(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定手段は、前記実インターバルの演算が終了してから所定の閾値時間が経過しても、前記推定インターバルの演算が終了しない場合は、前記フィルタを故障と判定する
請求項1又は2に記載の診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る診断装置を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0018】
図1に示すように、ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)10には、吸気マニホールド10aと排気マニホールド10bとが設けられている。吸気マニホールド10aには新気を導入する吸気通路11が接続され、排気マニホールド10bには排気を大気に放出する排気通路12が接続されている。
【0019】
吸気通路11には、吸気上流側から順に、エアクリーナ13、MAFセンサ31、過給機のコンプレッサ14a、インタークーラ15、吸気温度センサ32、吸気酸素濃度センサ33、ブースト圧センサ34等が設けられている。排気通路12には、排気上流側から順に、過給機のタービン14b、排気酸素濃度センサ35、空燃比センサ36、排気温度センサ37、排気後処理装置50等が設けられている。なお、
図1中において、符号38はエンジン回転センサ、符号39はアクセル開度センサを示している。
【0020】
排気後処理装置50は、触媒ケース50a内に排気上流側から順に、酸化触媒(Diesel Oxidation Catalyst:DOC)51と、DPF52とを配置して構成されている。また、DOC51の排気上流側には排気管内噴射装置53、DPF52の下流側には、DPF52を通過した排気中のPM量を検出する抵抗型PMセンサ20が設けられている。
【0021】
排気管内噴射装置53は、電子制御ユニット(以下、ECU)40から出力される指示信号に応じて、排気通路12内に未燃燃料(主にHC)を噴射する。なお、エンジン10の多段噴射によるポスト噴射を用いる場合は、この排気管内噴射装置53を省略してもよい。
【0022】
DOC51は、例えば、コーディエライトハニカム構造体等のセラミック製担体表面に触媒成分を担持して形成されている。DOC51は、排気管内噴射装置53又はポスト噴射によってHCが供給されると、これを酸化して排気温度を上昇させる。
【0023】
DPF52は、例えば、多孔質性の隔壁で区画された多数のセルを排気の流れ方向に沿って配置し、これらセルの上流側と下流側とを交互に目封止して形成されている。DPF52は、排気中のPMを隔壁の細孔や表面に捕集すると共に、PM堆積量が所定量に達すると、これを燃焼除去するいわゆるフィルタ強制再生が実行される。フィルタ強制再生は、排気管内噴射装置53又はポスト噴射によってDOC51に未燃燃料(HC)を供給し、DPF52に流入する排気温度をPM燃焼温度(例えば、約600℃)まで昇温することで行われる。
【0024】
抵抗型PMセンサ20は、
図2(a)に示すように、絶縁基板21上に電圧が印加される櫛歯状の一対の電極22を備えており、電極22間の抵抗値が導電性のPMの付着により変化することを利用してPM量を検出する。また、抵抗型PMセンサ20は、図示しないヒータを備えており、
図2(b)に示すように、電極22間に付着したPMが所定量まで堆積すると、これをヒータで加熱して燃焼除去するセンサ再生が行われる。このセンサ再生信号(開始信号・終了信号)は、電気的に接続されたECU40に出力される。
【0025】
ECU40は、エンジン10や排気管内噴射装置53等の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。
【0026】
また、ECU40は、
図3に示すように、実再生インターバル演算部41と、エンジン排出PM量演算部42と、PMスリップ量演算部43と、センサPM堆積量演算部44と、推定再生インターバル演算部45と、DPF故障正常判定部46とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、一体のハードウェアであるECU40に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0027】
実再生インターバル演算部41は、本発明の実インターバル演算手段の一例であって、抵抗型PMセンサ20の再生終了から次の再生開始までの期間(以下、この期間を実再生インターバルINT
actという)を演算する。実再生インターバルINT
actは、抵抗型PMセンサ20から入力される再生開始信号及び再生終了信号に基づいて演算される。
【0028】
エンジン排出PM量演算部42は、エンジン10から排出される排気中のPM量(以下、エンジン排出PM量EG
PM_outという)をリアルタイムで演算する。エンジン排出PM量EG
PM_outは、例えば、各種センサ31〜39等で検出される吸排気系の酸素濃度O
2、空燃比λ、排気温度T等を入力値として含むモデル式等から求めることができる。また、予め実験等により作成したPM排出量マップ(不図示)から、センサ38,39等で検出されるエンジン回転数Nやアクセル開度Qに基づいたエンジン10の運転状態に対応する値を読み取ることで求めてもよい。
【0029】
PMスリップ量演算部43は、本発明のスリップ量推定手段の一部を構成するもので、DPF52で捕集されずに通過するPM量(以下、PMスリップ量DPF
PM_slpという)をリアルタイムで演算する。より詳しくは、ECU40には、予め実験等により求めたDPF52のPM捕集能力が正常と仮定した場合のPMスリップ率SLP
%が記憶されている。PMスリップ量DPF
PM_slpは、エンジン排出PM量推定部42で演算されるエンジン排出PM量EG
PM_outに、PMスリップ率SLP
%を乗算することで得られる。
【0030】
なお、PMスリップ率SLP
%は、DPF52が溶損等により故障する直前の状態を基準に設定することが好ましい。これにより、後述する故障診断において、DPF52からスリップするPM量が排ガス基準値等を超える直前で故障を確実に検知することが可能になる。
【0031】
センサPM堆積量演算部44は、PMスリップ量演算部43でリアルタイムに演算されるPMスリップ量DPF
PM_slpに基づいて、抵抗型PMセンサ20の電極22間に堆積するPM堆積量SENS
PM_depを演算する。PM堆積量SENS
PM_depは、例えば、PMスリップ量DPF
PM_slp、排気温度T、排気流量Q等を入力値として含むモデル式から求めることができる。排気流量Qは、MAFセンサ31の検出値及びエンジン10の燃料噴射量等から演算するか、あるいは図示しない排気流量センサから直接的に取得してもよい。
【0032】
推定再生インターバル演算部45は、本発明の推定インターバル演算手段の一部を構成するもので、DPF52のPM捕集能力が正常と仮定した場合の、抵抗型PMセンサ20の再生終了から次の再生開始までの期間(以下、この期間を推定再生インターバルINT
estという)を演算する。より詳しくは、推定再生インターバル演算部45は、抵抗型PMセンサ20の再生終了から、センサPM堆積量演算部44で演算されるPM堆積量SENS
PM_depの積算値がセンサ再生開始閾値に達するまでの期間を推定再生インターバルINT
estとして演算するように構成されている。
【0033】
DPF故障正常判定部46は、本発明の判定手段の一例であって、実再生インターバル演算部41で演算された実再生インターバルINT
actと、推定再生インターバル演算部45で演算された推定再生インターバルINT
estとに基づいて、DPF52の故障又は正常を判定する。以下、具体的な判定手法を
図4〜6に基づいて説明する。
【0034】
図4に示す判定手法は、実再生インターバルINT
actと推定再生インターバルINT
estとの差を用いるものである。この判定手法では、実再生インターバルINT
actと推定再生インターバルINT
estとの差ΔINTが、予め定めた上限閾値ΔT
MAXを
下回ると、DPF52を故障と判定する。上限閾値ΔT
MAXは、例えば、溶損等によりDPF52を通過するPMスリップ量が排ガス基準値を満たさなくなる直前の状態(故障直前の正常品)を基準に設定されることが好ましい。
【0035】
図5に示す判定手法は、実再生インターバルINT
actと推定再生インターバルINT
estとの比を用いるものである。この判定手法では、実再生インターバルINT
actを推定再生インターバルINT
estで除算した比率%INTが、予め定めた上限閾値T
MAX%を
下回ると、DPF52を故障と判定する。上限閾値T
MAX%は、
図4の例と同様に、DPF52を通過するPMスリップ量が排ガス基準値を満たさなくなる直前の状態を基準に設定されることが好ましい。
【0036】
図6に示す判定手法は、診断時間の短縮化及び、診断回数の増加を目的とするものである。
図6(a)では、推定再生インターバルINT
estの演算が終了してから所定の閾値時間が経過しても、次のセンサ再生開始信号が入力されない場合は、DPF52を正常と判定する。これにより、DPF52が正常な場合に、実再生インターバルINT
actの演算終了を待つことなく、DPF52の正常な状態を早期に判定することが可能になる。
【0037】
図6(b)では、実再生インターバルINT
actの演算が終了してから所定の閾値時間が経過しても、推定再生インターバルINT
estの演算が終了しない場合は、DPF52を故障と判定する。これにより、DPF52の劣化が著しい場合に、推定再生インターバルINT
estの演算終了を待つことなく、DPF52の故障を早期に検知することが可能になる。
【0038】
次に、
図7,8に基づいて、本実施形態の診断装置による制御フローを説明する。なお、本制御はエンジン10のイグニッションキー操作:ONと同時にスタートする。
【0039】
図7に示すように、ステップ(以下、ステップを単にSと記載する)100では、抵抗型PMセンサ20の電極22間に付着したPM堆積量に関係なくセンサ強制再生が実行される。S110では、センサ強制再生が終了したか否かが判定される。センサ強制再生が終了した場合(Yes)は、S120に進み、n回目(n=1)の推定再生インターバルINT
est及び、実再生インターバルINT
actの演算が開始される。
【0040】
S130では、推定再生インターバルINT
estの演算を終了したか否かが判定される。推定再生インターバルINT
estの演算を終了したことを示す終了フラグF
1がオン(F
1=1)になっている場合(Yes)は、後述する
図8のS300に進む。一方、推定再生インターバルINT
estの演算が終了していない場合(No)は、S140に進む。
【0041】
S140では、n回目(n=1)のセンサ再生が開始されたか否かが判定される。センサ再生が開始された場合(Yes)は、実再生インターバルINT
actの演算が終了するので、S150で、実再生インターバルINT
actの演算を終了したことを示す終了フラグF
2がオン(F
2=1)にされてS160に進む。
【0042】
S160では、終了フラグF
2のオンから所定の閾値時間が経過したか否かが判定され、S170では、実再生インターバルINT
actの終了フラグF
1がオン(F
1=1)にされたか否かが判定される。S170で、終了フラグF
1がオンでない場合(No)は、実再生インターバルINT
actの演算後、閾値時間を経過しても推定再生インターバルINT
estの演算が終了していない状態(
図6(b)参照)のため、本制御はS200に進んでDPF52を故障と判定してリターンされる。
【0043】
一方、S170で、終了フラグF
1がオンの場合(Yes)は、実再生インターバルINT
act及び、推定再生インターバルINT
est共に演算が終了しているので、S180でこれらの比較が行われる。
【0044】
S180で、実再生インターバルINT
actと推定再生インターバルINT
estとの差ΔINTが予め定めた上限閾値ΔT
MAXを
下回る場合(Yes)は、S200に進んでDPF52を故障と判定してリターンされる。一方、差ΔINTが上限閾値ΔT
MAX以上の場合(No)は、S210でDPF52を正常と判定する。そして、S220でカウントを1つ加算(n=n+1)し、次の演算を開始すべくS120に戻される。
【0045】
次に、
図8に基づいて、S130で推定再生インターバルINT
estの演算が終了(F
1=1)と判定された場合のフローを説明する。
【0046】
S300では、終了フラグF
1のオンから所定の閾値時間が経過したか否かが判定される。閾値時間が経過している場合(Yes)は、S310に進み、n回目(n=1)のセンサ再生が開始されたか否かが判定される。
【0047】
S310で、センサ再生が開始されていない場合(No)は、推定再生インターバルINT
estの演算後、閾値時間が経過してもセンサ再生開始信号を受信していない状態(
図6(a)参照)のため、本制御はS320に進み、DPF52を正常と判定する。そして、S330でカウントを1つ加算(n=n+1)し、次の演算を開始すべくS120に戻される。
【0048】
一方、S310でセンサ再生が開始されている場合(Yes)は、実再生インターバルINT
actの演算が終了するので、S340で終了フラグF
2がオン(F
2=1)にされてS350に進む。
【0049】
S350では、実再生インターバルINT
act及び、推定再生インターバルINT
est共に演算が終了しているので、これらの比較が行われる。実再生インターバルINT
actと推定再生インターバルINT
estとの差ΔINTが予め定めた上限閾値ΔT
MAXを
下回る場合(Yes)は、S370に進んでDPF52を故障と判定してリターンされる。一方、差ΔINTが上限閾値ΔT
MAX以上の場合(No)は、S320に進んでDPF52を正常と判定する。そして、S330でカウントを1つ加算(n=n+1)し、次の演算を開始すべく本制御はS120に戻される。その後、上述の各ステップは、エンジン10のイグニッションキー操作:OFFまで繰り返し実行される。
【0050】
次に、本実施形態に係る診断装置による作用効果を説明する。
【0051】
従来、DPFの故障を診断する技術として、DPFの下流側に設けた抵抗型PMセンサのPM量検出値と閾値とを比較する手法が知られている。しかしながら、電極間に付着したPMの電気抵抗は、排気温度や排気流量の影響により変化するため、抵抗型PMセンサのPM量検出値に基づいた診断手法では、DPFの劣化を正確に判定できない課題がある。
【0052】
これに対し、本実施形態の診断装置では、抵抗型PMセンサ20のPM量検出値を用いることなく、抵抗型PMセンサ20のセンサ再生信号から演算される実再生インターバルINT
actと、DPF52を正常と仮定したPMスリップ量から演算される推定再生インターバルINT
estとに基づいて、DPF52の故障を判定している。したがって、本実施形態の診断装置によれば、排気温度や排気流量の影響を受けることなく、DPF52の故障を高精度に判定することが可能になる。
【0053】
また、本実施形態の診断装置では、推定再生インターバルの演算が終了してから所定時間が経過しても、次のセンサ再生開始信号が入力されない場合は、DPF52を正常と判定する。すなわち、DPF52が正常な場合は、実再生インターバルの演算終了を待つことなく、早期に判定できるように構成されている。したがって、本実施形態の診断装置によれば、診断時間の短縮化及び、診断回数の増加を効果的に図ることができる。
【0054】
また、本実施形態の診断装置では、実再生インターバルの演算が終了してから所定時間が経過しても、推定再生インターバルの演算が終了しない場合は、DPF52を故障と判定する。すなわち、DPF52の劣化が著しい場合は、推定再生インターバルの演算終了を待つことなく、故障を判定できるように構成されている。したがって、本実施形態の診断装置によれば、DPF52の故障を早期に検知することが可能になる。
【0055】
また、本実施形態の診断装置では、推定再生インターバルはDPF52を正常と仮定したPMスリップ量から演算され、このPMスリップ量は、エンジン10の吸排気状態量等を入力値として含むモデル式から演算される。したがって、本実施形態の診断装置によれば、実再生インターバルを閾値と単純に比較する構成に比べ、エンジン10の運転状態を考慮した高精度な診断を行うことができる。
【0056】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0057】
例えば、DPF52とDOC51とは別体に設けられるものとして説明したが、これらを一体化してもよい。また、エンジン10はディーゼルエンジンに限定されず、ガソリンエンジン等の他の内燃機関にも広く適用することが可能である。