(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動源の駆動力を主駆動輪及び補助駆動輪に伝達する4輪駆動状態と、前記駆動源の駆動力を前記主駆動輪のみに伝達する2輪駆動状態とを切り替え可能な四輪駆動車の制御装置であって、
前記四輪駆動車は、
前記4輪駆動状態において前記補助駆動輪に駆動力を伝達するプロペラシャフトと、
少なくとも1つの噛み合いクラッチを含み、前記2輪駆動状態において前記プロペラシャフトと前記主駆動輪及び前記補助駆動輪との連結を遮断すると共に、前記4輪駆動状態において前記プロペラシャフトと前記主駆動輪及び前記補助駆動輪とを連結することが可能な連結機構と、
前記連結機構の連結遮断状態において前記プロペラシャフトに前記噛み合いクラッチを同期させるための回転力を伝達することが可能な摩擦クラッチとを備え、
前記2輪駆動状態において前記噛み合いクラッチを同期させる場合に、その同期に要する所要時間が第1の所定値以上になると判断されるとき、前記摩擦クラッチの作動によって前記プロペラシャフトを回転させる
四輪駆動車の制御装置。
前記2輪駆動状態において、前記所要時間が前記第1の所定値よりも短い第2の所定値以上であると判断されるとき、前記摩擦クラッチを作動させるための条件を緩和し、前記所要時間が前記第2の所定値未満である場合に比較して早期に前記摩擦クラッチを作動させる、
請求項1に記載の四輪駆動車の制御装置。
前記噛み合いクラッチの同期に要する所要時間が前記第1の所定値以上になると判断されるとき、車速が所定値以下であることを条件として前記摩擦クラッチを作動させる、
請求項1又は2に記載の四輪駆動車の制御装置。
前記4輪駆動状態において、前記プロペラシャフトの回転が停止した後に前記噛み合いクラッチを同期させるのに要する時間が所定値以上となると判断される場合に、車両走行状態にかかわらず、前記噛み合いクラッチの連結状態を維持する、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の四輪駆動車の制御装置。
前記連結機構の連結遮断状態における加速時に、車速の上昇によって前記所要時間が所定値以上となることが予見される場合に、前記摩擦クラッチの作動によって前記プロペラシャフトを回転させる、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の四輪駆動車の制御装置。
駆動源の駆動力を主駆動輪及び補助駆動輪に伝達する4輪駆動状態と、前記駆動源の駆動力を前記主駆動輪のみに伝達する2輪駆動状態とを切り替え可能な四輪駆動車の制御方法であって、
前記四輪駆動車は、
前記4輪駆動状態において前記補助駆動輪に駆動力を伝達するプロペラシャフトと、
少なくとも1つの噛み合いクラッチを含み、前記2輪駆動状態において前記プロペラシャフトと前記主駆動輪及び前記補助駆動輪との連結を遮断すると共に、前記4輪駆動状態において前記プロペラシャフトと前記主駆動輪及び前記補助駆動輪とを連結することが可能な連結機構と、
前記連結機構の連結遮断状態において前記プロペラシャフトに前記噛み合いクラッチを同期させるための回転力を伝達することが可能な摩擦クラッチとを備え、
前記2輪駆動状態において前記噛み合いクラッチを同期させる場合に、その同期に要する所要時間が第1の所定値以上になると判断されるとき、前記摩擦クラッチの作動によって前記プロペラシャフトを回転させる
四輪駆動車の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る制御装置が搭載された四輪駆動車の概略の構成を示す構成図である。
【0015】
(四輪駆動車200の構成)
四輪駆動車200は、駆動源であるエンジン202と、トランスミッション203と、主駆動輪としての前輪204L,204Rと、補助駆動輪としての後輪205L,205Rと、エンジン202の駆動力を前輪204L,204R及び後輪205L,205Rに伝達可能な駆動力伝達系201と、駆動力伝達系201を制御する制御装置9とを備えている。なお、
図1において符号中の文字「L」は四輪駆動車200の前進方向に対する左側を示し、文字「R」は四輪駆動車200の前進方向に対する右側を示している。この四輪駆動車200は、エンジン202の駆動力を前輪204L,204R及び後輪205L,205Rに伝達する4輪駆動状態と、エンジン202の駆動力を前輪204L,204Rのみに伝達する2輪駆動状態とを切り替え可能である。
【0016】
駆動力伝達系201は、前輪側駆動力伝達系201Aと、後輪側駆動力伝達系201Bと、前輪側駆動力伝達系201A及び後輪側駆動力伝達系201Bをつなぐプロペラシャフト20とを有している。プロペラシャフト20は、4輪駆動状態において後輪205L,205R側に駆動力を伝達する。
【0017】
プロペラシャフト20の前輪204L,204R側の端部には、互いに噛合するピニオンギヤ261及びリングギヤ262からなる前輪側歯車機構26が配置されている。また、プロペラシャフト20の後輪205L,205R側の端部には、互いに噛合するピニオンギヤ271及びリングギヤ272からなる後輪側歯車機構27が配置されている。
【0018】
前輪側駆動力伝達系201Aは、フロントディファレンシャル21及び噛み合いクラッチ23を含み、プロペラシャフト20における前輪204L,204R側に配置されている。フロントディファレンシャル21は、サイドギヤ211L,211Rと、一対のピニオンギヤ212と、一対のピニオンギヤ212を回転可能に支持するギヤ支持部材213と、サイドギヤ211L,211R及び一対のピニオンギヤ212を収容するフロントデフケース214とを有している。フロントデフケース214は、トランスミッション203に連結されている。サイドギヤ211Lは、前輪204L側のアクスルシャフト24Lに接続され、サイドギヤ211Rは、前輪204R側のアクスルシャフト24Rに接続されている。
【0019】
噛み合いクラッチ23は、第1回転部材231と、第2回転部材232と、第1回転部材231及び第2回転部材232を相対回転不能に連結する筒状のスリーブ233とを有している。スリーブ233は、図略のアクチュエータにより方向に進退移動可能であり、軸方向の一側に移動したときに第1回転部材231と第2回転部材232とを連結し、スリーブ233が軸方向の他側に移動したときには、第1回転部材231と第2回転部材232との連結が解除される。第1回転部材231はフロントデフケース214に、第2回転部材232はリングギヤ262に、それぞれ回転不能に接続されている。噛み合いクラッチ23の構成の詳細については後述する。
【0020】
後輪側駆動力伝達系201Bは、伝達トルクを連続的に調節することが可能なトルクカップリング28、リヤディファレンシャル22、及び駆動力伝達装置1を含み、プロペラシャフト20における後輪205L,205R側に配置されている。トルクカップリング28は、プロペラシャフト20から後輪側歯車機構27を介してリヤディファレンシャル22へ伝達されるトルクを無段階に調節可能な多板クラッチである。トルクカップリング28の構成については後述する。
【0021】
リヤディファレンシャル22は、サイドギヤ221L,221Rと、一対のピニオンギヤ222と、一対のピニオンギヤ222を回転可能に支持するギヤ支持部材223と、サイドギヤ221L,221R及び一対のピニオンギヤ222を収容し、リングギヤ272と一体回転するリヤデフケース224とを有している。一対のピニオンギヤ222は、サイドギヤ221L,221Rにギヤ軸を直交させて噛合する。サイドギヤ221Lは、後輪205L側のアクスルシャフト29Lに接続され、サイドギヤ221Rは、後輪205R側のアクスルシャフト29Rに駆動力伝達装置1を介して接続される。
【0022】
駆動力伝達装置1は、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪205R側のアクスルシャフト29Rとの連結を断接可能である。リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪205R側のアクスルシャフト29Rとの連結が駆動力伝達装置1によって遮断されると、エンジン202の駆動力が後輪205Rに伝達されなくなると共に、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221L,221R及び一対のピニオンギヤ222が空回りすることにより後輪205Lにも駆動力が伝達されなくなり、前輪204L,204Rのみにエンジン202の駆動力が伝達される2輪駆動状態となる。
【0023】
一方、駆動力伝達装置1によってリヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪205R側のアクスルシャフト29Rとが連結されると、リヤデフケース224から後輪205Rに駆動力を伝達可能になると共に、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Lを介して後輪205Lにも駆動力を伝達可能となる。
【0024】
駆動力伝達系201における噛み合いクラッチ23、トルクカップリング28、及び駆動力伝達装置1は、制御装置9によって制御される。駆動力伝達系201は、噛み合いクラッチ23、トルクカップリング28、及び駆動力伝達装置1の作動状態に応じて、3つの動作モードを有している。この3つの動作モードは、例えば運転者のスイッチ操作による選択によって切り替えられる。
【0025】
第1の動作モードは、噛み合いクラッチ23、トルクカップリング28、及び駆動力伝達装置1の各部における駆動力の伝達が遮断された動作モードである。この第1の動作モードでは、前輪204L,204Rのみにエンジン202の駆動力が伝達される2輪駆動状態となる。また、前輪側駆動力伝達系201Aからプロペラシャフト20への駆動力の伝達が噛み合いクラッチ23によって遮断され、かつ後輪側駆動力伝達系201Bからプロペラシャフト20への回転力の伝達が駆動力伝達装置1によって遮断されるので、四輪駆動車200が走行中であってもプロペラシャフト20の回転が停止する。これにより、前輪側歯車機構26及び後輪側歯車機構27における潤滑油の撹拌抵抗や、プロペラシャフト20の回転を支持する図略の軸受等の回転抵抗に起因する走行抵抗を低減することができる。
【0026】
第2の動作モードは、噛み合いクラッチ23及び駆動力伝達装置1を常に連結状態(駆動力伝達が可能な状態)とし、トルクカップリング28の伝達トルクに応じた駆動力を後輪205L,205R側に伝達する動作モードである。制御装置9は、前後輪の回転速差(前輪204L,204Rの平均回転速度と後輪205L,205Rの平均回転速度との差)や、運転者による加速操作量(アクセルペダルの踏み込み量)に基づいて指令伝達トルクを演算し、この指令伝達トルクに応じた電流をトルクカップリング28に供給する。トルクカップリング28は、供給される電流に応じた伝達トルクで、プロペラシャフト20からピニオンギヤ271へ駆動力を伝達する。
【0027】
第3の動作モードは、前後輪の回転速差や加速操作量、及び車速等に基づいて2輪駆動状態と4輪駆動状態とを自動的に切り替える動作モードであり、2輪駆動状態では噛み合いクラッチ23及び駆動力伝達装置1を連結遮断状態(非連結状態)とし、4輪駆動状態では噛み合いクラッチ23及び駆動力伝達装置1を連結状態とする。2輪駆動状態ではプロペラシャフト20の回転が停止する。また、4輪駆動状態では、第2の動作モードと同様に、制御装置9が前後輪の回転速差や加速操作量等に基づいて指令伝達トルクを演算し、この指令伝達トルクに応じた電流をトルクカップリング28に供給する。
【0028】
第3の動作モードにおいて、噛み合いクラッチ23及び駆動力伝達装置1を連結遮断状態から連結状態とする際には、駆動力伝達装置1及びトルクカップリング28を介して右後輪205Rの回転力をプロペラシャフト20に伝達し、プロペラシャフト20を回転させて噛み合いクラッチ23の同期が完了した後に、噛み合いクラッチ23を連結状態とする。ここで、噛み合いクラッチ23の同期とは、入力側の回転部材(フロントデフケース214)の回転速度と、出力側の回転部材(前輪側歯車機構26のリングギヤ262)の回転速度とが実質的に同じとなることをいう。
【0029】
制御装置9は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶素子からなる記憶部91と、記憶部91に記憶されたプログラムに従って動作するCPU(Central Processing Unit)等を有する制御部92と、制御部92の演算処理結果に基づいて噛み合いクラッチ23、トルクカップリング28、及び駆動力伝達装置1に電流を出力する電流出力回路93とを有している。
【0030】
(トルクカップリング28及び後輪側歯車機構27の構成)
図2は、トルクカップリング28及び後輪側歯車機構27の構成例を示す断面図である。トルクカップリング28は、リヤディファレンシャル22及び後輪側歯車機構27と共にディファレンシャルキャリア220に収容されている。ディファレンシャルキャリア220には、潤滑油(デフオイル)Lが封入されている。
【0031】
トルクカップリング28は、ディファレンシャルキャリア220に軸受220aを介して回転可能に支持された有底円筒状のフロントハウジング281と、フロントハウジング281の開口側の端部に固定されたリヤハウジング282と、フロントハウジング281とピニオンギヤ271とをトルク伝達可能に連結するメインクラッチ283と、メインクラッチ283を軸方向に押圧する押圧力を発生させる電磁クラッチ機構284及びカム機構285とを備えている。
【0032】
フロントハウジング281は、取付部材286を介してプロペラシャフト20に連結される。フロントハウジング281の内周面には、スプライン係合部281aが形成されている。ピニオンギヤ271は、その一端部がフロントハウジング281に収容され、この一端部における外周面にスプライン係合部271aが形成されている。リヤハウジング282は、径方向の中央部に配置された環状の非磁性体と、この非磁性体を挟む外側及び内側の環状の磁性体からなる。
【0033】
メインクラッチ283は、複数のアウタクラッチプレート283a及び複数のインナクラッチプレート283bからなる多板クラッチであり、複数のアウタクラッチプレート283aがフロントハウジング281のスプライン係合部281aにスプライン係合し、複数のインナクラッチプレート283bがピニオンギヤ271のスプライン係合部271aにスプライン係合している。メインクラッチ283は、軸方向の押圧力を受けて複数のアウタクラッチプレート283aと複数のインナクラッチプレート283bとが摩擦摺動し、トルクを伝達する。
【0034】
電磁クラッチ機構284は、電磁コイル284aと、電磁コイル284aの電磁力によって軸方向移動する環状のアーマチャ284bと、アーマチャ284bの軸方向移動によって押圧されるパイロットクラッチ284cとを有している。カム機構285は、パイロットクラッチ284cに連結された第1カム部材285aと、第1カム部材285bと相対回転可能な第2カム部材285bと、第1カム部材285aと第2カム部材285bとの間で転動可能な転動体285cとを有している。
【0035】
電磁コイル284aに通電されると、アーマチャ284bがパイロットクラッチ284cを押圧し、フロントハウジング281の回転力がパイロットクラッチ284cを介して第1カム部材285aに伝達される。これにより第1カム部材285aが第2カム部材285bに対して回転し、第2カム部材285bがカム作用によってメインクラッチ283を押圧する。
【0036】
メインクラッチ283に付与される押圧力は、電磁コイル284aが発生する電磁力に応じて変動する。つまり、制御装置9は、電磁コイル284aに供給する電流を増減することで、メインクラッチ283を介してプロペラシャフト20からピニオンギヤ271に伝達される駆動力を調節可能である。
【0037】
ピニオンギヤ271は、スプライン係合部271aが形成された一端部とは反対側の他端部に、リングギヤ272と噛み合うギヤ部271bが形成されている。ピニオンギヤ271のギヤ部271b及びリングギヤ272は、ハイポイトギヤからなり、その噛み合いが潤滑油Lによって潤滑される。また、ピニオンギヤ271は、ギヤ部271bよりもトルクカップリング28側の軸部271cが、ディファレンシャルキャリア220に一対の軸受220b,220cによって回転可能に支持されている。一対の軸受220b,220cは、テーパードローラーベアリングからなる。一対の軸受220b,220cは、潤滑油Lによって潤滑される。
【0038】
ピニオンギヤ271が回転すると、リングギヤ272が潤滑油Lを掻き上げて撹拌することにより、撹拌抵抗が発生する。また、一対の軸受220b,220cにおいても回転抵抗が発生する。これらの撹拌抵抗及び回転抵抗は、潤滑油Lの粘性が高いほど増大する。
【0039】
(噛み合いクラッチ23の構成)
図3は、噛み合いクラッチ23の概略の構成例を示す断面図である。なお、
図3では、噛み合いクラッチ23の回転軸線O
1よりも上側の部分を示している。
【0040】
第1回転部材231は、前輪204R側のアクスルシャフト24Rを挿通させる環状であり、フロントデフケース214の端部に固定されている。第1回転部材231の外周には、複数のスプライン歯231aが形成されている。
【0041】
第2回転部材232は、前輪204R側のアクスルシャフト24Rを挿通させる筒状であり、第1回転部材231と同軸上で相対回転可能に支持されている。第2回転部材232の第1回転部材231側の一端部における外周には、複数のスプライン歯232aが形成されている。第2回転部材232の他端部における外周には、前輪側歯車機構26のリングギヤ262が固定されている。
【0042】
スリーブ233は、内周面に複数のスプライン歯233aが形成された円筒状である。複数のスプライン歯233aは、第2回転部材232の複数のスプライン歯232aと常時噛み合っている。また、複数のスプライン歯233aは、スリーブ233がフロントデフケース214側に軸方向移動することにより、第1回転部材231の複数のスプライン歯231aとも噛み合う。また、スリーブ233の外周側には環状の溝233bが形成され、この溝233bにフォーク234が摺動可能に嵌合されている。フォーク234は、制御装置9によって制御される図略のアクチュエータによって、スリーブ233と共に進退移動可能である。
【0043】
スリーブ233のスプライン歯233aと第1回転部材231のスプライン歯231aとが噛み合うと、フロントデフケース214とプロペラシャフト20とが相対回転不能に連結される。つまり、4輪駆動状態において前輪204L,204Rとプロペラシャフト20とが連結される。一方、スリーブ233のスプライン歯233aと第1回転部材231のスプライン歯231aとの噛み合いが解除されると、前輪204L,204Rとプロペラシャフト20とが連結が遮断される。
【0044】
(駆動力伝達装置1の構成)
図4は、駆動力伝達装置1及びその周辺部を示す断面図である。駆動力伝達装置1は、ハウジング10に収容され、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rに相対回転不能に連結された中間軸11と、後輪205R側のアクスルシャフト29Rとの間で駆動力を伝達する。
【0045】
ハウジング10は、第1ハウジング部材101と第2ハウジング部材102とからなり、第1ハウジング部材101及び第2ハウジング部材102がボルト103によって結合されている。
【0046】
中間軸11は、ハウジング10に玉軸受104によって回転可能に支持された軸部110と、軸部110におけるサイドギヤ221Rとは反対側の端部に設けられた筒部111とを一体に有している。筒部111は、内部に収容空間11aが形成された円筒状であり、その外径は軸部110よりも大きく形成されている。収容空間11aは、軸部110と反対側の端部において開口している。
【0047】
収容空間11aには、円筒状のインナシャフト12の一端部が収容されている。インナシャフト12は、その内部に挿通されるアクスルシャフト29Rとスプライン嵌合し、アクスルシャフト29Rと一体に回転する。インナシャフト12の外周面と筒部111の収容空間11aにおける内周面との間には、玉軸受112が配置されている。また、インナシャフト12における筒部111とは反対側の端部の外周面とハウジング10の内面との間には、玉軸受105が配置されている。
【0048】
インナシャフト12の外周面には、複数のスプライン突起12aが形成されている。また、インナシャフト12には、筒状の噛み合い部材13が外嵌され、噛み合い部材13の内周面に形成されたスプライン突起13aにスプライン突起12aが係合している。これにより、噛み合い部材13はインナシャフト12に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。
【0049】
噛み合い部材13には、複数の軸方向穴13cが形成され、この軸方向穴13cにリターンバネ131の一端部が収容されている。リターンバネ131の他端部は、インナシャフト12のスプライン突起12aに係合して玉軸受112によって軸方向移動が規制された受け部材132に当接している。リターンバネ131は、例えばコイルバネからなり、噛み合い部材13を受け部材132から離間する方向に付勢している。
【0050】
噛み合い部材13の外周には、複数のスプライン歯13bが形成されている。また、中間軸11における筒部111の内周には、複数のスプライン歯111aが形成されている。噛み合い部材13のスプライン歯13bと中間軸11のスプライン歯111aとは、噛み合い部材13が受け部材132から離間した第1位置で噛み合い、噛み合い部材13が受け部材132から接近した第2位置では噛み合いが解除される。
図4では、回転軸線O
2よりも上側に噛み合い部材13のスプライン歯13bと中間軸11のスプライン歯111aとが噛み合った状態を示し、回転軸線O
2よりも下側に噛み合い部材13のスプライン歯13bと中間軸11のスプライン歯111aとの噛み合いが解除された状態を示している。
【0051】
噛み合い部材13のスプライン歯13bと中間軸11のスプライン歯111aとが噛み合うと、中間軸11とインナシャフト12とが相対回転不能に連結される。つまり、4輪駆動状態においてプロペラシャフト20と後輪205L,205Rとが連結される。一方、噛み合い部材13のスプライン歯13bと中間軸11のスプライン歯111aとの噛み合いが解除されると、プロペラシャフト20と後輪205L,205Rとの連結が遮断される。つまり、噛み合い部材13及び中間軸11は、噛み合いクラッチ23と共に、本発明の「連結機構」を構成する。
【0052】
中間軸11における筒部111の外周には、環状の第1摩擦部材14が外嵌されている。第1摩擦部材14は、円盤状の本体部141と、本体部141の外周側の端部から軸方向に突出した鍔部142とを一体に有している。本体部141は、その内周端部が筒部111の外周面に形成された複数のスプライン突起111bに係合している。これにより、第1摩擦部材14は、中間軸11に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。鍔部142の内周面142aは、その軸方向の先端部ほど内径が拡大するテーパ状である。
【0053】
第1摩擦部材14は、弾性部材151によって中間軸11の軸部110とは反対側に付勢され、かつ筒部111に形成された段部に当接することで筒部111の先端部側への軸方向移動が規制されている。弾性部材151は、複数の皿バネ151aを軸方向に並べることにより構成され、第1摩擦部材14と筒部111に固定された環状体152との間に軸方向に圧縮された状態で配置されている。
【0054】
第1摩擦部材14は、インナシャフト12に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能に配置された第2摩擦部材16と摩擦摺動し、中間軸11とインナシャフト12との間で回転力を伝達する。つまり、第1摩擦部材14と第2摩擦部材16とは、摩擦クラッチ1aを構成する。この摩擦クラッチ1aは、プロペラシャフト20に噛み合いクラッチ23を同期させるための回転力を伝達することが可能な本発明の「摩擦クラッチ」の一態様である。
【0055】
第2摩擦部材16は、円盤状の本体部161と、本体部161の外周側の端部から軸方向に突出した鍔部162とを一体に有している。本体部161は、その内周端部がインナシャフト12の外周面に形成された複数のスプライン突起12aに係合している。これにより、第2摩擦部材16は、インナシャフト12に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。鍔部162の外周面162aは、その軸方向の先端部ほど外径が縮小するテーパ状である。
【0056】
第2摩擦部材16は、本体部161の側面が噛み合い部材13に接触し、噛み合い部材13と共に軸方向に移動する。第2摩擦部材16が第1摩擦部材14側に移動すると、鍔部162の外周面162aが第1摩擦部材14の鍔部142の内周面142aに面接触する。この際、第1摩擦部材14を第2摩擦部材16側に付勢している弾性部材151が圧縮され、弾性部材15の復元力によって第1摩擦部材14が第2摩擦部材16側に押し付けられる。これにより、第1摩擦部材14の鍔部142の内周面142aと第2摩擦部材16の鍔部162の外周面162aとが摩擦接触する。
【0057】
第2摩擦部材16及び噛み合い部材13は、電磁コイル31、アーマチャ4、及びカム部材5を有する位置決め機構3によって位置決めされる。電磁コイル31は、制御装置9からコイル電流が供給されて磁力を発生させる。アーマチャ4は、電磁コイル31の通電時に磁力によって電磁コイル31側へ引き寄せられる。電磁コイル31は、環状のヨーク30に保持されている。ヨーク30とアーマチャ4との間には、アーマチャ4を電磁コイル31から離間させる方向に付勢する皿バネ32が配置されている。
【0058】
アーマチャ4は、皿バネ32によってヨーク30から離間する方向に弾性的に押し付けられている。アーマチャ4は、電磁コイル31が非通電であるときには、皿バネ32の押し付け力によって第2ハウジング部材102の受け部102cに当接し、電磁コイル31に通電されると、その磁力によってヨーク30に引き寄せられる。また、アーマチャ4は、ピン挿通孔4bに挿通された複数のピン33によって第2ハウジング部材102及びヨーク30に対する回転が規制されている。
【0059】
位置決め機構3は、中間軸11のスプライン歯111aと噛み合い部材13のスプライン歯13bとが噛み合う第1位置、第1摩擦部材14の鍔部142の内周面142aと第2摩擦部材16の鍔部162の外周面162aとが摩擦接触する第2位置、及び第1位置と第2位置との間の複数の位置に噛み合い部材13及び第2摩擦部材16を位置決め可能である。次に、位置決め機構3の構成及び動作について、
図5乃至
図8を参照して説明する。
【0060】
図5は、カム部材5を示し、(a)はカム部材5をアーマチャ4側から回転軸線O
2に沿って見た場合の平面図、(b)はカム部材5の一部を示す斜視図である。
【0061】
カム部材5は、インナシャフト12に外嵌された環状の部材であり、第2摩擦部材16側の軸方向端面5aが平坦な面に形成されている。軸方向端面5aと第2摩擦部材16との間には、針状ころ軸受6(
図4に示す)が配置される。カム部材5は、針状ころ軸受6を介してリターンバネ131の付勢力を受け、噛み合い部材13及び第2摩擦部材16と共に軸方向に移動する。
【0062】
カム部材5には、軸方向端面5aからの距離が互いに異なる6つの被係止部(第1乃至第6の被係止部51〜56)、及び第6の被係止部56に周方向に隣接する壁部57が形成されている。本実施の形態では、カム部材5に6組の第1乃至第6の被係止部51〜56及び壁部57が形成されている。第1乃至第6の被係止部51〜56におけるカム部材5の軸方向端面51a,52a,53a,54a,55a,56aは、壁部57に近い側ほど軸方向端面5aとの軸方向距離が短くなるように傾斜している。
【0063】
図6は、アーマチャ4を示す斜視図である。アーマチャ4は、中心部にインナシャフト12を挿通させる貫通孔4aが形成された円環板状の本体40と、貫通孔4aの内周面から本体40の中心に向かって突出する複数(本実施の形態では6つ)の押圧突起41とを一体に有している。本体40には、貫通孔4aの周囲に複数のピン33(
図4に示す)を挿通させるピン挿通孔4bが4箇所に形成されている。押圧突起41は、カム部材5の第1乃至第6の被係止部51〜56における軸方向端面51a〜56aに対向する対向面41aが、本体40の厚さ方向(回転軸線O
2に平行な方向)に対して傾斜した傾斜面として形成されている。
【0064】
図7は、第2ハウジング部材102に設けられた複数の係止部19を示す斜視図である。第2ハウジング部材102には、インナシャフト12を挿通させる貫通孔102dが形成されている。複数の係止部19は、貫通孔102dの内周面から内方に向かって突出し、かつ回転軸線O
2に沿ってカム部材5側に突出している。係止部19は、アーマチャ4の押圧突起41における対向面41aと同様に、カム部材5の被係止部51〜56における軸方向端面51a〜56aに対向する先端面19aが、回転軸線O
2に平行な方向に対して傾斜した傾斜面として形成されている。
【0065】
カム部材5の軸方向端面5aの位置は、第1乃至第6の被係止部51〜56のうち、何れの被係止部が第2ハウジング部材102の係止部19に係止されるかによって変化する。カム部材5は、アーマチャ4の軸方向移動によって所定角度回転し、電磁コイル31への通電によってアーマチャ4が一往復することにより、係止部19に係止される被係止部が1つ周方向にずれる。次に、この位置決め機構3の動作について説明する。
【0066】
図8(a)〜(d)は、カム部材5及びアーマチャ4の動作を係止部19と共に模式的に説明する説明図である。
【0067】
図8(a)は、係止部19がカム部材5の第1の被係止部51を係止し、アーマチャ4の押圧突起41における対向面41aが軸方向端面51aに対向する状態を示している。押圧突起41とカム部材5における第1の被係止部51の側面51bとの間には、距離d
1の隙間が形成されている。この状態から電磁コイル31に通電され、アーマチャ4が軸方向移動すると、
図8(b)に示すように、カム部材5がアーマチャ4と共に軸方向に移動すると共に、距離d
1だけ周方向に回転する。このとき、係止部19の先端面19aの一部が第2の被係止部52における軸方向端面52aに向かい合う。
【0068】
図8(c)は、電磁コイル31への通電が遮断され、アーマチャ4が初期位置に戻りつつあるときの状態を示している。アーマチャ4が初期位置に戻る過程で、係止部19の先端面19aが第2の被係止部52における軸方向端面52aに当接する。この状態からアーマチャ4がさらに移動して初期位置に戻ると、係止部19の先端面19a及び第2の被係止部52の軸方向端面52aの傾斜により、カム部材5が
図8(c)に示す距離d
2(係止部19と第2の被係止部52の側面52bとの距離)だけ周方向に回転し、
図8(d)に示すように係止部19がカム部材5の第2の被係止部52を係止した状態となる。
【0069】
この動作を繰り返すことにより、係止部19に係止されるカム部材5の被係止部が順次周方向に移動し、係止部19が第6の被係止部56を係止した状態からさらにアーマチャ4が一往復すると、係止部19が第1の被係止部51を係止した状態となる。
【0070】
このように、係止部19が第1の被係止部51を係止する状態から第6の被係止部56を係止する状態まで変化することにより、カム部材5が中間軸11側に押し出される。この間のカム部材5の軸方向の移動距離は、
図8(a)に示すカム部材5の軸方向端面5aと第1の被係止部51との間の距離d
3と、軸方向端面5aと第6の被係止部56との間の距離d
4との差に相当する。
【0071】
本実施の形態では、係止部19が第1の被係止部51を係止するとき、噛み合い部材13のスプライン歯13bと中間軸11のスプライン歯111aとが噛み合い、係止部19が第6の被係止部56を係止するとき、第1摩擦部材14の鍔部142の内周面142aと第2摩擦部材16の鍔部162の外周面162aとが摩擦接触する。
【0072】
(制御装置9による駆動力伝達系201の制御方法)
次に、制御装置9による駆動力伝達系201の制御方法について、
図9〜
図11を参照して説明する。
【0073】
図9は、前述の第3の動作モードが選択された場合に制御装置9の制御部92が実行する処理の一部を示すフローチャートである。制御部92は、このフローチャートに示す処理を所定の周期で繰り返し実行する。なお、以降の説明では、噛み合いクラッチ23が連結状態であり、かつ駆動力伝達装置1における噛み合い部材13と中間軸11とが噛み合った状態を「コネクト状態」いい、噛み合いクラッチ23が連結遮断状態であり、かつ駆動力伝達装置1における噛み合い部材13と中間軸11とが噛み合っていない状態を「ディスコネクト状態」という。
【0074】
制御部92は、ディスコネクト状態からコネクト状態へ遷移すべく、駆動力伝達装置1の摩擦クラッチ1aによってプロペラシャフト20に回転力を伝達して噛み合いクラッチ23を同期させる場合に、その同期が完了するまでに要する所要時間を演算する(ステップS10)。この所要時間は、少なくとも温度に関する指標値に基づいて演算する。以下、ステップS10で求めた所要時間を「T_sync」と表記する。ステップS10における演算処理の詳細については後述する。
【0075】
なお、ステップS10における演算処理は、駆動力伝達系201がコネクト状態であるかディスコネクト状態であるかに拘らず実行する。つまり、駆動力伝達系201がコネクト状態であれば、プロペラシャフト20が回転しているが、ステップS10では、プロペラシャフト20に駆動力が伝達されないディスコネクト状態であると仮定した場合に、噛み合いクラッチ23の同期に要する所要時間を演算する。
【0076】
次に、制御部92は、T_syncが第1の所定値以上であるか否かを判定する(ステップS11)。この第1の所定値は、例えば2秒である。T_syncが第1の所定値以上である場合(S11:Yes)、制御部92は、駆動力伝達系201がディスコネクト状態であるか否かを判定する(ステップS12)。駆動力伝達系201がディスコネクト状態でない場合(コネクト状態である場合;S12:No)、制御部92は、後述するステップS17の切り替え判定処理を実行することなく、
図9に示すフローチャートの処理を終了する。すなわち、車両走行状態にかかわらず、コネクト状態を維持する。つまり、制御部92は、4輪駆動状態において、プロペラシャフト20の回転が停止した後に噛み合いクラッチ23を同期させるのに要する時間が所定値以上となると判断される場合には、車両走行状態にかかわらず、噛み合いクラッチ23の連結状態を維持する。
【0077】
ステップS12の判定において、駆動力伝達系201がディスコネクト状態である場合(S12:Yes)、制御部92は、四輪駆動車200の車速が所定値以下であるか否かを判定する(ステップS13)。この所定値は、駆動力伝達装置1の摩擦クラッチ1aによる摩擦トルクによっては噛み合いクラッチ23を同期させる程度にプロペラシャフト20の回転速度を上げることができなくなる場合の車速に対応して定められ、例えば時速60〜70kmである。
【0078】
ステップS13の判定において、車速が所定値以下である場合(S13:Yes)、制御部92は、ディスコネクト状態からコネクト状態への遷移制御(ステップS14)を実行する。つまり、制御部92は、2輪駆動状態において噛み合いクラッチ23を同期させる場合に、その同期に要する所要時間が第1の所定値以上になると判断されるとき、摩擦クラッチ1aの作動によってプロペラシャフト20を回転させる。このステップS14における遷移制御の詳細については後述する。
【0079】
一方、ステップS13の判定において、車速が所定値以下でない場合(S13:No)、制御部92は、ディスコネクト状態からコネクト状態への遷移制御(ステップS14)を実行することなく、
図9に示すフローチャートの処理を終了する。つまり、制御部92は、T_syncが第1の所定値以上になると判断されるとき、車速が所定値以下であることを条件として駆動力伝達装置1の摩擦クラッチ1aを作動させる。
【0080】
また、制御部92は、ステップS11の判定において、T_syncが第1の所定値以上でない場合(S11:No)、T_syncが第2の所定値以上であるか否かを判定する(ステップS15)。この第2の所定値は、第1の所定値よりも短く、例えば1〜1.5秒である。T_syncが第2の所定値以上である場合(S15:Yes)、制御部92は、後述するステップS17の切り替え判定処理における摩擦クラッチ1aを作動させるための条件を緩和し(ステップS16)、T_syncが第2の所定値未満である場合に比較して早期に摩擦クラッチ1aを作動させるようにする。
【0081】
一方、T_syncが第2の所定値以上でない場合(S15:No)、制御部92は、ステップS16の処理を実行することなく、ディスコネクト状態からコネクト状態へ切り替えるか、あるいはコネクト状態からディスコネクト状態へ切り替えるかを判定する切り替え判定処理(ステップS17)を実行する。つまり、T_syncが第2の所定値以上である場合には、ステップS16の処理により、ステップS17の切り替え判定処理における摩擦クラッチ1aを作動させるための条件を変更した後に切り替え判定処理(ステップS17)を実行し、T_syncが第2の所定値未満である場合には、ステップS16の処理を行うことなくステップS17の切り替え判定処理を実行する。
【0082】
なお、ステップS16の処理により摩擦クラッチ1aを作動させるための条件が変更された場合、この条件の変更は、その直後に行う1回の切り替え判定処理(ステップS17)においてのみ有効である。ステップS17の切り替え判定処理の詳細については後述する。
【0083】
次に、制御部92は、ステップS17の判定結果に基づいて、ディスコネクト状態又はコネクト状態への遷移制御を行う(ステップS18)。つまり、ステップS17の切り替え判定処理において、ディスコネクト状態からコネクト状態へ切り替えるべきと判定された場合には、駆動力伝達装置1、トルクカップリング28、及び噛み合いクラッチ23を制御して駆動力伝達系201をコネクト状態へ切り替える。また、コネクト状態からディスコネクト状態へ切り替えるべきと判定された場合には、同じく駆動力伝達装置1、トルクカップリング28、及び噛み合いクラッチ23を制御して駆動力伝達系201をディスコネクト状態へ切り替える。
【0084】
ディスコネクト状態からコネクト状態へ切り替える際の制御部92の具体的な処理内容は、ステップS14の処理内容と同じである。また、コネクト状態からディスコネクト状態へ切り替える際には、トルクカップリング28による伝達トルク低減してプロペラシャフト20を介した駆動力伝達を遮断した後に、噛み合いクラッチ23を連結遮断状態とし、かつ噛み合い部材13と中間軸11とを噛み合わせを解除する。
【0085】
(噛み合いクラッチ23の同期に要する所要時間(T_sync)の演算処理)
ここで、上記フローチャートのステップS10の処理の詳細について説明する。この処理は、温度によって変化する潤滑油の粘性等を考慮して、駆動力伝達装置1の摩擦クラッチ1aによって伝達されるトルクにより、回転停止状態にあるプロペラシャフト20を回転させて噛み合いクラッチ23を同期させる場合の所要時間を演算する処理である。
【0086】
この演算処理は、プロペラシャフト20、前輪側歯車機構26、及び後輪側歯車機構27の回転抵抗と、駆動力伝達装置1の摩擦クラッチ1aによって伝達可能な最大トルクとに基づいて実行する。プロペラシャフト20、前輪側歯車機構26、及び後輪側歯車機構27の回転抵抗の演算には、少なくとも温度に関する指標値を考慮する。
【0087】
例えば、
図2に示すように、ディファレンシャルキャリア220の内部には、後輪側歯車機構27を潤滑する潤滑油Lが封入されており、この潤滑油Lの粘性は、その温度によって大きく変化する。このため、後輪側歯車機構27の回転抵抗は、温度によって変化する。また、潤滑油Lの粘性の変化により、この潤滑油Lによって潤滑される一対の軸受220b,220cの回転抵抗も変化する。またさらに、前輪側歯車機構26やプロペラシャフト20においても、後輪側歯車機構27と同様に、潤滑油の粘性の温度変化によって回転抵抗が変化する。
【0088】
制御部92は、これらの潤滑油の温度を検出又は推定し、その結果に基づいてプロペラシャフト20、前輪側歯車機構26、及び後輪側歯車機構27の回転抵抗を演算する。潤滑油の温度は、例えばディファレンシャルキャリア220や前輪側歯車機構26の近傍に設けた温度センサに基づいて検知することができる。また、プロペラシャフト20を介して後輪205L,205R側に伝達された駆動力の過去の所定時間内の積算値に基づいて、潤滑油の温度を推定することも可能である。
【0089】
また、駆動力伝達装置1の摩擦クラッチ1aによって伝達可能な最大トルクは、具体的にはカム部材5の第6の被係止部56が係止部19に係止されたときの摩擦クラッチ1aの伝達トルクである。なお、プロペラシャフト20を回転停止状態から回転させる際、トルクカップリング28における伝達可能なトルクは、駆動力伝達装置1の摩擦クラッチ1aによって伝達されるトルクよりも大きくなるように、メインクラッチ283が締結されているものとする。
【0090】
また、本実施の形態では、摩擦クラッチ1aにおいて第1摩擦部材14と第2摩擦部材16とが摩擦摺動した場合の伝達トルクは略一定であるが、例えば供給される電流に応じて伝達トルク可変な摩擦クラッチによってプロペラシャフト20を回転させる場合には、その摩擦クラッチによって伝達可能な最大トルクに基づいて、噛み合いクラッチ23の同期に要する所要時間(T_sync)を演算する。
【0091】
(ディスコネクト状態からコネクト状態への遷移制御)
次に、上記フローチャートのステップS14の処理の詳細について説明する。このディスコネクト状態からコネクト状態への遷移制御は、第3の動作モードにおける四輪駆動車200の走行時に、回転停止状態にあるプロペラシャフト20を回転させ、その後噛み合いクラッチ23を連結とし、かつ駆動力伝達装置1における噛み合い部材13と中間軸11とを噛み合わせる処理である。
【0092】
この処理では、まず、駆動力伝達装置1の電磁コイル31への通電により、係止部19が第6の被係止部56を係止する状態とする。これにより、第1摩擦部材14と第2摩擦部材16とが摩擦摺動し、右後輪205Rからアクスルシャフト29Rに伝達される回転力がインナシャフト12、摩擦クラッチ1a、及び中間軸11を介してリヤディファレンシャル22に伝達され、さらにリヤディファレンシャル22から後輪側歯車機構27及びトルクカップリング28を経由してプロペラシャフト20に伝達される。これにより、プロペラシャフト20の回転が増速され、プロペラシャフト20に前輪側歯車機構26を介して連結された噛み合いクラッチ23の第2回転部材232の回転が、第1回転部材231の回転と同期する。
【0093】
制御部92は、この第1回転部材231と第2回転部材232との回転同期を確認した後、スリーブ233を進退移動させるアクチュエータに通電し、スリーブ233のスプライン歯233aを第2回転部材232のスプライン歯231a及び第1回転部材231スプライン歯232aに噛み合わせる。これにより、噛み合いクラッチ23が連結状態となり、エンジン202の駆動力をプロペラシャフト20を介して後輪205L,205R側に伝達可能な状態となる。なお、第1回転部材231の回転速度は、例えば前輪204L,204Rの車輪速に基づいて求めることができる。また、第2回転部材232の回転速度は、例えばプロペラシャフト20の回転速センサの検出値、及び前輪側歯車機構26のギヤ比に基づいて求めることができる。
【0094】
また、制御部92は、噛み合いクラッチ23を連結状態とした後、駆動力伝達装置1の電磁コイル31へ通電し、カム部材5の第1の被係止部51が係止部19に係止される状態とする。これにより、噛み合い部材13と中間軸11とが噛み合い、中間軸11と後輪205R側のアクスルシャフト29Rとが駆動力伝達可能に連結される。以上により、ディスコネクト状態からコネクト状態への遷移が完了する。
【0095】
(切り替え判定処理)
次に、上記フローチャートのステップS17の処理の詳細について説明する。この切り替え判定処理は、ディスコネクト状態である場合にコネクト状態へ切り替えるべきか、及びコネクト状態である場合にディスコネクト状態へ切り替えるべきかを判定する処理である。
【0096】
制御部92は、前後輪の回転速差や運転者による加速操作量に基づいて、この判定処理を行う。より具体的には、前後輪の回転速差に関する閾値をN
1とし、運転者による加速操作量に関する閾値をS
1とすると、前後輪の回転速差が閾値N
1以上である場合もしくは運転者による加速操作量が閾値S
1以上である場合にコネクト状態にすべきと判定し、前後輪の回転速差が閾値N
1であり、かつ運転者による加速操作量が閾値S
1未満である場合にディスコネクト状態にすべきと判定する。なお、前後輪の回転速差や運転者による加速操作量以外の車両走行状態量に基づいて、ディスコネクト状態及びコネクト状態を切り替えるべきか否かの判定を行ってもよい。
【0097】
(摩擦クラッチ1aを作動させるための条件を緩和する処理)
次に、上記フローチャートのステップS16の処理の詳細について説明する。この処理は、上記の切り替え判定処理(ステップS17)における閾値を変更し、摩擦クラッチ1aを作動させるための条件(ディスコネクト状態からコネクト状態への遷移するための条件)を緩め、より早い段階で摩擦クラッチ1aが作動するようにするための処理である。
【0098】
この処理は、切り替え判定処理における閾値N
1,S
1の値を小さくする処理である。より具体的には、例えば通常時(T_sync<第2の所定値の場合)における閾値N
1が50rpmである場合、この閾値を変更して25rpmとし、また、通常時における閾値S
1が例えばアクセル開度40%である場合、この閾値を変更して20%とする処理である。
【0099】
図10は、例えば右前輪204Rにスリップが発生した場合における前後輪の回転速差(前後輪差回転ΔN)の時間的な変化の例を示すグラフである。切り替え判定処理(ステップS17)において、通常時に前後輪の回転速差が閾値N
1以上のときにディスコネクト状態からコネクト状態に切り換えるべきと判定する場合、時刻t
1にて切り替え判定(ディスコネクト状態からコネクト状態に切り換えるべき旨の判定)がなされるが、ステップS16の処理においてこの閾値をN
2(N
2=N
1/2)に変更すると、時刻t
1よりも早い時刻t
2において切り替え判定がなされる。これにより、T_sync≧第2の所定値の場合には、T_sync<第2の所定値の場合に比較して、早期に摩擦クラッチ1aが作動する。
【0100】
次に、
図11を参照して、第3の動作モードが選択された場合に制御部92が実行する第2の処理(
図9にフローチャートの処理とは別の処理)について説明する。この
図11に示すフローチャートの処理は、例えば
図9に示すフローチャートの処理に引き続いて実行される。
【0101】
このフローチャートの処理において、制御部92はまず、四輪駆動車200の加速度を演算する(ステップS20)。この加速度は、例えば前輪204L,204R及び後輪205L,205Rの回転速度の時間的な変化に基づいて演算することができる。
【0102】
次に、制御部92は、ステップS20で求めた加速度に基づいて、所定時間後における四輪駆動車200の車速を推定する(ステップS21)。つまり、演算時点での車速に加え、ステップS20で求めた加速度における加速が所定時間にわたって継続した場合の速度変化を加味し、所定時間後における四輪駆動車200の車速を推定する。この所定時間は、例えば1〜5秒である。
【0103】
次に、制御部92は、ステップS21で推定した車速において噛み合いクラッチ23を同期させる場合に、その同期が完了するまでに要する所要時間を演算する(ステップS22)。この演算処理は、
図9に示すフローチャートにおけるステップS10の処理と同様である。次に、制御部92は、T_syncが第1の所定値以上であるか否かを判定する(ステップS23)。この第1の所定値は、
図9に示すフローチャートにおけるステップS11における第1の所定値と同じ値であり、例えば2秒である。ただし、ステップS23における第1の所定値を、ステップS11における第1の所定値と異なる値としてもよい。
【0104】
このステップS23における判定は、ステップS21において求めた所定時間後の車速の推定値に基づいているため、所定時間後にディスコネクト状態からコネクト状態に遷移しようとした場合に、ステップS23における第1の所定時間内に噛み合いクラッチ23の同期が完了するか否かを予測していることとなる。
【0105】
T_syncが第1の所定値以上である場合(S23:Yes)、制御部92は、駆動力伝達系201がディスコネクト状態であるか否かを判定する(ステップS24)。駆動力伝達系201がディスコネクト状態である場合(S24:Yes)、制御部92は、ディスコネクト状態からコネクト状態への遷移制御(ステップS25)を実行する。このステップS25における処理内容は、
図9に示すフローチャートにおけるステップS14における処理内容と同様である。
【0106】
また、ステップS23又はS24における判定の結果がNoである場合には、ステップS25の処理を実行することなく、
図11に示すフローチャートの処理を終了する。
【0107】
このように、制御部92は、ディスコネクト状態における加速時に、車速の上昇によってT_syncが第1の所定値以上となることが予見される場合に、摩擦クラッチ1aの作動によってプロペラシャフト20を回転させる。
【0108】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、以下に示す作用及び効果が得られる。
【0109】
(1)ディスコネクト状態において、噛み合いクラッチ23の同期に要する所要時間が第1の所定値以上になると判断されるとき、摩擦クラッチ1aが作動してプロペラシャフト20が回転する。すなわち、例えばスリップの発生等によって4輪駆動状態への移行が必要となるときに、予めプロペラシャフト20を回転させておくことができるので、速やかに4輪駆動状態に移行することができ、走行安定性を増すことができる。
【0110】
(2)T_syncが第2の所定値以上である場合には、ステップS17における切り替え判定処理の条件をコネクト状態への遷移が発生しやすくなるように緩和するので、早期に摩擦クラッチ1aが作動し、4輪駆動状態へ速やかに移行することができるようになる。
【0111】
(3)ステップS14におけるコネクト状態への遷移は、車速が所定値以下である場合に行われるので、摩擦クラッチ1aが作動した際に衝撃が発生して運転者等に不安感を与えてしまうことや、駆動力伝達装置1における第1摩擦部材14及び第2摩擦部材16が過度に摩耗してしまうことを防ぐことができる。
【0112】
(4)車速の上昇によってT_syncが第1の所定値以上となることが予見される場合に、摩擦クラッチ1aの作動によってプロペラシャフト20が回転し、コネクト状態へ遷移するので、車速が上昇して噛み合いクラッチ23の同期に過大な時間が必要となる前に、コネクト状態へ遷移を完了させることができる。
【0113】
以上、本発明の四輪駆動車の制御装置及び四輪駆動車の制御方法を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。
【0114】
例えば、上記実施の形態では、リヤディファレンシャル22と後輪205R側のアクスルシャフト29Rとの間に駆動力伝達装置1を配置し、駆動力伝達装置1の摩擦クラッチ1aの伝達トルクによってプロペラシャフト20を回転させるようにしたが、これに限らず、例えばリヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪205R側のアクスルシャフト29Rとを直接接続し、摩擦クラッチであるトルクカップリング28の伝達トルクによってプロペラシャフト20を回転させ、噛み合いクラッチ23を同期させるようにしてもよい。
【0115】
また、上記実施の形態では、トルクカップリング28をプロペラシャフト20のリヤ側に配置したが、トルクカップリング28をプロペラシャフト20のフロント側に配置してもよい。