(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
絶縁基板の一方の面に形成された導電体からなる回路層、および前記絶縁基板の他方の面に形成された金属層を有するパワーモジュール用基板と、前記金属層側に接合されるヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
ろう材を用いて前記パワーモジュール用基板に前記ヒートシンクを接合する接合工程を備え、
前記接合工程では、前記ろう材の冷却固化過程において、前記ろう材の接合温度から該ろう材の固相線温度より10℃低い温度までの温度領域を温度降下させる際に、前記ヒートシンクの接合面における、中心部と端部との冷却速度差が5.0×10−3(℃/分)以内になるように冷却制御を行うことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとの間には緩衝層を備えており、前記ヒートシンクは、前記緩衝層に接合されることを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
前記接合面の前記中心部と前記端部との距離は、30mm以上であることを特徴とする請求項1ないし5いずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
前記ヒートシンクはアルミニウムを含む材料からなり、前記ろう材は、Al−Si系ろう材を用いることを特徴とする請求項1ないし6いずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、半導体素子の多機能化に伴う外形形状の大型化や、複数の半導体素子の一括配列などによってパワーモジュール用基板が大型化すると、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの接合面の面積も大きくなる。接合面の面積が大きくなると、接合工程において、ろう材が接合温度から室温に向けて冷却される際に、接合面の中心部と端部との冷却速度の差が大きくなる。即ち、接合面の端部に近いほど冷却速度が高くなり、接合面の中心部では端部に比べて冷却速度が遅くなる。その結果、ろう材の冷却固化過程において、接合面の中心部と端部とで大きな温度差が生じる。
また、緩衝層の設けられたパワーモジュール基板であっても、緩衝層とヒートシンクとの接合面において、前述のような温度差が生じる。
【0008】
こうした温度差が生じると、接合面での熱収縮の不均一によって、接合面にボイドや空隙などの接合不良部位が生じる懸念がある。パワーモジュール用基板とヒートシンクとの接合面又は緩衝層とヒートシンクとの接合面に接合不良部位が生じると、放熱性の低下や、冷熱サイクルによる剥離などの不具合を引き起こす原因となる。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、接合面に接合不良部位を生じさせることなくパワーモジュール用基板とヒートシンクとを接合又は緩衝層とヒートシンクとを接合することが可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のいくつかの態様は、次のようヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供した。
すなわち、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、絶縁基板の一方の面に形成された導電体からなる回路層、および前記絶縁基板の他方の面に形成された金属層を有するパワーモジュール用基板と、前記金属層側に接合されるヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、ろう材を用いて前記パワーモジュール用基板に前記ヒートシンクを接合する接合工程を備え、前記接合工程では、前記ろう材の冷却固化過程において、前記ろう材の接合温度から該ろう材の固相線温度より10℃低い温度までの温度領域を温度降下させる際に、前記ヒートシンクの接合面における、中心部と端部との冷却速度差が5.0×10
−3(℃/分)以内になるように冷却制御を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によれば、溶融したろう材が固化する温度範囲である、接合温度から固相線温度より10℃低い温度までの温度領域を温度降下させる際に、接合面の中心部と端部との冷却速度差が5.0×10
−3(℃/分)以内になるように冷却制御を行うことによって、接合面の中心部と端部との温度差による熱収縮の不均一が極めて小さく抑えられる。これによって、接合面の面積が大きくても、冷却後のヒートシンクの接合面にボイドや空隙が生じることがない。
【0012】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを接合することを特徴とする。
これによって、パワーモジュール用基板で生じた熱を、迅速にヒートシンクに伝搬させ、効率よく放熱することが可能になる。また、接合面の面積が大きくても、接合面の中心部と端部との冷却速度差が5.0×10
−3(℃/分)以内になるように冷却制御を行うことによって、冷却後のヒートシンクと金属層との接合面にボイドや空隙が生じることがなく、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを隙間なく密着して接合させることが可能になる。
【0013】
前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとの間には緩衝層を備えており、前記ヒートシンクは、前記緩衝層に接合されることを特徴とする。
パワーモジュール用基板とヒートシンクとの間に緩衝層を形成することによって、パワーモジュール用基板の熱膨張係数と、ヒートシンクの熱膨張係数との差によって冷熱サイクルが負荷された際の熱応力を緩和し、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの剥離を防止することができる。また、接合面の面積が大きくても、接合面の中心部と端部との冷却速度差が5.0×10
−3(℃/分)以内になるように冷却制御を行うことによって、冷却後のヒートシンクと緩衝層との接合面にボイドや空隙が生じることがなく、緩衝層とヒートシンクとを隙間なく密着して接合させることが可能になる。
【0014】
前記パワーモジュール用基板は、1つの前記緩衝層に対して複数配置されることを特徴とする。
これによって、緩衝層をパワーモジュール用基板の数に合わせて分割して形成するといった手間の掛かる工程が省略でき、製造工程をより簡略化することができる。
【0015】
前記接合面の面積は、18cm
2以上であることを特徴とする。
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によれば、接合面の面積が18cm
2以上の大面積であっても、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを隙間なく密着して接合させることが可能になる。
【0016】
前記接合面の前記中心部と前記端部との距離は、30mm以上であることを特徴とする。
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によれば、接合面の中心部と端部との距離が30mm以上であっても、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを隙間なく密着して接合させることが可能になる。
【0017】
前記ヒートシンクはアルミニウムを含む材料からなり、前記ろう材は、Al−Si系ろう材を用いることを特徴とする。
ろう材としてAl−Si系ろう材を選択することによって、金属層と、アルミニウムを含む材料からなるヒートシンクとのろう付の接合性が高まり、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを強固に接合させることが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、接合面に接合不良部位を生じさせることなくパワーモジュール用基板とヒートシンクとを接合又は緩衝層とヒートシンクとを接合することが可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
(第一実施形態)
まず、最初に、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によって製造されるヒートシンク付パワーモジュール用基板の構成について説明する。
図1は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の一例を示す断面図である。
ヒートシンク付パワーモジュール用基板1は、パワーモジュール用基板10と、パワーモジュール用基板10の他方側(
図1において下側)に接合されたヒートシンク30とを備えている。
【0022】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11(絶縁層)と、このセラミックス基板11の一方の面11a(
図1において上面)に形成された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面11b(
図1において下面)に形成された金属層13と、を備えている。
【0023】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、例えば、絶縁性の高いAlN(窒化アルミニウム)や、Al
2O
3(酸化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化ケイ素)などから構成されていればよく、本実施形態では、AlNを用いている。また、セラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、一例として、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0024】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面11aに、導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。回路層12としては、Al、またはAlを含む合金、Cuなどが挙げられる。本実施形態においては、回路層12は、例えば、純度が99.99mass%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。また、回路層12の厚さは、例えば、0.1〜5mmの範囲内に設定されている。
【0025】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面11bに、金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、回路層12と同様に、純度が99.99mass%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。また、金属層13の厚さは、例えば、0.1〜5mmの範囲内に設定されている。
【0026】
こうしたパワーモジュール用基板10を構成する回路層12の一方の面12a(
図1において上面)には、はんだ層2を介して半導体素子3が接合されている。
半導体素子3は、例えば、半導体を備えた電子部品であり、必要とされる機能に応じて種々の半導体素子が選択される。本実施形態では、IGBT素子とされている。
【0027】
はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)などが挙げられる。
パワーモジュール用基板10と、はんだ層2を介して接合された半導体素子3とからパワーモジュール20が構成される。
【0028】
ヒートシンク(冷却器)30は、半導体素子3に電流が流れることによって生じる熱を伝搬させて放熱することによって、パワーモジュール20を冷却するためのものである。こうしたヒートシンク30は、熱伝導性が良好なアルミニウム、アルミニウム合金、AlSiC、Al−C等、アルミニウムを含む材料で構成されていることが好ましい。本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。このヒートシンク31の内部には、冷却用の流体(冷媒)が流れるための流路32が設けられている。
【0029】
なお、ヒートシンク(冷却器)30は、上述したような、冷却用の流体、例えば冷却水による冷却を行う水冷方式のヒートシンク以外にも、多数の放熱フィンを設けて外気との接触面積を増加させ、空気によって冷却を行う空冷方式のヒートシンクであってもよい。
【0030】
金属層13と、ヒートシンク30の一方の面30a(
図1において上面)とは、ろう材によって接合されている。金属層13とヒートシンク30とを接合するためのろう材としては、例えば、Al−Si系ろう材、Al−Ge系ろう材等が挙げられる。本実施形態ではAl−Si系ろう材を用いた。なお、こうしたろう材による接合は、接合面にろう材箔を配し、このろう材箔を溶融したのち冷却することによって行われる。
【0031】
図4に示すように、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板1における、金属層13とヒートシンク30との接合面Gは、その面積が18cm
2以上である。本実施形態では、金属層13は、横36mm×縦50mm×厚み0.4mmの四角板状を成し、ヒートシンク30との接合面Gの面積は18cm
2となっている。
【0032】
また、こうした接合面Gにおける中心部Pと、この中心部Pから最も遠い端部Kとの距離Lは30mm以上である。本実施形態では、金属層13の中心部Pと、四角形の四隅の角Kとの間の距離が30mmとなっている。
【0033】
以上のような構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について説明する。
図2は、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を段階的に示した断面図である。また、
図3は、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法のフローチャートである。
まず、
図2(a)に示すように、セラミックス基板11の一方の面11a及び他方の面11bに、それぞれろう材箔Hを介してアルミニウム板22、23を積層する。ろう材箔Hとしては、例えば、Al−7.5mass%Siのろう材箔が選択される。
【0034】
セラミックス基板11、ろう材箔H、およびアルミニウム板22、23の積層物を治具で挟み込む。こうした治具は、積層物に対して所定の加圧力を印加する。そして、例えば真空加熱炉中で、接合温度まで真空加熱する。こうした接合温度は、ろう材箔Hの溶融温度以上に設定される。一例として、溶融温度は645℃に設定され、30分間保持される。
【0035】
こうした真空加熱によって、
図2(b)に示すように、セラミックス基板11の一方の面11aに回路層12が形成され、他方の面11bに金属層13が形成されたパワーモジュール用基板10が得られる(回路層および金属層接合工程S11)。
【0036】
次に、
図2(c)に示すように、金属層13の他方の面13bに、ろう材箔Hを介してヒートシンク30を積層する。ろう材箔Hとしては、例えば、厚さ5μm〜100μmのAl−10.5mass%Siろう材からなるろう材箔が選択される。
【0037】
パワーモジュール用基板10、ろう材箔H、およびヒートシンク30からなる積層物を治具で挟み込む。そして、
図2(d)に示すように、こうした積層物に対して所定の加圧力を印加させた状態で、例えば真空加熱炉中で、接合温度まで真空加熱する。こうした接合温度は、ろう材箔Hの溶融温度以上に設定される。一例として、Al−Si系ろう材を用いた本実施形態では、溶融温度は610〜615℃に設定され、30分間保持される。
【0038】
この後、真空加熱炉中で室温まで冷却され、ろう材が固化することによって、パワーモジュール用基板10とヒートシンク30とが接合面Gで接合され、
図2(e)に示すように、パワーモジュール用基板10とヒートシンク30とが接合されたヒートシンク付パワーモジュール用基板1が得られる(ヒートシンク接合工程S12)。
る。
【0039】
このようなヒートシンク接合工程S12において、ろう材を溶融温度(610〜615℃)まで昇温させて30分間保持した後の、ろう材の冷却固化過程では、真空加熱炉中の冷却速度が所定の範囲となるように制御される。
図4は、ヒートシンク30と金属層13とを上から平面視した時の平面図である。本実施形態では、ヒートシンク30の一方の面30aの面積よりも、金属層13の他方の面13bの面積のほうが小さいので、接合面Gの面積は金属層13の他方の面13bと同等である。
【0040】
そして、こうした接合面Gにおいて、中心部Pと、この中心部Qから最も離れた端部(即ち、金属層13の周縁のうち、四隅の角部)Kとの冷却速度差が5.0×10
−3(℃/分)以内になるように、真空加熱炉を冷却制御する。こうした接合面Gの中心部Pと端部Kとの冷却速度差を5.0×10
−3(℃/分)以内に制御する温度範囲は、少なくとも、ろう材の冷却固化過程において、ろう材の接合温度からろう材の固相線温度より10℃低い温度までの温度領域を温度降下させる際に行う。
【0041】
接合面Gの中心部Pと端部Kとの冷却速度差を5.0×10
−3(℃/分)以内に制御するための真空加熱炉の冷却速度の具体例として、炉内温度が615℃から500℃まで降下する時の冷却速度を1.0(℃/分)〜0.25(℃/分)の範囲に制御することが例示できる。
【0042】
本実施形態のように、接合面Gの面積(即ち、金属層13の他方の面13bの面積)が、18cm
2を超えるような大きな面積の場合、温度制御せずに室温まで放冷した場合、接合面Gの中心部Pと端部Kとの冷却速度差が大きくなり過ぎて、熱収縮の不均一により接合面Gにボイドや空隙が生じることがある。
【0043】
しかし、ろう材が溶融状態から固化する温度範囲である、ろう材の接合温度からろう材の固相線温度より10℃低い温度までの温度領域において、接合面Gの中心部Pと端部Kとの冷却速度差が5.0×10
−3(℃/分)以内になるように冷却制御することによって、接合面Gの面積が18cm
2を超えるような大きな面積であっても、接合面Gの中心部Pと端部Kとの熱収縮の不均一が極めて小さく抑えられる。これによって、冷却後のヒートシンク30と金属層13との接合面Gにボイドや空隙が生じることがなく、パワーモジュール用基板10とヒートシンク30とを隙間なく密着して接合することができる。
【0044】
こうしたヒートシンク接合工程S12を経て得られたヒートシンク付パワーモジュール用基板1の回路層12の一方の面12aに、はんだ層2を介して半導体素子3を載置し、還元炉内においてはんだ接合する(半導体素子接合工程S13)。
このようにして、ヒートシンク付パワーモジュールが得られる。
【0045】
こうして得られたヒートシンク付パワーモジュールは、パワーモジュール20とヒートシンク30とが、ろう材によって隙間なく密着して接合されているので、半導体素子3で生じた熱を効率よくヒートシンク30に導いて放熱させることができる。また、パワーモジュール20とヒートシンク30とが、ボイドや空隙などが無く密着して接合されているので、多数回の冷熱サイクルを経てもパワーモジュール20とヒートシンク30とが剥離を引き起こすことが無く、長期間にわたって高い放熱特性を維持することができる。
【0046】
(第二実施形態)
図5は、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によって製造されるヒートシンク付パワーモジュール用基板の別な実施形態を示す断面図である。なお、
図1に示す第一実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を略す。
この実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板50は、2つのパワーモジュール用基板10,10と、パワーモジュール用基板10の他方側(
図5において下側)に接合されたヒートシンク30と、パワーモジュール用基板10,10およびヒートシンク30の間に配された緩衝層51とを備えている。
【0047】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11(絶縁層)と、このセラミックス基板11の一方の面11aに形成された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面11bに形成された金属層13と、を備えている。
【0048】
緩衝層51は、アルミニウムを含む材料、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウム複合材料などから構成されている。本実施形態では、アルミニウム合金から構成される。こうした緩衝層51は、パワーモジュール用基板10の熱膨張係数と、ヒートシンク30の熱膨張係数との差により、冷熱サイクルが負荷された際の熱応力を緩和し、パワーモジュール用基板10とヒートシンク30との剥離を防止する。
【0049】
このような緩衝層51には、複数のパワーモジュール用基板10を接合することができる。即ち、本実施形態では、1つの緩衝層51に対して2つのパワーモジュール用基板10,10を配置した例を示している。
【0050】
以上の構成の第二実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板50の製造方法におけるヒートシンク接合工程では、金属層13と緩衝層51の一方の面51aとの間、およびヒートシンク30と緩衝層51の他方の面51bとの間に、それぞれAl−Si系ろう材からなるろう材箔が配され、真空加熱炉によって接合温度まで昇温、保持された後、冷却される。これによって、複数のパワーモジュール用基板10,10と、ヒートシンク30とが、緩衝層51を介して接合される。
【0051】
このような接合工程においても、第一実施形態と同様に、それぞれの接合面Gにおいて、中心部と、この中心部から最も離れた端部(即ち、長方形板状の緩衝層51の周縁のうち、四隅の角部)との冷却速度差が5.0×10
−3(℃/分)以内になるように、真空加熱炉を冷却制御する。こうした接合面の中心部と端部との冷却速度差を5.0×10
−3(℃/分)以内に制御する温度範囲は、少なくとも、ろう材の冷却固化過程において、ろう材の接合温度からろう材の固相線温度より10℃低い温度までの温度領域を温度降下させる際に行う。それぞれの接合面Gの中心部と端部との冷却速度差を5.0×10
−3(℃/分)以内に制御するために、真空加熱炉の冷却速度を、炉内温度が615℃から500℃まで降下する際に、例えば、1.0(℃/分)〜0.25(℃/分)の範囲に制御する。
【0052】
これによって、金属層13と緩衝層51との間、およびヒートシンク30と緩衝層51との間のそれぞれの接合面Gの面積が18cm
2を超えるような大きな面積であっても、接合面Gの中心部と端部との熱収縮の不均一が極めて小さく抑えられる。従って、冷却後の金属層13と緩衝層51との間、およびヒートシンク30と緩衝層51との間の接合面Gにボイドや空隙が生じることがなく、パワーモジュール用基板10,10とヒートシンク30とを、緩衝層51を介して隙間なく密着して接合することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態においては、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの接合に用いるろう材としてAl−Si系ろう材を例示したが、これに限定されるものではなく、例えば、Al−Ge系ろう材、Ag−Cu系ろう材など、各種ろう材を用いることもできる。なお、接合工程においては、接合に用いるろう材の種類に応じて適切な接合温度が選択されればよく、ろう材の固相線温度は、それぞれのろう材の公知の状態図に基づいて設定すればよい。
【0054】
また、上述した実施形態においては、ヒートシンク付パワーモジュール用基板1と半導体素子との接合にはんだを用いる場合を例示したが、これに限定されるものではなく、例えばナノAg粒子と有機物とを含むAgペーストを用いてヒートシンク付パワーモジュール用基板に半導体素子を接合しても良い。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
本発明例、および比較例として、
図5に示す緩衝層を有するヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いた。各部の材質とサイズは以下のとおりである。
回路層:(4N−Al)0.4mmt×36mm×50mm
回路層とセラミックス基板との接合材:(Al−7.5mass%Siろう材)0.017mmt×36mm×50mm
セラミックス基板:(AlN)0.635mmt×38.8mm×52.8mm
金属層とセラミックス基板との接合材:(Al−7.5mass%Siろう材)0.017mmt×36mm×50mm
金属層:(4N−Al)0.4mmt×36mm×50mm
金属層と緩衝層との接合材:(Al−10.5mass%Siろう材)0.05mmt×36mm×50mm
緩衝層:(4N−Al)2.1mmt×52.8mm×79mm
ヒートシンクと緩衝層との接合材:(Al−10.5mass%Siろう材)0.05mmt×52.8mm×79mm
ヒートシンク:(A6063)5mmt×87mm×105mm
なお、1つの緩衝層に対して2つのパワーモジュール用基板を間隔を開けて並列に配置した。
【0056】
以上のようなヒートシンク付パワーモジュール用基板を上述の実施形態に記載した通りに製造した。ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造時に、金属層と緩衝層との接合、およびヒートシンクと緩衝層との接合を行う接合工程において、本発明例、および比較例とでヒートシンクと緩衝層の接合面の中心部と、この中心部から最も遠い端部となる角部の冷却速度を変えて、該接合面での剥離率を検証した。
冷却速度は、接合面の中心部と、この中心部から最も遠い端部となる角部にそれぞれ小孔を形成し、熱電対を挿入して、冷却時における温度変化を測定した。この温度変化から冷却速度を算出した。
また、温度変化の測定範囲は、Al−Siろう材の接合温度(610〜615℃)から固相線温度より10℃低い温度までの範囲とした。なお、前記温度範囲を温度降下させる際の炉内の冷却速度を次の通りとした。
本発明例1・・・炉内温度の冷却速度を0.25(℃/分)に制御
本発明例2・・・炉内温度の冷却速度を1.0(℃/分)に制御
比較例1・・・炉内温度の温度制御を行わず自然放冷したもの
なお、剥離率の測定は、超音波探傷装置でヒートシンクと緩衝層との接合界面を測定し、測定結果を接合不良部が白色となるように二値化処理を行い、接合界面の面積(緩衝層の面積)を100としたときの接合不良部の面積の割合を算出し、剥離率とした。
得られた接合面の中心部の冷却速度、接合面の端部の冷却速度、端部と中心部の冷却速度差及び剥離率を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示す結果によれば、接合面における中心部と端部との冷却速度差が58.0×10
−3(℃/分)では剥離率は9.51%であった(比較例1)。一方、接合面における中心部と端部との冷却速度差を生じさせないで冷却した場合、剥離率は2.58%であった(本発明例1)。また、冷却速度差が3.0×10
−3では、剥離率は3.42%であった(本発明例2)。