特許第6201757号(P6201757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6201757空気入りタイヤおよび空気入りタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201757
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤおよび空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/08 20060101AFI20170914BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20170914BHJP
   B29D 30/08 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B60C9/08 J
   B60C5/14 Z
   B29D30/08
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-554123(P2013-554123)
(86)(22)【出願日】2013年5月15日
(86)【国際出願番号】JP2013063582
(87)【国際公開番号】WO2014002631
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年5月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-143444(P2012-143444)
(32)【優先日】2012年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】畑 寛
(72)【発明者】
【氏名】橋村 嘉章
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−068743(JP,A)
【文献】 特開平10−157408(JP,A)
【文献】 特開2003−225953(JP,A)
【文献】 特開平10−193914(JP,A)
【文献】 特開2013−147166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ左右のビード部からトレッド部に渡ってそれぞれ配置される一対のカーカス層と、前記一対のカーカス層のタイヤ径方向外側に配置される複数の交差ベルトとを備える空気入りタイヤであって、
前記一対のカーカス層が、タイヤ幅方向に相互にオーバーラップして配置されると共に、前記カーカス層のオーバーラップ幅Wcが、0.5[mm]≦Wc≦40[mm]の範囲内にあり、
前記一対のカーカス層をタイヤ内周面側から覆う一対のインナーライナを備え、且つ、
前記一対のインナーライナが、タイヤ幅方向に相互にオーバーラップして配置されることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記一対のインナーライナのオーバーラップ幅Wiが、0.5[mm]≦Wi≦35[mm]の範囲内にある請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記一対のカーカス層のオーバーラップ位置が、前記複数の交差ベルトのうち2番目に幅広な交差ベルトのベルト幅Wbを基準として、タイヤ赤道面を中心とする±0.35×Wbの領域内にある請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記カーカス層の端部と前記インナーライナの端部とが、相互に位置をずらして配置される請求項1〜3のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記左右のカーカス層の端部のオーバーラップ位置と、前記左右のインナーライナの端部のオーバーラップ位置とが、タイヤ幅方向に相互に位置をずらして配置される請求項1〜4のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記インナーライナが、接着用のタイゴムを介して前記カーカス層に対して接着される請求項1〜5のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記インナーライナの端部と前記タイゴムの端部とが相互に位置を揃えて配置される請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記インナーライナの端部と前記タイゴムの端部とが相互に位置をずらして配置される請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤの製造方法であって、
ビード部材と、前記カーカス層と、サイドウォールゴムと、リムクッションゴムとを有するサイド部材を成形するサイド部材成形ステップと、
左右一対の前記サイド部材と、ベルト層と、トレッドゴムとを積層してグリーンタイヤを成形するグリーンタイヤ成形ステップとを備えることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤおよび空気入りタイヤの製造方法に関し、さらに詳しくは、タイヤの騒音性能と操縦安定性能とを両立できる空気入りタイヤおよび空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の空気入りタイヤでは、カーカス層をトレッド部センター領域で分割したカーカス分割構造が提案されている。かかる構成を採用する従来の空気入りタイヤとして、特許文献1に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−39109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、タイヤの騒音性能と操縦安定性能とを両立できる空気入りタイヤおよび空気入りタイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、この発明にかかる空気入りタイヤは、タイヤ左右のビード部からトレッド部に渡ってそれぞれ配置される一対のカーカス層と、前記一対のカーカス層のタイヤ径方向外側に配置される複数の交差ベルトとを備える空気入りタイヤであって、前記一対のカーカス層が、タイヤ幅方向に相互にオーバーラップして配置されると共に、前記カーカス層のオーバーラップ幅Wcが、0.5[mm]≦Wc≦40[mm]の範囲内にあり、前記一対のカーカス層をタイヤ内周面側から覆う一対のインナーライナを備え、且つ、前記一対のインナーライナが、タイヤ幅方向に相互にオーバーラップして配置されることを特徴とする。
【0006】
また、この発明にかかる空気入りタイヤの製造方法は、上記の空気入りタイヤの製造方法であって、ビード部材と、前記カーカス層と、サイドウォールゴムと、リムクッションゴムとを有するサイド部材を成形するサイド部材成形ステップと、左右一対の前記サイド部材と、ベルト層と、トレッドゴムとを積層してグリーンタイヤを成形するグリーンタイヤ成形ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明にかかる空気入りタイヤによれば、左右のカーカス層のオーバーラップ幅Wcが適正化されることにより、タイヤの操縦安定性能および騒音性能が両立する利点がある。
【0008】
また、この発明にかかる空気入りタイヤの製造方法によれば、グリーンタイヤの成形工程にて、カーカス層を有する左右のサイド部材をそれぞれ配置する工程を採用できる。これにより、グリーンタイヤの組立工程を簡易化できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
図2図2は、図1に記載した空気入りタイヤの要部を示す説明図である。
図3図3は、図1に記載した空気入りタイヤの製造方法を示す説明図である。
図4図4は、図1に記載した空気入りタイヤの製造方法を示す説明図である。
図5図5は、図1に記載した空気入りタイヤの製造方法を示す説明図である。
図6図6は、図1に記載した空気入りタイヤの製造方法を示す説明図である。
図7図7は、図1に記載した空気入りタイヤの製造方法を示す説明図である。
図8図8は、図1に記載した空気入りタイヤの製造方法を示す説明図である。
図9図9は、図1に記載した空気入りタイヤの効果を示す説明図である。
図10図10は、図1に記載した空気入りタイヤの効果を示す説明図である。
図11図11は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。
図12図12は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0011】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤ1を示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、空気入りタイヤ1の一例として、カーカス分割構造を有する乗用車用ラジアルタイヤを示している。なお、符号CLは、タイヤ赤道面である。
【0012】
この空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、一対のカーカス層13、13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16とを備える(図1参照)。
【0013】
一対のビードコア11、11は、環状構造を有し、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。
【0014】
一対のカーカス層13、13は、左右のビードコア11、11からトレッド部に渡ってそれぞれ配置されてタイヤの骨格を構成する。また、一対のカーカス層13、13は、タイヤ幅方向に相互にオーバーラップして配置される。また、各カーカス層13のタイヤ径方向内側の端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13は、スチールあるいは有機繊維材(例えば、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成される。
【0015】
ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143と、一対のエッジカバー144、144とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。一対の交差ベルト141、142は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上30[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト141、142は、相互に異符号のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有し、ベルトコードの繊維方向を相互に交差させて積層される(クロスプライ構造)。ベルトカバー143は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有する。また、ベルトカバー143は、交差ベルト141、142のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。一対のエッジカバー144、144は、ベルトカバー143のタイヤ径方向外側かつ左右のエッジ部に配置される。
【0016】
トレッドゴム15は、カーカス層13、13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。
【0017】
なお、図1の構成では、上記のように、空気入りタイヤ1が、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、一対のサイドウォールゴム16、16とを備えている。しかし、これに限らず、空気入りタイヤ1が、複数対のビードコア11、11、複数対のビードフィラー12、12、あるいは、複数対のサイドウォールゴム16、16を備えても良い(図示省略)。例えば、ビードフィラー12がタイヤ左右に2つずつ配置される構成が挙げられる。
【0018】
また、図1の構成において、左右のビードフィラー12、12が省略されても良い(図示省略)。したがって、ビードフィラー12を有さない構成が想定される。この実施の形態では、ビードコア11およびビードフィラー12の双方を有する構成(図1参照)、ならびに、ビードフィラー12を省略してビードコア11のみを有する構成(図示省略)をまとめて、ビード部材と呼ぶ。
【0019】
また、図1の構成では、カーカス層13が単層構造を有している。しかし、これに限らず、カーカス層13が、複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有しても良い(図示省略)。
【0020】
[インナーライナ]
また、この空気入りタイヤ1は、一対のインナーライナ18、18を備える(図1参照)。これらのインナーライナ18、18は、左右のカーカス層13、13およびベルト層14をタイヤ内面側から覆うゴム部材であり、タイヤ幅方向に相互にオーバーラップして配置される。このインナーライナ18により、カーカス層13およびベルト層14の露出による酸化が抑制され、また、タイヤに充填された空気の洩れが抑制される。
【0021】
例えば、図1の構成では、左右のインナーライナ18、18が、左右のビードコア11、11のタイヤ径方向内側から左右のカーカス層13、13の内周面に沿ってタイヤ径方向外側に延在して、トレッド部センター領域で相互にオーバーラップして貼り合わされている。また、各インナーライナ18が、帯状のゴムシートであり、カーカス層13に沿ってタイヤを一周して周方向の両端部を相互にオーバーラップさせて貼り合わされている。これにより、トロイダル状のゴムシートが形成されて、カーカス層13の内周面(およびベルト層14の内周面)が隙間なく被覆されている。
【0022】
[カーカス層およびインナーライナの配置構造]
図2は、図1に記載した空気入りタイヤの要部を示す説明図である。同図は、トレッド部センター領域における左右のカーカス層13、13のタイヤ幅方向内側の端部と、ベルト層14(タイヤ径方向内側にある交差ベルト141)と、左右のインナーライナ18、18と、左右のタイゴム19、19との位置関係を模式的に示している。
【0023】
図2に示すように、インナーライナ18は、接着用のタイゴム19を介してカーカス層13およびベルト層14に対して接着される。これにより、インナーライナ18の接着状態が適正に確保される。なお、図1では、インナーライナ18とタイゴム19とが一体化されているため、タイゴム19の記載を省略している。
【0024】
例えば、図1および図2の構成では、インナーライナ18とタイゴム19とが予め積層されて一体化されている。また、インナーライナ18とタイゴム19とが端部(端面)を揃えて配置されている(g=0)。これにより、タイヤ部材の組立工程が簡易化されている。
【0025】
また、図1および図2の構成では、左右のカーカス層13、13が、左右のビードコア11、11からタイヤ径方向外側に延在して、トレッド部センター領域で相互にオーバーラップして配置されている。また、左右のインナーライナ18およびタイゴム19が、左右のビードコア11、11のタイヤ径方向内側から左右のカーカス層13、13の内周面に沿ってタイヤ径方向外側に延在して、トレッド部センター領域で相互にオーバーラップして配置されている。これにより、左右のインナーライナ18が、カーカス層13の内周面(およびベルト層14の内周面)を隙間なく覆って配置されている。
【0026】
また、このとき、インナーライナ18およびタイゴム19が、左右のカーカス層13、13の端部のオーバーラップ部をタイヤ内周面側から覆って配置されている。また、左右のインナーライナ18、18(およびタイゴム19、19)の端部のオーバーラップ位置と、左右のカーカス層13、13の端部のオーバーラップ位置とが、タイヤ幅方向に相互に位置をずらして配置されている。これにより、インナーライナのオーバーラップ位置とカーカス層のオーバーラップ位置とが重なって配置される構成(図示省略)と比較して、タイヤ内周面が平坦化されている。
【0027】
また、この空気入りタイヤ1では、左右のカーカス層13、13のオーバーラップ幅Wcが、0.5[mm]≦Wc≦40[mm]の範囲内にあることが好ましく、3[mm]≦Wc≦20[mm]の範囲内にあることがより好ましい(図1および図2参照)。また、このオーバーラップ幅Wcが、幅狭な交差ベルト142のベルト幅Wbに対して、0.002≦Wc/Wb≦0.3の範囲内にあることが好ましい。これにより、左右のカーカス層13、13のオーバーラップ幅Wcが適正化される。なお、カーカス層13が、複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有する構成(図示省略)では、左右のカーカス層13、13のオーバーラップ幅Wcが、複数のカーカスプライのうちのタイヤ幅方向の最も内側にある端部を基準として測定される。
【0028】
また、左右のインナーライナ18、18のオーバーラップ幅Wiが、0.5[mm]≦Wi≦35[mm]の範囲内にある(図2参照)。これにより、左右のインナーライナ18、18のオーバーラップ幅Wi(貼り合わせ代)が適正化される。
【0029】
また、一対のカーカス層13、13のオーバーラップ位置が、複数の交差ベルト141、142のうち2番目に幅広な交差ベルト142のベルト幅Wbを基準として、タイヤ赤道面CLを中心とする±0.35×Wbの領域内にある(図1参照)。すなわち、一対のカーカス層13、13のオーバーラップ位置が、トレッド部センター領域に配置される。
【0030】
例えば、図1の構成では、一対の交差ベルト141、142が、タイヤ赤道面CLを中心として左右対称に配置されている。また、左右のカーカス層13、13のオーバーラップ位置が、タイヤ赤道面CLを跨いで配置されることにより、2番目に幅広な交差ベルト142の中央部に配置されている。また、左右のカーカス層13、13のオーバーラップ位置と、左右のインナーライナ18、18のオーバーラップ位置とが、タイヤ幅方向に相互に位置をずらして配置されている。
【0031】
また、この空気入りタイヤ1では、後述する図8に示すように、各インナーライナ18が両端部をタイヤ周方向に相互にオーバーラップさせた環状構造を有する。このとき、各インナーライナ18のタイヤ周方向のオーバーラップ幅が、0[mm]以上3[mm]以下の範囲内にある。これにより、カーカス層13の内周面およびベルト層14の内周面が隙間なく適正に被覆される。
【0032】
[空気入りタイヤの製造方法]
図3図8は、図1に記載した空気入りタイヤの製造方法を示す説明図である。これらの図において、図3(a)、(b)は、成形された左右一対のサイド部材X、Xをそれぞれ示している。同図では、インナーライナ18とタイゴム19とが一体化されているため、タイゴム19の記載を省略している。また、図4図8は、グリーンタイヤZの成形工程を示している。
【0033】
空気入りタイヤ1は、以下のように製造される。
【0034】
まず、左右のサイド部材X、Xがそれぞれ成形される(図3(a)および(b)参照)。1つのサイド部材Xは、1つのビードコア11と、1つのビードフィラー12と、1つのカーカス層13と、1つのサイドウォールゴム16と、1つのリムクッションゴム17と、1つのインナーライナ18(およびタイゴム19)とから構成され、一様断面かつ環状構造を有する。このサイド部材Xは、例えば、サイド部材成形ドラム(図示省略)上に各部材をセットして組み立てられる。また、左右一対のサイド部材X、Xが、同一工程によりそれぞれ成形される。かかるサイド部材Xの成形工程として、任意の工程が採用され得る。
【0035】
次に、図4に示すように、左右のサイド部材X、Xが、成形ドラム24上にそれぞれ配置される。このとき、環状構造を有する各サイド部材Xが、成形ドラム24の側方から成形ドラム24に配置され、ビード部にて把持装置26より把持される。また、図5(a)および(b)に示すように、左右のカーカス層13、13の端部が相互にオーバーラップして配置され、また、左右のインナーライナ18(およびタイゴム19)の端部が相互にオーバーラップして配置される。また、図3(a)および(b)に示すように、左右のインナーライナ18(およびタイゴム19)が、相異なる幅を有することにより、相互に適正にオーバーラップして配置される。
【0036】
また、上記の工程では、予め成形された左右のサイド部材X、X(図3(a)および(b)参照)が用いられることにより、ビードコア11、ビードフィラー12、カーカス層13、サイドウォールゴム16、インナーライナ18およびタイゴム19を成形ドラム24に設置する作業を簡易化できる。
【0037】
しかし、これに限らず、左右のサイド部材X、Xを予め成形することなく、ビードコア11、ビードフィラー12、カーカス層13、サイドウォールゴム16、リムクッションゴム17、インナーライナ18およびタイゴム19を成形ドラム24に対して順次設置しても良い(図示省略)。したがって、成形ドラム24上にて、左右のサイド部材X、Xが組み立てられても良い。
【0038】
次に、図6に示すように、ベルト層14を構成する各部材(一対の交差ベルト141、142、ベルトカバー143および一対のエッジカバー144、144)と、トレッドゴム15とが配置されて、グリーンタイヤZ(図7参照)が成形される。また、このグリーンタイヤZでは、図8に示すように、インナーライナ18の周方向の両端部が、タイヤ周方向に相互にオーバーラップして配置される。
【0039】
次に、グリーンタイヤZが加硫成形される。具体的には、グリーンタイヤZが成形ドラム24に設置された状態でタイヤ加硫モールド(図示省略)に充填される。そして、タイヤ加硫モールドが加熱されて、タイヤ加硫モールドのタイヤ成形金型を加圧し閉じることでグリーンタイヤZがタイヤ加硫モールドのタイヤ成形金型と成形ドラム24との間で押圧される。また、グリーンタイヤZが加熱されることにより、トレッド部のゴム分子と硫黄分子とが結合して加硫が行われる。このとき、タイヤ成形金型の形状がグリーンタイヤZのトレッド面に転写されて、タイヤのトレッドパターンが成形される。そして、成形されたタイヤがタイヤ加硫モールドから引き抜かれる。
【0040】
図9および図10は、図1に記載した空気入りタイヤの効果を示す説明図である。これらの図において、図9(a)および(b)は、同一の断面高さSH、ならびに、相互に異なるトレッド幅TW1、TW2およびタイヤペリフェリー長TP1、TP2を有する2種類の空気入りタイヤ1A、1Bをそれぞれ示している。また、図10は、トレッド部センター領域における左右のカーカス層13、13のタイヤ幅方向内側の端部と、ベルト層14(タイヤ径方向内側にある交差ベルト141)と、左右のインナーライナ18、18と、左右のタイゴム19、19との位置関係を模式的に示している。
【0041】
上記のように、この空気入りタイヤ1の製造工程では、左右のサイド部材X、X(図3参照)が予め組み立てられ、これらのサイド部材X、Xが成形ドラム24上に配置されてグリーンタイヤZが成形される(図4図7参照)。このとき、左右のサイド部材X、Xがカーカス層13をそれぞれ有するので、左右のサイド部材X、Xを成形ドラム24の側方から成形ドラム24に配置することにより、カーカス層13を成形ドラム24に容易に配置できる。例えば、単一構造を有するカーカス層を左右のビードコア間にトロイダル状に架け渡しつつ成形ドラムに配置する構成(図示省略)では、ビード部とトレッド部とが周長差を有するため、成形ドラムに対するカーカス層の設置工程が容易でなく、好ましくない。
【0042】
また、上記の構成では、左右のサイド部材X、Xがカーカス層13およびインナーライナ18をそれぞれ有するので、左右のサイド部材X、Xを成形ドラム24に配置することにより、カーカス層13およびインナーライナ18を成形ドラム24に容易に配置できる。
【0043】
また、上記の構成では、カーカス層13およびインナーライナ18がタイヤ左右に分割された構造(図1参照)を有するので、グリーンタイヤZの組立工程にて、カーカス層13およびインナーライナ18を有する左右のサイド部材X、Xをそれぞれ形成し、これらのサイド部材X、Xを成形ドラム24に配置する工程(図3および図4参照)を採用できる。これにより、カーカス層13およびインナーライナ18を成形ドラム24に対して容易に配置できるので、グリーンタイヤZの組立工程を簡易化できる。
【0044】
また、上記の構成は、例えば、図9に示すような同一の断面高さSHおよび相互に異なるトレッド幅TW1、TW2を有する2種類の空気入りタイヤ1A、1Bの製造工程にて、特に有益である。すなわち、上記の構成では、左右のサイド部材X、Xを相互に分離した状態(図3参照)で独立して成形できる。すると、同一の断面高さSHおよび相互に異なるタイヤペリフェリー長TP1、TP2を有する2種類の空気入りタイヤ1A、1Bにて、これらのサイド部材X、Xを共用できる。これにより、半製品の在庫を低減できる。
【0045】
なお、上記の構成では、図2図10との比較から分かるように、左右のカーカス層13、13のオーバーラップ幅Wcおよび左右のインナーライナ18、18のオーバーラップ幅Wiを調整することにより、トレッド幅TW1、TW2を容易に調整できる。
【0046】
[変形例]
図11は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。同図は、トレッド部センター領域における左右のカーカス層13、13のタイヤ幅方向内側の端部と、ベルト層14(タイヤ径方向内側にある交差ベルト141)と、左右のインナーライナ18、18と、左右のタイゴム19、19との組立工程を模式的に示している。
【0047】
図2の構成では、図3および図5に示すように、各サイド部材Xにて、カーカス層13の端部とインナーライナ18およびタイゴム19の端部とが、相互に位置をずらして配置されている。また、インナーライナ18の端部とタイゴム19の端部とが、相互に位置を揃えて配置されている(g=0)。そして、左右のカーカス層13、13のオーバーラップ位置と、左右のインナーライナ18、18(およびタイゴム19、19)のオーバーラップ位置とが、重ならないように相互に位置をずらして配置されている。
【0048】
これに対して、図11の構成では、各サイド部材Xにて、カーカス層13の端部とインナーライナ18の端部とタイゴム19の端部とが、相互に位置をずらして(間隔gを開けて)配置されている。そして、左右のカーカス層13、13のオーバーラップ位置と、左右のインナーライナ18、18のオーバーラップ位置と、左右のタイゴム19、19のオーバーラップ位置とが、重複しないように、相互に位置をずらして配置されている。このように、図2の構成において、さらに、インナーライナ18、18のオーバーラップ位置とタイゴム19、19のオーバーラップ位置とが相互に位置をずらして配置されることにより、タイヤ内周面がさらに平坦化されている。
【0049】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、タイヤ左右のビード部からトレッド部に渡ってそれぞれ配置される一対のカーカス層13、13と、これらのカーカス層13、13のタイヤ径方向外側に配置される複数の交差ベルト141、142とを備える(図1参照)。また、一対のカーカス層13、13が、タイヤ幅方向に相互にオーバーラップして配置される。また、これらのカーカス層13、13のオーバーラップ幅Wcが、0.5[mm]≦Wc≦40[mm]の範囲内にある。
【0050】
かかる構成では、左右一対のカーカス層13、13がタイヤ幅方向に相互にオーバーラップして配置されるので、単一構造を有するカーカス層を左右のビードコア間にトロイダル上に架け渡しつつ成形ドラムに配置する構成(図示省略)と比較して、成形ドラム24に対するカーカス層13の設置工程を簡易化できる利点がある。また、左右のカーカス層13、13のオーバーラップ幅Wcが適正化されることにより、タイヤの操縦安定性能および騒音性能が両立する利点がある。すなわち、0.5[mm]≦Wcであることにより、タイヤの操縦安定性能が向上し、また、Wc≦40[mm]であることにより、タイヤの騒音性能が向上する。
【0051】
また、この空気入りタイヤ1では、一対のカーカス層13、13をタイヤ内周面側から覆う一対のインナーライナ18、18を備える(図1参照)。また、一対のインナーライナ18、18が、タイヤ幅方向に相互にオーバーラップして配置される。かかる構成では、カーカス層13およびインナーライナ18がタイヤ左右に分割された構造を有するので、グリーンタイヤZの成形工程にて、カーカス層13およびインナーライナ18を有する左右のサイド部材X、Xをそれぞれ成形し(図3参照)、これらのサイド部材X、Xを成形ドラム24に配置する工程(図4および図5参照)を採用できる。これにより、カーカス層13およびインナーライナ18を成形ドラム24に対して容易に配置できるので、グリーンタイヤZの組立工程を簡易化できる利点がある。
【0052】
また、この空気入りタイヤ1では、一対のインナーライナ18、18のオーバーラップ幅Wiが、0.5[mm]≦Wi≦35[mm]の範囲内にある(図1参照)。これにより、左右のインナーライナ18、18のオーバーラップ幅Wiが適正化される利点がある。すなわち、0.5[mm]≦Wiとして貼り合わせ代を残すことにより、タイヤ加硫時におけるインナーライナ18、18のオーバーラップ部の口開きが適正に防止される。また、Wi≦35[mm]とすることにより、インナーライナ18のオーバーラップ部におけるゴムボリュームを低減して、ゴムの非圧縮特性に起因する加硫成形時の中子あるいは金型の破損を防止できる。
【0053】
また、この空気入りタイヤ1では、一対のカーカス層13、13のオーバーラップ位置が、複数の交差ベルト141、142のうち2番目に幅広な交差ベルト142のベルト幅Wbを基準として、タイヤ赤道面CLを中心とする±0.35×Wbの領域内にある(図1参照)。かかる構成では、カーカス層13、13のオーバーラップ位置が交差ベルト142の端部の領域に配置される構成と比較して、スプライス故障の発生が抑制される。これにより、タイヤの耐久性能が向上する利点がある。
【0054】
また、この空気入りタイヤ1では、カーカス層13の端部とインナーライナ18の端部とが、相互に位置をずらして配置される(図3参照)。かかる構成では、カーカス層の端部とインナーライナの端部とが相互に位置を揃えて配置される構成(図示省略)と比較して、タイヤ内周面を平坦化できる利点がある。
【0055】
また、この空気入りタイヤ1では、インナーライナ18が、左右のカーカス層13、13の端部のオーバーラップ部をタイヤ内周面側から覆って配置される(図2参照)。また、左右のインナーライナ18、18の端部のオーバーラップ位置と、左右のカーカス層13、13の端部のオーバーラップ位置とが、タイヤ幅方向に相互に位置をずらして配置される。これにより、インナーライナのオーバーラップ位置とカーカス層のオーバーラップ位置とが重なって配置される構成(図示省略)と比較して、タイヤ内周面を平坦化できる利点がある。
【0056】
また、この空気入りタイヤ1では、インナーライナ18が、接着用のタイゴム19を介してカーカス層13に対して接着される(図2参照)。これにより、インナーライナ18の接着状態が適正に確保される利点がある。
【0057】
また、この空気入りタイヤ1では、インナーライナ18の端部とタイゴム19の端部とが相互に位置を揃えて配置される。かかる構成では、グリーンタイヤ成形工程にて、インナーライナ18とタイゴム19とを予め積層して一体化した部材を用いることができるので、タイヤ部材の組立工程を簡易化できる利点がある。
【0058】
また、この空気入りタイヤ1では、インナーライナ18の端部とタイゴム19の端部とが相互に位置をずらして配置される(図11参照)。これにより、インナーライナ18の端部とタイゴム19の端部とが相互に位置を揃えて配置される構成(図2参照)と比較して、タイヤ内周面を平坦化できる利点がある。
【0059】
また、この空気入りタイヤ1の製造方法は、ビード部材(少なくともビードコア11を含む部材)と、カーカス層13と、サイドウォールゴム16と、リムクッションゴム17とを有するサイド部材Xを成形するサイド部材成形ステップ(図3参照)と、左右一対のサイド部材X、Xと、ベルト層14と、トレッドゴム15とを積層してグリーンタイヤZを成形するグリーンタイヤ成形ステップ(図6および図7参照)とを備える。なお、グリーンタイヤ成形ステップでは、左右一対のサイド部材X、Xと、ベルト層14と、トレッドゴム15とが、(1)径方向に拡縮できる成形ドラム24上に配置されてグリーンタイヤZが成形されても良いし、(2)剛体中子上に配置されてグリーンタイヤZが成形されても良い。
【0060】
かかる構成では、グリーンタイヤZの成形工程にて、カーカス層13を有する左右のサイド部材X、Xを成形ドラム24にそれぞれ配置する工程を採用できる。これにより、グリーンタイヤZの組立工程を簡易化できる利点がある。
【実施例】
【0061】
図12は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【0062】
この性能試験では、相互に異なる複数の空気入りタイヤについて、(1)騒音性能、(2)操縦安定性能および(3)耐久性能に関する評価が行われた(図12参照)。この性能試験では、タイヤサイズ235/40R18の空気入りタイヤがJATMA規定の適用リムに組み付けられる。また、空気入りタイヤが排気量2.0[L]かつFF(Front-engine Front-drive)の乗用車に装着され、また、空気入りタイヤに内圧230[kPa]が付与される。
【0063】
(1)騒音性能(ロードノイズ)に関する評価では、試験車両が粗い路面を有するテストコースを50[km/h]で走行して、車内音が計測される。そして、この計測結果に基づいて、従来例ヤを基準(100)とする指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほどロードノイズが小さく好ましい。
【0064】
(2)操縦安定性能に関する評価は、試験車両が所定のテストコースを走行して、パネラー5人が操縦安定性能のフィーリングについて指数評価を行う。そして、5人のうち最高点と最低点の2人を除いた3人の指数評価の平均点を算出して用いる。この評価は、指数が大きいほど操縦安定性能に優れていて好ましい。
【0065】
(3)耐久性能に関する評価ドラム径1707[mm]のドラム試験機に取り付けられ、また、試験タイヤに内圧180[kPa]が付与される。そして、81[km/h]かつ周囲温度38±3[℃]の条件下にてJATMA規定の最大荷重の85[%]で4時間、90[%]で6時間、100[%]で24時間、115[%]で4時間、130[%]で4時間、145[%]で4時間、160[%]で4時間走行した後に、外観および内部に発生した故障が観察されて、従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が97以上であれば、必要な耐久性能が確保されているといえる。
【0066】
実施例1〜4の空気入りタイヤ1は、図1および図2に記載した構造を有する。また、実施例4では、カーカス層13のオーバーラップ位置が、タイヤ赤道面CLから交差ベルト142のベルト幅Wbの0.40×Wbの位置(0.35×Wbよりも外側の位置)にある。
【0067】
従来例の空気入りタイヤは、図1の構成において、左右のカーカス層13、13が端部を突き合わせた構造を有し、また、インナーライナ18(およびタイゴム19)が左右のビード部に渡って延在する単一構造を有する(図示省略)。
【0068】
試験結果が示すように、実施例1〜4の空気入りタイヤ1では、(1)騒音性能および(2)操縦安定性能が両立することが分かる。
【符号の説明】
【0069】
1、1A、1B 空気入りタイヤ、11 ビードコア、12 ビードフィラー、13 カーカス層、14 ベルト層、141 交差ベルト、142 交差ベルト、143 ベルトカバー、144 エッジカバー、15 トレッドゴム、16 サイドウォールゴム、18 インナーライナ、19 タイゴム、24 成形ドラム、26 把持装置、X サイド部材、Z グリーンタイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12