(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
船体垂直面内にあって船体水平面に対し45度に傾斜する第1軸線回りに回転可能とされた2つの舵と、前記船体垂直面内にあって前記第1軸線に直交する第2軸線回りに回転可能とされた2つの舵と、の計4つの舵を備える水中航走体の前記舵の舵角を制御する舵制御装置であって、
ピッチ舵角、ヨー舵角及びロール舵角の目標値である目標流力舵角の入力を受け付ける入力部と、
前記目標流力舵角を得るために必要な前記舵の各々の舵角である必要舵角を特定する必要舵角特定部と、
4つの前記舵のうちの少なくとも一つの前記必要舵角が操舵可能範囲外となっている場合に、当該操舵可能範囲外となっている一の舵の舵角を前記操舵可能範囲の限度値に決定し、かつ、当該一の舵と同じ軸線回りに回転可能とされた他の舵の舵角を前記必要舵角又は前記操舵可能範囲の限度値に決定する第1舵角決定部と、
前記第1舵角決定部が舵角を決定した舵以外の舵である未決定舵の舵角を、当該未決定舵の舵角に前記必要舵角が適用された場合に得られるピッチ舵角及びヨー舵角が得られ、かつ、当該未決定舵の舵角に前記必要舵角が適用された場合に得られるロール舵角よりも前記目標流力舵角に近いロール舵角が得られる舵角に決定する第2舵角決定部と、
を備える舵制御装置。
船体垂直面内にあって船体水平面に対し45度に傾斜する第1軸線回りに回転可能とされた2つの舵と、前記船体垂直面内にあって前記第1軸線に直交する第2軸線回りに回転可能とされた2つの舵と、の計4つの舵を備える水中航走体の当該舵の舵角を制御するための舵制御方法であって、
ピッチ舵角、ヨー舵角及びロール舵角の目標値である目標流力舵角の入力を受け付ける入力ステップと、
前記目標流力舵角を得るために必要な前記舵の各々の舵角である必要舵角を特定する必要舵角特定ステップと、
4つの前記舵のうちの少なくとも一つの前記必要舵角が操舵可能範囲外となっている場合に、当該操舵可能範囲外となっている一の舵の舵角を前記操舵可能範囲の限度値に決定し、かつ、当該一の舵と同じ軸線回りに回転可能とされた他の舵の舵角を前記必要舵角又は前記操舵可能範囲の限度値に決定する第1舵角決定ステップと、
前記第1舵角決定ステップにより舵角が決定された舵以外の舵である未決定舵の舵角を、当該未決定舵の舵角に前記必要舵角が適用された場合に得られるピッチ舵角及びヨー舵角が得られ、かつ、当該未決定舵の舵角に前記必要舵角が適用された場合に得られるロール舵角よりも前記目標流力舵角に近いロール舵角が得られる舵角に決定する第2舵角決定ステップと、
を有する舵制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係る舵制御装置について、
図1〜
図10を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は、第1の実施形態に係る水中航走体の概要を示す図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係る水中航走体1は、船体10と、船体10の進行方向後方側に設けられたX型後舵11と、を備えている。
水中航走体1は、X型後舵11の舵角が適宜変更されることで、船体10の進路を変更可能とされている。
【0017】
図2は、第1の実施形態に係るX型後舵の構造を示す図である。
図2は、水中航走体1を進行方向後方側から見た場合の船体10及びX型後舵11の構造を模式的に表している。なお、
図2において、水中航走体1の進行方向に沿う水平面及び垂直面を船体水平面H及び船体垂直面Vで示している。
図2に示すように、X型後舵11は、進行方向に直交する船体垂直面内にあって船体水平面Hに対し45度に傾斜する第1軸線O1回りに回転可能とされた2つの舵111、114を有している。また、X型後舵11は、船体垂直面内にあって第1軸線O1に直交する第2軸線O2回りに回転可能とされた2つの舵112、113を有している。このように、X型後舵11は、水中航走体1を後方視した場合において、船体10中心側から外側にかけて、左上、左下、右上、右下の各々に延びる計4つの舵111、112、113、114で構成される。
なお、
図1に示すように船体中心を原点とした右手系座標系を考えたとき、舵111、112、113、114の取付位置x座標は等しいものとする。また、舵111と112の取付位置y座標および舵113と114の取付位置y座標は等しいものとする。加えて、舵111と113の取付位置z座標および舵112と114の取付位置z座標は等しいものとする。さらに、舵111、112、113、114の流体特性は等しいものとする。
【0018】
なお、
図2において、舵111、112、113、114の各々の舵角を舵角f1、f2、f3、f4で示している。舵角f1、f4は、舵111側からみて各舵111、114の反時計回り方向への駆動の度合いを正の値で表し、時計回り方向への駆動の度合いを負の値で表す数値である。また、舵角f2、f3は、舵112側からみて各舵112、113の時計回り方向への駆動の度合いを正の値で表し、反時計回り方向への駆動の度合いを負の値で表す数値である。
また、詳細は後述するが、舵111、112、113、114の各々は、機械的制約等により予め操舵可能範囲(舵角f1、f2、f3、f4の限度値(上限値及び下限値))が規定されており、舵角f1、f2、f3、f4は、それぞれ、操舵可能範囲である上限値limから下限値−lim(lim>0)までの値のみを取り得る。
【0019】
なお、以下の説明において、上下左右、時計回り、反時計回りを示す文言は、特別な記載がない限り、水中航走体1を、
図2に示すように後方視した場合の方位又は回転方向を意味するものとする。
【0020】
後述するように、本実施形態に係る水中航走体1は、X型後舵11の各舵111〜114の舵角を決定するにあたり、従来の十字型後舵に対する操舵に適用される流力舵角(ピッチ舵角e、ヨー舵角r及びロール舵角d)の目標値である目標流力舵角を算出する。
ここで、ピッチ舵角eは、水中航走体1の、船体垂直面Vに沿った上下方向への旋回の度合いを表す数値である。
図2において、ピッチ舵角eは、水中航走体1の進行方向が上側へ向かう旋回の度合いを正の値で表し、水中航走体1の進行方向が下側へ向かう旋回の度合いを負の値で表す。
また、ヨー舵角rは、水中航走体1の、船体水平面Hに沿った左右方向への旋回の度合いを表す数値である。
図2において、ヨー舵角rは、水中航走体1の進行方向が右側へ向かう旋回の度合いを正の値で表し、水中航走体1の進行方向が左側へ向かう旋回の度合いを負の値で表す。
更に、ロール舵角dは、水中航走体1の、進行方向軸線回りの回転の度合いを表す数値である。
図2において、ロール舵角dは、水中航走体1の時計回り方向の回転の度合いを正の値で表し、水中航走体1の反時計回り方向の回転の度合いを負の値で表す。
上記ピッチ舵角e及びヨー舵角rは、水中航走体1の進行方向を目的の方位(上下左右の任意の方向)へ向けるために、また、ロール舵角dは、水中航走体1の傾きを水平に維持するために、操縦者の操舵または自動制御によって調整される。
【0021】
流力舵角(ピッチ舵角e、ヨー舵角r及びロール舵角d)は、各舵111〜114の合成モーメントによって達成される。即ち、水中航走体1の進行は、流力舵角(e、r、d)に対応する舵111〜114の舵角f1〜f4の組み合わせによって決定される。
例えば、各舵111〜114の舵角f1〜f4が、
図2に示す状態(f1=δ>0、f2=δ>0、f3=δ>0、f4=δ>0)の場合を考える。この場合、舵111、舵114は、ともに左下方向のモーメントを生成し、舵112、舵113は、ともに左上方向のモーメントを生成する。また、前述の通り、舵111、112、113、114の取付位置y座標の絶対値および各舵の流力特性が等しく、舵角f1〜f4は等しいため、各舵111〜114にて生成するモーメントは等しい。したがって、これらの合成モーメントにより、船体10の船尾側に左方向の力が印加される。その結果、船体10の船尾側が左方向に移動するため、水中航走体1は、右方向に旋回する(ピッチ舵角e=0、ヨー舵角r>0、ロール舵角d=0)。
以上のような仕組みを一般化すると、X型後舵11における各舵111〜114の舵角f1〜f4は、式(1)のような対応関係により、ピッチ舵角e、ヨー舵角r及びロール舵角dの各々に変換される。
【0023】
なお、目標とする流力舵角である目標流力舵角(後述する目標ピッチ舵角et、目標ヨー舵角rt及び目標ロール舵角dt)が与えられた場合に、これに対応する各舵111〜114の各々に必要な舵角f1〜f4(後述する必要舵角fn1〜fn4)の算出の仕方については後述する。
【0024】
図3は、第1の実施形態に係る水中航走体の機能構成を示す図である。
図3に示すように、船体10は、操舵受付部12と、舵駆動部13と、舵制御装置2と、を備えている。
操舵受付部12は、操縦者による操舵または自動制御の目標方位、目標ピッチ角、目標ロール角の入力を受け付ける操縦用の機器である。操舵受付部12は、受け付けた操舵に応じた目標流力舵角(目標ピッチ舵角et、目標ヨー舵角rt及び目標ロール舵角dt)を算出する目標流力舵角演算部120を内部に備えている。目標流力舵角演算部120は、操縦者の操舵または自動制御の目標方位、目標ピッチ角、目標ロール角によって指定された進行方向や姿勢が達成されるような目標流力舵角を直ちに算出し、舵制御装置2に出力する。
舵駆動部13は、モータ等の駆動機構を備え、舵制御装置2から受け付けた制御信号(後述する決定舵角ff1、ff2、ff3、ff4)に従って、各舵111〜114の舵角f1〜f4を調整する。
【0025】
本実施形態に係る舵制御装置2は、操舵受付部12(目標流力舵角演算部120)から受け付けた目標流力舵角(ピッチ舵角e、ヨー舵角r及びロール舵角dの各々の目標値である目標ピッチ舵角et、目標ヨー舵角rt、目標ロール舵角dt)に基づいて、最適な舵角f1〜f4(決定舵角ff1〜ff4)を算出する。以下、舵制御装置2の機能構成について詳細に説明する。
【0026】
図2に示すように、舵制御装置2は、入力部20と、必要舵角特定部21と、再配分演算部22と、を備えている。
入力部20は、操舵受付部12から目標流力舵角(目標ピッチ舵角et、目標ヨー舵角rt及び目標ロール舵角dt)の入力を受け付ける。
必要舵角特定部21は、上記目標流力舵角を得るために必要な舵111〜114の各々の舵角である必要舵角fn1、fn2、fn3、fn4を特定する。
再配分演算部22は、必要舵角fn1、fn2、fn3、fn4の少なくとも一つが操舵可能範囲外となっている場合に、実際に得られる流力舵角(e、r、d)を目標流力舵角(et、rt、dt)に少しでも近づかせるため、舵角f1〜f4を、操舵可能範囲内において最適な舵角となるように再配分する処理を行う。再配分演算部22は、第1舵角決定部221と、第2舵角決定部222と、を備えており、それぞれの機能により、舵角f1〜f4に対する最終的な決定舵角ff1〜ff4が決定される。
【0027】
図4は、第1の実施形態に係る必要舵角特定部の機能を説明する第1の図である。
また、
図5は、第1の実施形態に係る必要舵角特定部の機能を説明する第2の図である。
次に、
図4及び
図5を参照しながら、必要舵角特定部21の機能について詳細に説明する。
【0028】
必要舵角特定部21は、入力部20を通じて入力された目標ピッチ舵角et、目標ヨー舵角rt及び目標ロール舵角dtに応じた各舵111〜114の必要舵角fn1〜fn4を特定する。
具体的には、必要舵角特定部21は、目標ピッチ舵角et、目標ヨー舵角rt及び目標ロール舵角dtにつき、式(2)の演算を行う。
【0030】
ここで、式(2)は、目標ピッチ舵角et、目標ヨー舵角rt及び目標ロール舵角dtと、各舵111〜114の必要舵角fn1〜fn4と、が式(1)の関係を満たすように規定されている。つまり、各舵111〜114の舵角f1〜f4が必要舵角fn1〜fn4となることで、目標ピッチ舵角et、目標ヨー舵角rt及び目標ロール舵角dtが達成される。
【0031】
式(2)によれば、目標流力舵角(目標ピッチ舵角et、目標ヨー舵角rt及び目標ロール舵角dt)と必要舵角fn1、fn2、fn3、fn4との関係は、
図5(a)に示すような対応関係となる。このような対応関係によれば、例えば、
図5(b)に示すように、目標流力舵角として目標ピッチ舵角et=20°、目標ヨー舵角rt=20°及び目標ロール舵角dt=5°が入力された場合、必要舵角特定部21の演算により、必要舵角fn1〜fn4は、fn1=35°、fn2=5°、fn3=−5°、fn4=45°と特定される。
【0032】
しかしながら、上述したように、各舵111〜114の舵角f1〜f4は、予め規定された操舵可能範囲である上限値limから下限値−lim(lim>0)までしか駆動しない。ここで、例えば、操舵可能範囲の限度値(上限値、下限値)が、予め、上限値lim=30°、下限値−lim=−30°と規定されていた場合を考える。
この場合、目標流力舵角(et=20°、rt=20°、dt=5°)に対応する必要舵角fn1〜fn4のうち必要舵角fn1(=35°)、fn4(=45°)は、操舵可能範囲外となっている(
図5(b)参照)。一方、必要舵角fn1〜fn4のうち必要舵角fn2(=5°)、fn3(=−5°)は、操舵可能範囲内となっている。
ここで、仮に、上限値lim(=30°)を超えている必要舵角fn1、fn4に対応する舵角f1、f4を当該上限値limに決定し、操舵可能範囲内となっている必要舵角fn2、fn3に対応する舵角f2、f3を、当該必要舵角fn2、fn3に決定する処理を行ったとする。このような処理によると、
図5(c)に示すように、各舵111〜114に対応する最終的な決定舵角ff1〜ff4は、ff1=30°、ff2=5°、ff3=−5°、ff4=30°となる。この決定舵角ff1〜ff4が各舵111〜114の舵角f1〜f4の各々に適用された結果、実際に得られる流力舵角は、式(1)に基づき、ピッチ舵角e=15°、ヨー舵角r=15°、ロール舵角d=2.5°となる。
そうすると、実際に得られる流力舵角(ピッチ舵角e、ヨー舵角r及びロール舵角d)の何れもが、目標流力舵角(目標ピッチ舵角et、目標ヨー舵角rt及び目標ロール舵角dt)の各々と乖離する。
【0033】
そこで、本実施形態に係る舵制御装置2は、上述した再配分演算部22により、実際に得られる流力舵角(e、r、d)が目標流力舵角(et、rt、dt)に少しでも近づくように、舵角f1〜f4を、各々の操舵可能範囲内において再配分する処理を実行する。
【0034】
図6は、第1の実施形態に係る舵制御装置の処理フローを示す図である。
次に、
図6を参照しながら、舵制御装置2全体の処理フローについて順を追って説明する。
【0035】
まず、舵制御装置2の入力部20は、目標流力舵角演算部120(
図3)から目標流力舵角(目標ピッチ舵角et、目標ヨー舵角rt及び目標ロール舵角dt)を入力する(ステップS01)。
次に、舵制御装置2の必要舵角特定部21は、式(2)の演算に基づいて、各舵111〜114の各々の必要舵角fn1〜fn4を特定する(ステップS02)(
図5(a)、(b)参照)。
次に、舵制御装置2の再配分演算部22は、ステップS02で得られた必要舵角fn1〜fn4につき、所定の再配分演算を行い、最終的な決定舵角ff1〜ff4を算出する(ステップS03)。再配分演算部22によるステップS03の処理の詳細については後述する。
更に、再配分演算部22は、算出された決定舵角ff1〜ff4を舵駆動部13(
図3)に向けて出力する(ステップS04)。これにより、各舵111〜114の舵角f1〜f4が、目標流力舵角に応じた最適な舵角(決定舵角ff1〜ff4)となる。
【0036】
図7〜
図10は、第1の実施形態に係る再配分演算部の処理フローを示す第1〜第4の図である。
次に、ステップS03(
図6)において実行される再配分演算部22の処理フローについて詳細に説明する。
【0037】
まず、再配分演算部22の第1舵角決定部221は、決定舵角ff1〜ff4の各々に、ステップS02(
図6)で特定された必要舵角fn1〜fn4を代入する(ステップS11)。
次に、第1舵角決定部221は、同じ軸線O1回りに回転可能とされる舵111及び舵114の各々に対応する決定舵角ff1、ff4を参照し、当該決定舵角ff1、ff4の少なくとも何れかが操舵可能範囲外(ff1、ff4<−lim、又は、ff1、ff4>lim)となっているか否かを判定する(ステップS12)。
【0038】
決定舵角ff1、ff4の何れかが操舵可能範囲外となっている場合(ステップS12:YES)、第1舵角決定部221は、決定舵角ff1、ff4のうち操舵可能範囲外となっている一方(又は両方)については、上限値lim又は下限値−limに決定する。また、第1舵角決定部221は、決定舵角ff1、ff4のうち操舵可能範囲内となっている他方については、ステップS11で初期設定された必要舵角fn1、fn4をそのまま採用して決定する(ステップS13)。
例えば、ステップS11において決定舵角ff1=35°、ff4=−5°の場合、ステップS13により、決定舵角ff1=lim=30°、ff4=−5°と決定される。また、例えば、ステップS11において決定舵角ff1=35°、ff4=−45°の場合、ステップS13により、決定舵角ff1=lim=30°、ff4=−lim=−30°と決定される。
【0039】
ステップS13の後、第1舵角決定部221は、この時点における未決定舵(ステップS13で舵角が決定された舵以外の舵)であって、同じ軸線O2回りに回転可能とされた舵112、113の各々に対応する決定舵角ff2、ff3がともに操舵可能範囲内にあるか否かを判定する(ステップS14)。
決定舵角ff2、ff3がともに操舵可能範囲内にある場合(ステップS14:YES)、第2舵角決定部222が、未決定舵(舵112、113)に対応する決定舵角ff2、ff3を決定する処理を行う(ステップS15)。ステップS15において実行される第2舵角決定部222の処理フローについては後述する。
【0040】
また、決定舵角ff2、ff3の何れかが操舵可能範囲外となっている場合(ステップS14:NO)、第1舵角決定部221は、決定舵角ff2、ff3のうち操舵可能範囲外となっている一方(又は両方)については、上限値lim又は下限値−limに決定する。また、第1舵角決定部221は、決定舵角ff2、ff3のうち操舵可能範囲内となっている他方については、ステップS11で初期設定された必要舵角fn2、fn3をそのまま採用して決定する(ステップS16)。
【0041】
一方、ステップS12において、決定舵角ff1、ff4がともに操舵可能範囲内となっている場合(ステップS12:NO)、続いて、第1舵角決定部221は、舵112及び舵113の各々に対応する決定舵角ff2、ff3を参照する。そして、第1舵角決定部221は、当該決定舵角ff2、ff3の少なくとも何れかが操舵可能範囲外となっているか否かを判定する(ステップS17)。
【0042】
決定舵角ff2、ff3の何れかが操舵可能範囲外となっている場合(ステップS17:YES)、第1舵角決定部221は、決定舵角ff2、ff3のうち操舵可能範囲外となっている一方(又は両方)については、上限値lim又は下限値−limに決定する。また、第1舵角決定部221は、決定舵角ff2、ff3のうち操舵可能範囲内となっている他方については、ステップS11で初期設定された必要舵角fn2、fn3をそのまま採用して決定する(ステップS18)。
【0043】
この時点における未決定舵(ステップS17で舵角が決定された舵以外の舵)である舵111、114の各々に対応する決定舵角ff1、ff4は、ステップS12により、ともに操舵可能範囲内にあることが判明している。したがって、この場合は直ちに、第2舵角決定部222が、未決定舵(舵111、114)に対応する決定舵角ff1、ff4を決定する処理を行う(ステップS19)。
【0044】
なお、ステップS17において、決定舵角ff2、ff3がともに操舵可能範囲内となっている場合(ステップS17:NO)、決定舵角ff1〜ff4は、いずれも操舵可能範囲内にある。そうすると、各舵111〜114は、目標流力舵角が達成される必要舵角fn1〜fn4に操舵可能であるため、第1舵角決定部221は、ステップS11で初期設定された決定舵角ff1〜ff4をそのまま採用し、処理を終了する。
【0045】
次に、
図8〜
図10を参照しながら、ステップS15及びステップS19(
図7)において実行される第2舵角決定部222の処理フローについて説明する。なお、
図8〜
図10は、ステップS15において実行される処理フローを例示しているが、ステップS19において実行される処理フローも、
図8〜
図10に示すものと同様である。
【0046】
まず、再配分演算部22の第2舵角決定部222は、所定値(演算値a)を用いて、式(3)に示す演算を行う(ステップS31)。
【0048】
ここで、第1舵角決定部221(ステップS13(
図7))により決定された決定舵角ff1、ff4は、操舵可能範囲内に収まるように決定されている。そうすると、決定舵角ff1、ff4のうちの少なくとも何れかが必要舵角fn1、fn4に満たなくなっているため、この決定舵角ff1、ff4をそのまま採用した場合に、実際に得られるロール舵角dは、目標ロール舵角dtに満たなくなる(式(1)のロール舵角dについての関係式を参照)。
演算値aは、舵111、114の舵角f1、f4に、操舵可能範囲内に収まるように決定された決定舵角ff1、ff4が適用され、かつ、未決定舵(舵112、113)の舵角f2、f3に必要舵角fn1、fn2がそのまま適用された場合に得られるロール舵角dと、本来目標としていた目標ロール舵角dtとの差分を表している。
【0049】
第2舵角決定部222は、式(3)に示す通り、未決定舵(舵112、113)のうちの一の舵(舵112)の決定舵角ff2を、当該舵112の必要舵角fn2に演算値aの半値(a/2)を加算した値に決定する。また、第2舵角決定部222は、未決定舵(舵112、113)のうちの他の舵(舵113)の決定舵角ff3を、当該舵113の必要舵角fn3から所定値aの半値(a/2)を減算した値に決定する。
【0050】
ステップS13(
図7)で操舵可能範囲内に収められた決定舵角ff1、ff4と、ステップS31で新たに決定された決定舵角ff2、ff3と、をロール舵角dについての関係式(式(1))の舵角f1〜f4にそれぞれ代入すると、実際に得られるロール舵角dが目標ロール舵角dtに一致する。
また、同じく、ステップS13(
図7)で操舵可能範囲内に収められた決定舵角ff1、ff4と、ステップS31で決定された決定舵角ff2、ff3と、をピッチ舵角e、ヨー舵角rについての関係式(式(1))の舵角f1〜f4にそれぞれ代入すると、いずれの場合も、演算値aが打ち消される。即ち、未決定舵(舵112、113)の舵角f2、f3に対し、ステップS31で決定された決定舵角ff2、ff3を適用することで、当該舵角f2、f3に対し、本来の必要舵角fn2、fn3が適用された場合に得られるピッチ舵角e及びヨー舵角rと同じピッチ舵角e及びヨー舵角rを得ることができる。
【0051】
第2舵角決定部222は、以上のように、未決定舵(舵112、113)に必要舵角fn2、fn3が適用された場合に得られるロール舵角dと、目標ロール舵角dtと、の差分を示す演算値aを算出することで、実際に得られるロール舵角dを目標ロール舵角dtに一致させることができる。
【0052】
なお、ステップS19(
図7)においては、演算値aを用いて、式(4)に示す演算を行うことで、ステップS31に相当する処理を実行することができる。
【0054】
次に、第2舵角決定部222は、ステップS31で決定した決定舵角ff2、ff3の各々が操舵可能範囲外となっていないかどうかを調べる。
具体的には、まず第2舵角決定部222は、所定の演算値b2、b3に“ゼロ”を代入して初期化を行う(ステップS32)。
【0055】
次に、第2舵角決定部222は、ステップS31で決定した決定舵角ff2が操舵可能範囲外か否かを判定する(ステップS33)。
ステップS31で決定した決定舵角ff2が操舵可能範囲外となっていた場合(ステップS33:YES)、第2舵角決定部222は、所定の関数Fを用いて、限度値(上限値lim又は下限値−lim)から必要舵角fn2までの差分を求め、これを演算値b2とする(ステップS34)。
【0056】
ここで、所定の関数Fについて、
図10に示すフローチャートを用いて説明する。
関数Fは、まず、変数x(ステップS34においては、必要舵角fn2)がゼロ以上(x≧0)か否かを判定する(ステップS50)。
変数x(必要舵角fn2)がゼロ以上の場合(ステップS50:YES)、関数Fは、上限値limと変数x(必要舵角fn2)との差分y(y=lim−x>0)を出力する(ステップS51)。
一方、変数x(必要舵角fn2)がゼロ未満の場合(ステップS50:NO)、関数Fは、下限値−limと変数x(必要舵角fn2)との差分y(y=−lim−x<0)を出力する(ステップS52)。
このように、関数Fは、入力された変数x(必要舵角fn2)の符号を考慮して、当該変数xと、変数xに近い側の限度値(上限値lim、下限値−lim)と、の差分を出力する。
【0057】
一方、
図8のステップS33において、ステップS31で決定した決定舵角ff2が操舵可能範囲内となっていた場合(ステップS33:NO)、第2舵角決定部222は、上述のステップS34を実行しない。即ち、第2舵角決定部222は、演算値b2の値をゼロのままとする。
【0058】
次に、第2舵角決定部222は、ステップS31で決定した決定舵角ff3が操舵可能範囲外か否かを判定する(ステップS35)。
ステップS31で決定した決定舵角ff3が操舵可能範囲外となっていた場合(ステップS35:YES)、第2舵角決定部222は、関数F(
図10)を用いて、限度値(上限値lim又は下限値−lim)から必要舵角fn3までの差分を求め、これを演算値b3とする(ステップS36)。
【0059】
図9において、更に、第2舵角決定部222は、ステップS31〜ステップS36を経た演算値b2及び演算値b3の両方がゼロでない(b2≠0かつb3≠0)か否かを判定する(ステップS37)。
【0060】
演算値b2及び演算値b3の両方がゼロでなかった場合(ステップS37:YES)、これは、ステップS31で決定した決定舵角ff2、ff3の両方が操舵可能範囲外となっていることを意味している。
この場合、第2舵角決定部222は、演算値b2、b3のうち絶対値が小さい方を所定の演算値mに代入する。そして、第2舵角決定部222は、舵112の決定舵角ff2を、当該舵112の必要舵角fn2に演算値mを加算した値に決定し、かつ、舵113の決定舵角ff3を、当該舵113の必要舵角fn3から所定値mを減算した値に決定する(ステップS38)。
【0061】
そうすると、決定舵角ff2、ff3は、必要舵角fn2、fn3の各々に、当該必要舵角fn2、fn3のいずれか一方から限度値までの差分に相当する演算値mが加算(又は減算)されて得られる。したがって、当該決定舵角ff2、ff3のうちのいずれか一方は、限度値(上限値lim又は下限値−lim)に一致する。また、演算値mが演算値b2、b3のうち絶対値が小さい方の値とされているため、決定舵角ff2、ff3のうちの他方は、必ず操舵可能範囲内に収まる。
【0062】
一方、演算値b2及び演算値b3のいずれかがゼロである場合(ステップS37:NO)、第2舵角決定部222は、続いて、演算値b3のみがゼロである(b2≠0かつb3=0)か否かを判定する(ステップS39)。
【0063】
演算値b3のみがゼロであった場合(ステップS39:YES)、これは、ステップS31で決定した決定舵角ff2、ff3のうち決定舵角ff2のみが操舵可能範囲外となっていることを意味している。
この場合、第2舵角決定部222は、舵112の決定舵角ff2を、当該舵112の必要舵角fn2に演算値b2を加算した値に決定し、かつ、舵113の決定舵角ff3を、当該舵113の必要舵角fn3から所定値b2を減算した値に決定する(ステップS40)。
【0064】
そうすると、決定舵角ff2は、必要舵角fn2に、当該必要舵角fn2から限度値までの差分に相当する演算値b2が加算されて得られる。したがって、決定舵角ff2は、限度値(上限値lim又は下限値−lim)に一致する。
【0065】
また、演算値b3のみがゼロではない場合(ステップS39:NO)、第2舵角決定部222は、続いて、演算値b2のみがゼロである(b2=0かつb3≠0)か否かを判定する(ステップS41)。
【0066】
演算値b2のみがゼロであった場合(ステップS41:YES)、これは、ステップS31で決定した決定舵角ff2、ff3のうち決定舵角ff3のみが操舵可能範囲外となっていることを意味している。
この場合、第2舵角決定部222は、舵113の決定舵角ff3を、当該舵113の必要舵角fn3から演算値b3を減算した値に決定し、かつ、舵112の決定舵角ff2を、当該舵112の必要舵角fn2に所定値b3を加算した値に決定する(ステップS42)。
【0067】
そうすると、決定舵角ff3は、必要舵角fn3に、当該必要舵角fn3から限度値までの差分に相当する演算値b3が加算されて得られる。したがって、決定舵角ff3は、限度値(上限値lim又は下限値−lim)に一致する。
【0068】
また、演算値b2、b3の両方がゼロであった場合(ステップS41:NO)、これは、ステップS31で決定した決定舵角ff2、ff3の両方が操舵可能範囲内となっていることを意味している。したがって、この場合は、ステップS31で決定された決定舵角ff2、ff3をそのまま採用する。
【0069】
以上のステップS32〜ステップS42の処理によれば、第2舵角決定部222は、ステップS31で決定した決定舵角ff2、ff3の何れかが操舵可能範囲外となっていた場合に、未決定舵(舵112、113)の舵角f2、f3を、操舵可能範囲の限度値(上限値lim、下限値−lim)に決定する。このようにすることで、操舵可能範囲内において、可能な限り、ロール舵角dを目標ロール舵角dtまで近づけるように制御することができる。
また、第2舵角決定部222は、決定舵角ff2、ff3をともに操舵可能範囲内としながら、更に、必要舵角fn2に加算される値(m、b2又はb3)と必要舵角fn3から減算される値とが等しくなるように制御する。このようにすることで、未決定舵(舵112、113)の舵角f2、f3に対し、本来の必要舵角fn2、fn3が適用された場合に得られるピッチ舵角e及びヨー舵角rと同じピッチ舵角e及びヨー舵角rを得ることができる。
【0070】
図11は、第1の実施形態に係る舵制御装置の効果を説明する図である。
ここで、
図5(b)に示した事例において、上述の第1舵角決定部221及び第2舵角決定部222の処理がなされた場合を考える。
この場合、決定舵角ff1、ff4は、ともに操舵可能範囲外(ff1=35°>30°、ff4=45°>30°)となっている。したがって、第1舵角決定部221は、ステップS13(
図7)において、決定舵角ff1=30°、決定舵角ff4=30°と決定する。そして、この時点において、未決定舵(舵112、113)の決定舵角ff2、ff3(初期設定値であるfn2、fn3)は、ともに操舵可能範囲内となっているので(ステップS14:YES)、第2舵角決定部222が舵角決定処理を実行する(ステップS15)。
【0071】
第2舵角決定部222は、ステップS31(
図8)において、演算値aを算出し(a=10°)、更に、決定舵角ff2=10°、決定舵角ff3=−10°と決定する。この場合、決定舵角ff2、ff3はともに操舵可能範囲内であるから、ステップS31において決定された当該決定舵角ff2=10°、決定舵角ff3=−10°がそのまま採用される(ステップS32〜ステップS42)。
【0072】
その結果、
図11に示す通り、実際に得られる流力舵角は、ピッチ舵角e=15°、ヨー舵角r=15°、ロール舵角d=5°となる。したがって、舵制御装置2の制御により、
図5(c)に示す場合において得られるピッチ舵角e及びヨー舵角rと同じピッチ舵角e及びヨー舵角rが得られ、かつ、目標ロール舵角dtと同じロール舵角d(=5°)を得ることができる。
【0073】
以上、第1の実施形態に係る第2舵角決定部222によれば、未決定舵(舵112、113)の舵角f2、f3が、当該舵角f2、f3に必要舵角fn2、fn3が適用された場合に得られるピッチ舵角e及びヨー舵角rが得られ、かつ、当該舵角f2、f3に必要舵角fn2、fn3が適用された場合に得られるロール舵角dよりも目標ロール舵角dtに近いロール舵角dが得られる舵角に決定される。
したがって、第1の実施形態に係る舵制御装置2によれば、X型後舵11を構成する4つの舵111〜114のうち操舵可能範囲外となった舵が存在した場合であっても、より目標流力舵角に近い流力舵角を得ることができる。
【0074】
以上、第1の実施形態に係る舵制御装置2について詳細に説明したが、舵制御装置2の具体的な態様は、上述のものに限定されることはなく、要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を加えることは可能である。
例えば、第1の実施形態においては、舵制御装置2は、ピッチ舵角e、ヨー舵角r及びロール舵角dのうち、ロール舵角dについて優先的に目標流力舵角に近づけるような制御を行うものとして説明した。しかし、他の実施形態においてはこの態様に限定されず、ピッチ舵角e又はヨー舵角rを優先的に目標流力舵角に近づけるような制御を行ってもよい。
【0075】
また、上述の実施形態においては、舵制御装置2の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各手順を行うものとしている。ここで、上述した舵制御装置2の各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
また、舵制御装置2の各機能が、ネットワークで接続される複数の装置に渡って具備される態様であってもよい。
【0076】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものとする。