特許第6201746号(P6201746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201746
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】織物及びそれを備える成形体
(51)【国際特許分類】
   D03D 1/00 20060101AFI20170914BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   D03D1/00 Z
   B32B5/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-270192(P2013-270192)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-124455(P2015-124455A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 寛貴
(72)【発明者】
【氏名】國貞 秀明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光義
(72)【発明者】
【氏名】志和 晋
(72)【発明者】
【氏名】田中 康介
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−105137(JP,A)
【文献】 特開平03−033261(JP,A)
【文献】 特開昭63−012781(JP,A)
【文献】 特開昭60−155446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00−27/18
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に積層された状態でのコールドプレス成形に適した合成繊維の織物であって、
[経糸繊度(dtex)×経密度(本/inch)+緯糸繊度(dtex)×緯密度(本/inch)]で算出される値が33000以下であり、
前記合成繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維又はポリトリメチレンテレフタレート繊維であり、
前記経糸繊度及び前記緯糸繊度が、いずれも70〜300dtexであり、且つ略同一であり、前記経密度及び前記緯密度が、いずれも70〜200本/inchであり、且つ略同一であることを特徴とする織物。
【請求項2】
前記値が10000〜33000である請求項1に記載の織物。
【請求項3】
前記合成繊維は、紡糸時の巻取速度が2500〜4500m/分の半延伸糸であり、乾熱処理されている請求項1又は2に記載の織物
【請求項4】
基材に積層された状態でのコールドプレス成形に適した合成繊維の織物であって、[経糸繊度(dtex)×経密度(本/inch)+緯糸繊度(dtex)×緯密度(本/inch)]で算出される値が33000以下であり、
前記合成繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維又はポリトリメチレンテレフタレート繊維である前記織物と、前記基材とが接合されてなり、車両用内装材であることを特徴とする成形体。
【請求項5】
前記値が10000〜33000である請求項4に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は織物及びそれを備える成形体に関する。更に詳しくは、本発明は、経糸及び緯糸の各々の繊度と、経方向及び緯方向のそれぞれの糸密度とに基づいて、特定の式により算出される値が所定値以下であり、コールドプレス成形に適した織物、並びにこの織物が基材に接合されてなり、織物の残留応力による、成形体の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれを生じることのない成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表皮材、芯材等を備える車両用内装材が知られている。例えば、不織布、織物、編物等からなる表皮材、及びポリウレタンやポリオレフィンの発泡体からなる芯材などを備える車両用内装材が、表皮材等を予熱後、コールドプレスする成形方法などにより得られることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、車両用内装材をコールドプレスにより成形する方法は知られている。しかし、コールドプレスでは、表皮材及び芯材が予め加熱され、その後、常温又は冷却された成形型によってプレス成形される。この場合、編物では、ループ構造が変形することで、伸長されるため、残留応力は小さい。また、不織布では、絡み合い構造が一旦溶け、賦形後に再固定されるため、残留応力は小さい。一方、織物では、バイアス方向は構造的に伸長し易いが、タテ、ヨコ方向は糸自体が引っ張られて伸長するため、表皮材が破れてしまうか、成形により伸長された表皮材の残留応力が大きくなり、この残留応力によって内装材そのものが変形したり、基材からの表皮材の浮き、剥がれが生じたりすることがある。
【0005】
本発明は、上述の従来の状況に鑑みてなされたものであり、織物の経糸の繊度と経方向の糸密度、及び緯糸の繊度と緯方向の糸密度に基づいて、特定の式により算出される値が所定値以下であり、コールドプレス成形に適した織物、並びにこの織物が基材に積層されてなり、織物の残留応力により、成形体そのものが変形したり、織物が基材から浮いたり、剥離したりすることがない成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
車両用内装材等の成形体として、樹脂発泡体からなる基材と、織物からなる表皮材とを、接合層を介して接合させた積層体を、所定形状に賦形してなる成形体が知られている。成形方法としては、コールドプレス成形、ホットプレス成形などが知られている。これらの成形方法のうち、ホットプレス成形では、高温に設定された成形型が用いられるため、成形体の変形部等で織物が伸長されても残留応力が過度に大きくなることはない。
【0007】
一方、コールドプレス成形では、基材及び織物が接着剤層とともに予め加熱され、その後、常温又は冷却された成形型により成形されつつ冷却されるため、織物が伸長されたときの残留応力が大きくなる。このように織物の残留応力が大きい場合、成形後、基材から織物が浮いてしまったり、剥がれたりすることがある。また、接合力が大きいときは成形体が変形してしまうこともある。そこで、このようなコールドプレス成形における問題点を検討した。その結果、経糸、緯糸の各々の繊度、及び経方向、緯方向のそれぞれの糸密度を低めに設定するとともに、繊度及び糸密度に基づく特定の式により算出される数値を所定値以下とすることにより、上述の問題点が解消され得ることが見出された。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0008】
本発明は以下のとおりである。
1.基材に積層された状態でのコールドプレス成形に適した合成繊維の織物であって、
[経糸繊度(dtex)×経密度(本/inch)+緯糸繊度(dtex)×緯密度(本/inch)]で算出される値が33000以下であり、
前記合成繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維又はポリトリメチレンテレフタレート繊維であり、
前記経糸繊度及び前記緯糸繊度が、いずれも70〜300dtexであり、且つ略同一であり、前記経密度及び前記緯密度が、いずれも70〜200本/inchであり、且つ略同一であることを特徴とする織物。
2.前記値が10000〜33000である前記1.に記載の織物。
3.前記合成繊維は、紡糸時の巻取速度が2500〜4500m/分の半延伸糸であり、乾熱処理されている前記1.又は2.に記載の織物
4.基材に積層された状態でのコールドプレス成形に適した合成繊維の織物であって、[経糸繊度(dtex)×経密度(本/inch)+緯糸繊度(dtex)×緯密度(本/inch)]で算出される値が33000以下であり、
前記合成繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維又はポリトリメチレンテレフタレート繊維である前記織物と、前記基材とが接合されてなり、車両用内装材であることを特徴とする成形体。
5.前記値が10000〜33000である前記4.に記載の成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の織物は、基材に積層された状態でのコールドプレス成形に適した合成繊維の織物である。そして、経糸繊度と経密度との積と、緯糸繊度と緯密度との積との和が所定値以下である。
このような構成とされていると、基材に積層された状態でのコールドプレス成形における織物の残留応力が抑えられる。これにより、成形体としたときに、成形体の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれを生じることがない。
また、合成繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維である場合は、強度等に優れた織物とすることができ、成形も容易である。
本発明の成形体は、本発明の織物と、基材とが接合されてなる。
このような構成とされていると、コールドプレス成形したときでも、成形体の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれが防止される。
更に、成形体、車両用内装材であ、天井材、ドアトリム等の変形部を有する各種の成形体とすることができる。そして、特に変形部における基材からの織物の浮き、剥がれが十分に防止される。また、織物の残留応力による内装材の変形もない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】乾熱処理の方法の一例を説明するための模式的な説明図である。
図2】車両用天井材の前後左右方向及び変形量の測定ポイントAを表す説明図である。
図3】測定ポイントAにおける天井材の端末の変形方向及び変形量を表す説明図である。
図4】織物等を用いたコールドプレス成形を模した引張試験における時間と応力との相関を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照しながら、本発明を詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0012】
1.織物
本実施形態の織物は、基材に積層された状態でのコールドプレス成形に適した合成繊維の織物である。また、[経糸繊度(dtex)×経密度(本/inch)+緯糸繊度(dtex)×緯密度(本/inch)]で算出される値(以下、「dD値」と表記する。)が33000以下である。
【0013】
(1)合成繊維
織物に用いる合成繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維等のポリエステル系繊維が挙げられる。また、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維等のポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン系繊維などの各種の合成繊維が挙げられる。これらの繊維のうちでは、強度が大きく、優れた耐久性等を有するポリエステル系繊維、特にPET繊維が好ましく、本発明では、PET繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維又はポリトリメチレンテレフタレート繊維を用いる
【0014】
合成繊維は、未延伸糸でもよく、半延伸糸でもよく、これらが混合されている混合糸でもよい。未延伸糸であるか半延伸糸であるかは、紡糸時の巻取速度によって区別することができる。例えば、PET繊維では、400m/分から2500m/分未満までである場合を未延伸糸とし、巻取速度が概ね2500〜4500m/分である場合を半延伸糸とすることができる。この糸としては、半延伸糸を用いることが糸の取扱性がよく好ましい。未延伸糸及び半延伸糸は、紡糸後に延伸された延伸糸と比べて低応力で応力の増加とともに少しづつ伸びが増加する。そのため、未延伸糸及び/又は半延伸糸を用いてなる織物は、成形体の成形時に賦形し易く、成形体の製造が容易である。
【0015】
未延伸糸又は半延伸糸は、織物として熱処理する際、大きく収縮することを防ぐために熱処理されて用いられる。熱処理の方法は特に限定されないが、例えば、図1に記載のように、糸を供給側[処理前の糸(1)参照]から巻取側[処理後の糸(3)参照]へと供給して熱処理する方法が挙げられる。この場合、糸を定長を保ちながら供給する熱処理でもよく、オーバーフィードに供給する弛緩熱処理でもよい。尚、図1において、符号(5)はヒータを意味し、符号(7)は供給用ローラを意味し、符号(9)は引取第1ローラを意味し、符号(11)は引取第2ローラを意味し、符号(13)は空気交絡装置を意味し、符号(15)、(17)、(19)はガイドを意味する。
【0016】
熱処理には乾式法と湿式法とがあるが、本実施形態では、乾式法、即ち、乾熱処理によって熱処理する。乾熱処理における温度は、半延伸糸等の材質、伸び率等にもより、特に限定されないが、図1のように非接触式の場合、通常、120〜260℃とすることができる。また、走行する糸が加熱雰囲気を通過する時間も、半延伸糸等の材質、伸び率等により、適宜調整されるが、通常、0.05〜1.2秒とすることができる。
【0017】
尚、湿式法の場合、例えば、捲芯等に捲回された未延伸糸又は半延伸糸に水蒸気を吹き付けたり、または、捲芯等に捲回された未延伸糸又は半延伸糸を熱処理浴に浸漬したりして熱処理される。しかしながら、これらの場合は、捲きの内側と外側とで伸び率等に差が生じることがある。そのため、本実施形態では、特に乾式法を選択して熱処理するものである。これによって、長さ方向に伸び率等の差がない、又は少なくとも差が小さい糸とすることができる。
【0018】
また、乾熱処理された糸は、交絡させてもよく、交絡させなくてもよいが、交絡させて集束性を向上させることが好ましい。交絡させた場合、複数の糸が複雑に絡み合った交絡糸とされる。交絡の方法としては、例えば、インターレース加工等の空気交絡が挙げられる。空気交絡では交絡時の流体噴射加工により糸収束性が向上する。更に、空気交絡では、走行する糸束に高圧空気が噴射され、間欠的に絡み合う。空気交絡の方法、条件は特に限定されず、一般的な方法、条件によって実施することができる。
【0019】
更に、乾熱処理された糸には、撚りを加えることもできる。撚りの方法は特に限定されず、既存の方法によって撚ることができる。撚機も特に限定されず、アップツイスター、ダウンツイスター及びダブルツイスターのいずれであってもよい。撚り方向はS及びZのいずれでもよく、それらをどのように組み合わせてもよい。撚糸の構成としては、1本の糸を撚ってもよく、複数本の糸を纏めて撚ってもよい。また、糸の繊度及び断面形状等もどのように組み合わせてもよい。更に、撚られる糸の形態は、マルチフィラメントでもモノフィラメントでもよいが、マルチフィラメントの場合に撚ることによる効果がより大きく発現される。
【0020】
(2)織物、繊度及び糸密度
織物の組織は特に限定されず、例えば、平織物、綾織物、朱子織物及びそれらの組み合わせ等の各種の織物とすることができる。また、合成繊維の繊度及び織物の糸密度は、織物が車両用内装材、例えば、天井材等の表皮材として用いられることを想定した場合、合成繊維の繊度は、70〜300dtexとする。更に、織物の糸密度は、経密度及び緯密度ともに、70〜200本/inchとする。このように、繊度及び糸密度ともに低めに設定し、且つdD値が33000以下となるようにすることで、コールドプレス成形に適した織物とすることができる。
【0021】
合成繊維の繊度、及び織物の糸密度は、dD値が33000以下である限り、上述の数値範囲内で組み合わせて設定することができるが、略同一の繊度の合成繊維を用いて、経密度及び緯密度ともに略同一の糸密度とする。このような織物であれば、製織が容易であり、織物の強度、伸び等の物性を向上させることができ、優れた外観を有する織物とすることができる。また、dD値は33000以下であるが、上述の繊度と糸密度とを勘案すると、dD値の下限値は10000とすることができる。従って、dD値は10000〜33000、特に12000〜33000とすることができる。
【0022】
(3)基材と織物との接合、成形方法
前述のdD値が33000以下である本実施形態の織物は、基材に積層された状態でのコールドプレス成形に適している。このコールドプレス成形では、(a)接着剤層が設けられた基材及び織物を加熱し、その後、基材の接着剤層が設けられた面と、織物表面とを対向させて積層し、次いで、冷間プレス機の成形型間に介装させ、加圧することにより成形することができる。また、(b)基材の接着剤層が設けられた面と、織物表面とを対向させて積層し、その後、この積層体を加圧加熱し、次いで、冷間プレス機の成形型間に介装させ、加圧することにより成形することもできる。更に、(c)基材と、織物との間に接着剤フィルムを介在させて積層し、その後、この積層体を加圧加熱し、次いで、冷間プレス機の成形型間に介装させ、加圧することにより成形することもできる。これらの成形方法のうち、(a)では、織物の加熱は積層された接着剤層の溶融を促進することを目的としているため、織物自体はそれほど高温には加熱されない。一方、(b)、(c)では、積層体を加圧加熱することで、織物自体が直接十分に加熱されるため、より高温になる。従って、(b)又は(c)の方法で成形することがより好ましい。
【0023】
また、接着剤層は織物の一面側に設けることもでき、接着剤を織物の一面側に付着させることもできる。更に、基材及び織物の各々の一面側に接着剤層を設け、それぞれの面を対向させて積層し、前述のようにして、コールドプレス成形等により接合させることもできる。
【0024】
上述のようにしてコールドプレス成形した場合でも、本実施形態の織物では、dD値が33000以下であるため残留応力が小さく、成形体の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれを生じることがない。
【0025】
本実施形態の織物はコールドプレス成形に適しているが、他の成形方法において用いることもできる。例えば、基材の接着剤層が設けられた面と、織物表面とを対向させて熱プレス機の成形型間に介装させ、加熱、加圧するホットプレス成形に用いることもできる。また、後述のように織物の一面側に樹脂が付着されているときは、樹脂が付着された面と、基材の接着剤層が設けられた面とを対向させて熱プレス機の成形型間に介装させ、加熱、加圧するホットプレス成形に用いることもできる。
【0026】
更に、本実施形態の織物は、基材をプレス成形により所定形状の予備成形体とし、その後、織物を予備成形体に沿うような形状にしつつ、同時に、接着剤等により、基材と織物とを接合する2ステップ工法において用いることもできる。ホットプレス成形の1種である2ステップ工法では、成形時の織物の温度を高くすることができるため、成形後の織物の残留応力は十分に小さく、本実施形態の織物は、コールドプレス成形に適しているとともに、2ステップ工法で用いることもできる。
【0027】
(4)基材の材質、物性
基材の材質は特に限定されない。例えば、(a)ガラス繊維等の無機繊維をポリプロピレン等の樹脂により結着させた基材、(b)ガラス繊維等の無機繊維からなるシートを、樹脂フォーム、特に半硬質ポリウレタンフォームの両面に接着性フィルムにより接合させてなる基材、(c)樹脂フォーム、特に半硬質ポリウレタンフォーム等からなる基材が挙げられる。また、コールドプレス成形では、(a)又は(b)の基材を用いることが好ましい。尚、半硬質ポリウレタンフォームからなる基材は、常法により発泡させ、成形したスラブフォームから所定寸法となるように切り出す等の方法により作製することができる。更に、樹脂フォームからなる基材としては、ポリウレタンフォームの他、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各種の汎用の熱可塑性樹脂を用いてなる硬質フォームを用いることもできる。また、ガラス繊維等の無機繊維が配合されたフォーム原料を用いてなる繊維強化樹脂フォームを用いることもできる。
【0028】
基材は、通常、シート状である。そして、基材と表皮材である織物とを接合させた場合、例えば、基材と織物とが積層された積層体を、成形し、接合させたときは、平板状の成形体となる。この平板状の成形体は、用途等によっては、そのまま用いることができる。しかし、成形体には所定の形状が付与されることが多い。このように所定の形状が付与された成形体は、深絞り等による変形部を有することが多い。このように成形体が変形部を有していても、dD値が33000以下である本実施形態の織物であれば、コールドプレス成形しても、基材の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれを十分に防止することができる。
【0029】
更に、コールドプレス成形しても、成形体の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれを防止する方法として、密度の高い基材、即ち、剛性の大きい基材を用いる方法が挙げられる。また、より硬度の高い材質からなる基材を用いる方法が挙げられる。このように、基材の物性面での対応も可能である。しかし、コスト高、及び成形体の重量増加等の問題もあるため、低コスト、軽量化等の観点も併せて検討し、採用することが好ましい。
【0030】
(5)接着剤層
接着剤層は特に限定されず、接着剤層の形成には各種の樹脂系接着剤等を用いることができる。この樹脂系接着剤としては、エチレン/アクリル酸共重合体、酸変性ポリエチレン樹脂等の接着性を有するポリオレフィン樹脂などを用いることができる。更に、ポリウレタン樹脂系接着剤を用いることもできる。また、ウレタン系、スチレン系等の熱可塑性エラストマー接着剤を用いることもできる。接着剤層の形態は特に限定されず、接着性熱可塑性樹脂フィルム及び接着性熱可塑性エラストマーフィルム等であってもよく、上述の各種の樹脂系接着剤を接着性成分として含有するエマルション、スラリー、ゲル状接着剤、パウダー状接着剤、及び発泡樹脂状接着剤等を用いてなる接着剤層であってもよい。
【0031】
2.成形体
本実施形態の成形体は、本実施形態の織物と、前述の基材とが接合されてなる。成形体の成形方法としては、前述のように、コールドプレス成形、ホットプレス成形があるが、本実施形態の成形体は、コールドプレス成形した場合でも、成形体の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれを生じることがない。
【0032】
乾熱処理された後、製織された織物、交絡されてなる糸を用いて製織された織物、及び撚糸を用いて製織された織物は、このままでも基材に接合させて表皮材として用いることができる。この場合、基材の一面側に設けられた接着剤層等により、織物を基材に接合させ、成形体を製造することができる。しかし、織物には空隙が多く、特に撚糸を用いて製織された織物は、より空隙が多い。そのため、織物をそのまま用いたときは、成形体の製造時等に取り扱い難いこともある。また、基材と織物とを十分に強固に接合させることができない場合もある。更に、基材の一面側に設けられた接着剤層が溶融、流動し、織物の表面に滲み出し、成形体の外観が損なわれることもある。
【0033】
そのため、基材に設けられた接着剤層に接合される織物の、基材に接合される一面側に、樹脂が少なくとも付着していることが好ましい。この場合、樹脂が接着剤層に混入し、基材と織物とがより強固に接合される。また、基材に接合される織物に樹脂が付着していると、仮に基材の一面側の接着剤層が溶融、流動した場合であっても、樹脂が堤防となって接着剤層が織物の表面に滲み出し、成形体の外観が損なわれることを防止することができる。また、樹脂により、裁断したときの毛羽立ちが殆どなく、毛羽立ちを処理するための後加工を省略することもできる。尚、樹脂が少なくとも付着しているとは、樹脂が織物の一面側の表面に付着しているか、付着しているとともに樹脂の一部が織物の一面側に含浸されていることを意味する。
【0034】
また、例えば、成形体が車両用天井材である場合、周縁部等の変形部において、織物は20〜90%、特に30〜80%伸張されて基材に接合されていることが多い。織物が20〜90%伸張されて基材に接合されておれば、成形後の成形体における皺の発生が防止される。また、過度に伸張され、変形部で織物が薄くなり過ぎてしまうこともない。一方、上述のように、織物が伸長するような場合、織物の残留応力が大きいときは、成形体の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれ等を生じ得るが、dD値が33000以下である本実施形態の織物であれば、そのようなことを防止することができる。
【0035】
更に、成形体の用途は車両用の内装用成形体である。車両としては、乗用車、バス、トラック等の他、鉄道車両、建設車両、農業車両、産業車両などが挙げられる。また、この成形体は、特に乗用車、バス、トラック等の天井、ドアトリム、インストルメントパネル、ピラー、サンバイザ、パッケージトレーなどとして有用である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1〜6及び比較例1〜6(織物及びそのdD値)
PET繊維を用いてなり、図1のようにして弛緩熱処理した弛緩熱処理糸を空気交絡させ、その後、撚りを加えて、表1に記載の実施例1〜6及び比較例1〜6の繊度のマルチフィラメントを得た。次いで、このマルチフィラメントを使用し、表1に記載の経密度及び緯密度で平織物を製織した。また、繊度、経密度及び緯密度に基づいてdD値を算出した。その結果、dD値は、表1に記載されているように、実施例1〜6では14784〜32736であった。一方、比較例1〜6では44352〜88704であった。
【0037】
【表1】
【0038】
表1によれば、実施例1〜6ではdD値が33000以下である。従って、これらの織物を用いてコールドプレス成形により成形体を製造した場合、織物の残留応力が小さく、成形体の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれが防止される。
【0039】
実施例7〜8及び比較例7(成形体である車両用天井材の製造)
実施例2、3の織物、及び比較例3の織物を使用し、これらの織物と、ガラス繊維をポリプロピレンにより結着させてなり、厚さ3mm、目付け625g/mであって、一面側にウレタン系接着剤層が設けられた基材を、織物は130℃、基材側は接着剤層の温度が200℃になるまで加熱した。その後、基材の接着剤層が設けられた面と、織物表面とを対向させて積層した。次いで、加熱された積層体を20℃に調温された成形型内に27秒間載置し、コールドプレス成形した[前述の(a)の成形方法]。また、基材の接着剤層が設けられた面と、織物表面とを対向させて積層し、その後、接着剤層の温度が200℃になるまで加熱し、次いで、(a)と同様にしてコールドプレス成形した[前述の(b)の成形方法]。このようにしてコールドプレス成形し、次いで、成形品を型内から取り出し、全外周をトリミングし、車両用天井材を製造した(実施例2の織物を用いた天井材が実施例7、実施例3の織物を用いた天井材が実施例8,比較例3の織物を用いた天井材が比較例7である。)。
【0040】
上述のようにして製造した車両用天井材を、負荷が加わらないにして平坦面上に静置した。その後、各々の天井材を変形量測定用治具に載置し、天井材の周縁部における変形量を測定した。尚、周縁部のうちでも特に変形し易い部位である、図2の測定ポイントAにおける面方向及び厚さ方向の変形量を表2に記載する。尚、この部位における変形量が、天井材を変形量測定用治具に載置したときの位置から±2.0mm(目標値)以内であれば、実用上、何ら問題のない天井材である。また、測定ポイントAにおける天井材の端末の形状及び+、−で表されている変形の方向は、図3に図示されているとおりである。選択される測定ポイントは型の形状にもよるが、天井型では、変形し易く、変形量が大きい部位に位置する測定ポイントAを選択し、このポイントにおける変形量を代表値として測定した。
【0041】
【表2】
【0042】
表2によれば、dD値が45332である比較例3の織物を用いた天井材である比較例7では、前述の(a)及び(b)のいずれの成形方法でも、面方向及び厚さ方向の変形量がともに目標値を大きく超えており、劣っていることが分かる。一方、dD値が33000以下である実施例2、3の織物を用いた天井材である実施例7、8では、前述の(a)及び(b)のいずれの成形方法でも、面方向及び厚さ方向の変形量がともに目標値を下回っており、優れていることが分かる。特に、(b)の成形方法では、変形量は目標値を大きく下回っており、特にdD値がより小さい実施例3の織物を用いた実施例8では、変形量がより小さく、(b)の成形方法が好ましいことが裏付けられている。
【0043】
実験例1〜5
コールドプレス成形における残留応力を想定し、オートグラフ試験機を用いて、織物等の引張試験をしたときの、時間と応力との相関を検討した。結果は図4のとおりである。用いた試料は、表1の比較例3の織物(実験例1)、実施例1の織物(実験例2)、実施例3の織物(実験例3)、実施例2の織物(実験例4)、及び不織布(実験例5)である。具体的な試験方法は、長さ200mm、幅50mmの試片をチャック間距離100mmにてセットし、コールドプレス時の織物等の伸長を想定して、80℃に調温された恒温槽中で1分間加熱し、その後、A点までは、恒温槽に入れたまま200mm/分の引張速度で40%伸長させた。次いで、A点からB点までは、コールドプレス時の圧着、冷却を想定して80℃で30秒間保持し、その後、B点からC点までは、成形後の除圧、放冷を想定し、試片から恒温槽を取り外し、室温(20〜25℃)で30秒間放冷させた。
【0044】
5種類の試料のうち実験例5の不織布は、従来、車両用の天井材の表皮材として用いられ、コールドプレス成形しても、成形体の変形、及び基材からの浮き、剥がれを生じないことが確認されている不織布である。従って、除圧、空冷後の応力が試料5より小さい織物であれば、コールドプレス成形に用いても、成形後、成形体の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれ等を生じないものと推察される。図4によれば、実験例2、3、4では、除圧、空冷後の応力が実験例5より小さいため、成形体の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれ等を生じることはない。一方、除圧、空冷後の応力が実験例5より大きい実験例1では、成形体の変形、及び基材からの織物の浮き、剥がれが発生する。
尚、除圧、空冷後の残留応力が実験例5より小さく、且つ実験例5に最も近似している実験例4では実施例2の織物が用いられている。また、表2のように、変形量が目標値により近似している実施例7の天井材では実施例2の織物が用いられている。そして、実施例2の織物のdD値が略33000であることに基づいて、本実施形態の織物では、dD値の上限値を33000とした。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、成形体の表皮材として用いることができる織物、及び基材に織物が接合されてなり、車両の内装用の成形体の技術分野において利用することができ、特に成形体をコールドプレスにより成形するときに有用である。
【符号の説明】
【0046】
1;処理前の糸、3;処理後の糸、5;ヒータ、7;供給用ローラ、9;引取第1ローラ、11;引取第2ローラ、13;空気交絡装置、15、17、19;ガイド。
図1
図2
図3
図4