(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記架橋剤[C]は、少なくとも、前記エマルション[A]の前記構成単位(a2)及び前記エマルション[B]の前記構成単位(b2)と架橋可能であり、且つ、エマルション[A]及びエマルション[B]中の架橋剤[C]と架橋可能な基の全量に対して、10〜100モル%となる割合で添加されて前記水分散型感圧性接着剤とされる請求項1に記載の水性粘着剤組成物。
前記架橋剤[C]が、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤及び金属系架橋剤からなる群から選択される少なくともいずれかである請求項1又は2に記載の水性粘着剤組成物。
更に、前記エマルション[A]の固形分100質量部に対して、非フタル酸系可塑剤[D]を1〜10質量部の範囲内で含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性粘着剤組成物。
前記非フタル酸系可塑剤[D]が、アジピン酸誘導体、フマル酸誘導体、トリメリット酸誘導体、脂肪酸誘導体、リン酸誘導体、グリコール誘導体及びグリセリン誘導体からなる群から選択される少なくともいずれかである請求項4に記載の水性粘着剤組成物。
基材シートの少なくとも一方の面に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性粘着剤組成物に架橋剤を添加した水分散型感圧性接着剤で再剥離性の粘着剤層が形成されてなることを特徴とする再剥離性の粘着シート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明の特許請求の範囲及び明細書における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」及び「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を意味する。
【0014】
[水性粘着剤組成物]
本発明者らは、先に述べた従来技術の課題に対し、環境適用性に優れた水性の材料でありながら、低粘度で、近年要望されている高速塗工に対応可能であり、しかも、これを用いてなる粘着剤で形成した粘着剤層は、種々の被着体に対して、高い粘着性と良好な再剥離性とを示すものになる、従来になかった水性粘着剤組成物の実現について鋭意検討を行った。その結果、上記の課題を解決できる、架橋剤[C]を添加することで水分散型感圧性接着剤とし、該感圧性接着剤によって上記の目的を達成した再剥離性を示す粘着剤層が形成される、水性粘着剤組成物を見出して本発明に至った。具体的には、架橋剤[C]と反応する構成単位を有する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]をベースとし、該エマルション[A]の固形分100質量部に対して、前記水分散型感圧性接着剤の粘性抑制剤として機能する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]を、固形分換算で1〜20質量部の量で含み、且つ、エマルション[A]及びエマルション[B]を下記の構成としたことで、本発明の顕著な効果が得られることを見出した。
【0015】
本発明の水性粘着剤組成物は、エマルション[A]が、(メタ)アクリレート系モノマー由来の構成単位(a1)を主成分とし、且つ、前記架橋剤[C]と反応する官能基を有する官能基含有不飽和モノマー由来の構成単位(a2)を0.5〜2.5質量%の範囲内で含んでなるエマルションであることを要する。更に、エマルション[B]は、(メタ)アクリレート系モノマー由来の構成単位(b1)を主成分とし、且つ、カルボキシ基含有不飽和モノマー由来の構成単位(b2)を、10質量%超える量で、或いは、酸価が60mgKOH/g以上となる量で含んでなり、且つ、下記式により算出される膨潤率(%)が、200〜550%となる、中和によって一部或いは全部が膨潤するエマルションであることを要する。
【0016】
上記で規定した構成のエマルション[B]を、上記で規定した構成のベースとなるエマルション[A]に対して特定量で使用したことで、これらを混合してアルカリ中和した後でも大幅な粘度上昇がなく、その結果、架橋剤[C]を添加してなる水分散型感圧性接着剤の低粘度化が実現され、高速塗工に対応できるようになることを見出した。具体的には、上記混合物(上記水分散型感圧性接着剤とした場合も同様)の25℃での粘度が1000mPa・s以下、好ましくは500mPa・s以下の低粘度化を実現したことで、上記の顕著な効果をより安定して得ることができるようになる。
【0017】
本発明の水性粘着剤組成物を特徴づける、水分散型感圧性接着剤の粘性抑制剤として機能する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]は、親水性を示すカルボキシ基含有不飽和モノマー由来の構成単位(b2)を十分な量で有する、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体であり、中和することで一部或いは全部が膨潤し、その膨潤率が200〜550%であるエマルションである。本発明者らは、本発明の構成によって高速塗工が可能な粘着剤の低粘度化を達成するとともに、形成した粘着剤層が優れた再剥離性を実現できた理由について、下記のように考えている。
【0018】
先述したように、現在市販されている粘性改良剤は、その殆どがアルカリ可溶性であるため、アルカリ中和後には粒子として存在できず、ベースとなるエマルション[A]に混合させた場合に、水中にポリマーが溶けることで粘性が増してしまうので、近年における高速塗工に対応することはできない(
図2参照)。これに対し、本発明者らの検討によれば、本発明を構成し、本発明を特徴づけるエマルション[B]は、アルカリ中和後に一部或いは全部が膨潤するものの、エマルション粒子として存在できている(
図1参照)。このため、本発明を構成するエマルション[A]に対して、エマルション[B]を特定量で使用したエマルション混合物、更には、該混合物に架橋剤[C]を添加してなる水分散型感圧性接着剤の粘度上昇が抑制可能となる。この結果、本発明の水性粘着剤組成物に、架橋剤[C]を添加してなる水分散型感圧性接着剤は、低粘度化を実現したものになる。
【0019】
上記に加え、エマルション[B]は、架橋剤[C]と架橋し得るため、併用したことで十分な架橋構造(ネットワーク)を確保することができる。このため、[A]及び[B]の2種のエマルションを特定の配合で使用し、この混合物に架橋剤[C]を添加してなる水分散型感圧性接着剤によって形成される粘着剤層は、良好な粘着性と、良好な再剥離性の発現にも成功したものになる。
【0020】
本発明者らの検討によれば、本発明の構成に対して、ベースのエマルション[A]と併用するエマルションに、アルカリ中和後に溶解する溶解性ポリマーを用いた場合は、架橋剤[C]との架橋によるネットワークの構築の点おいては好ましい結果が得られるものの、先述したように増粘し易く、高速塗工に対応することはできない。また、ベースのエマルション[A]と併用するエマルションに、アルカリ中和後に溶解しない不溶解性のポリマーを用いた場合は、増粘の問題は解決するものの、架橋によるネットワークの構築が不十分になるので、良好な粘着性と、良好な再剥離性の発現が達成できなくなる。
【0021】
また、本発明者らの検討によれば、併用する溶解性ポリマーの性状を制御することで、
図2Aの模式図に示したようにエマルションの分子量を大きくすることも、
図2Bの模式図に示したようにエマルションの分子量を小さくすることもできる。エマルションの分子量を低くすることは、増粘の問題を解決する手段になり得るが、添加する架橋剤[C]との架橋によるネットワークの構築の点で劣るものになり、形成した粘着剤層の特性を良好なものにできないという問題がある。これに対してエマルションの分子量を高くした場合は、架橋剤[C]との架橋によるネットワークの構築の点で優れたものになり、形成した粘着剤層は、良好な粘着性と、良好な再剥離性を示すものになる。しかし、この場合は、増粘の問題を解決することはできない。
【0022】
上記したように、エマルションに架橋剤を添加してなる水分散型感圧性接着剤において、ベースのエマルション[A]と併用するエマルションに、アルカリ中和後に溶解する溶解性ポリマーを用いることによっては、本発明が目的とする、粘着剤の増粘を抑制して高速塗工が可能な低粘度の達成と、形成した粘着剤層の良好な粘着性と、良好な再剥離性の実現を両立させることはできない。
【0023】
本発明の水性粘着剤組成物は、水分散型感圧性接着剤とする際に添加する架橋剤[C]にそれぞれ反応し得る、ベースとなるエマルション[A]と、モノマー由来の構成単位がエマルション[A]とは異なるエマルション[B]の2種のエマルションを特定の配合で使用したことを特徴とする。ここで、エマルション[A]、エマルション[B]及び添加した架橋剤[C]によって起こる架橋としては、下記の3種が考えられる。
(1)エマルション[A]−架橋剤[C]−エマルション[A]
(2)エマルション[A]−架橋剤[C]−エマルション[B]
(3)エマルション[B]−架橋剤[C]−エマルション[B]
【0024】
本来、併用するエマルションが、ポリマーベースとなるエマルション[A]を構成する樹脂を取り囲む状態である方が、架橋剤[C]を添加して架橋した場合に、網目構造の架橋ネットワークをとり、高い凝集力と良好な再剥離性を示すものになる。しかし、その一方で粘着剤の粘度が高くなるという課題がある。エマルションに架橋剤を添加した粘着剤で粘着剤層を形成した際に、系全体的に架橋ネットワークが繋がらないと良好な再剥離が確保できなかった従来技術に対し、本発明では、水分散型感圧性接着剤の粘性抑制剤として機能し得る、特有の(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]を、ベースとなるエマルション[A]に併用させる構成とした。本発明者らは、このように構成したことで、エマルション[B]によって
図1に示したような膨潤域が作り上げられ、これによりエマルション[A]が取り込まれ、架橋剤[C]を添加して架橋した場合に、上記したと同様に網目構造の架橋ネットワークをとるものになる結果、形成した粘着剤層は、高い凝集力と良好な再剥離性を示し、また、エマルション[B]は、中和によって一部或いは全部が膨潤するエマルションであり、粒子状態を保ち溶解ポリマーとはならず、粘度上昇を抑制でき、その結果、本発明の顕著な効果が得られたものと考えている。
【0025】
より具体的には、ベースとなるエマルション[A]とエマルション[B]との混合物である本発明の水性粘着剤組成物に、架橋剤[C]が添加されてなる構成の水分散型感圧性接着剤は、低粘度が維持されるので、高速塗工に対応可能であり、しかも、種々の被着体に対して、高い粘着性と良好な再剥離性とを実現できるものになる。本発明では、その構造中に、架橋剤[C]と反応する官能基を有する、官能基含有不飽和モノマー由来の構成単位(a2)を相対的に少ない量で含有するエマルション[A]をベースとし、架橋剤[C]と反応し得る親水性を示すカルボキシ基含有不飽和モノマー由来の構成単位(b2)を相対的に多い量で含有する構成のエマルション[B]を、特定の範囲で配合した構成としたことによって、増粘が抑制されて、経時における低粘度化が達成でき、また、系全体で架橋ネットワークを構築することで、高い粘着性と良好な再剥離性とを実現している。
【0026】
本発明を構成し、特徴づけるエマルション[B]は、中和することで一部或いは全部が膨潤し、中和前のエマルション[B]を構成する共重合体の粒子径と、中和した際の該共重合体の粒子径より算出される膨潤率が、200〜550%のものである。基材シートの一方の面に、上記した構成の本発明の水性粘着剤組成物に、架橋剤[C]が添加されてなる構成の水分散型感圧性接着剤を塗工液として塗工し、乾燥させて粘着剤層を形成する際に、エマルション[B]の共重合体が存在することで、低粘度で、且つ、架橋剤[C]との架橋による高分子量化もできるため、高速での塗工が可能なだけでなく、各種被着体に対する高い粘着性と良好な再剥離性を示す粘着剤層の形成が可能になったと推定される。本発明者らの検討によれば、本発明の顕著な効果は、本発明で規定する構造的特徴を有する、中和にて一部或いは全部が膨潤する特有の共重合体のエマルション[B]を併用したことで初めて実現する。本発明では、上記した特有の構造を有する共重合体のエマルション[B]によって得られる作用を、「粘性抑制剤として機能する」と表現している。本発明者らの検討によれば、従来の構成のエマルションによっては、本発明の顕著な効果を得ることはできなかった。
【0027】
本発明の水性粘着剤組成物は、エマルション[A]を主成分とするが、ここで、「主成分」とは、本発明の水性粘着剤組成物中に占めるエマルション[A]の割合が、併用するエマルション[B]、架橋剤[C]のいずれの割合よりも多いことを意味する。エマルション[A]の割合が少なく、主成分とならないと十分な粘着性能が得られない。以下、各構成成分について詳細に説明する。
【0028】
<エマルション[A]>
エマルション[A]は、(メタ)アクリレート系モノマー由来の構成単位(a1)を主成分とし、且つ、架橋剤[C]と反応する官能基を有する官能基含有不飽和モノマー由来の構成単位(a2)を0.5〜2.5質量%の範囲内で含んで構成された(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルションである。本発明者らの検討によれば、エマルション[A]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体の構造中に占める構成単位(a2)の割合が0.5〜2.5質量%の範囲内である場合に、後述する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]を併用したことによる効果が、安定して得られる。本発明で規定した、「構成単位(a1)を主成分とする」とは、エマルション[A]を構成する、いずれの構成単位の割合よりも多いことを意味する。
【0029】
〔構成単位(a1)の由来モノマー〕
エマルション[A]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体における構成単位(a1)は、(メタ)アクリレート系モノマーに由来する。本発明で使用する(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、以下のような、反応性の官能基を有さないものが挙げられる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tertブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(別名:ラウリル(メタ)アクリレート)、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート及びステアリル(メタ)アクリレート等の、炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーが挙げられる。また、ベンジル(メタ)アクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の、芳香族環或いはシクロアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーが挙げられる。上記に挙げたようなモノマーから選ばれた少なくとも1種、或いは、2種以上のモノマーを使用することができる。上記した中でも、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0030】
〔構成単位(a2)の由来モノマー〕
エマルション[A]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体における構成単位(a2)は、架橋剤[C]と反応する官能基を有する官能基含有不飽和モノマーに由来するものである。官能基含有不飽和モノマー(a2)としては、例えば、カルボキシ基、水酸基等の官能基を有する不飽和モノマーを挙げることができる。官能基としてカルボキシ基を有する不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、及び、マレイン酸或いはイタコン酸と炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖を有するアルコールとのハーフエステル等が挙げられる。また、官能基として水酸基を有する不飽和モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、2−メトキシエチルアクリレート及びエチルカルビトールアクリレート等の、アルコキシ基を有する(メタ)アクリレート系モノマーが挙げられる。エマルション[A]を構成する構成単位(a2)は、上記したようなモノマー群より選択される1種以上の官能基含有不飽和モノマーに由来するものである。
【0031】
〔エマルション[A]の重合方法〕
上記した特有の構成単位(a1)及び(a2)を有する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]は、公知の、一般的な乳化重合によって合成することができる。本発明者らの検討によれば、水、乳化剤及び重合開始剤の存在下、(a1)及び(a2)の各構成単位を形成するための、上記に列挙したような(メタ)アクリレート系モノマー及び官能基含有モノマーを含む原料モノマーを乳化重合によって合成することが好ましい。
【0032】
(乳化剤)
上記乳化剤としては、特に制限はないが、アニオン性、ノニオン性及び反応性の乳化剤(界面活性剤)を適宜に選択して使用することができる。アニオン性乳化剤としては、例えば、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル及びポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。
【0033】
また、ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0034】
反応性乳化剤としては、例えば、種々の分子量(EO付加モル数の異なる)のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクルリロイルオキシエチレンスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレングリコールのモノマレイン酸エステル及びその誘導体、(メタ)アクリロイルポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。本発明を構成するエマルション[A]を合成する際には、上記したような、アニオン性、ノニオン性及び反応性の乳化剤の群より選択される1種以上を適宜に使用することができる。
【0035】
これらの乳化剤の使用量は、原料モノマー成分の総量100質量部に対して、0.4〜10.0質量部程度で使用することが好ましく、より好ましくは、0.5〜6.0質量部の範囲内である。本発明者らの検討によれば、乳化剤の使用量が上記した範囲にあることによって、乳化重合した際に、凝固物を生じることなく、本発明を構成するエマルション[A]が、適切な粒子径で得られ、後述する本発明を構成するエマルション[B]との混和性もよくなる。
【0036】
(重合調整剤)
乳化重合して本発明を構成するエマルション[A]を合成する際には、必要に応じて重合度を調整するため、重合調整剤として、連鎖移動剤や重合禁止剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、n−ブチルメルカプタン、トリクロロメルカプタン及びイソプロピルアルコール等が挙げられる。重合禁止剤としては、例えば、ヒドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。そして、これらの群より選択される1種以上を適宜に使用することができる。
【0037】
(重合開始剤)
乳化重合する際に用いる重合開始剤としては、通常の乳化重合に用いられている重合開始剤を適宜に使用することができる。具体的には、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、パーオキシエステル類の過酸化物や、アゾビス系重合開始剤が挙げられる。中でも、これらの群より選ばれる水溶性の重合開始剤が好ましい。また、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、重亜硫酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム等の還元剤と、前記した過酸化物とを併用して使用することもできる。重合開始剤の使用量は、原料モノマー成分の総量100質量部に対して、通常、0.02〜3.0質量部程度である。好ましくは、0.05〜1.0質量部である。
【0038】
〔物性〕
以上のようにして得られる本発明を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]は、該共重合体のガラス転移温度(Tg)が、−80℃〜−40℃程度であることが好ましい。より好ましくは−70℃〜−55℃程度である。(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のTgが上記範囲を超えると粘着力と再剥離性のバランスを取ることが困難な場合がある。なお、本発明における共重合体のTgは、日本エマルジョン工業会規格「合成樹脂エマルジョンの皮膜と硬さ表示方法(107−1996)」に記載された各ホモポリマーのTg値を使用して計算式から求めた。
【0039】
本発明を構成するエマルション[A]は、その酸価が16mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは、8mgKOH/g以下である。上述した構成単位(a2)の割合を、0.5〜2.5質量%とすることで、酸価を16mgKOH/g以下の(メタ)アクリル酸系エステル共重合体を容易に得ることができる。上記酸価が16mgKOH/gを超えると、基材密着性が低下する場合がある。
【0040】
本発明を構成するエマルション[A]のpHは、架橋剤[C]と反応する官能基を有する官能基含有不飽和モノマーの使用量にもよるが、7.0〜9.0程度である。また、エマルション[A]の平均粒子径は、100〜900nm程度であることが好ましく、より好ましくは、200〜500nm程度である。エマルション[A]は、その25℃における粘度が300mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、150mPa・s以下である。本発明者らの検討によれば、エマルション[A]の物性値が上記を満たすものであると、併用するエマルション[B]との相溶性により優れたものとなるため好ましい。なお、本発明において、エマルションの平均粒子径は、レーザー光散乱方式の粒度分布測定装置で測定し、粘度は、B型粘度計で25℃で測定した。
【0041】
<エマルション[B]>
本発明の水性粘着剤組成物は、上記したエマルション[A]を主成分とし、該エマルション[A]の固形分100質量部に対して、粘性抑制剤として機能するエマルション[B]を、1〜20質量部の量で含有してなることを特徴とする。先に述べたように、本発明の顕著な効果は、このエマルション[B]を構成する特有の共重合体によって初めて達成される。
【0042】
本発明を特徴づけるエマルション[B]は、(メタ)アクリレート系モノマー由来の構成単位(b1)を主成分とし、且つ、カルボキシ基含有不飽和モノマー由来の構成単位(b2)を10質量%超える量で、好ましくは、20〜40質量%の範囲内で含んで構成される(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルションである。換言すれば、本発明を構成するエマルション[B]は、その酸価が60mgKOH/g以上のもの、より好ましくは、その酸価が130〜260mgKOH/gのものである。更に、本発明を構成するエマルション[B]は、下記式により算出される膨潤率(%)が、200〜550%である、中和によって一部或いは全部が膨潤するエマルションであることを要す。このように、本発明を特徴づけるエマルション[B]は、高酸価で、且つ、架橋剤[C]との反応性基を多く含む膨潤型の(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルションである。
【0044】
本発明の水性粘着剤組成物は、エマルション[B]の構成を、カルボキシ基含有不飽和モノマー由来の構成単位(b2)を10質量%超える量で含み、且つ、中和により一部或いは全部が膨潤する、上記した特定の膨潤率をもつ共重合体としたことで、下記の機能を発揮するものになる。すなわち、エマルション[A]をベースとし、エマルション[B]を併用する構成としたことで、エマルション[B]は、本発明の組成物の増粘を適度に抑制する粘性抑制剤として機能し、本発明の組成物に架橋剤[C]を添加して水分散型感圧性接着剤とした場合に、その増粘を適度に抑制する粘性抑制剤として機能すると同時に、架橋剤[C]と反応して高分子量化できるため、良好な粘着剤層の形成を可能にする。より具体的には、本発明の水性粘着剤組成物は、エマルション[A]に、その一部或いは全部を膨潤させたエマルション[B]を併用させた構成でありながら増粘せず、粘度が低く維持されるので、本発明が目的とする高速塗工に対応することが可能になる。更に、エマルション[B]には、架橋剤[C]との反応性基であるカルボキシ基が多く存在しているので、架橋剤[C]と架橋することで高分子量化し、網目構造の架橋ネットワークを実現した粘着剤層が形成されて、各種被着体に対する高い粘着性と、良好な再剥離性を示すものになる。以下、エマルション[B]の各構成について詳細に説明する。
【0045】
〔構成単位(b1)の由来モノマー〕
エマルション[B]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体における構成単位(b1)は、(メタ)アクリレート系モノマーに由来する。(メタ)アクリレート系モノマーは、先に、エマルション[A]における共重合体の構成単位(a1)で説明したものをいずれも使用することができるため説明を省略するが、特には、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートのような側鎖を有する構造のものが好ましい。また、エマルション[B]を構成する共重合体中に占める構成単位(b1)の割合は、十分な粘着性能及び再剥離性を得る目的から、主成分であること要する。なお、「構成単位(b1)を主成分とする」とは、エマルション[B]を構成する、いずれの構成単位の割合よりも多いことを意味する。
【0046】
〔構成単位(b2)の由来モノマー〕
エマルション[B]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体における構成単位(b2)は、カルボキシ基含有不飽和モノマーに由来するものである。カルボキシ基含有不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、及び、マレイン酸或いはイタコン酸と炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖を有するアルコールとのハーフエステル等が挙げられ、いずれも使用することができる。
【0047】
上記構成単位(b2)の割合は、10質量%超える量で含んでなることを要し、好ましくは、20〜40質量%の範囲内であり、その量は比較的多い。先述したように、本発明の顕著な効果が得られた理由は、(b2)を上記のように構成したことにある。すなわち、構成単位(b2)の割合を10質量%を超える量となるようにしたことで、本発明で規定する、下記式より算出される膨潤率(%)が、200〜550%となり、「中和にて一部或いは全部が膨潤するエマルション」という要件を満たすものになる。
【0048】
〔エマルション[B]の重合方法〕
上記した構成単位(b1)、(b2)を含む、本発明を特徴づける(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]は、エマルション[A]と同様、一般的な乳化重合により合成することができる。その方法については、先にエマルション[A]で説明したのと同様であるため、説明を省略する。また、使用できる、乳化剤、重合調整剤、重合開始剤についても同じものを使用することができるため、説明を省略する。
【0049】
〔物性〕
上記のようにして得られる本発明を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]は、その酸価が60mgKOH/g以上であることが好ましい。より好ましくは、130〜260mgKOH/gである。上述した構成単位(b2)の割合を10質量%超える量、好ましくは20〜40質量%とすることで、酸価を60mgKOH/g以上の(メタ)アクリル酸系エステル共重合体を容易に得ることができる。
【0050】
本発明を構成するエマルション[B]は、構成単位(b2)としてカルボキシ基を多く含む構成であり、そのpHは2.0〜4.0程度になる。本発明では、このpHの状態で測定した場合の平均粒子径が、100〜500nm程度のものであることが好ましい。より好ましくは、150〜350nm程度である。一方、エマルション[B]を構成する共重合体を中和してpHを8.0とした際の平均粒子径は、500〜1200nm程度となることが好ましい。中和前後における平均粒子径が上記範囲内となることで、下記式より算出される膨潤率(%)は、200〜550%となる。本発明においては、本発明を構成するエマルション[B]を、好ましくは、膨張率(%)が250〜500%となる構成のものとするとよい。
【0051】
上記した通り、中和前のエマルション[B]のpHは約2.0〜4.0程度であるが、本発明で規定する膨潤率を算出する際には、pHを3.0に調整して測定した平均粒子径を「中和前のエマルション[B]を構成する共重合体の平均粒子径」とした。また、同様に、pH8.0に調製して測定した平均粒子径を、本発明で規定する「中和後のエマルション[B]を構成する共重合体の平均粒子径」とした。本発明において、平均粒子径の測定は、レーザー光散乱方式の粒度分布測定装置によって行い、その値を用いて膨潤率(%)を算出した。
【0052】
(中和剤)
上記で使用する中和剤としては、塩基性の有機化合物及び塩基性の無機化合物の何れであってもよい。例えば、トリメチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン及び2−アミノメチルプロパノール等の有機アミンや、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や、アンモニア等が挙げられ、その他の公知の中和剤も使用することができる。なお、これら中和剤は、エマルションを得るための乳化重合反応中に使用することも可能である。
【0053】
エマルション[B]は、その25℃(B型粘度計で測定)における粘度が100mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、50mPa・s以下である。そして、先に説明したエマルション[A]とエマルション[B]とを混合した混合物の、25℃における粘度は、1000mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは500mPa・s以下である。エマルション[A]とエマルション[B]との混合物の粘度が、500mPa・s以下であると、後述する架橋剤[C]を添加して塗工する際にも、塗工液の粘度をより低粘度に保つことができるため、より高速塗工に適したものとなる。
【0054】
<エマルション[A]とエマルション[B]の使用量)
エマルション[B]は、前記したように、本発明の水性粘着剤組成物の増粘を適度に抑制し、また、本発明の組成物に架橋剤[C]を添加して水分散型感圧性接着剤とした場合に、増粘を適度に抑制する、「粘性抑制剤」として機能するものである。本発明者らの検討によれば、その効果を十分に得るためには、エマルション[A]の固形分100質量部に対して、固形分換算で1〜20質量部の量でエマルション[B]を含む構成とすることを要する。好ましくは、3〜10質量部である。使用量が1質量部未満であると、エマルション[B]の効果が発揮されず、20質量部を超えて多くなり過ぎると、得られる水性粘着剤組成物の粘度が高くなり過ぎて、塗工が困難となり、高速塗工に対応可能という本発明の目的を達成できない。
【0055】
<架橋剤[C]>
本発明の水性粘着剤組成物は、先述した主成分であるエマルション[A]に本発明を特徴づけるエマルション[B]を特定量で併用してなり、該組成物に、架橋剤[C]を添加して水分散型感圧性接着剤として、剥離性の粘着剤層の形成に利用されるものである。上記架橋剤[C]としては、特に限定されないが、前記エマルション[A]の前記構成単位(a2)及び前記エマルション[B]の前記構成単位(b2)と架橋可能な、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤及び金属系架橋剤からなる群から選択される少なくともいずれかを好適に使用することができる。
【0056】
架橋剤[C]の使用量は、エマルション[A]及びエマルション[B]中の、例えば、カルボキシ基等の架橋剤[C]と架橋可能な官能基の全量に対して、10〜100モル%となる割合である。好ましくは、上記官能基の全量に対して、30〜80モル%であり、このように構成することで前記した本発明の顕著な効果が得られる。
【0057】
<非フタル酸系可塑剤[D]>
本発明の水性粘着剤組成物は、更に、前記エマルション[A]の固形分100質量部に対して、非フタル酸系可塑剤[D]を1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部の範囲内で含むことができる。使用する可塑剤としては、例えば、アジピン酸誘導体、フマル酸誘導体、トリメリット酸誘導体、脂肪酸誘導体、リン酸誘導体、グリコール誘導体及びグリセリン誘導体等が挙げられる。これらの可塑剤は、1種又は2種以上組み合わせて使用することが可能であり、更に、その他の公知の可塑剤も使用することができる。
【0058】
<その他の成分>
本発明の水性粘着剤組成物は、更に、タッキファイヤー(粘着付与樹脂)を使用することができる。タッキファイヤーとしては、軟化点が100℃以上のものが好ましく、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等が挙げられ、これらの群より選択される1種又は2種以上を使用することができる。ロジン系樹脂としては、天然ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、不均化ロジン、不均化ロジンエステル等がある。テルペン系樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂等がある。これらの1種又は2種以上組み合わせて使用することが可能であり、更に、その他の公知のタッキファイヤーも使用することができる。
【0059】
上記に例示したようなタッキファイヤーの使用量は、前記エマルション[A]の固形分100質量部に対して、1〜20質量部程度であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。
【0060】
以上、説明したように、本発明の水性粘着剤組成物は、主成分である(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]と、粘性抑制剤として機能する、高酸価で、且つ、中和することで一部或いは全部が膨潤する、(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]とを含み、架橋剤[C]を添加して水分散型感圧性接着剤の塗工液とすることで、高速塗工で、種々の被着体に対して、良好な粘着性と再剥離性とを示す粘着剤層を形成させることができる。本発明を特徴づける特有の膨潤性を有するエマルション[B]の存在により、本発明の水性粘着剤組成物の粘度を適度に抑制することができ、架橋剤[C]を添加した場合に、低粘度を達成した塗工液とすることができる。これにより、水分散型感圧性接着剤において使用されている従来の粘性改良剤では、少なからず粘度が上昇してしまい実現が極めて難しかった、高速塗工に対応することが可能な工業的に優れ、しかも、各種の被着体に対して、いずれの場合も高い粘着性と良好な再剥離性を有する粘着剤層の形成ができる優れた材料の提供が可能となる。
【0061】
[再剥離性の粘着シート]
本発明の再剥離性の粘着シートは、基材シートの少なくとも一方の面に、上記した本発明の水性粘着剤組成物に架橋剤を添加した塗工液によって再剥離性の粘着剤層が形成されてなることを特徴とする。先に述べたように、本発明の水性粘着剤組成物に架橋剤を添加して水分散型感圧性接着剤とした場合に、低粘度が実現され、高速での塗工が可能になるので、粘着剤層の形成における生産性が向上すると同時に、形成される粘着剤層は、優れた粘着性及び再剥離性を示す優れたものになる。本発明の再剥離性の粘着シートは、種々の被着体に対して、初期及び経時での粘着力に優れ、且つ、再剥離性に優れる。
【0062】
上記基材シートとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセテート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂からなる群から選択されるいずれかの樹脂製のフィルムや、ポリオレフィン系樹脂等により製造される合成紙、金属蒸着体、上質紙、コート紙、グラシン紙、感熱紙、ダンボール等の紙基材、及びこれらの紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙等が挙げられる。これらの基材の一方に、剥離処理やエンボス処理等の加工がしてあっても問題はない。基材シートの厚さは、材質や使用目的により異なり特に限定されないが、例えば、10〜100μm程度が適当である。
【0063】
本発明の再剥離性の粘着シートは、通常使用されているロール塗布装置等の塗布装置を用いても得ることができるが、例えば、チャンバーグラビアコーター、リップコーター、カーテンコーター等を用いて高速塗工して、乾燥し、必要に応じて加熱架橋させる方法等によっても得ることもできる。また、本発明の再剥離性の粘着シートを製造する場合、本発明の水性粘着剤組成物に架橋剤を添加した水分散型感圧性接着剤の基材シートへの塗布量は、例えば、10〜50μm程度であることが好ましい。
【実施例】
【0064】
次に、使用した構成材料についての合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、文中「部」又は「%」とあるのは質量基準である。
【0065】
<エマルション[A]の製造例>
(合成例1:実施例用のエマルションA−1の製造)
予め、構成単位(a1)を形成するための由来のモノマーである2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)99部と、構成単位(a2)を形成するための由来のモノマーであるアクリル酸(AAc)1部とを混合して、単量体混合物とし、該混合物100部に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(商品名:レベノールWX、花王ケミカル社製)4部と、イオン交換水56部とを混合して乳化して、単量体混合物の乳化物を調製した。
【0066】
温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水28部を秤量し、窒素を封入して内温を80℃まで昇温させた。そして、その温度に保ちながら、10%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液2部を添加し、直ちに、先に調製した単量体混合物の乳化物を、連続的に4時間滴下して乳化重合した。該乳化重合に並行して、5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液4部を滴下した。滴下終了後、80℃で4時間熟成し、その後、室温まで冷却し、アクリル酸エステル共重合体のエマルション(A−1)を得た。得られたエマルションA−1は、Tgが−69℃で、酸価が7mgKOH/gで、平均粒子径が300nmであり、粘度が150mPa・s/25℃であった。
【0067】
(合成例2:比較例用のエマルションA−2の製造)
合成例1で使用した2−エチルヘキシルアクリレートを97部とし、アクリル酸を3部とした以外は、合成例1と同様にして、アクリル酸エステル共重合体のエマルション(A−2)を得た。得られたエマルションA−2は、Tgが−67℃で、酸価が23mgKOH/gで、平均粒子径が240nmであり、粘度が600mPa・s/25℃であった。
【0068】
<エマルション[B]の製造例>
(合成例3〜7:エマルションB−1〜B−5の製造)
予め、構成単位(b1)を形成するための由来のモノマーである2−エチルヘキシルアクリレート或いはブチルアクリレートと、構成単位(b2)を形成するための由来のモノマーであるアクリル酸(AAc)とを、それぞれ表1に示した配合で用いて混合し、単量体混合物とした。そして該混合物に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(商品名:レベノールWX、花王ケミカル社製)6部と、イオン交換水200部とを混合して乳化し、単量体混合物の乳化物を得た。
【0069】
温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水28部を秤量し、窒素を封入して内温を80℃まで昇温させた。そして、その温度に保ちながら、10%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液2部を添加し、直ちに、先に調製した単量体混合物の乳化物を、連続的に5時間滴下して乳化重合した。該乳化重合に並行して、5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液4部を滴下した。滴下終了後、80℃で4時間熟成し、その後、室温まで冷却した後、イオン交換水を加え濃度を調製することで、固形分30%程度のアクリル酸エステル共重合体のエマルション溶液(B−1〜B−5)を得た。これらのエマルションは、表1に示したように、その酸価が78〜233mgKOH/gであり、いずれも高かった。
【0070】
表1に、得られた各エマルション溶液(B−1〜B−5)の性状を示した。表1に示したように、エマルションB−1及びB−2は、本発明で規定する構成要件を満足する配合のものである。一方、エマルションB−3〜B−5は、本発明で規定する構成要件を満足するものではない。具体的には、エマルションB−3及びB−4は、本発明で規定するエマルション[B]の構成単位(b2)を形成するための由来のモノマーであるアクリル酸(AAc)が、本発明で規定する値よりも少ない配合で合成したエマルションである。また、エマルションB−3〜B−5は、いずれも膨潤率(%)が本発明で規定する範囲外のエマルションである。
【0071】
<エマルション[B]の評価>
上記で得た粘性抑制剤として機能するエマルション溶液(B−1〜B−5)を構成するそれぞれの(メタ)アクリル酸系エステル共重合体の膨潤率を、以下の方法で算出した。まず、上記で得た各エマルション溶液を5〜10倍に水で希釈した後、pHを3.0に調整し、大塚電子社製の濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR−1000)にて粒子径を測定し、「中和前のエマルション[B]を構成する共重合体の平均粒子径」とした。また、上記のpHを約8.0に調整し、同様の方法で粒子径を測定して、「中和後のエマルション[B]を構成する共重合体の平均粒子径」とした。そして、これらの平均粒子径を用い、以下の式より膨潤率をそれぞれ算出した。表1に、得られた膨潤率の算出結果をそれぞれ示した。表1に示したように、合成例3及び4は、本発明で規定する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]であり、合成例5〜7のエマルションは、少なくともその膨潤率で、いずれも、本発明で規定するエマルション[B]に該当しない。
【0072】
【0073】
【0074】
[実施例1]
(粘着剤の作製)
上記で得たエマルション[A]として、A−1を100部(固形分)と、エマルション[B]としてB−1を5部(固形分)とを混合した。そして、アンモニア水で中和してB−1を膨潤させ、水で固形分50%に調整した。その結果、粘度200mPa・s(B型粘度計で測定、25℃)で、pHが8.0の、水性粘着剤組成物を得た。得られた組成物に、架橋剤[C]を添加することで、良好な再剥離性を示す水分散型感圧性接着剤となることについては、後述する方法で評価して確認した。
【0075】
[実施例2〜5、比較例1〜6]
表2に示した種類及び配合量(固形分比)で、それぞれ、エマルション[A]と、エマルション[B]とを混合した以外は実施例1と同様にして、実施例及び比較例の水性粘着剤組成物を調製した。得られた水性粘着剤組成物の物性を確認し、表2に、まとめて記載した。
【0076】
[評価]
上記で得た実施例及び比較例の各水性粘着剤組成物の液安定性について、以下のようにして評価した。また、各水性粘着剤組成物に架橋剤を添加した水分散型感圧性接着剤を用いて粘着剤層を形成し、評価用試料の粘着シートを作製した。得られた評価用試料その粘着剤層について、以下のようにして、粘着力及び保持力を測定するとともに、その再剥離性、被着体への汚染性、基材への投錨性(アンカー効果)及び高速剥離適正を評価した。
【0077】
(評価用の粘着シートの調製)
実施例及び比較例で調製した各水性粘着剤組成物に、下記の架橋剤を1部添加して混合したものを用い、下記のようにして粘着剤層を形成して評価用試料を作製した。架橋剤として、2−3官能で、粘度が150mPa・sの、低粘度の脂肪族エポキシ樹脂であるデナコールEX−313(商品名:ナガセケムテックス社製、エポキシ当量141g/eq.)を用いた。上記の架橋剤を添加した水性粘着剤組成物を、乾燥後の厚さが25μmになるように剥離紙上に塗布し、100℃で1分間乾燥後、上質紙(64g/m
2)に転写して、23℃50%RHの雰囲気で7日間放置することで再剥離性の粘着シートを得た。これを評価用試料とした。
【0078】
1.架橋剤を添加した水性粘着剤組成物の安定性(初期・経時)
架橋剤を添加した水性粘着剤組成物(すなわち、水分散型感圧性接着剤)について、25℃の条件下、1時間放置(初期)及び24時間放置(経時)した後の液状態をそれぞれ観察し、以下の規準で評価した。そして、○、△を合格とし、×を不合格とした。得られた結果を表2に示した。
【0079】
<評価基準>
○:経時の状態が初期と変化なし。
△:経時の状態が、初期の状態と比べて粘度が少し高い。
×:経時の状態が、初期の状態と比べて粘度が明らかに高い、或いはゲル化している。
【0080】
2.粘着力(初期・経時)
評価用の再剥離性の粘着シートのそれぞれの粘着力については、JIS Z−0237の180°引き剥がし粘着力測定に準じて、下記のようにして測定した。具体的には、評価用の再剥離性の粘着シートを幅25mmに切断し、ステンレス(SUS)板、ポリプロピレン(PP)板及び段ボールにそれぞれ貼り付け、2kgのローラーで1往復圧着した。初期の粘着力は、ローラーで圧着直後に、引き剥がし速度300mm/分にて、粘着シートを引き剥がして測定した。また、経時の粘着力は、ローラーで圧着した後、23℃50%RH(相対湿度)で24時間放置した後、引き剥がし速度300mm/分にて、粘着シートを引き剥がして測定した。得られた結果を表2に示した。測定値は、N/25mmである。
【0081】
3.保持力
評価用の再剥離性の粘着シートを用い、JIS Z−0273に準じて、幅25mm長さ50mmに切断した試験片を、接着面積が25mm×25mmになるように、研磨し清浄にしたSUS304板に貼り付け、2kgの圧着ロールで1往復させ圧着させた。その後、23℃50%RH中に30分間放置して、40℃の雰囲気中で1kgの荷重をかけ、落下するまでの時間(秒数)を測定した。すなわち、測定して得られた秒数がより大きいものほど保持力に優れていることを示している。得られた結果を表2に示した。
【0082】
4.再剥離性
評価用の再剥離性の粘着シートを、幅25mmに切断し、これを、ステンレス鋼(SUS)板、ポリプロピレン(PP)板及び段ボールの各被着体にそれぞれ貼り付け、23℃50%RHの雰囲気に7日間放置した。その後、引っ張り試験機にて、引き剥がし速度、300mm/分で剥離し、剥離状態を目視にて観察し、以下の基準で評価した。そして、○、△を合格とし、×を不合格とした。得られた結果を表2に示した。
【0083】
<評価基準>
○:糊残りや紙破れなく、きれいに剥離できる。
△:糊残りや紙破れが若干あるものの、実用上問題のないレベル。
×:糊残りや紙破れが多く、実用不可。
【0084】
5.被着体への汚染性
前記の、評価用の再剥離性の粘着シートの剥離性試験を行った後の、各被着体への汚染(くもり、染み込み等)を目視で観察し、以下の規準で評価した。○、△を合格とし、×を不合格とした。得られた結果を表2に示した。
<評価基準>
○:いずれの被着体にも汚染が全く無い。
△:いずれかの被着体に、少し、くもりや浸み込みが見られる。
×:被着体に、かなりくもりや浸み込みが見られる。
【0085】
6.基材への投錨性
評価用の再剥離性の粘着シートの粘着剤層を形成した面を指でこすり、基材である上質紙(64g/m
2)からの粘着剤層の脱落度合いを観察し、以下の規準で評価した。○、△を合格とし、×を不合格とした。得られた結果を表2に示した。
<評価基準>
○:基材からの粘着剤層の脱落が全くなし。
△:基材から少し、粘着剤層の脱落が認められる。
×:基材から容易に粘着剤層が脱落する。
【0086】
7.高速塗工適正
評価用の再剥離性の粘着シートの形成に用いた、架橋剤を添加した各水性粘着剤組成物(すなわち、水分散感圧粘着剤)を、剥離シートの剥離処理面に、乾燥後の粘着剤層の厚みが20μmになるように、チャンバーグラビアコーターを用いて、塗布速度250m/分で塗工した。そして、塗工した際の、塗工不具合の有無を目視で観察し、以下の規準で評価した。○、△を合格とし、×を不合格とした。得られた結果を表2に示した。
<評価基準>
○:良好に塗工することができた。
△:実用上問題ないレベルで塗工することができた。
×:良好な塗工ができず、実用不可。
【0087】
【0088】
【0089】
表2−1に示したように、本発明で規定する要件を満たす実施例の水性粘着剤組成物では、該組成物に架橋剤を添加して水分散型感圧性接着剤とした場合に、その液は経時の増粘を生じることなく、初期及び経時に安定した粘着力を示し、更に、実施例の組成物を用いて粘着剤層を形成してなる評価用の粘着シートにおいて、再剥離性、保持力、被着体への汚染性、基材への投錨性及び高速塗工適正、のいずれにおいても優れた結果を示すことを確認した。
【0090】
一方、表2−2に示したように、エマルション[B]の使用量が本発明で規定する要件を満たしていない比較例1、2の組成物では、架橋剤を添加した該組成物で粘着剤層を形成した評価用の粘着シートにおいて、いずれも実施例と比べて粘着剤層が良好なものにならなかった。具体的には、使用量が下限未満の比較例1は、実施例の場合と比較して、再剥離性と保持力が不十分であり、使用量が上限超の比較例2では、被着体への汚染性や基材への投錨性が不十分であり、いずれも実用に足るものではなかった。また、エマルション[B]の膨潤率が本発明で規定する範囲のものでない比較例3〜5の組成物では、いずれも実施例と比べて粘着剤層が良好なものにならなかった。具体的には、膨潤率が下限値未満のエマルション[B]を使用した比較例3の組成物を用いた場合は、形成した粘着剤層における再剥離性が不十分であった。一方、膨潤率が上限値を超えるエマルション[B]を使用した、比較例4、5の組成物を用いた場合は、高速塗工適正が不十分であった。これらの理由は、膨潤率が本発明で規定する下限値未満であると、粘着剤層を形成する際の架橋による高分子量化が不十分となり、一方、膨潤率が上限値を超えると、粘性が上がり過ぎてしまい、その結果、高速塗工に対応できなくなったためと考えられる。また、エマルション[A]の組成が本発明で規定する要件を満たしていない比較例6の組成物を用いた場合は、実施例の場合と比べて、形成した粘着剤層の保持力、被着体への汚染性、基材への投錨性のいずれも不十分であった。
【課題】水性の粘着剤層の形成材料でありながら、粘着剤層の形成に使用した場合に、低粘度で、近年における高速塗工に対応でき、形成される粘着剤層が、各種の被着体に対する高い粘着性と、良好な再剥離性を示すものになる水性粘着剤組成物、及び再剥離性の粘着シートの提供。
【解決手段】架橋剤を添加して水分散型感圧性接着剤にすることで再剥離性を示す粘着剤層が形成される水性粘着剤組成物であり、架橋剤[C]と反応する構成単位を特定量で有する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]を主成分とし、該エマルション[A]の固形分100質量部に対して、前記水分散型感圧性接着剤の粘性抑制剤として機能する、膨潤率(%)が200〜550%の、中和によって一部或いは全部が膨潤する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]を、固形分換算で1〜20質量部の量で含む水性粘着剤組成物、及び再剥離性粘着シート。