【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る炭素繊維マットは、
繊維長が5〜50mmの範囲にある炭素繊維と
、捲縮を有しており繊維長が10〜100mmの範囲にありナイロン6またはナイロン610のいずれかを含むバインダー繊維からなり、バインダー繊維の
ガラス転移点+30℃以上、融点−10℃以下の温度での加熱・加圧により形状が固定されて
おり、見かけ密度が0.030〜0.050g/cm3の範囲にあることを特徴とするものからなる。この加熱・加圧は、例えば、バインダー繊維の融点よりも低い温度で加熱・加圧可能なカレンダープレス機を用いて行うことができる。
【0009】
このような本発明に係る炭素繊維マットにおいては、バインダー繊維の融点よりも低い温度で加熱・加圧されているので、バインダー繊維が実質的に溶融せずに繊維形状を維持したままの状態での、形態が固定された炭素繊維マットとなる。バインダー繊維が溶融されないので、つまり、溶融された後固まることはないので、炭素繊維マットとしては十分な柔軟性を保持することができ、巻き取りやすいという取扱い性に優れたマットが実現され、それによって生産性の向上も可能になる。
【0010】
上記本発明に係る炭素繊維マットは、バインダー繊維のガラス転移点+30℃以上、融点−10℃以下の温度での加熱・加圧により形状が固定され
る。この加熱・加圧のための温度は、より好ましくは、バインダー繊維のガラス転移点+50℃以上、融点−15℃以下の温度であり、さらに好ましくは、バインダー繊維のガラス転移点+80℃以上、融点−25℃以下の温度である。
【0011】
また、上記本発明に係る炭素繊維マットにおいては、炭素繊維マットの見かけ密度が0.030〜0.080g/cm
3の範囲にあることが好ましく、より好ましくは、0.030〜0.070g/cm
3の範囲、さらに好ましくは、0.035〜0.050g/cm
3の範囲である
が、本発明では、本発明におけるバインダー繊維が捲縮を有しておりナイロン6またはナイロン610のいずれかを含むという構成要件を満たす後述の実施例(実施例1〜5)の結果から、炭素繊維マットの見かけ密度を0.030〜0.050g/cm3の範囲に規定している。このように見かけ密度を適切な範囲とすることにより、適切に柔らかいシート状のマットとなり、硬すぎて巻けない問題が解消された、巻き取りやすく取扱い性に優れたロール状の炭素繊維マットを実現可能となる。ただし、見かけ密度が低くなりすぎると、その分シートが厚くなるので、巻き取ることができないか、巻き形状が悪化するという不具合を招く。
【0012】
また、上記バインダー繊維は、捲縮を有してい
る。バインダー繊維が捲縮を有していることにより、炭素繊維との交絡性が向上し、炭素繊維同士をバインダー繊維によって結合しやすくなって、炭素繊維マットの形態固定性が向上する。
【0013】
バインダー繊維の種類としては、特に限定はないが、繊維が熱可塑性樹脂からなることが好ましい。バインダー繊維を構成する熱可塑性樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン410、ナイロン56、ナイロン9T、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリフェニレンサルファイドなどが好ましく用いられる。
これらのうち、本発明では、ナイロン6またはナイロン610のいずれかを含むバインダー繊維に限定している。また、バインダー繊維は熱可塑性樹脂単独で構成されていてもよいし、複数の熱可塑性樹脂が混在している状態で構成されていてもよい。例えば、2種以上の熱可塑性樹脂をブレンドしたものや、低融点の熱可塑性樹脂を鞘成分とした芯鞘構造のバインダー繊維であってもよい。
【0014】
また、バインダー繊維の繊維長としては、10〜100mmの範囲にあ
る。より好ましい範囲は、30〜80mmの範囲、さらに好ましい範囲は、38〜76mmの範囲である。バインダー繊維の繊維長が短すぎると、炭素繊維との交絡性が低下してバインダーとしての機能が低くなり、長すぎると、バインダー繊維を均一に分散させにくくなったり、バインダー繊維の混率のコントロールが難しくなったりする。
【0015】
バインダー繊維は、バインダーとしての機能を確保し、かつ、炭素繊維に対して多くなりすぎないようにする観点から、適当な混率で配合されていることが好ましい。バインダー繊維の混率は、1〜50重量%の範囲にあることが好ましく、より好ましい範囲は、5〜40重量%の範囲、さらに好ましい範囲は、10〜30重量%の範囲である。
【0016】
加熱・加圧により形状が固定される前の炭素繊維とバインダー繊維からなるシート状の炭素繊維マットは、例えば、カーディング装置やエアレイド装置によって作製でき、さらにカーディング装置やエアレイド装置によって上記バインダー繊維の混率も調整可能である。
【0017】
ここで、カーディングとは、不連続な繊維の集合体をくし状のもので概略同一方向に力を加えることにより、不連続な繊維の方向を揃えたり、繊維を開繊する操作のことをいう。一般的には針状の突起を表面に多数備えたロール及び/またはのこぎりの刃状の突起を有するメタリックワイヤを巻きつけたロールを有するカーディング装置を用いて行う。かかるカーディングを実施するにあたっては、炭素繊維が折れるのを防ぐ目的で炭素繊維がカーディング装置の中に存在する時間(滞留時間)を短くすることが好ましい。具体的にはカーディング装置のシリンダーロールに巻かれたワイヤー上に存在する炭素繊維をできるだけ短時間でドッファーロールに移行させることが好ましい。したがって、かかる移行を促進するためにシリンダーロールの回転数は、例えば150rpm以上といった高い回転数で回転させることが好ましい。また、同様の理由で、ドッファーロールの表面速度は例えば、10m/分以上といった速い速度が好ましい。
【0018】
カーディング装置としては、特に制限がなく一般的なものを用いることができる。例えば、
図1に示すように、カーディング装置1は、シリンダーロール2と、その外周面に近接して上流側に設けられたテイクインロール3と、テイクインロール3とは反対側の下流側においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられたドッファーロール4と、テイクインロール3とドッファーロール4との間においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられた複数のワーカーロール5と、ワーカーロール5に近接して設けられたストリッパーロール6と、テイクインロール3と近接して設けられたフィードロール7及びベルトコンベアー8とから主として構成されている。ベルトコンベアー8上に、例えば不連続な炭素繊維束9とバインダー繊維10が供給され、これらはフィードロール7の外周面、次いでテイクインロール3の外周面を介してシリンダーロール2の外周面上に導入される。この段階までで炭素繊維束は解され、綿状の炭素繊維束の集合体となっている。シリンダーロール2の外周面上に導入された綿状の炭素繊維束の集合体およびバインダー繊維は一部、ワーカーロール5の外周面上に巻き付くが、これはストリッパーロール6によって剥ぎ取られ再びシリンダーロール2の外周面上に戻される。フィードロール7、テイクインロール3、シリンダーロール2、ワーカーロール5、ストリッパーロール6のそれぞれのロールの外周面上には多数の針、突起が立った状態で存在しており、上記工程で炭素繊維束が針の作用により開繊され、炭素繊維とバインダー繊維の集合体の1形態であるシート状のウエブ11としてドッファーロール4の外周面上に移動する。このシート状のウエブ11に対して、本発明における所定の加熱・加圧が行われ、溶融されないバインダー繊維によって炭素繊維マットの形状が固定される。
【0019】
本発明において使用される炭素繊維は、特に限定されないが、高強度、高弾性率炭素繊維が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が挙げられる。本発明に係る炭素繊維マットを用いて得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。炭素繊維の密度は、1.65〜1.95g/cm
3のものが好ましく、さらには1.70〜1.85g/cm
3のものがより好ましい。密度が大きすぎるものは得られる炭素繊維強化樹脂成形品の軽量性能に劣り、小さすぎるものは、得られる炭素繊維強化樹脂成形品の機械特性が低くなる場合がある。
【0020】
また、エアレイドとは短繊維の不織布シートの製造方法であり、不連続な繊維の集合体を空気の流れに乗せて均一分散させ、それを金網上に降らせて吸引捕集し、シート状の不織布を得る操作のことをいう。本発明においてエアレイド装置としては、特に制限がなく一般的なものを用いることができる。
【0021】
次にエアレイドについて説明するに、一般的なエアレイド法としては、本州製紙法、クロイヤー法、ダンウェブ法、J&J法、KC法、スコット法などが挙げられる(以上、不織布の基礎と応用(日本繊維機械学会不織布研究会 1993年刊)を参照)。
【0022】
例えば、
図2に示すように、エアレイド装置12は、互いに逆回転する円筒状でかつ細孔を持つドラム13と各ドラム13内に設置されたピンシリンダー14を有し、多量の空気と共に炭素繊維束単体もしくは炭素繊維束と熱可塑性樹脂繊維がドラム13に風送され、ドラム13内のピンシリンダー14によって開繊され、細孔より排出されて、その下を走行するワイヤ15上に落下する。ここで風送に用いた空気はワイヤ15下に設置されたサクションボックス16に吸引され、開繊された炭素繊維束単体もしくは開繊された炭素繊維束と熱可塑性樹脂繊維のみワイヤ15上に残り、炭素繊維シートを形成する。
【0023】
また、得ようとする炭素繊維強化樹脂成形品における炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性を向上する等の目的で炭素繊維には表面処理を施しておくこともできる。表面処理の方法としては,電解処理、オゾン処理、紫外線処理等がある。また、炭素繊維の毛羽立ちを防止したり、炭素繊維の収束性を向上させたり、成形品における炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上する等の目的で炭素繊維にサイジング剤が付与されていてもかまわない。サイジング剤としては、特に限定されないが、エポキシ基、ウレタン基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基を有する化合物が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。
【0024】
また、本発明に係る炭素繊維マットにおける炭素繊維の繊維長としては、5〜50mmの範囲にあ
る。より好ましくは10〜40mmの範囲、さらに好ましくは15〜35mmの範囲である。炭素繊維の繊維長が短すぎると、シート状の炭素繊維マットの形態を保持しにくくなり、長すぎると、バインダー繊維を均一に分散させにくくなる。
【0025】
本発明は、
繊維長が5〜50mmの範囲にある炭素繊維と
、捲縮を有しており繊維長が10〜100mmの範囲にありナイロン6またはナイロン610のいずれかを含むバインダー繊維からなる炭素繊維マットを、バインダー繊維のガラス転移点+30℃以上、融点−10℃以下の温度で加熱・加圧して形状を固定
し、見かけ密度が0.030〜0.050g/cm3の範囲にある炭素繊維マットを製造することを特徴とする炭素繊維マットの製造方法についても提供する。加熱・加圧のための温度は、好ましくは、バインダー繊維のガラス転移点+50℃以上、融点−15℃以下の温度であり、より好ましくは、バインダー繊維のガラス転移点+80℃以上、融点−25℃以下の温度である。
【0026】
本発明の炭素繊維マットを加熱・加圧する装置としては特に限定されず、加熱・加圧により形状を固定できる機能を有するものであれば一般的な加熱・加圧装置を使用することができる。例えば、バッチ式のプレス装置でもよいし、カレンダーロールプレス機やラミネートプレス機のような連続式のプレス装置でもよい。