(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂層(X)を有する積層ポリエステルフィルムであって、前記樹脂層(X)が、カーボンナノチューブ(a)とカーボンナノチューブ分散剤(b)を含む塗料組成物(x)から形成された層であり、前記塗料組成物(x)中のカーボンナノチューブ(a)の含有量が、塗料組成物(x)中の固形分重量に対して0.05重量%以上、10重量%以下であり、湿熱処理試験前の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値をP1(Ω/□)、湿熱処理試験後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値をP2(Ω/□)としたとき、下記式1を満足する積層ポリエステルフィルム。
P2/P1≦100 (式1)
前記塗料組成物(x)はさらに架橋剤(c)を含み、該架橋剤(c)がオキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤からなる群のうち少なくとも1種類を含む架橋剤であることを特徴とする、請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
前記カーボンナノチューブ分散剤(b)が水溶性セルロースおよび/または水溶性セルロース誘導体であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
前記塗料組成物(x)が、カーボンナノチューブ分散剤(b)を、塗料組成物(x)中の固形分重量に対して0.1重量%以上、15重量%以下含有し、かつ塗料組成物(x)中に含有するカーボンナノチューブ(a)とカーボンナノチューブ分散剤(b)の含有量の比率(b)/(a)が0.5以上、15.0以下である請求項1〜3のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
前記塗料組成物(x)が、架橋剤(c)を塗料組成物(x)中の固形分重量に対して20重量%以上、80重量%以下含有する請求項2〜4のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
前記架橋剤(c)中、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤の占める割合が、架橋剤(c)全体に対して、50重量%以上、100重量%以下である請求項2〜5のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
前記樹脂層(X)が、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂の少なくとも1種の樹脂を含む塗料組成物(x)から形成されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
前記カーボンナノチューブ(a)が直線もしくは屈曲形の単層カーボンナノチューブ、直線もしくは屈曲形の2層カーボンナノチューブ、直線もしくは屈曲形の多層カーボンナノチューブのいずれか、又はそれらの組み合わせからなる請求項1〜10のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
請求項1〜11のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムの少なくとも片面に、カーボンナノチューブ(a)とカーボンナノチューブ分散剤(b)を含む塗料組成物(x)を塗布し、その後ポリエステルフィルムを一軸または二軸延伸法によって延伸し、ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させる工程を含む積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂層(X)を有する積層ポリエステルフィルムであって、前記樹脂層(X)が、カーボンナノチューブ(以下、CNTと表記)(a)とCNT分散剤(b)を含む塗料組成物(x)から形成された層であり、前記塗料組成物(x)中のCNT(a)の含有量が塗料組成物(x)を構成する樹脂に対して0.05重量%以上、10重量%以下であり、湿熱処理試験前の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値P1(Ω/□)と、湿熱処理試験後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値P2(Ω/□)が式1を満足する積層ポリエステルフィルムである。
【0012】
<基材となるポリエステルフィルム>
本発明の積層ポリエステルフィルムには、基材となるポリエステルフィルム(基材フィルム)の少なくとも片面に樹脂層(X)が設けられている。
【0013】
本発明において基材となるポリエステルフィルムを構成するポリエステルとは、ジカルボン酸とジオールの重縮合によって生成するエステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称である。好ましいポリエステルとしては、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、および1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどから選ばれた少なくとも1種のジカルボン酸を主要構成樹脂とするものが挙げられる。これら構成樹脂は、1種のみ用いても2種以上併用してもよい。
【0014】
なお、本発明の積層ポリエステルフィルムに用いられる基材フィルムは、単層フィルムであっても2層以上の積層フィルムであってもよい。例えば、内層部と表層部とを有する複合体フィルムであって、内層部に実質的に粒子を含有せず、表層部のみに粒子を含有させた層を設けた積層フィルムを挙げることができる。
【0015】
また本発明では、複数の樹脂からなる積層フィルムであって、樹脂Pからなる層(P層)と樹脂Qからなる層(Q層)を交互に30層以上積層した構造であることが好ましい。更には樹脂Pがポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートであり、樹脂Qがスピログリコールまたはシクロヘキサンジメタノールを含むポリエステルであることが好ましい。ただし、上記の条件を満たすフィルムであれば、公知のフィルムを用いても良い。
【0016】
本発明において、積層ポリエステルフィルムは、成形性の観点から、150℃における長手方向および幅方向の100%伸長時の応力(以下、100%伸長時の応力をF−100値と記す。)が10MPa以上70MPa以下であることが好ましい。本発明の積層ポリエステルフィルムは、150℃におけるフィルムの長手方向および幅方向のF−100値を上記範囲とすることで成形性に優れたものとなる。そのため、真空成形、真空圧空成形、インモールド成形、インサート成形、プレス成形、絞り成形などの各種成形において、任意の形状に成形することが容易となる。また、透明性、印刷層との接着性、帯電防止性、更には成形加工後の接着性、帯電防止性にも優れるため、成形加工後の美観が求められる携帯電話やパソコンなどの筐体に特に好適に用いることができる。
【0017】
積層ポリエステルフィルムの150℃におけるフィルムの長手方向および幅方向のF−100値が10MPa未満である場合、次の問題が生じ、成形加飾用フィルムとして使用できないことがある。例えば、成形加工の予熱工程において、フィルムが変形、破断する問題、たるみによる成形不良などの問題が挙げられる。一方、70MPaを超えると、熱成形時に変形が不十分となり、成形加飾用フィルムとしての使用に耐えないものとなる恐れがある。
【0018】
積層ポリエステルフィルムの150℃における長手方向および幅方向のF−100値を上記範囲とするためには、基材フィルムの150℃における長手方向および幅方向のF−100値を10MPa以上70MPa以下とすることなどが挙げられる。基材フィルムの150℃における長手方向および幅方向のF−100値を10MPa以上70MPa以下とするには、基材フィルムに用いられるポリエステルとして、ジカルボン酸としてテレフタル酸とシクロヘキサンジカルボン酸、および/または、2,6−ナフタレンジカルボン酸とシクロヘキサンジカルボン酸を用い、ジオール成分としてエチレングリコールを用いて得られるポリエステルや、ジカルボン酸としてテレフタル酸、および/または、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分としてエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールを用いて得られるポリエステルや、上記のジカルボン酸、ジオールのエステル形成性誘導体から得られるポリエステルなどが挙げられる。
【0019】
なお、基材となるポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤および架橋剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0020】
また、本発明の基材となるポリエステルフィルムとして、二軸配向ポリエステルフィルムを用いることが好ましい。ここで、「二軸配向」とは、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。二軸配向ポリエステルフィルムは、一般に、未延伸状態のポリエステルシートをシート長手方向および幅方向に各々2.5〜5倍程度延伸し、その後、熱処理を施し、結晶配向を完了させることにより得ることができる。
【0021】
本発明の基材となるポリステルフィルムの層厚みは、用途に応じて適宜選択されるが、通常好ましくは10〜500μmであり、より好ましくは20〜300μmである。
【0022】
<樹脂層(X)(易接着層)>
本発明の樹脂層(X)は、CNT(a)とCNT分散剤(b)を含む塗料組成物(x)から形成された層であり、前記塗料組成物(x)中のCNT(a)の含有量が塗料組成物(x)を構成する樹脂に対して0.05重量%以上、10重量%以下である必要がある。
【0023】
かかる樹脂層(X)とすることで、該樹脂層(X)をポリエステルフィルムの少なくとも片面に有する積層ポリエステルフィルムは、透明性、印刷層やハードコート層との接着性、帯電防止性に優れ、かつ湿熱処理後や成形加工後の接着性や帯電防止性にも優れる。
【0024】
以下、本発明の積層ポリエステルフィルムにて用いられる樹脂層(X)について説明する。
【0025】
(1)樹脂層(X)
本発明の樹脂層(X)は、湿熱処理試験前の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値をP1(Ω/□)、湿熱処理試験後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値をP2(Ω/□)としたとき、式1を満足することが必要である。
P2/P1≦100 (式1)
なお、ここでいう湿熱処理とは、積層ポリエステルフィルムを温度85℃、相対湿度85%の環境下に240時間曝す処理のことである。湿熱処理試験前後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値の測定方法については後述する。
【0026】
P2/P1が100を超える場合は、湿熱処理後の接着性、帯電防止性が悪化し、実用上問題がある。また、P2/P1は0.1以上、100以下であることが好ましい。より好ましくは、0.1以上、50以下である。
【0027】
P2/P1が式1を満足させる方法としては、CNT(a)とCNT分散剤(b)を含有する塗料組成物(x)から樹脂層を形成せしめた後、該樹脂層をイオン交換水に浸して樹脂層からCNT分散剤(b)を除去し、樹脂層(X)を得る手法が挙げられる。また、別の手法としては、CNT(a)とCNT分散剤(b)を含有し、かつ、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤からなる群のうち少なくとも1種類を含む架橋剤(c)を含む塗料組成物(x)から樹脂層(X)を形成せしめ、かつ塗料組成物(x)に含まれるCTN分散剤(b)として水溶性セルロースおよび/または水溶性セルロース誘導体を用いる手法が挙げられる。
【0028】
この中でも、少ない工程数でP2/P1が式1を満足させることができることから、CNT(a)をとCNT分散剤(b)を含有し、かつ、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤からなる群のうち少なくとも1種類を含む架橋剤(c)を含む塗料組成物(x)から樹脂層(X)を形成せしめ、かつ、樹脂層(X)に含まれるCTN分散剤(b)として水溶性セルロースおよび/または水溶性セルロース誘導体を用いる手法が好ましい。詳しくは後述する。
【0029】
(2)CNT(a)
本発明では、樹脂層(X)を形成する塗料組成物(x)に、CNT(a)を含む必要がある。本発明でいうCNTとは炭素原子だけで構成されたハニカム構造のグラフェンシートが円筒状に丸まったシームレス(継ぎ目のない)チューブのことを指し、実質的にグラフェンシートを1層に巻いたものを単層CNT、2層に巻いたものを2層CNT、3層以上の多層に巻いたものを多層CNTという。本発明に用いられるCNT(a)は、直線又は屈曲形の単層CNT、直線又は屈曲形の2層CNT、直線又は屈曲形の多層CNTのいずれか、又は、それらの組み合わせたものであることが好ましい。
【0030】
なお、ハニカム構造とは、主として六員環からなるネットワーク構造を指すが、CNTの構造上、チューブの屈曲部分や断面の閉塞部分に五員環や七員環などの六員環以外の環状構造を有していても良い。
【0031】
本発明に用いられるCNT(a)は、上記のCNTの中でも、導電性の点から、直線および/または屈曲形の2層CNTを用いるのが好ましく、直線の2層CNTを用いることがより好ましい。2層CNTは、単層CNTと比較し、同等の優れた導電性を有しつつ、溶媒中への分散性や耐久性、製造コストの点で優れている。さらに外側の層を化学修飾して官能基を付与したり、親和性の高い溶媒を表面吸着させた場合には、外側の層は部分的に壊れたり、外側の層に由来する導電性が低減することがあり得るが、内側の層は変質されずに残るため、CNTとしての特性(特に導電性)を維持したまま溶媒や樹脂との親和性を付与することができる。また、2層CNTは、多層CNTと比較し、同等の分散性や製造コストである一方、圧倒的に高い導電性を有している。
【0032】
また、本発明に使用するCNT(a)は直径が1nm以上であることが好ましい。また、CNT(a)の直径は50nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以下である。直径が50nmを超えるとCNTは3層以上の多層構造となり、導電経路が層間で発散してしまい導電性が低下することがある。また、この場合、直径が50nm以下のCNTと同等の導電性を発現させようとすると多量のCNTが必要となり、導電性フィルムの透明性が極端に損なわれるばかりでなく、制限無く量を増やしても、十分な導電性を達成できない場合がある。さらには、CNTの直径が50nmを超えると、導電層の接着性や耐摩耗性を低下せしめることがある。また、直径が1mm未満のCNTは、製造することが困難である。
【0033】
本発明に使用するCNT(a)のアスペクト比は100以上であることが好ましい。また、CNTのアスペクト比は5000以下であることが好ましい。したがって、本発明で用いるCNT(a)は、直径が50nm以下またはアスペクト比が100以上であることが好ましく、より好ましくは、直径が50nm以下かつアスペクト比が100以上である。さらに好ましくは、使用するCNT(a)の直径が1nm以上、50nm以下かつアスペクト比が100以上、5000以下であり、特に好ましくは、使用するCNTの直径が1nm以上、10nm以下かつアスペクト比が100以上、5000以下である。CNTの直径やアスペクト比を上記範囲内とすることにより、CNTの導電性に優れ、分散剤などを用いることにより水などの溶媒への分散が良好となる。
【0034】
なお、アスペクト比とは、カーボンチューブの長さ(nm)をカーボンチューブの直径(nm)で除したもの(カーボンチューブの長さ(nm)/カーボンチューブの直径(nm))である。
【0035】
かかる特性を有するCNTは、化学的蒸着堆積法、触媒気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法などの公知の製造方法により得られる。CNTを作製する際には、同時にフラーレンやグラファイト、非晶性炭素が副生成物として生成され、またニッケル、鉄、コバルト、イットリウムなどの触媒金属も残存するので、これらの不純物を除去し精製するのが好ましい。不純物の除去には、硝酸、硫酸などの酸処理とともに超音波分散処理が有効であり、またフィルターによる分離を併用することは純度を向上させる上でさらに好ましい。
【0036】
単層CNTや2層CNTは一般に多層CNTよりも細く、均一に分散すれば単位体積当たりの導電経路数がより多く確保でき導電性が高い反面、製法によっては半導体性のCNTが副生成物として多くできる場合があり、その場合には導電性のCNTを選択的に製造するか選別する必要が生じる。多層CNTは一般的に導電性を示すが、層数が多すぎると単位重量当たりの導電経路数が低下する。よって多層CNTを使用する場合でも、そのCNT直径が50nm以下であることが好ましく、より好ましくは直径20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。また、単層CNTや2層CNTを用いる場合はその構造上、直径は20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下であることが、導電性の観点から好ましい。
【0037】
本発明で用いられるCNTのアスペクト比は100以上、5000以下であることが好ましいが、アスペクト比を100以上とすることにより、導電層の導電性を高めることができる。導電層の形成において、後述するインラインコーティング法を用いた場合、延伸工程にてCNTが適度にほぐれ、CNT間の導電経路が切れることなく、またCNT間に十分な隙間を確保したネットワークを形成させることができるためである。かかるネットワーク構造が形成されると、フィルムの透明度を高めつつ、良好な導電特性を発現させることができる。
【0038】
よって本発明に用いられるCNTはアスペクト比が100以上のCNTを用いることが好ましく、より好ましくはアスペクト比500以上であり、さらに好ましくはアスペクト比1000以上である。またアスペクト比を5000以下にすることにより、CNTを安定的に溶媒中へ分散させることが可能となる。
【0039】
本発明で用いられる該塗料組成物(x)中のCNT(a)の含有量は、塗料組成物(x)中の固形分重量に対して0.05重量%以上10重量%以下であることが必要である。好ましくは0.1重量%以上5重量%以下であり、より好ましくは0.1重量%以上3重量%以下、更に好ましくは0.1重量%以上1重量%以下である。0.05重量%未満であると、樹脂層(X)が充分な帯電防止性能を有さない。また10重量%を超えると、CNT同士の分子間力による凝集力が高くなり、CNTの分散性が低下するため、樹脂層(X)の透明性や塗布概観が悪化する。
【0040】
本発明の樹脂層(X)は、湿熱処理後や成形加工後においても高い帯電防止性を維持することができる。その理由は以下の通りと推定している。
【0041】
従来のポリチオフェンなど導電性高分子を帯電防止成分として用いた場合、湿熱処理によって導電性高分子の高分子鎖が切断され、導電性(帯電防止性)が悪化することがあった。また、成形加工後は延伸によって易接着層が薄膜化し、単位面積当たりの導電性高分子の量が減少することで、導電性(帯電防止性)が悪化する傾向があった。しかし、帯電防止成分としてCNTを用いた本発明の樹脂層(X)では、湿熱処理後もCNTの構造が変化しないため、導電性(帯電防止性)を維持することができる。また、樹脂層(X)(易接着層)の薄膜化が起こった場合も、CNTは繊維状であるため、交点が存在する限り導電性(帯電防止性)を維持することができる。
【0042】
(3)CNT分散剤(b)
本発明では、樹脂層(X)を形成する塗料組成物(x)にCNT分散剤(b)を含むことが必要である。本発明において用いられるCNT分散剤(b)としては、水溶性セルロースおよび/または水溶性セルロール誘導体、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリビニルピロリドン系重合体などが挙げられる。中でも、水溶性セルロースおよび/または水溶性セルロース誘導体であることが好ましい。
【0043】
本発明に用いられるポリスチレンスルホン酸塩の代表的な例としては、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カルシウムを挙げることができる。
【0044】
また、本発明に用いられるポリビニルピロリドン系重合体の代表的な例としては、ポリビニルピロリドンを挙げることができる。
【0045】
更に本発明に用いられる水溶性セルロース誘導体の代表的な例としては、カルボキシセルロールの金属塩が挙げられる。ここでカルボキシセルロースとはセルロースの骨格を構成するグルコピラノースモノマーのヒドロキシ基がカルボキシ基に置換されたセルロースである(グルコピラノースモノマーが複数のヒドロキシ基を有する場合は、少なくとも1つのヒドロキシ基がカルボキシ基に置換されていれば良い)。ここで、カルボキシ基とは狭義のカルボキシ基だけでなく、カルボキシアルキル基をも含む概念である。カルボキシセルロースの金属塩とすることで、水溶性を飛躍的に高め、CNT分散能を高めることができる。また、カルボキシセルロースの金属塩の中でも、水溶性が良好である点からカルボキシアルキルセルロースの金属塩が好ましく、より好ましくは安価で幅広く工業的に使用されているカルボキシメチルセルロースの金属塩が好ましく、中でも好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウムが挙げられる。特に好ましくは、カルボキシメチルセルロースナトリウムである。
【0046】
すなわち、上記の物質は分子構造が炭素からなる環状構造を有しているため、炭素からなる共役構造が延びた構造であるCNTと表面エネルギーなどの親和性および/または疎水相互作用が非常に高いことが推定される。また、CNT分散液の好適溶媒である水に容易に可溶であり、溶媒中でCNT近傍に均一に拡散するため、CNT同士の親和性による凝集を抑制するものと推定される。そのため、上記物質を用いることにより、安定かつ微分散されたCNT分散液を作製することができるものと推定している。
【0047】
また、CNT分散剤(b)が水溶性セルロースおよび/または水溶性セルロール誘導体である場合、透明性を良好にしつつ、P2/P1の値を容易に100以下にすることができるため好ましい。これは、水溶性セルロースおよび/または水溶性セルロール誘導体の水酸基が後述する架橋剤(c)と反応し、湿熱処理後の帯電防止性や接着性の悪化を抑制するためである。
【0048】
また、本発明では、CNT分散剤(b)が、塗料組成物(x)中の固形分重量に対して0.1重量%以上、15重量%以下であることが好ましい。更に好ましくは、0.1重量%以上、7.5重量%である。CNT分散剤(b)の含有量を0.1重量%以上にすることにより、塗料組成物(x)ならびに樹脂層(X)中のCNT(a)を均一に分散させることができ、透明性、帯電防止性の点から好ましい。15重量%を超えると、湿熱処理後の帯電防止性、接着性が劣る。
【0049】
また、本発明では、塗料組成物(x)中のCNT(a)とCNT分散剤(b)の含有量の比率(b)/(a)が0.5以上、15以下であることが好ましい。更に好ましくは0.5以上5以下である。(b)/(a)を0.5以上とすることにより、架橋剤(c)や、後述するポリエステル樹脂やアクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂と混合した際もCNTが凝集を起こすことなく安定に塗料組成物(x)を作製できる。また、(b)/(a)が15.0を超える場合は、CNT(a)に対して、CNT分散剤(b)の量が過剰となり、樹脂層(X)の帯電防止性が劣ることがある。
【0050】
(4)架橋剤(c)
本発明は、前記樹脂層(X)が、CNT(a)とCNT分散剤(b)に加えて、さらに架橋剤(c)を含む塗料組成物(x)から形成された層であり、該架橋剤(c)がオキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤からなる群のうち少なくとも1種類を含む架橋剤であることが好ましい。塗料組成物(x)に、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤からなる群のうち少なくとも1種類を含む架橋剤(c)を含むと、得られる樹脂層(X)の帯電防止性を損なうことなく、接着性を向上させることができるため、好ましい。
【0051】
また、樹脂層(X)が、上記の架橋剤(c)を含む塗料組成物(x)から形成された層である場合、P2/P1の値を容易に100以下にすることができるため好ましい。これは、架橋剤(c)がCNT分散剤(b)、架橋剤(c)または後述する樹脂(d)に含まれる水酸基やカルボン酸基と反応し、湿熱処理後の帯電防止性や接着性の悪化を抑制するためである
本発明におけるオキサゾリン系架橋剤とは、該架橋剤中に官能基としてオキサゾリン基を有するものであれば特に限定されるものではないが、オキサゾリン基を含有するモノマーを少なくとも1種以上含み、かつ、少なくとも1種の他のモノマーを共重合させて得られるオキサゾリン基含有共重合体からなるものが好ましい。 オキサゾリン基を含有するモノマーとしては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンなどを用いることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することもできる。中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0052】
オキサゾリン系架橋剤において、オキサゾリン基を含有するモノマーに対して用いられる少なくとも1種の他のモノマーとしては、該オキサゾリン基を含有するモノマーと共重合可能なモノマーであれば、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲン−α,β−不飽和モノマー類、スチレン、α−メチルスチレンなどのα,β−不飽和芳香族モノマー類などを用いることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することもできる。
【0053】
本発明におけるカルボジイミド系架橋剤とは、該架橋剤中に官能基としてカルボジイミド基、またはその互変異性の関係にあるシアナミド基を分子内に1個または2個以上有する化合物であれば特に限定されるものではない。特に本発明では、樹脂層(X)の架橋度を上げる目的で、1分子中に2つ以上を有するポリカルボジイミド化合物が特に好ましい。特に、ポリエステル樹脂やアクリル樹脂などのポリマーの末端や側鎖に、複数個のカルボジイミド基を有する、高分子型のカルボジイミド系架橋剤を用いると、樹脂層(X)の可撓性や強靭性が高まり好ましく用いることができる。
【0054】
カルボジイミド系架橋剤の製造には公知の技術を適用することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物を触媒存在下で重縮合することによりカルボジイミド系架橋剤が得られる。該カルボジイミド系架橋剤の出発原料であるジイソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族、脂環式ジイソシアネートなどを用いることができ、具体的にはトリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネートなどを用いることができる。
【0055】
本発明におけるイソシアネート系架橋剤としては、例えばトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、1,6−ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ビトリレン−4,4’ジイソシアネート、3,3’ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネートなどを用いることができる。特に、ポリエステル樹脂やアクリル樹脂などのポリマーの末端や側鎖に、複数個のイソシアネート基を有する、
また、本発明では、高分子型のイソシアネート化合物を用いると、樹脂層(X)の強靭性が高まるため、ブロッキングなどの点から好ましく用いることができる。
【0056】
更に、後述するインラインコート法に適用する場合、イソシアネート系架橋剤は水分散体であることが好ましい。特に、塗剤のポットライフの点から、イソシアネート基をブロック剤などでマスクしたブロックイソシアネート系化合物などが特に好ましい。ブロック剤の架橋反応としては、塗布後の乾燥工程の熱によって、該ブロック剤が揮散し、イソシアネート基が露出し、架橋反応を起こすシステムが知られている。また、該イソシアネート基は単官能タイプでも多官能タイプでもよいが、多官能タイプのブロックポリイソシアネート系化合物の方が、樹脂層(X)の架橋密度が向上し、印刷層やハードコート層との湿熱接着性が優れるため好ましい。
【0057】
ブロックイソシアネート基を2基以上有する低分子または高分子化合物としては、例えばトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート3モル付加物、ポリビニルイソシアネート、ビニルイソシアネート共重合体、ポリウレタン末端ジイソシアネート、トリレンジイソシアネートのメチルエチルケトンオキシムブロック体、ヘキサメチレンジイソシアネートの次亜硫酸ソーダブロック体、ポリウレタン末端ジイソシアネートのメチルエチルケトンオキシムブロック体、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート3モル付加物へのフェノールブロック体などを用いることができる。
【0058】
本発明では、前記塗料組成物(x)が、架橋剤(c)を塗料組成物(x)中の固形分重量に対して20重量%以上、80重量%以下含有することが好ましく、より好ましくは40重量%以上、80重量%以下である。前記架橋剤(c)の含有量が、塗料組成物(x)中の固形分重量に対して20重量%未満の場合、CNT分散剤(b)の水酸基との架橋が充分ではないため、湿熱処理後の帯電防止性、接着性に劣ることがある。一方、80重量%を超えると、樹脂層(X)の架橋度が高くなりすぎることがあるため、成形加工に対しての追従性が不足し、成形加工後の帯電防止性や接着性が劣ることがある。
【0059】
更に本発明では、架橋剤(c)として、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤の3種を含むことが、印刷インキ層やハードコート層との接着性の点から好ましい。
【0060】
なお、本技術分野において、接着性向上のために用いられることの多いメラミン系架橋剤を、本発明の架橋剤(c)として用いると、樹脂層(X)の透明性や帯電防止性を悪化させるため、好ましくない。この理由としては、メラミン系架橋剤は塩基性が強く、塗料組成物(x)中においてCNTの凝集を引き起こしてしまうためと推定している。
【0061】
また、本発明において、塗料組成物(x)中に含有する架橋剤は、塗料組成物(x)中に含有する架橋剤全体に対する、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤の占める割合が、50重量%以上、100重量%以下であることが好ましく、塗料組成物(x)中に含有する架橋剤が、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤のみからなる場合がより好ましい。塗料組成物(x)中に含有する架橋剤全体に対する、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤の占める割合を上記範囲とすることで、樹脂層(X)の透明性や帯電防止性を損なうことなく、接着性を向上させることができる。
【0062】
(5)樹脂(d)
本発明では、樹脂層(X)が、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂の少なくとも1種の樹脂を含む樹脂(d)を含有する塗料組成物(x)から形成されることが好ましい。
【0063】
本発明で用いられるポリエステル樹脂とは、主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するもので、ジカルボン酸とジオール、あるいはジカルボン酸とジオールのエステル形成性誘導体から重縮合して得られるものである。
【0064】
ポリエステル樹脂を構成するカルボン酸としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸や3価以上の多価カルボン酸が使用できる。芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、などが挙げられる。脂肪族および脂環族のジカルボン酸の具体例としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸など、およびそれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0065】
ポリエステル樹脂のジオールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,4−ジメチル−2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、4,4’−チオジフェノール、ビスフェノールA、4,4’−メチレンジフェノール、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、およびシクロヘキサン−1,4−ジオールなどが挙げられる。
【0066】
塗料組成物(x)の溶媒として水を用いる場合には、ポリエステル樹脂の接着性を向上させるため、あるいはポリエステル樹脂の水溶性化を容易にするために、ポリエステル樹脂はカルボン酸塩基を含む化合物やスルホン酸塩基を含む化合物を共重合することが好ましい。カルボン酸塩基を含む化合物としては、例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、4−メチルシクロヘキセン−1,2,3−トリカルボン酸、トリメシン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、2,2’,3,3’−ジフェニルテトラカルボン酸、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸など、あるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
スルホン酸塩基を含む化合物としては、例えば、スルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸、スルホ−p−キシリレングリコール、2−スルホ−1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどあるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を用いることができるが、これに限定されるものではない。
好ましいポリエステル樹脂としては、酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸を、またグリコール成分としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールを用いた共重合体などが挙げられる。
【0068】
特に本発明では、樹脂(d)として、ポリエステル樹脂を用いることが好ましく、その中でもポリエステル樹脂のガラス転移温度が70℃以上150℃以下のポリエステル樹脂が好ましい。より好ましくは、ガラス転移温度が80℃以上120℃以下であるポリエステル樹脂を用いることである。樹脂(d)として、上記のポリエステル樹脂を用いると、後述するインラインコーティング法を用いて樹脂層(X)を設ける場合に、樹脂層(X)の延伸追従性が良好となり、樹脂層(X)を均一に設けることができるため好ましい。さらに好ましくはフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂を用いることである。
【0069】
本発明において用いられるフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂とは、ポリエステルを構成するカルボン酸として、フルオレン骨格を有するジカルボン酸を用いる、および/または、ポリエステルを構成するジオールとしてフルオレン骨格を有するジオールを用いることで得ることができる。
【0070】
フルオレン骨格を有するジカルボン酸としては、例えば、9,9−ビス(t−ブトキシカルボニルメチル)フルオレン、9,9−ビス[2−(t−ブトキシカルボニル)エチル]フルオレン、9,9−ビス[1−(t−ブトキシカルボニル)エチル]フルオレン、9,9−ビス[2−(t−ブトキシカルボニル)−1−メチルプロピル]フルオレン、9,9−ビス[2−(t−ブトキシカルボニル)ブチル]フルオレン、9,9−ビス[5−(t−ブトキシカルボニル)ペンチル]フルオレンが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0071】
また、フルオレン骨格を有するジオールとしては、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレンが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0072】
フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂におけるフルオレン骨格を有するジカルボン酸の共重合量は、ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸の量に対して40モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上である。上限は特に限定されるものではないが、95モル%以下であることが好ましい。
【0073】
また、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂におけるフルオレン骨格を有するジオールの共重合量は、ポリエステル樹脂を構成する全ジオールの量に対して40モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上である。上限は特に限定されるものではないが、特に好ましくは95モル%以下である。
【0074】
フルオレン骨格を有するジカルボン酸またはジオールの共重合量が40モル%未満の場合、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂の高屈折率化が不十分となる可能性がある。また、上限は特に限定されるものではないが、フルオレン骨格を有するジカルボン酸またはジオールの共重合比率が95モル%を超えるとフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂のガラス転移温度が150℃を超え、後述するインラインコーティング法を用いて樹脂層(X)を設ける場合に延伸追従性が乏しくなり、均一な樹脂層が設けられなくなることがある。
【0075】
また、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂におけるフルオレン骨格を有するジカルボン酸およびフルオレン骨格を有するジオールの共重合量は、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸の物質量とジオールの物質量の合計を100モル%としたとき、20モル%以上が好ましく、より好ましくは40モル%以上である。上限は特に限定されるものではないが、50モル%以下であることが好ましい。
【0076】
樹脂(d)として上記のようなポリエステル樹脂を用いることで、樹脂層(X)の帯電防止性が向上する。この理由については、発明者らは以下のように推測している。
【0077】
樹脂層(X)に高い帯電防止性を付与するためには、樹脂層(X)に亀裂がなく、CNT(a)が導電パスを形成していることが必要である。一方、CNT(a)は剛性が高い。そのため、後ほど述べるインラインコーティング法を用いてCNT(a)を含む塗料組成物(x)を塗布して樹脂層(X)を形成させる場合には、延伸時に樹脂層(X)に応力が強く加わる。その結果、樹脂層(X)に亀裂が生じ、期待する透明性や帯電防止性、接着性が発現しないことがある。
【0078】
ここで樹脂(d)として、上記のようなポリエステル樹脂を用いると、延伸時の応力を樹脂層(X)全体で負担することができ、応力を緩和することができる。その結果、CNT(a)の導電パスを維持できるため、帯電防止性が向上する。
【0079】
上記のポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が70℃以上150℃以下のポリエステル樹脂であるとより帯電防止性を向上できるため好ましく、更に好ましくはフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂である。
【0080】
本発明で用いられるアクリル樹脂とは、後述するアクリルモノマーと必要に応じて他種モノマーを、乳化重合、懸濁重合などの公知のアクリル樹脂の重合方法によって共重合させることで得られる樹脂を表す。
【0081】
アクリル樹脂に用いるアクリルモノマーとしては、例えばアルキルアクリレート(アルキル基としてはメチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシルなど)、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシルなど)、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのヒドロキシ基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミドなどのアミド基含有モノマー、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのアミノ基含有モノマー、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基含有モノマー、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など)などのカルボキシル基またはその塩を含有するモノマーなどを挙げることができる。
【0082】
また、これらアクリルモノマーは、他種モノマーと併用して用いることもできる。他種モノマーとしては、例えばアリルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有モノマー、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物基を含有するモノマー、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリスアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルキルイタコン酸モノエステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルピロリドンなどを用いることができる。
【0083】
アクリルモノマーは1種または2種以上を用いて重合させるが、他種モノマーを併用する場合、全モノマー中、アクリルモノマーの割合が50重量%以上、さらには70重量%以上となることが好ましい。
【0084】
また、本発明で用いられるウレタン樹脂とは、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物を、乳化重合、懸濁重合などの公知のウレタン樹脂の重合方法によって反応させることで得られる樹脂を表す。
【0085】
ポリヒドロキシ化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ポリカーボネートジオール、グリセリンなどを挙げることができる。
【0086】
本発明で用いられるアクリルウレタン共重合樹脂とは、アクリル樹脂とウレタン樹脂が共重合された樹脂であれば特に限定されないが、特にアクリル樹脂をスキン層とし、ウレタン樹脂をコア層とするアクリルウレタン共重合樹脂が、印刷層やハードコート層との接着性に優れるために好ましい。
【0087】
アクリルウレタン共重合樹脂は、ウレタン樹脂からなるコア層が、完全にアクリル樹脂からなるスキン層によって包み込まれた状態ではなく、コア層が露出した形態を有しているものが好ましい。すなわち、該コア層がスキン層によって完全に包み込まれた状態の場合、樹脂層(X)がアクリル樹脂の特徴のみを有する表面状態となり、コア層由来のウレタン樹脂の特徴を有する表面状態を得ることができにくくなるため印刷層やハードコート層との接着性の点では好ましくない。一方、該コア層がスキン層によって包み込まれていない状態、すなわち、両者が分離している状態は、単にアクリル樹脂とウレタン樹脂を混合した状態である。すると、一般的には樹脂の表面エネルギーが小さいアクリル樹脂が表面側に選択的に配位する。その結果、樹脂層(X)はアクリル樹脂の特徴のみを有するため、印刷層やハードコート層との接着性の点では好ましくない。
【0088】
コア・スキン構造のアクリルウレタン共重合樹脂を得る一つの例を示す。まず重合体樹脂のコア部分を形成するウレタン樹脂モノマー、乳化剤、重合開始剤および水の系で第一段乳化重合を行なう。次に第一段乳化重合が実質的に終了した後、スキン部分を形成するアクリルモノマーと重合開始剤を添加し、第二段乳化重合を行なう。この2段階反応によってコア・スキン構造のアクリルウレタン共重合樹脂を得ることができる。この際、生成する共重合樹脂をコア層とスキン構造の2層構造とするためには、第二段乳化重合において、乳化剤を新しいコアを形成しない程度の量にとどめ、第一段乳化重合で形成されたウレタン樹脂からなるコア表面において重合が進行するようにする方法が有用である。
【0089】
アクリルウレタン共重合樹脂の製造方法は次の方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。例えばウレタン樹脂の水分散液中に少量の分散体と重合開始剤を添加し、一定温度に保ちながらアクリルモノマーを攪拌しながら徐々に添加する。その後必要に応じて温度を上昇させ一定時間反応を続け、アクリルモノマーの重合を完結させ、アクリルウレタン共重合樹脂の水分散体として得る方法である。
【0090】
アクリルウレタン共重合樹脂中のアクリル樹脂とウレタン樹脂の割合(アクリル樹脂/ウレタン樹脂)は、重量比で、「10/90」以上「70/30」以下が好ましく、「20/80」以上「50/50」以下であることが更に好ましい。この範囲外となると、積層ポリエステルフィルムと印刷層との接着性が悪化することがある。アクリル樹脂とウレタン樹脂の重量比は、アクリルウレタン共重合樹脂の製造時の原料の配合量を調整することによって所望の値とすることができる。
【0091】
本発明では、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂の少なくとも一種の樹脂を含む樹脂(d)が、塗料組成物(x)中に、塗料組成物(x)中の固形分重量に対して、15重量%以上、60重量%以下含有することが好ましく、20重量%以上含有することが更に好ましい。ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂の少なくとも一種の樹脂を含む樹脂(d)含有量を上記範囲とすることで、接着性と透明性を両立させることができる。
【0092】
また、積層ポリエステルフィルムは、基材となるポリエステルフィルム(基材フィルム)の少なくとも片面に樹脂層(X)を有することが必要であるが、更にもう一方の面にも樹脂層(X)を有していてもよく、また樹脂層(X)とは異なる樹脂層(Y)を設けてもよい。樹脂層(Y)を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミド樹脂及びこれらの樹脂の共重合樹脂が挙げられる。またこれらの樹脂を単独又は複数から選ばれるものも用いることができる。樹脂層(X)とは反対側にも樹脂層を設けることで、例えば、本発明の積層ポリエステルフィルムの樹脂層(X)側にハードコート層を設けた際には、反対面の樹脂層に易滑性粒子を含有させることで、ハードコート層を設けた後のフィルムのハンドリング性を向上させることができるため、好ましい。
【0093】
(6)塗料組成物(x)
本発明の積層ポリエステルフィルムは、CNT(a)とCNT分散剤(b)を含む塗料組成物(x)を用いて、ポリエステルフィルムに樹脂層(X)を積層することにより作成することができる。
【0094】
CNT(a)とCNT分散剤(b)を含む塗料組成物(x)は、塗剤の保存安定性やハンドリング性向上の点から、微量の水溶性有機溶媒を含有してもよい。水溶性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコールおよびイソプロピルアルコール等の水溶性アルコール類、アセトン等の水溶性ケトン類、およびメチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトールおよびブチルカルビトール等の水溶性エーテル類が挙げられる。これらは、単独または複数混合して使用可能である。水溶性有機溶媒の含有量は、防爆性および環境汚染の点から、塗料組成物(x)全量に対して好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは7重量%以下であり、更に好ましくは5重量%以下である。
【0095】
CNT(a)とCNT分散剤(b)を含む塗料組成物(x)から形成される樹脂層(X)を有する積層ポリエステルフィルムを得る方法としては、ポリエステルフィルムに樹脂層(X)を積層する方法などが挙げられる。中でも、ポリエステルフィルムに樹脂層(X)を構成する塗料組成物(x)をコーティング(塗布)し、積層する方法が好ましい。塗剤をコーティング方法としては、ポリエステルフィルムの製造工程とは別工程でコーティングを行う方法、いわゆるオフラインコーティング方法と、ポリエステルフィルムの製造工程中にコーティングを行い、ポリエステルフィルムに樹脂層(X)が積層された積層ポリエステルフィルムを一気に得る、いわゆるインラインコーティング方法がある。しかしながら、コストの面や塗布厚みの均一化の面からインラインコーティング方法を採用することが好ましく、その場合に用いられる塗液の溶剤は、環境汚染や防爆性の点から水系であることが好ましく、水を用いることが最も好ましい態様である。
【0096】
例えば、溶融押し出しされた結晶配向前のポリエステルフィルムを長手方向に2.5〜5倍程度延伸し、一軸延伸されたフィルムに連続的に樹脂層(X)を構成する塗料組成物(x)を塗布する。塗布されたフィルムは段階的に加熱されたゾーンを通過しつつ乾燥され、幅方向に2.5〜5倍程度延伸される。更に、連続的に150〜250℃の加熱ゾーンに導かれ結晶配向を完了させる方法(インラインコート法)によって得ることができる。
【0097】
本発明では、加熱ゾーンで高温の熱処理を施すことで、CNT分散剤(b)と架橋剤(c)の架橋反応が進行し、樹脂層(X)の湿熱処理後の接着性、帯電防止性が向上する。従って、性能の面でもインラインコーティング方法を採用することが好ましい。
【0098】
溶剤として水を用いた塗料組成物(水系塗剤)の塗布方法としては、例えば、リバースコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法およびダイコート法などを用いることができる。
【0099】
塗料組成物(x)を塗布する前に、基材であるポリエステルフィルムの表面にコロナ放電処理などを施すことが好ましい。これは、ポリエステルフィルムと樹脂層(X)との接着性が向上し、塗布性も良好となるためである。
【0100】
樹脂層(X)中には、発明の効果を損なわない範囲であれば、架橋剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤および界面活性剤などを配合しても良い。
【0101】
<積層ポリエステルフィルムの製造方法>
次に積層ポリエステルフィルムの製造方法を説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0102】
ポリエチレンテレフタレート(以下、樹脂Pと称する)、およびシクロヘキサンジメタノールを含んで成るポリエステル(以下、樹脂Qと称する)のペレットを、熱風中あるいは真空下で乾燥した後、別々の押出機に供給した。樹脂PおよびQを、押出機内において融点以上に加熱溶融した後、マルチマニホールドダイやフィールドブロックに代表される多層積層装置に送り込み、スリット状のダイからシート状に押出し、静電印加などの方式により表面温度10〜60℃の鏡面キャスティングドラムに密着、冷却固化せしめて未延伸ポリエステルフィルムを作製した。この未延伸ポリエステルフィルムを、70〜100℃の温度に加熱されたロール間で長手方向に2.5〜5倍延伸する。このようにして得られたポリエステルフィルムの片面あるいは両面に空気中でコロナ放電処理を施し、その処理面に樹脂層(X)を構成する塗料組成物(x)を塗布する。この塗布された積層ポリエステルフィルムをクリップで把持して乾燥ゾーンに導き、70〜150℃の温度で乾燥し、引き続き連続的に70〜150℃の温度の加熱ゾーンで幅方向に2.5〜5倍延伸し、続いて200〜240℃の温度の加熱ゾーンで5〜40秒間熱処理を施し、結晶配向の完了したポリエステルフィルム上に樹脂層(X)が積層された積層ポリエステルフィルムを得る。上記熱処理中に、必要に応じて3〜12%の弛緩処理を施してもよい。また、発明の効果を損なわない範囲で、積層ポリエステルフィルムに走行性(易滑性)や耐候性、耐熱性などの機能を持たせるため、ポリエステルフィルム原料に粒子を添加してもよい。ポリエステルフィルム原料に添加する粒子の材質としては、添加剤、例えば、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、易滑剤などが使用できる。また、この場合に用いられる塗剤は、環境汚染や防爆性の点で水系塗剤が好ましく用いられる。
【0103】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
(1)透明性の測定方法
透明性は、ヘイズ(%)により評価した。ヘイズの測定は、常態(温度23℃、相対湿度65%)において、積層ポリエステルフィルムを1時間放置した後、日本電色工業(株)製濁度計「NDH5000」を用いて行った。3回測定した平均値を、その積層ポリエステルフィルムのヘイズとした。
【0104】
(2)塗布外観
塗布外観については、積層ポリエステルフィルムを3波長蛍光灯(パナソニック(株)製、3波長形昼白色(F・L 15EX−N 15W))の直下30cmに置き、視角を変えながら目視により観察し、以下の評価を行った。A以上のものを良好とし、Bは実用上問題ないレベルとした。
【0105】
S:凝集物や塗布ムラが見られない
A:凝集物や塗布ムラが僅かに見える。
【0108】
(3)帯電防止性(表面比抵抗)の測定方法および評価方法
帯電防止性は、表面比抵抗により評価した。なお、測定面は積層ポリエステルフィルムの樹脂層(X)積層面とする。単位は、Ω/□である。
【0109】
(3−1)湿熱処理試験前の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値P1の評価方法
積層ポリエステルフィルムを常態(温度23℃、相対湿度65%)において24時間放置後、その雰囲気下でデジタル超高抵抗/微小電流計(アドバンテスト社製、R8340A)を用いて、印加電圧100Vで10秒間印加後の表面比抵抗値を求めた。該測定値を湿熱処理試験前の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値P1(Ω/□)とした。表面比抵抗が9×10
11Ω/□以下のものであれば実用上問題のないレベルの帯電防止性を有していることを示し、5×10
10Ω/□以下のものは優れた帯電防止性を有していることを示す。
【0110】
(3−2)湿熱処理試験後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値P2の評価方法
積層ポリエステルフィルムを温度85℃、相対湿度85%の恒温恒湿槽中に240時間放置し、湿熱処理試験後積層ポリエステルフィルムを得た。得られた湿熱処理試験後積層ポリエステルフィルムサンプルについて、(3−1)と同様の方法で表面比抵抗値を求めた。該測定値を湿熱処理試験後の樹脂層(X)表面の表面比抵抗値P2(Ω/□)とした。表面比抵抗が9×10
11Ω/□以下のものであれば実用上問題のないレベルの帯電防止性を有していることを示し、5×10
10Ω/□以下のものは優れた帯電防止性を有していることを示す。
【0111】
(3−3)成形後の帯電防止性(表面比抵抗)の測定方法および評価方法
帯電防止性は、表面比抵抗により評価した。フィルム幅方向に長さ200mm×幅100mmの矩形に切り出して測定用サンプルを得た。次にパンタグラフ方式のフィルムストレッチャーを用いて、温度100℃、速度10mm/秒の条件で、測定用サンプルの短軸方向(幅方向)に伸度50%の一軸延伸を行い、成形後積層ポリエステルフィルムを作製した。成形後積層ポリエステルフィルムを常態(温度23℃、相対湿度65%)において24時間放置後、その雰囲気下でデジタル超高抵抗/微小電流計(アドバンテスト製R8340A)を用いて、印加電圧100Vで10秒間印加後の表面比抵抗値を求めた。なお、測定面は成形後積層ポリエステルフィルムの樹脂層(X)積層面とする。単位は、Ω/□である。表面比抵抗が5×10
12Ω/□以下のものであれば実用上問題のないレベルの帯電防止性を有していることを示し、1×10
11Ω/□以下のものは優れた帯電防止性を有していることを示す。
【0112】
(3−4)ハードコート層積層後の帯電防止性(表面比抵抗)の測定方法および評価方法
帯電防止性は、表面比抵抗により評価した。まず後述する(5−1)と同様の方法でハードコート積層ポリエステルフィルムを得た。該ハードコート積層ポリエステルフィルムを、常態(温度23℃、相対湿度65%)において24時間放置した。その後、ハードコート積層面を、デジタル超高抵抗/微小電流計(アドバンテスト製R8340A)を用いて、印加電圧100Vで10秒間印加後の表面比抵抗値を求めた。単位は、Ω/□である。表面比抵抗が9×10
12Ω/□以下のものであれば実用上問題のないレベルの帯電防止性を有していることを示し、9×10
11Ω/□以下のものは優れた帯電防止性を有していることを示す。
【0113】
(4)印刷インキ層との接着性の評価方法
(4−1)初期接着性の評価方法
積層ポリエステルフィルム上に、下記の割合でインキ、溶剤、硬化剤を混合した熱硬化型インキを、硬化後の膜厚が約5μmとなるよう均一に塗布した。
【0114】
インキ:帝国インキ製造(株)製INQスクリーンインキ(971):100重量部
溶剤:帝国インキ製造(株)製F−003:10重量部
硬化剤:帝国インキ製造(株)製240硬化剤:3重量部
次いで、熱硬化型インキを塗布した積層ポリエステルフィルムを、90℃の熱風オーブンで60分乾燥し、熱硬化型インキを硬化させ、インキ積層ポリエステルフィルムを得た。
【0115】
得られたインキ積層ポリエステルフィルムのインキ積層面に、1mm
2のクロスカットを100個入れ、“セロテープ”(登録商標)(ニチバン(株)製CT405AP)を貼り付け、ハンドローラーで1.5kg/cm
2の荷重で押しつけた後、インキ積層ポリエステルフィルムに対して90度方向に急速に剥離した。該測定を10回実施し、10回の測定において残存したクロスカットの個数の平均値により、接着性について4段階評価を行った。Cは実用上問題のあるレベル、Bは実用レベルであり、SとAのものは良好とした。
S :100個残存
A :80個以上100個未満残存
B :50個以上80個未満残存
C :0個以上50個未満残存。
【0116】
(4−2)湿熱接着性の評価方法
(4−1)と同様の方法でインキ積層ポリエステルフィルムを得た。得られたインキ積層ポリエステルフィルムを、温度85℃、相対湿度85%の恒温恒湿槽中に240時間放置し、湿熱接着試験用インキ積層サンプルを得た。得られた湿熱接着試験用インキ積層サンプルについて、(4−1)と同様の方法で接着性評価を行い、4段階評価を行った。Cは実用上問題のあるレベル、Bは実用レベルであり、SとAのものは良好とした。
【0117】
(4−3)成形後初期接着性の評価方法
(4−1)と同様の方法でインキ積層ポリエステルフィルムを得た。該インキ積層ポリエステルフィルムの幅方向に長さ200mm×幅100mmの矩形に切り出して測定用サンプルを得た。次にパンタグラフ方式のフィルムストレッチャーを用いて、温度100℃、速度10mm/秒の条件で、測定用サンプルの短軸方向(幅方向)に伸度50%の一軸延伸を行い、成形後インキ積層ポリエステルフィルムを作製した。得られた成形後インキ積層ポリエステルフィルムについて、(4−1)と同様の方法で接着性評価を行い、4段階評価を行った。Cは実用上問題のあるレベル、Bは実用レベルであり、SとAのものは良好とした。
【0118】
(4−4)成形後湿熱接着性の評価方法
(4−3)と同様の方法で成形後インキ積層ポリエステルフィルムを作製した。得られた成形後インキ積層ポリエステルフィルムについて、(4−2)と同様の方法で接着性評価を行い、4段階評価を行った。Cは実用上問題のあるレベル、Bは実用レベルであり、SとAのものは良好とした。
【0119】
(5)ハードコート層との接着性の評価方法
(5−1)初期接着性の評価方法
積層ポリエステルフィルム上に、下記の割合で混合したUV硬化型樹脂を、バーコーターを用いて硬化後の膜厚が2μmとなるように均一に塗布した。
・ウレタンアクリレート(新中村化学(株)製 UA122P):80重量部
・ポリエステルアクリレート(日本化薬(株)製“カヤラッド”(登録商標)DPHA):10重量部
・ポリエステルアクリレート(日本化薬(株)製“カヤラッド” (登録商標)PETA):10重量部
・シリコーンオイル(東レダウコーニングシリコーン(株)製 SH190):3重量部
・光重合開始剤(長瀬産業(株)社製“イルガキュア” (登録商標)184):3重量部
次いで、樹脂層(X)の表面から9cmの高さにセットした120W/cmの照射強度を有する集光型高圧水銀灯(アイグラフィックス(株)製 H03−L31)で、積算照射強度が300mJ/cm
2となるように紫外線を照射し、硬化させ、積層ポリエステルフィルム上にハードコート層を積層されたハードコート積層ポリエステルフィルムを得た。得られたハードコート積層ポリエステルフィルムについて、得られたハードコート積層ポリエステルフィルムのハードコート積層面に、1mm
2のクロスカットを100個入れ、セロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製CT405AP)を貼り付け、ハンドローラーで1.5kg/cm
2の荷重で押しつけた後、ハードコート積層ポリエステルフィルムに対して90度方向に急速に剥離した。該測定を10回実施し、10回の測定において残存したクロスカットの個数の平均値により、接着性を4段階評価を行った。Cは実用上問題のあるレベル、Bは実用レベルであり、SとAのものは良好とした。
S :100個残存
A :80個以上100個未満残存
B :50個以上80個未満残存
C :0個以上50個未満残存。
【0120】
(5−2)湿熱接着性の評価方法
(5−1)と同様の方法でハードコート積層ポリエステルフィルムを得た。得られたハードコート積層ポリエステルフィルムを、温度85℃、相対湿度85%の恒温恒湿槽中に168時間放置し、湿熱接着試験用ハードコート積層サンプルを得た。得られた湿熱接着試験用ハードコート積層サンプルについて、(5−1)と同様の方法で接着性評価を行い、4段階評価を行った。Cは実用上問題のあるレベル、Bは実用レベルであり、SとAのものは良好とした。
【0121】
(5−3)成形後初期接着性の評価方法
(5−1)と同様の方法でハードコート積層ポリエステルフィルムを得た。該ハードコート積層ポリエステルフィルムの幅方向に長さ200mm×幅100mmの矩形に切り出して測定用サンプルを得た。次にパンタグラフ方式のフィルムストレッチャーを用いて、温度100℃、速度10mm/秒の条件で、測定用サンプルの短軸方向(幅方向)に伸度50%の一軸延伸を行い、成形後ハードコート積層ポリエステルフィルムを作製した。得られた成形後ハードコート積層ポリエステルフィルムについて、(5−1)と同様の方法で接着性評価を行い、4段階評価を行った。Cは実用上問題のあるレベル、Bは実用レベルであり、SとAのものは良好とした。
【0122】
(5−4)成形後湿熱接着性の評価方法
(5−3)と同様の方法で成形後ハードコート積層ポリエステルフィルムを作製した。得られた成形後ハードコート積層ポリエステルフィルムについて、(5−2)と同様の方法で接着性評価を行い、4段階評価を行った。Cは実用上問題のあるレベル、Bは実用レベルであり、SとAのものは良好とした。
【0123】
(6)ガラス転移温度(Tg)
セイコー電子工業(株)製“ロボット”DSC(示差走査熱量計)RDC220にセイコー電子工業(株)製SSC5200ディスクステーションを接続して測定した。DSCの測定条件は次の通りである。測定試料10mgをアルミニウムパンに調整後、DSC装置にセットし(リファレンス:試料を入れていない同タイプのアルミニウムパン)、25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度で加熱し、300℃の温度で5分間保持した後、液体窒素中を用いて急冷処理をする。この試料を、再度25℃から10℃/分で300℃まで昇温し、そのDSCチャートからガラス転移温度(Tg)を検知する。
【実施例】
【0124】
次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、CNT(a)とCNT分散剤(b)を含むCNT水分散体(ab)の合成法と、アクリル樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂、ポリエステル樹脂など樹脂(d)の水分散体の合成法を参考例に示す。
【0125】
(参考例1)CNT(a)とCNT分散剤(b)を含むCNT水分散体(ab−1)の調製
1.0mgのCNT(直線2層CNT:サイエンスラボラトリー社製、直径5nm)とCNT分散剤のカルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマアルドリッチジャパン(株))(以下、CMC−Naと略す。)を3.0mgと水666mgをサンプル管に入れ、CNT水分散体を調製し、超音波破砕機(東京理化器機(株)製VCX−502、出力250W、直接照射)を用いて30分間超音波照射し、均一なCNT(a)とCNT分散剤(b)からなるCNT水分散体(ab−1)(CNT(a)濃度0.15重量%、CNT分散剤(b)0.45重量%、(b)/(a)=3.0)を得た。
【0126】
(参考例2)CNT(a)とCNT分散剤(b)からなるCNT水分散体(ab−2)の調製
1.0mgのCNT(直線2層CNT:サイエンスラボラトリー社製、直径5nm)とCNT分散体のカルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマアルドリッチジャパン(株))(以下、CMC−Naと略す。)を16.0mgと水1983mgをサンプル管に入れ、CNT水分散体を調製し、超音波破砕機(東京理化器機(株)製VCX−502、出力250W、直接照射)を用いて30分間超音波照射し、均一なCNT(a)とCNT分散剤(b)からなるCNT水分散体(ab−2)(CNT(a)濃度0.05重量%、CNT分散剤(b)0.8重量%、(b)/(a)=16.0)を得た。
【0127】
(参考例3)CNT(a)とCNT分散剤(b)を含むCNT水分散体(ab−3)の調製
1.0mgのCNT(直線2層CNT:サイエンスラボラトリー社製、直径5nm)とCNT分散剤のカルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマアルドリッチジャパン(株))(以下、CMC−Naと略す。)を8.0mgと水661mgをサンプル管に入れ、CNT水分散体を調製し、超音波破砕機(東京理化器機(株)製VCX−502、出力250W、直接照射)を用いて30分間超音波照射し、均一なCNT(a)とCNT分散剤(b)からなるCNT水分散体(ab−3)(CNT(a)濃度0.15重量%、CNT分散剤(b)1.2重量%、(b)/(a)=8.0)を得た。
【0128】
(参考例4)CNT(a)とCNT分散剤(b)を含むCNT水分散体(ab−4)の調製
1.0mgのCNT(直線2層CNT:サイエンスラボラトリー社製、直径5nm)とCNT分散剤のポリビニルピロリドン((株)日本触媒製、K−30)を3.0mgと水666mgをサンプル管に入れ、CNT水分散体を調製し、超音波破砕機(東京理化器機(株)製VCX−502、出力250W、直接照射)を用いて30分間超音波照射し、均一なCNT分散剤(CNT濃度0.15重量%、CNT分散剤0.45重量%、(b)/(a)=3.0)を得た。
【0129】
(参考例5)アクリル樹脂(d−1)の水分散体の調製
窒素ガス雰囲気下かつ常温(25℃)下で、メタクリル酸メチル53モル部、アクリル酸エチル34モル部、アクリル酸5モル部、N―メチロールアクリルアミド1モル部を仕込み、次いで乳化剤(ADEKA(株)製“リアソープ”ER−30)を7モル部と水を加え、溶液1を得た。常温(25℃)下で、水を添加し、60℃に昇温した。その後攪拌しながら3時間かけて連続滴下せしめた。更に同時に過硫酸カリウム水溶液を連続滴下せしめた。滴下終了後、さらに2時間攪拌した後、25℃まで冷却し、反応を終了させ、アクリル樹脂(d−1)水分散体を得た。なお、得られたアクリル樹脂(d−1)の水分散体の固形分濃度は35重量%である。また、アクリル樹脂(d−1)のガラス転移温度は40℃であった。
【0130】
(参考例6)アクリルウレタン共重合樹脂(d−3)の水分散体の調製
窒素ガス雰囲気下かつ常温(25℃)下で、容器1に、ポリエステル系ウレタン樹脂(DIC(株)製“ハイドラン”(登録商標)AP−40(F))66重量部、メタクリル酸メチル35重量部、アクリル酸エチル29重量部、N―メチロールアクリルアミド2重量部を仕込み、溶液1を得た。次いで乳化剤(ADEKA(株)製“リアソープ”ER−30)を7重量部加え、更に溶液の固形分が50重量%となるように水を添加し、溶液2を得た。常温(25℃)下で、容器2に、水を添加し、60℃に昇温した。その後攪拌しながら溶液2を3時間かけて連続滴下せしめた。更に同時に5重量%過硫酸カリウム水溶液(アクリルの0.1重量%)を連続滴下せしめた。滴下終了後、さらに2時間攪拌した後、25℃まで冷却し、反応を終了させ、アクリルウレタン共重合樹脂(d−3)水分散体を得た。なお、得られたアクリルウレタン共重合樹脂(d−3)中のアクリル樹脂とウレタン樹脂の割合は50/50であり、アクリルウレタン共重合樹脂(d−3)の水分散体の固形分濃度は30重量%である。また、アクリルウレタン共重合樹脂(d−3)のガラス転移温度は52℃であった。
【0131】
(参考例7)ポリエステル樹脂(d−4)の水分散体の調製
窒素ガス雰囲気下でかつ常温(25℃)下で、テレフタル酸ジメチル88モル部、エチレングリコール90モル部、ジエチレングリコール10モル部を反応器1に仕込み、これに三酸化アンチモン(触媒)を0.1重量部添加して、160〜240℃で5時間エステル化反応を行った後、溜出液を取り除いた。
【0132】
その後、反応器1に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル12モル部を添加し、240℃で1時間反応させた後、反応物が透明になるまで溜出液を除いた。更に、220〜280℃の減圧下において、重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(d−4)を得た。次いで、容器1に、得られたポリエステル樹脂(d−4)200重量部およびブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)150重量部を仕込み、160℃にて3時間攪拌した後、容器1に600重量部の水を徐々に添加し、均一なポリエステル樹脂(d−4)の水/ブチルセロソルブ溶液を得た。更に得られた溶液中のブチルセロソルブを蒸留し、ポリエステル樹脂(d−4)の水分散体を得た。なお、得られたポリエステル樹脂(d−4)の水分散体の固形分濃度は15重量%である。なお、ポリエステル樹脂(d−4)のガラス転移温度は68℃であった。
【0133】
(参考例8)ポリエステル樹脂(d−5)の水分散体の調製
窒素ガス雰囲気下でかつ常温(25℃)下で、コハク酸ジメチル75モル部、9、9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン80モル部、エチレングリコール20モル部を反応器1に仕込み、これにテトラブチルチタネート(触媒)を0.1重量部添加して、160〜240℃で5時間エステル化反応を行った後、溜出液を取り除いた。
【0134】
その後、反応器1に、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物25モル部を添加し、240℃で1時間反応させた後、反応物が透明になるまで溜出液を除いた。更に、220〜280℃の減圧下において、重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(d−5)を得た。次いで、容器1に、得られたポリエステル樹脂(d−5)100重量部およびブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)33重量部、5重量%のアンモニア水2重量部を仕込み、160℃にて3時間攪拌した後、容器1に533重量部の水を徐々に添加し、ポリエステル樹脂(d−5)の水分散体を得た。なお、得られたポリエステル樹脂(d−5)の水分散体の固形分濃度は15重量%である。なお、ポリエステル樹脂(d−5)のガラス転移温度は99℃であった。
【0135】
(参考例9)ポリエステル樹脂(d−6)の水分散体の調製
窒素ガス雰囲気下でかつ常温(25℃)下で、2,6−ナフタレンジカルボン酸88モル部、エチレングリコール90モル部、ジエチレングリコール10モル部を反応器1に仕込み、これに三酸化アンチモン(触媒)を0.1重量部添加して、160〜240℃で5時間エステル化反応を行った後、溜出液を取り除いた。
【0136】
その後、反応器1に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル12モル部を添加し、240℃で1時間反応させた後、反応物が透明になるまで溜出液を除いた。更に、220〜280℃の減圧下において、重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(d−6)を得た。次いで、容器1に、得られたポリエステル樹脂(d−6)200重量部およびブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)150重量部を仕込み、160℃にて3時間攪拌した後、容器1に600重量部の水を徐々に添加し、均一なポリエステル樹脂(d−6)の水/ブチルセロソルブ溶液を得た。更に得られた溶液中のブチルセロソルブを蒸留し、ポリエステル樹脂(d−6)の水分散体を得た。なお、得られたポリエステル樹脂(d−6)の水分散体の固形分濃度は15重量%である。なお、ポリエステル樹脂(d−6)のガラス転移温度は100℃であった。
【0137】
(参考例10)アクリル樹脂(d−7)の水分散体の調製
窒素ガス雰囲気下かつ常温(25℃)下で、メタクリル酸メチル65モル部、アクリル酸エチル25モル部、アクリル酸9モル部、N―メチロールアクリルアミド1モル部を仕込み、次いで乳化剤(ADEKA(株)製“リアソープ”ER−30)を7モル部と水を加え、溶液1を得た。常温(25℃)下で、水を添加し、60℃に昇温した。その後攪拌しながら3時間かけて連続滴下せしめた。更に同時に過硫酸カリウム水溶液を連続滴下せしめた。滴下終了後、さらに2時間攪拌した後、25℃まで冷却し、反応を終了させ、アクリル樹脂(d−7)水分散体を得た。なお、得られたアクリル樹脂(d−7)の水分散体の固形分濃度は35重量%である。なお、アクリル樹脂(d−7)のガラス転移温度は75℃であった。
【0138】
(塗料組成物1)
・CNT(a)とCNT分散剤(b)を含むCNT水分散体(ab−1)
・アクリル樹脂(d−1)
・水系溶媒(G):純水
上記したCNT(a)とCNT分散剤(b)を含むCNT水分散体(ab−1)、アクリル樹脂(d−1)を固形分重量比で、(ab−1)/(d−1)=0.2/99.8となるように、かつ塗料組成物中の固形分濃度が2重量%となるように(g)を混合し、塗料組成物1を調整した。このときの塗料組成物1中の樹脂組成を表に示す。
【0139】
(塗料組成物2〜24)
・CNT(a)とCNT分散剤(b)を含むCNT水分散体(ab−1)
・CNT(a)とCNT分散剤(b)を含むCNT水分散体(ab−2)
・CNT(a)とCNT分散剤(b)を含むCNT水分散体(ab−3)
・CNT(a)とCNT分散剤(b)を含むCNT水分散体(ab−4)
・オキサゾリン系架橋剤(c−1)の水分散体:(株)日本触媒製“エポクロス”(登録商標)WS−500(固形分濃度40重量%)
・カルボジイミド系架橋剤(c−2)の水分散体:日清紡ケミカル(株)“カルボジライト”(登録商標)V−04(固形分濃度40重量%)
・イソシアネート系架橋剤(c−3)の水分散体:第一工業製薬(株)製“エラストロン”(登録商標)E−37(固形分濃度28重量%)
・メラミン系架橋剤(c−4)の水分散体:三和ケミカル(株)製“ニカラック”MW12LF(固形分濃度71重量%)
・アクリル樹脂(d−1)の水分散体:固形分濃度は35重量%
・ウレタン樹脂(d−2):DIC(株)製“ハイドラン”(登録商標)AP−40(F)(固形分濃度40重量%)ガラス転移温度49℃
・アクリルウレタン共重合樹脂(d−3)の水分散体:固形分濃度は30重量%
・ポリエステル樹脂(d−4)の水分散体:固形分濃度は15重量%
・ポリエステル樹脂(d−5)の水分散体:固形分濃度は15重量%
・ポリエステル樹脂(d−6)の水分散体:固形分濃度は15重量%
・アクリル樹脂(d−7)の水分散体:固形分濃度は35重量%
・水系溶媒(G):純水
上記の、CNT(a)とCNT分散剤(b)を含むCNT水分散体(ab)、架橋剤(c)、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂の少なくとも1種の樹脂を含む樹脂(d)の固形分重量比を、表に記載となるように変更し、かつ、塗料組成物中の固形分濃度が2重量%となるように塗料組成物2〜24を調整した。
【0140】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(以下、樹脂P1)と、グリコール樹脂100モル部に対しシクロヘキサンジメタノールを30モル部共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、樹脂Q1)を用い、それぞれ乾燥した後、別々の押出機に供給した。樹脂P1、樹脂Q1は、それぞれ、押出機にて280℃の溶融状態とし、ギヤポンプおよびフィルタを介した後、吐出体積比1.1/1で801層のフィードブロックにて交互に積層するように合流させた。この時、得られた積層体が、樹脂P1が401層、樹脂Q1が400層からなり、厚み方向に交互に積層されるようにした。また、両表層部分は樹脂P1となるようにした。このようにして得られた計801層からなる積層体を、マルチマニホールドダイに供給して多層積層シートを得た。なお、シート状に成形した後、静電印加にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。得られたキャストフィルムを、75℃に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長100mmの間で、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、長手方向に3.3倍延伸し、その後一旦冷却した。つづいて、この一軸延伸フィルムに、空気中でコロナ放電処理を施した後、塗料組成物1をコロナ放電処理面に塗布した。
【0141】
塗料組成物1を塗布した一軸延伸フィルムをテンターに導き、100℃の熱風で予熱後、110℃の温度で幅方向に3.5倍延伸した。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で230℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度にて幅方向に5%の弛緩処理を施し、積層ポリエステルフィルムを得た。その後、該積層ポリエステルフィルムをイオン交換水に30秒浸し、CNT分散剤(b)を除去した後、100℃で乾燥させ、樹脂層(X)を積層したポリエステルフィルムを得た。この積層ポリエステルフィルムの厚みは100μmであった。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を表に示す。
【0142】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレート(以下、樹脂P1)と、グリコール樹脂100モル部に対しシクロヘキサンジメタノールを30モル部共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、樹脂Q1)を用い、それぞれ乾燥した後、別々の押出機に供給した。樹脂P1、樹脂Q1は、それぞれ、押出機にて280℃の溶融状態とし、ギヤポンプおよびフィルタを介した後、吐出体積比1.1/1で801層のフィードブロックにて交互に積層するように合流させた。この時、得られた積層体が、樹脂P1が401層、樹脂Q1が400層からなり、厚み方向に交互に積層されるようにした。また、両表層部分は樹脂P1となるようにした。このようにして得られた計801層からなる積層体を、マルチマニホールドダイに供給して多層積層シートを得た。なお、シート状に成形した後、静電印加にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。得られたキャストフィルムを、75℃に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長100mmの間で、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、長手方向に3.3倍延伸し、その後一旦冷却した。つづいて、この一軸延伸フィルムに、空気中でコロナ放電処理を施した後、塗料組成物2をコロナ放電処理面に塗布した。
【0143】
塗料組成物2を塗布した一軸延伸フィルムをテンターに導き、100℃の熱風で予熱後、110℃の温度で幅方向に3.5倍延伸した。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で230℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度にて幅方向に5%の弛緩処理を施し、樹脂層(X)を積層したポリエステルフィルムを得た。この積層ポリエステルフィルムの厚みは100μmであった。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を表に示す。
【0144】
(実施例3〜13、17〜19)
表に記載の塗料組成物を用いた以外は、実施例2と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。用いた塗料組成物(x)における各樹脂の重量組成を表に示す。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を表に示す。
(実施例14〜16)
表に記載の塗料組成物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。用いた塗料組成物(x)における各樹脂の重量組成を表に示す。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を表に示す。
【0145】
(比較例1)
CNT(a)とCNT分散剤(b)からなるCNT水分散体(ab)、架橋剤(c)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂の少なくとも1種の樹脂(d)の固形分重量比が表に記載のとおりの塗料組成物17を用いた以外は、実施例2と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を表に示す。
【0146】
比較例1の積層ポリエステルフィルムは、樹脂層(X)におけるCNT(a)の含有量が10重量%を超えるため、接着性、帯電防止性は良好であるものの、透明性が不十分であった。
【0147】
(比較例2)
CNT(a)とCNT分散剤(b)からなるCNT水分散体(ab)、架橋剤(c)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂の少なくとも1種の樹脂(d)の固形分重量比が表に記載のとおりの塗料組成物18を用いた以外は、実施例2と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を表に示す。
【0148】
比較例2の積層ポリエステルフィルムは、樹脂層(X)におけるCNT(a)の含有量が0.05重量%未満のため、帯電防止性が発現しない。
【0149】
(比較例3,4,5)
CNT(a)とCNT分散剤(b)からなるCNT水分散体(ab)、架橋剤(c)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合樹脂の少なくとも1種の樹脂(d)の固形分重量比が表に記載のとおりの塗料組成物19〜21を用いた以外は、実施例2と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性を表に示す。
比較例3,4、5の積層ポリエステルフィルムは、樹脂層(X)のP2/P1が式1を満たさず、湿熱接着性が不十分である。
【0150】
【表1-1】
【0151】
【表1-2】
【0152】
【表2-1】
【0153】
【表2-2】