(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
最近、限外濾過、精密濾過、逆浸透などに使用される多孔質濾過膜は、例えば、飲料水製造、上下水道処理、あるいは廃液処理など、多くの産業分野で利用されている。
このような多孔質濾過膜の中で、限外濾過膜や精密濾過膜は水質の浄化などに多用されており、例えば、透水性や機械的・化学的耐久性に優れるポリフッ化ビニリデンを主材とする多孔質濾過膜が多用されている。しかしながら、該ポリフッ化ビニリデン多孔質濾過膜は、疎水性が高く、ファウリングし易いことが問題となっている。
ファウリングとは、原水に含まれるファウラントと呼ばれる原因物質、例えば、難溶性成分や、蛋白質、多糖類などの高分子の溶質、コロイド、微小固形物、微生物などが膜に沈着して透過流速を低下させる現象であり、膜性能低下の主要原因として知られている。
このようなファウリング対策としては、定期的に界面活性剤溶液を流したり、逆洗と呼ばれる通常とは逆向きに水を流したりして多孔質濾過膜を洗浄し、ファウラントを除去する方法がある。また、ファウリング抑制のための前処理剤などを使用する方法、あるいは、膜の作製方法に手を加えることにより、膜自体にファウリングを低減する効果を付与する方法なども検討されてきた。
これらは、ファウリングを抑制する方法としては一定の効果はあるものの、蛋白質や微生物を原因とするファウリングに対する効果は十分とは言えなかった。また、前処理剤による方法では、これを使用し続けなければいけないという問題があり、膜の作製方法に手を加える方法では、水処理場で使用中の膜には使えないという問題がある。
【0003】
そのため、このような蛋白質や微生物を原因とするファウリングに対する比較的効果の高い方法として、膜表面を親水化させる方法が知られている。例えば、特許文献1には、膜をポリビニルアルコールを含む溶液に浸漬させて、ポリビニルアルコールで被覆する方法が開示されている。しかし、このような方法では次亜塩素酸ナトリウムなどアルカリによる薬品洗浄後に十分なファウリング抑制効果を示さない、即ち耐薬品性がないという問題がある。
【0004】
また、特許文献2には、膜を2―メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンとn−ブチルメタクリレートのポリマーを含む溶液に浸漬させてポリフッ化ビニリデン多孔質濾過膜に2―メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーを被覆する方法が、特許文献3には2―メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン及びn−ブチルメタクリレートを含有するポリマーからなる水処理用多孔質濾過膜のファウリング防止剤が開示されている。
しかし、これら開示されている該2―メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーで処理された水処理用多孔質濾過膜は、パパインや牛血清アルブミンなどの蛋白質を汚染物質として作成したモデル汚染水を用いた場合には高いファウリング抑制効果が得られるものの、実際の汚染水を用いた場合には、急激に水処理用多孔質濾過膜のファウリングが発生する場合があり、実効性のあるファウリング抑制効果を得ることは困難であることが多い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のファウリング抑制剤組成物は、(a−1)2―メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン及び(a−2)n−ブチルメタクリレートを含むモノマーの共重合体(a)、並びにポリビニルアルコール(b)を含有する。
共重合体(a)を構成する(a−1)2―メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンと、(a−2)n−ブチルメタクリレートの構成比は、モル比で、(a−1)/(a−2)=10/90〜70/30であり、好ましくは20/80〜50/50であり、より好ましくは30/70〜40/60である。2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンが10モル%未満でn−ブチルメタクリレートが90モル%を超える場合には、十分なファウリング抑制効果を示さないおそれがある。一方、2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンが70モル%を超え、n−ブチルメタクリレートが30モル%未満の場合には、やはり十分なファウリング抑制効果を示さないおそれがある。
なお、共重合体(a)を形成した後は、正確には(a−1)由来部及び(a−2)由来部と称すべきであるが、便宜上、各モノマー名で当該由来部を指すものとする。
共重合体(a)中の、(a−1)2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンの存在量の測定は、例えば、X線光電子分光法により行うことができる。
【0013】
なお、共重合体(a)は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体等いずれの構造であってもよく、これらの共重合体の混合物でもよい。またグラフト構造を有していてもよい。さらに、(a−1)及び(a−2)以外の共重合モノマー由来部を、本発明の効果を阻害しない範囲で有していてもよい。
共重合体(a)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による、標準ポリエチレングリコールを用いて換算した重量平均分子量で、10,000〜300,000であり、好ましくは30,000〜300,000である。該分子量が10,000未満の場合には、多孔質濾過膜表面から共重合体(a)が短時間で溶出するおそれがあり、分子量が300,000を超える場合は、(a)が溶媒である水に難溶で、本発明に用いることができないおそれがある。
【0014】
前記共重合体(a)の重合法としては、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等公知の方法を用いることができ、例えば、(a−1)2―メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンと、(a−2)n−ブチルメタクリレートとを溶媒中で開始剤の存在下、重合反応させる方法を採用することができる。
前記重合反応に用いる溶媒としてはモノマーである(a−1)及び(a−2)が溶解すればよく、具体的には例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、t−ブタノール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルム又はこれら2種以上の混合液が挙げられる。
前記重合反応に用いる開始剤としては、通常の開始剤ならばいずれを用いてもよく、例えば、ラジカル重合の場合は脂肪族アゾ化合物や有機過酸化物を用いることができる。
【0015】
本発明に用いるポリビニルアルコール(b)は、そのけん化度が72〜93モル%であり、好ましくは72〜89モル%である。けん化度が72モル%未満の場合は、水に溶解しないおそれや十分なファウリング抑制効果を示さないおそれがある。けん化度が93モル%超える場合は、やはり十分なファウリング抑制効果を示さないおそれがある。
なお、けん化度はJIS K6726に従い測定することができる。水酸化ナトリウムで試料中の残存酢酸基(モル%)を定量し、100モル%から差し引いてけん化度(モル%)を算出する。
【0016】
ポリビニルアルコール(b)の重合度は、300〜1,000である。重合度が300未満の場合は、多孔質濾過膜表面からポリビニルアルコール(b)が短時間で溶出するおそれがあり、重合度が1,000を超える場合は、次亜塩素酸ナトリウムなどアルカリによる薬品洗浄後に十分なファウリング抑制効果を示さないおそれがある。
なお、重合度はJIS K6726に従い測定することができる。けん化されていない残存酢酸基を水酸化ナトリウムを用いて完全にけん化した後、粘度計を用いて水との相対粘度を求め、相対粘度から計算によって重合度を算出する。
【0017】
共重合体(a)とポリビニルアルコール(b)の質量比[(a)/(b)]は、25/75〜75/25であり、好ましくは25/75〜50/50である。(a)が25質量%未満であって(b)が75質量%を超える場合は、薬品洗浄後に十分なファウリング抑制効果を示さないおそれがある。
(a)が75質量%を超え(b)が25質量%未満の場合は、やはり薬品洗浄後に十分なファウリング抑制効果を示さないおそれがある。
【0018】
本発明のファウリング抑制剤組成物は、ハンドリング性の点、及び共重合体(a)製造後に水等の反応溶媒を除去する必要がない点で、水溶液等の溶液形態で取り扱うことが好ましい。反応溶媒を除去する工程を不要とすることで、ファウリング抑制剤組成物を製品化する場合において、コスト的にも有利である。
ファウリング抑制剤組成物を溶液形態とする場合の溶媒としては、安全性等の面で水が好ましく、通常、精製水、イオン交換水、上水等を用いることができる。ファウリング抑制効果の点で精製水が好ましい。
しかし所望により、本発明の効果を損なわない範囲で有機溶媒を混合して使用してもよい。用いられる有機溶媒としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類を挙げることができる。
【0019】
上記溶液形態とする場合、本発明のファウリング抑制剤組成物溶液中の、共重合体(a)及びポリビニルアルコール(b)の含有濃度は、輸送効率及び製品としてのコスト面で、できる限り高濃度であることが望ましい。しかし、高濃度になるにつれハンドリング性や水での希釈性が悪くなる傾向があるので、ファウリング抑制剤組成物溶液中の(a)及び(b)の濃度の和は1〜50質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。
【0020】
また、本発明のファウリング抑制剤組成物には、必要に応じて各種添加剤成分を含有させることができる。例えば、pHを安定させるためのリン酸塩などの緩衝液成分、あるいはNaClなどの塩成分や次亜塩素酸ナトリウムなどの洗浄・抗菌成分が挙げられる。
【0021】
本発明のファウリング抑制剤組成物を付着処理させる多孔質濾過膜(以降、未処理多孔質濾過膜と称する)としては、ポリフッ化ビニリデン製多孔質濾過膜、ポリエチレン製多孔質濾過膜などを使用することができる。これらの未処理多孔質濾過膜は、親水性ポリマーなどの親水化剤があらかじめコートされていても良い。また、未処理多孔質濾過膜の形態は、中空糸状、チューブ状、フィルム状等どのような形態でも良い。このような形態の未処理多孔質濾過膜の製造は、公知の方法により行うことができる。
また、未処理多孔質濾過膜は、未使用のもの、水処理場で使用中のものどちらであっても、本発明のファウリング抑制剤組成物を付着処理させることができるが、水処理場で使用中の未処理多孔質濾過膜を用いる場合は、予め公知の方法で洗浄し、ファウラントをできるだけ除去しておくことが望ましい。
【0022】
未処理多孔質濾過膜に本発明のファウリング抑制剤組成物を付着処理させる方法は、例えば、ファウリング抑制剤組成物の水溶液に、未処理多孔質濾過膜を浸漬する方法、未処理多孔質濾過膜を濾過機に固定し、ファウリング抑制剤組成物の水溶液を濾過する方法が挙げられる。また、水処理場の設備を使用してファウリング抑制剤組成物を接触させてもよい。
前記付着処理させる際の条件は、本発明の効果が得られるように、未処理多孔質濾過膜表面を改質しうる範囲で適宜選択することができる。具体的な条件としては、例えば、ファウリング抑制剤組成物の水溶液を温度2〜60℃で1〜120分間接触させる条件が挙げられる。また、ファウリング抑制剤組成物の水溶液のpHは、2.0〜9.0の範囲に保持することが好ましい。
【0023】
ファウリング抑制剤組成物を未処理多孔質濾過膜に接触させる際、水溶液中のファウリング抑制剤組成物の濃度は、例えば共重合体(a)とポリビニルアルコール(b)との濃度の和を0.0001〜1質量%とするのが好ましく、0.001〜0.5質量%とするのがより好ましい。(a)と(b)の濃度の和が0.0001質量%未満の場合は、十分なファウリング抑制効果を示さないおそれがある。一方、1質量%を超える場合は、多孔質濾過膜の孔が該ファウリング抑制剤組成物で閉塞し、透水量が低くなるおそれがある。なお、上記したように水以外の溶媒として、上記有機溶媒を一部含有していてもよい。
上記処理後の多孔質濾過膜はそのまますぐに使用することができ、また、所望により水洗して使用してもよい。一方、付着処理後すぐに使用しない場合、又は当該処理後の多孔質濾過膜を商品として流通させる等の場合は、該処理後に水分等の除去のため乾燥工程を実施する。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
以下に共重合体(a)(以降、a成分と称する)の合成例を示す。なお、下記表1に示すa成分の内、a6及びa7は本発明の範囲外の共重合体である。
合成例1:共重合体(a1)
2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン23.53g及びn−ブチルメタクリレート26.47gをエタノール450gに溶解し、4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ。続いて、重合開始剤として登録商標パーブチル−ND(日油社製)0.01gを添加し、60℃で3時間、70℃で1.5時間重合した。重合終了後、エタノールを良溶媒として、アセトンを貧溶媒として再沈精製し、加熱乾燥させて共重合体(a1)を得た。
【0025】
合成例2−7:共重合体(a2−a7)
表1に示す原料組成を用いた以外は合成例1と同様に重合を行ない、表1に示す共重合体(a2−a7)を合成した。原料組成及び得られた共重合体の分子量等の測定結果を表1に示す。なお、表1には2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンをMPC、n−ブチルメタクリレートをBMAとして示した。
【0026】
合成した各a成分の重量平均分子量測定方法を以下に示す。
<分子量測定>
得られた共重合体水溶液を1.0w/v%になるよう20mMリン酸バッファー(pH7.4)で希釈し、この溶液を0.45μmのメンブランフィルターで濾過して試験溶液とし、GPCにより重量平均分子量を測定・算出した。なお、GPC分析の測定条件は次のとおりである。
<GPC分析の測定条件>
カラム;G3000PWXL及びG6000PWXLを直列に配列(東ソー社製)、溶離溶媒;20mMリン酸バッファー(pH7.4)、標準物質;ポリエチレングリコール(ポリマー・ラボラトリー社製)、検出;視差屈折計RI−8020(東ソー社製)、流速;0.5mL/分、試料溶液使用量;10μL、カラム温度;45℃。
【0027】
【表1】
【0028】
本実施例で使用するポリビニルアルコール(b)(以降、b成分と称する)としてb6以外は、(株)クラレ製を用いた。b6は以下のように合成した。酢酸ビニル800gをメタノール160gに溶解し、反応器中に入れ、30分間窒素を吹き込んだ。続いて重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1gを添加し、窒素により内圧を0.3MPa(ゲージ圧)に保ち、105℃で6時間重合した。未反応の酢酸ビニルは減圧蒸留により除去し精製した。得られたポリ酢酸ビニル25gに2NのNaOH50%エタノール水溶液1000mLを加え、50℃で3時間加温してけん化処理した。これらのけん化度及び重合度を表2に示す。なお、下記表2に示すb6〜b8は本発明の範囲外のポリビニルアルコールである。
【0029】
【表2】
【0030】
ファウリング抑制剤組成物の水溶液の調製
表1に記載の各a成分と表2に記載の各b成分とを表3に示すa/b比の組成比とすると共に、未処理多孔質濾過膜を処理するために水を表3に示す配合組成となるように加え、実施例用のファウリング抑制剤組成物の水溶液(組成物例1〜11)を調製した。水としては精製水を使用した。
また同様に、表4に示す配合組成とした比較例用の組成物の水溶液(組成物例12〜19)を調製した。組成物例12では、a成分を使用せず、代わりに2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーを配合した。
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
実施例1
未処理多孔質濾過膜の例として、自製したポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸濾過膜(内径/外径:0.8/1.2mm、空孔率70%)を使用した。
表3の組成物例1中に、当該中空糸濾過膜を室温で1時間浸漬した。つづいて、10分間純水で洗浄し、ファウリング抑制処理により改質されたポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸濾過膜(以降、改質中空糸濾過膜と称する)1を調製した。得られた改質中空糸濾過膜1を用いて以下の試験を行った。
【0034】
(1)薬品洗浄前のファウリング抑制試験
ファウリング抑制試験に使用した装置の概略図を
図1に示す。上記で調製した改質中空糸濾過膜1に、BOD500mg/Lの活性汚泥槽水(汚染原水)2を、クロスフロー方式、圧力0.5atm、流速16mL/min、液温15℃で3時間送液・通過させ、透水開始時の透水量F0(L)と透水開始から3時間経過後の透水量F3(L)から、以下の式で洗浄前透水量低下率(%)を算出した。ここで、透水量とは、
図1に示す透過液の量のことを意味する。
洗浄前透水量低下率(%)=[(F0―F3)/F0]×100
結果を表5に示した。
【0035】
(2)薬品洗浄後のファウリング抑制試験
(1)の薬品洗浄前のファウリング抑制試験後、0.6%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、該試験後の改質中空糸濾過膜1を浸漬させて18時間放置し、その後純水を30分間通水させることにより、薬品洗浄処理を行った。洗浄後の改質中空糸濾過膜1に、(1)と同様に汚染原水2を送液・通過させ、透水開始時の透水量F0(L)と透水開始から3時間経過後の透水量F3'(L)から、以下の式で洗浄後透水量低下率(%)を算出した。
洗浄後透水量低下率(%)=[(F0―F3')/F0]×100
結果を表5に示した。
【0036】
実施例2〜11
各々表3の組成物例2〜11を使用した他は、実施例1と同様にしてファウリング抑制処理を行い、組成物例2〜11に対応する各改質中空糸濾過膜1を調製した。
それぞれの改質中空糸濾過膜1について、実施例1と同様に(1)薬品洗浄前のファウリング抑制試験、及び(2)薬品洗浄後のファウリング抑制試験を行った。
結果を表5に示した。
【0037】
比較例1
実施例1と同様にして自製したポリフッ化ビニリデン多孔質膜中空糸濾過膜を使用し、ファウリング抑制処理を行わない未処理の状態で、実施例1と同様に(1)薬品洗浄前のファウリング抑制試験及び(2)薬品洗浄後のファウリング抑制試験を行った。
結果を表5に示した。
【0038】
比較例2〜9
各々表4の組成物例12〜19を使用した他は、実施例1と同様にして、各組成物例中への浸漬処理を行い、浸漬処理を行った各中空糸濾過膜1について、実施例1と同様に(1)薬品洗浄前のファウリング抑制試験、及び(2)薬品洗浄後のファウリング抑制試験を行った。
結果を表5に示した。
【0039】
【表5】
【0040】
表5から明らかなように、実施例1〜11は、(1)薬品洗浄前のファウリング抑制試験、及び(2)薬品洗浄後のファウリング抑制試験のいずれにおいても、透水量低下率が比較例1〜9よりも小さかった。即ち、本発明のファウリング抑制剤組成物の例を使用した組成物例1〜11に浸漬したポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸濾過膜はファウリングを抑制すること、及び耐薬品性を有しているために薬品洗浄後もファウリングを抑制することが認められた。
比較例8の、組成物例18を用いた場合、(1)薬品洗浄前のファウリング抑制試験では、実施例と同等の性能を有していたが、使用したポリビニルアルコール(b7)のけん化度が本発明の上限値を超えているため、(2)薬品洗浄後のファウリング抑制試験では、透水量低下率が大きな値となった。けん化度が大きすぎて耐薬品性に劣るためであると考えられる。
【0041】
本発明のファウリング抑制剤組成物で処理した改質中空糸濾過膜が、上記のように良好なファウリング抑制効果を発揮するメカニズムは明確ではないが、次のように考えられる。
a成分とb成分の主鎖や側鎖と多孔質濾過膜間に疎水性相互作用などの相互作用が働くため多孔質濾過膜に強く吸着することができ、かつa成分とb成分間に水素結合及び疎水性相互作用が働くためファウリングを抑制すると考えられる。さらにそれらの相互作用はアルカリ等の薬剤に対し耐性があるため、薬剤洗浄後もそのファウリング抑制効果が継続すると考えられる。本発明の効果の発現には特にa成分とb成分間に働く水素結合及び疎水性相互作用のバランスが重要であり、このため所定のa成分と所定のb成分、及びa成分とb成分の混合(組成)比を適切に選択し、本発明の範囲とする必要がある。