擦力(トルク)が急変する場面では、グリップ状態であったとしても急変時の周波数が制振制御を必要とする高周波数側のモータ回転数変動として認識されるため、この変動を抑制するための制振制御トルクが付与されてしまう。すると、実際には駆動輪と路面との関係はグリップ状態であり、車両イナーシャが作用しているため制振制御トルクは必要ない場面であるにも関わらず、大きな制振制御トルクが付与されて、電動モータ2の出力トルクを過度に抑制してしまうおそれがある。これは、駆動時であれば駆動力が出にくくなり、制動時であれば制動力が出にくくなることを意味する。
【0050】
そこで、パワートレーン系のイナーシャに基づいて考慮すべき走行状態か、もしくは車両イナーシャに基づいて考慮すべき走行状態なのか、といった条件に基づいて、異なる制振制御トルクの与え方をすることとした。具体的には、車両イナーシャに基づいて考慮すべき走行状態であれば、制振制御トルクが算出されたとしても実際に付与する値が小さくなるように制振制御トルク制限値を小さくし、パワートレーン系のイナーシャで考慮すべき走行状態であれば、実際に付与される制振制御トルクが十分に付与されるよう制振制御トルク制限値を大きくすることとした。
【0051】
次に、制振制御ゲイン・制限値算出部103において実行される具体的な制振制御制限値算出処理について説明する。
図17は実施例1の制振制御制限値算出処理を表す制御ブロック図である。ブレーキコントローラ50内には、上述したトラクション制御部51に加えて、車輪の制動ロックを回避するアンチロックブレーキ制御を行うABS制御部52と、前後輪の荷重に応じて制動力配分を制御する前後輪制動力配分制御部53とを有する。ABS制御部52では、車輪のスリップ状態を監視し、所定のスリップ状態となったときは、ホイルシリンダ圧を減圧してロックを回避する。また、前後輪制動力配分制御部53では、例えば減速時に前輪側に荷重が移動し、後輪側の荷重が低くなる場合には、前輪側と後輪側との車輪速の差が所定範囲となるように後輪側のホイルシリンダ圧を制御(主に減圧)し、後輪側のロック傾向に伴うコーナリングフォースの低下を回避している。ブレーキコントローラ50は、上記各制御部の制御状態を表すフラグ情報、車輪のスリップ状態を表すグリップ情報及び車体加速度GC情報等を制振制御情報算出部103に出力する。これら情報によって、車両イナーシャとして考えられる場面なのか、それともパワートレーン系のイナーシャとして考えなければならない場面なのか、を判断する。
【0052】
制振制御情報算出部103には、制振制御制限値を算出する制振制御制限値算出部1031と、制振制御ゲインを算出する制振制御ゲイン算出部1032とを有する。制振制御制限値算出部1031内には、駆動輪のグリップ状態を判定するグリップ判定部1031aと、路面摩擦係数を推定するμ判定部1031bと、グリップ判定部1031aによる判定結果及びμ判定部1031bによる判定結果に基づいて制振制御トルク制限値としてTLもしくはTH(>TL)を決定する制限値設定部1031cと、設定された制限値に対して変化量の制限を与えた上で最終的な制振制御トルク制限値を出力する変化量制限部1031dとを有する。
【0053】
グリップ判定部1031aでは、ブレーキコントローラ50から受信した各種情報に基づいてグリップ状態を判定する。例えば、加速スリップ制御フラグFAがONであればスリップ状態と判定し、OFFであればグリップ状態と判定する。尚、駆動輪速度VDと推定車体速度VCとの差分を演算し、所定値以上であればスリップ状態、所定値未満であればグリップ状態と判定してもよいし、他の制御フラグ情報に基づいて判定してもよい。
μ判定部10311bでは、現在の車体加速度GCと車輪のスリップ状態との関係に基づいて路面摩擦係数μを推定する。例えば、車体加速度GCが所定値以上かつ車輪のスリップ率が所定値未満であれば高μと判定し、車体加速度GCが所定値未満かつ車輪のスリップ率が所定値以上であれば低μと判定する。尚、ブレーキコントローラ50内の各制御部内で路面摩擦係数を推定しているロジックがある場合には、そこで推定された路面摩擦係数に基づいて高μや低μを判定してもよい。また、実施例1では、高μか低μかのいずれかに判定するように構成したが、更に細かく路面摩擦係数を推定してもよい。
【0054】
制限値設定部1031cでは、駆動輪のグリップ状態及び路面摩擦係数に基づいて制振制御トルク制限値を設定する。
図18は実施例1の制振制御トルク制限値の設定値を表す表である。グリップ状態と判定され、かつ、高μと判定された場合は、制限値として小さな値であるTLを設定する。すなわち、高μ路の発進時、電動モータ2のトルク立ち上がり周波数が、制振制御によって抑制しようとする高周波数領域に含まれており、単なる発進時のトルク立ち上がりに過ぎず、車両のイナーシャとして考慮すればよいにも関わらず、高周波振動の発生とみなして制振制御トルクをそのまま出力すると、過剰にモータトルクが抑制されてしまい、発進性能の低下を招く。そこで、制限値をTLに設定し、絶対値で見た時に制振制御トルクとしてTLよりも大きなトルクが出力されないように制御することで、運転者要求トルクTDRV*に対して過剰にモータトルクが加減算されることを制限し、良好な発進性能を確保する。
【0055】
また、グリップ状態であっても、低μ路であれば、スリップ状態に移行する可能性が高いため、この場合は予め制振制御トルク制限値の設定値を大きな値であるTHに設定しておく。すなわち、駆動輪にスリップが生じ、加速スリップ制御フラグFAがONとなると、スリップ制御トルク指令値TESC*が算出されると共に、運転者要求トルクTDRV*からスリップ制御トルク指令値TESC*に切り換えられる。更に、制振制御トルク制限値はTLからTHに所定時間をかけて所定変化量により変更される。よって、制振制御トルク制限値が急変することがなく、過剰にモータトルクが変更されることを回避し、安定した走行状態を確保する。また、スリップ状態となってパワートレーン系が共振すると、大きな制振制御トルクが算出される。このとき、制振制御トルク制限値は大きな値であるTHに変更されており、十分な制振制御トルクを付与できる。
【0056】
(制振制御ゲインの制御について)
次に、制振制御の課題について説明する。
図19は実施例1の電動車両において、シフトレンジをDレンジからPレンジに切り替えた時の課題を表す概略説明図である。実施例1の電動車両にあっては、電動モータ2から出力されたトルクは、減速機構3a(以下、減速機構3aの歯車を減速ギヤ3aとして記載する。)及びディファレンシャルギヤ3(以下、ディファレンシャルギヤの外周に設けられた終減速ギヤ3として記載する。)の噛み合いにより伝達されたトルクがドライブシャフト4を介して駆動輪である前輪FL,FRに伝達される。このとき、Dレンジのまま車両停止すると、駆動輪の回転数は0となるものの、クリープトルクが発生していることから減速ギヤ3aと終減速ギヤ3は、
図19の回転方向に示すように、減速ギヤ3aの歯面左側と終減速ギヤ3の歯面右側とが当接し、ドライブシャフト4がねじれた状態となる。
【0057】
この状態で、運転者がシフトレバーをDレンジからPレンジにシフト操作すると、電動モータ2から出力されていたクリープトルクは減少するため、減速ギヤ3aが終減速ギヤ3の歯面右側を押す力が減少する。このとき、ドライブシャフト4のねじれによって生じるトルクが解放され、終減速ギヤ3は
図19に示す回転方向とは逆方向に回転して電動モータ2を反転方向に動かす力が作用し、モータ回転速度に高周波振動成分が発生する。よって、制振制御では、このモータ回転速度の高周波成分を検出し、モータ回転速度の逆回転が生じないような正回転側トルクである制振制御トルクを付与することになる。しかし、正回転側の制振制御トルクを付与しても、減速ギヤ3aと終減速ギヤ3との間にはバックラッシが存在するため、このバックラッシの間は減速ギヤ3aに負荷が生じないため、過度の回転が生じた後に終減速ギヤ3の歯面と衝突し、この衝突に伴う振動が発生してしまう。このように、電動モータ2のモータトルクを低減したとしても、バックラッシの影響によりゼロトルク付近における制振制御が適正に機能せず、振動状態が継続的に発生するという問題があった。そこで、制振制御ゲイン算出部1032において走行状態やシフト状態に応じて制振制御ゲインを調整し、ゼロトルク付近における継続的な振動状態を抑制することとした。
【0058】
図20は実施例1の制振制御ゲイン算出部の構成を表すブロック図である。制振制御ゲイン算出部1032内には、車両停止中の制御に使用されるゲインを演算する制振制御ゲインk算出部32aと、走行中の制御に使用されるゲインを演算する制振制御ゲインg算出部32bと、算出されたゲインk及びゲインgのうち、小さい方のゲインを選択して最終的な制振制御ゲインとして出力するゲイン選択部32cと、を有する。
【0059】
図21は実施例1の制振制御ゲインk算出部におけるゲイン制御処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、シフト変更があったか否かを判断し、シフト変更がない場合はステップS6に進み、シフト変更があった場合はステップS2に進む。尚、シフト変更の有無の判断については、図外のインヒビタスイッチ等のシフトレンジ検出手段により検出する。
ステップS2では、車輪速に基づいて車両停止状態か否かを判定し、車両停止状態と判定された場合はステップS3に進み、それ以外の場合はステップS4に進む。車両停止状態であれば、ドライブシャフト4にねじれが蓄積されており、制振制御トルクが算出されると考えられるからである。
ステップS3では、モータ回転速度に基づいてモータ停止状態か否かを判定し、モータ停止中と判定した場合はステップS5に進み、それ以外の場合はステップS4に進む。モータ停止中であれば、クリープトルクの発生によりドライブシャフト4にねじれが蓄積されており、制振制御トルクが算出すると考えられるからである。
ステップS4では、変更されたシフト位置がPレンジもしくはNレンジか否かを判断し、P or Nレンジの場合はステップS5に進み、それ以外のシフト位置の場合はステップS6に進む。P or Nレンジの場合、例え車両が走行中もしくは停車直前の移動中であったとしても、電動モータ2のモータトルク指令値は0に下げられ、この低下によって制振制御トルクが算出されると考えられる。それ以外のシフト位置の場合は、走行意図があるため、モータトルク指令値は0とはならず、通常の走行中制振制御ゲインgを設定すればよい。
【0060】
ステップS5では、タイマのカウント値Tcをカウントアップする。
ステップS6では、タイマTcのカウント値を0にセットする。
ステップS7では、タイマのカウント値Tcが所定値以上か否かを判断し、所定値以上のときはステップS8に進み、それ以外の場合はステップS9に進む。この所定値は、シフト切り替えに伴う制振制御によって十分に振動が減衰されたと考えられる所定時間を表すものであり、実験等によって設定される値である。
【0061】
ステップS8では、目標制御ゲインk*を0にセットする。
ステップS9では、制振制御ゲインkとして走行中の制振制御ゲインgをセットする。
ステップS10では、制振制御ゲインkを以下の式より算出する。
k=min(k*−k(-1),変化量制限値)+k(-1)
ここで、k(-1)は、制振制御ゲイン前回値を表す。また、変化量制限値とはゲインを減少させる際の減少量最大値を表し、負の値として設定される。この変化量制限値は固定値でもよいが、前回値と目標制振制御ゲインの差が小さいほど、変化量制限値を小さくすることで、一次遅れのような滑らかな変化をするように構成してもよい。
【0062】
図22は実施例1の制振制御ゲインg算出部の構成を表すブロック図である。制振制御ゲインg算出部32bは、最終トルク指令値を絶対値化する絶対値算出部32b1と、算出されたトルク指令絶対値に応じて制振制御ゲインgを算出する制振制御ゲインgマップ32b2とを有する。制振制御ゲインgマップは、トルク指令絶対値が走行中のようにある程度の大きさがあれば大きなゲインを出力する。一方、走行中であってもゼロトルク付近では、バックラッシによる振動が生じるため、制振制御ゲインgを小さくする。ただし、走行中は、チェンジマインド等により再び大きなトルク指令が発生したり、外乱によるねじれ振動が生じる可能性があるため、例えトルク指令絶対値が0であってもゲインgを0とはせず、小さい値を設定する。
【0063】
図23は実施例1の電動車両において、DレンジからPレンジに切り替えた場合のゲイン,回転数及びトルクの関係を表すタイムチャートである。Dレンジを選択した状態で車両停止し、パワートレーンにはクリープトルクが作用しているものとする。
時刻t1において、シフトレバーの操作によりDレンジからPレンジに切り替えられると、モータトルクはクリープトルクの出力を低下させ、運転者要求トルクTDRV*は0となる。
時刻t2において、モータトルクが一気に減少すると、ドライブシャフト4のねじれ解消に伴ってモータ回転速度に高周波成分の回転変動が検出される。これにより、制振制御トルクが算出され、運転者要求トルクTDRV*に制振制御トルクが加算され、最終トルク指令値として制振制御トルクが加算されたトルクが出力される。このとき、制振制御ゲインとしてゲインgを制振制御基準ゲインとすると、この制振制御基準ゲインのまま制御を継続した場合、減速ギヤ3aと終減速ギヤ3とのバックラッシの影響による継続的な振動が引き起こされるおそれがある(
図23中の点線:ゲイン固定の場合を参照)。そこで、シフト切り替えタイミングからカウントアップされたタイマ値が所定値以上となった時刻t3において、目標制御ゲインk*を0にセットすると共に、変化量制限値の制限をかけつつ徐々に制振制御ゲインkを小さくする。これにより、制振制御ゲインkは最終的に0となり、制振制御トルクとバックラッシによる継続的な振動の発生を抑制できる。
【0064】
図24は実施例1の電動車両において、PレンジからDレンジに切り替えた場合のゲイン,回転数及びトルクの関係を表すタイムチャートである。Pレンジを選択した状態で車両停止し、ブレーキペダルを踏んだままPレンジからDレンジに切り替えられ、クリープトルクが出力される状態を表す。尚、Pレンジでは、制振制御ゲインは0が設定されているものとする。
時刻t11において、運転者がPレンジからDレンジにシフト切り替えを行うと、モータトルクがクリープトルクの出力を開始する。このとき、ステップS4にてDレンジが選択されていることからNOと判定されてタイマカウント値が0にセットされる。よって、制振制御ゲインkは、車両停止中であっても走行中の制振制御ゲインgがセットされる。
モータ回転速度はバックラッシやドライブシャフト4のねじれによってわずかに回転し、この回転数変化は高周波成分として検出される。よって、時刻t12において、走行中と同様の制振制御トルクが出力され、シフト切り替えに伴うショックを回避することができる。
【0065】
尚、上記実施例1では、シフト変更が検出されてからタイマのカウントアップを開始する構成としたが、制振制御トルクを十分に与えて大きな振動をしっかり抑制する観点から、モータ回転速度の振幅ωvibが所定値未満となってからタイマのカウントアップを開始する構成としてもよい。
図25は他の実施例の制振制御ゲインk算出部におけるゲイン制御処理を表すフローチャートである。仮に、シフト変更がなされ、P or Nレンジが選択されていたとしても、モータ回転速度の振幅ωvibが所定値以上の場合は、しっかりと制振制御トルクを付与すべきと考えられる。よって、ステップS41でωvibが所定値以上と判定された場合はステップS6に進んでタイマカウント値を0にセットする、言い換えると、カウントアップを開始しないことで、制振制御ゲインが制限されることが無く、しっかりと制振制御トルクを付与できる。
【0066】
[実施例1の効果]
以下、実施例1に記載の電動車両の制御装置が奏する効果を列挙する。
(1)減速機構3a及びそれに結合するドライブシャフト4を介して駆動輪を制駆動するトルクを発生する電動モータ2と、
運転者のアクセル操作又はブレーキ操作に基づき電動モータ2への回転トルク指令値を算出する運転者要求トルク算出部111(トルク指令値算出部)と、
車両の共振による振動成分を抑制するために電動モータ2への制振制御トルク指令値を算出する制振制御トルク算出部104と、
前記各指令値に基づいて電動モータ2の発生するトルクを制御する制振制御ゲインk算出部32a(部)と、
制振制御ゲインk算出部32aは、所定の条件が成立すると、電動モータ2の発生するトルクを低減させることを特徴とする電動車両の制御装置。
よって、電動モータ2の発生するトルクを低減させることで、振動を助長することを回避できる。
(2)上記(1)に記載の電動車両の制御装置において、
制振制御ゲインk算出部32aは、所定の条件が成立すると、電動モータ2の発生するトルクをゼロにすることを特徴とする電動車両の制御装置。
よって、制振制御トルクが算出されたとしても、トルクがゼロとされるため、振動の助長が回避できる。
(3)上記(1)に記載の電動車両の制御装置において、
車両停止状態を判定するステップS2(車両停止状態判定部)を備え、
前記所定の条件は、前記車両停止状態判定部によって車両停止状態と判定されたことを特徴とする電動車両の制御装置。
車両停止状態の場合、ドライブシャフト4にねじれが蓄積されやすく、バックラッシの影響により振動が助長されやすいため、この場合にはモータトルクを低減することで、振動の助長を回避できる。
(4)上記(1)に記載の電動車両の制御装置において、
車両のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出部を備え、
前記所定の条件は、前記シフトレンジ検出部により検出されたシフトレンジがパーキング又はニュートラルレンジになったときであることを特徴とする電動車両の制御装置。
この場合、モータトルクはクリープトルク等のトルクを出力している状態からトルクゼロの状態に切り替えられる場面であり、制振制御トルクが付与される場面である。この場面においてバックラッシの影響により振動が助長されやすいため、この場合にはモータトルクを低減することで、振動の助長を回避できる。
【0067】
(5)上記(1)に記載の電動車両の制御装置において、
制振制御ゲインk算出部32aは、前記所定の条件が成立すると所定時間経過後にトルクをゼロにすることを特徴とする電動車両の制御装置。
よって、所定時間の間に制振制御トルクによる振動抑制を達成しつつ、所定時間経過後の継続的な振動の助長を回避できる。
(6)上記(5)に記載の電動車両の制御装置において、
車両のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出部を備え、
制振制御ゲインk算出部32aは、前記所定条件成立後に、前記シフトレンジ検出部によりニュートラル又はパーキングレンジから他のレンジへ切り替えられたことを検出すると、トルクを発生させることを特徴とする電動車両の制御装置。
よって、Dレンジ等への切り替えに伴う制振制御トルクを発生させることができ、シフト切り替えに伴うショック等を抑制できる。
【0068】
(7)減速機構3a及びそれに結合するドライブシャフト4を介して駆動輪を制駆動するトルクを発生する電動モータ2と、
運転者のアクセル操作又はブレーキ操作に基づき電動モータ2への回転トルク指令値を算出する運転者要求トルク算出部111(トルク指令値算出部)と、
車両の共振による振動成分を抑制するために前記モータへの制振制御トルク指令値を算出する制振制御トルク算出部104(制振制御トルク指令値算出部)と、
前記各指令値に基づいて電動モータ2を制御する制振制御ゲインk算出部32a(モータ制御部)と、
前記回転トルク指令値に基づきモータが発生しているトルクがゼロになったか否かを判定するステップS4(以下、ゼロトルク判定部と記載する。)と、
ステップS4によりゼロトルク状態を判定すると制振制御トルク指令値を小さくする制振制御ゲインk算出部32a(制振制御トルク指令値低下部)と、
を備えたことを特徴とする電動車両の制御装置。
よって、運転者要求トルクTDRV*が0となった場合には、制振制御トルクが抑制されるため、振動を助長することを回避できる。
(8)上記(7)に記載の電動車両の制御装置において、
運転者要求トルク算出部111は、車両が所定の状態の時に回転トルク指令値をゼロとし、
前記ゼロトルク判定部は、車両が所定の状態の時にゼロトルク状態と判定することを特徴とする電動車両の制御装置。
車両が所定の状態のときにゼロトルク状態と判定することで、車両の状態に応じた制振制御トルクを出力できる。
(9)上記(7)に記載の電動車両の制御装置において、
運転者要求トルク算出部111は、車両が停止したと判断したときは回転トルク指令値をゼロとし、
前記ゼロトルク判定部は、車両が停止したと判定したときにゼロトルク状態と判定することを特徴とする電動車両の制御装置。
車両が停止したと判定した場合は、運転者の意図としてトルクを望んでいないと考えられるため、ゼロトルクと判定することで、車両の状態に応じた制振制御トルクを出力できる。
【0069】
(10)上記(9)に記載の電動車両の制御装置において、
前記制振制御トルク指令値低下部は、車両停止状態と判定後、所定時間経過後に前記制振制御トルク指令値を低下させることを特徴とする電動車両の制御装置。
よって、所定時間が経過する前までは制振制御トルクを付与することができ、所定時間経過後は制振制御トルクを低下させることで継続的な振動を抑制できる。
(11)上記(10)に記載の電動車両の制御装置において、
車両のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出部を備え、
制振制御ゲインk算出部32aは、検出されたシフトレンジがパーキング又はニュートラルレンジのときにトルク指令値をゼロとし、
前記ゼロトルク判定部は、検出されたシフトレンジがパーキング又はニュートラルレンジのときにゼロトルク状態と判定することを特徴とする電動車両の制御装置。
PレンジやNレンジのときは、運転者に発進意図がないため、ゼロトルク状態と判定することで、車両の状態に応じた制振制御トルクを出力できる。
【0070】
(12)上記(7)に記載の電動車両の制御装置において、
車両のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出部を備え、
制振制御ゲインk算出部32aは、検出されたシフトレンジがパーキング又はニュートラルレンジのときにトルク指令値をゼロとし、
前記ゼロトルク判定部は、検出されたシフトレンジがパーキング又はニュートラルレンジのときにゼロトルク状態と判定することを特徴とする電動車両の制御装置。
PレンジやNレンジのときは、運転者に発進意図がないため、ゼロトルク状態と判定することで、車両の状態に応じた制振制御トルクを出力できる。
(13)上記(12)に記載の電動車両の制御装置において、
制振制御ゲインk算出部32aは、検出されたシフトレンジがパーキング又はニュートラルレンジと検出されてから所要時間経過後に前記制振制御トルク指令値を低下させることを特徴とする電動車両の制御装置。
よって、所定時間経過するまでの間は制振制御トルクを付与できるため、効果的な制振制御を実現でき、所定時間経過後は制振制御トルクが低下するため、継続的な振動を回避できる。
(14)上記(13)に記載の電動車両の制御装置において、
制振制御ゲインk算出部32aは、車両停止と判断された後、前記シフトレンジ検出部によりニュートラル又はパーキングレンジから他のレンジへ切り替えられたことを検出すると、制振制御トルク指令値の低下を終了することを特徴とする電動車両の制御装置。
よって、他のレンジが例えばDレンジのようにモータトルクを発生させる際、トルク立ち上がり時の高周波振動成分に対して制振制御トルクを付与することができ、安定した制振制御を実現できる。
【0071】
(15)減速機構3a及びドライブシャフト4を介して駆動輪と接続し、駆動輪に制駆動トルクを発生する電動モータ2と、
電動モータ2を運転者のアクセル操作又はブレーキ操作に基づく回転トルク指令値と車両の共振による振動成分を抑制する制振制御トルク指令値に基づき電動モータ2を制御し、
車両停止判断又はシフトレンジがニュートラルレンジ又はパーキングレンジへの切り替えに伴い前記回転トルク指令値が低下すると、制振制御トルク指令値を低下させることを特徴とする電動車両の制御方法。
よって、回転トルク指令値の低下により、制振制御トルクが抑制されるため、振動を助長することを回避できる。
(16)上記(15)に記載の電動車両の制御方法において、
前記制振制御トルク指令値を低下させるときは、ゼロまで低下させることを特徴とする電動車両の制御方法。
よって、不要な振動の継続を完全に回避できる。
(17)上記(15)に記載の電動車両の制御方法において、
前記制振制御トルク指令値の低下は、車両停止状態と判定後、所定時間経過後に低下させることを特徴とする電動車両の制御方法。
よって、所定時間経過するまでの間は制振制御トルクを付与できるため、効果的な制振制御を実現でき、所定時間経過後は制振制御トルクが低下するため、継続的な振動を回避できる。
(18)上記(15)に記載の電動車両の制御方法において、
前記制振制御トルク指令値の低下は、車両停止と判定された後に、前記シフトレンジ検出部によりニュートラル又はパーキングレンジから他のレンジへ切り替えられたことを検出すると制振制御トルク指令値の低下を終了することを特徴とする電動車両の制御方法。
よって、他のレンジが例えばDレンジのようにモータトルクを発生させる際、トルク立ち上がり時の高周波振動成分に対して制振制御トルクを付与することができ、安定した制振制御を実現できる。