(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態を
図1乃至
図8に沿って説明する。
【0022】
[自動変速機の概略]
まず、本発明を適用し得る自動変速機3の概略構成について
図2に沿って説明する。
図2に示すように、例えばFFタイプ(フロントエンジン、フロントドライブ)の車両に用いて好適な自動変速機3は、駆動源としてのエンジン(E/G)2(
図1参照)に接続し得る自動変速機3の入力軸8を有しており、該入力軸8の軸方向を中心としてロックアップクラッチ7付のトルクコンバータ(流体伝動装置)(T/C)4と、自動変速機構5とを備えている。
【0023】
上記トルクコンバータ4は、エンジン2と詳しくは後述する自動変速機構5との間に介在されており、自動変速機3の入力軸8に接続されたポンプインペラ4aと、作動流体を介して該ポンプインペラ4aの回転が伝達されるタービンランナ4bと、タービンランナ4bからポンプインペラ4aに戻るオイルを整流しつつトルク増大作用を生じさせるステータ4cとを有していると共に、該タービンランナ4bは、上記入力軸8と同軸上に配設された上記自動変速機構5の入力軸10に接続されている。また、該トルクコンバータ4には、ロックアップクラッチ7が備えられており、該ロックアップクラッチ7が係合されると、上記自動変速機3の入力軸8の回転が自動変速機構5の入力軸10に直接伝達される。
【0024】
なお、ステータ4cは、ワンウェイクラッチFによって、ポンプインペラ4aの回転よりタービンランナ4bの回転が下回る状態で回転が固定されて、オイルの流れの反力を受圧してトルク増大作用を生じさせ、タービンランナ4bの回転が上回る状態になると空転して、オイルの流れが負方向に作用しないように構成されている。また、ポンプインペラ4aには、図示を省略した駆動軸を介してオイルポンプ(O/P)50(
図1参照)が接続されており、つまりオイルポンプ50は、エンジン2に連動して駆動されるように構成されている。
【0025】
上記自動変速機構5には、入力軸10上において、プラネタリギヤSPと、プラネタリギヤユニットPUとが備えられている。上記プラネタリギヤSPは、サンギヤS1、キャリヤCR1、及びリングギヤR1を備えており、該キャリヤCR1に、サンギヤS1及びリングギヤR1に噛合するピニオンP1を有している、いわゆるシングルピニオンプラネタリギヤである。
【0026】
また、該プラネタリギヤユニットPUは、4つの回転要素としてサンギヤS2、サンギヤS3、キャリヤCR2、及びリングギヤR2を有し、該キャリヤCR2に、サンギヤS2及びリングギヤR2に噛合するロングピニオンPLと、サンギヤS3に噛合するショートピニオンPSとを互いに噛合する形で有している、いわゆるラビニヨ型プラネタリギヤである。
【0027】
上記プラネタリギヤSPのサンギヤS1は、ミッションケース9に一体的に固定されているボス部に接続されて回転が固定されている。また、上記リングギヤR1は、上記入力軸10の回転と同回転(以下「入力回転」という。)になっている。更に上記キャリヤCR1は、該固定されたサンギヤS1と該入力回転するリングギヤR1とにより、入力回転が減速された減速回転になると共に、クラッチC−1及びクラッチC−3に接続されている。
【0028】
上記プラネタリギヤユニットPUのサンギヤS2は、バンドブレーキからなるブレーキB−1に接続されてミッションケースに対して固定自在となっていると共に、上記クラッチC−3に接続され、該クラッチC−3を介して上記キャリヤCR1の減速回転が入力自在となっている。また、上記サンギヤS3は、クラッチC−1に接続されており、上記キャリヤCR1の減速回転が入力自在となっている。
【0029】
更に、上記キャリヤCR2は、入力軸10の回転が入力されるクラッチC−2に接続され、該クラッチC−2を介して入力回転が入力自在となっており、また、ワンウェイクラッチF−1及びブレーキB−2に接続されて、該ワンウェイクラッチF−1を介してミッションケース9に対して一方向の回転が規制されると共に、該ブレーキB−2を介して回転が固定自在となっている。そして、上記リングギヤR2は、出力軸と同義となるカウンタギヤ11に接続されており、該カウンタギヤ11は、不図示のカウンタシャフト、ディファレンシャル装置を介して駆動車輪に接続されている。
【0030】
上記のように構成された自動変速機3は、
図3に示す作動表のように前進1速段〜前進6速段及び後進段において、各クラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1〜B−2、ワンウェイクラッチF−1が作動することにより、良好なステップ比をもって変速段のギヤ比を形成する。また、これらの複数のクラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1〜B−2同士を掴み換えすることで各変速制御が実行され、各変速段において前進1速段の駆動時(例えば発進時)を除き、各クラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1〜B−2のうちの2つが係合されて各変速段が達成される。
【0031】
[油圧制御装置の構成]
ついで、本自動変速機3を油圧制御する油圧制御装置6の構造について
図1及び
図4に沿って説明する。
図1に示すように、自動変速機3の油圧制御装置6は、大まかに機能的に分けると、油圧生成部6Aと、トルクコンバータ制御部6Bと、変速制御部6Cとを有して構成されている。このうちの油圧生成部6Aは、図示を省略したプライマリレギュレータバルブやセカンダリレギュレータバルブを有しており、エンジン2に連動して駆動されるオイルポンプ50が発生する油圧に基づきライン圧P
Lやライン圧P
Lの排圧であるセカンダリ圧P
SECを生成する。生成されたライン圧P
Lやセカンダリ圧P
SECは、詳しくは後述するトルクコンバータ制御部6Bに供給され、また特にライン圧P
Lは変速制御部6Cにおける各クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1〜B−2の油圧サーボの元圧として供給される。
【0032】
変速制御部6Cは、例えば各クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1〜B−2にそれぞれ対応した不図示のリニアソレノイドバルブを備えており、後述する制御部(ECU)1の油圧指令部20からの油圧指令値に基づき各リニアソレノイドバルブから各クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1〜B−2の油圧サーボに係合圧として自在に調圧して供給可能である。なお、
図1に示す自動変速機構5の油圧サーボ40は、各クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1〜B−2の油圧サーボのうちの代表例としてクラッチC−1の油圧サーボ40として説明するが、勿論、油圧サーボもクラッチやブレーキの数に対応してそれぞれ備えられているものである。
【0033】
変速制御部6Cの図示を省略したリニアソレノイドバルブからクラッチC−1の油圧サーボ40に係合圧Pを供給して該クラッチC−1を係合する場合には、まず、油圧制御装置6から油圧サーボ40までの油路、油圧サーボ40の作動油室などを油で満たしてピストンを駆動し、該ピストンが摩擦板に当接を開始するまで、該油圧サーボ40に油を素早く満たすための詳しくは後述するファストフィル制御を行う。
【0034】
つづいて、上記ファストフィル制御が終了すると、油圧指令値として一定となる待機制御を行い、実油圧が上昇して摩擦板のスリップ係合が開始される。その後、油圧指令値を例えば所定勾配で上昇してピストンによる摩擦板の押圧力を上昇し、クラッチC−1のトルク容量を上昇して、スリップ状態から係合状態まで移行し(係合制御)、そして、クラッチC−1が係合状態となると、ライン圧P
Lを略々そのまま油圧サーボ40に供給するようにリニアソレノイドバルブを制御し、クラッチC−1を完全締結状態に移行して、クラッチC−1の係合制御を完了する(係合完了制御)。
【0035】
ついで、トルクコンバータ制御部6Bの油圧回路の詳細について
図4に沿って説明する。
図4(a)に示すように、油圧制御装置6のトルクコンバータ制御部6Bには、ロックアップリレーバルブ(ロックアップ切換えバルブ)61、ロックアップコントロールバルブ62、チェックバルブ65、
図4(b)に示すチェックバルブ66、図示を省略したリニアソレノイドバルブSLUなどを備えている。
【0036】
ロックアップコントロールバルブ62は、スプール62pと、該スプール62pを一方向(図中上方)に付勢するスプリング62sと、リニアソレノイドバルブSLUからのSLU圧P
SLUを油路g1,g3を介して(
図4(b)参照)入力してスプリング62sと同方向に作用させる作動油室62aと、上述した油圧生成部6Aからのライン圧P
Lを油路a1を介して入力する入力ポート62cと、ライン圧P
Lをスプール62pの位置に基づきロックアップ圧P
L−UPとして油路b1,b2,b3,b4に調圧出力する出力ポート62dと、ロックアップ圧P
L−UPを油路b4を介してフィードバック圧として入力するフィードバック油室62bと、を有して構成されている。
【0037】
ロックアップリレーバルブ(ロックアップ切換えバルブ)61は、スプール61pと、該スプール61pを一方向(図中上方)に付勢するスプリング61sと、リニアソレノイドバルブSLUからのSLU圧P
SLUを油路g1,g2を介して入力してスプリング61sに対向作用させる作動油室61aと、上述した油圧生成部6Aからのセカンダリ圧P
SECを入力する入力ポート61eと、上記ロックアップコントロールバルブ62からのライン圧P
Lを油路b3を介して入力する入力ポート61gと、同じく上記ロックアップコントロールバルブ62からのライン圧P
Lを油路b1を介して入力する入力ポート61jと、トルクコンバータ4の入力油路4Aに油路e1を介して連通された出力ポート61fと、トルクコンバータ4のロックアップON油路4Bに油路c1を介して連通された連通ポート61iと、トルクコンバータ4の出力油路4Cに油路d1を介して連通された入力ポート61cと、油路f1,f3、チェックバルブ65、油路f4を介してオイルクーラ69に連通された出力ポート61hと、同じく油路f2,f3、チェックバルブ65、油路f4を介してオイルクーラ69に連通された出力ポート61bと、油路h1、チェックバルブ66、油路h2を介して油が排出される排出ポート61dとを有して構成されている。
【0038】
つづいて、ロックアップクラッチ7のオフ状態における油圧動作について
図4(a)に沿って説明する。例えば制御部(ECU)1により、ロックアップクラッチ7のオフが判断されると、油圧指令部20がリニアソレノイドバルブSLUをオフするように指令し、SLU圧P
SLUが出力されない。すると、
図4(a)に示すように、ロックアップリレーバルブ61は、作動油室61aにSLU圧P
SLUが入力されないので、スプリング61sの付勢力に基づきスプール61pが図中左半分の位置であるオフ位置(OFF)となる。
【0039】
すると、ロックアップコントロールバルブ62からのライン圧P
Lに基づくロックアップ圧P
L−UPは、入力ポート61g,61jにおいて遮断される。一方、入力ポート61eに入力されているセカンダリ圧P
SECが出力ポート61fから油路e1を通ってトルクコンバータ4の入力油路4Aに供給され、つまりトルクコンバータ4の内部にセカンダリ圧P
SECが循環油として入力される。
【0040】
トルクコンバータ4に入力された循環油としてのセカンダリ圧P
SECは、該トルクコンバータ4内を循環した後、それぞれロックアップON油路4Bと出力油路4Cとから油路c1,d1に出力され、ロックアップリレーバルブ61の連通ポート61i及び入力ポート61cに入力される。そして、連通ポート61i及び入力ポート61cに循環されたセカンダリ圧P
SECは、出力ポート61h,61bから油路f1,f2,f3を介してチェックバルブ65に排出され、さらに油路f4を通ってオイルクーラ69に供給された後、不図示の潤滑回路に供給されて自動変速機構5を潤滑し、最終的にオイルパンに戻される。
【0041】
このように、ロックアップクラッチ7のオフ状態、つまりロックアップリレーバルブ61のオフ位置の状態では、セカンダリ圧P
SECがトルクコンバータ4に供給されるため、ライン圧P
Lを多量に消費することがなく、例えばエンジン2の回転数が低くてライン圧P
Lが低くなったとしても、該ライン圧P
Lが変速制御部6Cに対して不足するような圧低状態は避けられる。
【0042】
次に、ロックアップクラッチ7のオン状態における油圧動作について
図4(b)に沿って説明する。例えば制御部(ECU)1により、ロックアップクラッチ7のオンが判断されると、油圧指令部20がリニアソレノイドバルブSLUをオンするように指令し、SLU圧P
SLUが出力される。すると、
図4(b)に示すように、ロックアップリレーバルブ61は、作動油室61aにSLU圧P
SLUが入力されるので、スプリング61sの付勢力に打勝ってスプール61pが図中右半分の位置であるオン位置(ON)となる。このため、セカンダリ圧P
SECは、入力ポート61eにおいて遮断される。
【0043】
一方、ロックアップコントロールバルブ62の作動油室62aにもSLU圧P
SLUが入力され、スプリング62sの付勢力と相俟ってフィードバック油室62bのフィードバック圧に対向しつつスプール62pを図中右半分の位置に押圧駆動し、つまりSLU圧P
SLUの大きさに応じて、入力ポート62cと出力ポート62dとの絞り量を大きく開口していく形で、ライン圧P
Lをロックアップ圧P
L−UPとして油路b1〜b4に出力する。
【0044】
すると、油路b1,b3をロックアップ圧P
L−UPは、オン位置であるロックアップリレーバルブ61の入力ポート61j,61gから連通ポート61i及び出力ポート61fを介して油路c1,e1に出力され、それぞれトルクコンバータ4の入力油路4AとロックアップON油路4Bとに供給される。この際、油路b3にはオリフィス70が介在しているため、ロックアップON油路4Bに供給されるロックアップ圧P
L−UPが、入力油路4Aに供給されるロックアップ圧P
L−UPよりも僅かに上回って、ロックアップクラッチ7はその差圧によってスリップないし係合される。
【0045】
上記のようにトルクコンバータ4に供給されたライン圧P
Lに基づくロックアップ圧P
L−UPは、出力油路4Cから油路d1を通ってロックアップリレーバルブ61の入力ポート61cに排出され、さらに排出ポート61d、油路h1、チェックバルブ66、油路h2を通って、不図示のオイルパンに戻される。
【0046】
このように、ロックアップクラッチ7のオン状態、つまりロックアップリレーバルブ61のオン位置の状態では、ライン圧P
Lに基づくロックアップ圧P
L−UPがトルクコンバータ4に供給されるため、ロックアップクラッチ7のオフ状態の場合よりもライン圧P
Lを多量に消費することになり、例えばエンジン2の回転数が低くてライン圧P
Lが低くなった場合に、該ライン圧P
Lが変速制御部6Cに対して不足するような圧低状態になる虞がある。
【0047】
[自動変速機の制御装置の構成]
つづいて、本発明に係る自動変速機の制御部(自動変速機の制御装置)1について
図1に沿って説明する。
【0048】
図1に示すように、自動変速機3は制御部(ECU)1を有しており、該制御部(ECU)1には、不図示の運転席のアクセルペダルの開度(踏込量)を検出するアクセル開度センサ31、上記カウンタギヤ11(或いはカウンタシャフト等であってもよい)の回転速度を検出することで実質的に車速を検出する出力軸回転速度(車速)センサ32、上記入力軸10の回転速度を検出する入力軸回転速度センサ33、不図示の運転席のブレーキペダルの踏圧を検出するブレーキセンサ34、自動変速機3の内部の油温を検出する油温センサ35、などが接続されていると共に、該制御部1の後述する油圧指令部20が、上述した油圧制御装置6に接続されて電子指令により油圧制御が自在となるように構成されている。
【0049】
該制御部1には、ファストフィル指令値演算部21を有する油圧指令部20、変速マップ23を有する変速判断部22、経過時間判定部25、油温検知部26、エンジン回転数予測部(駆動源回転数予測部)27、学習制御部24が備えられている。このうちの変速判断部22は、アクセル開度センサ31により検出されるアクセル開度と出力軸回転速度センサ32により検出される車速とに基づき、予めアクセル開度及び車速に基づく変速線(変速判断の基準線)が記録された変速マップ23を参照して変速線を越えた際に変速を判断する。
【0050】
変速判断部22により変速が判断されると、それを受けて油圧指令部20は、
図3の係合表に基づき油圧制御装置6の変速制御部6Cの不図示の変速用リニアソレノイドバルブに指令し、クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1〜B−2(以下、「摩擦係合要素」という)の掴み換え変速を行う。なお、この際、係合側となる摩擦係合要素の油圧サーボに対して(例えば5−4変速であれば(
図3参照)係合側となるクラッチC−1の油圧サーボ40に対して)、詳しくは後述するファストフィル制御、待機制御、係合制御、係合完了制御を行うことになる。また、ロックアップクラッチ7は、例えば発進が終了するとロックアップクラッチ7がオフ状態からオン状態となるように、油圧指令部20がリニアソレノイドバルブSLUに指令することで制御され、例えば走行中はエンジン(駆動源)2の回転数(以下、「エンジン回転数Ne」という)がエンジンストップを生じない範囲(フューエルカット領域)の所定回転数未満となるまでロックアップクラッチ7がオン状態となるように制御される。
【0051】
上記経過時間判定部25は、1つの摩擦係合要素に関し、解放開始してから係合開始するまでの経過時間Tco(
図8参照)を判定(計測)する。即ち、例えば4−5変速の後、直ぐに5−4変速が発生した場合などには、クラッチC−1が解放開始して油圧サーボ40から油が抜け始めるが、直ぐにクラッチC−1の係合が指令されることになる。その場合、油圧サーボ40に油が残っていることになるが、その残量が、解放開始してから係合開始するまでの経過時間によって変化することになる。そこで、経過時間判定部25は、油圧サーボの油の残量を推定するために、各摩擦係合要素に関して、解放開始してから係合開始するまでの経過時間Tcoを判定する。なお、経過時間Tcoが所定時間以上となると、油圧サーボから油が略々完全に抜けたことになるので、経過時間Tcoの判定はそこで終了する。なお、各摩擦係合要素の解放開始は、例えば入力軸回転速度センサ33により検出される入力軸10の回転速度と出力軸回転速度センサ32により検出されるカウンタギヤ11の回転速度とから算出される変速比が変化開始したことで判定することが可能である。
【0052】
上記油温検知部26は、油温センサ35により検出される油温Tempによって、自動変速機3内の油温を判定する。
【0053】
上記エンジン回転数予測部27は、車両減速時のエンジン回転数Neの変化量からエンジン回転数Neの低下勾配を求め、
図7に示すように、現在のエンジン回転数Ne1から所定時間TA(好ましくはファストフィル制御終了時までの時間)後におけるエンジン回転数Ne2を算出する。なお、エンジン回転数Neの所定時間TA後の値は、ブレーキセンサ34により検出されるブレーキペダルの踏圧量に基づき車両の減速度を算出し、各変速段の変速比に基づき算出されるエンジン回転数Neの低下勾配を求め、その低下勾配からエンジン回転数Ne2を算出するようにしてもよい。
【0054】
上記学習制御部24は、上述したような各摩擦係合要素の待機制御における係合開始タイミング(入力軸回転速度センサ33により検出される入力軸10の回転速度の回転変化開始タイミング)に基づき、ファストフィル制御の指令値の出力時間の長さが適正であったか否かを判定し、つまり係合開始タイミングが早すぎる場合はファストフィル制御の指令値の出力時間を短くなるように学習し、係合開始タイミングが遅すぎる場合はファストフィル制御の指令値の出力時間を長くなるように学習する。
【0055】
ついで、本発明の要部となるファストフィル指令値演算部21によるファストフィル制御の指令値(以下、「ファストフィル指令値Pi」という)の演算制御について
図1、
図6乃至
図8を参照しつつ
図5のフローチャートに沿って説明する。
【0056】
図5に示すように、まず、制御を開始し(S−1)、変速判断部22により変速判断がなされると(S−2)、それを受けて油圧指令部20は、油圧サーボの起動制御を開始する(S−3)。続いて、例えばロックアップクラッチ7のオン状態であるか否か、つまり油圧指令部20がリニアソレノイドバルブSLUに指令してロックアップリレーバルブ61をオン位置に切換えている状態か否かを判定する(S−4)。ロックアップリレーバルブ61がオフ位置である場合は(S−4のNo)、上述したようにトルクコンバータ4にはセカンダリ圧P
SECが循環油として供給されており、ライン圧P
Lが大幅に圧低することがないので、各摩擦係合要素のサーボ起動(ファストフィル制御)を通常通り行うことが可能であるため、そのまま後述するステップS−9に進む。
【0057】
一方、ロックアップリレーバルブ61がオン位置である場合は(S−4のYes)、上述したようにトルクコンバータ4にライン圧P
Lが循環油として供給されており、ライン圧P
Lの圧低が発生する可能性がある。そこで、本ファストフィル制御の要部となる流量収支補正量演算をファストフィル指令値演算部21により実行する。
【0058】
この際、まず、ファストフィル指令値演算部21は、ステップS−5に進み、変速判断部22が判断した変速判断がダウンシフト判断であるか否かを判定する。即ち、変速判断がダウンシフト判断でない場合は(S−5のNo)アップシフト判断であり、アップシフト判断であるということは、車速が上昇傾向にあるということになる。この場合は、エンジン回転数Neが上昇傾向にあるので、変速判断時点のエンジン回転数Neを基準としてファストフィル指令値Piの演算(流量収支補正量演算)を行っても問題ない。
【0059】
そこでステップS−6において、変速判断時点のエンジン回転数Neと油温Tempとに基づきファストフィル指令値Piの演算(流量収支補正量演算)を行う。即ち、
図6に示すように、エンジン回転数Neが高く、油温Tempが低い場合はライン圧P
Lの圧低が小さいので(圧低したライン圧P
Lとしては大きい方となるので)、ファストフィル指令値Piの大きさを標準の全体値Aよりも比較的小さい減算値Kだけ減じた大きさPhに演算し、ファストフィル指令値Piの大きさを減算値Kだけ低くした分(つまり大きさを小さくした割合に応じて)、流量収支が一定となるようにファストフィル指令値Piの出力時間tfを標準の値Bよりも値kだけ長く演算する。
【0060】
なお、ここで言う「エンジン回転数Neが高い」状態とは、ライン圧P
Lの圧低となるエンジン回転数Neの範囲内のうちの中で「高い方」という意味であり、ライン圧P
Lが圧低を生じないほどエンジン回転数Neが高くてオイルポンプ50から十分な油圧が出ている状態を意味するものではない。
【0061】
一方、
図6に示すように、エンジン回転数Neが低く、油温Tempが低い場合はライン圧P
Lの圧低が大きいので(圧低したライン圧P
Lとしては小さい方となるので)、ファストフィル指令値Piの大きさを標準の全体値Aよりも比較的大きい減算値Jだけ減じた大きさPhに演算し、ファストフィル指令値Piの大きさを減算値Jだけ低くした分(つまり大きさを小さくした割合に応じて)、流量収支が一定となるようにファストフィル指令値Piの出力時間tfを標準の値Bよりも上記値kよりも長い値jだけ長く演算する。
【0062】
また、油温Tempが高くなると、油温Tempが低い場合に比して油の粘性が低くなる分、油圧制御装置6内での各所での漏れ量が多くなる。そのため、油温Tempが低い場合に比して油温Tempが高い場合はライン圧P
Lの圧低が大きくなる(つまりライン圧P
Lがさらに低くなる)。
【0063】
そのため、
図6に示すように、エンジン回転数Neが高く、油温Tempが高い場合はライン圧P
Lの圧低が大きいので(圧低したライン圧P
Lとしては小さい方となるので)、ファストフィル指令値Piの大きさを標準の全体値Aよりも比較的大きい減算値Iだけ減じた大きさPhに演算し、ファストフィル指令値Piの大きさを減算値Iだけ低くした分(つまり大きさを小さくした割合に応じて)、流量収支が一定となるようにファストフィル指令値Piの出力時間tfを標準の値Bよりも上記値kよりも長い値iだけ長く演算する。
【0064】
そして、
図6に示すように、エンジン回転数Neが低く、油温Tempが高い場合はライン圧P
Lの圧低がさらに大きいので(圧低したライン圧P
Lとしては、さらに小さい方となるので)、ファストフィル指令値Piの大きさを標準の全体値Aよりも比較的大きい減算値Hだけ減じた大きさPhに演算し、ファストフィル指令値Piの大きさを減算値Hだけ低くした分(つまり大きさを小さくした割合に応じて)、流量収支が一定となるようにファストフィル指令値Piの出力時間tfを標準の値Bよりも上記値jや値iよりも長い値hだけ長く演算する。
【0065】
以上のように、ファストフィル指令値Piの大きさPh及び出力時間tfを、エンジン回転数Neの値が低いほど小さく演算し、かつ油温Tempが高いほど小さく演算することで、圧低状態にあるライン圧P
Lであってもファストフィル指令値Piの大きさPhが実際のライン圧P
Lを越えることなく、ファストフィル指令値Piの大きさPhで実油圧を出力可能となる(つまりファストフィル指令値Piが実油圧を越えた無理がある値とならない)。
【0066】
一方、上記ステップS−5において、変速判断がダウンシフト判断である場合は(S−5のYes)、つまり車速が下降傾向にあるということになる。この場合は、エンジン回転数Neが下降傾向にあるので、ファストフィル制御の終了時にエンジン回転数Neがさらに低くなっていることが考えられ、ファストフィル指令値Piの大きさPhを圧低状態にある実際のライン圧P
Lを下回ってしまう虞がある。
【0067】
そこで、ステップS−7に進み、
図7に示すように、車両の減速度、つまりエンジン回転数Neの下降勾配を予測し、変速判断時点のエンジン回転数Ne1よりその下降勾配で所定時間後(ファストフィル制御の終了時点が好ましい)の予測値であるエンジン回転数Ne2を算出する。なお、本実施の形態では、ダウンシフト判断時には所定時間後のエンジン回転数の予測値を算出するようにしているが、車両減速度が小さい場合には、必ずしもこのステップS−7の予測値の演算を行う必要がなく、つまり予測演算を中止して、ステップS−6のように取得したエンジン回転数Neをそのまま用いてもよい。
【0068】
そして、ステップS−8において、その予測したエンジン回転数Ne2と油温Tempとに基づき、上記
図6で示したステップS−6の制御と同様に、ファストフィル指令値Piの大きさPh及び長さtfを演算する(流量収支補正量算出する)。なお、このステップS−8の算出は、用いるエンジン回転数Neの値を予測したエンジン回転数Ne2としただけであり、ステップS−6の演算と同様であるので、その説明を省略する。
【0069】
このようにステップS−6又はステップS−8においてファストフィル指令値Piの大きさPh及び出力時間tfの長さが演算されると、つづいて、ステップS−9に進み、変速間隔による補正算出を行う。即ち、上述した経過時間判定部25により係合する摩擦係合要素が、解放開始された直後である場合には、その油圧サーボに油が残っているので、その残量を減算して油圧サーボに供給する流量収支を演算する必要がある。そこで、
図8に示すように、係合する摩擦係合要素が解放開始されてから、例えば短い時間であれば、油圧サーボの油の残量が多いので、ファストフィル指令値Piの大きさPhを、その残量に基づきPh1だけ下げるように、時間が経過するとその残量に基づきPh2だけ下げるように、さらに時間が経過するとその残量に基づきPh3だけ下げるように補正演算する。つまり、ファストフィル指令値Piの大きさPhの元の値となる全体値Aは、時間の経過と共に徐々に大きくなる全体値A’(言い換えると、経過時間Tcoが短いほど小さくなる全体値A’)となるように補正算出される。
【0070】
さらに本実施の形態では、Ph1だけ下げた値Phを、ステップS−6又はS−8(
図6参照)で設定した減算値K,J,I,H等(以下、まとめて「α」ともいう)が全体値Aを全体値A’に下げた割合に応じて小さくなるように補正算出する。つまり、Ph1だけ下げたPhは、本来の全体値Aに対して全体値A’に下げられるが、さらに、減算値α(即ちα=K,J,I,H等(
図6参照))が、全体値の割合(A’/A)に応じて小さくなる減算値α(A’/A)となるように補正算出する。なお、本実施の形態における「減算値」とは、全体値A(又は全体値A’)から減算する成分(値)のことを指す。従って、ここではファストフィル指令値Piの大きさPhを数式で示すと、Ph=全体値A’−減算値α(A’/A)となる(但しα=K,J,I,H等(
図6参照))。
【0071】
また、解放開始されてから、例えば少し時間が経つと、油圧サーボの油の残量が減っているはずであるので、ファストフィル指令値Piの大きさPhを、その残量に基づきPh2だけ下げるように補正算出する。この際も、減算値α(A’/A)が全体値Aを全体値A’に下げた割合に応じて小さくなるように補正算出されるが、ファストフィル指令値Piの大きさPhとしては、全体値A’が大きくなる分、大きくなることになる。そして、解放開始されてから、さらに時間が経つと、油圧サーボの油の残量がさらに減っているはずであるので、ファストフィル指令値Piの大きさPhを、その残量に基づきPh3だけ下げるように補正算出する。この際も、減算値α(A’/A)が全体値Aを全体値A’に下げた割合に応じて小さくなるように補正算出されるが、ファストフィル指令値Piの大きさPhとしては、全体値A’が大きくなる分、大きくなることになる。つまり、係合を行う摩擦係合要素を前回解放してからの経過時間が短いほど、係合を行う同じ摩擦係合要素のファストフィル指令値Piの大きさPhの全体値Aを全体値A’となるように小さく設定すると共に、減算値α(A’/A)(但しα=K,J,I,H等(
図6参照))が小さくなるように補正算出する。
【0072】
次に、ステップS−10に進むと、上述した学習制御部24において前回のファストフィル制御において係合するクラッチC−1〜C−3やブレーキB−1〜B−2の係合タイミングに応じて学習したファストフィル指令値Piの出力時間tfの値を反映する。この際、学習したファストフィル指令値Piの出力時間tfの値は、通常のファストフィル制御(ファストフィル指令値Piの大きさPhを下げていない場合)の全体値A(
図6参照)での学習値であるので、そのまま反映すると、タイミングがずれる虞がある。そのため、学習値を反映する場合も、ファストフィル指令値Piの大きさを全体値Aから下げた減算値α(例えば
図6の値K,J,I,H)の大きさの割合に応じて長さを変更するように反映する。つまり、ファストフィル指令値演算部21は、前回学習したファストフィル指令値Piの出力時間tfを、ファストフィル指令値Piの大きさPhを小さくした割合を反映した出力時間tfとして設定する。
【0073】
以上のように、ステップS−6又はステップS−8、ステップS−9、ステップS−10の算出を全て加味して、ステップS−11において、ファストフィル指令値Piの大きさPh及び出力時間tfを設定する。そして、油圧指令部20は、ファストフィル指令値Piの大きさPhとなるように、係合を行う摩擦係合要素のファストフィル制御を開始し、ステップS−12において出力時間tfが経過したか否かを判定し、出力時間tfが経過するまで待機した後(S−12のNo)、出力時間tfが経過すると(S−12のYes)、ファストフィル指令値Piが設定された大きさPhで出力時間tfの長さで出力されたことになるので、係合を行う摩擦係合要素の油圧サーボが正確にファストフィル制御(いわゆるガタ詰め制御)が終了したはずとなる(S−13)。
【0074】
そして、学習制御部24は、上述したように係合を行う摩擦係合要素の係合タイミング(つまり入力軸10の回転変化の開始)に基づき、ファストフィル制御におけるファストフィル指令値Piの出力時間tfの長さを学習する(S−14)。つまり、係合タイミングが早ければ、出力時間tfの長さが短くなるように、係合タイミングが遅ければ、出力時間tfの長さが長くなるように学習する。そして、以上のようにファストフィル制御が終了し、かつ学習制御が終了すると、本制御を全て終了し(S−15)、その後、係合を行う摩擦係合要素は、待機制御、係合制御、係合完了制御を行って、変速が終了することになる。
【0075】
なお、このステップS−15における学習は、特にファストフィル指令値Piの大きさPhの変更割合(
図6参照)を反映するほど精密に行う必要は無いが、勿論、ファストフィル指令値Piの大きさPhの変更割合を反映して学習するようにしてもよい。
【0076】
以上説明したように本自動変速機3の制御部1によると、変速が判断され、かつロックアップリレーバルブ61がオン位置である際に、エンジン回転数Neの値が低いほど、係合を行う摩擦係合要素の係合圧Pのファストフィル指令値Piの大きさPhを小さく設定し、かつファストフィル指令値Piの大きさPhを小さくした割合に応じてファストフィル指令値Piの出力時間tfを長く設定するので、ファストフィル指令値Piの適正化を図ることができる。それにより、ファストフィル制御を行った際に、係合する摩擦係合要素の実際の係合圧が適宜にファストフィル指令値Piに追従するように上昇させることができ、油圧の急上昇やそれに伴う係合ショックの発生の防止を図ることができる。
【0077】
また、油温Tempが高いほど、係合を行う摩擦係合要素の係合圧Pのファストフィル指令値Piの大きさPhを小さく設定し、かつファストフィル指令値Piの大きさPhを小さくした割合に応じてファストフィル指令値Piの出力時間tfを長く設定するので、例えば油温が高くて油圧制御装置6における油の漏れ量が多く、ライン圧P
Lが圧低し易くなる状態でも、ファストフィル指令値Piの適正化を図ることができる。それにより、ファストフィル制御を行った際に、係合する摩擦係合要素の実際の係合圧が適宜にファストフィル指令値Piに追従するように上昇させることができ、油圧の急上昇やそれに伴う係合ショックの発生の防止を図ることができる。
【0078】
さらに、ダウンシフト変速が判断された際は、エンジン回転数Neの値として、エンジン回転数予測部27により予測した値(Ne2)を用いるので、つまり例えば車両のブレーキなどにより車速(出力軸回転速度)が急減速する場合は、エンジン回転数Neがファストフィル制御の終了までにさらに低下してしまう虞があるが、その低下するエンジン回転数Neの値として予測した値Ne2(
図7参照)を用いることで、ファストフィル指令値Piの適正化を図ることができ、係合する摩擦係合要素の実際の係合圧を適宜にファストフィル指令値Piに追従するように上昇させることができる。
【0079】
また、ファストフィル指令値演算部21は、係合を行う摩擦係合要素の係合圧のファストフィル指令値Piの大きさを小さく設定する際に、ファストフィル指令値Piの大きさPhに関して全体値Aから減算値α(例えばK,J,I,H等(
図6参照))を減じることでファストフィル指令値Piの大きさPhを設定し、かつ係合を行う摩擦係合要素を前回解放してからの経過時間Tcoが短いほど、全体値Aを小さくする(つまり全体値A’にする)と共に減算値(即ち、ここでは減算値はα(A’/A)となる)も小さくなるように設定するので、つまり係合を行う摩擦係合要素の油圧サーボに残っている油量に応じて、ファストフィル指令値Piを小さくする減算値を適正化し、それによってファストフィル指令値Piの大きさPhの適正化を図ることができ、係合する摩擦係合要素の実際の係合圧を適宜に上昇させることができて、係合する摩擦係合要素の急係合等を防止することができる。
【0080】
そして、学習したファストフィル指令値Piの出力時間tfを、ファストフィル指令値Piの大きさPhを小さくした割合を反映した出力時間tfとして設定するので、それまでに学習したファストフィル指令値Piの出力時間を的確に反映させて出力時間tfを設定することができて、つまりファストフィル指令値Piの適正化を、より精度良く行うことができる。
【0081】
なお、以上説明した本実施の形態においては、ファストフィル制御にあって、エンジン回転数Neと油温Tempとの双方に基づきファストフィル指令値Piの大きさPh及び出力時間tfを演算するものを説明したが(
図6参照)、油温Tempの高低は、必ずしもファストフィル指令値Piに反映しなくてもよい。特に極低温や高油温の際には、油の粘性が正確に把握し難いので、油温Tempによるファストフィル指令値Piの変更は停止するようにした方が好ましい。
【0082】
また、以上説明した本実施の形態においては、前進6速段及び後進段を達成する自動変速機3を一例として説明したが、これに限らず、自動変速機の段数や構造はどのようなものであってもよく、特に摩擦係合要素の油圧サーボにファストフィル制御が必要となり、かつライン圧P
Lが低圧状態となるもの(圧低を発生するもの)であれば、どのようなものでも本発明を適用し得る。
【0083】
また、以上説明した本実施の形態においては、駆動源としてエンジン2を備え、エンジン2の回転を自動変速機3で変速するものを説明したが、これに限らず、例えば駆動源として回転電機(モータ・ジェネレータ)を用いた電気自動車や、エンジンと回転電機とを組合せたハイブリッド車両などに搭載される自動変速機であっても、本発明を適用し得る。
【0084】
また、以上説明した本実施の形態においては、流体伝動装置としてトルクコンバータ4を備えたものを説明したが、これに限らず、フルードカップリングなどであってもよく、つまりロックアップクラッチ付の流体伝動装置であればどのようなものであってもよい。