特許第6201698号(P6201698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201698
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】トロイダル型無段変速機の組立方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/38 20060101AFI20170914BHJP
   F16H 57/023 20120101ALI20170914BHJP
【FI】
   F16H15/38
   F16H57/023
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-249943(P2013-249943)
(22)【出願日】2013年12月3日
(65)【公開番号】特開2015-105752(P2015-105752A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(72)【発明者】
【氏名】金 キン
(72)【発明者】
【氏名】土肥 永生
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−150461(JP,A)
【文献】 特開2007−332981(JP,A)
【文献】 特開2008−115877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/38
F16H 57/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に、かつ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に揺動するとともに前記枢軸の軸方向に変位し、かつ、前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンとを有する組立アセンブリに、
前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に変位させる駆動ピストンが設けられたシリンダボディを組み付けることでトロイダル型無段変速機を組み立てるトロイダル型無段変速機の組立方法であって、
前記シリンダボディを前記組立アセンブリに組み付けるために搬送する際に、
前記駆動ピストンを固定治具によって、前記シリンダボディに固定することを特徴とするトロイダル型無段変速機の組立方法。
【請求項2】
前記固定治具は、前記シリンダボディの上下面にそれぞれ設けられて、前記駆動ピストンの上下端部をそれぞれ前記シリンダボディに固定する上下一対の固定部材を有することを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機の一例として特許文献1に記載のものが知られている。このトロイダル型無段変速機は、図7および図8に示すように構成されている。図7に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図8参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図7中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図7の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図8は、図7のA−A線に沿う断面図である。図8に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図8においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(図8の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、各パワーローラ11がラジアルニードル軸受35を介して回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図8の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図7の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持するシリンダボディ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図8で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図8の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成されたシリンダボディ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33とシリンダボディ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図8の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。
【0015】
その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動する。
【0016】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0017】
ところで、上述のようなトロイダル型無段変速機においては、例えば、図9および図10に示すように、モジュール化したものが主流にとなってきている。例えば、ケーシング50に収容する前の段階で、前述の入力軸1、入力側ディスク2,2、出力側ディスク3,3、出力歯車4、上下のヨーク23A,23B、トラニオン15、パワーローラ11、駆動装置32、押圧装置12、固定部材52(アッパープレート)等が一体に組み立てられてバリエータモジュール43とされ、このバリエータモジュール43をケーシング50内に収容して取り付けるようになっている。また、バリエータモジュール43を組んだ段階でケーシング50に収容する前に、試験的にバリエータモジュール43を動作(回転)させることが可能になっている。
【0018】
このようなバリエータモジュール43においては、パワーローラ11を支持するトラニオン15は、駆動装置32に支持されている。
駆動装置32は、トラニオン15を支持して変位させる駆動ピストン33と、駆動ピストン33を移動可能に油密に嵌装するシリンダボディ31とを有する。シリンダボディ31はシリンダチャンバ31a,31aを有しており、このシリンダチャンバ31a,31aに駆動ピストン33,33が軸方向に移動可能に油密に嵌装されている。
また、駆動装置32のシリンダボディ31を構成する上側シリンダボディ61および下側シリンダボディ62に固定される下側の球面ポスト68と、アッパープレート52に固定される上側の球面ポスト64とが、図10に示すように、上下に一体に接合された柱状ポスト69とされ、バリエータモジュール43において一対の柱状ポスト69がアッパープレート52と、シリンダボディ31を接続した状態となっている。
【0019】
また、柱状ポスト69の上下の中央部分を入力軸1が貫通した状態となっている。また、入力軸1に一対の入力側ディスク2,2、出力側ディスク3,3、出力歯車4、押圧装置12等が支持されている。なお、押圧装置12は、油圧により圧力を付与する油圧式になっている。
【0020】
また、一対の出力側ディスク3,3と出力歯車4は、一対の出力側ディスク3,3の背面同士を接合した状態に、一対の出力側ディスク3,3を一体にするとともに、この一体になった出力側ディスク3,3の外周面に歯41を設けて出力歯車4とした一体型出力側ディスク34が用いられている。
【0021】
また、前記柱状ポスト69は、上側シリンダボディ61の上面に形成され、かつ、柱状ポスト69の下端面に形成された凸部が嵌合する凹部(インロー穴部)と、アッパープレート52の下面に設けられ、柱状ポストの上端面に形成された凸部が嵌合する凹部(インロー穴部)とにより位置決めされる。また、一対の柱状ポスト69は、その上下の球面ポスト64,68が、上下のヨーク23A,23Bの係止孔19に挿入されて嵌合され、これらヨーク23A,23Bにより、一対の柱状ポスト69の間隔が規制されている。
【0022】
このような構成のトロイダル型無段変速機では、前記入力軸1、入力側ディスク2,2、出力側ディスク34、出力歯車4、押圧装置12、パワーローラ11、枢軸14を有するトラニオン15等によって組立アセンブリAが構成されている。そして、この組立アセンブリAに、駆動ピストン33が設けられたシリンダチャンバ31aを有するシリンダボディ31を組み付けることによってトロイダル型無段変速機(バリエータモジュール43)が組み立てられる。
この場合、組立アセンブリAを構成するトラニオン15の下端部の駆動ロッド29を、シリンダボディ31に設けられた駆動ピストン33に形成された軸方向の貫通孔に挿通して固定するとともに、当該駆動ロッド29の下端部に形成された雄ねじにナットを29bを螺合して締め付け、さらに、ポスト69の下端面に形成された凸部を、上側シリンダボディ61の上面に形成された凹部に嵌合して、ボルト69bによって固定することによって、組立アセンブリAにシリンダボディ31を組み付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2007−332981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
ところで、前記組立アセンブリAに組み付ける前のシリンダボディ31では、シリンダチャンバ31aに設けられている駆動ピストン33が上下に移動自在となっている。したがって、シリンダボディ31を組立アセンブリAに組み付けるために、当該シリンダボディ31を組立アセンブリAに向けて搬送する際に、駆動ピストン33がシリンダチャンバ31a内で上下に振動するおそれがある。
駆動ピストン33が上下に振動すると、当該駆動ピストン33の外周面に設けられたシール部材33a,33dが摩耗したり、駆動ピストン33の受圧面がシリンダチャンバ31a内に設けられたストッパ31bに当たって損傷したり(異物(コンタミ)発生の要因となる可能性がある)するおそれがある。
【0025】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、シリンダボディを組立アセンブリに組み付けるために搬送する際に、当該シリンダボディに設けられている駆動ピストンの振動を防止できるトロイダル型無段変速機の組立方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記目的を達成するために、本発明のトロイダル型無段変速機の組立方法は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に、かつ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に揺動するとともに前記枢軸の軸方向に変位し、かつ、前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンとを有する組立アセンブリに、
前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に変位させる駆動ピストンが設けられたシリンダボディを組み付けることでトロイダル型無段変速機を組み立てるトロイダル型無段変速機の組立方法であって、
前記シリンダボディを前記組立アセンブリに組み付けるために搬送する際に、
前記駆動ピストンを固定治具によって、前記シリンダボディに固定することを特徴とする。
【0027】
本発明においては、シリンダボディに設けられた駆動ピストンを固定治具によって、シリンダボディに固定するので、シリンダボディを組立アセンブリに組み付けるために搬送する際に、駆動ピストンが振動するのを防止できる。
したがって、駆動ピストンのシール部材の摩耗や、駆動ピストンの受圧面の損傷といった不具合の発生を防止できる。
【0028】
本発明の前記構成において、前記固定治具は、前記シリンダボディの上下面にそれぞれ設けられて、前記駆動ピストンの上下端部をそれぞれ前記シリンダボディに固定する上下一対の固定部材を有することが好ましい。
【0029】
このような構成によれば、駆動ピストンの上下端部をそれぞれ一対の固定部材によってシリンダボディに固定するので、確実に駆動ピストンの振動を防止できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、駆動ピストンを固定治具によって、シリンダボディに固定するので、シリンダボディを組立アセンブリに組み付けるために搬送する際に駆動ピストンが振動するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1の実施の形態におけるシリンダボディを示すもので、固定治具を取り付ける前の状態を固定治具ともに斜め上から視た斜視図である。
図2】同、固定治具を取り付ける前の状態を固定治具ともに示す断面図である。
図3】同、固定治具を取り付ける前の状態を固定軸とともに下から視た斜視図である。
図4】同、固定治具を取り付けた状態を示す斜視図である。
図5】同、固定治具を取り付けた状態を示す断面図である。
図6】本発明の第2の実施の形態におけるシリンダボディを示す斜視図である。
図7】従来のトロイダル型無段変速機の一例を示す断面図である。
図8図7におけるA−A線に沿う断面図である。
図9】従来のトロイダル型無段変速機のバリエータモジュールを示すもので、斜視図である。
図10】同、断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
なお、本発明の特徴は、シリンダチャンバに設けられた駆動ピストンを固定治具によって、シリンダボディに固定することにあるので、以下ではこの点について詳細に説明し、それ以外の部分については、従来と同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0033】
(第1の実施の形態)
図1図5に示すように、シリンダボディ31は、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成されている。当該シリンダボディ31には、4つのシリンダチャンバ31aが設けられている。
各シリンダチャンバ31aには、それぞれ駆動ピストン33が軸方向に移動可能に油密に嵌装されている。駆動ピストン33は、図1および図5に示すように、円筒状の軸部33bと、この軸部33bの外周部に形成されて受圧面を構成するフランジ部33cとを備えている。フランジ部33cの外周部にはリング状の前記シール部材33aが設けられ、軸部33bの外周部にはリング状のシール部材33dが設けられている。なお、図1図5において、符号40で示すリング状の部分は、前記ポスト69の下端部に形成された凸部を嵌合させる凹部(インロー穴部)を形成するためのものである。
【0034】
前記駆動ピストン33はシリンダチャンバ31aに嵌装された状態において、上下端部がそれぞれシリンダボディ31の上下面からそれぞれ若干突出しており、前記フランジ部33cが上下に移動可能な範囲において、上下に移動可能(振動可能)となっている。
このような駆動ピストン33を、以下のような固定治具51によってシリンダボディ31に固定している。
【0035】
すなわち、この固定治具51は、上下一対の固定部材52,53と、前記駆動ピストン33の円筒状の軸部33bに挿通される合計4本の挿通部材54とを備えている。
上側の固定部材52は、平面視においてX字形に形成された板状の本体部52aと、この本体部52aの4つの端部の下面(裏面)にそれぞれ形成された円筒状の4つの筒部52bとを備えている。本体部52aは、その中央部をシリンダボディ31の上面の中央部と合致させて配置した場合に、4つの筒部52bが4つのシリンダチャンバ31aの直上に位置するような大きさに形成されている。また、本体部52aの4つの端部にはそれぞれ前記挿通部材54を挿通するための孔52cが筒部52bと同軸に形成されている。
【0036】
前記筒部52bは、シリンダチャンバ31aの上端開口部を、駆動ピストン33の上端部とともに覆うことが可能な大きさに形成されている。すなわち、筒部52bの内径は、シリンダチャンバ31aの上端開口部の直径より大きくなっており、また、筒部52bの高さ(軸方向の長さ)は、シリンダボディ31の上面から、駆動ピストン33の上端面までの高さとほぼ等しいか、若干高くなっている。
したがって、筒部52bを、シリンダチャンバ31aの上端開口部を覆うように、かつ、当該筒部52bの下端がシリンダチャンバ31aの上面に当接するようにして配置した場合に、駆動ピストン33の上端面が、筒部52b内の本体部52aの下面(裏面)に当接するか、あるいは駆動ピストン33の上端面と筒部52b内の本体部52aの下面との間に若干の隙間が設けられるようになっている。
駆動ピストン33の上端面と筒部52b内の本体部52aの下面(裏面)との間に若干の隙間が設けられる場合、図5に示すように、筒部52b内の本体部52aの下面(裏面)に、前記隙間を埋める厚さを有するリング状のゴム等で形成された振動吸収部材52dを設けるのが好ましい。
【0037】
下側の固定部材53は、平面視においてX字形に形成された板状の本体部53aと、この本体部53aの4つの端部の上面(裏面)にそれぞれ形成された円筒状の4つの筒部53bとを備えている。本体部53aは、その中央部をシリンダボディ31の下面の中央部と合致させて配置した場合に、4つの筒部53bが4つのシリンダチャンバ31aの直下に位置するような大きさに形成されている。また、本体部53aの4つの端部にはそれぞれ前記挿通部材54の下端部をねじ込むためのねじ孔53cが筒部53bと同軸に形成されている。なお、筒部53bの高さは前記筒部52bの高さに比して低くなっている。これは、駆動ピストン33の上下端のシリンダボディ31の上下面からの突出長さが異なることによる。
【0038】
前記筒部53bは、シリンダチャンバ31aの下端開口部を、駆動ピストン33の下端部とともに覆うことが可能な大きさに形成されている。すなわち、筒部53bの内径は、シリンダチャンバ31aの下端開口部の直径より大きくなっており、また、筒部53bの高さ(軸方向の長さ)は、シリンダボディ31の下面から、駆動ピストン33の下端面までの高さとほぼ等しいか、若干高くなっている。
したがって、筒部53bを、シリンダチャンバ31aの下端開口部を覆うように、かつ、当該筒部53bの上端がシリンダチャンバ31aの下面に当接するようにして配置した場合に、駆動ピストン33の下端面が、筒部53b内の本体部52aの上面(裏面)に当接するか、あるいは駆動ピストン33の下端面と筒部52b内の本体部52aの上面(裏面)との間に若干の隙間が設けられるようになっている。
駆動ピストン33の下端面と筒部53b内の本体部52aの上面(裏面)との間に若干の隙間が設けられる場合、図5に示すように、筒部53b内の本体部53aの上面(裏面)に、前記隙間を埋める厚さを有するリング状のゴム等で形成された振動吸収部材53dを設けるのが好ましい。
【0039】
前記挿通部材54は、駆動ピストン33の円筒状の軸部33bに、上下端部が当該駆動ピストンの上下端から突出するようにして挿通される棒状の部材であり、本実施の形態では固定ボルト54によって構成されている。
挿通部材54の上端部には頭部54aが形成され、下端部には前記ねじ孔53cに螺合可能な雄ねじ54bが形成されている。
このような挿通部材(固定ボルト)54は、上側の固定部材52の孔52cから挿入され、シリンダチャンバ31aに設けられている駆動ピストン33の筒状の軸部33bに挿通されている。そして、当該挿通部材54は、その下端部の雄ねじ54bを下側の固定部材53のねじ孔53cに螺合したうえで、頭部54aに形成された六角レンチ穴にレンチを係合して回すことによって、締め付けられ、これによって、駆動ピストン33がシリンダボディ31が固定されている。
【0040】
固定治具51によって、4つの駆動ピストン33をシリンダボディ31に固定する場合、まず、図1および図3に示すように、シリンダボディ31の上側および下側ににそれぞれ上側の固定部材52および下側の固定部材53を配置する。
次に、上側の固定部材52の4つの孔52cにそれぞれ挿通部材54を挿入するとともに、当該挿通部材54を駆動ピストン33の円筒状の軸部33bに挿通し、さらに、当該挿通部材54の下端部の雄ねじ54bを下側の固定部材53のねじ孔53cに螺合したうえで締め付ける。
【0041】
挿通部材54を締め付けると、上下一対の固定部材52,53の筒部52b,53bの端部がシリンダボディ31の上下面にそれぞれ圧接するとともに、筒部52b,53b内に位置する本体部52a,53aの裏面が駆動ピストン33の上下端面に圧接する。また、本体部52a,53aの裏面に振動吸収部材52d,53dが設けられている場合、筒部52b,53b内に位置する本体部52a,53aの裏面が振動吸収部材52d,53dを介して駆動ピストン33の上下端面に圧接する。
これによって、図4および図5に示すように、一対の固定部材52,53で駆動ピストン33の上下端部を挟持したうえで、シリンダボディ31の上下面にそれぞれ固定する。
【0042】
なお、固定部材52,53を挿通部材54によってシリンダボディ31に固定する場合、2本以上の挿通部材54を使用して固定すればよい。この場合、X字形に形成された固定部材52の中央部に対して対称な位置にある孔52c,52cに挿通部材54をそれぞれ挿通し、この孔52c,52cに対向しているねじ孔53c,53cに挿通部材54の雄ねじ54bをねじ込むことによって、バランスよく固定することができる。
また、固定部材52,53をシリンダボディ31に固定する場合、前記挿通部材54によって固定する他、前記ポスト69の下端部を固定するためのボルトが挿通される貫通孔69aに、ボルトを挿通して固定してもよいし、シリンダボディ31の中央部に設けられた孔を使用してボルトによって固定してもよい。
【0043】
前記のようにして駆動ピストンが固定されたシリンダボディ31は、前記組立アセンブリAに向けて搬送され、当該組立アセンブリAに組み付けられる直前で、前記固定治具51が取り外されたうえで、シリンダボディ31が組立アセンブリAに組み付けられる。
そして、シリンダボディ31が搬送される際は、駆動ピストン33は固定治具51によって、シリンダボディ31に固定されているので、搬送の際に駆動ピストンの振動を防止できる。
したがって、駆動ピストン33のシール部材33aの摩耗や、駆動ピストン33の受圧面の損傷といった不具合の発生を防止できる。
【0044】
また、一対の固定部材52,53で駆動ピストン33の上下端部を挟持するので、当該駆動ピストン33の上下端部を固定部材52,53の筒部52b,53bで保護することができる。したがって、シリンダボディ31の搬送の際や取扱いの際の駆動ピストン33の上下端部の損傷を防止できる。
さらに、本体部52a,53aの裏面に振動吸収部材52d,53dが設けられていれば、この振動吸収部材52d,53dによって駆動ピストン33の振動を吸収でき、より確実に駆動ピストン33のシール部材33a,33dの摩耗や、駆動ピストン33の受圧面の損傷といった不具合の発生を防止できる。
【0045】
なお、本実施の形態では、固定治具51を平面視においてX字形に形成された上下一対の固定部材52,53とで構成したが、当該固定部材52,53はX字形に限ることはない。例えば、上下一対の固定部材は矩形状や円板状に形成されていてもよい。
【0046】
(第2の実施の形態)
図6は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態が前記第1の実施の形態と異なる点は、固定治具の構成であるので、以下ではこの点について説明し、その他の共通部分には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0047】
本実施の形態では、図6に示すように、4つの固定治具57を使用している。この固定治具57は上下一対の固定部材を有している。上側の固定部材58は前記第1の実施の形態における固定部材52の筒部52bとほぼ同様の構成であり、当該固定部材58は上端部が閉塞した円筒状に形成されている。
この固定部材58の上面には、前記孔52cと同径の孔が形成され、この孔に第1の実施の形態の挿通部材54と同じ挿通部材54が挿入されるとともに、当該挿通部材54が駆動ピストン(図示略)の円筒状の軸部(図示略)に挿通され、さらに、当該挿通部材54の下端部の雄ねじ(図示略)が下側の固定部材(図示略)に形成されたねじ孔に螺合されたうえで、締め付けられている。なお、下側の固定部材は、第1の実施の形態における固定部材53の筒部53bとほぼ同様の構成であり、当該固定部材は下端部が閉塞した円筒状に形成されている。この固定部材の下面に、前記ねじ孔53cと同径のねじ孔が形成されている。
【0048】
固定治具57によって、駆動ピストン33をシリンダボディ31に固定する場合、前記第1の実施の形態の場合と同様に、まず、シリンダボディ31の上側および下側にそれぞれ上側の固定部材58および下側の固定部材を配置する。
次に、上側の固定部材58の孔52cに挿通部材54を挿入するとともに、当該挿通部材54を駆動ピストン33の円筒状の軸部33bに挿通し、さらに、当該挿通部材54の下端部の雄ねじ54bを下側の固定部材のねじ孔cに螺合したうえで締め付ける。
【0049】
挿通部材54を締め付けると、上側の固定部材57の端部がシリンダボディ31の上面に圧接するとともに、下側の固定部材の端部がシリンダボディ31の下面に圧接し、さらに、上側の固定部材57の裏面と下側の固定部材の裏面とが駆動ピストン33の上下端面に圧接する。
これによって、上側の固定部材57と下側の固定部材で駆動ピストン33の上下端部を挟持したうえで、シリンダボディ31の上下面にそれぞれ固定する。
【0050】
本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同様の効果が得られる他、4つの駆動ピストンを固定治具57によって個別にシリンダボディ31に固定できるので、例えば、駆動ピストンの数が増加した場合に容易に対応できるという利点がある。
なお、本実施の形態では、固定治具57を、円筒状の上下の固定部材によって構成したが、固定部材の形状は円筒状に限ることはない。例えば、角筒状やその他の筒状であればよい。
【符号の説明】
【0051】
A 組立アセンブリ
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ
14 枢軸
15 トラニオン
31 シリンダボディ
33 駆動ピストン
31a シリンダチャンバ
51,57 固定治具
52,53,58 固定部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10