(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたピストンでは、内燃機関内に配置された状態で、継続して所定期間摺動することによりピストンに形成された潤滑被膜が劣化して剥離し、その潤滑被膜の剥離後には、内燃機関に供給されるオイルのみで、ピストンの表面での摩擦力の上昇を抑制する必要がある。この際、オイルの粘度が低い場合や、オイルが十分に供給されない場合などには、ピストンの表面にオイルを十分に保持することができないことに起因して、ピストンの表面で大きな摩擦力が生じてしまうという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、摺動部品本体に形成された被覆層が剥離した後であっても、摺動部品本体の表面において生じる摩擦力を小さくすることが可能な内燃機関用摺動部品およびその内燃機関用摺動部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の局面における内燃機関用摺動部品は、内燃機関に用いられ、所定部分に形成された複数の凹部を含む摺動部品本体と、摺動部品本体の複数の凹部以外の部分を覆うように形成された被覆層とを備え
、被覆層は、複数の凹部に対応する部分にそれぞれ設けられ、複数の凹部の表面を露出させる複数の孔部を含み、被覆層の孔部と、摺動部品本体の凹部との両方により、油溜まりが構成され、被覆層の孔部の内周面の内径は、摺動部品本体の凹部の開口端縁の内径よりも大きく形成されるとともに、孔部および凹部は、孔部および凹部の各開口端縁から深さ方向に向かうにつれて内径が徐々に小さくなるように形成されている。
【0008】
この発明の第1の局面における内燃機関用摺動部品では、上記のように、摺動部品本体の所定部分に複数の凹部を設けることによって、たとえ摺動部品本体に形成された被覆層が剥離した後であっても、複数の凹部を内燃機関に供給されるオイルを溜める油溜まりとして用いることができるので、摺動部品本体の表面のオイルが不足したとしても、複数の凹部に溜められたオイルを摺動部品本体の表面に供給することができる。これにより、摺動部品本体の表面にオイルを十分に保持させることができるので、摺動部品本体の表面において生じる摩擦力を小さくすることができる。
【0009】
また、第1の局面における内燃機関用摺動部品では、被覆層を摺動部品本体に形成することによって、被覆層が剥離する前に、内燃機関用摺動部品の表面(被覆層の外表面)において大きな摩擦力が生じるのを抑制することができる。さらに、被覆層を摺動部品本体の複数の凹部以外の部分を覆うように形成することによって、被覆層が剥離する前においても、複数の凹部を油溜まりとして用いることができるとともに、複数の凹部を各々埋めるように被覆層が形成されないことにより、凹部内の被覆層に起因して各々の凹部の容量が小さくなるのを抑制することができる。これにより、複数の凹部にオイルを十分に溜めることができ、その結果、内燃機関用摺動部品の表面にオイルを十分に保持させることができるので、内燃機関用摺動部品の表面において生じる摩擦力を小さくすることができる。これらの結果、被覆層が剥離する前後の両方において、摩擦力の増大に起因する内燃機関の温度上昇による焼き付きおよびエネルギーの損失を共に抑制することができるので、内燃機関の性能を向上させることができる。
【0010】
また、内燃機関用摺動部品において複数の凹部を各々埋めるように被覆層が形成された場合には、内燃機関用摺動部品が内燃機関内で摺動した際に、凹部を埋める被覆層はあまり削り取られない一方、摺動部品本体の表面に位置する被覆層は削り取られる。このため、内燃機関用摺動部品の表面の凹凸が徐々になくなることに起因して、内燃機関用摺動部品の表面が略平面になり、オイルを十分に溜めることができなくなる。一方、第1の局面における内燃機関用摺動部品では、複数の凹部を各々埋めるように被覆層が形成されないことにより、被覆層の一部が削り取られたとしても凹部自体の容量には影響がないので、オイルを十分に溜めることができなくなるのを抑制することができる。
【0011】
また、被覆層が複数の孔部が形成されるように摺動部品本体の複数の凹部以外の部分を覆うことによって、複数の凹部に対応する位置にそれぞれ複数の孔部が形成されずに被覆層が摺動部品本体の一部だけを島状に覆うような場合と比べて、被覆層を摺動部品本体のより広範囲に配置することができるので、内燃機関用摺動部品の表面(被覆層の外表面)において大きな摩擦力が生じるのをより抑制することができる。
【0012】
また、摺動部品本体の凹部に加えて被覆層の孔部も油溜まりとして用いることにより、オイルをより十分に溜めることができる。これにより、被覆層が剥離する前において、内燃機関用摺動部品の表面にオイルをより十分に保持させることができるので、内燃機関用摺動部品の表面において生じる摩擦力をより小さくすることができる。また、被覆層の孔部に溜められたオイルにより、摺動対象(摺動部品本体が摺動する対象)に対して孔部の開口端縁(角部)に位置する被覆層が直接的に接触するのを抑制することができるので、被覆層が孔部の開口端縁から剥離するのを抑制することができる。
また、開口端縁の内径よりも大きな内径を有する被覆層の孔部により、摺動部品本体の凹部の表面を容易に露出させることができるので、被覆層が剥離する前に複数の凹部を油溜まりとして確実に用いることができる。
【0013】
上記被覆層が複数の孔部を含む構成において、好ましくは、被覆層の孔部の内周面と、摺動部品本体の凹部の開口端縁とは、孔部の中心線の延びる方向から見て、同心円状に形成されている。このように構成すれば、複数の孔部を介して複数の凹部の表面をより確実に露出させることができるので、被覆層が剥離する前に複数の凹部を油溜まりとして確実に用いることができる。
【0015】
上記被覆層が複数の孔部を含む構成において、好ましくは、被覆層の複数の孔部および摺動部品本体の複数の凹部は、予め設定された所定のパターンで配置されている。このように構成すれば、被覆層の複数の孔部または摺動部品本体の複数の凹部がランダムに形成されている場合と異なり、油溜まりとして用いられる複数の凹部の位置がばらつくのを抑制することができるので、摺動部品本体の表面のオイルが不均一になるのを抑制することができる。これにより、摺動部品本体の表面のうち、オイルが不足する部分が生じるのを抑制することができるので、摺動部品本体の表面において生じる摩擦力をより小さくすることができる。
【0016】
上記被覆層が複数の孔部を含む構成において、好ましくは、被覆層の孔部以外の部分の外表面は、平坦面状に形成されている。このように構成すれば、被覆層の外表面が凹凸形状を有している場合と比べて、オイルを介して内燃機関用摺動部品と摺動対象とが対向する際の対向面積をより大きくすることができるので、内燃機関用摺動部品のうち、摺動対象と対向する部分に加えられる面圧が大きくなるのを抑制することができる。これにより、内燃機関用摺動部品の表面において生じる摩擦力が大きくなるのを効果的に抑制することができる。
【0017】
上記第1の局面における内燃機関用摺動部品において、好ましくは、隣接する凹部間の間隔は、凹部の開口端縁の開口幅よりも大きい。このように構成すれば、隣接する凹部間の間隔が小さくなるのを抑制することができるので、摺動部品本体の表面に凹部以外の部分を十分に確保することができる。これにより、被覆層が剥離した後において、オイルを介した摺動部品本体と摺動対象との対向面積を十分に確保することができるので、摺動部品本体のうち、摺動対象と対向する部分に加えられる面圧が大きくなるのを抑制することができる。この結果、摺動部品本体の表面において生じる摩擦力が大きくなるのを抑制することができる。
【0018】
上記第1の局面における内燃機関用摺動部品において、好ましくは、被覆層は、樹脂から構成されている。このように構成すれば、樹脂材料を塗布することなどにより、平坦面状の外表面を有する被覆層を容易に形成することができるので、内燃機関用摺動部品の表面において生じる摩擦力が大きくなるのを抑制することができる。
【0019】
上記第1の局面における内燃機関用摺動部品において、好ましくは、摺動部品本体は、ピストン本体を含み、摺動部品本体の所定部分は、少なくともピストン本体の摺動部分を含む。このように構成すれば、たとえピストン本体に形成された被覆層が剥離した後であっても、複数の凹部を内燃機関に供給されるオイルを溜める油溜まりとして用いることができるので、ピストン本体の摺動部分の表面にオイルを十分に保持させることができ、その結果、ピストン本体の表面において生じる摩擦力を小さくすることができる。
【0020】
この発明の第2の局面における内燃機関用摺動部品の製造方法は、摺動部品本体を準備する工程と、摺動部品本体の所定部分の表面に被覆層を形成する工程と、被覆層に対して、短パルスのレーザー光を所定の照射条件で照射することによって、レーザーアブレーション処理により、被覆層に
深さ方向に向かうにつれて内径が徐々に小さくなる複数の孔部を形成するとともに、摺動部品本体の複数の孔部に対応する部分にそれぞれ
深さ方向に向かうにつれて内径が徐々に小さくなる複数の凹部を形成する工程とを備える。
【0021】
この発明の第2の局面における内燃機関用摺動部品の製造方法では、上記のように、摺動部品本体の所定部分に複数の凹部を設けることによって、たとえ摺動部品本体に形成された被覆層が剥離した後であっても、複数の凹部を内燃機関に供給されるオイルを溜める油溜まりとして用いることができるので、摺動部品本体の表面のオイルが不足したとしても、複数の凹部に溜められたオイルを摺動部品本体の表面に供給することができる。これにより、摺動部品本体の表面にオイルを十分に保持させることができるので、摺動部品本体の表面において生じる摩擦力を小さくすることができる。
【0022】
また、内燃機関用摺動部品の製造方法では、摺動部品本体の所定部分の表面に被覆層を形成することによって、被覆層が剥離する前に、内燃機関用摺動部品の表面(被覆層の外表面)において大きな摩擦力が生じるのを抑制することができる。さらに、レーザーアブレーション処理により、被覆層に複数の孔部を形成するとともに、摺動部品本体の複数の孔部に対応する部分にそれぞれ複数の凹部を形成する。これにより、被覆層が剥離する前においても、複数の凹部を油溜まりとして用いることができるとともに、摺動部品本体に複数の凹部を形成した後に、被覆層を摺動部品本体の複数の凹部を埋めるように形成する場合と異なり、凹部内の被覆層に起因して各々の凹部の容量が小さくなるのを抑制することができる。これにより、複数の凹部にオイルを十分に溜めることができ、その結果、内燃機関用摺動部品の表面にオイルを十分に保持させることができるので、内燃機関用摺動部品の表面において生じる摩擦力を小さくすることができる。これらの結果、被覆層が剥離する前後の両方において、摩擦力の増大に起因する内燃機関の温度上昇による焼き付きおよびエネルギーの損失を共に抑制することができるので、内燃機関の性能を向上させることができる。
【0023】
また、摺動部品本体に複数の凹部を形成した後に、被覆層を摺動部品本体の複数の凹部を埋めるように形成することにより内燃機関用摺動部品を製造した場合には、内燃機関用摺動部品が内燃機関内で摺動した際に、凹部を埋める被覆層はあまり削り取られない一方、摺動部品本体の表面に位置する被覆層は削り取られる。このため、内燃機関用摺動部品の表面の凹凸が徐々になくなることに起因して、内燃機関用摺動部品の表面が略平面になり、オイルを十分に溜めることができなくなる。一方、第2の局面における内燃機関用摺動部品の製造方法では、レーザーアブレーション処理により、被覆層に複数の孔部を形成するとともに、摺動部品本体の複数の孔部に対応する部分にそれぞれ複数の凹部を形成することにより、複数の凹部を各々埋めるように被覆層が形成されないので、被覆層が削り取られたとしても凹部自体の容量には影響がない。これにより、オイルを十分に溜めることができなくなるのを抑制することができる。
【0024】
また、第2の局面における内燃機関用摺動部品の製造方法では、上記のように、短パルスのレーザー光を一度照射することにより、被覆層の孔部だけでなく、摺動部品本体の凹部も同時に形成することができるので、凹部と孔部とをそれぞれ別途に形成する場合と比べて、マスクや保護膜などを形成する必要ない。これにより、内燃機関用摺動部品の製造プロセスを簡略化することができる。また、複数の孔部に対応する位置にそれぞれ複数の凹部が形成されることによって、複数の孔部に対応する位置にそれぞれ複数の凹部が形成されずに被覆層が摺動部品本体の一部だけを島状に覆うような場合と比べて、被覆層を摺動部品本体のより広範囲に配置することができるので、内燃機関用摺動部品の表面(被覆層の外表面)において大きな摩擦力が生じるのをより抑制することができる。
【0025】
さらに、第2の局面における内燃機関用摺動部品の製造方法では、上記のように、レーザーアブレーション処理により、被覆層に複数の孔部を形成するとともに、摺動部品本体の複数の孔部に対応する部分にそれぞれ複数の凹部を形成する。これにより、各々の孔部および凹部を形成する際のレーザー光の照射量や照射位置(ピッチ)を容易に略均一にすることができるので、粒子を高速で噴射して表面に孔部や凹部を形成する処理(ショット処理)を行う場合と比べて、孔部および凹部の内径や形成位置が不規則になるのを抑制することができるとともに、粒子が噴射されることに起因して内燃機関用摺動部品自体の大きさ(外径など)がばらつくのを抑制することができる。この結果、内燃機関用摺動部品を精度よく形成することができる。
【0026】
なお、本出願では、上記第1の局面による内燃機関用摺動部品では、以下のような構成も考えられる。
【0027】
(付記項)
すなわち、本出願の第1の局面による内燃機関用摺動部品において、好ましくは、被覆層は、複数の凹部に対応する部分にそれぞれ設けられ、複数の凹部の表面を露出させる複数の孔部を含み、隣接する孔部間の間隔は、凹部の開口端縁の開口幅以上である。このように構成すれば、隣接する孔部間の間隔が小さくなるのを抑制することができるので、被覆層の表面に孔部以外の部分の領域を十分に確保することができる。これにより、オイルを介した内燃機関用摺動部品(被覆層)と摺動対象との対向面積を十分に確保することができるので、被覆層のうち、摺動対象と対向する部分に加えられる面圧が大きくなるのを抑制することができる。この結果、内燃機関用摺動部品の表面において生じる摩擦力が大きくなるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、上記のように、摺動部品本体に形成された被覆層が剥離した後であっても、摺動部品本体の表面において生じる摩擦力を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0031】
図1〜
図6を参照して、本発明の一実施形態によるピストン100の構成について説明する。なお、ピストン100は、本発明の「内燃機関用摺動部品」の一例である。
【0032】
本発明の一実施形態によるピストン100は、図示しない車両の内燃機関(エンジン)に用いられる機械部品である。このピストン100は、
図1に示すように、アルミニウム合金の鋳物からなるピストン本体1と、二硫化モリブデンの粒子を含むポリアミドイミド樹脂などの、耐熱性を有する熱硬化性樹脂により構成された樹脂層2とを備えている。また、樹脂層2は、ピストン本体1のスカート部11に形成されている。なお、スカート部11は、ピストン本体1の側部のうち、シリンダ101の内周面101a(
図4〜
図6参照)に対して摺動する位置に位置している。また、ピストン本体1は、本発明の「摺動部品本体」の一例であり、スカート部11は、本発明の「所定部分」および「摺動部分」の一例である。また、樹脂層2は、本発明の「被覆層」の一例である。
【0033】
また、ピストン本体1のスカート部11には、
図2に示すように、略円形の開口端縁12aを有する複数の凹部12が形成されている。この複数の凹部12は、約40μm以上約240μm以下のピッチL1を隔ててX方向およびZ方向(面内方向)に並ぶように、予め設定された規則的なパターンで設けられている。また、複数の凹部12は、
図3に示すように、各々略逆円錐形状に形成されており、開口端縁12aから深さ方向(Y方向)に向かうにつれて、凹部12の表面12bの内径が徐々に小さくなるように形成されている。
【0034】
また、凹部12の開口端縁12aの開口幅(内径)D1は、凹部12のピッチL1よりも小さく、かつ、約10μm以上約60μm以下である。なお、開口幅D1は約20μm以上約30μm以下であるのが好ましく、その場合、凹部12のピッチL1は、約80μm以上約100μm以下であるのが好ましい。また、隣接する凹部12の間隔L2は、凹部12の開口端縁12aの開口幅D1よりも大きくなるように構成されている。また、凹部12のY方向の深さL3は約7μm以上約200μm以下である。
【0035】
また、凹部12の開口端縁12aには、バリ(凹部12の開口端縁12aから上方(Y1側)に突出するような突起)がほとんど形成されていない。また、ピストン本体1のスカート部11のうち、複数の凹部12が形成された領域以外の表面11aは、Ra(算術平均粗さ)が約0.3μm以下になるように研磨されている。つまり、複数の凹部12が形成された領域以外の表面11aは、鏡面になるように研磨されている。
【0036】
ここで、本実施形態では、スカート部11の表面11a上に形成された樹脂層2には、略円形の開口端縁(角部)21aを有し、樹脂層2をY方向に貫通する複数の孔部21が形成されている。この複数の孔部21は、複数の凹部12に対応する部分にそれぞれ設けられており、その結果、ピストン本体1の複数の凹部12の表面12bが、各々対応する複数の孔部21から露出している。また、複数の孔部21は、複数の凹部12と同様に、ピッチL1を隔ててX方向およびZ方向に並ぶように、予め設定された規則的なパターンで設けられている。
【0037】
また、本実施形態では、対応する凹部12と孔部21とは、後述するレーザーアブレーション処理によって同時に形成されている。これにより、孔部21の内周面21bと、対応する凹部12の開口端縁12aとは、孔部21の中心線Aの延びる深さ方向(Y方向)から見て、中心が略一致した略円形状(同心円状)になるように形成されている。さらに、対応する凹部12と孔部21とは、共通の中心線Aを有するように形成されている。
【0038】
また、複数の孔部21は、各々略逆円錐台形状に形成されており、樹脂層2の上面2a側(Y1側)から下面2b側(Y2側)に向かうにつれて、孔部21の内周面21bの内径が徐々に小さくなるように形成されている。また、下面2b側の内周面21bの内径D2および上面2a側の内周面21b(開口端縁21a)の内径D3は、共に、凹部12の開口端縁12aの開口幅(内径)D1よりも大きくなるように形成されている。
【0039】
また、上面2a側の内周面21bの内径D3は、隣接する孔部21のピッチL1よりも小さく、かつ、約35μm以上約65μm以下である。また、隣接する孔部21の間隔L4は、凹部12の開口端縁12aの開口幅D1以上であるのが好ましい。また、孔部21のY方向の深さ(樹脂層2の厚みt1)は約5μm以上約17μm以下である。
【0040】
また、樹脂層2は、スカート部11の表面11aのうち、複数の凹部12以外の部分を覆うように形成されている。また、樹脂層2の上面2aは、外側(Y1側)に露出しているとともに、平坦面状に形成されている。なお、上面2aは、本発明の「外表面」の一例である。
【0041】
また、
図4に示すように、ピストン100の初期使用時から樹脂層2の剥離前においては、凹部12と孔部21との両方により、内燃機関(エンジン)に供給されるオイルが一時的に溜められる油溜まり3が形成されている。つまり、凹部12の油溜まり3aと孔部21の油溜まり3bとにより、油溜まり3が構成されている。これにより、内燃機関にオイルが十分に供給されない場合が生じたとしても、油溜まり3に溜められたオイルが樹脂層2の上面2a上に供給されて、オイルを介してシリンダ101とピストン100(樹脂層2)とが対向することによって、シリンダ101と樹脂層2とが直接的に接触するのが抑制されている。さらに、油溜まり3の全体にオイルが溜められている状態においては、孔部21の油溜まり3bに溜められたオイルにより、樹脂層2の上面2a(Y1側)における内周面21b(開口端縁21a)にシリンダ101が直接的に接触するのが抑制されるように構成されている。
【0042】
また、
図5に示すように、図示しない内燃機関において継続して所定期間摺動されることにより、樹脂層2のシリンダ101側の一部が剥離した後においても、凹部12と孔部21との両方により、内燃機関(エンジン)に供給されるオイルが一時的に溜められる油溜まり3が保持されている。なお、孔部21は、樹脂層2のシリンダ101側の一部が剥離したことによって、初期使用時よりも小さくなっているものの、凹部12自体の容量には変化がない。このため、樹脂層2の一部が剥離した場合であっても、油溜まり3にオイルが十分に溜められる。
【0043】
また、
図6に示すように、図示しない内燃機関においてさらに継続して所定期間摺動されることにより、樹脂層2が劣化して、樹脂層2が剥離した後においては、凹部12により油溜まり3aが形成されるように構成されている。これにより、内燃機関にオイルが十分に供給されない場合が生じたとしても、油溜まり3aに溜められたオイルがピストン本体1の表面11a上に供給されて、オイルを介してシリンダ101とピストン本体1とが対向することによって、シリンダ101とピストン本体1とが直接的に接触するのが抑制されている。
【0044】
上記実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0045】
本実施形態では、上記のように、ピストン本体1のスカート部11に複数の凹部12を設けることによって、たとえピストン本体1に形成された樹脂層2が剥離した後であっても、複数の凹部12を内燃機関(エンジン)に供給されるオイルを溜める油溜まり3aとして用いることができるので、ピストン本体1の表面11aのオイルが不足したとしても、複数の凹部12に溜められたオイルをピストン本体1の表面11aに供給することができる。これにより、ピストン本体1の表面11aにオイルを十分に保持させることができるので、ピストン本体1の表面11aにおいて生じる摩擦力を小さくすることができる。
【0046】
また、本実施形態では、樹脂層2をピストン本体1に形成することによって、樹脂層2が剥離する前に、ピストン100の表面(樹脂層2の上面2a)において大きな摩擦力が生じるのを抑制することができる。さらに、樹脂層2を、スカート部11の表面11aのうち、複数の凹部12以外の部分を覆うように形成することによって、樹脂層2が剥離する前においても、複数の凹部12を油溜まりとして用いることができるとともに、複数の凹部12を各々埋めるように樹脂層2が形成されないことにより、凹部12内の樹脂層に起因して各々の凹部12の容量が小さくなるのを抑制することができる。これらにより、複数の凹部12にオイルを十分に溜めることができ、その結果、ピストン100の上面2aにオイルを十分に保持させることができるので、ピストン100の上面2aにおいて生じる摩擦力を小さくすることができる。これらの結果、樹脂層2が剥離する前後の両方において、摩擦力の増大に起因する内燃機関の温度上昇による焼き付きおよびエネルギーの損失を共に抑制することができるので、内燃機関の性能を向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態では、複数の凹部12を各々埋めるように樹脂層2が形成されないことにより、被覆層2の一部が削り取られたとしても凹部12自体の容量には影響がないので、油溜まり3(3a)にオイルを十分に溜めることができなくなるのを抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態では、ピストン本体1の複数の凹部12の表面12bが各々対応する複数の孔部21から露出するように、樹脂層2に複数の孔部21を設けることによって、複数の孔部21に対応する位置にそれぞれ複数の凹部12が形成されずに樹脂層2がピストン本体1の一部だけを島状に覆うような場合と比べて、樹脂層2をピストン本体1のより広範囲に配置することができるので、ピストン100の上面2aにおいて大きな摩擦力が生じるのをより抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態では、ピストン100の初期使用時から樹脂層2の剥離前において、凹部12と孔部21との両方により、内燃機関(エンジン)に供給されるオイルが一時的に溜められる油溜まり3が形成されるように構成する。これにより、ピストン本体1の凹部12に加えて樹脂層2の孔部21も油溜まり3として用いることにより、オイルをより十分に溜めることができる。これにより、樹脂層2が剥離する前において、ピストン100の上面2aにオイルをより十分に保持させることができるので、ピストン100の上面2aにおいて生じる摩擦力をより小さくすることができる。また、樹脂層2の孔部21の油溜まり3bに溜められたオイルにより、シリンダ101に対して孔部21の開口端縁(角部)21aに位置する樹脂層2が直接的に接触するのを抑制することができるので、樹脂層2が孔部21の開口端縁21aから剥離するのを抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態では、孔部21の内周面21bと、対応する凹部12の開口端縁12aとを、孔部21の中心線Aの延びる深さ方向(Y方向)から見て、中心が略一致した略円形状(同心円状)になるように形成する。これにより、複数の孔部21を介して複数の凹部12の表面12bをより確実に露出させることができるので、樹脂層2が剥離する前に複数の凹部12を油溜まり3aとして確実に用いることができる。
【0051】
また、本実施形態では、下面2b側の内周面21bの内径D2および上面2a側の内周面21b(開口端縁21a)の内径D3を、共に、凹部12の開口端縁12aの開口幅(内径)D1よりも大きくなるように形成する。これにより、開口端縁12aの開口幅D1よりも大きな内径を有する樹脂層2の孔部21により、ピストン本体1の凹部12の表面12bを容易に露出させることができるので、樹脂層2が剥離する前に複数の凹部12を油溜まり3aとして確実に用いることができる。
【0052】
また、本実施形態では、複数の凹部12および複数の孔部21を、ピッチL1を隔ててX方向およびZ方向に並ぶように、予め設定された規則的なパターンで設けることによって、樹脂層2の複数の孔部21またはピストン本体1の複数の凹部12がランダムに形成されている場合と異なり、油溜まり3aとして用いられる複数の凹部12の位置がばらつくのを抑制することができるので、ピストン本体1の表面11a(またはピストン100の上面2a)のオイルが不均一になるのを抑制することができる。これにより、ピストン本体1の表面11a(またはピストン100の上面2a)のうち、オイルが不足する部分が生じるのを抑制することができるので、ピストン本体1の表面11a(またはピストン100の上面2a)において生じる摩擦力をより小さくすることができる。
【0053】
また、本実施形態では、複数の孔部21以外の部分において外側(Y1側)に露出する樹脂層2の上面2aを平坦面状に形成することによって、樹脂層2の上面2aが凹凸形状を有している場合と比べて、オイルを介してピストン100とシリンダ101とが対向する際の対向面積をより大きくすることができるので、ピストン100のうち、シリンダ101と対向するスカート部11に加えられる面圧が大きくなるのを抑制することができる。これにより、ピストン100の上面2aにおいて生じる摩擦力が大きくなるのを効果的に抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態では、隣接する凹部12の間隔L2を凹部12の開口端縁12aの開口幅D1よりも大きくすることによって、隣接する凹部12の間隔L2が小さくなるのを抑制することができるので、ピストン本体1の表面11aに凹部12以外の部分を十分に確保することができる。これにより、樹脂層2が剥離した後において、オイルを介したピストン本体1とシリンダ101との対向面積を十分に確保することができるので、ピストン本体1のうち、シリンダ101と対向する部分に加えられる面圧が大きくなるのを抑制することができる。この結果、ピストン本体1の表面11aにおいて生じる摩擦力が大きくなるのを抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、樹脂層2を熱硬化性樹脂から構成することによって、樹脂材料を塗布して熱処理を行うことなどにより、平坦面状の上面2aを有する樹脂層2を容易に形成することができるので、ピストン100の上面2aにおいて生じる摩擦力が大きくなるのを抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、ピストン本体1のスカート部11のうち、複数の凹部12が形成された領域以外の表面11aをRa(算術平均粗さ)が約0.3μm以下になるように研磨することによって、樹脂層2が剥離した場合であっても、複数の凹部12が形成された領域以外の研磨された表面11aにおいて生じる摩擦力が大きくなるのを確実に抑制することができる。
【0057】
次に、
図1、
図2、
図7および
図8を参照して、本発明の一実施形態によるピストン100の製造プロセスについて説明する。
【0058】
まず、所定の鋳型(図示せず)などを用いることによって、アルミニウム合金の鋳物から構成されるピストン本体1を作製(準備)する。そして、このピストン本体1のスカート部11の表面11aを、Raが約0.3μm以下になるように研磨して鏡面にする。その後、ピストン本体1におけるスカート部11の研磨された表面11aに、耐熱性を有する熱硬化性樹脂を塗布した後に熱処理を行うことなどによって、一様の厚みt1(
図3参照)になるように樹脂層2を形成する。この際、樹脂層2の上面2aが平坦面状に形成される。
【0059】
ここで、本実施形態の製造プロセスでは、予め設定された規則的なパターンで複数の凹部12および複数の孔部21が形成されるように、樹脂層2に対してレーザーアブレーション処理を行う。具体的には、
図7に示すように、フェムト秒レーザー光発生装置102を用いて、パルス幅が約700fs(フェムト秒)で、かつ、パルスエネルギーが約10μJの超短パルスのレーザー光を発生させる。その発生させた超短パルスのレーザー光を、レンズ103を用いて樹脂層2の上面2aの所定の一点に集束させる。この際、樹脂層2の上面2aに対して略垂直な深さ方向(Y方向)から、同じ位置に複数回、超短パルスのレーザー光を照射する。この際、凹部12の開口端縁12aの開口幅D1(
図3参照)が約10μm以上約60μm以下になるように、照射時間などの条件を設定する。
【0060】
これにより、レーザー光が照射された位置において、レーザー光のエネルギーが熱エネルギーに変換されることにより急激に温度が上昇する。これにより、レーザー光が照射された位置の樹脂層2の樹脂が蒸発して飛散する。この結果、
図8に示すように、レーザー光が照射された位置の樹脂層2に、樹脂層2を貫通するとともに、略逆円錐台形状の孔部21が形成される。さらに、孔部21を通過した超短パルスのレーザー光がピストン本体1のスカート部11に照射されることによって、レーザー光が照射された位置のピストン本体1のアルミニウム合金が蒸発して飛散する。これにより、レーザー光が照射された位置のスカート部11に、孔部21と共通の中心線Aを有する同心円状になるように、略逆円錐形状の凹部12が形成される。この結果、スカート部11の凹部12が樹脂層2の孔部21に対応する部分に設けられるとともに、凹部12の表面12bが対応する孔部21から露出する。
【0061】
このように、超短パルスのレーザー光を一度照射することによって、樹脂層2の孔部21だけでなく、ピストン本体1の凹部12も同時に形成することができるので、凹部12と孔部21とをそれぞれ別途に形成する場合と比べて、マスクや保護膜などを形成する必要ない。これにより、ピストン100の製造プロセスを簡略化することが可能である。
【0062】
そして、凹部12および孔部21を形成した位置からピッチL1を隔てた位置(予め設定された位置)にレーザー光が照射されるように、ピストン本体1を回転軸B(
図7参照)周りに回転させた後に、上記と同様に、超短パルスのレーザー光を照射する。これを繰り返してX方向に走査することによって、X方向に所定のピッチL1を隔てた状態で、複数の凹部12および複数の孔部21が形成される。その後、Z方向に所定のピッチL1だけ移動させた後に、上記と同様にX方向に走査することを繰り返すことによって、
図2に示すように、複数の凹部12および複数の孔部21がピッチL1を隔ててX方向およびZ方向に並ぶように、予め設定された規則的なパターンで設けられる。
【0063】
このように、レーザーアブレーション処理により複数の孔部21および複数の凹部12を形成することによって、各々の孔部21および凹部12を形成する際のレーザー光の照射量や照射位置(ピッチL1)を容易に略均一にすることができるので、粒子を高速で噴射して表面に孔部や凹部を形成する処理(ショット処理)を行う場合と比べて、孔部21および凹部12の内径や形成位置(ピッチL1)が不規則になるのを抑制することが可能であるとともに、粒子が噴射されることに起因してピストン100自体の大きさ(外径など)がピストン100の位置に応じてばらつくのを抑制することが可能である。これにより、複数の孔部21および凹部12だけでなく、ピストン100自体も精度よく形成された
図1に示すピストン100が作製される。
【0064】
[参考例]
次に、
図2、
図3および
図9〜
図13を参照して、樹脂層が剥離した後における焼き付きの抑制効果を確認するために行った摩擦試験1について説明する。
【0065】
この摩擦試験1では、参考例1として、アルミニウム合金からなる平板を準備した。そして、平板の所定の表面をRa(算術平均粗さ)が0.3μm以下になるように研磨した。そして、パルス幅が700fsで、かつ、パルスエネルギーが10μJの超短パルスのレーザー光を、平板の研磨した所定の表面に所定の照射条件で照射することによって、レーザーアブレーション処理を行った。このようにして、平板の研磨した所定の表面に、20μmの開口幅D1を有する凹部(
図3参照)を複数形成した。この際、複数の凹部を、所定の表面の全体に亘って、面内方向の互いに直交する2つの方向(
図2のX方向およびZ方向)にそれぞれピッチL1(
図2参照)で並ぶように、規則的なパターンで設けた。これにより、参考例1の試験材を作製した。
【0066】
また、参考例2として、凹部を100μmのピッチL1で複数形成した点を除いて、参考例1と同様にして、参考例2の試験材を作製した。つまり、参考例2では、参考例1と比べて単位面積当たりの凹部の数を少なくした。
【0067】
また、参考例3として、30μmの開口幅D1を有する凹部を複数形成した点と、凹部を90μmのピッチL1で複数形成した点とを除いて、参考例1と同様にして、参考例3の試験材を作製した。つまり、参考例3では、参考例1と比べて、単位面積当たりの凹部の数を少なくするとともに、凹部の開口幅D1を大きくした。
【0068】
また、参考例4として、60μmの開口幅D1を有する凹部を複数形成した点と、凹部を210μmのピッチL1で複数形成した点とを除いて、参考例1と同様にして、参考例4の試験材を作製した。つまり、参考例4では、参考例3よりも、さらに、単位面積当たりの凹部の数を少なくするとともに、凹部の開口幅D1を大きくした。
【0069】
また、参考例1〜4の比較例1(従来例)として、レーザーアブレーション処理を行わない点を除いて、参考例1と同様にして、比較例1の試験材を作製した。つまり、比較例1の試験材として、平板の所定の表面をRaが0.3μm以下になるように研磨した板材をそのまま用いた。
【0070】
なお、本摩擦試験1では、樹脂層が剥離した後における焼き付きの抑制効果を確認するために、参考例1〜4および比較例1の試験材に樹脂層は設けなかった。
【0071】
そして、スラストシリンダー式(鈴木式)の試験方法により、参考例1〜4および比較例1の試験材の所定の表面における摩擦係数を測定した。具体的には、試験材の所定の表面(加工した表面)上にFC230(鋳鉄)からなる円筒状のリングを配置した。そして、リングを、1000rpmの一定の回転速度で回転させながら、一定時間毎に、加えるスラスト荷重(リングの回転軸に沿った方向の荷重)を変化させた。そして、所定の大きさのスラスト荷重時におけるラジアル荷重(リングの回転軸と直交する方向の荷重)をそれぞれ測定することによって、所定の大きさの面圧(スラスト荷重/リングと試験材とがオイルを介して対向する対向面積)における摩擦係数を求めた。なお、リングと試験材との間に配置されるオイルとしては、粘度の低いオイル(0W−20)を用いた。その後、所定の摩擦係数の値を1として、摩擦係数を規格化してグラフに示した。
【0072】
図9〜
図13に示す摩擦試験1の結果としては、参考例1〜4のいずれにおいても、比較例1と比べて、25MPa以下の面圧において、20%から50%程度、摩擦係数が小さくなった。これにより、開口幅D1が20μm以上60μm以下の複数の凹部を所定のピッチで形成するようにレーザーアブレーション処理を行うことによって、レーザーアブレーション処理を行わない比較例1よりも摩擦係数を十分に低下させることができることが判明した。特に、開口幅D1が20μmの参考例1および2においては、25MPa以下の面圧だけでなく25MPa以上の大きな面圧においても、摩擦係数を大幅に小さくすることができることが確認できた。なお、摩擦係数の低下の理由としては、試験材に形成された凹部にオイルが十分に溜められることにより、試験材の表面において生じる摩擦力が小さくなったからであると考えられる。
【0073】
この結果、内燃機関(エンジン)の摺動部品(ピストン)の摺動部分であるスカート部に本発明の凹部を形成することによって、たとえ樹脂層が剥離した後においても十分に摩擦係数を小さくすることができ、摩擦力の増大に起因する内燃機関の温度上昇による焼き付きおよびエネルギーの損失を共に抑制することができるので、内燃機関の性能を向上させることが可能であることが判明した。
【0074】
なお、凹部の開口幅D1が60μmで、かつ、210μmのピッチL1で凹部を複数形成した参考例4においては、25MPa以上の面圧において、摩擦係数が急激に上昇した。これは、試験材の表面に位置するオイルが不足して焼き付きが生じたからであると考えられる。これにより、凹部を単位面積当たりに多く設けた方が、オイルを効果的にピストン本体の表面に供給することができ、好ましいと考えられる。一方、参考例1〜4および比較例1のいずれにおいても、面圧を大きくするに従い、摩擦係数が大きくなった。すなわち、凹部を単位面積当たりに過度に設けて、オイルを介してピストン本体とシリンダとが対向する際の対向面積を過度に小さくした場合には、ピストン本体とシリンダとの表面の対向面積が小さくなり過ぎることに起因して、ピストン本体の表面において生じる摩擦力が大きくなってしまう。
【0075】
これらの結果から、たとえば、参考例1や参考例2のように、凹部を単位面積当たりに適度に多く設けて油溜まりを形成しつつ、オイルを介したピストン本体とシリンダとの対向面積を十分に確保することが、ピストン本体の表面において生じる摩擦力が大きくなるのを抑制しつつ、ピストン本体に焼き付きが生じるのを抑制することができ、好ましいと考えられる。なお、この結果は、樹脂層が剥離する前であっても同様のことがいえると考えられる。つまり、ピストン本体の凹部と対応する樹脂層の孔部とを単位面積当たりに適度に多く設けることが、ピストン本体の表面またはピストン(樹脂層)の表面において生じる摩擦力が大きくなるのを抑制しつつ、ピストン本体(ピストン)に焼き付きが生じるのを抑制することができ、好ましいと考えられる。
【0076】
[実施例]
次に、
図2、
図3および
図14〜
図16を参照して、樹脂層を有する実施例の試験材における焼き付きの抑制効果を確認するために行った摩擦試験2について説明する。
【0077】
この摩擦試験2では、本発明に対応する実施例として、アルミニウム合金からなる平板を準備した。そして、平板の所定の表面をRaが0.3μm以下になるように研磨して鏡面にした。そして、研磨された所定の表面に、7.0μmの厚みになるように熱硬化性樹脂により構成される樹脂層を形成した。その後、パルス幅が700fsで、かつ、パルスエネルギーが10μJの超短パルスのレーザー光を、樹脂層が形成された領域に所定の照射条件で照射することによって、レーザーアブレーション処理を行った。このようにして、樹脂層に複数の孔部(
図3参照)を形成するとともに、平板の複数の孔部に対応する部分に凹部(
図3参照)をそれぞれ形成した。なお、凹部の開口幅D1が20μmになるようにレーザー光の照射条件を調整した。また、複数の凹部を、樹脂層が形成された領域の全体に亘って、面内方向の互いに直交する2つの方向(
図2のX方向およびZ方向)にそれぞれ80μmのピッチL1(
図2参照)で並ぶように、規則的なパターンで設けた。これにより、実施例の試験材(鏡面/樹脂層+レーザー穴)を作製した。
【0078】
一方、比較例2として、レーザーアブレーション処理を行わない点を除いて、実施例と同様にして、比較例2の試験材(鏡面/樹脂層)を作製した。つまり、比較例2の試験材として、樹脂層に孔部が形成されていないとともに、平板に凹部が形成されていない試験材を用いた。
【0079】
また、比較例3として、鏡面処理の代わりに、平板の所定の表面にRaが6.3μm程度の筋状の条痕(凹凸)を形成した点を除いて、比較例2と同様にして、比較例3の試験材(条痕/樹脂層)を作製した。
【0080】
そして、上記摩擦試験1と同様に、スラストシリンダー式(鈴木式)の試験方法により、実施例、比較例2および3の試験材の所定の表面における摩擦係数を測定した。
【0081】
図14に示す摩擦試験2の結果としては、実施例((鏡面/樹脂層+レーザー穴)、白丸)と比較例2((鏡面/樹脂層)、白四角)とを比較すると、10MPaまでの面圧では、実施例の摩擦係数が比較例2の摩擦係数よりも大きくなった。これは、10MPaまでの面圧では、双方の樹脂層が剥離していない点と、実施例の孔部に起因して実施例の試験材と試験に用いたリングとの対向面積が比較例2よりも小さい点とに起因して、実施例の試験材の表面において生じた摩擦力が大きくなったからであると考えられる。一方、10MPaの面圧では、実施例の摩擦係数と比較例2の摩擦係数とが略等しくなるとともに、18MPa以降の面圧では、実施例の摩擦係数が比較例2の摩擦係数よりも小さくなった。これは、10MPaから18MPaまでの面圧において比較例2の樹脂層が剥離した点と、凹部が形成されておらず、かつ、樹脂層が剥離した比較例2の表面にはオイルが十分に供給されない点とに起因して、比較例2の試験材の表面において生じた摩擦力が大きくなったからであると考えられる。この結果、実施例のように樹脂層を形成した後に孔部および凹部を形成することにより、孔部および凹部が形成されていない比較例2と比べて、樹脂層が剥離(摩耗)しにくく、その結果、樹脂層の寿命を長くすることが可能であることが判明した。なお、樹脂層が剥離(摩耗)しにくい理由としては、孔部および凹部により形成された油溜まりから、樹脂層の表面にオイルが供給されたからであると考えられる。
【0082】
さらに、27MPaの面圧では、実施例の摩擦係数に大幅な変化は見られなかったものの、比較例2の摩擦係数が急激に上昇した。つまり、比較例2において焼き付きが生じた。これらの結果から、ピストン(樹脂層)の表面に複数の孔部を設けるとともに、ピストン本体の表面に凹部を設けることによって、ピストン本体(ピストン)において生じる摩擦力が大きくなるのを抑制しつつ、ピストン本体(ピストン)に焼き付きが生じるのを抑制することができることが確認できた。
【0083】
また、実施例((鏡面/樹脂層+レーザー穴)、白丸)と比較例3((条痕/樹脂層)、黒四角)とを比較すると、面圧の略全体に亘って、実施例の摩擦係数が比較例3の摩擦係数よりも小さくなった。これにより、条痕を設けた後に樹脂層を形成する比較例3と比べても、樹脂層を形成した後に孔部および凹部を形成する実施例では、摩擦係数を低減することが可能であることが判明した。
【0084】
これらの結果から、実施例のように、樹脂層を形成した後に孔部および凹部を形成することにより、樹脂層が剥離しにくく、さらに、剥離した後であっても、焼き付きが生じるのを抑制でき、かつ、小さな摩擦係数を保つことができることが判明した。
【0085】
また、
図15に示す摩擦試験後の実施例の試験材を示した写真では、摩擦試験に用いられたリングが配置されたリング状の試験領域において、樹脂層の一部(黒い部分)が残存しており、試験材の金属面はあまり露出していなかった。一方、
図16に示す摩擦試験後の比較例2の試験材を示した写真では、リング状の試験領域において、樹脂層が完全に剥離して、金属色の金属面が露出するとともに、その金属面に凹凸が形成されていた。すなわち、比較例2の試験材には焼き付きが生じていた。この結果からも、樹脂層を形成した後に孔部および凹部を形成することにより、樹脂層が剥離(摩耗)しにくく、樹脂層の寿命を長くすることが可能であることが確認できた。
【0086】
なお、今回開示された実施形態、参考例および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態、参考例および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0087】
たとえば、上記実施形態では、車両の内燃機関(エンジン)に用いられるピストン100に凹部12および樹脂層2を形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、船舶や航空機などの内燃機関に用いるピストンに凹部および樹脂層を形成してもよい。また、ピストンに対して摺動するシリンダに凹部および樹脂層を形成してもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、内燃機関に用いられるピストン100のスカート部11に凹部12および樹脂層2を形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ピストンのうち、ピストンピンが挿入されて摺動されるピストンピン用穴の所定領域に凹部および樹脂層を形成してもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、複数の凹部12および複数の孔部21をスカート部11の略全体に亘って1つの規則的なパターンで設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、複数の凹部および複数の孔部を、複数のパターンを組み合わせた規則的なパターンで、スカート部に形成してもよい。具体的には、
図17に示す第1変形例のピストン200のように、スカート部211のうち、摺動時にシリンダとオイルを介して対向しやすい部分であるX方向の中央部211aには、ピッチL1aを隔ててX方向およびZ方向に並ぶように、複数の凹部および複数の孔部を形成する(
図2参照)一方、その他の部分であるX方向の両端部211bには、ピッチL1aよりも大きなピッチL1bを隔ててX方向およびZ方向に並ぶように、複数の凹部および複数の孔部を形成してもよい。これにより、摺動時にシリンダとオイルを介して対向しやすい部分であるX方向の中央部211aには、十分な数の凹部および孔部を形成して摩擦力の低減を図りながら、両端部211bにおいて単位面積当たりの凹部および孔部の数を減少させることができるので、複数の凹部および孔部が形成されたピストン200を製造するために必要な時間を短縮することが可能である。なお、ピストン200は、本発明の「内燃機関用摺動部品」の一例であり、スカート部211は、本発明の「所定部分」および「摺動部分」の一例である。
【0090】
また、上記実施形態では、略円形の開口端縁12aを有する凹部12と略円形の開口端縁21aを有する孔部21とを形成した例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、凹部および孔部の開口端縁の形状は、円形に限られない。たとえば、
図18に示す第2変形例のように、凹部312の開口端縁312aおよび孔部321の開口端縁321aの形状を、共に略正三角形形状に形成してもよい。この際、略正三角形が下向き(1つの角が他の2つの角に対して下方(Z2方向)に位置する状態)になるのが好ましい。これにより、ピストンの上方(Z1方向)から供給されるオイルを十分に凹部312および孔部321に溜めることが可能である。なお、この凹部312の開口端縁312aおよび孔部321の開口端縁321aの略正三角形形状は、レーザー光の照射位置を三角形形状に沿って移動させることにより、容易に形成することが可能である。また、凹部および孔部の開口端縁の形状は略楕円形や略二等辺三角形状などでもよい。さらに、凹部の開口端縁の形状と孔部の開口端縁の形状とを互いに異ならせてもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、略逆円錐形状の凹部12と略逆円錐台形状の孔部21とを形成した例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、凹部を略逆円錐台形状に形成してもよいし、孔部を略円錐台形状に形成してもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、孔部21の内周面21bと、対応する凹部12の開口端縁12aとを、孔部21の中心線Aの延びる深さ方向(Y方向)から見て、中心が略一致した略円形状(同心円状)になるように形成した例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、孔部の内周面の中心と対応する凹部の開口端縁の中心とを一致させずにずらすことによって、同心円状に形成しなくてもよい。この際、凹部の表面が対応する孔部から露出するように、孔部および凹部を形成するのが好ましい。
【0093】
また、上記実施形態では、ピストン本体1(摺動部品本体)をアルミニウム合金から構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、摺動部品本体を鉄合金などのアルミニウム合金以外の金属材料から構成してもよい。また、摺動部品本体を耐熱性樹脂などの金属材料以外の材料から構成してもよい。なお、摺動部品本体を構成するアルミニウム合金としては、AC8AなどのAl−Si−Cu−Ni−Mg合金や、Al−Si−Cu−Ni合金、Al−Cu−Ni−Mg合金などが好ましい。
【0094】
また、上記実施形態では、耐熱性を有する熱硬化性樹脂により構成された樹脂層2(被覆層)を設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被覆層は樹脂に限られない。たとえば、被覆層をNiメッキやSnメッキ、Feメッキなどの金属メッキ層や、DLC(Diamond−Like Carbon)膜、アルマイト膜などから構成してもよい。
【0095】
また、上記実施形態の製造プロセスでは、ピストン本体1のスカート部11の表面11aを、Ra(算術平均粗さ)が約0.3μm以下になるように研磨して鏡面にした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、スカート部の表面をRaが約0.4μmなどの約0.3μmより大きな値になるように研磨してもよい。また、スカート部の表面を研磨しなくてもよい。これにより、スカート部の表面に形成される樹脂層の剥離を抑制して樹脂層の寿命を長くすることが可能であるとともに、ピストンの製造プロセスを簡略化することが可能である。
【0096】
また、上記実施形態の製造プロセスでは、樹脂層2の上面2aに対して略垂直な深さ方向(Y方向)から超短パルスのレーザー光を照射した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、樹脂層の上面に対して斜め上方から超短パルスのレーザー光を照射してもよい。これにより、孔部および凹部が斜め下方に延びるように形成されるので、重力により下方に移動するオイルが孔部および凹部から過度に流れ出るのを抑制することができ、その結果、孔部および凹部においてオイルをより確実に保持することが可能である。
【0097】
また、上記実施形態の製造プロセスでは、複数の凹部12および複数の孔部21を形成するためにレーザーアブレーション処理を用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、機械的な加工(切削加工)や化学的な加工(エッチング)などによって、複数の凹部および複数の孔部を形成してもよい。
【0098】
また、上記実施形態の製造プロセスでは、レーザーアブレーション処理において、パルス幅が約700fs(フェムト秒)で、かつ、パルスエネルギーが約10μJの超短パルスのレーザー光を用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、約50ns以下のパルス幅を有する短パルスのレーザー光を用いてもよい。なお、レーザー光のパルス幅は1ps(ピコ秒)以下である方が好ましい。この場合、一度に照射するレーザー光のエネルギーを小さくすることが可能であることにより、凹部の開口端縁にバリが生じるのを抑制することが可能である。これにより、バリに起因してピストン本体(またはピストン)とシリンダとの対向面積が小さくなるのを抑制することができるので、ピストン本体(またはピストン)のうち、オイルを介してシリンダと対向する部分に加えられる面圧が大きくなるのを抑制することが可能である。