(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
蛋白質含量が乾物あたり30〜99重量%であって総蛋白質中の脂質親和性蛋白質の割合がLCI値として40%以下に調製された大豆蛋白素材Aの、乳酸発酵物を含有することを特徴とする、製パン改良剤。
大豆蛋白素材Aの植物ステロール含量がカンペステロールおよびスチグマステロールの和として脂質100gに対して200mg以上である、請求項1又は2記載の製パン改良剤。
蛋白質含量が乾物あたり30〜99重量%であって総蛋白質中の脂質親和性蛋白質の割合がLCI値として40%以下に調製された大豆蛋白素材Aの、乳酸発酵物を含有することを特徴とする、製パン用乳化油脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の製パン改良剤は、大豆蛋白素材の乳酸発酵物を含有する製パン改良剤であって、該大豆蛋白素材は、総蛋白質中の脂質親和性蛋白質の割合がLCI値として40%以下の大豆蛋白素材Aであることを特徴とする。以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
(パン)
本発明において、パンの用語は小麦粉や米粉等の穀粉を主原料とし、これに水、油脂類、糖類、澱粉類、調味料、卵、乳製品、イーストフード、酵素類、乳化剤、フレーバー等の原料を必要に応じて添加し、パン酵母の添加の有無に係わらず混捏工程を得て得られた生地を焼成、蒸し等により加熱し、得られるものをいう。例えば、食パン、菓子パン、特殊パン(グリッシーニ、マフィン等)、テーブルロール、調理パン、デニッシュペストリー、ピザ、ピタパン、ナンなどのパン酵母による発酵を行うものだけでなく、蒸しパン、中華まん、チャパティ、プーリー、ホットケーキ、ワッフル、蒸しケーキ、スポンジケーキ、クレープ、饅頭などのように発酵しないものも広く含まれる。特にソフトな食感が好まれる種類のパンが好ましい。本発明においてパンの製法としては、一般的に使用される中種法、ストレート法、冷凍生地法、冷蔵生地法などを用いることができる。
【0014】
(製パン改良剤)
本発明の製パン改良剤は、下記に説明する特定の組成を有する大豆蛋白素材を乳酸発酵した乳酸発酵物を含むことが重要であり、該乳酸発酵物単独又はその他の既存の食品原料や品質改良剤と混合し、製品として提供することができる。
【0015】
(大豆蛋白素材)
本発明の製パン改良剤の主成分である乳酸発酵物の発酵原料として使用される特定の大豆蛋白素材は、大豆から水抽出されるグリシニン及びβ−コングリシニンを主体とする蛋白質を主な構成成分とし、かつ総蛋白質中の脂質親和性蛋白質の割合が少ないものである。
すなわち、総蛋白質中の脂質親和性蛋白質の割合がLCI値として40%以下であることを特徴とする大豆蛋白素材である(以下、これを「大豆蛋白素材A」と称する。)。かかる大豆蛋白素材Aの乳酸発酵物をパンに添加することにより、ソフトな食感であってかつソフトな食感の持続性が高いパンを得ることができる。総蛋白質中の脂質親和性蛋白質の割合が高くなるほどパン生地中のグルテン形成への影響が大きくなるためか、ソフトな食感の持続性が低下する傾向にある。このような大豆蛋白素材Aの例としては、特許文献5に開示される「減脂大豆蛋白素材」や特許文献6に記載される豆乳や分離大豆蛋白などを適用することができる。
【0016】
大豆蛋白素材Aの製品の形態としては上記要件を満たす限り特に限定されず、具体的には豆乳が挙げられるが、豆乳以外の形態としては、該豆乳を原料としてさらに蛋白質の純度を高めた形態が挙げられ、典型的には豆乳から糖質、灰分等の水溶性成分を除去して蛋白質の純度を高めた分離大豆蛋白や、前記豆乳あるいは分離大豆蛋白の蛋白質をさらに分画してグリシニンあるいはβ−コングリシニンの純度を高めた分画大豆蛋白の形態が挙げられる。
【0017】
大豆蛋白素材Aの蛋白質含量は乾物あたりで30〜99重量%の範囲が好ましい。大豆蛋白素材Aが豆乳の形態の場合、通常は下限が乾物あたり45重量%以上、あるいは50重量%以上、あるいは55重量%以上であり、上限が70重量%以下、あるいは65重量%以下でありうる。蛋白質の分画や他の成分の添加など、加工方法によっては30重量%以上45重量%未満の範囲にもなりうる。また大豆蛋白素材Aが当該豆乳をさらに精製して蛋白質純度を高めた分離大豆蛋白の形態の場合は、下限が70重量%超、あるいは80重量%以上であり、上限は99重量%以下、あるいは95重量%以下でありうる。なお、本発明における蛋白質含量はケルダール法により窒素量として測定し、該窒素量に6.25の窒素換算係数を乗じて求めるものとする。
【0018】
脂質親和性蛋白質は、大豆の主要な酸沈殿性大豆蛋白質の内、グリシニン(7Sグロブリン)とβ−コングリシニン(11Sグロブリン)以外のマイナーな酸沈殿性大豆蛋白質群をいい、レシチンや糖脂質などの極性脂質を多く随伴するものである。以下、単に「LP」と略記することがある。
LPは雑多な蛋白質が混在したものであるが故、各々の蛋白質を全て特定し、LPの含量を厳密に測定することは困難であるが、下記LCI(Lipophilic Proteins Content Index)値を求めることにより推定することができる。
これによれば、大豆蛋白素材A中の蛋白質のLCI値は通常40%以下、より好ましくは38%以下、さらに好ましくは36%以下である。
通常の未変性(NSI 90以上)の大豆を原料として一般的な大豆蛋白素材を製造する場合ではLPは可溶性の状態で存在するため、水抽出すると水溶性画分側へ抽出される。一方、大豆蛋白素材Aでは、LPを原料大豆中において加熱処理によって変性させ不溶化させて製造するため、LPが抽出されにくく不溶性画分側に残る。
このように蛋白質中におけるLPの割合を低減することによって脂質の含有量を極めて低レベルに保った大豆蛋白素材を得ることがきる。
【0019】
○蛋白質の各成分の組成分析
大豆蛋白素材Aの蛋白質の各成分組成はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分析することができる。
界面活性剤であるSDSと還元剤であるメルカプトエタノールの作用によって蛋白質分子間の疎水性相互作用、水素結合、分子間のジスルフィド結合が切断され、マイナスに帯電した蛋白質分子は固有の分子量に従った電気泳動距離を示ことにより、蛋白質に特徴的な泳動パターンを呈する。電気泳動後に色素であるクマシーブリリアントブルー(CBB)にてSDSゲルを染色した後に、デンシトメーターを用い、全蛋白質のバンドの濃さに対する各種蛋白質分子に相当するバンドの濃さが占める割合を算出する方法により求めることができる。
【0020】
〔LP含量の推定・LCI値の測定方法〕
(a) 各蛋白質中の主要な蛋白質として、7Sはαサブユニット及びα'サブユニット(α+α')、11Sは酸性サブユニット(AS)、LPは34kDa蛋白質及びリポキシゲナーゼ蛋白質(P34+Lx)を選択し、SDS−PAGEにより選択された各蛋白質の染色比率を求める。電気泳動は表1の条件で行うことが出来る。
(b) X(%)=(P34+Lx)/{(P34+Lx)+(α+α’)+AS}×100(%)を求める。
(c) 低変性脱脂大豆から調製された分離大豆蛋白のLP含量は凡そ38%となることから、X=38(%)となるよう(P34+Lx)に補正係数k*=6を掛ける。
(d) すなわち、以下の式によりLP推定含量(Lipophilic Proteins Content Index、以下「LCI」と略する。)を算出する。
【0022】
大豆蛋白素材Aは、一般に水溶性で抽出されやすいリポキシゲナーゼ蛋白質が極めて少ないことも大きな特徴であり、上記のLCI値で特定する代替としてリポキシゲナーゼ蛋白質量でも特定することができる。この場合、大豆蛋白素材A中の全蛋白質あたり1%以下であり、好ましくは0.5%以下である。
通常の未変性(NSI 90以上)の大豆を原料として一般的な大豆蛋白素材を製造する場合ではリポキシゲナーゼ蛋白質は可溶性の状態で存在するため、水抽出すると水溶性画分側へ抽出される。一方、大豆蛋白素材Aではリポキシゲナーゼ蛋白質を原料大豆中において加熱処理によって失活させ不溶化させて製造するため、リポキシゲナーゼ蛋白質が抽出されにくく不溶性画分側に残る。
このように蛋白質中におけるリポキシゲナーゼ蛋白質の割合を極めて少なくすることによって、脂質の含有量を極めて低レベルに保った大豆蛋白素材を得ることがきる。
【0023】
リポキシゲナーゼ蛋白質の場合は通常L-1、L-2、L-3の3種類が存在し、上記の電気泳動法により、リポキシゲナーゼ蛋白質に相当するこれらのバンドの濃さから含量を算出できる。
【0024】
大豆蛋白素材Aは糖質及び蛋白質が乾物の大部分を占める主成分であることができ、この場合は炭水化物(乾物から脂質、蛋白質及び灰分を除いたもの)の含量は、蛋白質との総含量で表すと乾物あたり80重量%以上が好ましく、より好ましくは85重量%以上である。乾物の残成分は灰分と微量の脂質からほぼ構成され、灰分は乾物当たり通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下である。食物繊維は炭水化物に含まれるものの、大豆蛋白素材Aは食物繊維質が除去されているので、乾物当たり3重量%以下、好ましくは2重量%以下の微量である。
【0025】
大豆蛋白素材Aは、原料である大豆粉の脂質含量/蛋白質含量の比よりも低い値の脂質しか含まれず、中性脂質と共に極性脂質の含量も低いことが好ましい。これに対し、一般に脱脂豆乳などは大豆をヘキサンで脱脂した脱脂大豆を水抽出して得られるが、この脱脂豆乳は極性脂質が除去されておらずなお多く含まれる。
そのため、大豆蛋白素材A中の脂質含量は、試料を凍結乾燥後、クロロホルム:メタノールが2:1(体積比)の混合溶媒を用い、常圧沸点において30分間抽出された抽出物量を総脂質量として、脂質含量を算出した値とする。溶媒抽出装置としてはFOSS社製の「ソックステック」を用いることができる。なお上記の測定法は「クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出法」と称するものとする。
【0026】
大豆蛋白素材Aは、脂質含量が蛋白質含量に対して10重量%未満が好ましく、より好ましくは9重量%未満、さらに好ましくは8重量%未満、さらに好ましくは5重量%未満、さらに好ましくは4重量%以下であり、3重量%以下とすることも可能である。すなわち蛋白質よりも中性脂質と極性脂質を含めた総脂質が極めて少ない大豆蛋白素材が1つの好ましい態様である。LPが少なくかつ総脂質が少ない大豆蛋白素材を乳酸発酵に供することにより、青臭みが極めて感じにくいすっきりとした風味の乳酸発酵物を得ることができ、パン生地に加えてもパンの風味に影響を及ぼしにくい。このような素材としては、例えば特許文献5に開示される「減脂大豆蛋白素材」が該当する。通常の有機溶剤を用いて脱脂された脱脂大豆から抽出した脱脂豆乳も中性脂質は殆ど含まれないが、極性脂質が一部抽出されるため、蛋白質に対する脂質含量はおよそ5〜6重量%である。この態様の場合、乾物あたりでの脂質含量も5重量%以下が好ましく、好ましくは3重量%以下、より好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1.5重量%以下でありうる。
【0027】
大豆蛋白素材Aは、植物ステロールの脂質に対する含量が通常の脱脂豆乳よりも格段に高いことが1つの好ましい態様であり、上述の低脂質の態様および本態様の組合せがより好ましい。このような素材としては、例えば特許文献5に開示される「減脂大豆蛋白素材」が該当する。植物ステロールの含量はカンペステロール及びスチグマステロールの含有量の和で表した場合、ヘキサン等の有機溶媒で脱脂された脱脂大豆を原料に調製された大豆蛋白素材では、脂質100g当たり40〜50mg程度であるが、大豆蛋白素材Aとしては脂質100g当たりで少なくとも200mg以上という高含量であることが好ましい。より好ましくは230mg以上、さらに好ましくは400mg以上、さらに好ましくは450mg以上、さらに好ましくは500mg以上という高含量でありうる。これら植物ステロールの含有量は、特許文献5に記載の方法で求めることができる。
【0028】
大豆蛋白素材Aが豆乳の形態で、性状が液体の場合、乾物(dry matter)は通常3〜20重量%程度であるが、特に限定されるものではない。すなわち加水して低粘度の液状としたものや、減圧濃縮や凍結濃縮等の濃縮加工により高粘度化したものであってもよく、また噴霧乾燥や凍結乾燥等の粉末加工により粉末状としたものであってもよい。
【0029】
(乳酸発酵物)
本発明の製パン改良剤は、上述した大豆蛋白素材Aを乳酸菌で発酵させた乳酸発酵物を含むことが特徴である。
【0030】
大豆蛋白素材Aは溶液又は分散液の状態で発酵に供すればよい。
【0031】
また大豆蛋白素材Aを含む液(大豆蛋白素材A含有液)と油脂とを適当な割合で混合し、必要に応じて均質化して、水相と油相からなる混合液や乳化液としておくこともできる。この場合、油脂は動植物由来の油脂、それらの加工油脂など公知の油脂を使用することができる。例えば牛脂、豚脂、大豆油、綿実油、米油、コーン油、ヤシ油、パーム油、カカオ脂等やこれらを硬化、分別、エステル交換等したものを単独あるいは混合して用いることができる。
また大豆蛋白素材A含有液を加温しつつ、モノグリセリド、有機酸モノグリセリド、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤を添加し、混合均質化して、複合体としておくこともできる。
【0032】
製パン改良剤のパン生地への添加量によって効果は多少変化するが、乳酸発酵物中の大豆固形分の割合は2〜15重量%、好ましくは4〜10重量%が適当である。パンの食感、特にソフトさの持続性については、大豆固形分中に含まれる大豆蛋白の保水性の強さによってパン中の自由水が固定されて移動しにくくなるため、澱粉の老化が抑制されるものと考えられる。大豆固形分2重量%未満であると老化防止に有効な大豆蛋白質が不足するためか効果が少なくなる傾向にある。
【0033】
○発酵方法
発酵方法は特に限定されず、例えば大豆蛋白素材Aやこれを含む混合物に乳酸菌スターターを接種した後、その菌株に適した温度と時間で培養し、必要に応じて雰囲気の嫌気性等の条件を適宜決定して発酵を行うことができる。使用する乳酸菌が酸素の存在下では生育しにくい場合には、窒素などの不活性ガスの存在下において発酵することができる。発酵の程度についてはpHで概ね5.4以下になることが望ましい。
発酵は菌株を複数種組み合わせた混合発酵であっても良いし、菌株を複数種組み合わせた連続発酵であってもよい。
発酵に際しては、予め大豆蛋白素材Aにショ糖、ブドウ糖、果糖、転化糖などの食品に用いられる糖類、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、ペプチドなどの微生物の増殖に必要な栄養素を添加することができる。
また、使用する微生物の至適pHに調整するために、培養液に予めクエン酸、リンゴ酸、乳酸等の食品に用いられる酸を添加することができる。
また、乳酸発酵物を液状で流通させる場合には、酸性下において大豆蛋白質を安定化させるために、水溶性大豆多糖類、ペクチン、CMC等の安定剤を添加しておくことができる。
【0034】
○乳酸菌
例えば乳酸菌としては、通常のヨーグルトに使用されている菌種を用いればよく特に限定されない。例えばラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ブルガリカス、ラクトバチルス・ガッセリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ラクチス、ラクトバチルス・サリバリウス・サリバリウス、ラクトバチルス・ガリナラム、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・ブレビス・ブレビス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・マリ、ラクトバチルス・デルブルッキィ、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス、ラクトバチルス・パネックス、ラクトバチルス・コモエンシス、ラクトバチルス・イタリカス、ラクトバチルス・ライキマニ、ラクトバチルス・カルバタス、ラクトバチルス・ヒルガルディ、ラクトバチルス・ルテリ、ラクトバチルス・パストリアヌス、ラクトバチルス・ブクネリ、ラクトバチルス・セロビオサス、ラクトバチルス・フルクティボランス等のラクトバチルス属、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・ジアセチルラクチス等のストレプトコッカス属、ラクトコッカス・ラクチス・ラクチス、ラクトコッカス・ラクチス・クレモリス等のラクトコッカス属、ロイコノストック・メセンテロイデス・クレモリス、ロイコノストック・ラクチス等のロイコノストック属等の乳酸菌を特に限定なく用いることができる。また、乳酸菌の一種として各種ビフィズス菌を使用して発酵させてもよい。
【0035】
○殺菌
以上のようにして得られた乳酸発酵物はパン生地への添加時において、品質安定化のため殺菌されていることが好ましい。殺菌手段は特に限定しないが、加熱殺菌が生産上好適である。乳酸菌が生きていると、パン生地の発酵時に乳酸菌による発酵が進み過ぎて、酸度が上昇し易くなり、酸度が上昇してパン生地のpHが低下し過ぎることによりグルテンが軟化し過ぎて、パン製造時の作業性が低下する。
このような場合、焼成後のパンにはケービング(パンの側面が凹んだ状態)が生じ、軟化したパンとなってしまい食感も低下する。製パン改良剤が殺菌されていると乳酸菌がパン生地の発酵時に増殖することがなく、パン生地への作用が安定するものである。
加熱殺菌には概ね70℃以上の低温殺菌法や、100℃以上の高温殺菌法があり、プレート熱交換機を利用した間接殺菌方式や直接蒸気を吹き込む直接殺菌方式又は容器詰め加圧加熱殺菌方式などを採用しうる。
【0036】
該乳酸発酵物を含む製パン改良剤のpHは、使用する乳酸菌の種類、複数種を組み合わせる場合にはその組み合わせ、発酵の程度により異なるが、通常3.7〜5.4、好ましくは4.0〜5.0が適当である。
【0037】
本発明の製パン改良剤をパン生地中に原料として添加することにより、得られるパンは従来よりもソフトな食感と良好な風味を呈する。
【0038】
本発明の製パン改良剤のパン生地中への添加方法には、他の原料と一緒に直接混合する方法や、予め製パン改良剤を水相と油相から成る乳化油脂組成物中に添加しておき、該乳化油脂組成物をパン生地に混合する方法等を採用できる。
【0039】
(製パン用乳化油脂組成物)
本発明の製パン改良剤の主成分であるLCI値が40%以下の大豆蛋白素材Aの乳酸発酵物は、乳化油脂組成物の水相に配合し、製パン用乳化油脂組成物とすることができる。該乳化油脂組成物はマーガリンやファットスプレッド等の油中水型乳化油脂組成物としてもよいし、クリームやフィリング等の水中油型乳化油脂組成物としてもよい。パン生地のグルテン形成への影響をより少なくし、より少量で生地中のグルテンネットワーク中に分散させることができ、製パン改良剤としての機能をより発揮させうる点で、油中水型乳化油脂組成物がより好ましい。これらの乳化油脂組成物は、該乳酸発酵物配合する以外には公知の方法と原材料を用いて製造すればよい。油相の比率は、油中水型と水中油型のいずれにするか、製パン改良剤の添加量等によって適宜決定すればよいが、通常は油中水型の場合には30〜90重量%、水中油型の場合には5〜60重量%とすればよい。
【0040】
該乳酸発酵物のパン生地中への添加量は特に限定されないが、抗細菌性と抗黴性に対する効果の観点から、パン生地中の小麦粉100重量部に対して、3〜35重量部、好ましくは5〜25重量部が適当である。添加量が少なすぎるとソフトで老化が遅くなる効果と保存性の向上効果が発揮されにくくなる場合があり、多すぎると製パン改良剤に含まれる発酵生成物である酸によってグルテンが軟化し過ぎる場合がある。
【0041】
パン生地に用いる製パン用穀粉は、小麦粉、全粒粉、米粉など通常使用されているものを単独又は適宜組み合わせて使用できる。小麦粉は強力粉、中力粉等の種別を限定するものではない。パンの製造は、通常用いられる方法を用いれば良く、製パン改良剤を前記方法によりパン生地に配合し、発酵膨化させ又はさせずに、焼成もしくは蒸し、フライ等の加熱をして製造することが出来る。パンの生地には、本製パン改良剤と製パン用穀粉にパン用酵母、食塩、水等の主原料を加えて通常の方法により得ることが出来るが、他に食塩、水、イーストフード、その他必要に応じて油脂類(ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等)、乳化剤、乳製品、糖類、調味料(グルタミン酸類、核酸等)、化学膨張剤、フレーバー等の副原料を添加・混捏して得ることが出来る。この生地を、必要により発酵工程を経て焼成等してパンを得ることが出来る。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。なお、以下特に断りのない限り、「%」と「部」は重量基準である。
【0043】
○製造例1(低LP豆乳の調製)
特許文献5に記載の方法に準じ、NSI 56の大豆粉5kgに対して9倍量、60℃の水を加えて懸濁液とし、保温しながら30分間攪拌し、水抽出した。このときのpHは6.5であった。3層分離方式の遠心分離を6,000×gにて連続的に行い、(1)浮上層・(2)中間層・(3)沈殿層に分離させた。そして(2)中間層として減脂豆乳12kgを回収した。得られた画分を凍結乾燥し、一般成分として乾物、並びに、乾物あたりの蛋白質(ケルダール法による)、脂質(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出法による)及び灰分を測定し、さらに脂質100g当たりの植物ステロール含量(カンペステロール及びスチグマステロール含量の和)(mg)、SDS-PAGEによりリポキシゲナーゼ蛋白質含量、LPの含量の推定値としてLCI値の分析を行った(表2参照)。
【0044】
○比較製造例1(通常の全脂豆乳の調製)
脱皮脱胚軸大豆1部に水10部を加え、85℃で60分間以上浸漬して十分に吸水した脱皮脱胚軸大豆(水分含量40〜55%)1部に対し、熱水(90℃)3部を加えたものをグラインダーで処理し、これに重曹溶液を添加してpHを7.3以上8.0以下に調整した。これをホモゲナイザー(APV社製)に供給し、150kg/cm
2で均質化処理した。均質化した磨砕液は遠心分離によって3000Gで5分間分離して豆乳とおからを得た。この原料豆乳(全脂豆乳)は固形分9.0%、蛋白質4.5%でpH7.5であった。
【0045】
(表2)
【0046】
(製パン改良剤)
製造例1で得られた低LP豆乳80部を60℃に加熱し、砂糖5部、水溶性大豆多糖類「ソヤファイブ」(不二製油(株)製)1部を水14部に溶解あるいは分散して添加混合した後、ホモゲナイザーで150kg/cm
2で均質化処理したものを、直接蒸気加熱殺菌にて145℃、4秒加熱を行った。殺菌後、42℃まで冷却し、ラクトバチルス・ブルガリカス、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ビフィドバクテリウム・ロンガムの各種市販乳酸菌(凍結乾燥菌)の個別培養液をスターターとして、各1%ずつ添加し、42℃、6時間、pH4.6となるまで発酵を行った。次いで、7℃まで攪拌冷却して得られたカード状の発酵豆乳を攪拌により均質化したものを「製パン改良剤P」とした。
比較として、比較製造例1で得られた全脂豆乳を用いて上記と同様にして「製パン改良剤Q」を調製した。
【0047】
○実施例1、比較例1 −製パン改良剤を配合したパン−
上記製パン改良剤P,Qを添加して、表3の配合と表4の作業工程で約5kg規模により、70%中種法にて食パンを製造した。小麦粉としては強力粉「イーグル」(日本製粉(株)製)を、イーストとしては生イースト「オリエンタルイースト」(オリエンタル酵母工業(株)製)を、油脂としてはショートニング「パンパスピュアレ」(不二製油(株)製)を用いた。
【0048】
(表3)配合表
【0049】
(表4)作業工程
【0050】
製造した食パンに対しソフト感(製造直後)、ソフト感の持続性、口溶けおよび風味について官能による品質評価を10名の嗜好パネラーに依頼して行った。評価基準は1点:不良、2点:やや不良、3点:許容できる、4点:良好、5点:非常に良好 として絶対評価を行ってもらい、10名の平均値を求めた。そして平均値によりA(4.5点以上)、B(3.5点以上4.5点未満)、C(2.5点以上3.5点未満)、D(1.5点以上2.5点未満)、E(1.5点未満)の5段階で評価付けした。なお、ソフト感の持続性は、食パン製造日の2日後の官能検査の結果を示す。結果を表5に示す。
【0051】
(表5) パンの評価
【0052】
実施例1、比較例1共にソフトな食感を有していたものの、特に実施例1の食感は、比較例1よりもさらにソフトな食感となっており、特にソフト感の持続性が高く、かつ口溶けが良く、しかも風味面でもパンの風味が強く出ており優れていた。
【0053】
○製造例2(製パン改良剤Pを使用した製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物)
パーム分別硬化油を2.0部、エステル交換油 を10.0 部、パーム分別油を57.5部を、混合させ油相を得た。また、製パン改良剤Pを30.0部に食塩0.5部を溶解させ水相を得た。油相と水相を60 ℃ で予備乳化させ、コンビネーターで急冷捏和し、組織良好な製パン練り込み用油脂組成物X(油脂組成物中の製パン改良剤Pの含量30重量%)を得た。
【0054】
○比較製造例2(通常の製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物)
パーム分別硬化油を2.0 部、エステル交換油 を10.0 部、パーム分別油を70.0部を、混合させ油相を得た。また、水17.5部に食塩0.5部を溶解させ水相を得た。油相と水相を60 ℃ で予備乳化させ、コンビネーターで急冷捏和し、製パン練り込み用油脂組成物Yを得た。
【0055】
○比較製造例3(製パン改良剤Qを使用した製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物)
パーム分別硬化油を2.0部、エステル交換油 を10.0 部、パーム分別油を57.5部を、混合させ油相を得た。また、比較パン改良剤を30.0部に食塩0.5部を溶解させ水相を得た。油相と水相を60 ℃ で予備乳化させ、コンビネーターで急冷捏和し、組織良好なパン練り込み用油脂組成物Zを得た。
【0056】
○実施例2、比較例2,3) −製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物を配合したパン−
製造例2および比較製造例2,3で得られた製パン練り込み用油脂組成物X〜Zをそれぞれ添加(小麦粉に対して製パン改良剤として6%)して、表6の配合と表7の作業工程で約5kg規模により、70%中種法にてパンを作製した。小麦粉としては強力粉「イーグル」(日本製粉(株)製)を、イーストとしては生イースト「オリエンタルイースト」(オリエンタル酵母工業(株)製)を用いた。
【0057】
(表6)配合表
【0058】
(表7)作業工程
【0059】
製造したパンに対し実施例1と同様にして品質評価を行った。結果を表8に示す。
【0060】
(表8) パンの評価
【0061】
比較例2と異なり、実施例2、比較例3のパンは共にソフトな食感を有していたが、実施例2のパンの食感は、比較例3のパンよりさらにソフトな食感を有しており、特にソフト感の持続性が高く、しかも口溶けが良く風味も優れていた。
実施例1および実施例2のパンの品質は同等であったが、実施例2のように本発明の製パン改良剤を添加した油脂組成物を調製してからパン生地に練り込むと少量で同等の効果が得られた。