【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のパルスレーザ装置の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の実施例1に係るパルスレーザ装置の構成を示すブロック図である。このパルスレーザ装置は、半導体レーザ1a、ミラー2a,2b、固体レーザ媒質3a、音響光学素子4a、RF信号生成部5a及び動作クロック発生器7、位相制御回路8、スプリッタ10a、フォトダイオードPD11aを備えている。音響光学素子4a、RF信号生成部5aは、パルスレーザ生成部6aを構成する。
【0013】
なお、固体レーザ媒質3a、音響光学素子4a、ミラー2a,2bから構成される部分を共振器と呼ぶ。
【0014】
半導体レーザ1aは、例えばレーザダイオードによって構成されており、励起光を発生する。半導体レーザ1aで発生された励起光は、ミラー2aを透過して固体レーザ媒質3aに照射される。
【0015】
固体レーザ媒質3aは、レーザ発振の元となる物質であり、例えば、YAGレーザと呼ばれる固体レーザにおいては、イットリウム、アルミニウムおよびガーネット(Yttrium Aluminum Garnet)などといった物質が用いられる。この固体レーザ媒質3aは、半導体レーザ1aから励起光が照射されることにより誘導放出光を発生する。この固体レーザ媒質3aで発生された誘導放出光は、音響光学素子4aに送られる。
【0016】
音響光学素子4aは、Qスイッチを構成し、RF信号生成部5aから入力されるRF信号にしたがって、固体レーザ媒質3aで発生された誘導放出光を変調することにより共振器内のロスを制御し、パルス幅の狭いピークの大きなパルス(ジャイアントパルス)を出力する。
【0017】
動作クロック発生器7は、音響光学素子4aを駆動するための動作クロックを発生して、位相制御回路8に出力する。
【0018】
RF信号生成器5aは、動作クロックと動作クロックをオン/オフさせるためのパルス出力タイミング信号とに基づきRF信号を生成し、生成されたRF信号により音響光学素子4aを駆動させる。
【0019】
位相制御回路8aは、動作クロック発生器7とRF信号生成器5aとの間に設けられ、パルス出力タイミング信号と音響光学素子4aからのパルスレーザ出力とのタイミング差を所定値にするように動作クロックの位相を制御する。
【0020】
この所定値は、動作クロックの1動作クロック以内である。
【0021】
なお、タイミング差が1動作クロックを超えている場合には、後述する
図6に示すように、移動機構部13が、音響光学素子4aを搭載した可動ホルダ12を上下移動させることにより、音響光学素子4aの光軸位置を調整して、タイミング差を1動作クロック以内に抑えれば良い。
【0022】
このように、位相制御回路8aは、パルス出力タイミング信号と音響光学素子4aからのパルスレーザ出力とのタイミング差が動作クロックの1動作クロック以内である場合にタイミング差を所定値にするように動作クロックの位相を制御するので、1動作クロック以内のパルス出力タイミングのズレを所定値に低減させることができ、タイミング調整回路を簡単化できる。
【実施例2】
【0023】
次に、実施例2のパルスレーザ装置を説明する。まず、音響光学素子の動作原理を説明する。
図2は、音響光学素子の動作原理を説明するための図である。
図2に示す音響光学素子4内に音響波が存在すると、グレーティングのように作用する。これを音響光学効果という。入射されたレーザ光は、このグレーティングを通ることで回折される。
【0024】
ここで、音響光学素子4に設けられた圧電素子20にRF信号生成部5からRF信号を供給すると、音響光学素子4内に音響波が発生して、レーザ光は
図2(a)に示すように回折される。次に、RF信号を停止したタイミングで、共振器のロスが減少し、パルスレーザが発生し、
図2(b)のように音響光学素子4を通過して出力される。
【0025】
より詳しくは、RF信号の供給を開始したとき、音響光学素子4に音響波が生成され、音響光学素子4の材質で決まる音響光学素子4内を伝搬する。入射レーザ光の回折が始まるのは素子4内を通る光軸に音響波が到達したタイミングであり、逆にRF信号の供給を停止したときも同じことが言える。即ち、パルスレーザの出力タイミングは、RF信号の供給停止タイミングと音響光学素子4内の光軸位置(音響波が光軸まで進む時間)に依存する。
【0026】
図3に示すように、RF信号の供給停止タイミングは回路により決定され、主にパルス出力タイミング信号が通る伝送線路の遅延時間、RF信号生成部5の内部処理時間、RF信号生成部5から音響光学素子4までの遅延時間で構成されている。複数のパルスレーザ装置において、これらの時間に差があると、RF信号供給停止タイミングにズレが生じる。
【0027】
そこで、実施例2のパルスレーザ装置では、RF信号供給停止タイミングのズレを位相制御回路により位相調整して前記ズレを略ゼロにしたことを特徴とする。
図4は、本発明の実施例2に係るパルスレーザ装置の構成を示すブロック図である。
【0028】
このパルスレーザ装置は、半導体レーザ1a,1b、ミラー2a,2b,2c,2d、固体レーザ媒質3a,3b、音響光学素子4a,4b、RF信号生成部5a,5b及び動作クロック発生器7、位相制御回路8、スプリッタ10a,10b、フォトダイオードPD11a,11bを備えている。
【0029】
音響光学素子4a、RF信号生成部5aは、第1のパルスレーザ生成部6aを構成し、音響光学素子4b、RF信号生成部5bは、第2のパルスレーザ生成部6bを構成する。
【0030】
なお、固体レーザ媒質3a、音響光学素子4a、ミラー2a,2bから構成される部分を第1共振器と呼び、固体レーザ媒質3b、音響光学素子4b、ミラー2c,2dから構成される部分を第2共振器と呼ぶ。
【0031】
半導体レーザ1a,1bは、例えばレーザダイオードによって構成されており、励起光を発生する。半導体レーザ1a,1bで発生された励起光は、ミラー2a,2cを透過して固体レーザ媒質3a,3bに照射される。
【0032】
固体レーザ媒質3a,3bは、レーザ発振の元となる物質であり、例えば、YAGレーザと呼ばれる固体レーザにおいては、イットリウム、アルミニウムおよびガーネット(Yttrium Aluminum Garnet)などといった物質が用いられる。この固体レーザ媒質3a,3bは、半導体レーザ1a,1bから励起光が照射されることにより誘導放出光を発生する。この固体レーザ媒質3a,3bで発生された誘導放出光は、音響光学素子4a,4bに送られる。
【0033】
音響光学素子4a,4bは、Qスイッチを構成し、RF信号生成部5a,5bから入力されるRF信号にしたがって、固体レーザ媒質3a,3bで発生された誘導放出光を変調することにより共振器内のロスを制御し、パルス幅の狭いピークの大きなパルス(ジャイアントパルス)を出力する。
【0034】
動作クロック発生器7は、音響光学素子4a,4bを駆動するための動作クロックを発生して、位相制御回路8とRF信号生成部5bに出力する。
【0035】
RF信号生成器5a,5bは、動作クロックと動作クロックをオン/オフさせるためのパルス出力タイミング信号とに基づきRF信号を生成し、生成されたRF信号により音響光学素子4a,4bを駆動させる。
【0036】
位相制御回路8は、動作クロック発生器7とRF信号生成器5aとの間に設けられ、パルス出力タイミング信号と音響光学素子4aからのパルスレーザ出力とのタイミング差が動作クロックの1動作クロック以内である場合にタイミング差を略ゼロにするように動作クロックの位相を制御する。
【0037】
次に、上記のように構成される本発明の実施例2に係るパルスレーザ装置の動作を、
図4及び
図5を参照しながら説明する。
【0038】
まず、パルスレーザ装置が起動されると、半導体レーザ1a,1bは、励起光を発生して固体レーザ媒質3a,3bを照射する。これにより、固体レーザ媒質3a,3bは、誘導放出光を発生し、音響光学素子4a.4bに送る。
【0039】
一方、動作クロック発生器7は、音響光学素子4a,4bを駆動するための動作クロックを発生して、位相制御回路8とRF信号生成部5bに出力する。
【0040】
RF信号生成器5bは、
図5に示すように、動作クロックと動作クロックをオン/オフさせるためのパルス出力タイミング信号とに基づきRF信号を生成し、生成されたRF信号を音響光学素子4bの圧電素子20に印加して音響光学素子4bを駆動させる。そして、時刻t0においてパルス出力タイミング信号がオフすることで、RF信号をオフさせ、音響光学素子4bからレーザ出力1が出力され、ミラー2dとスプリッタ10bを介してレーザ出力1はフォトダイオードPD11bで検知される。
【0041】
一方、位相制御回路8は、動作クロック発生器7からの動作クロックの位相を制御して、RF信号生成部5aに出力する。RF信号生成部5aは、位相制御された動作クロックとパルス出力タイミング信号とに基づきRF信号を生成し、位相制御されたRF信号を音響光学素子4aの圧電素子20に印加して音響光学素子4aを駆動させる。そして、パルス出力タイミング信号がオフすることで、RF信号をオフさせ、音響光学素子4aからレーザ出力2が出力され、ミラー2bとスプリッタ10aを介してレーザ出力2はフォトダイオードPD11aで検知される。
【0043】
この場合、フォトダイオードPD11aで検知されたレーザ出力2の時刻t1と、フォトダイオードPD11bで検知されたレーザ出力1の時刻t0とのタイミング差が略ゼロにするように動作クロックの位相を制御する。
【0044】
このように実施例2の固体レーザ装置によれば、位相制御回路8は、パルス出力タイミング信号と音響光学素子4aからのパルスレーザ出力とのタイミング差が動作クロックの1動作クロック以内である場合にタイミング差を略ゼロにするように動作クロックの位相を制御するので、1動作クロック以内のパルス出力タイミングのズレを略ゼロに低減させることができ、タイミング調整回路を簡単化できる。
【実施例3】
【0045】
実施例2では、タイミング差が1動作クロック以内である場合に、その1動作クロック以内のタイミング差を略ゼロにすることを特徴としている(精密なタイミング調整)。
【0046】
これに対して、実施例3では、タイミング差が1動作クロックを超えている場合に、そのタイミング差を1動作クロック以内に抑えることを特徴とする(粗いタイミング調整)。このため、音響光学素子4aの光軸位置を調整し、音響波の伝搬速度を考えて動作クロックの1クロック分以内に抑える。これにより、動作クロックの位相調整のみでタイミング制御が可能となり、数10nsec〜1μsecオーダーの粗い調整機構を省略することができる。
【0047】
以下、音響光学素子4aの光軸位置を調整し、音響波の伝搬速度を考えて動作クロックの1クロック分以内に抑える構成及びその動作について説明する。
【0048】
図6は、本発明の実施例3に係るパルスレーザ装置の構成を示すブロック図である。
図6に示す実施例3に係るパルスレーザ装置は、
図4に示す実施例2に係るパルスレーザ装置に対して、可動ホルダ12と、移動機構部13、移動制御部14とを備えることを特徴とする。
【0049】
可動ホルダ12は、音響光学素子4aを保持する。移動機構部13は、可動ホルダ12を上下方向に移動させることで、固体レーザ媒質3aから出力されるレーザ光が音響光学素子4a内を通過する位置を、レーザ光の光軸に対して直交する方向に平行移動させる。
【0050】
移動制御部14は、パルス出力タイミング信号とフォトダイオード11a,11bからのPD信号(パルスレーザ出力)とのタイミング差を1動作クロック以内にするための移動量制御信号を移動機構部13に出力する。移動機構部13は、移動制御部14からの移動量制御信号に基づいて可動ホルダ12を所定量だけ移動させる。これにより、パルス出力タイミング信号とパルスレーザ出力とのタイミング差を1動作クロック以内に制御することができる。
【0051】
RF信号が、
図7に示す音響光学素子4aの音響光学結晶4Aの側面に設けられた圧電素子20に到達すると、圧電素子20から発生する超音波により音響光学結晶4A内に粗密波による周期的な屈折率変化が生成され、この屈折率変化が入射光に対して回折格子として作用する。このとき、圧電素子20から発生する超音波が入射光L1に作用するまでの時間が、音響光学結晶4A内の遅延時間となる。
【0052】
従って、可動ホルダ12を上下方向に移動させることにより、音響光学素子4aの基本波の入射光L1の入射位置Pを調整することにより、パルス出力タイミング信号に対するパルスレーザ出力のタイミング差を調整することができる。音響波の伝搬時間は音響光学素子4aの材質により決定される。例えば、リチウムナイオベートは、6.6km/s、石英は5.96km/s、二酸化テルル(偏光状態に依存する)は0.62km/sである。動作クロックの周波数を20MHzとすると、1クロックは50nsである。音響光学素子4aに石英を選択すると、音響光学素子4a内を音響波が伝搬する速度は5.96km/sであるので、50nsは音響光学素子4aの約0.3mmに相当する。
【0053】
即ち、複数のパルスレーザ生成部6a,6bの音響光学素子4aの光軸位置を0.3mmの精度で合わせるように、可動ホルダ12を移動機構部13で移動することにより、音響光学素子4aの光軸位置を移動させる。
【0054】
これにより、タイミング調整幅は、動作クロックの1クロック以内に収めることができ、usecを超えるタイミング調整回路を簡素化し、
図6に示すPLLなどの位相制御回路8により動作クロックを位相制御して、複数のパルスレーザ生成部6a,6bの出力パルスレーザを合波することができる。
【0055】
このように実施例3のパルスレーザ装置によれば、可動ホルダ12を上下方向に移動させ、入射光L1の入射位置Pを圧電素子20に近づければ遅延時間は小さくなり、逆に入射位置Pを圧電素子20から遠ざければ遅延時間は大きくなる。即ち、入射光L1の音響光学結晶4Aへの入射角度が一定値のままで、音響光学素子4aを平行移動させて入射光L1及び圧電素子20間の距離を変化させることで、遅延時間を制御でき、しかも簡単な構成のパルスレーザ装置を提供できる。
【0056】
なお、本発明は実施例1乃至3のパルスレーザ装置に限定されるものではない。
図6に示す実施例2に係るパルスレーザ装置は、移動機構部13が可動ホルダ12を移動させるようにしたが、例えば、移動機構部13が半導体レーザ1aを上下方向に移動させても良い。このようなパルスレーザ装置においても、実施例3のパルスレーザ装置の効果と同様の効果が得られる。