(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記収録特性データおよび前記目標特性データの各々が表す音響特性は、楽曲の複数の演奏パートの各々について、楽曲内の平均音量、音量の時間変化、音像位置、周波数特性および残響特性の少なくともひとつを包含する
請求項1から請求項5の何れかのミキシング管理装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る音響処理システム100のブロック図である。
図1に例示される通り、音響処理システム100は、複数の端末装置12とミキシング管理装置14とを具備する通信システムである。各端末装置12は、例えば携帯電話機やスマートフォン等の通信端末であり、例えば移動通信網やインターネット等の通信網16を介してミキシング管理装置14と相互に通信する。
【0014】
1個の端末装置12について
図1に代表的に図示される通り、各端末装置12は、制御装置121と記憶装置122と通信装置123と表示装置124と入力装置125と放音装置126とを具備するコンピュータシステムで実現される。制御装置121は、記憶装置122に記憶されたプログラムを実行することで各種の制御処理および演算処理を実行する演算処理装置である。記憶装置122(例えば半導体記録媒体)は、制御装置121が実行するプログラムや制御装置121が使用する各種のデータを記憶する。通信装置123は、通信網16を介してミキシング管理装置14と通信する。なお、端末装置12と通信網16との間の通信は典型的には無線通信であるが、例えば据置型の情報処理装置を端末装置12として利用する場合には端末装置12と通信網16とが有線通信することも可能である。
【0015】
表示装置124(例えば液晶表示パネル)は、制御装置121から指示された画像を表示する。入力装置125は、端末装置12に対する利用者からの指示を受付ける操作機器であり、例えば利用者が操作する複数の操作子を含んで構成される。なお、表示装置124と一体に構成されたタッチパネルを入力装置125として採用することも可能である。
【0016】
第1実施形態の制御装置121は、記憶装置122に記憶されたプログラムを実行することで
図2の音響処理部22として機能する。
図2に図示される通り、音響処理部22は、楽曲の相異なる演奏パートに対応する複数の収録データDAをミキシングすることで調整音響データDBを生成する。各収録データDAは、楽曲の特定の演奏パートについて事前に収録された演奏音(音声や楽音)の時間波形を表す音響データである。他方、調整音響データDBは、複数の演奏パートで構成される楽曲の演奏音の時間波形を表す音響データ(例えば左右2チャネルの音響データ)である。
【0017】
具体的には、音響処理部22は、楽曲の複数の収録データDAの各々について個別に音響処理を実行したうえで相互に加算することで調整音響データDBを生成する。各収録データDAに対する音響処理は、音響特性を変化させる各種の信号処理である。例えば、音響の平均音量を増減させる増幅処理や、音響の周波数特性(例えば帯域毎の音量)を変化させる特性調整処理や、音響を時間軸上で遅延させる遅延処理等が、収録データDAに対する音響処理として例示される。音響処理部22による複数の収録データDAのミキシングには制御用のパラメータ(以下「制御パラメータ」という)Xが適用される。放音装置126は、音響処理部22が生成した調整音響データDBに応じた音響を再生する。なお、調整音響データDBをデジタルからアナログに変換するD/A変換器の図示は便宜的に省略した。
【0018】
図1のミキシング管理装置14は、各端末装置12の音響処理部22による複数の収録データDAのミキシングを管理する。具体的には、第1実施形態のミキシング管理装置14は、複数の収録データDAのミキシングに適用される好適な制御パラメータXを設定するサーバ装置(典型的にはウェブサーバ)であり、制御装置142と記憶装置144と通信装置146とを具備するコンピュータシステムで実現される。なお、相互に別体に構成された複数の装置(例えば通信網16を介して相互に通信する複数のサーバ装置)でミキシング管理装置14を実現することも可能である。制御装置142は、記憶装置144に記憶されたプログラムを実行することで各種の制御処理および演算処理を実行する演算処理装置である。通信装置146は、通信網16を介して各端末装置12と通信する。
【0019】
記憶装置144は、制御装置142が実行するプログラムや制御装置142が使用する各種のデータを記憶する。例えば半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の記録媒体または複数の記録媒体の組合せが記憶装置144として採用され得る。なお、ミキシング管理装置14とは別体の外部装置(例えばサーバ装置)に記憶装置144を設置し、ミキシング管理装置14が通信網16を介して外部装置の記憶装置144に対する情報の書込や読出を実行する構成も採用され得る。
【0020】
図3は、記憶装置144による記憶内容や制御装置142の動作内容の説明図である。
図3に例示される通り、第1実施形態の記憶装置144は、複数の楽曲データMを記憶する。各楽曲データMは、楽曲名や歌手名等の関連情報を指定する属性データMAと、楽曲の相異なる演奏パートに対応するN個(Nは2以上の自然数)の収録データDAとを含んで構成される。N個の収録データDAは、前述の通り、端末装置12(音響処理部22)によるミキシングの対象となる音響データである。楽曲のN個の演奏パートの演奏音を並列または個別に収録したN個(Nトラック)の収録データDAが記憶装置144に記憶される。具体的には、音楽スタジオ等の音響空間における演奏音の収録(マルチトラック録音)で生成されたN個の収録データDAが端末装置12からミキシング管理装置14に送信されたうえで記憶装置144に格納される。したがって、楽曲自体は複数の楽曲データMで共通する場合でも、各収録データDAの収録条件(収録環境や使用機器)は楽曲データM毎に相違し得る。なお、以下の説明では、各楽曲がN個の演奏パートで構成される場合を便宜的に例示するが、実際には演奏パートの総数は楽曲毎に相違し得る。
【0021】
また、第1実施形態の記憶装置144は、
図3に例示される通り、相異なる楽曲に対応する複数の目標特性データRを記憶する。各目標特性データRは、楽曲の模範的な演奏音の音響特性(すなわちミキシングの目標となる音響特性)を表すデータであり、
図3に例示される通り、楽曲に関連する情報を指定する属性データRAと、楽曲の相異なる演奏パートに対応するN個の単位データr[1]〜r[N]とを含んで構成される。属性データRAは、例えば、楽曲名や楽曲構成(イントロ,Aメロ,Bメロ,サビ等の構造)等の関連情報を指定する。
【0022】
1個の目標特性データRに包含される各単位データr[n](n=1〜N)は、楽曲を構成するN個の演奏パートのうち第n番目の1個の演奏パートの演奏音の音響特性(目標の音響特性)を表す。具体的には、楽曲内の平均音量、音量の時間変化、音像位置(受聴者が知覚する音像が定位する位置)、周波数特性および残響特性等の音響特性が、各単位データr[n]で指定される。残響特性としては、例えば残響時間や、残響区間を時間軸上で初期反射区間と後部残響区間とに区分した場合の初期反射区間または後部残響区間の時間長等が例示される。
【0023】
各単位データr[n]で指定される音響特性の種類は、演奏パート毎に個別に設定され、各演奏パート間では相違し得る。例えば、
図3に例示される通り、ボーカルパートやギターパート等の有声音(調波音)が優勢な演奏パートの単位データr[n]は、調波構造(基音成分と複数の倍音成分との系列)の包絡線等の周波数特性の時間変化を包含し、ドラムパート(リズムパート)等の無声音(非調波音)が優勢な演奏パートの単位データr[n]は、楽曲のリズムに関する情報(例えば楽曲のテンポや各拍点の周期等)を包含する。
【0024】
第1実施形態の目標特性データRは、既存の音響データ(以下「目標データ」という)を解析することで事前に生成されて記憶装置144に格納される。例えば、音楽CD等の記録媒体に記録された既存の音響データや、各端末装置12に対する配信用のMP3形式の音響データを目標データ(すなわち模範的な演奏音の音響データ)として解析することで目標特性データRが生成される。また、音響技術者等の制作者が手動で目標特性データRを生成することも可能である。
【0025】
図4は、第1実施形態におけるミキシング管理装置14の機能的な構成図である。
図4に例示される通り、ミキシング管理装置14の制御装置142は、記憶装置144に記憶されたプログラムを実行することで、特定の楽曲(以下「対象楽曲」という)のN個の収録データDAのミキシングに適用される制御パラメータXを設定および利用するための複数の機能(第1取得部32,第2取得部34,設定部36,通信制御部42)を実現する。なお、制御装置142の各機能を複数の集積回路に分散した構成や、制御装置142の機能の一部を専用の電子回路(例えばDSP)が実現する構成も採用され得る。
【0026】
図4の第1取得部32は、対象楽曲のN個の収録データDAが表す演奏音(例えば各利用者の実際の演奏音)の音響特性を表す収録特性データQを取得する。前述の通り、各収録データDAの収録条件(演奏音の音響特性)は楽曲データM毎に相違し得るから、楽曲自体は共通する場合でも各収録データDAの音響特性を表す収録特性データQは楽曲データM毎に相違し得る。
【0027】
図3に例示される通り、収録特性データQは、対象楽曲の相異なる演奏パート(トラック)に対応するN個の単位データq[1]〜q[N]を含んで構成される。各単位データq[n]は、対象楽曲のN個の演奏パートのうち第n番目の1個の演奏パートの演奏音の音響特性を表す。具体的には、目標特性データRの各単位データr[n]と同様に、楽曲内の平均音量、音量の時間変化、音像位置、周波数特性および残響特性等の音響特性が、収録特性データQの各単位データq[n]で指定される。各単位データq[n]で指定される音響特性の種類は演奏パート毎に相違し得る。
【0028】
第1実施形態の第1取得部32は、記憶装置144に記憶された対象楽曲の楽曲データMのN個の収録データDAを解析することで収録特性データQを生成する。具体的には、第1取得部32は、対象楽曲のN個の収録データDAの各々について演奏パートを判別し、各演奏パートの収録データDAを解析することで演奏パート毎の単位データq[n](収録特性データQ)を生成する。
【0029】
各収録データDAの演奏パートの判別には、例えば楽曲の各演奏パートの音符の時系列(すなわち旋律)を規定した参照データが好適に利用される。参照データは、例えばカラオケの演奏に利用されるMIDI(Musical Instrument Digital Interface)形式の時系列データである。具体的には、第1取得部32は、各収録データDAが表す音高の時間変化を解析し、参照データの複数の演奏パートのうち音符の時系列が収録データDAの音高の時間変化に類似する演奏パートを、当該収録データDAの演奏パートとして判別する。なお、収録データDAが表す音響の音域(音高の分布範囲)に応じて演奏パートを判別する構成や、収録データDAが表す音響の調波構造の有無に応じて演奏パートを判別する構成(例えば調波構造が存在しない収録データDAの演奏パートをドラムパートと判別する構成)も採用され得る。
【0030】
図4の第2取得部34は、対象楽曲の目標特性データRを取得する。第1実施形態の第2取得部34は、相異なる楽曲について記憶装置144に記憶された複数の目標特性データRのうち対象楽曲に対応する1個の目標特性データRを選択して記憶装置144から取得する。
【0031】
設定部36は、第1取得部32が取得した収録特性データQと第2取得部34が取得した目標特性データRとに応じて対象楽曲の制御パラメータXを設定する。具体的には、設定部36は、対象楽曲のN個の収録データDAに対するミキシングの実行後の音響特性が、目標特性データRで表される音響特性に近似(理想的には合致)するように、収録特性データQと目標特性データRとに応じて制御パラメータXを設定する。例えば、暫定的な制御パラメータXを適用してN個の収録データDAをミキシングした場合の音響特性が目標特性データRの音響特性に近似する(音響特性の相違が最小化される)ように制御パラメータXを逐次的に更新する最適化処理が、設定部36による制御パラメータXの設定に好適に利用される。前述の通り、各収録データDAの収録条件は楽曲データM毎に相違し得るから、楽曲自体は共通する場合でも制御パラメータXは楽曲データM毎に相違し得る。
【0032】
図3に例示される通り、第1実施形態の制御パラメータXは、N個の収録データDAのミキシングに反映される複数種のパラメータ(タイムコードX1,音量パラメータX2,定位パラメータX3,周波数特性(F特)パラメータX4,残響パラメータX5)を含んで構成される。
【0033】
タイムコードX1は、各収録データDAの各時点を目標データの対応する時点に時間軸上で調整する(楽曲内で相対応する楽音を時間軸上で同期させる)ためのデータである。具体的には、タイムコードX1は、収録データDAの各時点が目標データの各時点に対応するように収録データDAの各時点の遅延量(時間軸上の移動量)を指定する。設定部36は、例えば、収録特性データQのうちリズムパートの単位データq[n]で指定されるリズム情報と、目標特性データRのうちリズムパートの単位データr[n]で指定されるリズム情報とを相互に対比することでタイムコードX1を設定する。なお、タイムコードX1の生成(収録データDAと目標データとの同期解析)には、例えば特開2011−053589号公報に記載された技術が好適に利用される。
【0034】
音量パラメータX2は、楽曲データMの各収録データDAの音量を目標データの各演奏パートの音量に近似(理想的には合致)させるためのデータである。具体的には、設定部36は、収録特性データQの各単位データq[n]が指定する音量(楽曲内の平均音量や音量の時間変化)と目標特性データRの各単位データr[n]が指定する音量との相違に応じて音量パラメータX2を設定する。また、定位パラメータX3は、各収録データDAの音像位置を目標データの各演奏パートの音像位置に近似(理想的には合致)させるためのデータである。具体的には、設定部36は、収録特性データQの各単位データq[n]が指定する音像位置と目標特性データRの各単位データr[n]が指定する音像位置との相違に応じて定位パラメータX3を設定する。
【0035】
周波数特性パラメータX4は、楽曲データMの各収録データDAの周波数特性を目標データの各演奏パートの周波数特性に近似(理想的には合致)させるためのデータであり、例えば各収録データDAの音響に適用される帯域毎の利得(イコライザパラメータ)を指定する。具体的には、設定部36は、収録特性データQの各単位データq[n]が指定する周波数特性(例えば調波構造の包絡線)と目標特性データRの各単位データr[n]が指定する周波数特性との相違に応じて周波数特性パラメータX4を設定する。また、残響パラメータX5は、各収録データDAの残響特性を目標データの各演奏パートの残響特性に近似(理想的には合致)させるためのデータである。設定部36は、収録特性データQの各単位データq[n]が指定する残響特性と目標特性データRの各単位データr[n]が指定する残響特性との相違に応じて残響パラメータX5を設定する。以上が制御パラメータXの具体例である。
【0036】
図4の通信制御部42は、通信装置146を介した各端末装置12との通信を制御する。具体的には、通信制御部42は、設定部36が対象楽曲について設定した制御パラメータXと記憶装置144に記憶された対象楽曲の楽曲データMのN個の収録データDAとを通信装置146から端末装置12に送信する。すなわち、第1実施形態の制御装置142(通信制御部42)は、制御パラメータXと複数の収録データDAとを端末装置12に送信する要素として機能する。
【0037】
図5は、第1実施形態の動作の説明図である。利用者は、端末装置12の入力装置125を適宜に操作することで、所望の対象楽曲を選択するとともにミキシングの開始を指示する。以上の指示を受付けると、端末装置12の制御装置121は、利用者が選択した対象楽曲の指定を含む処理要求を通信装置123から通信網16を介してミキシング管理装置14に送信する(S1)。
【0038】
端末装置12から送信された処理要求を通信装置146が受信すると、ミキシング管理装置14の制御装置142(第1取得部32)は、各楽曲の属性データMA(楽曲名等)を参照することで、処理要求にて指定された対象楽曲の楽曲データMを記憶装置144から検索し、対象楽曲の楽曲データM(各収録データDA)を解析することで収録特性データQを生成する(S2)。また、制御装置142(第2取得部34)は、各目標特性データRの属性データRA(楽曲名等)を参照することで対象楽曲の目標特性データRを検索し、対象楽曲の目標特性データRを記憶装置144から取得する(S3)。そして、制御装置142(設定部36)は、対象楽曲のN個の収録データDAに対するミキシングの実行後の音響特性が目標特性データRの音響特性に近似するように、ステップS2で取得した収録特性データQとステップS3で取得した目標特性データRとに応じた制御パラメータX(X1〜X5)を生成する(S4)。制御装置142(通信制御部42)は、対象楽曲の楽曲データMに含まれるN個の収録データDAとステップS4で設定した制御パラメータXとを、処理要求(S1)の送信元の端末装置12に対して通信装置146から送信する(S5)。
【0039】
ミキシング管理装置14から送信された制御パラメータXおよびN個の収録データDAを通信装置123が受信すると、端末装置12の制御装置121(音響処理部22)は、制御パラメータXを適用してN個の収録データDAをミキシングすることで調整音響データDBを生成し、調整音響データDBを放音装置126に供給することで対象楽曲を再生する(S6)。
【0040】
以上に説明した通り、第1実施形態では、N個の収録データDAをミキシングした場合の音響特性が目標特性データRの音響特性に近似するように制御パラメータXが設定されるから、
図5のステップS6で放音装置126から放音される再生音の音響特性は、目標特性データRが指定する音響特性に近似または合致する。すなわち、第1実施形態によれば、各収録データDAの収録条件が楽曲データM毎に相違する場合でも(すなわち楽曲データMの収録条件に関わらず)、収録条件の相違を低減(補償)して所期のミキシングを実現できるという利点がある。また、第1実施形態では、収録特性データQと目標特性データRとに応じた制御パラメータXの設定がミキシング管理装置14で統一的に実行されて制御パラメータXが各端末装置12に送信される。したがって、制御パラメータXの算定ないし設定(設定部36)を各端末装置12にて実行する構成と比較して、各端末装置12での処理負荷が軽減されるという利点もある。
【0041】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0042】
図6は、第2実施形態における音響処理システム100のブロック図であり、
図7は、第2実施形態の動作の説明図である。
図7に例示される通り、第2実施形態では、第1実施形態と同様の動作(S1〜S6)が実行されることで、制御パラメータXに応じてN個の収録データDAをミキシングした調整音響データDBが放音装置126から再生される。
【0043】
放音装置126から放音された対象楽曲の再生音を受聴した利用者は、端末装置12の入力装置125を適宜に操作することで、対象楽曲の再生音の音響特性の修正を指示することが可能である。端末装置12の制御装置121は、音響特性の修正の指示に応じた修正データZを生成し(S7)、
図6および
図7から理解される通り、通信装置123から通信網16を介してミキシング管理装置14に修正データZを送信する(S8)。
【0044】
図8は、音響特性の修正の説明図である。対象楽曲の調整音響データDBの再生が完了すると、端末装置12の制御装置121は、
図8の編集画像50を表示装置124に表示させる。編集画像50では、ミキシングの実行前の音響特性(収録データDAの音響特性)CAと制御パラメータXを適用したミキシングの実行後の音響特性(調整音響データDBの音響特性)CBとが対比的に表示される。
図8では、制御パラメータXを適用したミキシングの前後における音量の時間変化(横軸:時間,縦軸:音量)が例示されている。利用者は、調整音響データDBの再生音を受聴した結果を考慮して、ミキシングの実行前の音響特性CAと比較しながら入力装置125を適宜に操作することで、ミキシングの実行後の音響特性CBを所望の音響特性CZに編集することが可能である。端末装置12の制御装置121は、利用者から指示された修正後の音響特性CZを表す修正データZを生成する(S7)とともに修正データZを通信装置123からミキシング管理装置14に送信する(S8)。
【0045】
図6から理解される通り、第2実施形態のミキシング管理装置14の通信装置146は、端末装置12から送信された修正データZを受信する。通信制御部42は、通信装置146が受信した修正データZを取得する。すなわち、第2実施形態の制御装置142(通信制御部42)は、調整音響データDBの再生音を受聴した利用者からの指示に応じた修正データZを取得する要素(指示受付部)として機能する。端末装置12における音響特性CBの編集(修正データZの送信)は、制御パラメータXを適用したミキシングで生成された調整音響データDBの再生毎に反復される。したがって、通信制御部42は、相異なる利用者からの指示に応じた複数の修正データZを、共通の対象楽曲について複数の端末装置12から順次に取得する。
【0046】
図6に例示される通り、第2実施形態のミキシング管理装置14は、第1実施形態のミキシング管理装置14に更新部44を追加した構成である。更新部44は、通信制御部42が端末装置12から取得した修正データZに応じて記憶装置144内の対象楽曲の目標特性データRを更新する(S9)。具体的には、更新部44は、修正データZが表す音響特性に近付くように対象楽曲の目標特性データR(各単位データr[n])を更新する。例えば、更新部44は、通信制御部42が各端末装置12から取得した複数の修正データZについて所定の統計処理(典型的には平均)を実行するとともに処理後の修正データZを利用して対象楽曲の目標特性データRを更新する。
【0047】
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態では、調整音響データDBの再生音を受聴した利用者からの指示(修正データZ)が目標特性データRに反映されるから、記憶装置144に記憶された目標特性データRを、利用者の所望の音響特性を指定する内容に更新できるという利点がある。第2実施形態では特に、相異なる利用者からの指示に応じた複数の修正データZが目標特性データRに反映されるから、目標特性データRを多数の利用者にとって好適な内容に更新できるという格別の利点がある。
【0048】
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態における目標特性データRの説明図である。第1実施形態では、相異なる楽曲に対応する複数の目標特性データRを用意した。第3実施形態では、
図9に例示される通り、相異なる音響特性を表す複数の目標特性データRが楽曲毎に記憶装置144に記憶される。すなわち、任意の1個の楽曲について、音響特性が相違する複数の目標特性データRが用意される。例えば、標準的な音響特性を表す目標特性データRのほか、楽器の弾語りに好適な音響特性やリズムを重視した音響特性等の個性的な音響特性を表す目標特性データRが、各楽曲について記憶装置144に記憶される。
【0049】
図10は、第3実施形態の動作の説明図である。第1実施形態と同様に対象楽曲を指定した処理要求を端末装置12から受信すると(S1)、ミキシング管理装置14の制御装置142(通信制御部42)は、処理要求で指定された対象楽曲について記憶装置144に記憶された複数の目標特性データRを利用者による選択候補として端末装置12に通知する(S11)。端末装置12の制御装置121は、
図11に例示される通り、対象楽曲の複数の目標特性データRを利用者による選択候補として配列したリスト52を表示装置124に表示させる(S12)。利用者は、入力装置125を適宜に操作することで所望の目標特性データRを選択することが可能である。目標特性データRの選択を受付けると(S13)、端末装置12の制御装置121は、利用者が選択した目標特性データRをミキシング管理装置14に通知する(S14)。
【0050】
利用者が選択した目標特性データRの通知を受信すると、ミキシング管理装置14の制御装置142は、対象楽曲の楽曲データMの解析で収録特性データQを生成するとともに(S2)、対象楽曲の複数の目標特性データRのうちステップS14で端末装置12から通知された目標特性データRを記憶装置144から取得する(S3)。制御装置142(設定部36)は、対象楽曲の収録特性データQと端末装置12の利用者が選択した目標特性データRとに応じて制御パラメータXを設定する(S4)。以降の動作は第1実施形態や第2実施形態と同様である。
【0051】
第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第3実施形態では、楽曲毎に用意された複数の目標特性データRが選択的に制御パラメータXの設定に適用されるから、1種類の目標特性データRを制御パラメータXの設定に固定的に適用する構成と比較して多様な音響特性の調整音響データDBを生成することが可能である。第3実施形態では特に、複数の目標特性データRのうち利用者が選択した目標特性データRが制御パラメータXの設定に適用されるから、利用者の意図や嗜好に合致した音響特性の調整音響データDBを生成できるという利点がある。
【0052】
なお、修正データZに応じて目標特性データRを更新する第2実施形態の構成を第3実施形態に採用することも可能である。具体的には、更新部44は、記憶装置144に記憶された対象楽曲の複数の目標特性データRのうち利用者がリスト52から選択した目標特性データRを、利用者による編集の指示を反映した修正データZに応じて更新する。
【0053】
<第4実施形態>
前述の各形態では、通信網16を介して相互に通信する端末装置12とミキシング管理装置14とで構成される音響処理システム100を例示した。第4実施形態のミキシング管理装置14は、前述の各形態の音響処理システム100と同様の機能を装置単体で実現する。
【0054】
図12は、第4実施形態におけるミキシング管理装置14のブロック図である。
図12に例示される通り、第4実施形態のミキシング管理装置14は、前述の各形態の端末装置12と同様に、制御装置121と記憶装置122と表示装置124と入力装置125と放音装置126とを含むコンピュータシステムで実現される。例えば携帯電話機やスマートフォンやパーソナルコンピュータ等の情報処理装置がミキシング管理装置14として利用される。
【0055】
記憶装置122は、制御装置121が実行するプログラムを記憶するほか、楽曲データMと目標特性データRとを楽曲毎に記憶する。制御装置121は、記憶装置122に記憶されたプログラムを実行することで、前述の形態で例示した各機能(第1取得部32,第2取得部34,設定部36,音響処理部22,更新部44)を実現する。具体的には、第1取得部32は、記憶装置122に記憶された対象楽曲の楽曲データMを解析することで収録特性データQを生成し、第2取得部34は、対象楽曲の目標特性データRを記憶装置122から取得する。設定部36は、第1取得部32が生成した収録特性データQと第2取得部34が取得した目標特性データRとから制御パラメータXを生成する。音響処理部22は、設定部36が設定した制御パラメータXを適用して対象楽曲の楽曲データMのN個の収録データDAをミキシングすることで調整音響データDBを生成して放音装置126から再生させる。更新部44は、調整音響データDBの再生音を受聴した利用者からの指示(修正データZ)に応じて記憶装置122内の対象楽曲の目標特性データRを更新する。各要素の具体的な処理の内容は前述の各形態で例示した通りである。
【0056】
第4実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。なお、対象楽曲に対応する複数の目標特性データRを制御パラメータXの設定に選択的に利用する第3実施形態の構成を第4実施形態に採用することも可能である。また、修正データZに応じて目標特性データRを更新する構成(更新部44)は第4実施形態から省略され得る。
【0057】
<変形例>
前述の各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
【0058】
(1)前述の各形態では、第1取得部32が、楽曲データMの各収録データDAを解析することで収録特性データQを生成する構成を例示したが、各楽曲の収録特性データQを記憶装置144(第4実施形態では記憶装置122)に事前に記憶することも可能である。収録特性データQを記憶装置144に記憶した構成では、第1取得部32は、対象楽曲の収録特性データQを記憶装置144から読出す要素として機能する。以上の説明から理解される通り、第1取得部32は、複数の収録データDAの音響特性を表す収録特性データQを取得する要素として包括的に表現され、各収録データDAの解析で収録特性データQを生成する要素(前述の各形態)と記憶装置144に事前に記憶された収録特性データQを読出す要素との双方を包含する。
【0059】
また、前述の各形態では、第2取得部34が、記憶装置144(第4実施形態では記憶装置122)に記憶された目標特性データRを読出す構成を例示したが、各楽曲の目標データを記憶装置144に記憶することも可能である。目標データを記憶装置144に記憶した構成では、第2取得部34は、対象楽曲の目標データを解析することで目標特性データRを生成する要素として機能する。以上の説明から理解される通り、第2取得部34は、楽曲の目標の音響特性を表す目標特性データRを取得する要素として包括的に表現され、記憶装置144に事前に記憶された目標特性データRを読出す要素(前述の各形態)と目標データの解析で目標特性データRを生成する要素との双方を包含する。
【0060】
(2)第1実施形態から第3実施形態では、制御パラメータXとN個の収録データDAとをミキシング管理装置14から端末装置12に送信し、端末装置12の音響処理部22がN個の収録データDAをミキシングする構成を例示したが、
図13に例示される通り、音響処理部22をミキシング管理装置14に設置することも可能である。
図13の音響処理部22は、設定部36が設定した制御パラメータXを適用して対象楽曲のN個の収録データDAをミキシングすることで調整音響データDBを生成する。通信制御部42は、音響処理部22が生成した調整音響データDBを通信装置146から通信網16を介して端末装置12に送信する。以上の構成によれば、音響処理部22を各端末装置12に搭載する必要がないという利点がある。
【0061】
(3)第2実施形態では、調整音響データDBの再生と修正データZの送信とを単体の端末装置12が実行したが、調整音響データDBを再生する装置と修正データZを送信する装置とを別体で構成することも可能である。例えば、調整音響データDBの再生をパーソナルコンピュータ等の情報処理装置に実行させ、利用者からの指示に応じた修正データZの生成および送信を携帯電話機やスマートフォン等の可搬型の情報処理装置に実行させる構成が好適である。
【0062】
(4)第2実施形態では、様々な利用者の意向や嗜好を反映した多数の修正データZが各端末装置12からミキシング管理装置14に送信される。以上の構成では、各端末装置12から取得した複数の修正データZを利用して複数の目標特性データRを生成することも可能である。例えば、1個の楽曲について各端末装置12から取得した複数の修正データZを利用者による指示内容の傾向に応じて複数の集合に分類(クラスタリング)し、複数の集合の各々について、初期的(標準的)な目標特性データRを当該集合内の各修正データZに応じて更新することで、集合毎(修正データZの傾向毎)に個別の目標特性データRが生成される。例えば、更新部44は、集合G1に分類された各修正データZを初期的な目標特性データRに反映させることで目標特性データR1を生成し、集合G2に分類された各修正データZを初期的な目標特性データRに反映させることで、目標特性データR1とは別個の音響特性を表す目標特性データR2を生成する。以上の手順で楽曲毎に生成された複数の目標特性データRは、第3実施形態と同様に、利用者からの指示に応じて選択的に制御パラメータXの設定に適用される。以上の構成によれば、例えば標準的(平均的)な目標特性データRと個性的な目標特性データRとを生成できるという利点がある。
【0063】
(5)音響処理部22による処理の内容は前述の各形態での例示に限定されない。例えば、音響処理部22が、各収録データDAに対して特定の周波数成分(例えば倍音成分)を付加することで、目標特性データRの音響特性に近似する調整音響データDBを生成することも可能である。具体的には、ディストーションやエキサイター等の各種の音響効果を収録データDAに付加することが可能である。