(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回収供給機構は、前記傾斜角度が最大値の時に前記連通路を開き、前記傾斜角度の変更に従って、前記連通路の連通面積を変化させ、前記傾斜角度が所定値となった時に全閉となる請求項1記載の容量可変型斜板式圧縮機。
前記回転路は、前記筒状体周りに環状に形成された環状空間と、前記環状空間から前記回収路に向かって延びるインレットポートと、前記環状空間から前記供給路に向かって延びるアウトレットポートとからなる請求項3又は4項記載の容量可変型斜板式圧縮機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記従来の圧縮機では、傾斜角度が最大値未満となることにより、傾斜角度が最大値の状態に比べて異音が生じ易く、静粛性が損なわれる。
【0011】
また、残留冷媒の回収及び供給を行うことにより、高温の残留冷媒によって圧縮室内の冷媒の温度が上昇し、圧縮のために要する動力が大きくなる。このため、この圧縮機では、成績係数:COP(Coefficient Of Performance)が悪化する。
【0012】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、静粛性に優れ、かつ優れたCOPを発揮可能な容量可変型斜板式圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の容量可変型斜板式圧縮機は、軸心周りに複数のシリンダボアを有し、かつクランク室が形成されたハウジングと、
前記軸心周りで前記ハウジングに回転可能に支持された駆動軸と、
前記クランク室内で前記駆動軸によって回転可能な斜板と、
前記軸心に直交する方向に対する前記斜板の傾斜角度を変更可能な傾斜角変更機構と、
前記各シリンダボアに往復動可能に収納されることにより前記各シリンダボア内に各々圧縮室を形成し、前記斜板の回転により、前記各圧縮室で再膨張行程、吸入行程、圧縮行程及び吐出行程を行う複数のピストンと、
前記傾斜角変更機構を制御する制御機構と、
前記吐出行程終了時から前記再膨張行程終了時までの前記圧縮室を回収側圧縮室とし、前記圧縮行程中の前記圧縮室を供給側圧縮室とし、
前記回収側圧縮室を形成する前記シリンダボアを回収側シリンダボアとし、前記供給側圧縮室を形成する前記シリンダボアを供給側シリンダボアとし、
前記回収側シリンダボアと前記供給側シリンダボアとの間で連通可能な連通路を有し、前記回収側圧縮室に残留する冷媒を回収して前記供給側圧縮室に供給する回収供給機構とを備え、
前記連通路は、前記駆動軸に形成された回転路と、前記回転路と繋がる複数の回収路、および、前記回転路と繋がる複数の供給路とを有し、
前記回収路は、前記ハウジングに形成され、一端が前記ピストンの往復動に係らず常に前記回収側圧縮室に連通するとともに、他端が前記駆動軸の回転による開閉にて前記回転路に対して連通又は非連通となり、
前記供給路は、前記ハウジングに形成され、一端が前記駆動軸の回転による開閉にて前記回転路に対して連通又は非連通となるとともに、他端が往復動する前記ピストンの周面による開閉にて前記供給側圧縮室に対して連通又は非連通となり、
前記回収供給機構は、前記傾斜角度が最大値の時に
前記供給路と前記供給側圧縮室とを連通させ、前記傾斜角度が最小値の時に
前記供給路と前記供給側圧縮室とを閉鎖させ、前記回収路が前記回転路と連通される時に前記回転路を前記供給路と連通させ、前記連通路は、前記回転路と前記供給路が連通し、かつ前記供給路と前記供給側圧縮室が連通する時に、前記回収側圧縮室に残留する冷媒を回収して前記供給側圧縮室に供給することを特徴とする。
【0014】
発明者らは鋭意研究を行い以下の知見を得た。すなわち、傾斜角度が最大値未満の状態において残留冷媒の回収を行うことにより、
図9のグラフに示すように、駆動軸の回転角度に対する各圧縮室内の圧力の変化を示すボア内圧波形の変化が急激となり、ボア内圧波形に変曲点Pが生じ易くなる。そして、変曲点Pの発生が圧縮機の異音の要因となる。
【0015】
また、傾斜角度が最大値未満の状態において残留冷媒の回収及び供給を行えば、圧縮室内の冷媒の温度がより上昇し易くなり、圧縮のために要する動力がより大きくなる。このため、残留冷媒の回収及び供給によるCOPの悪化は、傾斜角度が最大値未満となることでより顕著となる。
【0016】
これらのため、発明者らは、傾斜角度が最小値にある時には、残留冷媒の回収及び供給を行わない圧縮機によれば、上記の課題を解決可能であると想到した。こうして、発明者らは本発明を完成させるに至った。
【0017】
本発明の圧縮機では、各シリンダボアのうち、回収供給機構が回収側シリンダボアと供給側シリンダボアとを連通路によって連通する。このため、回収側圧縮室に残留する残留冷媒が回収され、その残留冷媒が供給側圧縮室に供給される。これにより、この圧縮機では、再膨張行程時における残留冷媒の再膨張を抑制でき、体積効率を向上させることが可能となる。
【0018】
ここで、この回収供給機構では、各ピストンの往復動によって連通路が開閉する。そして、この回収供給機構では、斜板の傾斜角度が最大値の時に連通路を連通することができ、傾斜角度が最小値の時に連通路を閉鎖することができる。
【0019】
このため、この圧縮機では、傾斜角度が最小値にある時に、回収側圧縮室から回収する残留冷媒、ひいては、供給側圧縮室への残留冷媒の供給を行わないようにすることができる。
【0020】
これにより、この圧縮機では、傾斜角度が最小値の時に、ボア内圧波形に変曲点が生じ難くなる。また、この圧縮機では、傾斜角度が最小値である時における圧縮室内の冷媒の温度を低くでき、圧縮のために要する動力を小さくできる。
【0021】
したがって、本発明の圧縮機は静粛性に優れ、かつ優れたCOPを発揮できる。
【0022】
本発明の圧縮機において、連通路は、例えば、各シリンダボアと連通し、回収側圧縮室から回収された残留冷媒が流通する専用の流路と、各シリンダボアと連通し、供給側圧縮室へ供給される残留冷媒が流通する専用の流路とで構成されても良い。また、連通路は、各シリンダボアと連通し、回収側圧縮室から回収された残留冷媒と、供給側圧縮室へ供給される残留冷媒とが交互に流通するように構成しても良い。
【0023】
本発明の圧縮機において、傾斜角変更機構は、斜板の傾斜角度を変更可能であれば良く、種々のリンク機構及び種々の揺動変換機構等によって構成され得る。制御機構は、傾斜角変更機構を制御するものであれば、容量制御弁、アクチュエータ等であり得る。
【0024】
回収供給機構は、傾斜角度が最大値の時に連通路を開き、傾斜角度の変更に従って、連通路の連通面積を変化させ、傾斜角度が所定値となった時に全閉となることが好まし
い。
【0025】
この場合、この圧縮機では、傾斜角度が最大値である状態では、残留冷媒が供給側圧縮室に供給される。一方、この圧縮機では、傾斜角度が最大値から変更するに従って、連通面積が変化する。これにより、この圧縮機では、回収側圧縮室から回収される残留冷媒の流量を徐々に減少させることが可能となり、供給側圧縮室へ供給される残留冷媒の流量を徐々に減少させることが可能となる。そして、傾斜角度が所定値となることにより、回収側圧縮室から残留冷媒が回収されなくなり、供給側圧縮室へ残留冷媒が供給されなくなる。これにより、この圧縮機では、傾斜角度が所定値にある時の異音の発生及びCOPの悪化を好適に抑制できる。なお、連通路を全閉とする際の傾斜角度の所定値については、傾斜角度の最小値を設定することができる他、最大値未満であれば任意に設定することが可能である。ここで、所定値を傾斜角度の最小値以外で設定した場合であっても、傾斜角度が最小値である時には、連通路は全閉となり、閉鎖される。
【0026】
本発明の圧縮機において、ハウジングには吸入室が形成され得る。また、駆動軸には、後端が吸入室に開き、クランク室と吸入室とを連通する抽気通路が形成され得る。さらに、回収供給機構は、複数の回収路と複数の供給路と回転路とからなり得る。各回収路はハウジングに形成され、各シリンダボアにそれぞれ連通する。各供給路はハウジングに形成され、各シリンダボアにそれぞれ連通する。回転路は駆動軸に形成され、各回収路と各供給路とを連通可能である。そして、抽気通路には、自己の内周面によって抽気通路を区画し、自己の外周面によって回転路を区画する筒状体が設けられていることが好まし
い。
【0027】
この場合、回収側圧縮室から回収された残留冷媒は回収路を流通し、供給側圧縮室へ供給される残留冷媒は供給路を流通することとなる。そして、この圧縮機では、これらの回収路や供給路が回転路と連通することにより、回収側シリンダボアと供給側シリンダボアとを連通させることが可能である。これにより、この圧縮機では、回収側圧縮室に残留する残留冷媒を回収して、その残留冷媒を供給側圧縮室に供給することが可能となる。
【0028】
また、この圧縮機では、抽気通路を通じてクランク室と吸入室とを連通することにより、クランク室の圧力を調整可能となる。さらに、この圧縮機では、抽気通路を冷媒が流通する際、冷媒中に含まれる潤滑油によって、駆動軸等を好適に潤滑することが可能となる。
【0029】
そして、この圧縮機では、抽気通路に設けられる筒状体により、抽気通路と回転路とが区画される。これにより、この圧縮機では、回転路を流通する残留冷媒が抽気通路に流入することを防止できる。
【0030】
駆動軸と筒状体との間には、抽気通路と回転路とを封止可能な封止手段が設けられていることが好まし
い。この場合、抽気通路に対する回転路の気密性を好適に確保でき、回転路を流通する残留冷媒が抽気通路に流入することをより好適に防止できる。また、この圧縮機では、封止手段が設けられることにより、駆動軸や筒状体を必要以上に高精度に形成しなくても、抽気通路に筒状体を設けた際に抽気通路と回転路との間における気密性を好適に確保できる。このため、この圧縮機では、製造が容易となり、低コスト化を実現することも可能となる。
【0031】
回転路は、筒状体周りに環状に形成された環状空間と、環状空間から回収路に向かって延びるインレットポートと、環状空間から供給路に向かって延びるアウトレットポートとからなることが好まし
い。
【0032】
この場合、駆動軸が回転し、回収路とインレットポートとが連通する。また、供給路とアウトレットポートとが連通する。これらにより、回転路によって回収路と供給路とが連通し、回収路を流通する残留冷媒が環状空間内に至るとともに、環状空間内の残留冷媒が供給路へ流通することとなる。
【0033】
筒状体には、先端側嵌合部と、後端側嵌合部と、先端側嵌合部と後端側嵌合部との間に位置し、環状空間と対向する空間対向部とが形成され得る。そして、先端側嵌合部と後端側嵌合部の少なくとも一方は圧入により駆動軸に固定されることが好まし
い。この場合、この圧縮機では、駆動軸に対して筒状体を容易に固定することが可能となる。
【0034】
筒状体は、駆動軸の軸方向への移動を抑制するシャフトストッパであることが好まし
い。
【0035】
この場合、この圧縮機では、製造時における駆動軸と、例えば弁形成プレート等の他部材との間隙を容易に調整することが可能となる。このため、この圧縮機では、製造を容易化することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の圧縮機は静粛性に優れ、かつ優れたCOPを発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を具体化した実施例1〜5を図面を参照しつつ説明する。実施例1〜5の圧縮機は容量可変型片頭斜板式圧縮機である。これらの圧縮機は、いずれも車両に搭載されており、車両用空調装置の冷凍回路を構成している。
【0039】
(実施例1)
図1、2に示すように、実施例1の圧縮機は、ハウジング1と、駆動軸3と、斜板5と、傾斜角変更機構7と、五つのピストン9と、制御機構11と、回収供給機構13とを備えている。
【0040】
図1に示すように、ハウジング1は、圧縮機の前方に位置するフロントハウジング15と、圧縮機の後方に位置するリヤハウジング17と、フロントハウジング15とリヤハウジング17との間に位置するシリンダブロック19と、弁形成プレート21とを有している。これらのフロントハウジング15、リヤハウジング17、シリンダブロック19及び弁形成プレート21は、複数の通しボルト23によって一体に締結されている。
【0041】
フロントハウジング15とシリンダブロック19との間には、クランク室25が形成されている。また、フロントハウジング15には、前方に向かって突出するボス15aが形成されている。このボス15a内には、軸封装置27が設けられている。ボス15a内には、圧縮機の前後方向に延びる第1軸孔15bが形成されている。この第1軸孔15b内には滑り軸受29が設けられている。また、フロントハウジング15には、クランク室25と第1軸孔15bを連通するオイル径路15cが形成されている。
【0042】
リヤハウジング17には、吸入口17aと吐出口17bと吸入室31と吐出室33とが形成されている。吸入室31はリヤハウジング17の中心側に形成されており、吸入口17aと連通している。吐出室33はリヤハウジング17の外周側で環状に形成されており、吐出口17bと連通している。
【0043】
また、リヤハウジング17には、吐出室33とクランク室25とを連通する給気通路35が形成されている。給気通路35には容量制御弁37が設けられている。容量制御弁37は、クランク室25の圧力を調整することが可能となっている。
【0044】
図3、4に示すように、シリンダブロック19には、5つのシリンダボア19a〜19eが形成されている。これらの各シリンダボア19a〜19eは、シリンダブロック19に対して周方向で等間隔に形成されている。
図3に示すように、シリンダブロック19には、各シリンダボア19a〜19eに個々に連通する五つのリテーナ溝37a〜37eが形成されている。各リテーナ溝37a〜37eは、後述する吸入リード弁47aのリフト量を規制する。
【0045】
また、
図1に示すように、シリンダブロック19には、クランク室25と連通しつつ、圧縮機の前後方向に延びる第2軸孔19fが貫設されている。さらに、シリンダブロック19には、ばね室19gが形成されている。このばね室19gは、クランク室25と第2軸孔19fとの間に位置している。ばね室19g内には、第1復帰ばね39aが配置されている。この第1復帰ばね39aは、同図において二点鎖線によって図示するように、傾斜角度が最小になった状態の斜板5をクランク室25の前方に向けて付勢する。
【0046】
また、シリンダブロック19には、
図3に示す回収路41a〜41eが形成されている他、
図4に示す供給路43a〜43eが形成されている。これらの回収路41a〜41e及び供給路43a〜43eについての詳細は後述する。
【0047】
図1に示すように、弁形成プレート21は、シリンダブロック19とリヤハウジング17との間に位置しており、各シリンダボア19a〜19eの後端側を閉鎖している。この弁形成プレート21は、バルブプレート45と、吸入弁プレート47と、吐出弁プレート49と、リテーナプレート51とからなる。
【0048】
バルブプレート45、吐出弁プレート49及びリテーナプレート51には、五つの吸入ポート21aが形成されている。また、バルブプレート45及び吸入弁プレート47には、五つの吐出ポート21bが形成されている。各シリンダボア19a〜19eは、各吸入ポート21aを通じて吸入室31と連通するとともに、各吐出ポート21bを通じて吐出室33と連通する。さらに、バルブプレート45、吸入弁プレート47、吐出弁プレート49及びリテーナプレート51には、連通孔21cが形成されている。
【0049】
吸入弁プレート47は、バルブプレート45の前面に設けられている。この吸入弁プレート47には、弾性変形により各吸入ポート21aを開閉可能な吸入リード弁47aが形成されている。また、吐出弁プレート49は、バルブプレート45の後面に設けられている。この吐出弁プレート47には、弾性変形により各吐出ポート21bを開閉可能な吐出リード弁49aが形成されている。リテーナプレート51は、吐出弁プレート49の後面に設けられている。このリテーナプレート51は、各吐出リード弁49aのリフト量を規制する。
【0050】
駆動軸3は、ボス15a側からハウジング1の後方側に向かって挿通されている。駆動軸3は、前端側がボス15a内において軸封装置27に挿通されているとともに、後端側が第2軸孔19fに軸支されている。これにより、駆動軸3は、ハウジング1に対して回転軸心O周りで回転可能となっている。
【0051】
駆動軸3には、ラグプレート53と斜板5とが取り付けられている。ラグプレート53は、略円環状に形成されている。このラグプレート53は駆動軸3に圧入されているとともに、第1軸孔15b内において滑り軸受29に支持されている。これにより、駆動軸3の前端側が滑り軸受29に軸支されるとともに、ラグプレート53は、駆動軸3と一体で回転可能となっている。また、ラグプレート53とフロントハウジング15との間には、スラスト軸受57が設けられている。
【0052】
また、ラグプレート53には、一対のアーム55が設けられている。各アーム55は、ラグプレート53から後方に向かって延びている。さらに、ラグプレート53には、各アーム55の間となる位置に傾斜面53aが形成されている。
【0053】
斜板5は、環状の平板形状をなしており、前面5aと後面5bとを有している。前面5aには、斜板5の前方に向かって突出する規制部5cが形成されている。この規制部5cは、斜板5の傾斜角度が最大となった際にラグプレート53と当接する。また、斜板5の中心には、挿通孔5dが形成されている。この挿通孔5dに駆動軸3が挿通されている。
【0054】
また、斜板5には、一対の斜板アーム5eが設けられている。各斜板アーム5eは、前面5aから前方に向かって延びている。これらの各斜板アーム5e、各アーム55及び傾斜面53aにより、傾斜角変更機構7が構成されている。各斜板アーム5eを各アーム55の間に挿入することにより、ラグプレート53と斜板5とが連結している。これにより、斜板5は、ラグプレート53と共にクランク室25内で回転可能となっている。また、各斜板アーム5eは、各先端側がそれぞれ傾斜面53aに当接している。各斜板アーム5eが傾斜面53aを摺動することにより、斜板5は、回転軸心Oに直交する方向に対する自身の傾斜角度について、上死点位置をほぼ維持しつつ、同図の破線矢印で示すように、最大傾斜角度から最小傾斜角度まで変更することが可能となっている。なお、
図1では、説明を容易にするため、各アーム55及び斜板アーム5eについて、一方側のみを図示している。また、本実施例において、傾斜角変更機構7として他の構成を採用することも可能である。
【0055】
ラグプレート53と斜板5との間には、第2復帰ばね39bとばね座
58とが設けられている。ばね座
58は、斜板5の傾斜角度が最大になった際に斜板5と当接する。第2復帰ばね39bは、斜板5をクランク室25の後方に向けて付勢する。
【0056】
また、駆動軸3の内部には、駆動軸3の前端から後端に向かって軸方向に延びる軸孔3aと、軸孔3aの前端と連通して駆動軸3の径方向に延びる径路3bとによって形成されている。
図2に示すように、軸孔3aは軸方向で段状に形成されており、後端側に位置する大径部300と前端側に位置する小径部301とを有している。大径部300の後端は駆動軸3の後端面に開いている。この大径部300内には、シャフトストッパ59が設けられている。一方、
図1に示すように、径路3bは、第1軸孔15b内で駆動軸3の外周面に開口している。
【0057】
図5に示すように、シャフトストッパ59は段状に形成された円筒状を呈しており、内部に連通路59aが形成されている。また、シャフトストッパ59の外周には、軸孔3aの小径部301に圧入可能な寸法で形成された先端側嵌合部59bと、軸孔3aの大径部300に圧入可能な寸法で形成された後端側嵌合部59cと、先端側嵌合部59bと後端側嵌合部59cとの間に位置する空間対向部59dとが形成されている。このシャフトストッパ59では、先端側嵌合部59bと空間対向部59dとが同径に形成されている。さらに、シャフトストッパ59には、後端側嵌合部59cの後端に位置する円環部59eが形成されている。この円環部59eは、後端側嵌合部59c及び大径部300よりも大径に形成されている。シャフトストッパ59は、
図2に示すように、連通路59aについて、先端側嵌合部59b側及び空間対向部59d側に対して、後端側嵌合部59c側及び円環部59e側が大径となるように形成されている。
【0058】
シャフトストッパ59は、
図5の白色矢印で示すように、駆動軸3の軸孔3aに対し、大径部300側から小径部301側に向かって圧入されている。この際、大径部300の壁面及び後端側嵌合部59cと、小径部301の壁面及び先端側嵌合部59bとは、同図のドットハッチングで示す部分においてそれぞれ嵌合する。さらに、
図2に示すように、シャフトストッパ59の円環部59eが駆動軸3の後端面と当接する。これにより、円環部59eは、駆動軸3と弁形成プレート21との間に位置している。
【0059】
また、軸孔3aにシャフトストッパ59が圧入されることにより、小径部301は、連通路59a及び連通孔21cを通じて、吸入室31と連通している。これらの径孔3b、小径部301、連通路59a及び連通孔21cにより、抽気通路30が形成されている。この抽気通路30及びオイル径路15cにより、クランク室25と吸入室31とが連通している。この抽気通路30と、上記の給気通路35と、容量制御弁37とにより、制御機構11が構成されている。
【0060】
さらに、
図2に示すように、大径部300内に空間対向部59dが位置している。これにより、空間対向部59dの周囲に環状空間61が形成されている。環状空間61は、小径部301と先端側嵌合部59bとが嵌合するとともに、大径部300の後端側と後端側嵌合部59cとが嵌合することにより、小径部301及び大径部300の後端側から区画されている。また、空間対向部59dにより、環状空間61は抽気通路30から区画されている。
【0061】
また、駆動軸3の後端側には、環状空間61と連通するインレットポート63及びアウトレットポート65が貫設されている。これらのインレットポート63及びアウトレットポート65の各構成についての詳細は後述する。
【0062】
各ピストン9は、各シリンダボア19a〜19e内にそれぞれ収納されており、各シリンダボア19a〜19e内を往復動可能となっている。これらの各ピストン9によって、各シリンダボア19a〜19e内が区画されることで、各シリンダボア19a〜19e内には、各ピストン9と弁形成プレート21との間にそれぞれ圧縮室67が形成されている。各シリンダボア19a〜19e内で各ピストン9が往復動する。
【0063】
各ピストン9が各シリンダボア19a〜19e内を後方から前方に向かって移動する際、各圧縮室67では、再膨張行程と吸入行程とが行われる。また、各ピストン9が各シリンダボア19a〜19e内を前方から後方に向かって移動する際、各圧縮室67では、圧縮行程と吐出行程とが行われる。そして、
図6に示すように、吐出行程終了時から再膨張行程終了時までの圧縮室67は回収側圧縮室67aとなる。また、圧縮行程中の圧縮室67は供給側圧縮室67bとなる。さらに、シリンダボア19a〜19eのうち、回収側圧縮室67aを形成するものは回収側シリンダボア190となり、供給側圧縮室67bを形成するものは供給側シリンダボア191となる。例えば、シリンダボア19aに形成された圧縮室67が回収側圧縮室67aとなった場合、シリンダボア19aが回収側シリンダボア190となる。同様に、シリンダボア19aに形成された圧縮室67が供給側圧縮室67bとなった場合、シリンダボア19aが供給側シリンダボア191となる。
【0064】
図1に示すように、各ピストン9には、係合部9aがそれぞれ凹設されている。この係合部9a内には、半球状のシュー69a、69bがそれぞれ設けられている。これらのシュー69a、69bによって斜板5の回転が各ピストン9の往復動に変換されるようになっている。
【0065】
回収供給機構13は、
図3に示す回収路41a〜41eと、
図4に示す供給路43a〜43eと、
図2に示す環状空間61と、インレットポート63と、アウトレットポート65とで構成されている。
【0066】
図3に示すように、各回収路41a〜41eは、それぞれ第2軸孔19f側から各シリンダボア19a〜19e側に向かって放射状に延びている。各回収路41a〜41eのうち、回収路41aは、リテーナ溝37aを通じてシリンダボア19aと連通している。これにより、回収路41aは、シリンダボア19aと第2軸孔19fとを連通し、ひいては、シリンダボア19aに形成される圧縮室67と第2軸孔19fとを連通している。以下同様に、回収路41b〜41eは順に、リテーナ溝37b〜37eを通じてシリンダボア19b〜19eとそれぞれ連通している。こうして、回収路41b〜41eにより、各シリンダボア19b〜19eと第2軸孔19fとが連通している。
【0067】
ここで、各リテーナ溝37a〜37eと連通することにより、
図6に示すように、各回収路41a〜41eは、各ピストン9の上死点位置Tよりも後方側となる位置で各シリンダボア19a〜19eにそれぞれ開口している。また、これらの各回収路41a〜41eのうち、インレットポート63を通じて環状空間61と連通する回収路が実働回収路410となる。
【0068】
図4に示すように、各供給路43a〜43eは、それぞれ第2軸孔19f側から各シリンダボア19a〜19e側に向かって放射状に延びている。各供給路43a〜43eは、各回収路41a〜41eと対称方向に延びている。各供給路43a〜43eのうち、供給路43aは、シリンダボア19aと連通している。これにより、供給路43aは、シリンダボア19aと第2軸孔19fとを連通し、ひいては、シリンダボア19aに形成される圧縮室67と第2軸孔19fとを連通している。以下同様に、供給路43b〜43eは順に、シリンダボア19b〜19eとそれぞれ連通している。こうして、供給路43b〜43eにより、各シリンダボア19b〜19eと第2軸孔19fとが連通している。
【0069】
図6に示すように、これらの各供給路43a〜43eのうち、アウトレットポート65を通じて環状空間61と連通する供給路が実働供給路430となる。
【0070】
ここで、各供給路43a〜43eでは、各シリンダボア19a〜19eにおける開口部分は、斜板5の傾斜角度が最大値であり、かつ、回収側シリンダボア190内のピストン9が上死点位置にある時、供給側シリンダボア191内でピストン9の周面によって閉塞されない位置に開口している。
【0071】
図3に示すように、インレットポート63は、環状空間61側から各回収路41a〜41e側に向かって駆動軸3の径方向に延びている。
図5に示すように、インレットポート63は、駆動軸3の後端側で駆動軸3の周面に開口している。インレットポート63は、駆動軸3の周面に対して楕円形状に凹設された第1凹部63aと、第1凹部63aの底面に貫設され、軸孔3aの大径部300、すなわち環状空間61に延びる第1連通部63bとで構成されている。インレットポート63は、駆動軸3の回転により、各回収路41a〜41eのうち、実働回収路410と環状空間61とを連通させる。
【0072】
図4に示すように、アウトレットポート65は、環状空間61側から各供給路43a〜43e側に向かって駆動軸3の径方向に延びている。
図5に示すように、アウトレットポート65は、インレットポート63よりも駆動軸3の前端側となる位置において、駆動軸3の周面に開口している。アウトレットポート65は、駆動軸3の周面に対して楕円形状に凹設された第2凹部65aと、第2凹部65aの底面に貫設され、環状空間61に延びる第2連通部65bとで構成されている。アウトレットポート65は、駆動軸3の回転により、各供給路43a〜43eのうち、実働供給路430と環状空間61とを連通させる。こうして、これらの環状空間61、インレットポート63及びアウトレットポート65により、実働回収路410と実働供給路430とが連通可能となっている。ここで、アウトレットポート65がインレットポート63よりも駆動軸3の前端側となる位置で開口することから、実働回収路410とアウトレットポート65とが連通したり、実働供給路430と
インレットポート63とが連通したりすることはない。
【0073】
この圧縮機では、
図1に示す吐出口17bと凝縮器71とが配管によって接続されている。この凝縮器71は配管によって膨張弁73と接続されている。膨張弁73は配管によって蒸発器75と接続されている。そして、蒸発器75と吸入口17aとが配管によって接続されている。こうして、この圧縮機は、凝縮器71、膨張弁73及び蒸発器75とともに、車両用空調装置の冷凍回路を構成している。
【0074】
以上のように構成された圧縮機では、駆動軸3が回転することにより、斜板5が回転し、各ピストン9が各シリンダボア19a〜19e内を往復動する。これにより、各圧縮室67がピストンストロークに応じて容積を変化させる。また、この圧縮機では、給気通路35を通じて、吐出室33内の冷媒がクランク室25に供給される。また、クランク室25の冷媒は、オイル流路15c及び抽気通路30を経て吸入室31に流入する。この際、この圧縮機では、冷媒中に含まれる潤滑油によって、駆動軸3の他、滑り軸受29やスラスト軸受57等が好適に潤滑されている。
【0075】
そして、この圧縮機では、制御機構11において、容量制御弁37によってクランク室25内の圧力を高くすれば、斜板5は傾斜角変更機構7によって傾斜角度を減少させる。これにより、この圧縮機では、各ピストン9のストロークが減少し、駆動軸3の一回転当たりの冷媒の吐出容量が減少する。
【0076】
一方、容量制御弁37によってクランク室25内の圧力を低くすれば、斜板5は傾斜角変更機構7によって傾斜角度を増大させる。これにより、この圧縮機では、各ピストン9のストロークが増大し、駆動軸3の一回転当たりの冷媒の吐出容量が増大する。
【0077】
ここで、傾斜角変更機構7は、
図6に示す各ピストン9の上死点位置Tを維持するように斜板5の傾斜角度を変更する。このため、この圧縮機では、各ピストン9のストロークの増減に関係なく、ピストン9の上死点位置Tがほぼ維持される。そして、斜板5の傾斜角度が最大値となり、各ピストン9のストロークが最大となった際、各ピストン9は上死点位置Tからこの場合の下死点位置U1まで移動する。他方、斜板5の傾斜角度が最大値未満となり、各ピストン9のストロークが減少することよって、この圧縮機では、例えば、
図7に示すように、各ピストン9は上死点位置Tからこの場合の下死点位置U2までしか移動できなくなる。本実施例では、各ピストン9が上死点位置Tから下死点位置U2まで移動する際の傾斜角度を設定値として設定している。
【0078】
そして、この圧縮機では、回収供給機構13により、回収側圧縮室67aに残留する残留冷媒を回収しつつ、供給側圧縮室67bにその残留冷媒を供給することが可能となっている。
【0079】
具体的には、
図8及び
図9の各グラフに示すように、この圧縮機では、駆動軸3の回転角度が範囲D1にある際に、シリンダボア19aに形成された圧縮室67から残留冷媒が回収される。また、駆動軸3の回転角度が範囲D2にある際に、シリンダボア19aに形成された圧縮室67に対して残留冷媒が供給される。つまり、駆動軸3の回転角度が範囲D1にある際、シリンダボア19aに形成された圧縮室67は回収側圧縮室67aとなり、シリンダボア19aは回収側シリンダボア190となる。そして、駆動軸3の回転角度が範囲D2にある際、シリンダボア19aに形成された圧縮室67は供給側圧縮室67bとなり、シリンダボア19aは供給側シリンダボア191となる。ここで、この圧縮機では、他のシリンダボア19b〜19eがそれぞれ回収側シリンダボア190や供給側シリンダボア191となる際の駆動軸3の回転角度の範囲は、個々に異なっている。
【0080】
この回収供給機構13による残留冷媒の回収及び供給について、シリンダボア19aに形成された圧縮室67から残留冷媒を回収し、その残留冷媒をシリンダボア19dに形成された圧縮室67へ供給する場合を例にして具体的に説明する。
【0081】
この場合、
図6に示すように、シリンダボア19aに形成された圧縮室67が回収側圧縮室67aとなり、シリンダボア19dに形成された圧縮室67が供給側圧縮室67bとなる。また、シリンダボア19aが回収側シリンダボア190となり、シリンダボア19dが供給側シリンダボア191となる。さらに、シリンダボア19aに連通する回収路41aがインレットポート63を通じて環状空間61に連通することから、回収路41aが実働回収路410となる。また、シリンダボア19dに連通する供給路43dがアウトレットポート65を通じて環状空間61に連通することから、供給路43dが実働供給路430となる。なお、同図に示す白色矢印はピストン9毎の移動方向を示している。
図7についても同様である。
【0082】
そして、駆動軸3が回転し、上記のように、実働回収路410とインレットポート63とが連通することにより、同図の実線矢印で示すように、回収側圧縮室67a内の残留冷媒がリテーナ溝37aから実働回収路410を流通して環状空間61内に回収される。この回収された残留冷媒は、駆動軸3が回転し、アウトレットポート65と実働供給路430とが連通することにより、実働供給路430を流通して回収側圧縮室67b内に供給されこととなる。この際、回収側圧縮室67bでは圧縮行程が行われている。
【0083】
そして、この圧縮機では、各供給路43a〜43eの各シリンダボア19a〜19eにおける開口部分について、斜板5の傾斜角度が最大値であり、かつ、回収側シリンダボア190内のピストン9が上死点位置にある時に、供給側シリンダボア191内でピストン9の周面によって閉塞されない位置に開口している。このため、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度が最大値となり、ピストン9がこの場合の下死点位置U1まで移動した場合には、実働供給路430を流通する残留冷媒が供給側圧縮室67bに流入することが可能となる。こうして、この圧縮機では、実働回収路410によって、回収側圧縮室67a内の残留冷媒を回収するとともに、実働供給路430によって、残留冷媒を供給側圧縮室67bに供給することが可能となっている。そして、供給側圧縮室67bでは、吸入室31から吸入された冷媒と、残留冷媒とが共に圧縮されることとなる。
【0084】
一方、
図7に示すように、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度が最大値未満の設定値となることにより、傾斜角度が最大値である場合と比較してピストン9のストロークが減少する。このため、この場合におけるピストン9の下死点位置U2は、各供給路43a〜43eの各シリンダボア19a〜19eにおける開口部分よりも後方側となる。このため、斜板5の傾斜角度が最大値未満となり、ピストン9がこの場合の下死点位置U2まで移動しても、各供給路43a〜43eは、各シリンダボア19a〜19e内においてピストン9の周面によってそれぞれ塞がれたままの状態となる。このため、実働供給路430内の残留冷媒を供給側圧縮室67b内に供給することができなくなる。
【0085】
このように、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度が最大値未満となることによって、実働回収路410と供給側圧縮室67bとの連通面積がゼロとなり、供給側圧縮室67bへ残留冷媒が供給されなくなる。これにより、斜板5の傾斜角度が最大値未満の状態では、回収側圧縮室67aにおける残留冷媒の回収も実質的に行われなくなる。このため、供給側圧縮室67bでは、吸入室31から吸入された冷媒のみが圧縮されることとなる。
【0086】
このように、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度が最大値である場合に、回収側圧縮室67a内の残留冷媒を回収して、その残留冷媒を供給側圧縮室67bに供給する。これにより、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度が最大値である場合に、再膨張行程時における圧縮室67内での残留冷媒の再膨張が抑制されている。このため、この圧縮機では、
図8のグラフに示すように、残留冷媒の回収及び供給を行わない場合と比較して、圧縮室67内の圧力を好適に低下させることが可能となっている。こうして、この圧縮機では、各圧縮室67の体積効率が向上している。
【0087】
そして、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度が最大値未満となることにより、供給側圧縮室67bへ残留冷媒が供給されなくなる。このため、
図9のグラフに示すように、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度が最大値未満である状態においても残留冷媒の回収及び供給を行う場合と比較して、再膨張行程時におけるボア内圧波形の変化を緩やかにすることが可能となる。このため、この圧縮機では、ボア内圧波形に変曲点Pが生じ難くなり、斜板5の傾斜角度が最大値未満となった場合における異音の発生を抑制することができる。さらに、斜板5の傾斜角度が最大値未満の場合に供給側圧縮室67bへ残留冷媒を供給しないことにより、この圧縮機では、各圧縮室67内の冷媒の温度を低くでき、圧縮のために要する動力を小さくできる。
【0088】
したがって、実施例1の圧縮機は静粛性に優れ、かつ優れたCOPを発揮できる。
【0089】
特に、この圧縮機では、シャフトストッパ59を軸路3aに圧入することにより、軸路3aにシャフトストッパ59を位置させつつ、駆動軸3にシャフトストッパ59を容易に固定することが可能となっている。
【0090】
また、このシャフトストッパ59によって、軸路3aの大径部300に環状空間61が区画されている。このため、この圧縮機では、駆動軸3内に環状空間61を形成することができるとともに、環状空間61を流通する残留冷媒が抽気通路30を経てクランク室25や吸入室31に流入することを防止できる。
【0091】
さらに、この圧縮機では、シャフトストッパ59によって、駆動軸3が軸方向へ移動することが抑制されている。このため、この圧縮機では、製造時における駆動軸3と弁形成プレート21との間隙を容易に調整することが可能となっている。このため、この圧縮機では、製造が容易化されている。
【0092】
(実施例2)
実施例2の圧縮機は、実施例1の圧縮機におけるシャフトストッパ59に換えて、
図10の(A)に示すシャフトストッパ77が採用されている。このシャフトストッパ77もシャフトストッパ59と同様、段状に形成された円筒状を呈しており、内部に連通路77aが形成されている。また、シャフトストッパ77の外周には、軸孔3aの小径部301に圧入可能な寸法で形成された先端側嵌合部77bと、軸孔3aの大径部300に挿通可能な寸法で形成された後端側大径筒部77cと、先端側嵌合部77bと後端側大径筒部77cとの間に位置する空間対向部77dとが形成されている。先端側嵌合部77bと空間対向部77dとは同径である。さらに、後端側大径筒部77cの後端には円環部77eが形成されている。この円環部77eは、後端側大径筒部77c及び大径部300よりも大径に形成されている。
【0093】
このシャフトストッパ77では、同図の(B)に示すように、先端側嵌合部77b側から円環部77e側まで、連通路77aが同径で延びている。また、このシャフトストッパ77では、後端側大径筒部77cの周面にリング溝770が形成されており、このリング溝770内にOリング771が設けられている。このOリング771が本発明における封止手段に相当する。
【0094】
シャフトストッパ77は、駆動軸3に対し、大径部300側から小径部301側に向かって圧入されている。この際、先端側嵌合部77bは、同図の(A)において、ドットハッチングで示す部分で小径部301の壁面と嵌合する。また、大径部300の壁面によってOリング771が弾性変形する。そして、シャフトストッパ77が駆動軸3に圧入されることにより、小径部301は、連通路77a及び連通孔21cを通じて、吸入室31と連通可能となる。そして、この圧縮機では、径孔3b、小径部301、連通路77a及び連通孔21cによって、抽気通路30が形成されている。
【0095】
また、大径部300内に空間対向部77dが位置することにより、空間対向部77dの周囲に環状空間61が形成されている。この環状空間61は、小径部301及び大径部300の後端側から区画されているとともに、空間対向部77dにより、抽気通路30から区画されている。この圧縮機における他の構成は実施例1の圧縮機と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0096】
この圧縮機では、Oリング771によって、環状空間61の気密性を好適に確保することが可能となっている。このため、この圧縮機では、環状空間61を流通する残留冷媒が抽気通路30を経てクランク室25や吸入室31に流入することをより好適に防止可能となっている。
【0097】
また、Oリング771が設けられることにより、この圧縮機では、駆動軸3において、大径部300を必要以上に高精度に形成したり、シャフトストッパ77の後端側大径筒部77cを必要以上に高精度に形成したりしなくても、環状空間61の気密性を好適に確保できる。このため、この圧縮機では、製造が容易となり、低コスト化を実現できる。この圧縮機における他の作用は実施例1の圧縮機と同様である。
【0098】
(実施例3)
実施例3の圧縮機は、実施例1の圧縮機におけるシャフトストッパ59に換えて、
図11の(A)に示すシャフトストッパ79が採用されている。このシャフトストッパ79も段状に形成された円筒状を呈しており、内部に連通路79aが形成されている。また、シャフトストッパ79の外周には、小径部301に挿入可能な寸法で形成された先端側小径筒部79bと、軸孔3aの大径部300に圧入可能な寸法で形成された後端側嵌合部79cと、先端側小径筒部79bと後端側嵌合部79cとの間に位置する空間対向部79dとが形成されている。先端側小径筒部79bと空間対向部79dとは同径である。さらに、後端側嵌合部79cの後端には円環部79eが形成されている。この円環部79eは、後端側嵌合部79c及び大径部300よりも大径に形成されている。同図の(B)に示すように、このシャフトストッパ79では、先端側小径筒部79b側から円環部79e側まで、連通路79aが同径で延びている。
【0099】
また、この圧縮機では、駆動軸3に対してシール部材81が設けられている。シール部材81は、小径部301の後端側に配置されている。このシール部材81も本発明における封止手段に相当する。
【0100】
シャフトストッパ79は、駆動軸3に対し、大径部300側から小径部301側に向かって圧入されている。この際、先端側嵌合部79bは、同図の(A)において破線で示す部分でシール部材81と密着する。一方、後端側嵌合部79cは、同図のドットハッチングで示す部分で大径部300の後端側と嵌合する。そして、シャフトストッパ79が駆動軸3に圧入されることにより、小径部301は、連通路79a及び連通孔21cを通じて、吸入室31と連通可能となる。そして、この圧縮機では、径孔3b、小径部301、連通路79a及び連通孔21cによって、抽気通路30が形成されている。
【0101】
また、大径部300内に空間対向部79dが位置することにより、空間対向部79dの周囲に環状空間61が形成されている。この環状空間61は、小径部301及び大径部300の後端側から区画されているとともに、空間対向部79dにより、抽気通路30から区画されている。この圧縮機における他の構成は実施例1の圧縮機と同様である。
【0102】
この圧縮機では、駆動軸3にシール部材81が設けられることで、実施例2の圧縮機と同様に、環状空間61の気密性を好適に確保することが可能となっている。また、シール部材81が設けられることで、この圧縮機では、駆動軸3において、小径部301を必要以上に高精度に形成したり、シャフトストッパ79の先端側小径筒部79bを必要以上に高精度に形成したりしなくても、環状空間61の気密性を好適に確保できる。このため、この圧縮機でも製造が容易となり、低コスト化を実現できる。この圧縮機における他の作用は実施例1の圧縮機と同様である。
【0103】
(実施例4)
実施例4の圧縮機では、実施例1の圧縮機におけるシャフトストッパ59に換えて、
図12の(A)に示すシャフトストッパ83が採用されている。また、この圧縮機では、同図の(B)に示すように、軸孔3aにおける大径部300が実施例1の圧縮機と比較して、軸方向に長く形成されている。
【0104】
シャフトストッパ83は、同図の(A)に示すように、段状に形成された円筒状を呈しており、内部に連通路83aが形成されている。また、シャフトストッパ83の外周には、大径部300に圧入可能な寸法で形成された先端側嵌合部83b及び後端側嵌合部83cと、先端側嵌合部83bと後端側嵌合部83cとの間に位置する空間対向部83dとが形成されている。空間対向部83dは、先端側嵌合部83b及び後端側嵌合部83cよりも小径に形成されている。後端側大径筒部83cの後端には円環部83eが形成されている。この円環部83eは、先端側嵌合部83b、後端側大径筒部83c及び大径部300よりも大径に形成されている。また、同図の(B)に示すように、このシャフトストッパ83では、先端側嵌合部83b側から円環部83e側まで、連通路83aが同径で延びている。
【0105】
シャフトストッパ83は、駆動軸3に対し、大径部300側から小径部301側に向かって圧入されている。この際、大径部300の前方側で先端側嵌合部83bが大径部300の壁面と嵌合するとともに、大径部300の後方側で後端側嵌合部83cが大径部300の壁面と嵌合する。そして、シャフトストッパ83が駆動軸3に圧入されることにより、小径部301は、連通路83a及び連通孔21cを通じて、吸入室31と連通可能となる。そして、この圧縮機では、径孔3b、小径部301、連通路83a及び連通孔21cによって、抽気通路30が形成されている。
【0106】
また、大径部300における前後方向の略中央に空間対向部83dが位置することにより、空間対向部83dの周囲に環状空間61が形成されている。この環状空間61は、大径部300の前端側及び後端側から区画されているとともに、空間対向部83dにより、抽気通路30から区画されている。この圧縮機における他の構成は実施例1の圧縮機と同様である。
【0107】
この圧縮機では、先端側嵌合部83bと後端側嵌合部83cとを同径に形成することにより、シャフトストッパ83の形成が容易となっている。このため、この圧縮機でも製造が容易となり、低コスト化を実現している。この圧縮機における他の作用は実施例1の圧縮機と同様である。
【0108】
(実施例5)
実施例5の圧縮機では、実施例1の圧縮機におけるシャフトストッパ59に換えて、
図13の(A)に示すシャフトストッパ85が採用されている。また、この圧縮機では、同図の(B)に示すように、軸孔3aが第1小径部302と大径部303と第2小径部304とで構成されている。第1小径部302と第2小径部304とは、同径である。第1小径部302は前端側で
図1に示す径孔3bと連通している。
図13の(B)に示す大径部303は、前端側で第1小径部302と連通しているとともに、後端側で第2小径部304と連通している。この大径部303は、実施例1の圧縮機における大径部300と比較して軸方向に短く形成されている。第2小径部304の後端は、駆動軸3の後端面に開いている。
【0109】
シャフトストッパ85は、同図の(A)に示すように、円筒状を呈しており、内部に連通路85aが形成されている。また、シャフトストッパ85の外周には、第1小径部302及び第2小径部304に圧入可能な寸法で形成された先端側嵌合部85bと後端側嵌合部85cとが形成されている。また、先端側嵌合部85bと後端側嵌合部85cとの間には、空間対向部85dとが形成されている。これらの先端側嵌合部85b、後端側嵌合部85c及び空間対向部85dは、いずれも同径である。さらに、後端側嵌合部85cの後端には円環部85eが形成されている。この円環部85eは、後端側嵌合部85c及び第2小径部304よりも大径に形成されている。また、同図の(B)に示すように、このシャフトストッパ85では、先端側嵌合部85b側から円環部85e側まで、連通路85aが同径で延びている。
【0110】
シャフトストッパ85は、駆動軸3に対し、第2小径部304側から第1小径部302側に向かって圧入されている。この際、先端側嵌合部85bは、同図の(A)においてドットハッチングで示す部分で第1小径部302の壁面と嵌合する。同様に、後端側嵌合部85cが第2小径部304の壁面と嵌合する。そして、シャフトストッパ85が駆動軸3に圧入されることにより、第1小径部302は、連通路85a及び連通孔21cを通じて、吸入室31と連通可能となる。そして、この圧縮機では、径孔3b、第1小径部302、連通路85a及び連通孔21cによって、抽気通路30が形成されている。
【0111】
また、大径部303内に空間対向部85dが位置することにより、空間対向部85dの周囲に環状空間61が形成されている。この環状空間61は、第1小径部302及び第2小径部304から区画されているとともに、空間対向部85dにより、抽気通路30から区画されている。この圧縮機における他の構成は実施例1の圧縮機と同様である。
【0112】
この圧縮機では、先端側嵌合部85bと後端側嵌合部85cと空間対向部85dとを同径に形成することで、シャフトストッパ85の形成が容易となっている。このため、この圧縮機でも製造が容易となり、低コスト化を実現している。この圧縮機における他の作用は実施例1の圧縮機と同様である。
【0113】
以上において、本発明を実施例1〜5に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜5に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0114】
例えば、斜板5の傾斜角度が小さくなり、ピストン9のストロークが小さくなることで、徐々にピストン9によって各供給
路43
a〜43eが塞がれていくように、各供給路43a〜43eの各シリンダボア19a〜19eにおける開口部分の位置を調整しても良い。これにより、この場合の圧縮機では、斜板5の傾斜角度が最大値未満となることで、実働回収路410と実働供給路430との連通面積が徐々に縮小することとなる。このため、この圧縮機では、傾斜角度が小さくなるに従って、供給側圧縮室67bへ供給される残留冷媒の流量を徐々に減少させることが可能となる。