(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201736
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】脱硫スラグを用いた焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/16 20060101AFI20170914BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20170914BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20170914BHJP
C22B 7/04 20060101ALI20170914BHJP
C04B 5/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
C22B1/16 H
C22B1/00 601
C21C1/02 L
C22B7/04 A
C04B5/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-265968(P2013-265968)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-120963(P2015-120963A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 功朗
【審査官】
米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−117082(JP,A)
【文献】
特開2013−151725(JP,A)
【文献】
特開2007−113042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00〜61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱硫スラグを0.5mm乃至1.5mmの範囲内の分級点で篩分けし、
前記篩分け後の篩上スラグを前記分級点以下に破砕し、
前記破砕した破砕スラグと、前記篩分け後の篩下スラグを混合して焼結鉱の製造に用いる(ただし、脱硫スラグとそれ以外の原料とに分けてそれぞれを別々に造粒する場合を除く)ことを特徴とする脱硫スラグを用いた焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結鉱の製造方法において、
前記破砕スラグから磁力選鉱により金属鉄を除去し、金属鉄を除去した破砕スラグと、前記篩分け後の篩下スラグを混合して焼結鉱の製造に用いることを特徴とする脱硫スラグを用いた焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の焼結鉱の製造方法において、
前記脱硫スラグが、KRスラグであることを特徴とする脱硫スラグを用いた焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫スラグを用いた焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所において、転炉、溶銑予備処理炉等の精錬工程から発生する製鋼スラグは、精錬プロセスにより、脱珪スラグ、脱硫スラグ、脱燐スラグ及び脱炭スラグの種々の発生形態がある。これらの製鋼スラグ中には、石灰が遊離した形(以下で遊離CaOと称す)が残存しているため、そのままの形で道路用材、土木用材などに利用した場合、遊離CaOの水酸化により膨張が起こることが知られている。そこで、現在一般にスラグを自然冷却し、破砕した後、屋外で山積みするかあるいは人為的に水蒸気と接触させることにより遊離CaOを安定化させている。
しかし、このエージングは、非常に長時間を要することであり、そのために製鉄所内に非常に広いスペースが必要であるという問題がある。
【0003】
また、破砕、篩分けにより発生する粉状の鉄鋼スラグは、微粉を多く含むため、そのままでは路盤材として殆ど利用することができない。そこで、水砕スラグ、高炉スラグ微粉末、又は、高炉セメント等と混合、散水、転圧及び養生をした後、固体化しなければならないという問題がある。
【0004】
製鋼スラグ中の遊離CaOを酸で処理し、安定化させるという考え方がある。
遊離CaOを含む製鋼スラグをエージングによらずに製鉄所の酸処理工程で発生する廃酸を用いて、pH−1〜4、温度60℃以上で処理する製鋼スラグの改質方法の提案がある(特許文献1)。
【0005】
上記の製鋼スラグの中でも、脱硫スラグは、遊離CaO、金属鉄及びSが高く、道路用材、土木用材などの利用は特に難しい。そこで、種々の取り組みがなされてきた。
遊離CaOの利用として、脱硫スラグを溶銑脱硫材としてリサイクルする提案がある(特許文献2、特許文献3)。
また、脱硫スラグに含まれるSを除去した後、溶銑脱硫材とする提案もある(特許文献4)。
また、脱硫後の脱硫スラグを、高温に溶融状態のまま、再度、脱硫剤としてリサイクルする提案もある(特許文献5)。
また、粉コークスに脱硫スラグを配合し、造粒、養生し焼結鉱製造用の固形燃料として用いる提案がある(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−72746号公報
【特許文献2】特開2007−262511号公報
【特許文献3】特開昭63−219514号公報
【特許文献4】特開2013−087290号公報
【特許文献5】特開2004−76088号公報
【特許文献6】特開2006−290925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の提案は、製鋼スラグを温度60℃以上で処理することで、フリーCaOを中和塩に変えてスラグから除去する、あるいは、スラグ中に残存させ、スラグを改質するものである。しかし、60℃以上での酸処理が必要であり、大規模な設備を要し、大量の製鋼スラグを処理するプロセスとしては難点がある。
【0008】
特許文献2、3に記載の提案は、遊離CaOのリサイクルとなるが、Sもリサイクルし、リサイクル回数に限界があるという問題がある。
特許文献4に記載の提案は、事前に脱硫スラグに含まれるSを除去する必要があり、設備費が高く、プロセスが複雑になるという問題がある。
特許文献5に記載の提案は、溶融熱を活用できるという利点はあるが、Sもリサイクルし、リサイクル回数に限界があるという問題がある。
特許文献6に記載の提案は、生石灰に替え、脱硫スラグを粉コークスと造粒し、固形燃料とするものであるが、脱硫スラグの事前処理について記載されていない。また、脱硫スラグを用い粉コークスと造粒する際の造粒性の調査に止まり、焼結鉱製造に及ぼす効果が記載されていない。
【0009】
表1に各種の製鋼スラグの化学組成を示す。
製鋼スラグの中でも、特に、脱硫スラグは、金属鉄、遊離CaO及びSが高く、道路用材、土木用材などの利用は難しく、製鉄所内でリサイクルする方策が望まれている。
【0010】
【表1】
【0011】
脱硫スラグを製鉄所内の焼結鉱製造プロセスで、再利用するには、遊離CaO及び金属鉄を有用に活用するために適切な事前処理が必要である。また、Sは、焼結プロセス内の脱硫工程で除去する設備能力が必要である。
本発明の目的は、脱硫スラグに含まれる遊離CaO及び金属鉄を有効に活用する脱硫スラグを用いた焼結鉱の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、脱硫スラグを微粉砕することにより、焼結製造工程で、金属鉄の特性を有効に活用でき、かつ、遊離CaOを有効に活用できることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0013】
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
【0014】
(1)脱硫スラグを0.5mm乃至1.5mmの範囲内の分級点で篩分けし、
前記篩分け後の篩上スラグを前記分級点以下に破砕し、
前記破砕した破砕スラグと、前記篩分け後の篩下スラグを混合して焼結鉱の製造に用いる
(ただし、脱硫スラグとそれ以外の原料とに分けてそれぞれを別々に造粒する場合を除く)ことを特徴とする脱硫スラグを用いた焼結鉱の製造方法。
(2)(1)に記載の焼結鉱の製造方法において、
前記破砕スラグから磁力選鉱により金属鉄を除去し、金属鉄を除去した破砕スラグと、前記篩分け後の篩下スラグを混合して焼結鉱の製造に用いることを特徴とする脱硫スラグを用いた焼結鉱の製造方法。
(3)(1)又は(2)に記載の焼結鉱の製造方法において、
前記脱硫スラグが、KRスラグであることを特徴とする脱硫スラグを用いた焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脱硫スラグを微粉砕し、焼結鉱製造に用いることで、脱硫スラグに含まれる遊離CaO及び金属鉄を有効に活用し、製鉄プロセスで再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】脱硫スラグの磁着物と非磁着物の粒度分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(脱硫スラグについて)
脱硫スラグとは、溶銑の脱硫工程で発生するスラグである。溶銑脱硫には、KR処理方式、インジェクションガス吹き込み方式、等がある。
KR処理方式とは、溶銑と脱硫剤(主にCaO)をインペラにより機械的に攪拌して両者を反応させる脱硫方式である。
図1は、KR脱硫処理を説明する。溶銑3と脱硫剤2をインペラ1で攪拌して、脱硫する。
【0018】
インジェクションガス吹き込み方式は、インジェクションガスとともに粉末の脱硫剤(主にCaO)を溶銑に吹き込む方式である。例えば、トーピードカーに収容された溶銑中にランスを浸漬し、インジェクションガスとともに粉末のCaO系脱硫剤を溶銑に吹き込む。
【0019】
KR処理方式及びインジェクションガス吹き込み方式の脱硫反応は生石灰(CaO)による式(1)により行われる。
CaO+[S]=CaS+1/2O
2 ・・・(1)
脱硫プロセスは反応効率が低く、脱硫後のスラグには、未溶融のCaO粉が大量に残留する。脱硫剤は、溶銑中を浮上して脱硫スラグとなり、集められる。溶銑温度が1300〜1500℃と低温であるのに対し、CaOの融点は約2700℃と高いので、脱硫剤として溶銑中に吹き込んだCaO分の多くは、溶解せず、細かい粒子状のフリーCaOがそのまま脱硫スラグとなる。あるいは、脱硫スラグとしての回収時あるいは回収後の散水によって一部又は大部分がCa(OH)
2の形で存在している。
脱硫処理は、溶銑と脱硫剤の攪拌により行われるので、スラグ中に溶銑が巻き込まれ、脱硫スラグは、多くの金属鉄を含有している。
【0020】
脱硫処理後、スラグは冷却され、固まって大塊と成る。ロッドミル等の破砕機により破砕後、磁力選鉱により、金属鉄が回収され、粒鉄として、高炉また製鋼プロセスの原料と成る。脱硫スラグ部分のうち、略−10mm部分が、焼結用原料となり、焼結鉱製造に用いられる。本明細書においては、以下、脱硫スラグのうち−10mmの焼結鉱製造用の脱硫スラグを「脱硫スラグ」と略する。
【0021】
(脱硫スラグの特性)
以下、脱硫スラグのうち、主に、KR脱硫スラグについて述べるが、インジェクションガス吹き込み脱硫スラグについても、略同様である。
図2に焼結用原料に用いられるKR脱硫スラグの粒度分布を示す。粒径1mm以上が50%あり、5mm以上も15%含まれている。
図3に脱硫スラグを磁選した際の磁着物と非磁着物の粒度分布を示す。磁着物は、粒度が大きく、非磁着物は、粒度が小さい。
表2に粒度別の化学組成を示す。金属鉄は、粒径1mm以上に多く、遊離CaOは、粒径1mmm以下に多く含まれている。
【0023】
[第一の実施形態]
本発明の第一の実施形態は、脱硫スラグを0.5mm乃至1.5mmの範囲内の分級点で篩分けし、篩分け後の篩上スラグを破砕機により前記分級点以下に破砕し、破砕スラグと篩下スラグを混合して焼結鉱の製造に用いる焼結鉱の製造方法である。
脱硫スラグを分級し、粗粒を破砕する。分級点は、0.5mm乃至1.5mmとするが、略1.0mm程度が好ましい。分級点に幅を持たせた理由は、脱硫スラグの成分変動によって金属鉄分を効率的に分級する分級点が変動するためである。これに対応して、分級点は、0.5mm乃至1.5mmとした。
【0024】
脱硫スラグは、焼結製造工程の原料としてリサイクルすると、遊離CaOを含むため、それが生石灰(造粒剤)に代替することができるというメリットがある。また、金属鉄を含むため、その燃焼発熱により、固体燃料(粉コークス)を削減できるというメリットもある。
【0025】
しかし、粗粒金属鉄は、焼結工程で、かえって、デメリットとなると考えた。脱硫スラグの粗粒を破砕するのは、粗粒の金属鉄を破砕するためである。金属鉄を破砕するのは、以下の理由による。
焼結充填層中の金属鉄は、燃焼により酸化・発熱し、FeO融液が多量に発生し、金属鉄の周囲の熱間通気性の悪化や「むら焼け」の発生につながる。
そして、脱硫スラグに含まれる粗粒金属鉄は、粗粒であるため、焼結充填層の下層に充填されやすく、下層に充填された粗粒金属鉄が、局所的に下層の熱間通気性の悪化を引き起こす。
そこで、脱硫スラグに含まれる金属鉄の酸化発熱反応による熱の享受を生かしつつ、熱間通気性の悪化を抑制するには、粗粒の金属鉄を破砕し、細粒化することが重要であると考えた。
【0026】
本発明により、金属鉄の発熱に対応する凝結材(粉コークス)を減少させることもでき、コスト改善効果を発揮するとともに凝結材由来のNox、Sox低減にも寄与することができる。そして、細粒部の遊離CaOは、従来技術のとおり、生石灰の削減が可能となる。
【0027】
[第二の実施形態]
本発明の第二の実施形態は、破砕スラグから磁力選鉱により金属鉄を除去し、金属鉄を除去した破砕スラグと、分級後の篩下スラグを混合して焼結鉱の製造に用いる。
前述のとおり、脱硫スラグに含まれる金属鉄は、発熱に対応する凝結材(粉コークス)を削減できるメリットがあるとともに、熱間通気性の悪化を引き起こすというデメリットを合わせ持つ。そこで、第二の実施形態は、破砕スラグから磁力選鉱により金属鉄を除去し、焼結充填層に金属鉄を持ち込まない形態である。
磁力選鉱により得られた金属鉄は、成型し、高炉又は製鋼用の原料にすることができる。
【実施例】
【0028】
(脱硫スラグの分級、磁力選別試験)
図4は、脱硫スラグの事前処理を説明する。使用したKR脱硫スラグの化学組成を表3の上欄に試料として示す。試料には、金属鉄が多く含まれていた。
【0029】
【表3】
(単位:質量%)
【0030】
KR脱硫スラグの試料1kgを目開き1mmの篩4により、篩上(+1mm)と篩下(−1mm)に篩分けた。さらに、篩上(+1mm)は、破砕機5により−1mmに破砕した。篩上の破砕粉と篩下(−1mm)とを合わせ、未磁選スラグとし、磁選機6により磁力選鉱して、磁選鉄と非磁着スラグに分けた。磁選鉄は0.36kg回収され、残部の非磁着スラグは0.64kgであった。非磁着スラグの化学組成を表3の下段に示す。磁選鉄が回収された分、金属鉄分の低下とスラグ成分の上昇がみられた。
【0031】
(焼結焼成試験)
焼結鍋試験を行い、効果の確認を行った。
焼結鍋試験は、それぞれの条件において指定の配合比率に試料を調整した後、1,000mmφのドラムミキサーを用いて1分間の混合と4分間の造粒操作を行った後、得られた造粒物を300mmφの焼結鍋に層厚600mmで装入し12.0kPa一定の条件で焼成した。
【0032】
比較例は、KR脱硫スラグを事前処理せずにそのまま使用した(KR脱硫スラグ有姿)。
実施例1は、篩上(+1mm)を粉砕後、篩下(−1mm)とあわせた未磁選スラグを使用した(KR脱硫スラグ粉砕・金属鉄含有)。本発明第一の実施形態である。
実施例2は、前記未磁選スラグから磁力選鉱により磁着鉄を除去した非磁着スラグを使用した(KR脱硫スラグ粉砕・金属鉄除去)。本発明第二の実施形態である。
【0033】
試験結果を表4に示す。
実施例1で、KR脱硫スラグを粉砕することにより、遊離CaOと粉砕金属鉄の効果により、焼結歩留が向上した。実施例2の焼結歩留が実施例1より低下したのは、粉砕金属鉄の効果が除去されたためと考えられる。
【0034】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0035】
脱硫スラグを事前処理し、焼結鉱製造に用い、製鉄プロセスで再利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…インペラ、2…脱硫剤、3…溶銑、4…篩、5…破砕機、6…磁選機。