【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)発行年月日:平成26年5月1日 刊行物:日本実験動物科学技術さっぽろ2014講演要旨集 第257頁に掲載
【文献】
Journal of Animal Breeding and Genetics,2007,Vol.124, pp.331-341
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記雌種豚を得る工程において用いられた、前記雌系雄原種豚及び/又は雌系雌原種豚は、前記豚集団から選抜された個体の体細胞を用いて作出されたクローン豚であることを特徴とする請求項1に記載の豚の作出方法。
前記雌系雌原種豚には、出産1回あたりの平均産子数が前記豚集団の平均値よりも多い多産系の雌豚が選抜されることを特徴とする請求項1又は2に記載の豚の作出方法。
前記雄種豚と前記雌種豚とを交配して得られた産子の近交係数が15%未満となるように、前記雌系雄原種豚、前記雌系雌原種豚、前記雄系雄原種豚及び前記雄系雌原種豚を選抜することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の豚の作出方法。
前記雄種豚候補の雄産子を得る工程において用いられた、前記雄系雄原種豚及び/又は雄系雌原種豚は、前記豚集団から選抜された個体の体細胞を用いて作出されたクローン豚であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の豚の作出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した選抜交配による作出方法では、所望の形質が固定化されるまでに何世代も交配を重ねなければならず、所望の形質を有する系統が完成するまで長期間を必要とするという問題があった。また、交配のたびに所望の形質を有する個体のみを選抜しなくてはならず、特に、形質が外形上に現れない形質を望む場合には各個体の遺伝子検査が必要となるため、選抜作業には多大な労力がかかっていた。また、選抜されなかった個体が多数発生するため、これら個体の処分が倫理的にも問題となっていた。さらに、所望の形質を有する動物集団が完成した場合においても、集団の維持のためには集団内で交配を行わねばならないため、産子の近交係数が上がり、近交退化が生じてしまう可能性があった。
【0007】
また、体細胞クローン技術による作出方法では、クローン作成操作が繊細かつ煩雑なため成功確率が低く、例えば、豚の体細胞由来のクローン作成の成功率は1〜5%程度とされている。そのため、多数の実験動物を作出する手段としては非効率であるという問題があった。
【0008】
本発明は上述した点に鑑み案出されたもので、その目的は、所望の形質を有する豚を短期間で効率的に作出することができ、選抜交配における選抜工程の回数を減じた簡易な作出方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、所望の形質を有する多数の超小型ブタを短期間で効率よく簡易に作出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の所望の形質を有する豚の作出方法は、所望の形質を決定する工程と、任意の豚集団における、決定された所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型を解析する工程と、遺伝子型の解析結果を用いて、豚集団から、(a)所望の形質が優性形質の場合には、所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型は任意であり、(b)所望の形質がハプロタイプホモ接合型の場合には、所望の形質に関連する遺伝子座のハプロタイプがホモ接合型であり、(c)所望の形質が劣性形質の場合には、所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型が劣性ホモ接合型である、雄豚及び雌豚を雌系雄原種豚及び雌系雌原種豚としてそれぞれ選抜する工程と、選抜した雌系雄原種豚と雌系雌原種豚とを交配して雌種豚を得る工程と、遺伝子型の解析結果を用いて、豚集団から、(d)所望の形質が優性形質の場合には、所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型が優性ホモ接合型又はヘテロ接合型であり、(e)所望の形質がハプロタイプホモ接合型の場合には、所望の形質に関連する遺伝子座のハプロタイプがホモ接合型又はヘテロ接合型であり、(f)所望の形質が劣性形質の場合には、所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型が劣性ホモ接合型又はヘテロ接合型である、雄豚及び雌豚を雄系雄原種豚及び雄系雌原種豚としてそれぞれ選抜する工程と、選抜した雄系雄原種豚と雄系雌原種豚とを交配して雄種豚候補の雄産子を得る工程と、雄種豚候補の雄産子について、所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型の解析を行い、雄種豚候補の雄産子から、(A)所望の形質が優性形質の場合には、所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型が優性ホモ接合型であり、(B)所望の形質がハプロタイプホモ接合型の場合には、所望の形質に関連する遺伝子座のハプロタイプがホモ接合型であり、(C)所望の形質が劣性形質の場合には、所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型が劣性ホモ接合型である、個体を雄種豚として選抜する工程と、雄種豚と雌種豚とを交配して産子を得る工程と、を有する。
【0011】
本発明では、任意の豚集団における、所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型を解析し、その豚集団から、所望の形質に関して所定の遺伝子型を有する個体を雄系原種豚及び雌系原種豚として選抜する。この際、雌系原種豚については、所望の形質が優性形質の場合にはどのような遺伝子型を有していてもよいが、所望の形質が特定の遺伝子のホモ接合型である場合には、ホモ接合型を有する個体を選抜する。他方、雄系原種豚については、所望の形質が優性形質であっても、特定の遺伝子のホモ接合型であっても、所望の形質に関連する遺伝子がホモ接合型又はヘテロ接合型となっている個体を選抜する。また、雄系原種豚の交配により得られた雄産子については、所望の形質が優性形質であっても、特定の遺伝子のホモ接合型であっても、所望の形質に関連する遺伝子がホモ接合型の個体を雄種豚として選抜する。このように雄系原種豚、雌系原種豚及び雄種豚を選抜することにより、雌系原種豚の交配により得られた雌産子すべてを雌種豚として用いることができ、さらに種豚同士の交配により得られた産子全てが所望の形質を有する個体として得られる。
【0012】
また、本発明の豚の作出方法においては、雌種豚を得る工程において用いられた、雌系雄原種豚及び/又は雌系雌原種豚は、豚集団から選抜された個体の体細胞を用いて作出されたクローン豚であることも好ましい。これにより、選抜した雌系原種豚と同じ遺伝子型を有する個体を多頭数得ることができる。また、選抜した雌系原種豚の個体が生存していなかったり、交配や出産が困難な場合においても、同じ遺伝子型を有する個体を得ることができるため、安定的に所望の形質を有する豚を作出することが可能となる。特に、本発明では、雌系原種豚から作出される雌種豚は遺伝子解析や選抜の必要がなく、雌系原種豚の雌産子すべてを雌種豚として用いることができるため、雌系原種豚をクローン豚として得ることにより、安定的に多頭数の雌種豚を作出することができ、それゆえ、目的とする雌種豚の産子も多頭数得ることができる。
【0013】
また、本発明における雌系雌原種豚の選抜にあたっては、雌系雌原種豚には、出産1回あたりの平均産子数が豚集団の平均値よりも多い多産系の雌豚が選抜されることも好ましい。雌系雌原種豚として多産系の豚を選抜することにより、この雌系雌原種豚の子である雌種豚にも多産系の形質が引き継がれ得る。それゆえ、雌種豚の出産1回あたりの産子数が多くなり、所望の形質を有する豚を1回の出産で多数頭得ることができる。
【0014】
さらに、本発明の豚の作出方法においては、雄種豚と雌種豚とを交配して得られた産子の近交係数が15%未満となるように、雌系雄原種豚、雌系雌原種豚、雄系雄原種豚及び雄系雌原種豚を選抜することも好ましい。これにより、雌種豚と雄種豚との交配により得られる豚の近交係数が一定値未満に維持されるため、近交退化が生じることがなく、健康で発育状態も良い豚が得られる。
【0015】
また、本発明の豚の作出方法においては、雄種豚候補の雄産子を得る工程において用いられた、雄系雄原種豚及び/又は雄系雌原種豚は、豚集団から選抜された個体の体細胞を用いて作出されたクローン豚であることも好ましい。これにより、選抜した雄系原種豚の個体が存在していなかったり、交配が困難である場合においても、同じ遺伝子型を有する個体を得ることができる。また、選抜した雄系原種豚を複数頭得ることができ、安定的に所望の形質を有する豚を作出することが可能となる。
【0016】
さらに、本発明の豚の作出方法において、所望の形質には、白色毛及びSLAハプロタイプホモ接合型の2種類の形質が含まれることも好ましい。これにより、医学研究用の実験豚として好適な形質を有する豚が効率的に作出される。
【0017】
さらに、本発明の豚の作出方法においては、豚集団が超小型ブタの集団であることも好ましい。これにより、所望の形質を有する体格の小さな豚が作出されるため、医学研究用の実験豚としてさらに好適な豚が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する、所望の形質を有する豚の作出方法を提供することができる。
(1)原種豚(第1世代)を交配させて作出された種豚(第2世代)の産子(第3世代)が所望の形質を有する豚として得られるため、3世代という短期間で所望の形質を備えた豚を多数得ることができる。
(2)種豚の選抜にあたっては、雄系原種豚の交配によって得られた雄産子のうち少なくとも1頭を雄種豚として選抜するのみでよく、雌系原種豚の交配によって得られた雌産子はすべて雌種豚として用いることができるため、選抜作業の手間が大幅に軽減される。
(3)雄種豚と雌種豚との交配により得られた産子は、全て所望の形質を有するため、遺伝子解析等の選抜作業は必要なく、選抜から漏れた個体の処分の必要も不要となる。
(4)豚集団中に選抜した個体が生存していなかったり、選抜した個体の交配や出産が困難である場合においても、選抜した個体の体細胞からクローン技術により、選抜した個体と同じ遺伝子型を有するクローン豚を得ることができるため、選抜した原種豚を複数頭得ることができ、安定的に所望の形質を有する豚を作出することが可能となる。また、原種豚をクローン技術により作出することで、所望の形質を有する豚(コマーシャル豚)を需要者のニーズに応じていつでも作出することができ、また、永続的に作出することもできる。
(5)雌系各原種豚及び雄系各原種豚を選抜する際に最終的に得られる目的とする豚の近交係数が15%未満となるような個体を選抜することにより、雌種豚と雄種豚との交配により得られる豚の近交係数が一定値未満に維持され、近交退化が生じることがなく、健康で発育状態も良い豚が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、本発明の実施形態にかかる所望の形質を有する豚の作出方法は、所望の形質を決定する工程S0、任意の豚集団における、所望の形質に関連する遺伝子の解析を行う工程S1、豚集団から雌系原種豚を選抜する工程S2a、豚集団から雄系原種豚を選抜する工程S2b、選抜された雌系原種豚を交配させて雌種豚を作出する工程S3a、選抜された雄系原種豚を交配させて雄産子を作出する工程S3b、この雄産子から雄種豚を選抜する工程S4、及び、作出された雌種豚と雄種豚とを交配させて目的の豚(コマーシャル豚)を作出する工程S5とから概略構成される。
【0021】
(所望の形質の決定)
まず、所望の形質を決定する工程S0について説明する。所望の形質とは、本発明により作出される目的の豚(コマーシャル豚)が有する形質である。本発明において、形質には、種々の表現型及び遺伝子型が含まれる。それゆえ、外観に現れない形質も本発明の形質に含まれる。所望の形質としては、特に限定されないが、医療用実験動物として用いられる実験用豚の場合には、毛色が白色であること、ブタ白血球抗原(Swine Leukocyte Antigen、以下SLAという。)のハプロタイプがホモ接合型であること、体格が小型であること、病因遺伝子を有した病態モデルであること、及び特定の遺伝子を有していない(遺伝子ノックアウト)こと等が挙げられる。所望の形質は、少なくとも1つ決定され、必要に応じて複数決定されてもよい。なお、既に任意の豚集団における所望の形質に関連する遺伝子の解析が完了しており、豚集団を構成する各個体のライブラリーが作成されていたような場合には、解析済みの遺伝子解析工程S1の次に所望の形質の決定工程S0が行われてもよい。
【0022】
(任意の豚集団における、所望の形質に関連する遺伝子の解析)
次に、任意の豚集団における、所望の形質に関連する遺伝子の解析を行う工程S1について説明する。ここでは、任意の豚集団の各個体の遺伝子解析が行われる。遺伝子解析は、前述した工程S1により決定された所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型について行われる。各個体における遺伝子型の解析は公知の手法により行うことができる。具体的には、例えば、所望の形質として、SLAのハプロタイプがホモ接合型であること、が選択された場合には、豚集団の各個体のSLA型の解析が行われる。豚のSLA型の解析は、例えば、豚の組織からDNAを抽出し、DNAのフラグメント解析を行って複数の遺伝子から構成されるSLA型を解析することにより行われる(例えば、Tanaka et al、Immunogenetics、第57巻、2005年、p.690−696)。この方法では、各豚の個体から抽出したDNAについて、SLA領域全体をカバーするマイクロサテライトマーカーを複数用いてPCRを行い、PCR産物の断片長を調べることにより、各個体のハプロタイプの種類と遺伝子型とが解析される。
【0023】
また、所望の形質として、毛色が白色であること、が選択された場合には、豚集団の各個体について、毛色関連遺伝子であるKIT遺伝子の遺伝子型の解析が行われる。豚の組織からDNAを抽出し、KIT遺伝子の遺伝子型を解析する方法はすでに確立されている(塩谷聡子、外5名、「ミニブタの毛色コントロール」、静岡県畜産技術研究所中小家畜研究センター研究報告、第3号、2010年、p.9−16)。このKIT遺伝子はブタ8番染色体短腕に位置し、白色毛の個体では重複していることが知られている。さらに、この重複した遺伝子の片方の遺伝子では、エクソン17とイントロン17の境界に変異が生じ、イントロン17の最初の塩基がGからAに変化することにより、その転写産物はエクソン17を欠くことが知られている。具体的な遺伝子型の解析方法としては、各豚の個体から抽出したDNAについて、KIT遺伝子のイントロン17の最初の塩基を含む領域のPCR産物を得たのち、イントロン17の最初の塩基を調べることが挙げられる。超小型ブタの毛色と、KIT遺伝子の遺伝子型及びKIT遺伝子のイントロン17の最初の塩基との関係を
図2に示す。
図2に示すように、このI遺伝子座は、豚の毛色の優性白色に関与し、白色毛の個体は優性対立遺伝子Iのホモ接合型(I/I)又はヘテロ接合型(I/i)である。他方、劣性対立遺伝子iのホモ接合型(i/i)の個体の毛色は超小型ブタでは灰黒色であり、他種豚においても白色以外の有色毛を呈する。なお、本明細書において、遺伝子解析には、各個体の外観や形態から遺伝子型を判別することも含まれる。例えば、劣性形質が個体の外観に現れている場合には、遺伝子型は劣性対立遺伝子のホモ接合型となる。
【0024】
上述のようにして、任意の豚集団における、所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型の解析が行われるが、解析される遺伝子は上述したものに限定されない。また、上述の遺伝子解析により得られたデータと、その個体の生年月日、性別、産歴、出産1回あたりの産子数及び血縁等のデータ等並びにその個体の体細胞からなる個体毎のライブラリーを作成し、豚集団全体についてライブラリーを作成することが好ましい。これにより、次工程S2a、S2bにおける、豚集団からの原種豚の選抜を容易に行うことができる。また、各個体の体細胞を保存しておくことにより、生存していない個体からクローン豚を作成して原種豚に適用することができるため、生存していない豚も原種豚選抜の対象となる豚集団に含めることができる。
【0025】
任意の豚集団は、複数の種からなる集団でも、特定の種からなる集団であってもよいが、体重が20kg未満の小型ブタからなる集団が好ましく、特に、特許文献1等に開示される体重が10kg以下の超小型ブタからなる集団が好ましい。これにより、体格が小さいという形質が目的の豚(コマーシャル豚)にも備えられるため、実験動物として好適な体格が小型の豚を得ることができる。
【0026】
(豚集団からの雌系原種豚の選抜)
次に、豚集団から雌系原種豚を選抜する工程S2aについて説明する。本工程においては、任意の豚集団から雌系原種豚である雌系雌原種豚及び雌系雄原種豚の選抜が行われる。本工程における選抜では、解析工程S1の結果により、(a)所望の形質が優性形質の場合には、該所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型は任意であり、(b)所望の形質がハプロタイプホモ接合型の場合には、該所望の形質に関連する遺伝子座のハプロタイプがホモ接合型であり、(c)所望の形質が劣性形質の場合には、該所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型が劣性ホモ接合型である個体が雌系原種豚として豚集団から選ばれる。
【0027】
上述した選抜のうち、(a)所望の形質が優性形質の場合の選抜について、
図3を用いて具体的に説明する。例えば、所望の形質として「毛色が白色であること」を選択した場合、前述したように、白色の毛色はKIT遺伝子の優性対立遺伝子Iによるものであり、優性形質である。そのため、
図3に示すように、雌系原種豚である雌系雌原種豚及び雌系雄原種豚として選抜される個体のKIT遺伝子の遺伝子型は任意であり、優性ホモ接合型(I/I)、ヘテロ接合型(I/i)及び劣性ホモ接合型(i/i)のいずれでもよい。
【0028】
また、(b)所望の形質がハプロタイプホモ接合型の場合について、
図4を用いて具体的に説明する。例えば、所望の形質として「SLAのハプロタイプがホモ接合型であること」を選択した場合には、雌系原種豚である雌系雌原種豚及び雌系雄原種豚として、SLA型の遺伝子座にある対立遺伝子のハプロタイプのセットがホモ接合型の個体が選抜される。本発明者らは以下実施例で述べるように、SLAのハプロタイプがA型〜I型まで9種類あることを見出している。
図4においては、SLAのハプロタイプとして、A型のホモ接合体(AA)の例を示しているが、所望の形質はA型のホモ接合体に限られず、他型のホモ接合体であってもよい。なお、ハプロタイプとは、各遺伝子座にある対立遺伝子のいずれか一方の組合せをいい、基本的には親から子へ、一方のハプロタイプが引き継がれる。よって、遺伝子型がヘテロ接合型ならばどちらのハプロタイプが親から子へ引継がれるのか不明であるが、ホモ接合型ならば同じハプロタイプが親から子へ引継がれる。
【0029】
さらに、(c)所望の形質が劣性形質の場合の選抜について具体的に説明する。例えば、所望の形質として「毛色が白色以外の有色であること」を選択した場合には、前述したように、白色以外の有色の毛色はKIT遺伝子が劣性対立遺伝子iの場合であることから劣性形質である。そのため、雌系原種豚である雌系雌原種豚及び雌系雄原種豚として、KIT遺伝子の劣性対立遺伝子iがホモ接合型(i/i)の個体が選抜される。
【0030】
上述の(a)〜(c)にかかる選抜は、工程S1における豚集団の遺伝子解析結果を用いて行われる。すなわち、豚集団を構成する各個体の所望の形質に関連する遺伝子型を参照し、(a)〜(c)に該当するものが雌系雌原種豚又は雌系雄原種豚に選抜される。このとき、所望の形質が複数ある場合には、所望の形質に関連する遺伝子型の各々について、上述した(a)〜(c)にかかる選抜が行われ、全てに該当する個体が雌系原種豚として選抜される。たとえば、所望の形質として、「SLAのハプロタイプがホモ接合型であること」及び「毛色が白色であること」を選択した場合には、SLAのハプロタイプのセットがホモ接合型(例:AA型)であり、かつ、KIT遺伝子の遺伝子型が優性ホモ接合型(I/I)、ヘテロ接合型(I/i)又は劣性ホモ接合型(i/i)の個体が選抜される。
【0031】
さらに、この選抜にあたっては、豚集団における雌豚の出産1回あたりの平均産子数の平均値よりも、出産1回あたりの平均産子数が多い多産系の個体が、雌系雌原種豚として、選抜されることが好ましい。これにより、雌系雌原種豚の雌産子である雌種豚にも多産系の形質が引き継がれ得るため、雌種豚の出産1回あたりの産子数が多くなり、所望の形質を有する目的の豚(コマーシャル豚)を1回の出産で多数頭得ることができる。さらに、雌系雌原種豚及び雌系雄原種豚として、2世代後に得られるコマーシャル豚の近交係数が15%未満となるような個体が選抜されることが好ましい。これにより、雌系雌原種豚及び雌系雄原種豚との交配により作出される雌種豚と、後述する雄種豚との交配により作出される目的の豚の近交係数が一定値未満に維持されるため、近交退化が生じることがなく、健康で発育状態も良い豚を得ることができる。近交係数の算出は一例として、近交係数測定ソフトウエア(CoeFR ver3.7(Satoh, M.,Jpn.J.Swine Science、2000年、第37巻、第3号、p.122−126))等を用いてシュミレーションすることにより行われる。雌系原種豚の選抜は、少なくとも雄雌1頭ずつ選抜されればよいが、複数頭選抜されてもよい。
【0032】
(雌系原種豚の交配による雌種豚の作出)
次に、雌系原種豚の雌雄を交配させて雌種豚を作出する工程S3aについて説明する。本工程においては、前の雌系原種豚の選抜工程S2aで選抜された雌系雌原種豚と雌系雄原種豚とを交配させて雌種豚を作出する。交配方法としては、自然交配や人工授精等が挙げられる。得られた雌産子は遺伝子解析や選抜作業を行うことなく、雌産子すべてを雌種豚として用いることができる。このとき、交配に用いる雌系雌原種豚及び/又は雌系雄原種豚は、豚集団から選抜された個体の体細胞を用いて作出された複数頭のクローン豚とすることが好ましい。これにより、選抜した雌系原種豚と同じ遺伝子型を有する豚が多頭数得られるため、選抜した雌系原種豚の個体が生存していなかったり、交配や出産が困難な場合においても、同じ遺伝子型を有する個体が得られ、安定的に所望の形質を有するコマーシャル豚を作出することが可能となる。
【0033】
体細胞クローン技術により、豚の体細胞からクローンを作出する手法は既に確立されており(河原崎達雄、外16名、J Biomed Opt、2009年、第14巻、第5号、054017)、前述した豚集団のライブラリーに体細胞が保存されていれば、常法によりクローン豚を作出することができる。クローン豚の作出方法としては、一例として、以下のような方法が挙げられる。と畜場で未成熟ブタの卵巣を採取し、直径3〜5mmの卵胞を小型のメスで破砕して未成熟卵子を採取し、卵丘細胞が数層付着した卵子卵丘細胞複合体(COCs)を成熟培養する。成熟培養は、基礎培養液に10IU/mL eCG、10IU/mL hCG、1mM dbcAMPを添加して培養液とし、COCsを入れて20時間培養し、その後eCG、hCG及びdbcAMPを含まない培養液に移す。培養開始38時間前後に、ヒアルロニダーゼ処理後ピペッティングにより機械的に卵丘細胞を除去し、極体放出の有無を確認して第一極体が確認できたものに体細胞核を移植する。核移植1〜2時間後に150kv/cm、99μ秒直流電圧を印加して活性化する。その後の培養はPZMで行う。活性化処理の2〜5日後の核移植胚を、採卵ブタより発情発現を0〜2日遅く調整したレシピエントブタの卵管あるいは子宮へ、開腹手術により移植する。これにより、選抜した個体と同じ遺伝子型を有するクローン豚が得られる。特に、本発明においては、雌系原種豚から作出される雌種豚は遺伝子解析や選抜の必要がなく、雌系原種豚の雌産子すべてを雌種豚として用いることができるため、雌系原種豚をクローン豚として得ることにより、安定的に多頭数の雌種豚を作出することができ、それによって目的とする雌種豚の産子も多頭数得ることができる。
【0034】
(豚集団からの雄系原種豚の選抜)
次に、豚集団から雄系原種豚を選抜する工程S2bについて説明する。本工程においては、任意の豚集団から雄系原種豚である雄系雌原種豚及び雄系雄原種豚の選抜が行われる。本工程における選抜では、解析工程S1の結果により、(d)所望の形質が優性形質の場合には、該所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型が優性ホモ接合型又はヘテロ接合型であり、(e)所望の形質がハプロタイプホモ接合型の場合には、該所望の形質に関連する遺伝子座のハプロタイプがホモ接合型又はヘテロ接合型であり、(f)所望の形質が劣性形質の場合には、該所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型が劣性ホモ接合型又はヘテロ接合型である個体が雄系原種豚として豚集団から選ばれる。
【0035】
上述した選抜のうち、(d)所望の形質が優性形質の場合の選抜について、
図3を用いて具体的に説明する。例えば、所望の形質として「毛色が白色であること」を選択した場合には、前述したように、白色の毛色はKIT遺伝子の優性対立遺伝子Iによるものであり、優性形質である。そのため、
図3に示すように、雄系原種豚である雄系雌原種豚及び雄系雄原種豚には、KIT遺伝子の遺伝子型が優性ホモ接合型(I/I)又はヘテロ接合型(I/i)の個体が選抜される。
【0036】
また、(e)所望の形質がハプロタイプホモ接合型の場合について、
図4を用いて具体的に説明する。例えば、所望の形質として「SLAのハプロタイプがホモ接合型であること」を選択した場合には、雄系原種豚である雄系雌原種豚及び雄系雄原種豚として、SLA型の遺伝子座にある対立遺伝子のハプロタイプのセットがホモ接合型又はヘテロ接合型の個体が選抜される。
図4では、所望の形質が、SLAのハプロタイプA型のホモ接合体(AA)の例を示しており、この場合には、ハプロタイプA型のホモ接合体(AA)か、ハプロタイプA型を有するヘテロ接合体(A○、○は任意の意味)の個体が選抜される。なお、工程S0で決定された所望の形質が他型のホモ接合体の場合には、他型のハプロタイプのホモ接合体か、該型のハプロタイプを有するヘテロ接合体を有する個体が選抜される。
【0037】
さらに、(f)所望の形質が劣性形質の場合の選抜について具体的に説明する。例えば、所望の形質として「毛色が白色以外の有色であること」を選択した場合には、前述したように、白色以外の有色の毛色はKIT遺伝子が劣性対立遺伝子iの場合であることから劣性形質である。そのため、雄系原種豚である雄系雌原種豚及び雄系雄原種豚には、KIT遺伝子の劣性対立遺伝子iがホモ接合型(i/i)又はヘテロ接合型(I/i)の個体が選抜される。
【0038】
上述の(d)〜(f)にかかる選抜は、工程S1における豚集団の遺伝子解析結果を用いて行われる。すなわち、豚集団を構成する各個体の所望の形質に関連する遺伝子型を参照し、(d)〜(f)に該当するものが雄系雌原種豚又は雄系雄原種豚に選抜される。このとき、所望の形質が複数ある場合には、所望の形質に関連する遺伝子型の各々について、上述した(d)〜(f)にかかる選抜が行われ、全てに該当する個体が雄系原種豚として選抜される。たとえば、所望の形質として、「SLAのハプロタイプがホモ接合型であること」及び「毛色が白色であること」を選択した場合には、SLAのハプロタイプのセットがホモ接合型(例:AA型)又はヘテロ接合型(例:A○型)であり、かつ、KIT遺伝子の遺伝子型が優性ホモ接合型(I/I)又はヘテロ接合型(I/i)の個体が選抜される。
【0039】
さらに、この選抜にあたっては、雄系雌原種豚及び雄系雄原種豚として、2世代後に得られるコマーシャル豚の近交係数が15%未満となるような個体が選抜されることが好ましい。これにより、雄系雌原種豚及び雄系雄原種豚との交配により作出される雄種豚と、前述した雌種豚との交配により作出される目的の豚の近交係数が一定値未満に維持されるため、近交退化が生じることがなく、健康で発育状態も良いコマーシャル豚を得ることができる。
【0040】
(雄系原種豚の交配による雄産子の作出)
次に、雄系原種豚の雌雄を交配させて雄産子を作出する工程S3bについて説明する。本工程においては、前の雄系原種豚の選抜工程S2bで選抜された雄系雌原種豚と雄系雄原種豚とを交配させて雄種豚候補となる雄産子を作出する。交配方法としては、自然交配や人工授精等が挙げられる。得られた雄産子は後述する選抜工程S4により少なくとも1頭が雄種豚として選抜される。交配に用いる雄系雌原種豚及び/又は雄系雄原種豚は、雌系原種豚同様に、豚集団から選抜された個体の体細胞を用いて作出されたクローン豚であってもよい。
【0041】
(雄系原種豚の雄産子からの雄種豚の選抜)
次に、雄系原種豚の雄産子から雄種豚を選抜する工程S4について説明する。本工程においては、前述の工程S3bで得られた産子のうち、雄産子から、コマーシャル豚の父豚となる雄種豚の選抜が行われる。本発明においては、このように、雄系の雄種豚のみについて種豚の選抜作業が行われるように遺伝子型の選抜条件を設定している。すなわち、雄豚は一般的に1年を通じて繁殖することができ、生後約6ヶ月齢〜5歳までは2回/週の精液採取が可能であって、1回の精液採取で2頭の雌個体の繁殖に供することができる上、精液は保存可能である。そのため、雄種豚として選抜された個体が少なくとも1頭存在すれば、コマーシャル豚を多数生産することが可能となる。他方、雌豚は一般的に妊娠期間が約114日間必要であり、繁殖は最大でも年2回であるため、コマーシャル豚を多数生産するには多数の雌種豚が必要となる。そこで、本発明では、雄種豚のみを選抜し、雌系原種豚から作出された雌産子は選抜せずに全てを雌種豚として用いることにより、効率よくコマーシャル豚を多数頭作出することが可能となっている。
【0042】
雄系原種豚から作出された雄産子の各個体については、前述した遺伝子解析工程S1と同様の手法で所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型の解析が行われる。この雄産子の遺伝子解析結果により、(A)所望の形質が優性形質の場合には、該所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型が優性ホモ接合型であり、(B)所望の形質がハプロタイプホモ接合型の場合には、該所望の形質に関連する遺伝子座のハプロタイプがホモ接合型であり、(C)所望の形質が劣性形質の場合には、該所望の形質に関連する遺伝子の遺伝子型が劣性ホモ接合型である個体が雄種豚として雄産子から選抜される。
【0043】
上述した選抜のうち、(A)所望の形質が優性形質の場合の選抜について、
図3を用いて具体的に説明する。例えば、所望の形質として「毛色が白色であること」を選択した場合には、白色の毛色はKIT遺伝子の優性対立遺伝子Iによるものであることから、
図3に示すように、KIT遺伝子の遺伝子型が優性ホモ接合型(I/I)の個体が選抜される。このように、重複した優性対立遺伝子をホモ接合型で持つ個体を雄種豚に選抜して交配に用いれば、雌種豚の遺伝子型がどのような型であっても、優性形質が必ず産子に伝わるため、優性形質を有する個体を効率よく作出することが可能となる。
【0044】
また、(B)所望の形質がハプロタイプホモ接合型の場合について、
図4を用いて具体的に説明する。例えば、所望の形質として「SLAのハプロタイプがホモ接合型であること」を選択した場合には、雄種豚として、SLA型の遺伝子座にある対立遺伝子のハプロタイプのセットがホモ接合型の個体が選抜される。
図4においては、所望の形質が、SLAのハプロタイプA型のホモ接合体(AA)の例を示しており、この場合には、ハプロタイプA型のホモ接合体(AA)の個体が選抜される。
【0045】
さらに、(C)所望の形質が劣性形質の場合の選抜について具体的に説明する。例えば、所望の形質として「毛色が白色以外の有色であること」を選択した場合には、前述したように、白色以外の有色の毛色は劣性形質であり、KIT遺伝子が劣性対立遺伝子iの場合であることから、KIT遺伝子の劣性対立遺伝子iがホモ接合型(i/i)の個体が選抜される。
【0046】
上述の(A)〜(C)にかかる選抜は、工程S3bで作出された雄産子の遺伝子解析結果を用いて行われる。すなわち、雄産子の各個体の所望の形質に関連する遺伝子型を参照し、(A)〜(C)に該当するものが雄種豚に選抜される。このとき、所望の形質が複数ある場合には、所望の形質に関連する遺伝子型の各々について、上述した(A)〜(C)にかかる選抜が行われ、全てに該当する個体が雄種豚として選抜される。たとえば、所望の形質として、「SLAのハプロタイプがホモ接合型であること」及び「毛色が白色であること」を選択した場合には、SLAのハプロタイプのセットがホモ接合型(例:AA型)であり、かつ、KIT遺伝子の遺伝子型が優性ホモ接合型(I/I)の個体が選抜される。
【0047】
(雌種豚と雄種豚との交配によるコマーシャル豚の作出)
次に、雌種豚と雄種豚との交配によるコマーシャル豚の作出工程S5について説明する。本工程では、前述した工程S3aで得られた雌種豚と、工程S4で選抜された雄種豚とを交配させて目的の豚(コマーシャル豚)が作出される。交配方法としては、自然交配や人工授精等が挙げられる。得られた産子は全てが所望の形質を備えている。例えば、
図3に示すように、所望の形質として「毛色が白色であること」を選択した場合には、得られるコマーシャル豚のKIT遺伝子の遺伝子型は優性ホモ接合型(I/I)かヘテロ接合型(I/i)のみであり、産子の毛色はすべて白色である。また、
図4に示すように、所望の形質として、「SLAのハプロタイプがホモ接合型であること」を選択した場合には、得られるコマーシャル豚のハプロタイプのセットはすべてがホモ接合型(例:AA型)となる。このように、得られた産子はすべて所望の形質を備えているため、産子の選抜を行う必要がなく、すべての産子をコマーシャル豚として用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に特に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
1.コマーシャル豚の所望の形質の決定
医療用実験動物として用いられる実験用豚に求められる特性として、(1)体格が小さいこと、(2)安全性試験や移植実験の再現性を高めるために、SLA(豚白血球抗原)の遺伝子型が揃っていること、及び(3)健康状態や皮膚の状態を観察しやすいことから、毛色が「白色」であることが挙げられる(塩谷聡子、外3名、「実験用豚に関するアンケート調査」、静岡県畜産技術研究所中小家畜研究センター研究報告、第5号、2012年、p.1−9)。本実施例では、体格が小型である超小型ブタに対し、所望の形質として「SLAの遺伝子型がホモ接合型であること」及び「毛色が白色であること」を選択し、これらの形質を有する超小型ブタの作出を試みた。
【0050】
[実施例2]
2.形質調査
特許文献1に記載の超小型ブタ73頭の豚集団について、(1)生年月日、(2)性別、(3)毛色、(4)産歴及び(5)出産1回あたりの産子数を調査した。なお、毛色については、調査対象豚の親ブタの毛色についても調査した。調査結果は以下のとおりであった。
(1)生年月日:平成13年2月〜平成21年3月生であった。
(2)性別:雄37頭、雌36頭であった。
(3)毛色:白色26頭、黒色18頭、灰色29頭であった。親世代が白色で、子世代が有色(黒又は灰色)の個体が確認された。
(4)産歴:雌36頭中、産歴があった雌の個体は21頭であった。
(5)出産1回あたりの産子数:最も多い個体で13頭、少ない個体で0頭であった。出産1回あたりの平均産子数は4〜5頭であり、出産1回あたりの平均産子数が5頭以上である個体を多産系とした。
【0051】
[実施例3]
3.遺伝子解析(SLA型)
実施例2で形質を調査した超小型ブタ73頭について、ブタ白血球抗原(SLA)の遺伝子型を調査した。各個体のSLA型に関する遺伝子解析は以下のようにして行った。各個体の組織片(耳片、尾片等)を採取し、PBS(−)を用いて組織片を洗浄した。組織片をProteinase Kを含んだDNA抽出バッファー(0.2mg/mL ProteinaseK、10mM EDTA、120mM NaCl、1%SDS、10mM Tris−HCl[pH8.0])に溶解させた後、フェノール・クロロホルム処理にて精製し、エタノール沈殿よりゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAについて、SLAクラスI〜III領域(約2.4Mb)に位置する11種類のマイクロサテライトマーカーを対象としたPCRを行った。対象としたマーカーを表1に示す。PCRは、最終濃度が0.025U/μLのAmpliTaq(登録商標)Gold DNAポリメラーゼ(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)、1×PCRバッファー(上述したDNAポリメラーゼに添付されているもの。MgClの終濃度は1.5mM)、0.2mM dNTPs、0.25μMの各プライマー、及び20ngの各DNAを加え、全量を15μLとして行った。PCR反応は94℃で9分間の加熱にてDNAポリメラーゼを活性化させた後、変性反応を94℃で30秒、アニーリング反応を55℃で30秒、及び伸長反応を72℃で30秒とし、これらの反応を40サイクル繰り返すことによって行った。
【0052】
【表1】
【0053】
得られたPCR産物のフラグメント解析を行った結果、本実施例における超小型ブタ73頭からなる母集団には、表2に示すようにA〜Iの9つのハプロタイプが確認された。表中の数値は、各種ハプロタイプにおける各マーカーのDNAフラグメントの長さを示している。また、母集団のハプロタイプの分布を
図5に示す。
図5に示すように、9種のハプロタイプのうち、Aタイプが39.7%、Cタイプが25.3%を占めており、これら2種類のハプロタイプの頻度が高いことが確認された。
【0054】
【表2】
【0055】
この母集団における遺伝子型の解析結果を表3に示す。A〜Iは確認された各ハプロタイプの種類を示し、Xは判定できなかったタイプを示す。表内の数値のうち、上段は該当した個体数、下段は母集団(n=73)中の存在比率を示している。本実施例における超小型ブタ73頭の母集団においては、ハプロイドのセットがホモ接合型の個体は、AAが10頭(13.7%)、CCが1頭(1.4%)、DDが1頭(1.4%)確認され、A型を有するヘテロ接合型(38頭;52.1%)の遺伝子型が母集団中の半数以上を占めることがわかった。
【0056】
【表3】
【0057】
[実施例4]
4.遺伝子解析(KIT遺伝子)
実施例2及び3で調査対象とした超小型ブタ73頭について、毛色関連遺伝子であるKIT遺伝子の遺伝子型を調査した。具体的には、各個体のKIT遺伝子に関する遺伝子解析は以下のようにして行った。実施例3で得た各個体のゲノムDNAについて、KIT遺伝子のイントロン17の最初の塩基を含む領域を対象としたPCRを行った。PCRで用いたプライマー及び増幅領域を以下表4に示す。プライマーは、奥村らの報告(奥村直彦、外5名、2000年、日本畜産学会報、第7号、J222−J234)を参考にして設計し、作製した。
【0058】
【表4】
【0059】
PCRは、最終濃度が0.025U/μLのAmpliTaq(登録商標)Gold DNAポリメラーゼ(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)、1×PCRバッファー(上述したDNAポリメラーゼに添付されているもの。MgClの終濃度は1.5mM)、0.2mM dNTPs、0.25μMの各プライマー、及び20ngの各DNAを加え、全量を15μLとして行った。PCR反応は94℃で9分間の加熱にてDNAポリメラーゼを活性化させた後、変性反応を94℃で30秒、アニーリング反応を55℃で30秒、及び伸長反応を72℃で30秒とし、これらの反応を40サイクル繰り返すことによって行った。
【0060】
得られたPCR産物について、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)を用いたジデオキシ法により塩基配列を解析した。白色毛個体26頭については、イントロン17の最初の塩基のシーケンスデータにおいて、G:Aが1:1となる優性白色対立遺伝子Iのホモ接合型(I/I)が2頭、G:Aが2:1となるヘテロ接合型(I/i)が24頭確認された。また、有色毛個体47頭(黒色:18頭、灰色:29頭)については、イントロン17の最初の塩基のシーケンスデータはGのみであり、全て劣性対立遺伝子iのホモ接合型(i/i)であった。
【0061】
[実施例5]
5.ライブラリーの作製
上述した実施例2〜4で調査対象とした超小型ブタ73頭の体細胞を採取し(採取組織:耳の皮膚由来の線維芽細胞)、液体窒素ボンベを用いて凍結保存した。また、実施例2〜4により得られた超小型ブタ73頭の個体情報(生年月日、性別、毛色、産歴、出産1回あたりの産子数、SLA遺伝子型及びKIT遺伝子型)と凍結保存した上述の体細胞とを含む各個体のライブラリーを作製した。
【0062】
[実施例6]
6.原種豚候補の選抜
雌系原種豚、すなわち、雌種豚の親豚を選抜するにあたっては、表5に示すライブラリーデータより、SLA型がホモ接合型AAの個体(雌6頭・雄4頭)を第1次候補とした。なお、この第1次候補を選択する際には、所望形質である「毛色が白色であること」は優性遺伝子によるものであり、後述する雄種豚の遺伝子型によってコマーシャル豚の毛色が決定することから、雌系原種豚のKIT遺伝子の遺伝子型は任意とした。このように雌系原種豚を選択することにより、雌系原種豚から作出された雌産子は選抜することなく、全て雌種豚としてコマーシャル豚の作出に用いることができる。
【0063】
次に、雌系原種豚のうち、雌系雌原種豚については、出産1回あたりの平均産子数がライブラリー中の雌豚の出産1回あたりの平均産子数(4〜5頭)よりも多い多産系の雌個体を選択した。これにより、作出された雌種豚に多産形質が備わるため出産1回あたりの産子数が多くなり、コマーシャル豚を効率よく作出することが可能となる。本実施例においては、表5に示すライブラリーNO.34の雌を雌系原種豚候補とした。引き続き、コマーシャル豚世代における近交係数が15%未満となるような雌系原種豚の雄雌の組合せを検討した。近交係数の算出は近交係数測定ソフトウエア(CoeFR ver3.7(Satoh, M.,Jpn.J.Swine Science、2000年、第37巻、第3号、p.122−126))を用いて行った。この結果、雌系雌原種豚としてはライブラリーNO.34を選抜し、雌系雄原種豚としてはライブラリーNO.63を選抜した。選抜された個体の遺伝子型を
図6に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
他方、雄系原種豚、すなわち、雄種豚の親豚を選抜するにあたっては、表5に示すライブラリーデータより、SLA型がAタイプのハプロイドを少なくとも1つ有しており、KIT遺伝子の優性白色対立遺伝子Iがホモ接合型(I/I)の雌1頭(ライブラリーNO.32)、雄1頭(ライブラリーNO.54)を候補とすることを検討した。しかしながら、両者を雄系原種豚とした場合、コマーシャル豚世代での近交係数が15%を超えることがわかった。そのため、KIT遺伝子の優性白色対立遺伝子Iがヘテロ接合型(I/i)で、SLA型がホモ接合型AAの雌3頭(ライブラリーNO.3、47、53)及び雄1頭(ライブラリーNO.58)も合わせて候補とした。これらの雄系原種豚候補について、コマーシャル豚世代における近交係数が15%未満となるような雄系原種豚の雄雌の組合せを検討した。この結果、雄系雌原種豚としてはライブラリーNO.47を選抜し、雄系雄原種豚としてはライブラリーNO.54を選抜した。選抜された個体の遺伝子型を
図6に示す。
【0066】
[実施例7]
7.原種豚の交配による種豚の作出
実施例6において、ライブラリーから選抜された雌系原種豚は、ライブラリーNO.34(雌)及びライブラリーNO.63(雄)であった。コマーシャル豚を多頭数作出するためには、雌系原種豚から作出される雌種豚が多頭数必要である。そこで、ライブラリーに保存されている選抜された個体の体細胞を用いて、体細胞クローン技術により、雌系原種豚を雌8頭、雄8頭作出した。このようにして得られた雌系原種豚を自然交配させて、雌産子31頭を得た。
【0067】
他方、実施例6において、ライブラリーから選抜された雄系原種豚は、ライブラリーNO.47(雌)及びライブラリーNO.54(雄)であった。雄系原種豚から作出される雄種豚はその繁殖特性上、少なくとも1頭存在すればよい。No.47の個体は、生存しており、繁殖予定場所で飼育することが可能であったため、当該個体をそのまま雄系雌原種豚とした。No.54の個体は生存していなかったため、ライブラリーに保存されている体細胞を用いて体細胞クローン技術により1頭作出した。このようにして得られた雄系原種豚を自然交配させて、雄産子を得た。
【0068】
[実施例8]
8.種豚の交配によるコマーシャル豚の作出
雌種豚については、実施例7による雌系原種豚(雄8頭、雌8頭)の自然交配で得られた雌産子(31頭)のうち5頭を雌種豚として、コマーシャル豚の生産に使用した。
図6に示すように、これら雌種豚のSLA型はいずれもAAのホモ接合型であった。なお、本実施例において、雌種豚のKIT遺伝子型は劣性遺伝子iのホモ接合型(i/i)であるが、雌種豚のKIT遺伝子の遺伝子型はこれに限定されず、優性遺伝子Iのホモ接合型やヘテロ接合型とすることもできる。
【0069】
他方、雄種豚については、実施例7による雄系原種豚の自然交配で得られた雄産子の遺伝子解析を実施例3〜4と同様の方法で行い、KIT遺伝子の優性白色対立遺伝子Iがホモ接合型(I/I)であり、かつ、SLA型のハプロタイプがAAのホモ接合型の個体1頭を選抜して雄種豚とした。上記の雌種豚5頭及び雄種豚1頭の自然交配により、
図6に示すように、いずれも白色毛(KIT遺伝子ヘテロ接合型(I/i))かつSLA型がAAに揃ったコマーシャル豚63頭(雄38頭、雌25頭)が作出された。
【0070】
[実施例9]
9.コマーシャル豚の発育状況
実施例8で作出されたコマーシャル豚19頭(雄12頭、雌7頭)について、生時、2〜6ヶ月齢時の体重を測定した。結果を
図7(a)に示す。横軸は月齢、縦軸は体重(kg)を示している。また、点線は雄のデータ、実線は雌のデータを示している。コマーシャル豚の6ヶ月齢時体重の平均値は、雄8.9±1.8kg(n=12)、雌9.9±1.1kg(n=7)であった。他方、比較例として、無選抜の自然交配により平成18年7月〜平成19年12月に産まれた超小型ブタ34頭(雄15頭、雌19頭)の生時、2〜6ヶ月齢時の体重データを
図7(b)に示す。横軸は月齢、縦軸は体重(kg)を示しており、点線は雄のデータ、実線は雌のデータを示している。超小型ブタの6ヶ月齢時の体重平均値は、雄9.4±2.0kg、雌9.0±2.3kgであった。これらの結果より、本実施例で作出したコマーシャル豚と、比較例の超小型ブタの6ヶ月齢時体重に有意な差は認められず、本研究で作出したコマーシャル豚は超小型ブタの特徴である非常に小さいという形質も保持していることが確認された。
【0071】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含まれるものである。