特許第6201630号(P6201630)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201630
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】炭素繊維マットおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4242 20120101AFI20170914BHJP
   D04H 1/542 20120101ALI20170914BHJP
【FI】
   D04H1/4242
   D04H1/542
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-221171(P2013-221171)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2014-101618(P2014-101618A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2016年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-235636(P2012-235636)
(32)【優先日】2012年10月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 恵寛
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴史
(72)【発明者】
【氏名】越 政之
(72)【発明者】
【氏名】三好 且洋
(72)【発明者】
【氏名】布施 充貴
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−255735(JP,A)
【文献】 特開平03−234851(JP,A)
【文献】 特開昭62−125060(JP,A)
【文献】 特開平02−041427(JP,A)
【文献】 特開2008−031569(JP,A)
【文献】 特開2010−138531(JP,A)
【文献】 特表2006−524755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
B29C 70/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長が5〜50mmの範囲にある炭素繊維と、捲縮を有しており繊維長が10〜100mmの範囲にありナイロン6またはナイロン610のいずれかを含むバインダー繊維からなり、バインダー繊維のガラス転移点+30℃以上、融点−10℃以下の温度での加熱・加圧により形状が固定されており、見かけ密度が0.030〜0.050g/cm3の範囲にあることを特徴とする炭素繊維マット。
【請求項2】
バインダー繊維の混率が1〜50重量%の範囲にある、請求項に記載の炭素繊維マット。
【請求項3】
繊維長が5〜50mmの範囲にある炭素繊維と、捲縮を有しており繊維長が10〜100mmの範囲にありナイロン6またはナイロン610のいずれかを含むバインダー繊維からなる炭素繊維マットを、バインダー繊維のガラス転移点+30℃以上、融点−10℃以下の温度で加熱・加圧して形状を固定し、見かけ密度が0.030〜0.050g/cm3の範囲にある炭素繊維マットを製造することを特徴とする炭素繊維マットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取扱い性、生産性に優れた炭素繊維マットとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂の成形用繊維基材として、炭素繊維マットは広く使用されている。この炭素繊維マットは、炭素繊維強化樹脂の成形用繊維基材を作製するために、基材全体の所定の位置に積層されたり、配置されたりするが、これら操作のために、シート状の炭素繊維マットをロール状に巻き取っておき、その巻取ロールから必要に応じて必要な量だけ巻き出すことができるようにしておくと、取扱い性に優れ、生産性の向上に寄与することが可能になる。
【0003】
炭素繊維のみからなるマットでは、通常、取扱い可能なシートの形態に保持することは困難であるので、炭素繊維の集合体にバインダー(例えば、バインダー繊維)を混合し、バインダーによってシート状の炭素繊維マットの形態を保持するようにした技術が知られている。
【0004】
例えば特許文献1には炭素繊維と捲縮を有する熱可塑性樹脂繊維からなるマットをカレンダープレスし、捲縮繊維(バインダー繊維)を溶融させてマットの形態を固定する方法が開示されている。しかし、この方法では、バインダー繊維を溶融させているので、作製されるマットが硬く、巻きにくい。したがって、前述したような取扱い性に優れ、生産性の向上に寄与することが可能な、ロール状に巻き取られた炭素繊維マットは得られにくい。
【0005】
また、特許文献2には、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維(芯鞘繊維)からなるマットを加熱プレスし、芯鞘繊維の鞘部分を融着させてマットの形態を固定する方法が開示されている。しかし、この方法においても、バインダー繊維の少なくとも鞘部分を溶融させているので、作製されるマットが硬く、巻きにくく、上記同様の問題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−41427号公報
【特許文献2】特開2011−144473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術におけるバインダー繊維の融着による形態固定では実現できなかった、取扱い性に優れ、柔軟なシートとなるためにロール状に巻き取る際に巻き易い炭素繊維マットと、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る炭素繊維マットは、繊維長が5〜50mmの範囲にある炭素繊維と、捲縮を有しており繊維長が10〜100mmの範囲にありナイロン6またはナイロン610のいずれかを含むバインダー繊維からなり、バインダー繊維のガラス転移点+30℃以上、融点−10℃以下の温度での加熱・加圧により形状が固定されており、見かけ密度が0.030〜0.050g/cm3の範囲にあることを特徴とするものからなる。この加熱・加圧は、例えば、バインダー繊維の融点よりも低い温度で加熱・加圧可能なカレンダープレス機を用いて行うことができる。
【0009】
このような本発明に係る炭素繊維マットにおいては、バインダー繊維の融点よりも低い温度で加熱・加圧されているので、バインダー繊維が実質的に溶融せずに繊維形状を維持したままの状態での、形態が固定された炭素繊維マットとなる。バインダー繊維が溶融されないので、つまり、溶融された後固まることはないので、炭素繊維マットとしては十分な柔軟性を保持することができ、巻き取りやすいという取扱い性に優れたマットが実現され、それによって生産性の向上も可能になる。
【0010】
上記本発明に係る炭素繊維マットは、バインダー繊維のガラス転移点+30℃以上、融点−10℃以下の温度での加熱・加圧により形状が固定される。この加熱・加圧のための温度は、より好ましくは、バインダー繊維のガラス転移点+50℃以上、融点−15℃以下の温度であり、さらに好ましくは、バインダー繊維のガラス転移点+80℃以上、融点−25℃以下の温度である。
【0011】
また、上記本発明に係る炭素繊維マットにおいては、炭素繊維マットの見かけ密度が0.030〜0.080g/cm3の範囲にあることが好ましく、より好ましくは、0.030〜0.070g/cm3の範囲、さらに好ましくは、0.035〜0.050g/cm3の範囲であるが、本発明では、本発明におけるバインダー繊維が捲縮を有しておりナイロン6またはナイロン610のいずれかを含むという構成要件を満たす後述の実施例(実施例1〜5)の結果から、炭素繊維マットの見かけ密度を0.030〜0.050g/cm3の範囲に規定している。このように見かけ密度を適切な範囲とすることにより、適切に柔らかいシート状のマットとなり、硬すぎて巻けない問題が解消された、巻き取りやすく取扱い性に優れたロール状の炭素繊維マットを実現可能となる。ただし、見かけ密度が低くなりすぎると、その分シートが厚くなるので、巻き取ることができないか、巻き形状が悪化するという不具合を招く。
【0012】
また、上記バインダー繊維は、捲縮を有している。バインダー繊維が捲縮を有していることにより、炭素繊維との交絡性が向上し、炭素繊維同士をバインダー繊維によって結合しやすくなって、炭素繊維マットの形態固定性が向上する。
【0013】
バインダー繊維の種類としては、特に限定はないが、繊維が熱可塑性樹脂からなることが好ましい。バインダー繊維を構成する熱可塑性樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン410、ナイロン56、ナイロン9T、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリフェニレンサルファイドなどが好ましく用いられる。これらのうち、本発明では、ナイロン6またはナイロン610のいずれかを含むバインダー繊維に限定している。また、バインダー繊維は熱可塑性樹脂単独で構成されていてもよいし、複数の熱可塑性樹脂が混在している状態で構成されていてもよい。例えば、2種以上の熱可塑性樹脂をブレンドしたものや、低融点の熱可塑性樹脂を鞘成分とした芯鞘構造のバインダー繊維であってもよい。
【0014】
また、バインダー繊維の繊維長としては、10〜100mmの範囲にある。より好ましい範囲は、30〜80mmの範囲、さらに好ましい範囲は、38〜76mmの範囲である。バインダー繊維の繊維長が短すぎると、炭素繊維との交絡性が低下してバインダーとしての機能が低くなり、長すぎると、バインダー繊維を均一に分散させにくくなったり、バインダー繊維の混率のコントロールが難しくなったりする。
【0015】
バインダー繊維は、バインダーとしての機能を確保し、かつ、炭素繊維に対して多くなりすぎないようにする観点から、適当な混率で配合されていることが好ましい。バインダー繊維の混率は、1〜50重量%の範囲にあることが好ましく、より好ましい範囲は、5〜40重量%の範囲、さらに好ましい範囲は、10〜30重量%の範囲である。
【0016】
加熱・加圧により形状が固定される前の炭素繊維とバインダー繊維からなるシート状の炭素繊維マットは、例えば、カーディング装置やエアレイド装置によって作製でき、さらにカーディング装置やエアレイド装置によって上記バインダー繊維の混率も調整可能である。
【0017】
ここで、カーディングとは、不連続な繊維の集合体をくし状のもので概略同一方向に力を加えることにより、不連続な繊維の方向を揃えたり、繊維を開繊する操作のことをいう。一般的には針状の突起を表面に多数備えたロール及び/またはのこぎりの刃状の突起を有するメタリックワイヤを巻きつけたロールを有するカーディング装置を用いて行う。かかるカーディングを実施するにあたっては、炭素繊維が折れるのを防ぐ目的で炭素繊維がカーディング装置の中に存在する時間(滞留時間)を短くすることが好ましい。具体的にはカーディング装置のシリンダーロールに巻かれたワイヤー上に存在する炭素繊維をできるだけ短時間でドッファーロールに移行させることが好ましい。したがって、かかる移行を促進するためにシリンダーロールの回転数は、例えば150rpm以上といった高い回転数で回転させることが好ましい。また、同様の理由で、ドッファーロールの表面速度は例えば、10m/分以上といった速い速度が好ましい。
【0018】
カーディング装置としては、特に制限がなく一般的なものを用いることができる。例えば、図1に示すように、カーディング装置1は、シリンダーロール2と、その外周面に近接して上流側に設けられたテイクインロール3と、テイクインロール3とは反対側の下流側においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられたドッファーロール4と、テイクインロール3とドッファーロール4との間においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられた複数のワーカーロール5と、ワーカーロール5に近接して設けられたストリッパーロール6と、テイクインロール3と近接して設けられたフィードロール7及びベルトコンベアー8とから主として構成されている。ベルトコンベアー8上に、例えば不連続な炭素繊維束9とバインダー繊維10が供給され、これらはフィードロール7の外周面、次いでテイクインロール3の外周面を介してシリンダーロール2の外周面上に導入される。この段階までで炭素繊維束は解され、綿状の炭素繊維束の集合体となっている。シリンダーロール2の外周面上に導入された綿状の炭素繊維束の集合体およびバインダー繊維は一部、ワーカーロール5の外周面上に巻き付くが、これはストリッパーロール6によって剥ぎ取られ再びシリンダーロール2の外周面上に戻される。フィードロール7、テイクインロール3、シリンダーロール2、ワーカーロール5、ストリッパーロール6のそれぞれのロールの外周面上には多数の針、突起が立った状態で存在しており、上記工程で炭素繊維束が針の作用により開繊され、炭素繊維とバインダー繊維の集合体の1形態であるシート状のウエブ11としてドッファーロール4の外周面上に移動する。このシート状のウエブ11に対して、本発明における所定の加熱・加圧が行われ、溶融されないバインダー繊維によって炭素繊維マットの形状が固定される。
【0019】
本発明において使用される炭素繊維は、特に限定されないが、高強度、高弾性率炭素繊維が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が挙げられる。本発明に係る炭素繊維マットを用いて得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。炭素繊維の密度は、1.65〜1.95g/cmのものが好ましく、さらには1.70〜1.85g/cmのものがより好ましい。密度が大きすぎるものは得られる炭素繊維強化樹脂成形品の軽量性能に劣り、小さすぎるものは、得られる炭素繊維強化樹脂成形品の機械特性が低くなる場合がある。
【0020】
また、エアレイドとは短繊維の不織布シートの製造方法であり、不連続な繊維の集合体を空気の流れに乗せて均一分散させ、それを金網上に降らせて吸引捕集し、シート状の不織布を得る操作のことをいう。本発明においてエアレイド装置としては、特に制限がなく一般的なものを用いることができる。
【0021】
次にエアレイドについて説明するに、一般的なエアレイド法としては、本州製紙法、クロイヤー法、ダンウェブ法、J&J法、KC法、スコット法などが挙げられる(以上、不織布の基礎と応用(日本繊維機械学会不織布研究会 1993年刊)を参照)。
【0022】
例えば、図2に示すように、エアレイド装置12は、互いに逆回転する円筒状でかつ細孔を持つドラム13と各ドラム13内に設置されたピンシリンダー14を有し、多量の空気と共に炭素繊維束単体もしくは炭素繊維束と熱可塑性樹脂繊維がドラム13に風送され、ドラム13内のピンシリンダー14によって開繊され、細孔より排出されて、その下を走行するワイヤ15上に落下する。ここで風送に用いた空気はワイヤ15下に設置されたサクションボックス16に吸引され、開繊された炭素繊維束単体もしくは開繊された炭素繊維束と熱可塑性樹脂繊維のみワイヤ15上に残り、炭素繊維シートを形成する。
【0023】
また、得ようとする炭素繊維強化樹脂成形品における炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性を向上する等の目的で炭素繊維には表面処理を施しておくこともできる。表面処理の方法としては,電解処理、オゾン処理、紫外線処理等がある。また、炭素繊維の毛羽立ちを防止したり、炭素繊維の収束性を向上させたり、成形品における炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上する等の目的で炭素繊維にサイジング剤が付与されていてもかまわない。サイジング剤としては、特に限定されないが、エポキシ基、ウレタン基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基を有する化合物が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。
【0024】
また、本発明に係る炭素繊維マットにおける炭素繊維の繊維長としては、5〜50mmの範囲にある。より好ましくは10〜40mmの範囲、さらに好ましくは15〜35mmの範囲である。炭素繊維の繊維長が短すぎると、シート状の炭素繊維マットの形態を保持しにくくなり、長すぎると、バインダー繊維を均一に分散させにくくなる。
【0025】
本発明は、繊維長が5〜50mmの範囲にある炭素繊維と、捲縮を有しており繊維長が10〜100mmの範囲にありナイロン6またはナイロン610のいずれかを含むバインダー繊維からなる炭素繊維マットを、バインダー繊維のガラス転移点+30℃以上、融点−10℃以下の温度で加熱・加圧して形状を固定し、見かけ密度が0.030〜0.050g/cm3の範囲にある炭素繊維マットを製造することを特徴とする炭素繊維マットの製造方法についても提供する。加熱・加圧のための温度は、好ましくは、バインダー繊維のガラス転移点+50℃以上、融点−15℃以下の温度であり、より好ましくは、バインダー繊維のガラス転移点+80℃以上、融点−25℃以下の温度である。
【0026】
本発明の炭素繊維マットを加熱・加圧する装置としては特に限定されず、加熱・加圧により形状を固定できる機能を有するものであれば一般的な加熱・加圧装置を使用することができる。例えば、バッチ式のプレス装置でもよいし、カレンダーロールプレス機やラミネートプレス機のような連続式のプレス装置でもよい。
【発明の効果】
【0027】
このように、本発明に係る炭素繊維マットおよびその製造方法によれば、炭素繊維マットを積層したりする際等に破れたりすることがなく、シート状の炭素繊維マットが柔軟であるためにロール状に巻き取りやすいといった取扱い性や生産性に優れた炭素繊維マットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明において加熱・加圧前の炭素繊維マットを作製するためのカーディング装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明において加熱・加圧前の炭素繊維マットを作製するためのエアレイド装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明に係る炭素繊維マットおよびその製造方法を実施例、比較例に基づいて説明する。まず、実施例、比較例において用いた物性と特性の測定、評価方法について説明する。
【0030】
(1)見かけ密度
得られた炭素繊維マットを30cm角に切出し、定規やノギス等で縦、横、高さを測定して体積を算出し、炭素繊維マットの重量を測定して、これを体積で除して求め、これを5つのサンプルで行って単純平均したものを本発明における見かけ密度とした。
【0031】
(2)巻取り性の評価
加熱プレス後の炭素繊維マットの取扱い性が良好で、かつ紙管への巻き取り時の巻き形状に優れるものを○、炭素繊維マットを引っ張ると少し伸びたりして取扱い性が若干悪いが、紙管への巻取り時の巻き形状は問題ないものを△、炭素繊維マットを引っ張ると大きく伸びたり破れたりするものや、紙管への巻取り時の巻き形状が悪いものを×とした。なお、○と△と判定したものを合格とし、×を不合格とした。
【実施例】
【0032】
実施例1
東レ(株)製の炭素繊維束(T700SC−12k)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束とナイロン6短繊維(短繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm、捲縮数12山/25mm、捲縮率15%、融点225℃、ガラス転移点48℃)を質量比で90:10の割合で混合し、カーディング装置に投入した。カーディング装置から出てきたウェブをクロスラップし、炭素繊維とナイロン6繊維とからなる幅1.5m、目付100g/cm2のシートを作製した。得られたシートをカレンダーロールプレス機(上下ロールとも鏡面金属製のもの)にて荷重6t、クリアランス100μm、送り速度0.5m/分、ロール温度180℃にてプレスして紙管に巻き取り、炭素繊維マットを得た。得られた炭素繊維マットの見かけ密度は0.044g/cmであった。また、得られた炭素繊維マットは加熱、加圧によって形態固定されているため取扱性に優れ、シートに張力が多少かかっても破れたりはせず、紙管への巻取りもスムーズに行え、巻き形状もきれいな仕上がりであった。結果を、以下の実施例、比較例とともに表1にまとめて示す。
【0033】
実施例2
炭素繊維束とナイロン短繊維の混率を質量比で80:20にした以外は実施例1と同様にして炭素繊維とナイロン6繊維とからなる幅1.5m、目付100g/cm2のシートを作製した。得られたシートを送り速度を1.0m/分、ロール温度を200℃とする以外は実施例1と同様にしてプレスして紙管に巻き取り、炭素繊維マットを得た。得られた炭素繊維マットの見かけ密度は0.042g/cmであった。また、得られた炭素繊維マットは加熱、加圧によって形態固定されているため取扱性に優れ、シートに張力が多少かかっても破れたりはせず、紙管への巻取りもスムーズに行え、巻き形状もきれいな仕上がりであった。
【0034】
実施例3
炭素繊維束の繊維長を50mm、ナイロン6短繊維の繊維長を38mmとした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維とナイロン6繊維とからなる幅1.5m、目付100g/cm2のシートを作製した。得られたシートをロール温度を100℃、送り速度を2m/分とする以外は実施例1と同様にしてプレスして紙管に巻き取り、炭素繊維マットを得た。得られた炭素繊維マットの見かけ密度は0.039g/cmであった。また、得られた炭素繊維マットは加熱、加圧によって形態固定されているため取扱性に優れ、シートに張力が多少かかっても破れたりはせず、紙管への巻取りもスムーズに行え、巻き形状もきれいな仕上がりであった。
【0035】
実施例4
炭素繊維束の繊維長を25mm、ナイロン6短繊維の繊維長を76mmとした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維とナイロン6繊維とからなる幅1.5m、目付100g/cm2のシートを作製した。得られたシートをロール温度を150℃とする以外は実施例1と同様にしてプレスして紙管に巻き取り、炭素繊維マットを得た。得られた炭素繊維マットの見かけ密度は0.035g/cmであった。また、得られた炭素繊維マットは加熱、加圧によって形態固定されていたが、シートに張力がかかると若干炭素繊維マットが伸びる傾向が見られたが、紙管への巻取りもスムーズに行え、巻き形状もきれいな仕上がりであった。
【0036】
実施例5
東レ(株)製の炭素繊維束(T700SC−12k)を繊維長10mmにカットし、カットした炭素繊維束とナイロン610短繊維(短繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm、捲縮数12山/25mm、捲縮率15%、融点225℃、ガラス転移点50℃)を質量比で70:30の割合で混合し、カーディング装置に投入した。カーディング装置から出てきたウェブをクロスラップし、炭素繊維とナイロン610繊維とからなる幅1.5m、目付100g/cm2のシートを作製した。得られたシートをロール温度を120℃とする以外は実施例1と同様にしてプレスして紙管に巻き取り、炭素繊維マットを得た。得られた炭素繊維マットの見かけ密度は0.032g/cmであった。また、得られた炭素繊維マットは加熱、加圧によって形態固定されていたが、シートに張力がかかると若干炭素繊維マットが伸びる傾向が見られたが、紙管への巻取りもスムーズに行え、巻き形状もきれいな仕上がりであった。
【0037】
参考実施例6
東レ(株)製の炭素繊維束(T700SC−12k)を繊維長10mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリフェニレンサルファイド(PPS)短繊維(短繊維繊度2.0dtex、繊維長51mm、捲縮数12山/25mm、捲縮率15%、融点280℃、ガラス転移点90℃)を質量比で90:10の割合で混合し、カーディング装置に投入した。出てきたウェブをクロスラップし、炭素繊維とPPS繊維とからなる幅1.5m、目付100g/cm2のシートを作製した。得られたシートをロール温度を240℃とする以外は実施例1と同様にしてプレスして紙管に巻き取り、炭素繊維マットを得た。得られた炭素繊維マットの見かけ密度は0.054g/cmであった。また、得られた炭素繊維マットは加熱、加圧によって形態固定されているため取扱性に優れ、シートに張力が多少かかっても破れたりはせず、紙管への巻取りもスムーズに行え、巻き形状もきれいな仕上がりであった。
【0038】
参考実施例7
東レ(株)製の炭素繊維束(T700SC−12k)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリアミド(ナイロン6)短繊維(単繊維繊度1.7dtexの長繊維を繊維長5mmでカットしたもの)を質量比で90:10の割合で混合し、図2に示したようなエアレイド装置に投入し、炭素繊維とナイロン6繊維とからなる目付100g/m2のシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシートを、ロール温度を210℃とする以外は実施例1と同様にしてプレスして紙管に巻き取り、炭素繊維マットを得た。得られた炭素繊維マットの見かけ密度は0.061g/cmであった。また、得られた炭素繊維マットは加熱、加圧によって形態固定されているため取扱性に優れ、シートに張力が多少かかっても破れたりはせず、紙管への巻取りもスムーズに行え、巻き形状もきれいな仕上がりであった。
【0039】
比較例1
実施例1で得られたシートをロール温度を250℃としてプレスする以外は実施例1と同様にして炭素繊維マットを得た。得られた炭素繊維マットの見かけ密度は0.089g/cmであった。また、得られた炭素繊維マットはバインダー繊維の融点(225℃)以上の温度で加熱、加圧して形態固定されているため取扱性に優れるものの、バインダー繊維が融解しているため、シートが剛直になって紙管への巻取りがスムーズに行えず、巻き形状も良くないものであった。
【0040】
比較例2
実施例1で得られたシートをロール温度を40℃としてプレスする以外は実施例1と同様にして炭素繊維マットを得た。得られた炭素繊維マットの見かけ密度は0.029g/cmであった。また、得られた炭素繊維マットはバインダー繊維のガラス転移点(48℃)以下の温度で加熱、加圧しているために形態固定効果が不十分であり、シートが破れやすく紙管への巻取りがスムーズに行えず、巻き形状も良くないものであった。
【0041】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る炭素繊維マットおよびその製造方法は、炭素繊維マットを使用するあらゆる炭素繊維強化樹脂の成形に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 カーディング装置
2 シリンダーロール
3 テイクインロール
4 ドッファーロール
5 ワーカーロール
6 ストリッパーロール
7 フィードロール
8 ベルトコンベアー
9 不連続な炭素繊維
10 バインダー繊維
11 シート状のウエブ
12 エアレイド装置
13 ドラム
14 ピンシリンダー
15 ワイヤ
16 サクションボックス
図1
図2