(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
比較的複雑な形状を有する機械部品などを製造する技術として粉末冶金法がある。この方法では、鉄系材料を含む種々の組成の粉末材料を所望の形状に加圧成形し、得られた成形体(圧粉体)を加熱して焼結させる。このような成形および焼結工程を経て焼結体が製造される。
【0003】
通常、前記各工程を経て得られる焼結体に対してさらに焼入れ処理などを施すことで当該焼結体の機械的強度や耐摩耗性などを向上させることが行われている。かかる焼入れ処理の手法として、誘導加熱により焼結体の所定部位を加熱する高周波加熱法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
高周波加熱では、銅などの非磁性良導体で作製されたパイプを曲げてコイル状にしたものが使用される。また、高周波加熱では、コイル自体の温度も上昇することから、当該コイル内に水やオイルなどの冷媒を流してコイルを冷却している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の高周波加熱用コイルでは、被加熱対象である焼結体などのワークが隅部(
図7のC参照)を有しており、この隅部に焼入れする必要がある場合、当該隅部を焼入れすることが難しいという問題があった。すなわち、隅部の最奥部まで確実に焼入れを行うためには、当該最奥部にできるだけコイルを接近させることが望ましいが、現状では、冷却が追い付かないため、直径4mm未満の細いコイルを採用することができず、その結果、前記隅部の最奥部にコイルを十分に接近させることができない。このため、隅部の最奥部を加熱することが難しい。
【0007】
これに対し、出力を大きくしたり加熱時間を長くすることで前記隅部の最奥部に十分な焼きを入れようとすると、当該最奥部以外の部分が溶解したり、または、焼入れ深さが過大になるという問題がある。また、加熱量が大きくなりすぎて大きな熱処理ひずみが生じるという問題もある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ワークの隅部を容易に加熱することができ、当該隅部に確実に焼きを入れることができる高周波加熱用コイルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る高周波加熱用コイルは、誘導加熱により対象物を加熱する高周波加熱装置における高周波加熱用コイルであって、
内部に冷媒流路を有する、非磁性良導体からなる金属管で作製された平面視円形状の外側コイルと、
この外側コイルの径内側に突出するように当該外側コイルの外周面に固定された断面矩形状の内側リングと
を備えており、
前記金属管の中心から前記内側リングの底面までの距離をaとし、前記金属管の中心から前記内側リングの径内側先端までの距離をbとすると、a≦bであ
り、
前記内側リングの径内側先端の高さをhとし、当該内側リングの径方向中央の高さをHとすると、h≦Hである。
【発明の効果】
【0010】
上記発明によれば、ワークの隅部を容易に加熱することができ、当該隅部に確実に焼きを入れることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔本発明の実施形態の説明〕
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
本発明の一態様に係る高周波加熱用コイルは、
(1)誘導加熱により対象物を加熱する高周波加熱装置における高周波加熱用コイルであって、
内部に冷媒流路を有する、非磁性良導体からなる金属管で作製された平面視円形状の外側コイルと、
この外側コイルの径内側に突出するように当該外側コイルの外周面に固定された断面矩形状の内側リングと
を備えており、
前記金属管の中心から前記内側リングの底面までの距離をaとし、前記金属管の中心から前記内側リングの径内側先端までの距離をbとすると、a≦bであ
り、
前記内側リングの径内側先端の高さをhとし、当該内側リングの径方向中央の高さをHとすると、h≦Hである。
【0013】
本態様に係る高周波加熱用コイルでは、断面矩形状の内側リングを外側コイルの径内側に突出するように当該外側コイルの外周面に固定しているので、内側リングの角部をワークの隅部に接近させることができ、且つ、一次電流を内側リングの先端に集中させることができる。また、金属管の中心から内側リングの底面までの距離をaとし、金属管の中心から内側リングの径内側先端までの距離をbとすると、a≦bであるので、一次電流を内側リングの先端に集中させることができる。このように、一次電流が集中する部分をワークの隅部に近づけることで、ワークの隅部を容易に加熱することができる。その結果、ワークの隅部に確実に焼きを入れることができる。
さらに、本態様に係る高周波加熱用コイルは、別々の部材である外側コイルおよび内側リングを、外側リングの外周面に内側リングを固定するだけで作製できるので、容易に作製することができ、しかもコンパクトである。
また、内側リングの径内側先端の高さをhとし、当該内側リングの径方向中央の高さをHとすると、h≦Hであるので、内側リングの先端部分にさらに一次電流を集中させることができ、ワークの隅部を効率よく加熱することができる。
【0015】
(
2)上記(1
)の高周波加熱用コイルにおいて、前記外側コイルの径内端と、前記内側リングの径内側先端との距離をcとし、金属管の外径をdとすると、c≦dであることが好ましい。この場合、過加熱による内側リングの劣化を防止することができる。
【0016】
(
3)上記(1)
又は(2)の高周波加熱用コイルにおいて、前記外側コイルは銅菅で作製されており、
前記内側リングは中実の銅リングで作製されており、
前記内側リングの径外側表面に、前記銅菅の外周面の一部に対応した曲面状の受け部が形成されており、当該銅菅が前記受け部にロウ付けされていることが好ましい。この場合、内側リングを中実の銅リングで作製することで、当該内側リングの断面を小さくすることができ、隅部の最奥部に、より接近させることができる。また、銅菅を内側リングの曲面状の受け部にロウ付けするだけでよいので、構造が簡単であり、容易に作製することができる。
【0017】
〔本発明の実施形態の詳細〕
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の高周波加熱用コイルの実施形態を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
図1は、本発明の一態様に係る高周波加熱用コイル1の説明図であり、
図2は、
図1のA−A線断面図である。
本態様に係る高周波加熱用コイル(以下、単に「コイル」ともいう)1は、隅部を有する焼結体の当該隅部を含む外周面を誘導加熱により加熱するのに用いられる。コイル1は、平面視円形状の外側コイル2と、断面矩形状の内側リング3とを備えている。
【0019】
外側コイル2は、非磁性良導体である銅菅で作製されており、平面視で円形状を呈している。本明細書において「非磁性良導体」とは、実質的に磁性を有しておらず、且つ、良好な導電性を有する物質のことであり、銅以外に、例えば 銀などを例示することができる。これらの物質のうち、価格の点より、銅を用いることが好ましい。
【0020】
外側コイル2の内部は、加熱処理時に当該外側コイル2を冷却するための冷媒である水が流通する冷媒流路2aとされている。外側コイル2の両端2bに、水を流す冷却機構(図示せず)の配管が接続される。外側コイル2の外径は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、4mm〜10mm程度である。外側コイル2の肉厚は、当該外側コイル2の外径により異なり、本発明において特に限定されるものではないが、通常、0.5mm〜1.5mm程度である。
【0021】
内側リング3は、外側コイル2と同じく非磁性良導体である銅で作製されているが、当該外側コイル2と異なり、中実である。内側リング3は、
図3の(a)に示されるように、前記外側コイル2と同じく平面視で円形状を呈している。
【0022】
内側リング3は、外側コイル2の径内側、すなわち径方向内側(
図2において左側)に突出するように当該外側コイル2の外周面2cにロウ付けにより固定されている。より詳細には、内側リング3の径外側(径方向外側)の表面3a(
図2において上側の面)には、外側コイル2を構成する銅菅の外周面の一部に対応した曲面状の受け部4が形成されている。この受け部4に銅菅の外周面がロウ付けにより固定される。本態様に係るコイル1は、銅菅を内側リング3の曲面状の受け部4にロウ付けするだけでよいので、構造が簡単であり、容易に作製することができる。また、本態様では、内側リング3が中実であるので、中空の場合よりも強度が大きい。このため、断面の小さい内側リングとすることができ、高周波加熱用コイル1のコンパクト化を図ることができる。
【0023】
内側リング3の表面3aの径内側縁部は面取りされて傾斜面5とされている。換言すれば、内側リング3の径内側端部は先細となるように面取り加工が施されている。これにより、本態様では、内側リング3の径内側先端の高さをhとし、当該内側リング3の径方向中央の高さをHとすると、h<Hである。その結果、本態様では、内側リング3の先端部tに一次電流を集中させることができ、ワークの隅部を効率よく加熱することができる。なお、hおよびHの大きさは、ワークのサイズ、より詳細にはワークの被加熱面の大きさに応じて選択すればよく、本発明においてとくに限定されるものではないが、概ね0.5mm≦h≦3.0mmであり、1.0mm≦H≦5.0mmである。
【0024】
本態様では、銅管の中心から前記内側リング3の底面(
図2において下側の面)3bまでの距離をaとし、銅管の中心から前記内側リング3の径内側先端までの距離をbとすると、a<bである。これにより、一次電流を内側リング3の先端部tに集中させることができる。また、内側リング3の断面形状は矩形状であるので、当該内側リング3の先端部tをワークの隅部の奥まで近づけることができる。こうして、一次電流が集中する部分(先端部t)をワークの隅部に近づけることで、当該ワークの隅部を容易に加熱することができる。その結果、ワークの隅部に確実に焼きを入れることができる。なお、aおよびbの大きさは、ワークのサイズ、より詳細にはワークの被加熱面の大きさに応じて選定すればよく、本発明において特に限定されないが、概ね2.0mm≦a≦5.0mmであり、2.0mm≦b≦10.0mmである。
【0025】
また、本態様では、前記外側コイル2の径内端と、前記内側リング3の径内側先端との距離をcとし、銅管の外径をdとすると、c<dである。内側リング3の径内側への突出長さを銅菅の直径よりも小さくすることで、過加熱による内側リング3の劣化を防止することができる。また、内側リング3の先端に一次電流を集中させつつも、過加熱による内側リング3の劣化を防止するという観点より、内側リング3の突出長さである前記cは、通常、1.0mm〜10.0mmの範囲内で選定される。
【0026】
以上の各寸法a、b、c、d、hおよびHの相互関係について、種々検討を重ねた結果、以下の表1に示されることがわかった。表1において、評価A、B、Cは、それぞれ「良」、「可」、「不可」に対応している。
【0028】
表1より、a≦bであると、ワークの隅部に焼きを入れることができ、a>bであると、ワークの隅部に焼きを入れることができないことがわかる。また、a≦bであると、ワークの加熱範囲は、必要最小限の範囲、または必要最小限の範囲よりは広がるが適正な範囲であるが、a>bであると、適正な範囲を越えて加熱されることがわかる。
また、h≦Hであると、必要最小限の加熱処理を行い、隅部に十分な焼きを入れることができるが、h>Hとすると、加熱範囲が広がるものの隅部の焼きが十分ではなくなることがわかる。
【0029】
また、c≦dとすると、内側リングが過加熱により劣化することはないが、c>dとすると、内側リングに過加熱による劣化がわずかに認められた。なお、a>bの場合は、c≦dであっても、内側リングに過加熱による劣化がわずかに認められた。
【0030】
〔実験例〕
つぎに本態様に係るコイルを用いた実験例について説明するが、本発明はもとよりかかる実験例にのみ限定されるものではない。
【0031】
図4に示されるように、外周面に隅部Cを有するワークWを高周波焼入れした。外側コイルとして外径4mmの銅菅を使用し、この銅菅の径内側に突出するように、
図5に示される断面形状の内側リングをロウ付けした高周波加熱用コイルを用いて前記隅部Cを含むワークWの外周面を加熱処理した。ワークWの外周面と、内側リングの径内側先端との間のクリアランスは当該ワークWの全周にわたり0.75mmとした。また、内側リングの底面と、ワークWの肩部Sの上面との間のクリアランスは当該ワークWの全周にわたり0.3mmとした。加熱条件は以下のとおりであった。
<加熱条件>
周波数 : 135kHz
加熱電力: 36.8kW
加熱時間: 3.0sec.
【0032】
図6は、本実験例に係るワークWの断面写真である。
図6の写真からわかるように、本実験例では、ワークWの外周面および肩部Sの上面だけでなく、隅部Cにも焼きが入っている。隅部の焼入れ深さdは1.0mmであった。この値は、焼入れ深さ規格の0.5〜3.0mmの範囲内であった。
【0033】
〔比較実験例〕
つぎに比較のために、従来の高周波加熱用コイルを用いて加熱実験を行った。
図7は、従来の高周波加熱用コイルを用いた実験例の断面説明図である。加熱したワークWの仕様は、
図4に示されるものと同じであった。比較実験では、外径4mmmの銅菅からなる高周波加熱用コイルを用いて隅部Cを含むワークWの外周面を加熱処理した。ワークWの外周面と、銅菅の径内側先端との間のクリアランスは当該ワークWの全周にわたり0.75mmとした。また、銅菅の底部と、ワークWの肩部Sの上面との間のクリアランスは当該ワークWの全周にわたり0.3mmとした。加熱条件は以下のとおりであった。
<加熱条件>
周波数 : 135kHz
加熱電力: 40kW
加熱時間: 3.3sec.
【0034】
図8は、本比較実験例に係るワークWの断面写真である。
図8の写真からわかるように、本比較実験例では、ワークWの外周面および肩部Sの上面には焼きが入っているが、隅部Cには焼きが入っていない。隅部の焼入れ深さは0mmであった。この値は、焼入れ深さ規格の0.5〜3.0mmの範囲外であった。
【0035】
〔その他の変形例〕
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施形態では、銅管の中心から内側リングの底面までの距離をaとし、銅管の中心から内側リングの径内側先端までの距離をbとしたときにa<bとしているが、a=bとすることもできる。a=bの場合でも、ある程度一次電流を内側リングの先端部に集中させることができるが、a<bとしたほうが、より集中させることができる。
【0036】
また、前述した実施形態では、内側リングの径内側端部が先細となるように面取り加工を施しており、当該内側リングの径内側先端の高さをhとし、内側リング3の径方向中央の高さをHとしたときにh<Hとしているが、かかる面取り加工を施さず、h=Hとしてもよい。h=Hの場合でも、ある程度一次電流を内側リングの先端部に集中させることができるが、h<Hとしたほうが、より集中させることができる。
【0037】
また、前述した実施形態では、外側コイルの径内端と、内側リングの径内側先端との距離をcとし、銅管の外径をdとしたときにc<dとしているが、c=dとすることもできる。c=dの場合でも、過加熱による内側リングの劣化を防止することができるが、c<dとしたほうが、より効果的に内側リングの劣化を防止することができる。
【0038】
また、前述した実施形態では、加熱対象として焼結体を用いているが、本発明の高周波加熱用コイルは、かかる焼結体以外にも鋼(はがね)など焼きが入るものすべてに適用が可能である。