特許第6201551号(P6201551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201551
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ガス分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/39 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   G01N21/39
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-187271(P2013-187271)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-55486(P2015-55486A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】大寺 文章
(72)【発明者】
【氏名】加藤 塁
【審査官】 佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−243968(JP,A)
【文献】 特開2013−036916(JP,A)
【文献】 特開2012−005976(JP,A)
【文献】 特開2009−162667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/61
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセル内の測定対象ガスに、特定ガスに吸収される吸収波長を含む波長可変半導体レーザによる測定光を照射する光源部と、
ガスセル内の測定対象ガスに照射する分割測定光と、測定対象ガスに照射しない参照光とに分割する測定光分割部と、
前記測定対象ガス中を通過した分割測定光の強度を受光する分割測定光受光部と、
前記参照光の強度を受光する参照光受光部と、
分割測定光の強度変化I(ν)と参照光の強度変化I(ν)とに基づいて、前記測定対象ガス中の特定ガス量情報を算出する演算部とを備えるガス分析装置であって、
前記演算部は、分割測定光の強度変化I(ν)と参照光の強度変化I(ν)とに基づいて、ln(I(ν)/I(ν))を作成し、最小二乗法を用いてln(I(ν)/I(ν))から近似式[ln(I(ν)/I(ν))]を作成した後、[ln(I(ν)/I(ν))]が最大値となる周波数νをν0newとしたときに、下記式の関係が成立する周波数ν1newと周波数ν2newとを求め、[ln(I(ν0new)/I(ν0new))]と周波数ν1newと周波数ν2newとに基づいて、前記測定対象ガス中の特定ガス量情報を算出することを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記演算部は、周波数ν1newと周波数ν2newとを含む分割測定光の強度変化I(ν)と、周波数ν1newと周波数ν2newとを含む参照光の強度変化I(ν)とに基づいて、ln(I(ν)/I(ν))を作成することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
[ln(I(ν)/I(ν))]は、下記式で表されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガス分析装置。
[ln(I(ν)/I(ν))]=1/(aν+bν+c) ・・・(1
ただし、a、b、cは定数である。
【請求項4】
前記演算部は、[ln(I(ν)/I(ν))]におけるa、b、cを記憶させ表示させることを特徴とする請求項3に記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記演算部は、Lorentz型の吸収波形プロファイル関数Φ(ν)又はGauss型の吸収波形プロファイル関数Φ(ν)を下記式に代入することにより、前記測定対象ガス中の特定ガス量情報を算出することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のガス分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ吸収分光法を利用して気体中の特定ガス量情報を測定するガス分析装置に関し、特に、半導体製造装置における真空領域中や煙道中や燃焼プロセス中や自動車測定対象ガス中や燃料電池における流路中等の水蒸気量(特定ガス量情報)を測定するガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体中の水蒸気量を測定する方法の一つとして、水分子が特定波長領域(例えば、1.3μm帯)の光のみを吸収することを利用した吸収分光法が挙げられる。この吸収分光法は、測定対象のサンプルガスに対し非接触で測定可能であるため、サンプルガスの場を乱さずにサンプルガス中の水蒸気量を計測することができる。
【0003】
このような吸収分光法の中でも、特に光源に波長可変半導体レーザを利用した「波長可変半導体レーザ吸収分光法」は、シンプルな装置構成で実現することができる。
例えば、「波長可変半導体レーザ吸収分光法」を利用したガス分析装置では、サンプルガスが所定方向に流れている配管(ガスセル)に対して、配管に形成された入射用光学窓と出射用光学窓とを介して、配管を横切って光路(光路長L)が形成されるようにそれぞれ対向して設けられる波長可変半導体レーザと光検出センサ(受光部)とを追加することが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このようなガス分析装置によれば、波長可変半導体レーザから照射された所定波長のレーザ光は、配管内を通過する過程でサンプルガス中に存在する水分子の遮光作用によってレーザ光の進行が阻害されて、サンプルガス中における水分子の濃度に対応して光検出センサに入射する光量が減少することを利用して、波長可変半導体レーザから放射されたレーザ光の光量に対する光検出センサに入射するレーザ光の光量を測定することによって水分子の濃度が算出される。図6は、ガス分析装置で得られた吸収スペクトルの一例を示すグラフである。縦軸は受光強度Iであり、横軸は周波数νである。なお、I(ν)は周波数νにおいて水分子の吸収を受けなかった場合の受光強度Iであり、非吸収波長の受光強度Iに基づいて近似式を作成することで導出されることになる。
【0005】
ここで、図6に示す吸収スペクトルを用いた演算処理の一例について説明する。Lambert-Beerの法則より下記式(1)が成り立つ。
【0006】
【数1】
【0007】
なお、I(ν)は周波数νにおいて水分子の吸収を受けなかった場合の光強度、I(ν)は周波数νにおける透過光強度、c(mol/cm)は水分子の数密度、L(cm)はサンプルガスを通過する光路の長さ、S(T)(cm−1/(mol/cm−2))は所定の吸収線強度におけるガス温度Tの関数である。
【0008】
ここで、図7は、縦軸をln(I(ν)/I(ν))とし、横軸を周波数νとしたグラフである。よって、式(1)の左辺の値は、図7に示すグラフの面積を求めることで得られる。図7のグラフの面積を求める方法として、長方形近似を一例に挙げると、式(1)の左辺は下記式(2)のように変形することができる。
【0009】
【数2】
【0010】
なお、νmaxは吸収帯(吸収ピーク)の周波数上限、νminは吸収帯の周波数下限、nは1波形あたりの測定点数である。
【0011】
一方、式(1)の右辺におけるS(T)に関しては下記式(3)が成り立つ。
【0012】
【数3】
【0013】
なお、Sは標準状態での線強度、Q(T)は分配関数、B(T)はボルツマン因子、SE(T)は誘導放射の補正式である。
さらに、式(3)の右辺におけるQ(T)、B(T)、SE(T)は、それぞれ下記式(4)、(5)、(6)のように表すことができる。
【0014】
【数4】
【0015】
なお、S、定数a〜d、Eは、HITRANデータベース等から得られることができる。よって、ガス温度値Tと光強度変化I(ν)、I(ν)とを得ることができれば、水分子の数密度cが算出できることになる。
【0016】
そして、水分子の数密度cと水分の分圧値PH2Oとの関係は、下記式(7)のように表すことができる。
【0017】
【数5】
【0018】
なお、kはボルツマン定数である。これにより、水分の分圧値PH2O(水蒸気量情報)を算出することができる。
【0019】
ここで、図4は、波長可変半導体レーザ吸収分光法を利用したガス分析装置の一例を示す概略構成図であり、図5は、図4に示すガス分析装置のブロック図である。なお、地面に水平な一方向をX方向とし、地面に水平でX方向と垂直な方向をY方向とし、X方向とY方向とに垂直な方向をZ方向とする。
ガス分析装置101は、光源部110と、受光部120と、圧力値Ptotalを測定する圧力センサ31と、ガス温度値Tを測定するガス温度センサ32と、光源部110を制御するレーザ制御部50と、マイコンやPCで構成される制御部160とを備える。
【0020】
このようなガス分析装置101は、燃料電池システムへの給排気の各ラインに連結されたサンプル流路70内を流れるサンプルガス中の水分の分圧値PH2Oを測定するために用いられている。サンプル流路70はZ方向に伸びており、サンプル流路70の側壁には、入射用光学窓71と、入射用光学窓71にX方向に距離Lを空けて対向する出射用光学窓72とが形成されている。そして、サンプルガスはサンプル流路70内をZ方向に流れている。
【0021】
光源部110は、例えば光通信用分布帰還系形(DFB:distributed feedback)半導体レーザダイオードが用いられる。レーザダイオードは、近赤外領域の所定波長範囲(位相速度定数A/νend〜位相速度定数A/νstart)内においてレーザの発振波長を調整することが可能となっており、レーザ制御部50からの制御信号によって制御されるようになっている。なお、上記光源部として、波長可変型の半導体レーザであれば赤外光その他の波長領域のいずれの構造のレーザでもよく、また、比較的高価ではあるが、量子カスケードレーザ等が用いてもよい。
そして、レーザダイオードは、入射用光学窓71からサンプル流路70内にX方向でレーザ光を入射させるように配置されており、レーザ光がサンプルガスに対して照射されるようになっている。
【0022】
受光部120は、光強度を電気信号に変換できるものであればよく、例えばフォトダイオードが用いられる。そして、フォトダイオードは、出射用光学窓72からサンプル流路70外にX方向で出射されたレーザ光を受光するように配置されており、サンプルガスを通過したレーザ光の強度I(ν)を受光する。これにより、水分子の吸収スペクトルの中心波長部分のレーザ光の強度I(ν)と、中心波長部分の両側となる非吸収波長部分のレーザ光の強度I(ν)とを含むスペクトル波形をフォトダイオードにより取得することで、制御部160がI(ν)とI(ν)とを算出するようになっている。
【0023】
圧力センサ31は、サンプル流路70内に設置されており、サンプルガスの全圧である圧力値Ptotalを所定時間間隔で測定する。また、ガス温度センサ32も、サンプル流路70内に設置されており、サンプルガスの温度であるガス温度値Tを所定時間間隔で測定する。
【0024】
レーザ制御部50は、レーザ電流を制御するレーザ電流制御部51と、レーザ温度を制御するレーザ温調部52とにより構成される。
制御部160は、CPU161とメモリ162と表示部63と入力装置64とを備える。また、CPU161が処理する機能をブロック化して説明すると、サンプルガス中の分圧値PH2Oを算出する演算部161aを有する。
【0025】
そして、レーザ光の強度I(ν)、圧力値Ptotal、ガス温度値TをそれぞれA/D変換部1、2、3によってデジタル値に変換し、演算部161aは、このデジタル値からI(ν)とI(ν)とを算出して式(1)に当てはめて数密度cを得て、得られた数密度cを式(7)に当てはめて分圧値PH2Oを得ていく。
なお、演算部161aは、分圧値PH2Oと圧力値Ptotalとを用いて、サンプルガス中の水蒸気量(濃度)を演算してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開2010−237075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
ところで、上述したようなガス分析装置101により、図6に示すような吸収スペクトルを得ることになるが、サンプル流路70内を流れるサンプルガスの圧力値Ptotalが高圧であるときや、サンプルガスの濃度が高濃度であるときには、レーザダイオードの発振波長を最大限に調整しても、(νstartがνminより大きくなったりνendがνmaxより小さくなったりして)吸収スペクトル中の吸収ピークの周波数上限νmaxから周波数下限νminまでの範囲をカバーできず、その結果、I(ν)を正確に算出できなかったり、図7に示すようなグラフの面積を正確に求められないことがあった。
【0028】
また、図6に示すような吸収スペクトルからI(ν)を算出するのではなく、レーザ光を分割測定光と参照光とに分割することにより参照光の強度I(ν)を受光するダブルビーム法を用いた場合、ダブルビーム法では、I(ν)を正確に算出することはできても、やはり吸収ピークの周波数上限νmaxから周波数下限νminまでの範囲をカバーできなければ、図7のグラフの面積を正確に求めることはできなかった。
さらに、ダブルビーム法によりグラフの面積を求めるのではなく、I(ν)の最大強度値を求め、I(ν)の最大強度値から水分の分圧値PH2Oを算出することも可能ではあるが、この算出方法では吸収ピークは圧力値Ptotal、ガス温度値T、ガス濃度といった複数のパラメータの影響を受けて変化するため、精度が低くなるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本出願人は、波長可変半導体レーザを用いたレーザダイオードの発振波長が吸収ピークの周波数上限νmaxから周波数下限νminまでの範囲をカバーできないときにも、水分の分圧値PH2Oを正確に求めることができる方法について検討した。まず、I(ν)を正確に算出するために、ダブルビーム法を用いることにした。次に、吸収スペクトル中の吸収ピークについては、サンプルガスの圧力値Ptotalの範囲により幾つかの数式で表現できる曲線となることがわかっている。そこで、ln(I(ν)/I(ν))は、吸収波形プロファイル関数Φ(ν)を用いて下記式(8)のように表すことにした。
【0030】
【数6】
【0031】
言い換えると、吸収波形プロファイル関数Φ(ν)は、周波数ν全域にわたって積分すると1になる関数である。そして、サンプルガスの圧力値Ptotalが大気圧(101.3kPa)以上である場合には、Lorentz型の吸収波形プロファイル関数Φ(ν)をとることが知られており、下記式(9)が成り立つ。なお、図3は、縦軸をln(I(ν)/I(ν))とし、横軸を周波数νとしたグラフであり、ln(I(ν)/I(ν))が最大値となる周波数νをνとすると、周波数νと周波数νとには下記式(10)の関係が成立する。
【0032】
【数7】
【0033】
ここで、周波数νにおいて式(8)は下記式(11)のようになる。
【0034】
【数8】
【0035】
よって、ln(I(ν)/I(ν))と周波数νと周波数νとがわかれば、式(9)と式(11)とを用いて水分子の数密度cが算出でき、水分の分圧値PH2Oが求められることになる。
【0036】
一方、サンプルガスの圧力値Ptotalが大気圧(133Pa)未満である場合には、Gauss型の吸収波形プロファイル関数Φ(ν)をとることが知られており、下記式(12)が成り立つ。
【0037】
【数9】
【0038】
よって、ln(I(ν)/I(ν))と周波数νと周波数νとがわかれば、式(11)と式(12)とを用いて水分子の数密度cが算出でき、水分の分圧値PH2Oが求められることになる。
したがって、本出願人は、ln(I(ν)/I(ν))と周波数νと周波数νとを用いて水分の分圧値PH2Oを求める方法を見出した。これにより、吸収スペクトル中の吸収ピークの周波数上限νmaxから周波数下限νminまでの範囲をカバーできない場合に、図7のグラフの面積を求める方法では、吸収ピークの裾野部分の取りこぼしがあったが、本発明ではln(I(ν)/I(ν))と周波数νと周波数νとを用いているので、水分の分圧値PH2Oを正確に算出することができる。また、吸収ピークの裾野部分が他の吸収ピークと重なっている場合においても、他の吸収ピークの影響を受けることを抑制することができる。
【0039】
ところで、上述したような方法では、ln(I(ν)/I(ν))における周波数νと周波数νと周波数νとを求めることが重要となる。しかしながら、電気的なノイズやレーザ特有の光学的な干渉ノイズが発生した場合には、ln(I(ν)/I(ν))のグラフは図8に示すようになる。図8に示すように吸収の中心波長付近で何らかのノイズが混入した場合、ln(I(ν)/I(ν))の最大値はノイズによって大きく誤って検出され、さらにその周波数νを吸収の中心波長とみなしてしまうことになる。また、光学的な干渉に由来する揺らぎもみられ、半値幅の算出誤差に大きく影響する。さらに、光学的な干渉ノイズが周波数νに対して定在波となって出現し、時間的な平均化処理で取り除けないノイズとなるため、ln(I(ν)/I(ν))における周波数νと周波数νと周波数νとを求めることが困難となっている。
【0040】
ここで、ln(I(ν)/I(ν))は、吸収波形プロファイル関数Φ(ν)で表されるので、周波数νの2次関数となる。そこで、計測した離散的な測定点数nのln(I(ν)/I(ν))から最小二乗法を用いて近似式[ln(I(ν)/I(ν))]を作成することにした。実際には、一般的な2次の多項式近似処理を適用するために、ln(I(ν)/I(ν))の逆数を、最小二乗法を用いて下記式(13)のように表すことにした。
[ln(I(ν)/I(ν))]=aν+bν+c ・・・(13)
ただし、a、b、cは定数である。
【0041】
そして、式(13)の逆数を求めると、下記式(14)のようになる。
[ln(I(ν)/I(ν))]=1/(aν+bν+c) ・・・(14)
ただし、a、b、cは定数である。
【0042】
ここで、図9は、[ln(I(ν)/I(ν))]のグラフである。[ln(I(ν)/I(ν))]が最大値となる周波数νをν0newとすると、周波数ν1newと周波数ν2newとには下記式(15)の関係が成立する。
【0043】
【数10】
【0044】
これにより、電気的なノイズ等の影響を低減できた近似式[ln(I(ν)/I(ν))]における周波数ν0newと周波数ν1newと周波数ν2newとが求められ、その結果、測定対象ガス中の特定ガス量情報を正確に測定することができる。
【0045】
すなわち、本発明のガス分析装置は、ガスセル内の測定対象ガスに、特定ガスに吸収される吸収波長を含む波長可変半導体レーザによる測定光を照射する光源部と、ガスセル内の測定対象ガスに照射する分割測定光と、測定対象ガスに照射しない参照光とに分割する測定光分割部と、前記測定対象ガス中を通過した分割測定光の強度を受光する分割測定光受光部と、前記参照光の強度を受光する参照光受光部と、分割測定光の強度変化I(ν)と参照光の強度変化I(ν)とに基づいて、前記測定対象ガス中の特定ガス量情報を算出する演算部とを備えるガス分析装置であって、前記演算部は、分割測定光の強度変化I(ν)と参照光の強度変化I(ν)とに基づいて、ln(I(ν)/I(ν))を作成し、最小二乗法を用いてln(I(ν)/I(ν))から近似式[ln(I(ν)/I(ν))]を作成した後、[ln(I(ν)/I(ν))]が最大値となる周波数νをν0newとしたときに、下記式の関係が成立する周波数ν1newと周波数ν2newとを求め、ln(I(ν0new)/I(ν0new))と周波数ν1newと周波数ν2newとに基づいて、前記測定対象ガス中の特定ガス量情報を算出するようにしている。
【0046】
【数11】
【発明の効果】
【0047】
以上のように、本発明のガス分析装置によれば、光源部(レーザ)のもつ波長制御範囲にとらわれずに、測定対象ガスの圧力が高圧であるときや測定対象ガスの濃度が高濃度であるときにも、測定対象ガス中の特定ガス量情報を測定することができる。このとき、近似式[ln(I(ν)/I(ν))]を作成しているため、電気的なノイズ等の影響を低減でき、適切な周波数ν0newと周波数ν1newと周波数ν2newとを求めているので、測定対象ガス中の特定ガス量情報を正確に測定することができる。
【0048】
(他の課題を解決するための手段及び効果)
また、上記の発明では、前記演算部は、周波数ν1newと周波数ν2newとを含む分割測定光の強度変化I(ν)と、周波数ν1newと周波数ν2newとを含む参照光の強度変化I(ν)とに基づいて、ln(I(ν)/I(ν))を作成するようにしてもよい。
【0049】
また、上記の発明では、[ln(I(ν)/I(ν))]は、下記式で表されるようにしてもよい。
[ln(I(ν)/I(ν))]=1/(aν+bν+c) ・・・(1
ただし、a、b、cは定数である。
【0050】
そして、上記の発明では、前記演算部は、[ln(I(ν)/I(ν))]におけるa、b、cを記憶させて表示させるようにしてもよい。
本発明のガス分析装置によれば、計測時の吸収スペクトル波形情報を多項式近似の係数という極めて少ない数字として変換できるため、演算結果(特定ガス量情報)とともに付加情報としてこれらの情報を保存しておけば、簡便に計測当時の吸光状態を確認することができ、装置の異常判定に役立つ。
【0051】
さらに、上記の発明では、前記演算部は、Lorentz型の吸収波形プロファイル関数Φ(ν)又はGauss型の吸収波形プロファイル関数Φ(ν)を下記式に代入することにより、前記測定対象ガス中の特定ガス量情報を算出するようにしてもよい。
【0052】
【数12】
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明の一実施形態であるガス分析装置の一例を示す概略構成図。
図2図1に示すガス分析装置のブロック図。
図3】縦軸をln(I(ν)/I(ν))とし、横軸を周波数νとしたグラフ。
図4】波長可変半導体レーザ吸収分光法を利用したガス分析装置の一例を示す概略構成図。
図5図4に示すガス分析装置のブロック図。
図6】ガス分析装置で得られた吸収スペクトルの一例を示すグラフ。
図7】縦軸をln(I(ν)/I(ν))とし、横軸を周波数νとしたグラフ。
図8】ln(I(ν)/I(ν))のグラフ。
図9】[ln(I(ν)/I(ν))]のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0055】
図1は、本発明の一実施形態であるガス分析装置の一例を示す概略構成図であり、図2は、図1に示すガス分析装置のブロック図である。なお、地面に水平な一方向をX方向とし、地面に水平でX方向と垂直な方向をY方向とし、X方向とY方向とに垂直な方向をZ方向とする。また、上述した従来のガス分析装置101と同様のものについては、同じ符号を付している。
ガス分析装置1は、光源部10と、分割測定光と参照光とに分割する測定光分割部15と、分割測定光受光部20と、参照光受光部21と、圧力値Ptotalを測定する圧力センサ31と、ガス温度値Tを測定するガス温度センサ32と、光源部10を制御するレーザ制御部50と、マイコンやPCで構成される制御部60とを備える。
【0056】
光源部10は、例えば光通信用分布帰還系形(DFB)半導体レーザダイオードである。レーザダイオードは、近赤外領域の所定波長範囲(位相速度定数A/νend〜位相速度定数A/νstart)内においてレーザの発振波長を調整することが可能となっており、レーザ制御部50からの制御信号によって制御されるようになっている。なお、光源部10は、水分子(特定ガス)に吸収される(A/ν2new)以上(A/ν1new)以下の波長を含むレーザ光(測定光)を照射することができればよく、周波数ν1newから周波数ν2newまでの範囲を高い分解能で測定する点から、下記式(16)の関係でmが2に近くなる(A/ν2new’)以上(A/ν1new’)以下の波長のレーザ光を照射することが好ましい。
【0057】
【数13】
【0058】
測定光分割部15は、例えばレーザ光を2方向へ分割するハーフミラーであり、レーザダイオードから出射されたレーザ光の一部を透過することでサンプルガスに照射する分割測定光と、レーザ光の残りを反射することでサンプルガスに照射しない参照光とに分割する。これにより、レーザダイオードの発振波長が吸収ピークの周波数上限νmaxから周波数下限νminまでの範囲をカバーできないときにも、I(ν)を正確に取得できることになる。
【0059】
分割測定光受光部20は、光強度を電気信号に変換できるものであればよく、例えばフォトダイオードが用いられる。そして、フォトダイオードは、出射用光学窓72からサンプル流路70外にX方向で出射されたレーザ光(分割測定光)を受光するように配置されており、サンプルガスを通過した強度I(ν)のレーザ光(分割測定光)を測定点数(測定ch)nで受光する。
参照光受光部21は、光強度を電気信号に変換できるものであればよく、例えばフォトダイオードが用いられる。そして、フォトダイオードは、測定光分割部15でZ方向に反射されたレーザ光(参照光)を受光するように配置されており、サンプルガスを通過しない強度I(ν)のレーザ光(参照光)を測定点数(測定ch)nで受光する。つまり、水分子の吸収を受けなかった場合の測定光の強度変化I(ν)を取得する。
【0060】
制御部60は、CPU61とメモリ62と表示部63と入力装置64とを備える。また、CPU61が処理する機能をブロック化して説明すると、近似式[ln(I(ν)/I(ν))]を作成してサンプルガス中の分圧値PH2Oを算出する演算部61aを有する。さらに、メモリ62には、Lorentz型の吸収波形プロファイル関数Φ(ν)やGauss型の吸収波形プロファイル関数Φ(ν)等を予め記憶するプロファイル関数記憶領域62aと、作成された近似式[ln(I(ν)/I(ν))]におけるa、b、cを記憶するための近似式係数記憶領域62bとを有する。
【0061】
演算部61aは、近似式[ln(I(ν)/I(ν))]を作成する近似式作成部を有する。近似式作成部は、波長に対する分割測定光の強度変化I(ν)、波長に対する参照光の強度変化I(ν)をそれぞれA/D変換部1、4によってデジタル値に変換し、そのデジタル値から、ln(I(ν)/I(ν))を作成して、ln(I(ν)/I(ν))から最小二乗法を用いて近似式[ln(I(ν)/I(ν))]を作成する制御を行う。
【0062】
具体的には、レーザ制御部50は、光源部10のレーザダイオードからA/νendの波長からA/νstartの波長までのレーザ光を順にn点で出射させ、近似式作成部は、分割測定光受光部20で受光された分割測定光の強度変化I(ν)と、参照光受光部21で受光された参照光の強度変化I(ν)とを順にn点で取得していく。このとき、式(16)の関係でmが2に近くなる(A/ν2new’)以上(A/ν1new’)以下の波長のレーザ光を照射させるように入力装置64で設定することが好ましい。
【0063】
そして、近似式作成部は、各n点でln(I(ν)/I(ν))を算出し、ln(I(ν)/I(ν))の逆数ln(I(ν)/I(ν))から最小二乗法を用いて式(13)で示す近似2次多項式を作成する。例えば、a=0.0063、b=−3.1867、c=407.6069と算出する。さらに、式(14)で示す近似式[ln(I(ν)/I(ν))]を作成する。そして、a=0.0063、b=−3.1867、c=407.6069を近似式係数記憶領域62bに記憶させる。
【0064】
演算部61aは、圧力値Ptotal、ガス温度値TをそれぞれA/D変換部2、3によってデジタル値に変換し、[ln(I(ν)/I(ν))]が最大値となる周波数νをν0newとしたときに、式(15)の関係が成立する周波数ν1newと周波数ν2newとを求め、[ln(I(ν0new)/I(ν0new))]と周波数ν1newと周波数ν2newとデジタル値とに基づいて、サンプルガスの圧力値Ptotalが大気圧(101.3kPa)以上で行われる計測には、式(9)と式(11)とに当てはめて数密度cを得て、数密度cを式(7)に当てはめて分圧値PH2Oを得る。また、サンプルガスの圧力値Ptotalが大気圧(133Pa)未満で行われる計測には、式(11)と式(12)とに当てはめて数密度cを得て、数密度cを式(7)に当てはめて分圧値PH2Oを得る制御を行う。
【0065】
具体的には、近似式[ln(I(ν)/I(ν))]が最大値となるnの周波数νをν0newとする。次に、演算部61aは、式(15)に基づいて周波数ν1newと周波数ν2newとを求める。そして、演算部61aは、圧力値Ptotalが大気圧(101.3kPa)以上で行われる計測には、ガス温度センサ32で測定されたガス温度値Tを用いて式(9)と式(11)とに当てはめて数密度cを得て、数密度cを式(7)に当てはめて分圧値PH2Oを得る。このとき、付加情報として近似式係数記憶領域62bに記憶されているa=0.0063、b=−3.1867、c=407.6069を表示してもよい。一方、圧力値Ptotalが大気圧(133Pa)未満で行われる計測には、ガス温度センサ32で測定されたガス温度値Tを用いて式(11)と式(12)とに当てはめて数密度cを得て、数密度cを式(7)に当てはめて分圧値PH2Oを得る。このとき、付加情報として近似式係数記憶領域62bに記憶されているa=0.0063、b=−3.1867、c=407.6069を表示してもよい。
【0066】
以上のように、本発明のガス分析装置1によれば、レーザダイオードのもつ波長制御範囲にとらわれずに、サンプルガスの圧力値Ptotalが高圧であるときやサンプルガスの濃度が高濃度であるときにも、サンプルガス中の分圧値PH2O(特定ガス量情報)を測定することができる。このとき、近似式[ln(I(ν)/I(ν))]を作成しているため、電気的なノイズ等の影響を低減でき、適切な周波数ν0newと周波数ν1newと周波数ν2newとを求めているので、サンプルガス中の分圧値PH2Oを正確に測定することができる。また、グラフの面積を求める演算よりもかなり少ない負荷で分圧値PH2Oが得られる。
【0067】
<他の実施形態>
上述したガス分析装置1においては圧力センサ31を備える構成としたが、圧力値Ptotalが既知である場合や、測定に影響を及ぼすような変化が想定されない場合には、式(9)と式(11)と式(12)とには圧力値Ptotalが必要なく、大型化する原因となる圧力センサ31を備えないような構成としてもよく、また、ガス温度値Tが既知である場合や、測定に影響を及ぼすような変化が想定されない場合には、ガス温度センサ32を備えないような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、レーザ吸収分光法を利用して気体中の水蒸気量情報を測定するガス分析装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 ガス分析装置
10 光源部
15 測定光分割部
20 分割測定光受光部
21 参照光受光部
61a 演算部
70 サンプル流路(ガスセル)
71 入射用光学窓
72 出射用光学窓
図1
図2
図3
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図9